今週号の TidBITS には珍しい取り合わせの記事が集まった。Adam Engst は、25 年前に出した記事の内容を振り返りつつ、Monterey で新たに Apple が出した networkQuality ツールを使ってインターネット接続の応答性のより正確な状況を把握するやり方を説明する。ビデオ通話やゲーミングのためには重要なことだからだ。また、Wordle ゲームを楽しんでいる人たちのために、Adam が Wordle に触発された数多くのゲームを探索する。多次元のもの、敵対するもの、多人数参加型のもの、さらには言葉を使わないものさえある。それからもう一つ、Glenn Fleishman が論点の多い暗号通貨の詳細に分け入って、その基本を理解しておくのは大切だけれども実際に投資すべきではないと論ずる。今週注目すべき Mac アプリのリリースは一つだけ、Typinator 8.12.1 だ。
ビデオ会議は、我々全てに対してその Internet 接続が実際にどの程度良いか - 或いは悪いか - を明らかにした。しかしながら、Web ページを読み込む、或いはメールを読む程度のことをしているだけだと、スループットを感じ取るのは難しい。ストリーミングビデオですら必ずしも良いテストとは言えない。何故ならば、それは下りの帯域にしか負荷をかけないし、ストリーミングサービスはジッターとバッファリングを避けるため色々な手段を使うからである。しかし、ビデオ会議は両方向で相応の帯域を要し、そしてオーディオとビデオストリームを同期させるために比較的低い遅延時間も必要になるため、ネットワーク品質の像をより鮮明に提供する。もしビデオ通話がつっかえたり、止まったりする様であれば、その Internet 接続に原因があるかも知れない。しかし、どの様にすればそれが分かるのか? そして、必要になったら、どの様にしてそれを直せるのか?
Internet 接続速度を試験するためのツールは沢山ある。一番有名なのは Ookla の Speedtest であろうが、Google のツール - "speedtest" で検索する - や Netflix の Fast も役に立つ。それ等全ては下りと上りのスループットに対して大体似た様な結果を提供するであろうが、これ等二つの数字が全てではない。
遅延時間は、しばしば見過ごされがちだが、皆さんの目的に対してその他の点では帯域は十分な場合に鍵となる役目を果たすことが多い。(Speedtest は遅延時間を "ping" と呼んでいる。) 遅延時間は、遠隔サーバーからの反応を得るまでに何ミリ秒かかるを計測する。低遅延時間値は滑らかなビデオ通話や反応の良いゲームのためには必須であるが、特定の遅延時間測定と認識される性能とを結びつけるのは困難である。100 ミリ秒 の遅延は良いのであろうか、悪いのであろうか?
残念な事に、標準の速度テストから得られる遅延時間の数字は、実世界で見るものを正確に反映しているとは言えない場合もある。例を挙げると、皆さんのネットワーク上にいる他の誰かが Zoom 通話に入り込んでいるとか、4K のビデオストリームを見ているとか、或いは Internet バックアップサービスに対してバックアップ中だとか言う場合である。高帯域の活動は遅延時間スパイクの原因となることがあり、そのネットワーク上にいる全ての人に対してさもなくば良好な接続に対して支障をもたらす。言い方を変えれば、遅延時間について考える必要があるのは、ネットワークに負荷がかかっている時であって、暇な時にではない。
以上は、Apple が macOS 12 Monterey で導入した networkQuality
コマンドラインツールを紹介する序段である。Terminal を開いて networkQuality とタイプすれば、それは上りと下りの "capacity (能力)" を返して来る。それは "speed (速度)" よりはより適切な表現である。と言うのも Internet 接続は基本的にはパイプだからである - パイプは太ければ太いほど、より多くのトラフィックを運べる。より太いパイプがより多くの水を流せる様にである。また、上りと下りの "flows (フロー)" と言う数字もある。それはどうも応答性試験のために使われたテストパケットの数らしい。(私は通常 12 と言う数字を見るが、上りのフローに対して 20 を、下りのフローに対して 16 という数字も見たことがある。)
最も興味深いのは "responsiveness (応答性)" で、負荷下での1分あたりのラウンドトリップ数 (RPM) を計測しそして時間計測を用いずに遅延時間の効果をより良く計る数字を提供しようと試みる。車の計器盤上の回転数 "revolutions per minute (毎分回転数)" の場合と同様、RPM は "高い方が良い" と言う分かり易い数値である。その数字は3桁から4桁の範囲に亘り、比べるのも簡単である。加えて、Apple はそれを皆さんに代わって解釈し、Low, Medium, そして High のラベルで表現する。同社はその評価を次の様に表現している:
Low: 同じネットワーク上のデバイスが、たとえば、映画のダウンロードや iCloud への写真のバックアップなどを行っていると、一部のデバイスやサービス (FaceTime ビデオ通話やゲームなど) で接続が不安定になる可能性があります。
Medium: 複数のデバイスや App がネットワークを共有している場合、FaceTime の音声通話やビデオ通話の最中などに、一時的に停止またはフリーズする可能性があります。
High: ネットワークを共有しているデバイスや App の数に関係なく、App やサービスは安定した接続を維持できます。
我々の旧友 Stuart Cheshire は、遅延時間について 25 年前に2部作の TidBITS シリーズ "バンド幅と応答時間: 問題は応答時間にあり(第一部) " (24 February 1997) で説明し、Apple で RPM 測定基準に関わり、そしてそれを WWDC 2021 ビデオ で紹介した。(Stuart はまた、昔、双方向のネットワークされたタンクゲーム Bolo も書いたことがあるし、Apple での設定不要のネットワークプロジェクト Bonjour の貢献者でもある。ネットワークを Stuart の様に知っている人は誰もいない。)
コマンドラインツールとして、networkQuality は有用なものとなりうる各種のスイッチを持っている - それ等全てを見るには man networkQuality
とタイプする。このツールの選択肢は、Apple のではなく自分のサーバーに向かわせたり、特定のネットワークインターフェース (例えば、Wi-Fi ではなく Ethernet とか) を使って試験するよう強制したりさせてくれるし、選択肢は他にもある。
iPhone や iPad 上でも応答性を試験したいと思われるかも知れない。Apple は WiFi Performance Diagnostics プロファイルを提供しており、Apple Developer アカウントを持っている人ならインストール出来る (更なる詳細については Apple のサポート書類 を参照のこと)。次に Settings > Wi-Fi に行き、あなたのネットワークの隣にある i ボタンをタップ、そして Diagnostics と Responsiveness の隣にある Test リンクをタップする。(もし試験を既に一回やっていると、その Test リンクは前回の結果に代わる - 試験を再度行う場合はそれをタップする。)
Apple の遅延時間測定は、同社が独自の道を行く事をここでも示しているが、独自の道を行く事に対する Apple の通常の理由のように、networkQuality の応答性の結果は遅延時間の実経験をより良く反映している。この新しい RPM 測定基準は同社固有のものではない - それは詳細付きの IETF ドラフト であり、オープンソースサーバーコード もGitHub にある。他のツールも、ここでの Apple の仕事を利用して他での速度試験結果を改善する事になれば最高だと思えるのだが?
