AI (人工知能) 分野の新顔についてお聞きになった方もおられるだろう。愛想良く会話してくれるチャットボットの ChatGPT だ。元 Apple 開発者であった David Shayer が、ChatGPT とは何かについて、さらに重要な点としてそれが何でないかについて調べる。Apple は衝突事故検出を改良した iOS 16.1.2 を静かにリリースし、Microsoft は Office アップデートが macOS 11 Big Sur かそれ以降を必要とすると発表した。それから Adam Engst が、Apple が実装予定の Advanced Data Protection for iCloud (iCloud の高度なデータ保護) 機能を検討する。これは、iCloud でより多くのデータタイプに対してエンド・ツー・エンドの暗号化を提供するものだが、それと引き換えにあなたがパスワードを忘れてももはや Apple があなたのアカウントを復旧することはできないということを意味する。今週注目すべき Mac アプリのリリースは 1Password 8.9.10、Pixelmator Pro 3.2.2、Fantastical 3.7.5、Boom 3D 1.4、EagleFiler 1.9.10、それに Tinderbox 9.5 だ。
今週は、記事にするには短過ぎる 2 つのニュースをまずまとめてお伝えしたい。TidBITS 会員で Apple Pay を使って会費を払おうとしている方々にクレジットカードの有効期限の日付が誤って表示されることがある理由の説明と、私に恐怖心を起こさせた Apple Music Sing 登場のニュースだ。
Apple Pay の取引に誤った有効期限が表示される
私たちのサポート担当 Lauri Reinhardt が最近、数名の TidBITS 会員を当惑させたマイナーなミステリーを解決した。TidBITS に会費を払うために Apple Pay を使った際に、更新のための支払いに失敗したという電子メールが TidBITS のシステムから届いて、クレジットカードの有効期限として誤った日付が示されていたのだった。支払いに失敗する原因でよくあるものの一つはカードの有効期限が切れていることなので、日付が間違っていたのは人々を仰天させた。
Lauri が発見したのは、Apple Pay のトークン化プロセスが私たちの支払い処理業者 Stripe に実際のカードの有効期限を伝えていないという事実だ。その結果 Stripe は、従って私たちが TidBITS アカウントの管理に使っている Paid Memberships Pro プラグインは、トークン化されたカードに対して一見ランダムな有効期限の日付を表示していた。これは純粋に見かけ上の問題であって、取引自体はいかなる意味でも妨げられていない。
実際的な結論を言えば、あなたが TidBITS に会費を支払うために Apple Pay を使って、アカウント情報の中でカードのデータに付随する有効期限の日付が誤って表示されていても、取引に失敗したという通知が別途届かない限り何も心配することはない。取引に失敗したという通知が届いた場合は、別のカードを使ってやり直すか、または [email protected] 宛のメールで Lauri にご連絡頂きたい。その先のことは Lauri がお手伝いできるはずだ。混乱を引き起こしたことをお詫びするとともに、あらためて TidBITS へのご援助に対して感謝を申し上げたい!
