隠すものは何もないと知っているからこそ、それはユーザーの高度に個人的なデータを取り込むことに依存しないビジネスモデルを使っているからであるのだが、Apple は自らがそれぞれの App Store に出している自社製の iOS 用、iPadOS 用、macOS 用、watchOS 用、および tvOS 用のアプリすべてについてプライバシーラベルを公開することに何の問題も感じていなかった。けれども今回新たに公開したのは、それらすべての Apple 製アプリのプライバシーラベルを一か所に集めたウェブページだ。そこに並んだアプリのいくつかは私たちが聞いたこともないものだったが、とにかくそういうものがあると知ったからには、その Reality Composer というアプリを使って Steve Jobs が先頭にいない Apple がかの有名な「現実歪曲空間 (reality distortion field)」を作ろうとしているのかどうか、知りたいものだ。(いや、このアプリは実際には拡張現実のオブジェクトを作るためのものだ。)
Dustin Curtis のロックされた Apple ID についての Hacker News スレッドの中に ("Dustin Curtis のロックされた Apple ID の謎" 5 March 2021 参照)、他のユーザーが彼らからのメッセージを削除中に不注意にスパムとしてマークしてしまった後 (メッセージを左にスワイプしてゴミ箱アイコンをタップする)、iMessage アカウントが不能にされてしまったという報告が数件あった。
Apple がスパマーから他のユーザーを守るためにスパムメッセージの報告を利用するのは不合理ではない。しかしながら、それは他人のアカウントを不能にするためにその人からのメッセージを意図的にスパムだとマークするようなユーザーによる不正利用に扉を開いてしまう。それが起きるのは、十分な数のメッセージ交換をしている人々の間に限られるであろうが、後味の悪い離婚や不満やるかたない同居人との間で起こるのを想像するのは難しくない。このスパム報告プロンプトを見たことがある、或いは自分または知人が iMessage アカウントを Apple に停止されたことがあると言う人は、コメント経由で知らせて欲しい。
このチェックマークは本当に小さくて、気付かない人さえいるかもしれない。でもこれは iPhone の Phone アプリの Recents リストにも、また個々の通話の詳細画面にも表示されている。一部の Android フォンでは電話がかかって来たことを知らせる画面に認証済みの印が表示されるし、電話キャリア各社も Apple に対してこれを iPhone にも含めるよう申し入れているという。Apple が説明を表示しているのは通話詳細画面のみで、そこには "Calls with a checkmark have been verified by the carrier" (チェックマークの付いた通話はキャリアが認証したものです) と記されている。
この極小のチェックマークはいったい何だ?
これらのマークは 2019 年第3四半期に iOS 13 で登場し始めたが、キャリア各社がスパム通話(迷惑電話)が顧客に届かなくなるようブロックしようとするにつれてその使用に拍車がかかった。電話ネットワークを運営する者にとってスパム通話はとてつもない頭痛の種だ。ネットワークのリソースを消費するにもかかわらず収益を生まず (スパム業者たちは受け取る通話に対する料金を払ったりしない)、キャリアの顧客たちを猛烈に苛立たせる。そうして顧客たちは顧客サービスのオペレーターや、フォーラムに苦情を寄せることに多大な時間を費やし、US Federal Communications Commission (FCC、連邦通信委員会) や Federal Trade Commission (FTC、連邦取引委員会) にも苦情を伝える。
STIR/SHAKEN は基本的に、少数の参加者たちがお互いの信頼の下に運営していた過去の電話システムを拡張しようと試みたかつての失敗を是正しようとするもので、その点は電子メールとよく似ている。電子メールで差出人アドレスを偽装するほど簡単に Caller ID を偽装することはできないが、それでも既に十年以上前から Caller ID のなりすましは行なわれていた。皆さんも普段から不正な通話をたくさん受けておられるだろうから、そのことはきっとよくご存知だろう。近年、詐欺師たちは“局番スパム”さえ使うようになった。これは、地域コードに続く 3 桁の局番部分に同じものを使った偽の Caller ID 番号を使って電話をかけて来る。(この局番部分は地域内でワイヤレス番号との交換に使われるものや、地域ごとにワイヤレスキャリアに割り当てられているものに関係している。)