公平を期するために言うと、Fast テスト を走らせた後 Show More Info をクリックすれば、それは遅延時間結果を負荷無しと負荷下の両方の場合に対して表示する。下記に見られるように、私の負荷下の遅延時間は負荷無しの場合よりも遙かに悪く (数値が低いほど良い)、それは networkQuality からの低い RPM 値とも合致する。
応答性が低い場合には何が出来るであろうか? もっと自己中に言うと、私のひどい RPM 値については、何が出来るであろうか?!? 私の下り 200+ Mbps そして上り 10+ Mbps の帯域幅は結構良いと思っていたし、それに生の遅延時間は常に 30 ミリ秒 かそれ以下であり、こちらも悪くない。しかし、ビデオ会議の品質が素晴らしいと感じたことは無かった。その一方で、私は何時も (そして傲慢にも、ということが結果として分かった) 他の人の接続が悪いせいであろうと思っていた。
Apple の networkQuality サポートページがまさにこの質問に答えている。但し、少々一般的にではあるが。
Wi-Fi 接続や有線のネットワーク接続をご利用の場合、SQM (Smart Queue Management) に対応した一部のルーターで応答性が高い状態を維持できますが、こうしたハイエンドのホームゲートウェイは一般に、専門的な手動構成がある程度必要になってきます。Apple ネットワーク応答性テストは、こうしたホームゲートウェイの評価や比較のツールとして使いやすく、さまざまな構成設定を試したりその効果を比較したりする際の繰り返しテストとして特に有効です。
数年前、私は我が家の Wi-Fi ネットワークの段々当てにならなくなってきていた AirPort ベースステーションを Eero メッシュシステムに入れ替え、それ以来それはうまく働いてきた。私はこの主たる Eero ユニットを再起動しなければならなくなった記憶が無い。それは AirPorts を使っていた時にはほぼ毎週しなければならない事であった。(勿論接続の不具合が無かった訳では無いが、それ等は Spectrum のせいであり、Eero システムとは無関係であった。) 手短に調べてみたら Eero が Smart Queue Management 機能を追加していた ことが分かった - "Optimize for Conferencing and Gaming" と呼ばれている - 試験的な Eero Labs 設定に対して。私は iPhone 上の Eero アプリを使わなければならなくなったことが殆ど無いので、Eero Labs がその独自の設定を Discover タブに載せていることに気付くまで、ありとあらゆる設定を探検していかなけらばならなかった。その後、Optimize for Conferencing and Gaming を有効にするのはたわいも無いものであった。
では、それはうまく働いたのか? 以前、私の RPM 値は何時も低く、89 から 144 の間であった。それを有効にして以来、それ等は急上昇し、1315 から 1687 あたりになった! Fast の負荷下の遅延時間もまた 10 から 47 ミリ秒 程度下がった。しかしながら、それ等は只の数値に過ぎず、日々のビデオ通話でも関知出来る違いをもたらすかどうかは数週間経ってみないと分からないであろう。
残念ながら何もかもうまくいった訳ではなかった。私が上記の iPhone スクリーンショットを iCloud にアップロードするのを待っている時、思ったより時間がかかっている事に気付いた。これは関係ないことだと思ったが、気になったので、networkQuality の数値をより注意して見てみたら、私の上りの容量はほぼ半分に落ちていて、おおよそ 10 Mbps から 5 Mbps になっていたことを発見した。他のツールでの試験結果もまた上りの帯域幅の減少を示していたが、その程度はそれ程極端では無く、一般的に 12-13 Mbps から 9-10 Mbps に下がる程度であった。SQM を有効にすると何故アップロードが邪魔されるのか私には分からない。一般論で言うと、私は反応性を改善のために上りの帯域幅を犠牲にするのは厭わないが、生の上りの性能を必要とする時には、SQM を不能にすれば良いことは覚えておく価値がある。
勿論、前提条件は SQM を有効に出来ることである。Apple が記しているように、この機能を提供しているのは限られたルーターだけなので、自分のルーターが SQM をサポートするかどうか、もししていれば、どうやってそれを有効にするかは自分で調べなければならない。私は、ネットワークの数字を前後で比較して、それが性能に、私の場合の様に、影響しているか見てみることお勧めする。もし実際のビデオ会議品質の違いに気付いたのであれば、コメントで知らせて欲しい。
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Wordle はインターネットに嵐を巻き起こした。昨年末にはほんの少数の人しかプレイしていなかったが、今やそれが急増して何百万人もの人たちが使っている。New York Times がこのゲームを作者の Josh Wardle から買い取って、報道によれば 7 桁の金額を払ったのだという。Wordle のゲームプレイは単純だ。毎日、あらかじめランダムに選ばれている5文字の単語を言い当てるために、6回までの機会が提供される。このゲームについては今年初めに 2022 年 1 月 7 日の記事“Wordle の遊び方、2022 年の言葉推測ゲーム ”で説明した。
Tonya も私も単語パズルが大好きなので (特に Tonya は子供時代に家族と単語ゲーム Boggle で遊んで達人の域に達したそうだ)、単語を調べるのに辞書を使うレベルで Wordle が好きになった。Tonya は初めから二人別々に解くのだと宣言して、早く解き終えた人はヒントを言ってはならないというルールを決めた。(ただ、私はその日の普段の会話の中に答を忍ばせることに秘かな楽しみを感じていたことを白状しよう。彼女はまだそれと気付いていないようだが。) 対照的に、私の両親は毎日二人で一緒に Wordle を解いている。
早くから、Tonya と私は自分たちの推測について思い悩み始めた。果たしてこれは頭の良い推測なのか、それとも単なる幸運なのかと。幸いにも、New York Times は WordleBot というものを思い付いた。これはあなたの推測を分析して 、ボットならばこうするという方法と比較し、あなたが競争に優れたタイプの人であるかどうかを示す統計情報を表示してくれる。カーテンの裏を覗きたいと思う人には、興味深い背景情報となるだろう。Wordle のゲームを終えてから、ブラウザの中で WordleBot へナビゲートし、あなたの結果を調べさせるだけだ。(スクリーンショットをアップロードする方法もあるが、面倒だ。)
私のように iPhone の Home 画面に Wordle のアイコンを置いている人は、WordleBot を呼び出す際にイライラしてしまうだろう。なぜなら、Apple がこのウェブサイトをカプセル化して、クッキーを Safari と共有しないようにするからだ。Home 画面に保存されたアイコンで開いた Wordle から Safari のアドレスバーやブックマークを出してプレイ後に WordleBot へナビゲートすることは不可能だ。New York Times が Wordle 自体の中から WordleBot へのリンクを張ってくれたら素敵だろうと思うし、私は直接 New York Times へ要望を送っておいたが、それが実現されるまでの間は、こんな回避策がある:
Wordle ゲームを終えたら、左上にあるハンバーガーアイコンをタップする。
一番下に見える "The New York Times" リンクをタップして、この新聞のホームページへ行く。この時点で新聞の見出しを読むことはお勧めしない。
そのページの左上にあるハンバーガーアイコンをタップして、"WordleBot" を検索する。
検索結果の最初の項目をタップすれば WordleBot がロードする。
Wordle の素晴らしさは、可能な単語を頭の中でどれだけうまく振り分けられるかに応じて easy と hard のモードを選べることだ。私は Wordle を一・二分で解けてしまう日もあれば、たくさんの文字の可能性を苦労してチェックしなければならない日もある。解けずに諦めた日はまだないが、幸運が役割を果たしていることは確かだ。たった1個の文字が分からなくて複数個の単語の可能性を前に最後の6回目の挑戦にまで行ったことはある。でも、いくら時間がかかったとしても、正解を入力し終えればその日の分は終わりだ。有限性にこそ満足が感じられる。
途方もなく相互接続した今日の世界の中では当然のことだが、Wordle は数多くの同種の推測ゲームにインスピレーションを与えた。限定された一連の単語の中のみから推測させるものもあるけれども、私には面白いと思えなかった。私の頭脳は単語をカテゴリーで切り分けたりしないので、使えない単語を考える度にフラストレーションが溜まる。その種のものをいくつか挙げよう:
そういうものよりもっと興味深いのが、コンセプトを変えた推測ゲームや、単語ではないものを推測させるゲームだ。私たちが試してみたものを紹介しよう:
Dordle、Quordle、Octordle
昔からある3次元 Tic-Tac-Toe ゲームの Qubic にせよ、初代の Star Trek で Kirk と Spock がプレイしていた 3-D チェスゲーム にせよ、互いに関連する複数個のゲームボードには何か特別に興味をそそるものがある。Dordle 、Quordle 、Octordle はそれぞれ 2、4、8 個の Wordle ゲームを同時にプレイさせる。個々の推測でそれぞれのボードの適切な文字を埋める。推測の回数は増えて、それぞれ 7、8、13 となる。
言うまでもなくこれらのゲームは Wordle より難しいし、早い段階にできる限り多くの文字をプレイしておく戦術が重要になる。でも、見かけほど難しくないのは、一つのボードで何の役にも立たなかった文字が別のボードでは非常に役立つこともあるからだ。Tonya はよく Quordle をプレイしている。私はほんのたまにしかプレイしない。二人ともたいていゲームに勝つが、負けることもある。Wordle が易し過ぎると思う人は、これらの複数ボード版のどれかを試してみるとよい。
Squareword
ここでも子供の頃にプレイしたゲームを思い出す。Connect 4 だ。やはり Tic-Tac-Toe の変種と言えるが、4枚の円盤を並べることに挑戦するものだった。 Squareword を初めてプレイした時私は Connect 4 を思い出したが、こちらは5×5のボードで Wordle のゲームプレイを使う。水平に並んだ単語を推測しようとするのだが、同時に縦の並びもすべて正しい5文字の単語でなければならない。縦にも単語を完成しなければならないことでゲームに素敵な一捻りが生まれるが、推測の回数を 8、11、16、または 21 以下にせよと挑んでくる。ただし推測の回数に制限はない。
私たちは 7 回の推測で完成できれば“勝ち”だとしているが、水平の単語が5つあって普通ならそれぞれ5回の推測が必要なので、なかなか勝つのは困難だ。一つの単語を完成させる文字が他の単語の正しい場所に収まれば少ない回数で勝つこともあるが、そういうことはなかなか起こらない。Squareword で私が一番苛立たしく思うのは、<8 のスコアを示すために中が緑色で周囲が黄色の丸を使っていて、全部が緑色の <11 のスコアとほとんど見分けがつかないことだ。どうして青とか、一目で分かる他の色にしなかったのだろう?
