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#1652: OS アップデート、DPReview 閉鎖、LucidLink クラウドストレージ

アップデートの日がまた巡ってきた。Apple が現行のすべてのオペレーティングシステムにマイナーな機能更新アップデートをリリースして、iPhone での音質や衝突事故検出に対する改善、iCloud Shared Photo Library における重複チェック、Home 画面に追加したウェブアプリの通知、その他を加えた。また古いシステム iOS 15 および iPadOS 15 に対するセキュリティアップデートもある。悲しいニュースとしては古参の写真情報ウェブサイト DPReview が閉鎖すると決まり、親会社 Amazon の経費削減策の犠牲となった。プロの写真家 Jeff Carlson が、何十年にもわたってカメラやレンズのレビューを集めたインターネット上の大黒柱の情報源であったこのサイトへの尊敬の念を綴る。そして Adam Engst が LucidLink を検討する。これは革新的なクラウドストレージサービスで、Dropbox の慣習を打ち破り、クラウドネイティブのデータに対して同期ではなく直接のアクセスを提供するものだ。今週注目すべき Mac アプリのリリースは macOS Monterey 12.6.4 と Big Sur 11.7.5、Safari 16.4、Pixelmator Pro 3.3.2、Zoom 5.14、それに Default Folder X 5.7.6 だ。

Adam Engst  訳: 亀岡孝仁  

Apple、iOS 16.4, iPadOS 16.4, macOS 13.3 Ventura, watchOS 9.4, tvOS 16.4, HomePod Software 16.4 をリリース

iOS 16.4, iPadOS 16.4, そして macOS 13.3 Ventura に対する Apple のリリースノートが 21 の新しい絵文字を含んでいるという事実で始まっているのは奇妙だと思いませんか? 唯一の適切な対応と言えば、あきれた表情をして "どうでもいいけど" と呟くことで、自分の内部にいる十代を導いてやるぐらいであろう。

それはさておき、これ等のアップデート及び watchOS 9.4tvOS 16.4 は、世界を変える様なものではないが、殆どのユーザーにとって歓迎出来る幾つかの機能を提供している。驚くには当たらないが、HomePod Software 16.4 は単なる "全般的なパフォーマンスと安定性の改善が含まれます" である。私は、それが我々の第一世代 HomePod に関わるますます一般的になってきた問題に対処していることを願いたい。その問題とは、再生を再開する前に一、二秒の間無音になってしまうことである。

以下に説明する変更の幾つかが意味があると思えるのであれば、アップデートを遅らせるべき理由は見当たらない。他方、Apple のセキュリティ修正に遅れないようにしているだけなのであれば、実際に悪用されているものは今の所ないので、一週間ほど待って、予期せぬ副作用が現れないことを確かめてからでも遅くはないであろう。

共通する変更

変更の多くが二つかそれ以上の Apple オペレーティングシステムに適用される。

一部の人にとっては、Apple の "ホーム画面に追加したウェブアプリの通知" は歓迎かも知れないが、それは少々の解凍を必要とする。ウェブサイトがページの文脈の外で通知を生成するのを可能にする W3C 標準があり、皆さんも通知を送ることを希望するサイトに出くわしたことがあるであろう。Safari は - 更に Brave, Chrome, Firefox, そして Microsoft Edge も - Web Push をサポートするが、これ迄の所、それは Mac 上でのことに限られていた。

iOS 16.4 及び iPadOS 16.4 では、Home Screen に追加された Web アプリは (Share をタップ、下方にスクロール、そして Add to Home Screen をタップ)、今やネイティブの通知を表示する。我々が TidBITS Talk のために使っているソフトウェアである Discourse の様な Web アプリにとっては、これは重要なことである。これの前は、iPhone や iPad 上で新しいポストの通知を作動させることは出来なかった。TidBITS Talk メッセージの通知は多くの人にとっては過剰かもしれないが、私は Discourse をあまり通信量の多くない Finger Lakes Runners Club 討論フォーラムのためにも使っており、そこでは通知を即座に受け取りたいと思う。

iOS 16.4 Web app notifications

iOS 16.4, iPadOS 16.4, そして macOS 13.3 におけるもう一つの歓迎出来る変更は、Photos における重複チェックに対する拡大サポートである。Duplicates アルバムは今や iCloud Shared Photo Library にある重複する写真やビデオを検出する。