この日付の不具合は、直接にカードで取引せずに Apple Pay を使うことの問題点として私が初めて経験したものだ。この点以外のすべての側面においては、Apple Pay によるトークン化はセキュリティを大幅に高めるという理由で良いことだと言える。
だから、Apple Music Sing が発表されて Apple Music 購読者が“世界中の最も歌いやすい数千万の楽曲”を声を合わせて歌えるようになると聞いたときの私の熱意の度合いをご想像頂けるだろう。もちろん、今月後半に利用できるようになるというこの Apple Music Sing 機能を大歓迎する人たちは多いに違いないし、もしあなたがそういう人なら、どうぞ大いに楽しまれるとよいと思う。でも私自身は、歌を歌うのはやはりプロたちに任せたい。
(この記事の最初のバージョンの中で、私は読者に向けて、この種の記事が役に立つと思うかどうかを尋ねた。そもそも Apple がすべてのユーザーに通知しているのだし、Apple がリリースノートで公表している以上の情報を私は持ち合わせていないからだ。そのアンケート結果でも、それに続いて寄せられたコメントでも、この種の記事を今後も続けて欲しいという声が圧倒的に多かったので、私はジタバタせず今後も続けることにした。)
もしあなたが macOS 10.15 Catalina で Microsoft Office を使っているのなら、Apple からセキュリティアップデートを受けられないこと以外にもう一つ、近いうちにシステムをアップグレードすべき理由がある。Microsoft が、同社のこの生産性スイートでアップデートを受けられるためには Mac が少なくとも macOS 11 Big Sur を走らせている必要があると発表したのだ。このシステム要件が適用されるのは Office for Mac 2019、Office for Mac 2021、および Microsoft 365 (2022 年 10 月 17 日の記事“Microsoft、Office を Microsoft 365 に名称変更”参照) だ。macOS 12 Monterey と macOS 13 Ventura にはフル対応している。
間もなく、自分の暗号化キーを Apple が保持していることに懸念を持つ人達は、その懸念から少し解放されるであろう。
Advanced Data Protection に参加する
Apple は iCloud に対する Advanced Data Protection を発表した。それは iCloud セキュリティに対するメジャーなアップグレードで、上記した9種のデータに対してエンドツーエンド暗号化を提供する。Advanced Data Protection は選択制である - 皆さんはそれを自らの意思で有効化しなければならない - と言うのも、それは Apple があなたのデータを復元出来ないようにするからである。それは理に適った妥協のように見える。何故ならば、自分のパスワードを忘れてしまい復元の手助けを Apple から必要とする人達は、ハッカーや法執行機関と問題を抱えそうに無いからである。
Advanced Data Protection を設定する時、代替する復元方法を設定するよう促され、例えばアカウント復旧連絡先や印刷された回復キーで、そして少なくとも一つは設定しなければならない。Apple は皆さんが自分のデータを失うのを簡単にはしていない。
幸いにして、それは一方通行の道では無い。もし iCloud Backup の様なエンドツーエンド暗号化に対する Apple の復元手助けの方を好むと決めたなら、データロス無しに Advanced Data Protection をオフに出来る。
iCloud.com Web アクセス: Advanced Data Protection をオンにすると、iCloud.com にあるデータへの Web アクセスは自動的に無効化される。何故ならば、Apple のキーが無効化されてしまっているからである。信頼されている機器を使って Web アクセスを戻すことは出来るが、iCloud.com へ訪問する度に信頼されている機器からの承認が必要であり、そしてその接続は普通にアクセス出来る iCloud.com データのみしか通さないし (例えば、Health はダメである)、時間も1時間に限られる。もし iCloud.com を多用するのであれば、Advanced Data Protection は手間がかかりすぎるかも知れない。
データ共有: メモ、リマインダ、そして iCloud Drive フォルダを共有する、或いは iCloud Shared Photo Library を使うのであれば、全てのデータは、エンドツーエンド暗号化されたままであり、全ての共有に関わるユーザーが Advanced Data Protection をオンにしていれば、参加者の機器のみの上で使えるようになる。Advanced Data Protection を使っていない人と共有するか、或いは共有する時 "リンクを持つ誰でも" 選択肢を使うと、それはそのコンテンツを Apple が管理するキーを使う Apple サーバーに対して使えるようにする。
協業: iWork 協業機能や Photos の Shared Albums 機能は Advanced Data Protection に対応しない。iWork での実時間協業は書類変更を調整するためにサーバー側での仲介を必要とするので、Apple はそれ等のキーを維持しなければならない。また Shared Albums は Web 上で公に共有されることがあるので、Apple はそのデータに対するキーを管理しなければならない。
メタデータ: iCloud インターフェースのためと最適化の理由から、Apple はさもなくば Advanced Data Protection によって守られた iCloud データ種に関連する幾つかのメタデータに対するキーを保持する。そこに含まれるのは、例えば、個々のバックアップに付随する名前、モデル、色、そして機器のシリアル番号、そしてそのバックアップに含まれるアプリとファイルフォーマットのリストである。Apple は、Advanced Data Protection にもっと多くのメタデータを含めるよう作業を続けていると言っている。.
