もしもあなたの知っている誰かが Apple ID パスワードを忘れてしまったら、その時点であなたにできることはあまりなく、アカウント復旧の手順を教えてあげられるくらいしかできない。けれども、いったん 2021 年版の Apple のオペレーティングシステムが出たならば、誰もが一人かそれ以上の人を自分の Account Recovery Contact に指定できるようになる。あなたを誰かがその人の Account Recovery Contact にリストしたなら、もしもその人が自分のアカウントにアクセスできなくなった場合、あなたの助力を得てその人はパスワードをリセットしてアカウントへのアクセスを取り戻せる。この機能が使えるようになったら年老いた親戚に使ってもらおうと考えているのは私たちだけではないだろう。
また Apple はこの機能をさらにもう一歩先へ進めて、他の人を Legacy Contact に指定できるようにする。すると、自分が死んだ際に、その人が自分のアカウントと個人情報にアクセスできるようになる。以前私たちが Take Control Books を運営していた頃、Joe Kissell が Take Control of Your Digital Legacy を書いてこの問題を議論したし (2017 年 1 月 30 日の記事“Agatha 伯母さん、デジタル遺産について思案する”参照)、さらにもっと後になって記事“死亡した家族の Apple アカウントへのアクセスをリクエストする方法”(2020 年 6 月 17 日) でも説明した。最近友人が亡くなった夫のアカウントにアクセスする手伝いをした経験から言っても、すべての人ができるだけ早く何人かの Legacy Contact を指定しておくことを強くお勧めしたい。
オーディオとビデオの AirPlay を Mac へ
もう十年近く前から、AirPlay を使って Mac へオーディオやビデオを送れないのは不便だと思っていた。その点が macOS 12 Monterey で変わる。コンテンツを iPhone、iPad、または別の Mac から Mac へ送信できるようになるからだ。Mac を AirPlay 2 スピーカーとして機能させることもできるようになるので、それを第二スピーカーとして使ってマルチルームのオーディオを実現することもできる。
これで、次のようなことが可能になる:
iPhone 上で、例えば Overcast のようなアプリを使ってポッドキャストを開始してから、そのオーディオを AirPlay で Mac に送り、仕事机に戻って聴く。これならクラウドベースのポッドキャストプレイヤーを使うより直接的な解決法だし、仕事机から離れる際には単純にオーディオを切り替えて iPhone に戻すだけでよい。
訪問したオフィスの中で、Keynote プレゼンテーションを MacBook Air から大画面の Mac へ AirPlay 送信する。
昼食中にライブ・ストリーミングのビデオを iPhone で視聴し始めて、仕事場に戻ったら自分の Mac へ AirPlay で送る。
もちろん、こういったことには他の解決法もあるし、サードパーティのアプリを使えば Mac を AirPlay 受信機に変えることは今でも可能だが、公式の対応はとっくに実現されているべきだったことだ。そもそもの初めから、Mac を AirPlay 受信機として使っていけない理由は何もなかった。
今回、AirPods Pro と AirPods Max が Apple の広範な Find My ネットワークを利用することができるようになる。これは AirTag を駆動するものと同じ、Apple デバイスによるネットワークであって、なくした AirPods の位置をこれで把握できるようになる。おおよその位置情報しか提供できないけれども、Bluetooth 到達範囲にまで近づくことができさえすればあとはサウンドを鳴らして見つけられるのではなかろうか。悲しいことに Apple は旧型の AirPods については何も語らなかったが、こちらについてもこの機能や他の新機能を加えた新バージョンを準備しているという可能性はあるかもしれない。
デジタル ID を Wallet に保存
今では多くの人たちが Wallet アプリの中にクレジットカードやチケットなどを入れておくことに慣れているが、今回 Apple は運転免許証や state ID (州発行の身分証明書) も Wallet アプリに入れられるようになると約束する。少なくとも、米国のいくつかの州でそれが実現するという。Wallet アプリが本当の意味で財布 (wallet) の代わりとなったならば素敵ではないか? Apple によれば、空港の TSA (米国運輸保安局) チェックポイントでも iPhone あるいはそれにペアリングされた Apple Watch の画面にデジタル版の ID を表示してみせればよくなるのだという。
でも、はたしてそれで私たちは物理的なカードを二・三枚常時携帯せずに済むようになるものだろうか? あなたの車を停止させた州警察官に、iPhone を気軽に手渡すことができるだろうか? で、彼らはそれを受け取るのだろうか? その上、今でもあらゆる店が Apple Pay に対応している訳ではない。例えば Home Depot では使えない。確かに Apple は正しい方向へ進みつつあるし、この会社の影響力を考えればいずれはそこに到達するのかもしれないが、iOS 15 が出たらすぐにカードを携帯する必要がなくなるとは到底思えない。記事“ウォレットケース2つ: Twelve South BookBook Vol. 2 と Ekster iPhone 11 Pro ケース”(2019 年 12 月 12 日) とその (英語版記事への) コメントで述べられたウォレットケースに対する要望をお読み頂きたい。