映画やテレビ番組の前の光の点滅についての警告について疑問を感じていたのであれば、それ等は光過敏症てんかんや他の光感受性 (偏頭痛誘因の様な) を持つ人達に対して注意を促すために存在している。Apple は iOS 16.4, iPadOS 16.4, macOS 13.3, そして tvOS 16.4 で更に一歩進めて、光の点滅やストロボ効果が検出されるとビデオを自動的に暗くするアクセシビリティ設定を加えた。iPhone や iPad では Settings > Accessibility > Motion > Dim Flashing Lights を、Mac 上では System Settings > Accessibility > Display を捜す。Apple TV 上では、それは Settings > Accessibility > Display or Motion にあるだろうと想像するが、捜し出せていない。乞うご意見。

今や三つの主要オペーレーティングシステム全部で、Weather アプリの地図に対する VoiceOver サポートを提供している。

Apple はまた iPhone, iPad, そして Mac に関係する二つのバグを修正した。子供からの Ask to Buy の要請が以前は親の機器上に現れないことがあり、小さな歯の歯ぎしりも聞こえそうである。Matter と互換性のある温調器を持っている人は、彼らの温調器が Apple Home.とペア付けした後反応しなくなることに不満を感じていたであろう。おお寒っ!

iOS 16.4 における iPhone だけの変更

恐らく最も重量なのは、Apple が、iOS 16.4 は iPhone 14 及び iPhone 14 Pro モデルに対する Crash Detection (衝突事故検出) アルゴリズムを最適化したと言っていることであろう。我々はもうスキーシーズンの終わりに近づいているが、運が良ければ、Apple はスキー場近くで緊急サービスコールが殺到する不正確な警告を解消しているであろう。米国では夏に向かって、我々はまた Apple が遊園地での同様な問題にも対応したことを望みたい ("ジェットコースターで iPhone 14 や Apple Watch が衝突事故を検出することがある" 10 October 2022 参照)。

この変更に皆さんは気付かないかも知れないが、iOS 16.4 をインストールすると通常の電話通話に対する Apple の Voice Isolation 機能を手にすることになる (それはこれ迄 FaceTime オーディオに対してのみ提供されていた)。それは機械学習を利用し周辺雑音を減らしあなたの声を優先する。それは電話する相手に対してあなたの声を聞きやすくするはずである。私はそれに対するスイッチを iOS 16.4 の中で見つけられていない - 思うにそれはデフォルトでオンとなっているのであろう。

最後にそして間違いなく最小だが、私がとてつもなく好む修正で、Apple は iOS のリリースノートを理に適うフォントサイズで表示する方法をようやく見つけ出したようだ。

iOS 16.4 release notes, at a readable size

iOS 16.4 における iPad だけの変更

繰り返しになるが、Apple は iPad に焦点を当てては大したことをやっていない。iPad 固有の変更は二つだけで、どちらも Apple Pencil に関係しており、一つは新機能で、もう一つはバグ修正である。

第四世代 11-inch iPad Pro 及び第六世代 12.9-inch iPad Pro を持つ人に対して、Apple Pencil ポイント機能に傾斜角と方位角の対応を追加したので、Notes 及び対応するアプリで書く前に、あらゆる角度での筆跡をプレビュー出来る。

Apple Pencil を持つそれ以外の人に対して、iPadOS 16.4 は Notes で描画中や手書き中に発生する可能性のある反応性に関する問題を修正している。

macOS 13.3 における Mac だけの変更

macOS 13.3 Ventura での唯一の Mac 固有の機能は、画像内の主題を際立たせるために Freeform で背景を取り除くための選択肢である。有用だと思われる。

Apple はまた Gujarati, Punjabi, そして Urdu キーボードに対する翻字サポートを追加した - Apple はインドでの販売と生産を増やそうとしており、これは同国に対する更なる焦点を意味しているのかも知れない。Choctaw, Chickasaw, Akan, Hausa, そして Yoruba に対する新しいキーボードは、アメリカ先住民やアフリカ言語をサポートする上で正しいことをやっていると言うことであろう。