Hurdle
複数の Wordle ゲームを同時にプレイさせる代わりに、Hurdle は5つのゲームを連続してプレイさせる。ここでの工夫は、最初の3つのボードの正解がそれぞれ次のボードの最初の単語として使われ、最後の5番目の Hurdle ボードはそれまでの4つのボードの正解がすべてあらかじめ埋められて、残りたった2回の推測のみがあなたに任されるところだ。最初の単語を自分で指定できなくなるのは大したことではないが、最後のボードで2回しか推測できないのはかなり大変だ。
WordHurdle、More Wordle、Hello Wordl、Speedle
Wordle で5文字の単語を当てるのが簡単過ぎると思う人は、WordHurdle、More Wordle、あるいは Hello Word を試してみるとよい。WordHurdle は6文字のグリッドを使い、推測の回数は Wordle と同じく6回だ。More Wordle は歯車メニューで3つのモードにアクセスできる。Easy (5文字、推測6回、つまり Wordle と同じ)、Medium (6文字、推測7回)、Hard (7文字、推測8回) の3種類ある。Hello Wordl にはさらに柔軟性があって、4 から 11 までのうち好きな文字数を選べるが、推測の回数はすべて6回となっている。Speedle は Hello Wordl の分岐形で、複数の時限ゲームを続けてプレイでき、カスタマイズのための数多くのオプションがある。
Antiwordle
ペンギンのことを考えないようにしよう、と言われれば、皆さんは "penguin" という単語を見た途端に、微笑みを誘う飛べない水鳥がよたよたとあなたの脳裏に歩いて来たことだろう。別の人たちの脳裏には Tux が浮かんだかもしれない。
Antiwordle の背後にあるアイデアは大体そんな感じだ。Wordle をプレイするのだが、目的は最後の単語を推測しないようにすることだ。Squareword と同じく推測の回数に制限はない。でも Squareword と違って、推測の回数が多ければ多いほど成績が良い。Tonya の最高の成績は9回の推測だった。私は7回が最高だ。6回を超えるのはなかなか難しい。きっとこれは私が禅に馴染めないからかもしれないが、そうでないものを考えても私は楽しくない。
Antiwordle は全く違った戦術を必要とする。推測の回数を伸ばすためには、個々の推測にできるだけ少ない数の文字を含めることが望ましい。そうすればその後の推測で残された文字の選択肢をできるだけ多く確保できるからだ。例えば MUMMY、CIVIC、TOOTS といった単語はたった3個の文字しか使っていないのでどれも良い単語だ。けれども、いったん文字がヒットし始めれば、たちまち普通の Wordle の世界に舞い戻って、運が大きな役割を果たすことになる。例えば SHA_E という形で残れば SHAVE、SHAME、SHARE、SHAPE、SHALE、SHADE、SHAKE という選択肢があり得るので、あとはその中から選んで正解に的中しないことを祈るだけだ。
Absurdle
もし、Antiwordle が提供するよりももっとボット上の人間的な競技相手を望むなら、Absurdle を試されたい。ここ迄に取り上げた Wordle 変種の全てと違い、Absurdle は前もって答えを知らない。代わりに、Absurdle はあなたの推測を評価し、そして答えの可能性を最小限にしようと試みる。それは Wordle の反対である - Absurdle は答えに到達しようとするあなたの努力を邪魔すべく積極的に働く。
勿論、あなたは Absurdle をじわじわと追い詰めて、負けを認めさせることが出来る:問題になるのは答えを引き出すために利用しなければいけない数多くの推測である。私が Absurdle をやるのは、嫌なことがあり、苦情を言わないボットに対して八つ当たりをしたい時である。
Squabble
複数プレイヤーの Wordle 競技で他の人間を相手にしている時に、誰がボットを必要とするであろうか? それが Squabble の背後にある考えで、あなたに Wordle パズルを二つの競技モードで解かせてくれる:Blitz と Squabble Royale である。Blitz では、2-5 のプレイヤーと競う;Squabble Royale では、6-99 のプレイヤーと闘う。. Squabble はリラックスからは程遠い。と言うのも正しい推測は他のプレイヤーにダメージを与え、間違った推測は自分がダメージを受ける羽目となるからである。加えて、1秒毎に1ダメージを受けるので、出来るだけ早く正解を出したい。私は Squabble を数回やっただけである - 私はその種のストレスを人生の中で必要としない。Squabble は大型画面機器上でしか働かないし、これをキーボード無しでプレーするのは私には考えられない。
Waffle
Waffle は 5x5 のグリッドを持ち Squareword の様に見える。違いは、Waffle にはグリッドに4つの穴があり、推測する単語の数は6となる。何もない所から始めるのでは無く、Waffle は必要とする文字の全てを提供し、正しい場所にあるものは緑に、間違った場所にあるものは黄色にマークする。言葉をタイプするのでは無く、文字をドラッグして回り、他の白や黄色の文字と入れ替えて全ての言葉を完成させる。全ての Waffle ゲームは 10 手で解けるが、15 手迄に解かなければならない;終了した時点で残った手の数に応じて星を貰える。私は Waffle が伝統的な Wordle ゲームよりもリラックス出来ると感じている。何故ならば、それは自分の頭の中にある言葉のリストを検索して合うものを探すというよりは、パターンを見つけるという性質のものだからである。
Semantle
次は、全く違うものを! Semantle は毎日一つの標的となる言葉を一つ出してくるが、これ迄の他のゲームとは異なり、意味が近い言葉を推測することでそれを見つけ出す。それぞれの推測に対して Semantle はあなたがどれだけ近づいたかを点数で教えてくれる。言葉の種類やスピーチの一部に関しては制限はないので、もしその言葉が QUIET である場合、WHISPER と推測すれば少々近いが、SILENT ならばもっと近いであろう。
Semantle に関わる問題は、始めるには何か適当な言葉を与えなければならないので時間がかかることである。私の最も早い解でも 24 の推測を要したし、144 の推測を要するものもあって、その時は本当に頭にきそうになった。
Mathler, Nerdle
もし言葉よりも数字の方が考えやすいと言うのであれば、Mathler と Nerdle が良いと思われる。Mathler は一つの数字を与えそれを解く数式を基本的な Wordle の規則に従って書くように求める。Nerdle は数式全部を等号を含めて解き明かすことを求めていてより難しい。演算の順序は重要であり、足し算、引き算の前に、かけ算、割り算をしなければならない。Mathler の方が少し易しいが、それは行き先が分かっているからである。私にもこれらのパズルは解けるが、数字よりも言葉の方を好む人間として、その過程は心から楽しめるものではない。
Worldle, Globle
Worldle は二重の言葉遊びに対して点数が得られる。それは基本的には Wordle 規則に従うが、全てを画像マッチングゲームに翻訳する。ここで画像は国や地域の形である。皆さんはどの程度地図を知っていますか? 推測をすると - 助かることに、Worldle は国や地域の名前を自動補完する - Worldle は近さに対して 1 から 5 の点数を与え、どのぐらい離れているかをキロメーターで、方向は答えの方角を指す矢印で教えてくれる。6回以内の推測で答えを出す。
Globle は似た様な手法を使い、毎日一つの国を当てるよう質問してくる。しかしながら Worldle とは違い、Globle は一回の推測に対して双方向の地球儀上に近さに応じて4段階の色づけをする。Globle の本当の問題は国の名前を自動補完しないことである (iOS キーボードからの提案は助けにはなるが)。Kyrgyzstan を一回目で正しくスペル出来たら大したものである。推測は必要なだけ出来るが、それはただ単に無知のつらさを長引かせるだけかも知れない。
地理的な知識を改善するのに役立つとして Worldle が好きだと言う友人もいるが、私はどちらのゲームもイライラがつのると感じる。とりわけ、問題の場所が一つの島の場合は。皆さんは、Tuvalu と Faroe Islands の間の違いが分かりますか?