Siri の音声認識がデバイス上で稼働
iOS 15 では、Siri が Voice Control のように動作して、従来のようにすべてのクエリーを (音楽の再生を一時停止するなどごく単純なものでさえ) Apple のサーバへ送るのでなく、そのデバイス自体の上で言語処理を実行するようになる。この変更の結果として、Apple のサービスとやり取りする必要が除去されてパフォーマンスが増すはずだ。また、セルラー・インターネットアクセスが必ずしもどこでも利用できる訳ではない地域に住んでいる人にとっては信頼性が増すことだろう。そして、Siri に関する最大のプライバシーの懸念がこれで取り除かれる。かつて Apple は Siri の音声録音を請負業者に聞かせていたことで散々メディアに叩かれ変更を施したことがあった。(2019 年 8 月 29 日の記事“Apple, Siri プライバシー改革を発表”参照。) 残る大きな疑問は、Siri による口述が Voice Control からも何かを学んでいるかどうかだ。ずっと以前から、Voice Control 口述の方が良い結果を出していた。(2020 年 8 月 31 日の記事“iOS と macOS の口述が Voice Control の口述から学べること”参照。)
Launch Content on Apple TV with Siri on a HomePod mini
HomePod mini 上の Siri で Apple TV のコンテンツを起動
tvOS 15 と、来たるべき HomePod アップデートによって、HomePod mini に命じてテレビ番組を再生させられるようになる。例えば "Hey Siri, play Game of Thrones season 2, episode 3" と HomePod mini に話しかければよいということだ。Apple は初代の HomePod については触れなかったので、そちらも対応するのかどうかは分からない。また、Netflix で使えるのかどうかも分からない。Apple TV アプリは Netflix の番組を操作できないからだ。ケーブルテレビのプロバイダ各社が出しているアプリの番組で使えるのかどうかも分からない。
競合するストリーミングメディアプレイヤーは、かなり前からこの線での機能を提供してきた。例えば Google Home スマートスピーカーはコンテンツを Chromecast ドングルに再生できるし、Amazon は Alexa を内蔵した Fire TV セットを販売している。確かに、直接 Apple TV で Siri を使ったり、iPhone 上の Siri に命じて AirPlay コンテンツを Apple TV に送ったりすることはできるけれど、やはり空中に向かってコマンドを話すだけでテレビで番組が始まるというのは何か魔法のような魅力がある。
二要素認証コードの自動補完
Apple はキーノートの中でこのことに触れなかったが、これは私たちのお気に入りの一つだ。ウェブサイトが二要素認証を提供した場合、iOS 15 や iPadOS 15 では Settings > Password で、あるいは macOS 12 Monterey では System Preferences に新設される Passwords 枠で、あらかじめ認証コードをセットアップしておけるようになる。いったんそうしておけば、そのサイトにサインインしようとする際に必要な認証コードが自動補完される。
Apple は FaceTime の会話にメディアと画面共有を持ち込むことのできる SharePlay という名前の新テクノロジーを大いに宣伝した。そんなもの欲しいと思ったことなんかないという人も多いかもしれないが、ティーンエイジの世界では、特にこのパンデミックの時代、一緒に音楽を聴いたりビデオを観たりできるというのは今や大きなこととなった。SharePlay ではメディアを共有して、誰もが同じビデオを同時に視聴でき、誰もが再生をコントロールできて、終始その結果が他のすべての人のところでも同期される。これは Apple エコシステムを活用するので、iPad 上の FaceTime で他の人たちと接続しながら同時にビデオを Apple TV で観たり音楽を HomePod で聴いたりもできる。
長年活躍している開発者 Alco Blom による Photos Search というアプリを、私たちは Mac と iOS の双方で試してみていた。このアプリは、写真ライブラリ全体をスキャンして、画像の中のテキストを探し出し、その結果を検索できるようにする。それ以外の機能もある。悲しいことだが、iOS 15 と macOS 12 Monterey が出荷されるやいなや彼の Photos Search に Apple の Live Text 機能という強力な対抗相手が登場することになる。Live Text 機能は画像の中のテキストを他のどのテキストとも同等に扱って、コピーとペースト、検索、翻訳などの機能が使えるようにする。おそらく Spotlight 検索にも含まれるのだろう。しかしながら、これが使えるためには A12 Bionic チップを備えた iPad か、または M1 ベース Mac が必要となる。(iPhone についてはおそらく iOS 15 にアップデート可能なすべての iPhone が対応するだろう。) きっと Alco Blom なら、Live Text を活用することで Photos Search を写真の中に埋め込まれたテキストを調べるためのより良いフロントエンドへと作り変えてくれることだろう。