Advanced Data Protection の要件と時期
Advanced Data Protection を有効にするには、あなたのアカウントは Apple ID に対して二要素認証が有効になっており、そして機器に対してはパスコードかパスワードが設定されていなければならない。Apple によると、生きた iCloud アカウントの 95% 以上が二要素認証を使っているという。(そして、もしあなたが iPhone に対して理解出来ない理由からパスコードを設定していないのであれば、直ちに設定すべし。お前のことを言っているのだよ、Alex。)
より大きな問題となるのは、あなたの Apple ID でサインインされる機器は全て iOS 16.2, iPadOS 16.2, macOS 13.1, tvOS 16.2, watchOS 9.2, 或いは最新版の iCloud for Windows にアップデートされていなければならないという Advanced Data Protection の要件である。それは、以前のバージョンはその機器上で新たに作られたキーを維持すべき事を知らず、そしてそれ等を Apple のサーバーにアップロードしようとして "アカウントの状態を修復しようとする誤った試行" と同社が呼ぶ状態に陥る。その結果、古すぎて必要なオペレーティングシステムバージョンへアップグレード出来ない機器全てで iCloud からサインアウトしなければならない。(この要件は、私にとっては使わない要因となり得る。と言うのも、私は数多くの古い機器を持っており、未だそれぞれに使い途がある。)
驚くことでは無いが、Advanced Data Protection は通常の Apple ID に対してのみ提供される。管理対象 Apple ID (業務のために使う従業員用、或いは教育用途の指導者や学生用) や子供アカウントはこの選択肢を有効化出来ない。
Apple によると、iCloud 用の Advanced Data Protection は Apple のオペレーティングシステムのベータを試験中の人には今、そして全ての米国のユーザーには 2022 年末迄には入手可となるという。その他の世界中のユーザーに対しては 2023 年始めから展開し始め、2023 年末迄には世界中で入手可となるかも知れない。
AI が今すぐプログラマーたちを失業に追いやることは考えにくいけれども、他の職業の多くについては AI の影響が差し迫っている。現状の非力なチャットボットを ChatGPT に触発されたシステムが置き換えて、顧客サポートを担当する生きた人間の係員たちの仕事を奪う日が来るのは間違いないだろう。もっとハイエンドの職業についても既に前兆は見えている。あらゆる種類の研究助手たちは、いずれあらゆる研究主題で (少なくともインターネット上で入手可能な主題については) 知識の現状を要約できるコンピュータプログラムによって仕事を奪われるかもしれない。“コンテンツファーム”のウェブサイトは既に GPT やそれと同種のものを使ってテキストを自動生成している。ならば、スポーツや映画、有名人その他について文章を載せる中間層的サイトで、速さと量と低コストを優先し、生きた人間のジャーナリストの手による品質と正確さと意見とを重視しないようなところも、いずれ同じ道を辿るのではなかろうか。さらには弁護士たちも、単純な日常の契約仕事を AI に奪われるようになるだろうか? (その答は間違いなくイエスだ。)
次なるステップは ChatGPT に音声を与えて、Siri や Alexa や Google Assistant と統合させ、口で話し掛けられるようにすることだ。最先端のコンピュータ生成音声は既にかなり良いものとなっている上に今後も継続的に改良され、いずれは人の話し声と区別できなくなって、コンピュータと話しているのかどうかがすぐには分からなくなることだろう。有名人の声もきっと人気を得るだろうし、安価な料金を払えば Google Assistant が Scarlett Johansson の声で話すようになる日が来るかもしれない。(Google は既に Waze GPS ナビゲーションアプリに有名人の音声を含めている。)