Heardle
30 才以下で、何時もポピュラー音楽をストリームしているのでない限り、Heardle をやってみようとは思わない方が良い。Heardle は Name That Tune ゲーム番組からヒントを得ている。この番組は 1952 年にラジオに登場し、1953 年にはテレビに移り、それ以降 Marvel のスーパーヒーローよりも何度も復活してきた。それは、"ここ 10 年間で最も多くストリームされた曲" にある曲のイントロの一部を再生し、その曲名を6回の推測で当てるよう挑戦してくる。少なくとも、タイプし始めると提案はしてくる。私が失敗した時、そして試す度に完全に失敗してきたのだが、私は問題の曲を知らない事を自覚するだけでなく、その歌手を聞いたことすらなかったのである。曲を 1970 年代と 1980 年代のものだけに限定出来れば楽しいかも知れないが、そうでない限り、Heardle には我が家から出て行って欲しい。
Framed
映画に関心がありますか? 本当に 、関心がありますか? そうであれば、 Framed にも勝ち目があるかも知れない。それは映画から個別のフレームを切り出し伝統的な6回推測で立ち向かう。要するに、それは Name That Film である。私は映画愛好家ではないので、Framed を解こうとする試みは全て恥辱の内に終わった。私は見たことのない映画でも題名は知っているが、それがどの様に見えるのかは全く分からず、それに Framed はヒントもくれない、その映画からの更なるフレームだけである。
他の Wordle にヒントを得たゲーム
調べている内に、私はもっと多くの Wordle にヒントを得た推測ゲーム行き当たった。私が完全に当惑させると思えたものを挙げると:
この記事の終わりだと思っていた所に近づきつつある所で、私は Wordles of the World と言うのに遭遇してしまった。それはサイトで、それを Wordle の様なゲームの包括的なリストにするという試みを持ち、(これ迄の所) 762 のゲームと 149 の言語の資源を列挙している。私はもうそろそろ横になりたい気分である。まあ、簡単な Wordle のゲーム一つぐらいはやっても良いかも。
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暗号通貨は誰もの口に上るものだが、誰も仮想ポケットに入れてはいけないものだ。過剰に宣伝された架空の価値のストレージだが、現金の持つあらゆる不都合を備え、過剰に宣伝されたベニー株と同じ不安定性を持ち、中規模のヨーロッパの国一つと同程度の電力を消費する。追跡不能で、匿名で、政府の手が及ばないと声高に自慢するが、そんなことは事実ではない。法執行機関は暗号通貨を使って犯罪組織を解体したり 、児童性的虐待素材をやり取りする者たちを止めたり 、 大量の Bitcoin やその他の通貨を差し押さえたり してきた。
かつては私も暗号通貨こそテクノロジーと金融における最も胸躍らせる重要な革新の一つだと思っていた。国境を越えられる斬新なパワーを持ち、民主主義の国で提供されているものすらも越えたところにある個人的独立の手段を提供し、強欲な、搾取的な、時には腐敗した金融機関からものの価値と所有権とを切り離すもののように思えたからだ。
それから数年が経ち、私の考えは一時的に皮肉な立ち位置へと変わった。以下で議論するように、暗号通貨が主張する約束と利益は結局一つも具体化されなかった。その代わりに、この分野は誇大宣伝と詐欺へと退化し、その最も熱心な参加者は、詐欺師であれ真の信奉者であれ、ただひたすらにできる限り多くの現金を仮想通貨に注入させることのみに専心するようになってしまった。そう、まさにここで当てはまるのが「デジタルなポンジ・スキーム」(自転車操業型の投資詐欺) に他ならない。
現時点での私の最重要のアドバイスは「暗号通貨を買ってはいけない」ということに尽きる。現存のいかなる暗号通貨システムも、既存の金融機関や金融市場と比較して関与すべき価値を認められるレベルの投資的、ヘッジ目的、あるいはその他の金融的な利益を提供できていない。
けれども私はさっき「一時的に皮肉な」と述べた。それは、現在あるシステムにどんなに悪いところがあったとしても、暗号通貨の基盤となる原理についてはできる限り多くのことを学ぶべきだと思うからだ。現在私たちが目にしていることの少なくとも一部は、主流の金融の中へいずれ取り込まれることだろう。そこには友人に送金したり、店頭やオンラインで購入をしたり、株式投資をしたり、プロジェクトのために募金をしたり、さらには家を購入したりといった幅広い活動が含まれる。それらすべての取引を、不変な、検証可能な取引記録の中に包み込むことは可能なのだ。
暗号通貨に参加するのは避けるべきだが暗号通貨をしっかり学ぶべきだと言うのは矛盾しているように聞こえるかもしれない。でも、安全についてもっと知っておくべきあらゆる種類の危険な、あるいはリスクを孕む行為に対してそれと同じことが当てはまるのではないか。
今後数年以内に、複数の国の政府が公式な形で暗号通貨を発行することになる。そこには米国も含まれる可能性が高い 。中国は既にデジタル人民元 を実用に移している。郡書記官などの政府機関が現在管理している財務記録に加えて、販売、購入その他、監査可能な記録を要する価値交換の詳細を記録した恒久的な台帳が登場することになるだろう。
私企業や非営利団体、政府機関なども、暗号学的に検証可能な出資記録の手段を作り出すことで意思決定に参加しようとするだろうし、個人もまた、それに基づいて投票の権利を得たりその他の形で政治に参加するようになるかもしれない。これは株式を持つことに似ているけれども、中間に介在する者が少ないことで、あなたが意見を表明する際の妨げが少なくなる。
ここで述べたことはいずれも、決してテクノロジーの未来を語ったものでも誇大宣伝でもない。すべてが今日既に何らかの形で存在しているのだが、ただそれが多くの場合、あやふやだったり、信頼性を欠いていたり、不正に管理されていたり、詐欺的であったり、あるいは権力による監視を目的としたものだったりというのが実情だ。一時は人気を集めたテクノロジーであった Gopher や FTP のように Bitcoin もいずれ消え去るかもしれないが、暗号通貨は必ずや生き残る。今日の金融取引の圧倒的大部分が既に電子的に行なわれているけれども、それはあまりにも場当たり的で検証不可能なやり方でなされているので、何かもっと良いものがぜひとも必要だ。
今の私たちは、あまりにもリスクが大きい (または単に初めから邪悪な) 公的な投機的プロジェクトと、私的な、または政府による低炭素で妥当な程度に測定可能なブロックチェーンに基づく個別目的のための正当なプロジェクトとをしっかりと区別する必要がある、そんな時代へと移行しつつある。
(私は著書 Take Control of Cryptocurrency のために調査したり改訂作業をしたりしながら、暗号通貨の核心に関する知識をたくさん学んだ。この本は、実際の投資を勧めることなく暗号通貨について理解を深めるための方法というこの記事と共通する話題についてずっと深く掘り下げている。)
暗号通貨の基本を理解する
経験のない人に暗号通貨を説明する際に、いつも私はその方法に困ってしまう。そこには現金、デビットカード、株式など他の種類の金融商品や、さらには日々の生活には類似物がないようなものまで、さまざまのものとの境界を踏み越える事柄が含まれるからだ。
ではまず、私たちがよく知るものと暗号通貨が似ている点や似ていない点をざっとまとめてみよう:
紙幣: 暗号通貨のユニットには紙幣と同様に、個々に番号が付けられており、金融機関を経ることなく手から手へと渡すことができる。ユニットの価値はその本質の一部として定められている。取引は匿名に準ずる。つまり、誰かから誰かへの価値の流れを追跡することは不可能とは言えないまでも困難だが、額が膨大で法執行機関の手にかかるとなれば話は違う。けれども暗号通貨が紙幣と違う点もあって、必ずオンラインシステムを通じて渡されなければならない。加えて、Bitcoin など一部の暗号通貨は価値が急激に変動しやすく、そこがほとんどの現代社会における現金と大きく違っている。
デビットカードの取引: 暗号通貨を使えば、常にお金を送信することになる。明細書とか、請求書とか、引き落とし処理とかは存在しない。言わば、デビットカードを使うことに少し似ている。どこかにある台帳 (例えば銀行の記録) に記されて保管された価値 (例えばあなたの預金) からの電子的取引で、受取人がそれが正当なものだと確認できる形で送信される。それでもなお、暗号通貨における“台帳”は銀行のような中心的な場所に保管されている訳ではなく、どのような取引がなされたかについてお互いの同意に基づく、分散型の同意として存在するものなので、たとえ何かがおかしくなっても苦情を申し立てる相手はどこにもいない。
株式所有: 多くの意味で暗号通貨は株式と似ている。会社の株を所有することで、その会社の真の価値と将来の収益への心情が組み合わさった潮流に乗ることができる。会社が困難な時期に直面したり、悪い噂が立ったりすれば、株式の価値は激しく上下する。株式は仲介業者を通じて通貨と交換でき、その逆もできる。暗号通貨は株式と同様に価値が変動するけれども、それは基盤となる何かを反映している訳ではなく、単なる市場の認識による変動だ。株式のように何か“会社”があってその価値や業績が“株価”に反映されたりはしない。