最後に、macOS 13.3 は二つのバグを修正している:一つはトラックパッドジェスチャが働かなくなる問題、もう一つは VoiceOver が Finder を使った後反応しなくなる問題である。

watchOS 9.4

watchOS 9.4 は唯一つの一般的な改善を受けた:カバーして消音のジェスチャを使って目覚ましアラームを取り消すのはもう働かない。その理由は、眠っている間にアラームを間違って取り消ししてしまうのはあまりにもたやすいからである。

残りの変更は地域対応である。周期記録の過去に遡った排卵の推定と周期の偏差の通知が今や Moldova と Ukraine で対応。また、AFib History (心房細動履歴) が今や Colombia, Malaysia, Moldova, Thailand, そして Ukraine で使用可能に。

セキュリティアップデート

何時もの様に、沢山のセキュリティアップデートがある。Apple がそれ程多くの脆弱性に対応してくれていることに我々は感謝すべきなのであろうが、そもそももっと少ない所から始められる方がもっと良い。幸いにして、Apple はこれ等の中に実際に悪用されてものは無いとしている。

もしこれ等のアップデートで何らかの問題を経験したのであれば、コメントで知らせて欲しい!

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Adam Engst  訳: Mark Nagata   

iOS 15.7.4 と iPadOS 15.7.4 がセキュリティ修正を提供

ここで特に書き加えることはないが、Apple が iOS 15.7.4 と iPadOS 15.7.4 をリリースして 16 件のセキュリティ脆弱性を修正した。Apple によればそのうちで WebKit 脆弱性の一つは悪意を持って作られたウェブコンテンツによって iPhone や iPad が開放されてしまうというもので、これが実際に悪用されているという。なので、直ちに iOS 16 を走らせることのできない古いデバイスをお持ちの方にはこのアップデートをお勧めしたい。

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Jeff Carlson  訳: Mark Nagata   

Amazon、写真情報ウェブサイト DPReview を閉鎖

25 年の時を経て、DPReview.com のともし火が消えた。

この古参の写真情報サイト (DP は Digital Photography のこと) は 2023 年 4 月 10 日をもって終了すると発表した。その日以降、サイトのコンテンツは“一定期間のみ閲覧専用で利用できる”という。ここにはカメラ本体やレンズについて深く掘り下げたレビューに加えて、写真という分野にまつわるあらゆる事柄に関する記事がある。写真情報にかけては他に並ぶもののない資源だ。

DPReview home page before closing

なぜ今なのか? 他の多くのサイトとは違って、DPReview は生き残りのために大量の広告に依存したりはしなかった。Amazon が 2007 年に DPReview を買収し、その後は大体において独立のチームのような形で残され、どこの企業が所有しているのかさえ知らない人が多い状況になっていた。少数の広告を別にすれば、DPReview は誰かが製品を購入した際に (DPReview と Amazon は同じ企業傘下にいたけれども) アフィリエイト収入を得ており、またスポンサー付きのコンテンツ (例えばカメラの新機種についてのビデオなど) を取り上げることも時々あった。流行に逆らうかのように、すべてのサードパーティのコンテンツはいつも明確にそれと示されて公明正大に扱われた。

残念なことに、Amazon が親会社となったことが最終的に DPReview の息の根を止めた。発表の前日、Amazon は 2022 年 11 月に 18,000 人以上をレイオフしたことに加えて今回 9,000 人の従業員をレイオフすると明かした。また、この小売業者は経費を削減するため他のサービスも切り捨てた。例えばオンラインおよび印刷雑誌の購読サービス Kindle Newsstand などだ。DPReview の発表には「この困難な決断は今年になって親会社が発表した年間事業計画見直しの一部としてなされた」と記されている。

DPReview は大規模な意見交換フォーラムも備えており、4 百万ものスレッドの中で読者たちが 4 千 7 百万通もの投稿で豊かなコミュニティーを形成していた。フォーラムのメンバーはアップロードした写真やテキストをダウンロードするための要請ができるが、その期限は 2023 年 4 月 6 日までなのでもうすぐ終わってしまう。