元来、企業やその他の組織は PBX (社内電話交換機) を通じて Caller ID を設定してきた。それは、当初会社が多数の社内回線を管理し、その後 Voice over IP (VoIP) を使うようになった頃にはちゃんと意味を成していた。私が 1990 年代末から 2000 年代初めにかけて New York Times でフリーランスの仕事をしていた頃に、Caller ID が 1 (111) 111-1111 となっている通話がかかって来ればそれは編集者からの電話だと私には分かった。Times はこの番号を使ってなりすましを実行することにより、本物の社内回線番号を保護しようとしたのだ。(The Times は十年以上前にこの慣行を変更した。)
VoIP のキャリアはずっと以前から、発信する通話ごとに固有の電話番号を設定できるという、より広範な能力を備えていた。そういう通話は基本電話サービス (plain old telephone service) から出たものではないので、キャリアがその種の柔軟性を提供できなければそもそも VoIP 通話で Caller ID が機能することができないからだ。VoIP ベースの通話が正しい識別を伴って毎日何億通も交わされている一方で、スパム業者たちも毎日 1 億通以上の不正な通話を発信していると言われている。では、いったいどうやって無用なものと一緒に大切なものも捨ててしまう事態を避けることができるだろうか?
一つの通話は、複数の異なるキャリアやサードパーティのネットワークを次々に飛び移り飛び移りしつつ発信者から受信者まで届けられることがある。STIR も SHAKEN も (技術的に言えば後者は前者を拡張して実装可能にしたものだ) 公開鍵暗号化を使ってどの電話番号が電話ネットワークの中のどこにいる発信者に割り当てられたものであるかを識別する。一つの通話がなされると、それが一回飛び移る度に暗号法によるテストがなされてそれに合格しなければならず、その電話番号が電話システムの中の正しい地点から発信された Caller ID であることが識別される。(より詳しい技術的詳細が、初期の STIR/SHAKEN について解説した私の 2019 年の Fast Company 記事に記してある。)
STIR/SHAKEN は偽物の発信元電話番号を持つ通話の流れをキャリア各社がブロックできるようにするはずだが、システムのそれ以外の要素についてはまだ疑問が残る。正しくタグ付けされていない通話に対してはどのような影響があるだろうか? 電話をかけようとしている一般の人たちに向けて、キャリアやスマートフォンメーカー各社はその種の通話をどのように表示すべきなのか? 現時点で Apple の表示方法はとてつもなく微妙なものだが、いずれはもっと目立つマーク付けを使って知らせてくれるようになるのだろうと期待したい。特に、着信を表示する画面にその通話が認証済みのものであることを表示してもらいたいと思う。ゆくゆくは、認証済みの Caller ID によって正当な通話が未確認通話を妨げようとするブロックをくぐり抜けられるようになるべきだろう。
Apple Watch の顕著な特徴の一つは、その時計バンドの選択肢の広さと取り替え易さである。私は初代 Apple Watch をシリコーン製の Sport Band と共に購入した。そのフィット感はそこそこで、好きにはなれなかった。2年後、Series 2 にアップグレードし、その時には Apple のナイロン編地のバックルバンドを選んだのだが、こちらもまあまあなだけであった。私はどちらも買い換える程には嫌いでは無かった、とりわけ Apple の途方もない値段を払ってまでは。バンドの値段は、$49 から始まるが、すぐに $99 へと跳ね上がり、今年時点で一番高いのは $539 の Hermès Ébène Barénia Leather Single Tour Deployment Buckle である。アクセント符号1個につき $100 が値段に追加されているのではと思いたくもなる。