パスワード: 本質的に、暗号通貨は秘密を知っていることに依存する。所有権を証明したり、暗号通貨でいくらか支払ったりするためには、あなたのみが知っている暗号化鍵が必要となる。けれどもコンピュータやオンラインアカウントのロックを外すために使うパスワードと違って、鍵があっても何かへのアクセスが得られる訳ではない。その鍵は証明のために使うのみだ。あなたの所有権はすべて、その証明から来るものだ。
以上のことを念頭に、暗号通貨それ自身とは何かを考えよう。真の意味でそれを理解するためにはかなり高度な内容を学ぶことが必要となるけれども、基本を述べるためにはほんの少しの説明で済む。暗号通貨とは、所有権を検証するために他の方法 (例えば物理的所有や、伝統的な金融機関のデータベースの項目など) でなく、暗号技術を使う金融商品だ。暗号通貨を購入する際には、その取引が永続的な、分散型の台帳 (すなわちブロックチェーン) に書き込まれ、暗号法的アルゴリズムを用いてその記録が永続的で、不変で、公開され、誰もが検証できる状態にされる。
これはフルに分散型のシステムなので、暗号通貨は政府あるいは他の単独の組織がユニットを発行することを要しない。その代わりに、暗号通貨は合意のメカニズムに依存しており、参加者はいかなる個人をも団体をも信頼する必要がない。ブロックチェーンには“真実”が含まれる。つまり、もしあなたの記録が台帳に記録されていなければ、もしあなたが所有権に関係した暗号化の秘密鍵を生成できなければ (昔からある“鍵をなくした”状況だ)、あるいはもしその取引が検証できなければ、あなたは事実上その暗号通貨を所有していない。そうなれば、残高が残っている銀行預金にアクセスできなくなるようなものだ。それも永久にそうなる。暗号通貨を管理している中央権力のようなものは存在しないので、クレジット会社に課金への申し立てをしたり、裁判所の命令によって銀行に口座の凍結を解除させたりといったタイプの異議申し立てをする相手はいない。
Bitcoin はどのように機能するか
断然高い価値を持っている暗号通貨である Bicoin の、4つの大きな部分を書いておこう:
一連の人々 (マイナー ) が、およそ 10 分間程度の短い期間、自発的に競争して、干草の山の中から針を探すような数学的パズルを解く。最初にそのパズルを解いたマイナーが勝者となり、一定量の Bitcoin を受け取る。個々のブロックごとに一人のマイナーのみが勝ち、他のすべての努力は廃棄される。それからパズルがリセットされ、再び競争が始まる。マイニングの大多数は多額の資本を投資した少数のマイニング会社の手でなされている。
ピア・ツー・ピアの、独立に運用されているソフトウェアサーバ (ノード ) のネットワークが、記録されるのを待っている取引についての情報と、最近解かれたパズルと、ネットワークやシステムの状況についての情報を交換する。
一連の取引はマイニングを通じて暗号法的に結びつけられた形 (ブロック ) となる。マイナーは、マイニングパズルを解いた際にブロックを作成し、自らの解をノートへ送信する。
完了した取引のすべてを記録した不変の台帳は、マイニングパズルが解かれてノードに受け入れられる度に新たな項目を含んだブロック1個ずつを加えて成長する。(ブロックチェーン )
実際に Bitcoin がどのように機能しているかを理解するための一つの方法は、Bitcoin による支払いを、チップベースのカードや Apple Pay などのモバイル支払いシステムと比較してみることだ。カードベースの取引は次のように進行する:
支払いを促されると (店頭で面と向かってする場合も、ブラウザやアプリでモバイル支払いをする場合も)、カードまたはモバイルデバイスがネットワークを通じて暗号技術を使った応答確認を実行し、支払いを認証するとともに、その支払いネットワークが受け入れる固有の情報を作成する。あなたがカードを持っていること (店頭の場合) または生体認証による承認 (例えば Face ID) がその取引が正当なものであることを証明する。
売り主は、支払いがなされたことを示すデジタル通知を受け取る。
その支払いシステムが管理している台帳の中で、取引された金額があなたの記録の借方に記載される。それは、クレジットカード会社が管理しているクレジットカード台帳に記入されるかまたはあなたの銀行口座から引き落とされるかし、それから支払いネットワークを通じて電子的記録として売り主の口座に振込額として伝えられる。
システムを通じてさまざまの方法で手数料が徴収される。多くの場合それは売り主の負担となり、さまざまの額が支払い処理業者や、支払いネットワーク (例えば Visa や Discover)、あるいはその売り主の銀行に支払われる。
後になってもしその支払いが拒否されれば、売り主が支払いネットワークに対して苦情を申し立てることができる。もしあなたが購入したものに不満を覚えれば、課金または借方を取り消して、銀行またはクレジットカード業者を通じて返金してもらうこともできる。
Bitcoin の支払いでは、全体としては同じような過程で進行するけれども、実際に進行するアクションはかなり違っている:
誰かの Bitcoin アドレスを入手する。(普通の人も多数のアドレスを持っていることがある。) アドレスの提供には、プレーンテキストや QR コードなどいろいろな手段が用いられる。
ウォレットソフトウェアを通じてそのアドレスに送金する。取引にかかる手数料は、マイナーにあなたの取引をパズルブロックに含めさせるよう促すためのものだ。ウォレットソフトウェアは基本的に、あなたの所有権を証明しそれをノードにアップロードするため適切にフォーマットされた取引を作成する際に必要となる暗号化の秘密を保持している。
ノードはあなたの取引をネットワーク上の他のノードへ送信する。これはピア・ツー・ピアのネットワークなので、ノードは絶えず取引を受信したり送信したりしている。
その取引はすべての未処理の取引を集めた貯蔵所の中に浮遊し、さまざまのマイナーのソフトウェアがパズルを解こうとする際にその取引を含めてよいだけの手数料が伴っていると判断するまでの間はそこに留め置かれる。
あなたの取引を取引ペイロードに含めてくれたマイナーがパズルを解けば、その取引が書き込まれたブロックが配布される。
他のノードはそれぞれ独立にそのブロックを検証した上で、それぞれのブロックチェーンに追加する。
受取人は、ブロックチェーンに最近追加された項目を調べることでその取引がブロックチェーンに追加されたと確認できる。ウォレットソフトウェアが、この処理を自動化する。
新たな Bitcoin のユニットはマイナーによってのみ作成され、作成できる Bitcoin の量には上限がある。その上限は 4 年ごとに半減する。現在の報奨金はブロックあたり 6.25 Bitcoin だ。Bitcoin ユニットを Satoshi と呼ばれる極小のユニットに分割することができるが、これは 1 億分の 1 Bitcoin だ。例えば $5 はおよそ 0.000124 Bitcoin つまり 12453.05 Satoshi に相当する。
マイナーたちはその Bitcoin ユニットを使って他の人に Bitcoin で支払いをすることも、あるいは暗号通貨交換所で現金に交換することもできる。これらの交換所が、Bitcoin 市場のために決定的に重要な換金性を提供する。Bitcoin なり他の暗号通貨なりを政府の発行した通貨に進んで交換したい者がいなければ、Bitcoin は完全に閉じたシステムになってしまうだろう。交換所は暗号通貨を保持し売買するリスクを負う。交換所独自のアルゴリズムと他の交換所での価格に基づいて、それぞれの交換所は Bitcoin を売り買いする価格を決定する。暗号通貨の交換は国際的な為替業務と類似していて、両替に際して手数料を徴収する。多くの人々が Bitcoin の購入を望めば価格が急激に上昇することもあるが、販売できる Bitcoin は大量にある。他方、Bitcoin と引き換えにドルを欲しがる人が多ければ価格は急下落する。交換所は、旧来の銀行や政府の中央銀行と違って保持できる現金の量が比較的制約されているからだ。
Bitcoin のアルゴリズムはおよそ 10 分間ごとのブロック作成と歩調を合わせるメカニズムを提供する。このように速度を定めることで、ピア・ツー・ピアのネットワークに過度な負担がかかることを防ぐとともに、取引に“癒し”の時間を提供して、十分な時間ブロックチェーンの中に留まることでセキュアに保存されるようにする。(これにより、不変性を保ちつつ下で説明する 51% 攻撃に対する防御の役にも立つ。) マイナーたちが計算能力を増すにつれて、数日ごとに Bitcoin システムは彼らが解かなければならないパズルの難度をリセットする。増強された計算速度はこの難度因子によって効果的に相殺され、10 分間ごとのリズムへとリセットされる。負荷を掛けた努力を要求するこのやり方は proof-of-work と呼ばれ、捏造が不可能なので信頼の基礎となる。多大な努力のみがパズルを解くことができ、近道はないからだ。
Difficulty は 2009 年に 1 からスタートした因子だ。
難度が常時調整されることで、マイナーたちには競争相手により多くの報奨金を取られないためにさらに高速の設備に投資することが要求される。この戦略の結果としてますます多くのエネルギーが費やされるようになり、まさに行く先の見えない赤の女王の競走 が繰り広げられる。成果は変わらないにもかかわらず、電力消費と環境コストが難度とともに増して行く。マイニングが経済的な意味を持ち得るのは、マイナーたちが機器や設備や電力にかける費用が、平均的に、彼らが報奨金として得る Bitcoin の価値を下回る場合のみだ。