発表の言い回しから察する限りでは、このサイトのコンテンツとフォーラムは 4 月 10 日終了後の“一定期間”が過ぎればいずれ削除されるようだ。その解釈が正しいかを確認しようと問い合わせてみたが、私が話した同社の担当者は何が起こるか知らないとのことだった。別の情報源から聞いた話では、現在サイトのエンジニアたちがこのサイトを書き出し可能にするよう作業を進めているとともに、コンテンツを保存するため Internet Archive と連係しようとしているという。Reddit へのある投稿によれば、Internet Archive の Archive チームがこのサイトのアーカイブを作るため活発に働いているところだという。彼らがすべてを取り込むことに成功するよう願いたい。

今回の閉鎖に伴って犠牲となったものがもう一つある。Chris Niccolls と Jordan Drake による、人気ある DPReview TV YouTube チャンネルだ。DPR のニュースが出てからほんの数時間後に、PetaPixel が 5 月からこの二人の新しい本拠地となることを発表した。

これらはすべて、多くの理由でがっかりさせられるニュースだ。私は 2017 年以来ここの寄稿者で、私の最も新しい記事 Pete Souza: In the West Wing and Beyond は、著名な White House 公式写真家 Pete Souza が本を出したときのインタビュー記事であった。

DPReview はウェブ上の数少ない 最も信頼できる資源 の一つであった。新しいカメラやレンズを買いたいと思っているなら、あるいは中古モデルを探しているなら、それについての徹底的な、客観的な、十分にテストされた情報がここで得られた。オンラインの小売業者 (とりわけ親会社の Amazon) は多数のレビューを掲載するけれども、正確さや出典に疑わしいところも多い。また、検索エンジンは信頼できる情報を得る目的ではほとんど使い物にならない。この分野で DPReview があまりにも素晴らしかったので、多くの写真サイトは詳細な機器レビューを載せないことが多くなってしまった。そういうレビューは既に DPReview が載せていると分かっているからだ。

正直言って、写真について DPReview ほどに詳細なやり方をしている他のサイトを私は知らない。消費者にとっても、写真を巡って登場しているさまざまのコミュニティーにとっても、これは喪失だ。それにまた今回のことは、大企業に買収されることは決して安全な避難場所ではなくて、人気あるサイトであっても消滅してしまう可能性が増すだけなのだということをはっきりと思い出させる。長年のオンライン出版者 Derek Powazek が Mastodon に書き込んだように、「この話の教訓: あなたのサイトをテクノロジー巨大企業に売り渡してはいけない、そんなことをすれば、結局あなたは厄介な一部分としか見られなくなるのだから。」

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Adam Engst  訳: Mark Nagata   

LucidLink、クラウドベースのストレージにおけるストリーミング構想を提供

Dropbox が Apple の File Provider へ移行する件(中でも、外部ドライブがサポートされなくなる件)に関していろいろ詳しく調べていた際に (2023 年 3 月 10 日の記事“Apple の File Provider、Mac のクラウドストレージに変更を強いる”参照)、メディア業界の人たちからのコメントが私にはほとんど経験のない話題に触れていて、とても興味を惹かれた。この人たちは 1 TB の内蔵ストレージで十分満足できる日常的ユーザーたちとは全く違う現実の中に住んでいる。ユーザー millifoo はこう述べた

私たちは巨大な外付けドライブでクラウド同期を使って、オーディオ/ビデオの編集で共同作業をしています。複数のロケーションで共同作業をする人たちがいる数多くのメディアハウスのためのワークフローは、ファイルがローカルにあることを必要としていますし (編集と再生の速度が重要)、クラウド経由の同期はそれを容易にするのみならず、大きな事故に備えてすべてのファイルをバックアップしてくれます。

Dropbox のプランでは 十分なストレージ容量が得られないと言う人たちもいた。Plus および Family プランは 2 TB を含み、Professional プランは 3 TB で、Standard チームプランには 5 TB が付く。それより多くのストレージが可能になるのはユーザーあたり月額 $24 の Advanced プランのみだ。いったいこのメディア業界の人たちは、どれだけ大きな容量を必要とするというのか? KyleKoch がこう語ってくれた

私たちの中にはメディアがローカルの場合 Dropbox が外付けドライブ上にあることが必要だという人たちが多いです。50 TB を超えるクラウドストレージを持っていれば、OS ドライブ上にある Dropbox フォルダの内部でビデオ資産を管理するやり方は全く意味を成しません。