Conversation Boost が軽度の聴覚障害者の支援に
Apple が AirPods Pro をアップデートして Conversation Boost 機能に対応するようにしさえすれば、高校生だけでなく年配の人も耳に AirPods を入れているのが当たり前の光景になることだろう。軽度の聴覚障害を持つ人たちのために、Conversation Boost は AirPods Pro 内蔵のマイクロフォンを前にいる人の声に集中させ、声を聞く妨げとなる周囲の騒音を減らす。
Apple には既に Live Listen 機能がある。これは、すべてのバージョンの AirPods のために iPhone をマイクロフォンとして使い、会話を聞こえやすくするものだ。このテクノロジーを AirPods Pro 自体にすべて組み込んで拡張したものが Conversation Boost のようだ。
はるか昔のこと、私は Teleport というユーティリティを使って一組のキーボードとマウスを 2 台の Mac で共有していたし (2007 年 8 月 27 日の記事“TidBITS 御用達ツール: Teleport”参照)、現代的なものでは 1Keyboardというアプリがあって複数のデバイスで同様の機能を提供している。そして今回 Apple もこの分野に進出して、Universal Control というものを出す。これは、一つのキーボードとポインティングデバイスを複数の Mac や iPad で使えるようにすると約束する。Apple はまず、MacBook Pro のキーボードとトラックパッドがその近くに置かれた iPad を動かすところを見せてから、そこに iMac を追加して、グラフィックを iPad から MacBook Pro へ、それから iMac 上のアプリへとドラッグしてみせた。かなり印象的なデモであったが、このような機能については細部が肝心であって、現実世界でもこの出来合いのデモのようにスムーズに働くのかどうかはやってみなければ分からない。
Shortcuts を iOS から Mac へ移行
Apple は Mac のオートメーションツールを現代化することにかけてはなかなか重い腰を上げなかった。AppleScript と Automator は長年放置され、とりわけオートメーションの導師 Sal Soghoian が会社を去ってからは停滞そのものであった。(2018 年 6 月 7 日の記事“Sal Soghoian は自動化の伝説”参照。) Peter Lewis の Keyboard Maestro は長年 Mac ユーザーたちにとっての頼みの綱であったし、そのことは今後も変わらないだろうと思うが、ここに新しいツールが登場する。Shortcuts だ。その通り、Apple は Shortcuts アプリを iOS から macOS 12 Monterey へもたらそうとしている。
そのエディタは Mac の大きなウィンドウの利点を活用しているようで、複雑なショートカットを編集する作業が現在 iPhone でしているよりもずっと楽になるに違いない。Mac を iPhone 上のショートカットのためのエディタとして扱うことも可能なのかもしれない。なぜなら、これは自動的にすべてのデバイスにわたって同期されるからだ。Shortcuts アプリはクロスプラットフォームとなり、M1 ベース Mac はそのネイティブなアプリの中で iPhone や iPad のショートカットを走らせ、Intel ベース Mac はそれらを Mac Catalyst アプリに送る。iPhone のショートカットのすべてが Mac で走るとは考えにくいし、その逆も同様だが、いずれにしても別のプラットフォームではもともと意味を成さないものもあるだろう。
Apple は、その何処にでもある Notes アプリに、新しい整理機能をもっと使いこなせるようにしようとしてきた、その中にはソーシャルメディアからインスピレーションを受けたものもある。それらの多くは Apple のオペレーティングシステムに亘って広がったが、Quick Note は iPad のために設計された様に見える。
Quick Note は、Notes アプリを開く事なくメモを取らせてくれる。やる事は、iPad の右下隅から指か Apple Pencil で上方に対角線にドラッグすることでメモが作れる。メモを閉じるには、反対方向にドラッグする。
でも、いったいどうやって iOS や iPadOS は、あるいは将来登場する Android アプリは、AirTag があなたと共に移動中だと知ることができるのだろうか? Find My ネットワークは Apple のデバイスと Bluetooth ID を送信する Find My 項目とに依存して働く。Bluetooth ID は識別可能なパターンで送信され、それを送信しているハードウェアに関する暗号化された情報を含む。この Bluetooth ID は定期的に変更されるので、(たとえ暗号化されていても) 固定された Bluetooth ID で誰かに識別され追跡されるおそれはない。Apple はこの Bluetooth ID の変更周期を公表していないが、私は一日に 1 回か 2 回程度だろうと思う。これは、この会社が他の持続するものについて使っている現状からの推測に過ぎないが。