急な変動は時として起こる。例えば Bitcoin の価格が急下落したり、中国の政府がマイニングを禁止したりといったことがあって、採算性が失われマイニング機能をオフラインにせざるを得ないこともある。そのような場合には難度が低いレベルにリセットされる。けれども一般的に言って、難度はずっと上昇し続ける傾向にある。
Ethereum と NFT
Bitcoin の弟分が Ethereum (その通貨は Ether ) だ。1 Ether は 1 Bitcoin のおよそ 8% の価値があり、暗号通貨交換所での流通 Ether のフル市場価値は Bitcoin のおよそ半分だ。Bitcoin と違って、Ethereum は現金に代わるものとして作られたのではなく、マイニングできる Ether の量の上限も定められていない。Ethereum ネットワークは単純な値の転送をすることが可能で、実際それが最も頻繁に使われている。けれどもそのパワーは スマートコントラクト にある。これはネットワークベースのプログラムで、入力を受ければ走る。極小サイズの仮想ソフトウェアコンテナのようなものだ。スマートコントラクトは入力された支払いを受け入れてそれを分割するための複雑なルールを許容できるが、さらにもっと高度な目的のためにも使える。例えば decentralized autonomous organizations (DAOs、分散型自立組織) は所有権、投票、投票結果を定義するスマートコントラクトを設定するグループだ。アイデアとしては良いが、そのようなグループが存在するのは主として既存の規制構造の外だ。ただし詐欺 ,や攻撃 ,や管理ミス に巻き込まれた 場合は別だが。また、Ethereum は分散型アプリ (dApps) にも対応する。まだ実験的段階だが、Ethereum ネットワークを汎用の分散型コンピュータとして利用するものだ。
さらに Ethereum は、もう一つ知っておくべき要素も有効化する。今やメディアの至る所で騒がれている、NFT つまり non-fungible tokens (非代替性トークン) だ。NFT はブロックチェーンの項目でもあるが特別のやり方でフォーマットされていて、通貨タイプの値を付随させることなく作成することが可能だ。NFT はブロックチェーンの中に存在することでその唯一性が確立され、実質的にシリアル番号の付いたトークンとなる。例えばサイン入りの野球カードとか、コンサートのチケットなどにも使われている。
説明すると、代替可能な資産とはそれに類する他のすべてと同一のもの、例えば一つの銀行の口座にあるドルは他のどの銀行の口座にあるドルとも同一だ。対照的に、非代替性のものは同じものとの交換ができない。現実世界においては、非代替性のものとして芸術作品、不動産、収集物などが考えられる。
NFT はその基盤となる資産に所有権を授与するものではない。例えば著作権、ライセンス許諾、物理的な品物の所有などとは異なる。これは単にポインタが一つの URL を指しているだけのものだ。いったん NFT が設定されれば、その URL は決して変更できなくなる。NFT は不変だからだ。だからこそ人々は冗談で「右クリックして NFT を盗む」と言うのだ。ほとんどの NFT は公開されたウェブページ上にホストされた画像を指しており、右クリックして Save Image As を選ぶだけでローカルにダウンロードできる。
Bitcoin は“プログラミング可能”でないので NFT をホストすることができない。だから、多くの NFT が Ethereum に基づいているのが現状だ。けれども、NFT を発行するためだけに作られた新しい暗号通貨もある。トークンとして、NFT は任意の値段を付けて販売されることができる。暗号通貨のユニットのように価格が固定されている訳ではない。
最も頻繁に報道されている NFT の利用法は、猿やライオンの醜いグラフィックスを繰り返し写真に撮ることだ。面白くないことこの上ないと思うが、NFT とはあらゆる種類のものに対する唯一性と譲渡可能な所有権を提供することができるものだ。
さて、これで基礎を済ませたことにして、ここからは暗号通貨を巡る誤った通念について検討し、その後で暗号通貨がどこへ向かうのかを考えよう。
暗号通貨の誤った通念
暗号通貨の擁護者たちや促進者たちは、ともすればその欠点を言い繕ったり無視したりしがちだ。そんな人たちも、また騙されやすいテクノロジーライターたちも、まるで暗唱するかのように暗号通貨の利点を並べ立てる:
匿名である。
追跡できない。
非集中的だ。
不変のものだ。
不変であるのは良いことだ。
インフレを誘発しない。
常に資産価値が上がる。
クレジットカードより安価に取引ができる。
政府による支配から解放される。
環境問題が解決する。
安全だ。
シンプルだ。
これらの言葉がすべて見当違いで、誤っており、誇張されていて、補足説明や但し書きの必要なものであることの理由を、私ならいくらでも長々と説明することができる。でもここではその代わりに、ほんの数個の段落だけでこれらを打ち倒すことができるかやってみよう。
匿名であり、追跡できない。 暗号通貨の取引は公開されたブロックチェーンに依存しており、誰でもそのブロックチェーンを見て独立に認証することができる。これこそ、分散型の信頼の基礎をなすものだ。誰か他の人を信用する必要がなく、暗号学的に一致する記録をチェックするだけで済む。その結果として、時系列的に取引を追跡してそれがアドレスからアドレスへ移って行くのを把握できる。Chainalysis などの会社がこのことに特化している。だから、Bitcoin やその他のメジャーな暗号通貨は匿名に準ずると考えておく方が良い。人の身元とアドレスは別のものだが、関連付けることは可能だ。(いくつかの暗号通貨、例えば Monero などは不可逆の匿名性にずっと近いものを提供しているが、そういう取引はあらゆる取引の中のごく小さな一部分に過ぎない。)
Transactions tracked to make a US federal case
不変のものであり、非集中的だ。 ブロックチェーンは不変なものとして設計されているけれども、それはマイニングが真の意味で分散化されていることを前提としている。マイニングネットワーク全体にわたる計算能力の少なくとも 51% が一つの団体ないし裏取引によって制御された場合、あまりにも多くのブロックが計算量に依存する結果としてチェーン自体が反転されてしまうことがある。すると二重支払が起こり得る。つまり、あるブロックに属する暗号通貨のユニットが、受取人が既に手を下しているのに無効となる。(例えて言えば、現実世界のエスクロー預託をしたり、デジタル資産の所有権を譲渡したりといったことに相当する。) その種の陰謀が動き出せば、他の人たちが取引をブロックチェーンに記録してもらえないような事態も起こり得る。これは理論上の話ではなくて、実際に何度か起こったこと だ。
多くの暗号通貨と、どうやらほとんどあらゆる NFT プロジェクトは、高度に中心的な所有者を持っている。一つないし少数の団体が、システム全体とそれが向かう方向とを制御する。ずっと多くの人数の人々が関係している場合にさえ、その多数を制御する少数者が効果的な制御を及ぼすことがある。例えば 2016 年に起こった大規模な DAO 破綻は参加者たちに 1 億 5 千万ドル相当の損害を及ぼしかねないものだったが、Ethereum グループの中核たる Ethereum Foundation が介入して Ethereum のルールを書き直し 、盗難を無効化した。結果として Ethereum にハードフォークが起こり、その移行に反発する人たちがスピンオフとして Ethereum Classic を生み出した 。また、販売の所有権を管理するソフトウェアであるウォレットでさえ、ベンダーたちが共同で働くことで、不変であるはずの項目がウォレットの開発者による妨害 の結果どこにも登場しなくなる可能性もある。
不変であるのは良いことだ。 一般的場合の話としては、ブロックチェーンは不変だと論ずることもできる。けれどもそれは常に良いことだろうか? 不変性は、一つの意味で過大評価されている。クレジットカードで購入をすれば、カードのルールによって、カードを発行した銀行によって、あるいは国や地方の政府によって、あなたはさまざまな保護を受けている。クレジットカードの取引は不変ではないので、詐欺や虚偽表示、その他のことへの対応として取引を取り消すこともできる。(銀行は取引の取り消しをカバーするために残高を凍結したり、引当金を要求したりすることもあり得る。) けれども暗号通貨の取引にそのような保護はない。
また、ブロックチェーンはあらゆる種類のデータを保存したり指し示したりすることができる。将来のブロックチェーンはもっと大量のデータ、例えば法的契約、メディア、ソフトウェアのソースコードなども完全な形でコード化して含められるだけの予備容量を伴うようになるかもしれない。ならば、例えば CSAM の“リベンジポルノ”や、極めて個人的な詳細情報、さらには盗まれたソフトウェアなどがブロックチェーンに恒久的にコード化されて含まれてしまったならばどうだろうか? 特定の種類の損害に関してはブロックチェーンを自分のコンピュータに保持することも、さらにはその一部を見ることさえも事実上違法となってしまうかもしれない。その種のことは単にまだ法的に定められていないというだけのことだ。