Tonya が彼女の初代 Apple Watch を Series 3 で置き換えた時、我々は、当時新しく出たナイロンの Sport Loop を選んだ。それはどんな太さの手首にも合わせることが出来、そして走っている時にも Sport Band 程汗だくにならない。Tonya は彼女の Sport Band を気に入っていたので、私はこちらを貰うことにした。私はとても気に入り、Series 5 にアップグレードする時にも、もう一本の Sport Loop を選んだ ("Apple Watch Series 2 から Series 5 へのアップグレード" 20 January 2020 参照)。私は、Apple が毎年色々な色を追加したり、廃止したりして、前の年の物の中には気に入った色があったのに今年は買えないと言う様なことがある事に少々不満を持っていた。私はその記事の中で、もっと安値の類似商品を Amazon で見たことに言及したが、買ってみる気にまではなっていなかった。
Sport Loop の一番の特長はその無限の調節機能である。つまり、手首の太さにぴったり合わせられる。Sport Band と編地のナイロンバックルバンドでは、ぴったりではない穴の位置でも妥協せざるを得なかった。そして、それは通気性があり、汗をかいても簡単に洗え、すぐに乾くし、そして Velcro の様なフックとループの留め具を一旦固定してしまえば、全く緩むことはない。皮やメタル程には優美ではないかもしれないが、Apple は常に多様で魅力的な色を用意してきた。私が見つけたこのフックとループ留め具の唯一の弱点は、濡れたままで開いたり閉じたりすると、泳いでいる時にその固定力を失うことがあることだけである。全体として、私はこの Sport Loop バンドをとても気に入っている。
Microsoft が Office for Mac のバージョン 16.47 をリリースして、少数の改良を施した。Excel は複数の非表示シートを同時に再表示できるようになり、Excel Data Types を使用して Organization から Power BI データを挿入できるようになった。PowerPoint は Record Slide Show 機能が新たに強化され、発表者のビデオ録画、インク録画、レーザーポインター録画に対応した。Word の Dictate 機能には新しいツールバー、音声コマンド、自動句読点の機能が付いたが、Dictate 機能が使えるのは Microsoft 365 購読者のみだ。(一回限りの購入は $149.99、年払い講読オプションは $99.99/$69.99、Microsoft AutoUpdate 経由で無料アップデート、リリース ノート、macOS 10.14+)
AgileBits が 1Password 7.8 をリリースして、M1 ベース Mac でネイティブに動作するようにした。このパスワードマネージャはまた、Safari でタイプしたクレジットカード番号を自動保存しないオプションを追加し、自動記入が望ましくない状況で電子メールやアカウントのフィールドに登場する回数を減らし、パスワード履歴を時系列逆順に表示するようにし、1Password.com への同期の信頼性を向上させ、Touch ID や Apple Watch を使ってロックを外す際の問題を解消し、生成したパスワードを自動記入に使った場合にも正しく保存されるようにし、macOS 11 Big Sur でお気に入りに入れた項目が見つかりにくくなっていた問題を修正した。(AgileBits または Mac App Store から独立動作のアプリ購入の場合 $64.99、講読の場合は月額 $2.99 または $4.99 (新規にアカウントをセットアップする TidBITS 会員は 6 か月間無料)、無料アップデート、71.1 MB、リリースノート、macOS 10.13+)
隠すものは何もないと知っているからこそ、それはユーザーの高度に個人的なデータを取り込むことに依存しないビジネスモデルを使っているからであるのだが、Apple は自らがそれぞれの App Store に出している自社製の iOS 用、iPadOS 用、macOS 用、watchOS 用、および tvOS 用のアプリすべてについてプライバシーラベルを公開することに何の問題も感じていなかった。けれども今回新たに公開したのは、それらすべての Apple 製アプリのプライバシーラベルを一か所に集めたウェブページだ。そこに並んだアプリのいくつかは私たちが聞いたこともないものだったが、とにかくそういうものがあると知ったからには、その Reality Composer というアプリを使って Steve Jobs が先頭にいない Apple がかの有名な「現実歪曲空間 (reality distortion field)」を作ろうとしているのかどうか、知りたいものだ。(いや、このアプリは実際には拡張現実のオブジェクトを作るためのものだ。)