ユーザー solldavid も同意見だった

私たちは Advanced プランを持っていて、Dropbox クラウドの中の資産が総計 200 TB を超えるところに達しています。それがすべて "online-only" で OSX Finder の中で表示可能、検索可能であり、フルバンド幅のダウンロードによって復元可能になっています。私に言わせれば、これは業界最高の製品です。そう、最小限 3 名の“ユーザー”が必要なのです。

残念なことに、話を元に戻せば、今回 Apple と Dropbox が及ぼした変更は私のワークフロー全体を脅かすものとなっています。大サイズのビデオ、GFX、あるいは 3D ファイルを遠隔にある複数のワークステーションの間で同期させ続けるためには、一度に 3-6 TB が同時にオフラインで利用可能となっているようにしなければならず、私たちは 2012 年以来ずっと外付け SSD を利用してそれをしてきました。それは私たちのワークフローの基礎となり続け、この上なく信頼できて、十分に高速でした。これなしに仕事をせよと言われたなら、私にはもうどうしたらいいのか分かりません。

さらにユーザー jmeredi2 はこう述べた

私たちはビジネス向け Advanced プランを 6 ユーザーで使っていて、そのために年額 $1,700 程度払っています。これは無制限プランなので、ストレージ量の上限に届きそうになる度に新たな容量が提供されます。残念ながら、今回の DropBox“アップグレード”によって、何とかして 30-40 TB の内蔵ハードドライブを持つコンピュータを見つけてこない限り、このやり方はもう続けられなくなってしまいました。

1 TB や 2 TB を超えるクラウドストレージが必要だという人たちならば何人も知っている私だが、上記のようなコメントを読んで、プロフェッショナルのメディア業界における要求がどれほど桁外れなものかを覗き見た気がした。この記事でこの話題を紹介したのは、私が上記の記事を出したすぐ後に TidBITS 読者 Steven Niedzielski が、彼の勤務する会社の製品 LucidLinkについて知らせてくれたからだ。この製品は、高パフォーマンスのメディアユーザー向けにストリーミングされたクラウドストレージを提供するという。私はもっと詳しく知りたいと興味を持った。たとえ、私を含む大多数の人々にとってそのようなシステムはやり過ぎに思えるとしても。

LucidLink はクラウドストレージを見直す

さきほど触れた私の前の記事の背景となったのは Apple の File Provider 拡張であった。これが、Box、Dropbox、Google Drive、Microsoft OneDrive などの“同期して共有”サービスに対して一貫したアプローチを提供する。

これらのサービスはすべて、概念的には比較的シンプルと言えるアーキテクチャに依存して動作する。あなたのファイルはすべてオンラインに保存され、ウェブインターフェイスを通じてアクセスできる。異なるオペレーティングシステムのためのクライアントソフトウェアが保存されたデータを同期するが、そのやり方にはフルコンテンツの同期 (offline) またはプレースホルダーのみを置く同期 (online-only) の2種類がある。作業を online-only のファイルに対してする場合には、そのファイル内容全部をダウンロードしてからでなければアクセスできない。追加・削除・ディレクトリ構造への修正を含むあらゆる変更はまずクライアントからクラウドへ同期され、その後接続された他のクライアントへも同期される。それらの変更のうち一部では diff のアプローチが使われ、一つのファイルの中で変更された情報のみが転送される。それ以外の変更ではファイルが丸ごと送られる。

ところが LucidLink はそのようには動作しない。Mac 上では MacFUSE に依存して LucidLink 独自仕様のクラウドネイティブなファイルシステム Filespace を標準的な Mac ボリュームとしてマウントする。(LucidLink は Windows や Linux でも利用できる。) ちょっと想像してみて頂きたい。Finder の中で普通の外付けドライブやネットワークドライブと同じように見えるものとやり取りできるのだが、その背後にあるのはクラウドネイティブなファイルシステムの中にあるデータなのだ。こうして、LucidLink からファイルを開くのは Mac の内蔵 SSD からファイルを開くのと同じやり方で働くが、ただデータの読み出しと書き込みは 256 キロバイトのブロックが単位となる。一方 macOS のローカルストレージではデフォルトのブロックサイズが 4096 バイトだ。