インフレを誘発しないし、常に資産価値が上がる。 一時期には、暗号通貨を経済学的・政治的に促進しようとする者たちが Bitcoin やその他のものはインフレーションに悪影響を受けないと主張していた。インフレが進めば、購入できるものに対する通貨の価値が下がる。暗号通貨はそれに対抗するために、現実世界の通貨との両替比率を調節することで切り下げを埋め合わせることができると論じられていた。それは、世界経済の歴史の中で既存の経済全体がインフレーションの最も低かった時期に言われていた巧妙な論点であった。そしてインフレーションが進んだ去年、言われているようなことは起こらなかった 。実際には、暗号通貨は全体的に非常に値動きが大きく、2019 年以降何度も大規模な急騰や急落に見舞われて、簡単には何の結果も論じられなかった。
組織内では、Bitcoin も Ethereum もそれぞれの基本ユニットの急騰に歯止めをかけようと試みた。Bitcoin はコインの総数に上限があるように作られていたし、Ethereum は上限はなかったけれども 2022 年 8 月に変更を実装して個々の取引にその複雑度に応じた量の Ether を“燃やす”(つまりその価値を恒久的に破棄する) ことで、伸び続ける Ether のデフレ効果を予防しようとした。
クレジットカードより安価に取引ができる。 Bitcoin の初期の売り込み文句の一つは、取引を実行する際にかかるコストがほんのわずかの米ドルに相当するものに過ぎず、クレジットカードでのおよそ 3% もする手数料よりはるかに安価だというものであった。そのお陰で少額取引も可能になり、ブロガーに数セントだけ送金したりミュージシャンに数ドルだけ送金したりできるようになると宣伝された。でもそれは長続きしなかった。
Bitcoin も Ethereum も 1 分間あたりに処理できる取引の数が限られているので、取引をブロックチェーンに書き込んでもらうためにはマイナーに支払う手数料が大きな意味を持つ。この圧力の結果として Ethereum 取引にかかる費用が 2021 年には取引の規模にかかわらず何十ドルにも達する ようになった。Bitcoin の手数料はそれより低かったが 、それでも平均的に数ドル程度の状態が続いている。(既存の暗号通貨の上に別のブロックチェーンを重ねることで 秒あたりの取引数を増やそうと試みた人たちもいた。けれども不安定な基礎の上に安定した基盤構造を構築しようとすれば必ず多くのリスクが伴う ものだ。)
それに加えて、Ethereum は取引の実行のコストに結び付けた 燃料費 も徴収する。あらゆる Ethereum 取引は、計算リソースを消費するプログラムと等価だからだ。複雑なスマートコントラクトは、単純な価値転送に比べて膨大な量の燃料を必要とすることがある。この燃料費が天文学的な額に達して、実際に取引される金額を大幅に上回ってしまうこともあり得る。その上、取引がどの程度の燃料を必要とするのかあらかじめ正確に知ることはできない。もしもウォレットが十分な燃料費を含めずに取引を転送すれば、燃料費が没収された結果取引がブロックに追加されなくなる。両方からの悪いところ取りだ! (回避策としては燃料費を多めに送るしかなく、余った分は取引の出力と共に返金される 。かつては燃料費がマイナーに支払われていたが、上に述べた理由でそれは 2022 年 8 月に“燃やされ”た。)
単純な ENS Domain フォームに入力して .eth ドメイン記録を更新してもらう費用。手数料は $0 だが、燃料費が $201.18 かかる。
結果として、独立宣言書のコピーを購入する共同プロジェクトが失敗に終わった場合、返金を受けるための料金が参加者たちにとっては当初の寄付額より高くなってしまう といったおかしな状況が起こる。そういった事態は実際よくあることだ。
環境問題が解決する。 暗号通貨は現実に環境にとって最高度に破壊的な影響を持つ。Bitcoin は中規模のヨーロッパの国一つが必要とすると同程度の電力を消費し、それは決して良い結果を迎えない。Bitcoin の価値は、それをマイニングするために必要なエネルギーの量に見合わない。1 Bitcoin をマイニングするために必要な電力は 1 ワットから 1 ギガワットにまで達する可能性がある。実用的な目的では、マイニングのコストには資本コスト、運営経費、電力消費などの結果として実質的な上限が伴う。マイナーたちはブロックに留まるために、コストを上回る Bitcoin を得ようと懸命に努める。けれどもたとえ Bitcoin の価格が現状の購買能力の十倍に急騰したとしても、マイナーたちは競って可能な限りのパワーを得ようと上向きの競争を続けるだろう。これに比べてクレジットカードのネットワークは 取引あたりの効率が百万倍も高く 、取引数が増えても徐々に拡大するだけで、足並み揃えて無闇に前進しようとはしない。取引量が十倍になっても、ハードウェア設備や電力消費を十倍にすることを要しないのは、基盤インフラ投資のほとんどについて言えることだ。
Bitcoin と Ethereum も、それに続く他の暗号通貨の大多数も、特定の計算を必要とするアルゴリズムを要求するので、ネットワーク全体で毎秒どれだけの計算操作が実行されるかを推定することは可能だ。Digiconomist はこの方法やその他の方法を使って、Bitcoin と Ethereum を合わせて年間 80 から 320 テラワット時を消費していると推定する。この数字は、ベルギーと英国の年間消費電力 の中間程度に相当する。
また、マイナーたちは文字通りハードウェアを焼き切る。その結果としてこれより生産的な目的に使われるチップが世界的に不足し、ほぼリサイクル不可能な電子廃棄物が膨大に生み出されている。Digiconomist の推定によれば Bitcoin のマイニングの結果として年間 34 キロトン (7 千万ポンド) の機器が廃棄されており、これはオランダ全体の IT 廃棄物と同じ規模だという。
促進者たちは暗号通貨が“グリーンな”世界への道である理由として2つのことを挙げて説明しようとする。まず、Ethereum は複数年をかけた Ethereum 2.0 への移行の最終段階に近付いていると思われ、こちらはエネルギー効率の高いアルゴリズムを使っていてリソースが急激に変化してもそれに応じてうまく調節できるという。新しいプロトコルは proof-of-stake に依存していて、どれだけの計算量が必要であるかでなく人々の Ether 所有権に基づいて新たな取引を認証するからだ。
もしも Ethereum 2.0 が成功して 、その重大な疑問点や大きな懸念が払拭されたならば、Ethereum のエネルギー消費を 99% 以上も減らすことができるかもしれない。そうであったとしても、たとえ 100 倍効率的になったとしても、例えば Visa カードでの費用に比べて数倍のレベルで悪い。何年も前に約束されたこの移行は、いつもあと数か月後と言われ続けてきた。実際、ほんの数日前に、最新の移行達成目標が... 数か月後へと更新された ばかりだ。
暗号通貨擁護者の多くは、マイニングの世界が再生可能資源への移行を計画していて (既にある程度進行中だという話もあって) 最終的にはカーボンニュートラルになるはずだと論じる。石炭と天然ガスから Bitcoin をマイニングする代わりに、太陽光や風力を使ったり、地熱発電や火山のエネルギー を利用できたらいいじゃないか、と言う。それらは素敵なアイデアだが、そもそもこの地球は閉じたシステムであって、再生可能な発電装備や自然から得られアクセスできる再生可能なエネルギーを利用したとしても、それで余剰の生産力が生まれる訳ではない。懐疑論者たちはこの議論をグリーンウォッシング (偽善的な環境保護) と呼んで、現実は全然違うものなのに高潔な削減のみを言い広めていると非難する。
製造して稼働させることのできる設備の量は有限なので、いかなる“非生産的使用”(暗号通貨の生産サイクルのために燃やし尽くすこと) も、他の目的のための設備容量を減らすことを意味する。マイナーたちが再生可能な工場を作るため大量の太陽光発電その他の設備などを購入すれば、それはたちまち GPU や SSD の供給不足を招き、他の発電所が汚れた電力を使わざるを得なくなる。そうでなければ、世界の他の部分が破壊をもたらさないやり方へと進む一方で、彼らだけは最も汚れた電力を使い続けることになる。
政府による支配から解放される。 この記事の始めのところで、私は各国政府が暗号通貨の追跡をうまくできるようになっていて、最近にはそれを差し押さえできるところまで来ていると述べた。米国司法省は 2016 年の Bitfinex 交換所への大規模なハッキング関連で (2022 年 2 月 8 日の評価で) 36 億ドル相当の Bitcoin を差し押さえた。差し押さえの額としてはそれが最高だが、それ以外にも何十件もの差し押さえがあった。4 月 4 日には米国政府がフロリダ在住の詐欺師と疑われる人物から 3 億 4 千万ドル相当の差し押さえをした し、4 月 5 日にはドイツ政府が 2 億 5 千万ドル相当を差し押さえ 、今年の 3 月には額は不明ながらオタワの中心街を占拠した者たちからの寄付金が差し押さえられている 。(Josh Centers は prep を主題にしたの彼のサイト Unprepared に、暗号通貨を政府に対する回避策として述べた入念な分析記事 を書いている。)