AirTag による望まれない追跡について記した Apple のサポート書類には単に「知らないうちに追跡されることのないように、自分のものではない AirTag をしばらく持ち歩いていることがわかると、Find My が教えてくれます」としか書かれていない。けれども今回問い合わせに応じて、Apple は TidBITS にもう少し具体的なことを教えてくれた。
「あなたが所持中の AirTag が見つかりました」という通知が出るためには、あなたがいくつもの場所をある時間 (詳細は明かされない) にわたって動いた間にあなたの iPhone または iPad が同一の Bluetooth ID を受け取っており、それに加えて次の条件のうちいずれかが満たされていなければならない:
あなたが自宅に戻った。これは Contacts (連絡先) アプリの Me カードに記載された住所との照合による。
これらの場所の情報は、Find My ネットワークが AirTag のセーフティ通知を表示するための評価点として利用する以外にも、Apple は予測交通情報サービスを提供するためや、Photos アプリでより良い Memories を構築するためにも利用している。別に大したことではないが、知っている価値はあるだろう。
iOS と iPadOS は利用頻度の高い場所をそのデバイス上ローカルに保存し、デバイス間で終端間暗号化を使って同期する。Apple によればこの位置情報データに Apple が直接アクセスできる方法はないという。許可なくあなたを追跡している人も、推測による以外にこれらの位置情報を知ることはできない。
良い点と悪い点
おそらく皆さんも、これら一連の選択がなされた理由とそれらの持つ難点との両方とも推測できるだろう。もしも人々が同一の Bluetooth ID が自分と共に動いているというだけの条件で一定時間後に Apple がその人々に通知を出したなら、バスや電車や飛行機の中で持ち主からはぐれた AirTag が、いきなり何十台もの iPhone や iPad や、今年の後半になれば Android フォンにも、一斉にアラートを出すことになってしまうだろう。誤判定があまりにも多くなれば、ただ単に迷惑なだけでなく、多くの人がセーフティ通知をオフにしてしまう結果を招くだろう。
けれどもそのことはまた、もしもあなたが AirTag を使った監視を受けていたならば、追跡の警告があなたに出るよりも前にあなたの自宅や利用頻度の高い場所の位置情報が既に伝えられてしまっているということをも意味する。私たちが知る限り、そして Apple はこの点についてそれ以上の説明をしてくれなかったが、AirTag の位置情報は警告を出した後も AirTag が電源を持っていて近くにインターネット接続を持つデバイスがある間はいつまでも送信され続けるのだろうと推察される。
Dejal Systems が Simon 5.0 をリリースした。長らく要望のあった機能、つまり iCloud を経由して複数の Mac の間でデータを同期する機能を導入した「極めて大きなアップデート」だ。ウェブページやその他のオンラインサービスをチェックして変更や故障を調べるために作られたこのサーバ管理ツールは、あなたがデータ同期を有効にするように求め、それ以後はテストを特定のコンピュータでチェックできる一方で、同期されたどの Mac からでもテストの編集ができるようになる。複数のコンピュータの間で Simon データを同期する際には、新しい Simon Status サービスがこの機能を備えてあらゆる Simon インスタンスの状況チェックを有効化し、何をチェックしてテストエディタに出力するかのカスタマイズもできる。
最近改定された Apple の Platform Security Guide には同社の Secure Intent テクノロジーが記述されている。これを使って、パスワードもパスコードも入力することなくセキュアにアクションの承認ができる。これは何らかのハードウェアトリガー、具体的には Touch ID センサー、Face ID 対応の iPhone や iPad のサイドボタン、または Apple Watch のサイドボタンを通じて働き、Secure Enclave に接続される。たとえ root 権限またはカーネル内で実行されているソフトウェアであってもなりすましができないように設計されている。MacBook Pro に Touch ID を使ってサインインしたり、Apple Watch のサイドボタンを2度押しして System Preferences のロックを外したり、iPhone 12 のサイドボタンを2度押しして購入意図を確認したりといった風に使う。
Daring Fireball の John Gruber が、Apple の書類を分析することによっていくつかの結論を導き出した。例えば、Face ID への移行が当然と思えるのに Mac が依然として Touch ID のままである理由が Secure Intent で説明できる。Secure Intent への対応のために何らかの物理的ボタンが Secure Enclave に接続されることが必要だからだ。Apple による生体認証の未来は Face ID と Touch ID を組み合わせたマルチセンサー型のものになるのではないかと Gruber は予想する。