これが何を意味するかと言えば、LucidLink ではファイルを開く前に、例えば Dropbox で online-only ファイルを開く際に必要となるようなファイル丸ごとの同期が必要ないということだ。小さなファイルならば同期のやり方でも十分うまく働くけれども、メディア業界で一般的に使われるサイズのファイルでは、クラウドからファイルを取り寄せること自体に相当の時間がかかる。だからこそローカル版を保存しておくための大きな外付けドライブが必要なのだ。

私はずっと以前から、普通でないファイルシステムを Mac 体験の中へ取り込むには MacFUSE が優れた方法だと思っていたので、LucidLink が何をしているかを理解できた。けれども、私はすぐさま Niedzielski に、LucidLink はどの程度のバンド幅を要求するのかと尋ねた。きっと 1 Gbps ファイバー接続が必要だと言われるのだろう、でも本格的なビデオのプロフェッショナルならばそれくらいの接続性は持っているのだろうな、と思っていた。

でも彼の答えは違っていた。彼によれば、ビデオ以外の作業での実際的な最小限は下り 50 Mbps、上り 10 Mbps だという。理想的なビデオの世界でシームレスな挙動を要求するのならばそのビデオストリームのバンド幅に相当するものが必要だろうと彼は言い添えた。私はビデオをバンド幅の言葉で考えたことはないが、想像するに多ければ多いほど良いということなのだろう。ファイバー接続が望ましいということなのかもしれない。実地に試してみたレビュー記事で LucidLink が下り 230 Mbps でうまく動作したと述べたものがあったが、どうやらそれはプロキシのワークフローの話のようで、編集の大部分がサイズの小さなプロキシファイルでなされていた。遅延時間の少なさも重要で、それを LucidLink のインターフェイスが報告する。(2022 年 4 月 22 日の記事“Apple の networkQuality ツールを使って Internet 応答性を試験”参照。)

バンド幅は重要だが、Dropbox やそれと同様のサービスを使っている人ならばいずれにしてもそれだけ多くのデータをローカルに保存しているはずだ。また、LucidLink はパフォーマンスを高めるために高速のローカルキャッシュにも依存する。内蔵ドライブ上に 5 GB を使うのがデフォルトだが、外付けドライブに割り当て直して 10 TB まで増やすことも可能だ。その上、特定のファイルで作業すると分かっている場合には、それを“ピン留め”してあらかじめローカルキャッシュにロードさせておくこともできる。ピン留めされたファイルについても、LucidLink は diff で検出されたデータのみをブロックレベルでアップロードするので、小さな変更でファイル全体を転送する必要はない。

LucidLink のやり方の一つの欠点は、たとえピン留めされたファイルであっても、オフラインで作業することができないという点だ。本物の情報源はクラウド上にしかないので、作業する際にはインターネット接続を維持し続ける必要がある。ローカルキャッシュはただのキャッシュに過ぎず、ファイルの独立なコピーではないからだ。

LucidLink がキャッシュを使うやり方にはもう一つ欠点と言えることがある。Dropbox ユーザーの中には、その“同期して共有”のアーキテクチャをバックアップを提供するものと見なす人たちがいる。もちろん実際にはそうではない。それは、適切なアクセス権を持っているユーザーなら誰でも、うっかりと、あるいは悪意から、ファイルを削除してしまうことがあり得るからだが、ほとんどの状況の下で現実には複数個のコピーが手元に残るものだ。けれども LucidLink のローカルキャッシュではそれさえも提供されない。

しかしながら、LucidLink の Filespace ファイルシステムは APFS と同様の自動スナップショットを提供する。(LucidLink のプランによってはスナップショットのスケジュールをカスタマイズして作成できるものもある。) スナップショットはその時点におけるファイルの正確な状態を記録するので、削除したり、壊れたり、あるいは変更されたりしたファイルを簡単に復旧することができる。効率的に容量を利用するため、前のスナップショットとの間で変更されたブロック単位のデータのみが記録される。さらに良い点として、スナップショットは読み出し専用であり、バックアップを破壊しようと試みるランサムウェアの攻撃に対する防御も提供する。

それでもなお、LucidLink はバックアップ作成を奨励する。Niedzielski によれば、この会社は LucidLink を“ホットでアクティブな共同作業スペース”と考えており、ユーザーがすべてのファイルのコピーを別途維持しておくことを勧めている。それはローカルな NAS デバイス上に置いてもよいし、また Backblaze B2Wasabi のようなサービスを通じてクラウド上に置いてもよい。彼はまた、CloudSoda と呼ばれるデータ管理サービスを使って自分の LucidLink データを移して保護しているクライアントがいるとも言っていた。そういうものは本格的な企業レベルの機能だと言える。