安全だ。 擁護者たちは暗号通貨は投資するにも所有するにも安全なものだと言うだろうが、その反証としてここでは単に Molly White の "Web3 is going just great " サイトを通読されることをお勧めしたい。そこには詐欺や、rug pull や、hot potato や、フィッシングや、機能不全やその他の昔ながらの詐欺や経営破綻などに新たな衣を着せた事例が、いつ終わるともしれず並べられている。(Rug pull (ラグを引っ張る) とは、プロジェクトのために資金を集めておいてすぐさま約束を果たすことなく資金を持ち逃げする詐欺のことだ。Hot potato とは、知識のない人を標的にして新しい通貨を思い付き、その人に鞄を預けるが、実はその中にはお金が入っていないというものだ。)
シンプルだ。 ここまで読んでこられた方なら、この主張がヒステリックな笑いを誘発する理由をもうお分かりだろう。
暗号通貨はどこへ向かうのか
ここまで、暗号通貨がいかに無意味で、壊れていて、詐欺にまみれたものだと語っておきながら、いったいどうやって私は暗号通貨が金融システムの未来を形作るその一部となるなどと論じられるのだろうか? それは、暗号通貨には数多くの素晴らしいアイデアが含まれていて、もっと頼りになる、信頼できる、有益なやり方にすることが可能だと思うからだ。そのような目標を実現するためには、理想化された当初のやり方のままでは誤りであったと証明された原則のいくつかを変更する、新しい暗号通貨が必要となる。
まず第1に、いくらかの中央集権化の要素があれば、政府の手を一切借りることなく暗号ベースの取引を劇的に向上させ、匿名性とかプライバシーとかを誇張せずに身元確認を秘密にすることができるだろう。ソフトウェアの開発者や暗号通貨の作成者を信用する代わりに (誰も信用しないと主張しつつ)、より厳しく検査できる他のものを信頼するのだ。完全なる分散化という概念は明らかに理想主義者の夢に過ぎないものであって、現実には最も極端な皮肉屋が予想した通りに問題あるものであることが示された。つまり、大多数の暗号通貨がほんの少数の人々の手に掌握され、その人々が大量の資金をかき集めているというのが現実だ。この記事で述べてきた通り、匿名性についても同じことが言える。
第2に、いかなる新しい暗号通貨も、取引の手数料の上限を定めそれを制御して予想可能な低いレベルに抑えられる方法を提供する必要がある。主張されていた利点は現実には存在しないことが分かったからだ。クレジットカードシステムの手数料は米国では平均して 3% 前後だが、そういうものや、他のもっと費用のかかる個人対個人の受け渡しや送金システムなどと比べてずっと手数料の安い決済システムを想像してみよう。Bitcoin や Ethereum の問題点を学んだ新しい暗号通貨システムの中には、現により多くの数の取引を処理することで圧力を減らし、より安価な取引を実現しようとするものもある。
第3に、詐欺を減らすことが重要な目標であるべきだ。既存の暗号通貨はエコシステムの至る所に (プロトコルの原理にも、ウォレットソフトウェアにも、スマートコントラクトにも、消費者向けの暗号対応財務ウェブサイトにもある) 攻撃可能な弱点を持っている。例えば、Cory Doctorow はスマートコントラクトについて 「理解するには複雑過ぎ、コーディングの誤りにも影響されやすいことでただただ不安定性を作り出しており、詐欺師を引き寄せる存在だ」と述べている。不変であることにより、更新が不可能で、バグの多いプログラムを永遠に使い続けなければならない。クレジットカードのシステムも決して比較対象とすべき模範とは言えない。2020 年だけで 3 百億ドル近くを詐欺のために失い 、今後もその額は増加が見込まれている。緊密に制御された秘密こそが暗号通貨の核心なので、詐欺と盗難を減らせる可能性こそが消費者や、銀行や、企業にとっての大きな利点となる。
第4に、政府によって管理された暗号通貨があれば、説明責任や、詐欺への抵抗力や、テロリズム資金・マネーロンダリング・金融犯罪への関与に対する保護を減らすことなく、国境をまたいだ商取引を扱いやすいものにしてくれるだろう。(European Union の外では) 外国へ資金を送金するのは時間と費用がかさむのが普通だ。とりわけ少額の取引はやりにくい。例えば経済移民や国境をまたぐ労働者は家族に送金しようとすると 5% から 8% 程度もの送金手数料を取られる ことが多く、送金額の総計は 500 億ドルを超えている 。
第5に、将来の暗号通貨は組織化された構造を許容し、公的に取引された企業でないプロジェクトでもあなたの出資金がそれに応じた議決権を与えるようになるべきだ。(多くの会社は集中化された所有者を持ち、別途に議決権株式さえ持っていて個人や小規模の所有者の努力を希薄化している。) このことは現在既にスマートコントラクトを使って購入と出資金を結び付ける分散型自立組織 (DAO) で実現されている。DAO は表向きには有効化された投票と公記録、直接に執行可能な成果を提供することになっている。現実にはまだその理論にまで到達していないが、特定の種類の組織についてはスマートコントラクトが果たすべき役割があるかもしれない。
より規制され、変動しにくく、おそらく政府に支援を受けた暗号通貨の最も初期の実例の一つが stablecoin (ステーブルコイン) だろう。ステーブルコインは、ドルやユーロなどの不換通貨とペッグした暗号通貨だ。既存のステーブルコイン、例えば Tether の USD のようなものは、彼らの主張によれば USD と米ドルとの間に 1:1 の比率での換金可能性を保証できるために資産を売買する幹事会社に依存して機能する。(Tether による準備金の主張は、この会社が名目上 8 百億ドル以上の余剰のステーブルコインを所有していることでその真偽を強く問われている 。Tether は必要な額のほんの一部の現金と流動株しか所有していないかもしれない。)
現状でのステーブルコインは独自のブロックチェーンを持っておらず、既存の暗号通貨のブロックチェーンの上にある特別な種類の取引として構築されていて、環境破壊や処理速度などその基盤に存在する問題点を解決できていない。ステーブルコインの運用者は資産を管理し新たなステーブルコインを発行する必要があるので、管理自体は最上部のレイヤーで中央集権化されている。けれどもいったん発行されれば、ステーブルコインのユニットは他の暗号通貨と同じになり、中央の管理の手を離れて自由に取引される。
米国やその他の国の政府は既に、それぞれ独自の非暗号的台帳を使って電子的資金を追跡し始めている。米国連邦準備銀行 は 2022 年 2 月に、21.8 兆ドルある通貨供給量のうちたった 2.2 兆ドル (およそ 10%) ほどしか紙幣や貨幣として流通していないと述べた。
では、米国が管理するステーブルコインと、連邦準備銀行によるる現金記録との間にどんな違いがあるのだろうか? それは、暗号学的妥当性と取引の追跡だ。その前者は非常に望ましいけれども後者は原則的に避けたいと思う人もいるが、政府にとっては両者ともに有益だ。取引の追跡ができることこそ、中国政府がデジタル人民元を推進するための重要な理由であった。
プライベートな、または招待のみで参加できるブロックチェーンならば米国債に連動したステーブルコインを駆動できることだろう。プライベートなブロックチェーンであって出資者たちが内部的に信頼を維持するものが今やますます人気を集めつつある。米国政府がデフォルトに陥ったことはないので、政府がプライベートなブロックチェーンを運営して米国債ステーブルコインを駆動する役割を担うことは可能かもしれない。また、米国のクレジットユニオンが合同企業体を作ってステーブルコインを運営する許可を与えられ、バンキング業務を拡張し、手数料を減らし、ローンや貸付の公正な利率を提供するという自らの使命をさらに一歩進めることも十分想像できる。
そのステーブルコインを普通の人たちが手にしたり使ったりできるようになるまでにはまだ何年もかかるかもしれない。その代わりに、いろいろな機関の間でセキュアに価値を転送して、それぞれの目的のために、あるいは消費者やビジネスの必要のために使えるようにするための方法として実現される可能性もある。例えば、家を購入することを考えてみよう。そこでエスクロー預託を使う代わりにステーブルコインの取引をすれば、暗号を使ってお金が手から手に渡ったことの保証が与えられ、銀行からの電話や手紙に頼る必要がなくなる。(あるいは、昔を覚えている人にとっては、不愉快なほど高い額面の支払い保証付き小切手が要らなくなる。)
暗号通貨の利用が広まることに対処するため、国々はそれぞれの法律を更新する必要に迫られるだろう。まず手始めに、財産に関するあまりにも多くの判例が存在している状況では、暗号通貨の不変性に対処するための法律の変更が必要となる。裁判所は資金が一つの場所から別の場所へ行き、その際に銀行システムを使うことを命令するかもしれないが、既存の暗号通貨に対して裁判所は何の権威も持っていないのだから。
それでも、私が誰か他の人に送金をしたり、オンライン購入で支払いをしたり、販売した品物の代金を受け取ったりする必要が生じる度に、古びて老朽化した金融システムが、安全と確実さのために暗号を使う現代的なやり方を利用するようになればどんなに良いだろうかと思わずにはいられない。
未来の暗号通貨がどのようなものになるのかを断言するのは難しいが、当面は冒頭に書いたアドバイスを繰り返すだけにしておこう。注目しつつ、学ぼう、でも投資してはいけない。
この記事に興味を持って頂けたなら、このことのほとんどあらゆる側面についてもっとずっと詳しく述べた私の本、Take Control of Cryptocurrency をぜひお読み頂きたい。
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