いったん音声インターフェイスができれば、多くの人たちが自分の AI を相手に長時間の個人的な会話をし始めることだろう。そこには必ずや、AI を相手に感情的な関係が生まれるだろう。(公平な指摘として、それは 1966 年にデビューした初代の ELIZA チャットボットを相手に人々がしてきたことだ。) コンピュータ科学者たちがいくら口を揃えて AI は賢くない、単なる統計的言語モデルに過ぎないと言って回っても、人々はフィーリングと願望と感覚性をもとに考えてしまうだろう。
このテクノロジーには良い利用法と悪い利用法の両方がある。年配の人々や閉じこもりの人たちには話し相手であり付き合う対象となるだろう。自閉症を持つ人たちには疲れ知らずの会話の相手となれるかもしれない。これは既に Siri で実現されていることだ。幼い子供たちは友好的な AI との間に不健康な共依存関係を作って、パパやママが夕食の席で AI とチャットさせてくれない理由が理解できず、毎晩ベッドに入っては AI と話をするようになるかもしれない。
The Pixelmator Team が Pixelmator Pro 3.2 をリリースして、大きな新機能を追加した。ビデオ編集機能だ。(なのでこのリリースは別名 Lumiere と呼ばれている。) 新たにビデオ編集に対応したことで、ビデオレイヤーをデザインに追加して、馴染みのある画像編集ツールを使ってそれを編集できる。新しいキャンバス上のコントロールを使ってビデオ再生を制御したり、ビデオの開始・終了フレームを指定したり、ポスターフレームを選んだりできる。Pixelmator Pro は MP4 および QuickTime Movie フォーマットに対応するとともに、アニメーション GIF および PNG など動的画像フォーマットにも対応する。この新しいビデオ機能の登場を祝って、Pixelmator Pro は期間限定で 50% 割引の $19.99 で販売されている。
このリリースではまた、Photos ブラウザから Live Photos を読み込んで、それを写真としてもビデオとしても編集できるようになり、Apple の Motion へ書き出す際にビデオレイヤーに対応するとともに RAW レイヤーをビットマップレイヤーとして開けるようになり、アラビア語のテキストが正しく表示されないことがあった問題を解消し、Super Resolution を使って画像をアップスケールする際にアプリが反応しなくなったバグを修正した。
当初の 3.2 リリースの後、Pixelmator は 2 件のメンテナンス・アップデートを続けて出した。バージョン 3.2.1 は Apple Pro Video Formats パッケージをインストールするとビデオを Pro Video Formats で開くことができるようにし、バージョン 3.2.2 はメニューバーから New from Clipboard を選んだ際に GIF や PNG のファイルが開かなかったバグを修正した。(Pixelmator からも Mac App Store からも新規購入 $39.99、無料アップデート、523 MB、リリースノート、macOS 11+)
Global Delight が Boom 3D 1.4 1.4 をリリースして、5.1 マルチチャンネルオーディオへの対応を追加した。このオーディオ拡張ユーティリティは今回、ゲームや音楽や映画から来る 5.1 サラウンドオーディオのすべてのオーディオチャンネルを空間化することで没入感のある仮想サラウンドを提供し、ヘッドフォン上で異なるオーディオチャンネルを明瞭に聴き分けられるようにした。5.1 ホームシアターシステムでは、Boom 3D がすべてのマルチチャンネルサラウンドスピーカー (Settings > General Preferences から利用できる) 上でステレオサウンドを再生できる。この新機能を祝って、Boom 3D は期間限定で Global Delight サイトからは $14.99 (70% 割引) で、Mac App Store からは $24.99 (50% 割引) でセール販売されている。(Global Delight からも Mac App Store からも新規購入 $49.99、50.4 MB、macOS 10.10.3+)