LucidLink がビジネスの世界を対象としていることに疑問の余地はない。そこにはメディア業界の会社も、医用画像グループも、またゲーム開発チームも含まれるだろう。米国財務省でさえ LucidLink の顧客だ。もしもあなたが Dropbox、Google Drive、あるいは iCloud Drive で 2 TB のストレージを得るために毎月 $9.99 を払うのに躊躇を感じているのならば、LucidLink はあなた向きではないと断言できる。

でも、問題外だと言っているのではない。LucidLink の Basic Filespace プラン の料金は最大 5 名のユーザーまででテラバイトあたり月額 $20、追加のユーザーで一人あたり月額 $10 増える。つまり、コンシューマ向けサービスでその半分のストレージ容量に支払う月額料金の2倍だ。確かに高い料金だが、フリーランサーや小規模のオフィスにとって扱える範囲内ではあるだろう。Advanced Filespace プランの料金はテラバイトあたり月額 $80、こちらも最大 5 名のユーザーでの料金だ。こちらは Wasabi ストレージの代わりに IBM ストレージを使ってパフォーマンスを高め、スナップショットのスケジュールをカスタマイズして作成でき、single sign-on 統合を提供する。

LucidLink が実際 3 つの部分で出来ていることは言っておくべきだろう。Mac 上で走る LucidLink Client と、メタデータとスナップショットを管理する LucidLink Service、それに Object Storage、これは S3 または Azure に準拠したストレージシステムならば何でもよい。それだからこそ Custom Filespace プランが可能となる。これはテラバイトあたり月額たった $40 だが、自分で好きなストレージを選んで使うことができる。しかしながら他のプランで使われる Wasabi や IBM のストレージにはエグレス料金が付かないが、それ以外の多くのクラウドストレージプロバイダではデータを読み出す際にエグレス料金がかかる。大量のデータにアクセスする場合には、エグレス料金があっという間に予想を超えて積み上がることもあり得る。

LucidLink architecture

セキュリティの観点からは、LucidLink は“ゼロ知識”のアプローチを採用していると主張する。LucidLink Client はエンド・ツー・エンド (終端間) 暗号化を提供し、暗号化鍵を持っているのはユーザーのみだ。その上、LucidLink Service があなたのデータを見ることは決してない。見るのはメタデータのみだ。そして、ストレージプロバイダにあるデータはちゃんと暗号化されている。きちんと考え抜かれているように見える。

クラウドストレージに加えてごく基本的な共同作業だけを必要とする場合には、Dropbox、Google Drive、あるいは iCloud Drive から LucidLink に切り替えるべき理由は何もない。けれども、それらのサービスで限界を感じつつあるのならば、とりわけオーディオやビデオの作業で困難に直面しているのならば、LucidLink を調べてみる価値はあるはずだ。

より一般的に言って、見た目も感触もローカルなストレージと同じに思えるようなストリーミングによるオンラインストレージというものにはもっと大きな役割があるのではないかと今の私は思い始めている。もしも私たちが使うデバイスがいついかなる時もオンラインにある理論的には容量無制限のストレージにアクセスできるとしたならば、空き容量に関わる懸念がすべて過去のものとなることだろう。キャッシュを使うことは依然としてパフォーマンスの理由からも、おそらくは常時接続の必要性を緩和できるためにも有用であり続けるだろうが、それでも私たちには必要に応じていくらでも大きなストレージ容量が用意されていることになるだろう... もちろん、そのための料金を支払う用意があればの話だが。

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TidBITS 監視リスト: Mac アプリのアップデート