一年ほど前、Apple は Maps アプリに COVID-19 検査場所の情報を追加した。(2020 年 4 月 29 日の記事“Apple Maps が COVID-19 検査場所を表示”参照。) そして今回、Apple は米国における COVID-19 ワクチン接種場所の情報も追加した。Siri に "Where can I get a COVID vaccine?" と尋ねるか、あるいは Maps を開いて検索フィールドをタップし、Find Nearby の下に見える COVID-19 Vaccines をタップすれば接種場所を検索できる。
けれども、この機能がどの程度役に立つのかは現時点でははっきりしない。なぜなら、多くの州において接種を受けられるのはその資格があってかつあらかじめ定められた接種場所に予約を取っている人たちだけだからだ。おそらく Apple は COVID-19 のワクチンが従来のインフルエンザの予防接種と同じように誰もが予約なしで受けられるようになる将来を見据えているのだろう。そうなった時にはデータももっと良いものになることを願いたい。Josh Centers は Moderna ワクチンの一回目の接種を彼が住む郡の催事会場で受けたのだが、Maps アプリは近所の薬局の場所を表示できるのに、その接種会場は表示しなかった。
Bloomberg の Mark Gurman が、すべての HomePod mini の中に未発表の Texas Instruments 製温度・湿度センサーが組み込まれている.と伝えた。iFixit は HomePod mini を分解してチップを識別することでこの報道を確認した。センサーが組み込まれた位置から判断すると、これは HomePod mini の電子回路を監視するためではなく外部の環境を監視するために設計されたもののように思える。
Apple は当初この機能を公開する予定だったが、数少ない HomeKit 提携社を失いかねないと考えて土壇場の方針修正をしたのではなかろうか。Eve 社は Eve Room を作っていて温度と湿度のセンサーを使っており、HomePod mini にこの機能が付けば Eve 社の売り上げに大きな影響が出ることが考えられる。
Home アプリのセンサー対応機能は弱点だ。湿度が高くなれば除湿機を動かすオートメーションのために私は Eve アプリを使わざるを得ないでいる。ただしこの場合、Eve アプリは単に HomeKit のフロントエンドに過ぎず、まさしく Apple の Home アプリと同等の役割を果たしている。(2017 年 6 月 19 日の記事“大草原の HomeKit のお伴: Elgato の Eve Room”参照。) おそらく Apple はこの機能を実装した新しい Home アプリをリリースするまで待とうとしているだろう。
もちろん、結局 Apple がこのセンサーを使うことはなくなり将来のビルドの HomePod mini でこのセンサーが消え去るということも十分あり得る。
The Verge の記事が、2018 年に Apple に対し欠陥あるバタフライキーボードのデザインを巡って 7 つの州で出された集団訴訟を判事が認定したと伝えた。Apple は 2015 年にバタフライキーボードを導入し、その後数回の改訂を経て、結局は 2020 年に至ってこれを断念した。そのすべての改訂版を通じ、バタフライキーボードは埃やゴミによる影響を非常に受けやすく、キーが引っかかったり、キーを押しても無視されたり、あるいは“ネバついたり”といったことが頻繁に起こった。
この訴訟を支持する材料として引用された電子メールの文章がとりわけ興味深い。その電子メールの中である氏名不詳の Apple 重役が、このバタフライキーボードについて「この豚野郎にどれだけ口紅を塗りたくろうとしても... こいつはやっぱり醜い」と書いている。多方面から酷評され致命的な欠陥のあったこのバタフライキーボードを Apple が早く打ち切りにせず何年も無益な修正を試み続けてしまったのはとても残念なことだ。どうやら蝶々たちもねぐらに戻って羽を休める時が来たようだ。[訳者注: come home to roost という英語には「悪行の報いがわが身に跳ね返ってくる/人を呪わば穴二つ」という諺の意味もあります。]