訳: Mark Nagata   

macOS Monterey 12.6.4 and Big Sur 11.7.5 Adam Engst

macOS Monterey 12.6.4 と Big Sur 11.7.5

Apple が macOS Monterey 12.6.4 と macOS Big Sur 11.7.5 をリリースして、それぞれ 24 件と 23 件のセキュリティ脆弱性をパッチした。これらのセキュリティアップデートは Monterey または Big Sur の走る Mac 上で Software Update を使ってダウンロードできる。これらの脆弱性が実際に悪用されたか否かについて Apple は何も言っていないが、私たちとしては早めにインストールすることをお勧めしたい。何か問題に気付かれたら、ぜひコメントで教えて頂きたい。(無料、サイズはいろいろ、macOS 12 と macOS 11)

macOS Monterey 12.6.4 と Big Sur 11.7.5 の使用体験を話し合おう

Pixelmator Pro 3.3.2 Agen Schmitz

Pixelmator Pro 3.3.2

The Pixelmator Team が Pixelmator Pro 3.3.1 を 3 月中旬にリリースして、最新の Mac、iPhone、および iPad モデルに対するフルにカスタマイズ可能なデバイスモックアップを提供するようにした。プレースホルダーの画像をあなた自身のデザインで置き換えたり、あるいはさまざまのシャドウスタイルや背景色から選んだりすることで簡単にモックアップをパーソナライズできる。

Apple device mockups in Pixelmator Pro 3.3.2
Apple device mockups

バージョン 3.3.1 ではそれ以外にも、Shortcuts での M4V ファイルフォーマットへの対応を改善し、Image Size メニューで画像をリサイズする際に Tilt-Shift と Focus ぼかしの効果が正しく動作するようにし、Sidecar ファイルや Sidecar 環境設定の処理を改良し、Color Adjustments 枠で Histogram が動かなくなったバグを修正し、Photos や Photos ブラウザで開いたファイルがファイルのメタデータを保持していなかった問題を解消し、書類を PSD ファイルフォーマットに書き出す際に起こったクラッシュに対処した。

それから一週間後に Pixelmator Pro 3.3.2 がリリースされて、カスタマイズ可能なデザインテンプレートの Book Club コレクションを新たに組み込んだ。テンプレートやモックアップにアクセスするには、Command-N を押して新規の書類を作成してから Templates ブラウザでカテゴリーを見て回ればよい。(Pixelmator からも Mac App Store からも新規購入 $39.99、無料アップデート、561 MB、 リリースノート、macOS 11+)

Pixelmator Pro 3.3.2 の使用体験を話し合おう

Zoom 5.14 Agen Schmitz

Zoom 5.14

Zoom が Zoom ビデオ会議アプリをバージョン 5.14 にアップデートして、Out of Office (不在) というステータスをセットする機能を追加した。今回のリリースではまた、挙手した参加者の可視性が強化され、クラウド記録でホストが手話通訳をキャプチャできるようになり、Zoom Mail に Dark モード対応を追加し、Team Chat チャンネルの所有者がそのチャンネル内での @all メンションの使用を無効化または制限できるようにし、没入型ビューで参加者の名前を表示するようにし、ミーティングで主催者が認識されない問題を解決し、画面を共有してローカルに記録する際の画面のちらつきに関するバグを修正した。(無料、98.8 MB、リリースノート、macOS 10.10+)

Zoom 5.14 の使用体験を話し合おう

Default Folder X 5.7.6 Agen Schmitz

Default Folder X 5.7.6

St. Clair Software が Default Folder X 5.7.6 をリリースして、Open/Save ダイアログを拡張するこのユーティリティが (システムが Light モードであっても) カスタムダークテーマを使用するアプリで正しくマッチするようにした。今回のリリースではまた、Finder-クリック機能がある状況下で無効になることがあったバグを修正し、ファイルダイアログで正しいフォルダに移動できなかった問題を修正し、macOS 10.13 High Sierra、10.14 Mojave、および 10.15 Catalina の下でも GraphicConverter と Luminar Neo の Save ダイアログに Default Folder X が表示されるようにし、Default Folder が走っている際に SpeedDock アプリがドックで間違ったアイテムを選択することがあったバグを回避した。(新規購入 $34.95、TidBITS 会員には新規購入で $10、アップグレードで $5 の値引、Setapp からも入手可、13.7 MB、 リリースノート、macOS 10.13+)

Default Folder X 5.7.6 の使用体験を話し合おう

ExtraBITS

訳: Mark Nagata   

Adam Engst

Intel 共同創立者 Gordon Moore が 94 歳で逝去

Intel が公式の Gordon Moore 追悼記事にこう書いている:

世界的な先駆者となった 2 つのテクノロジー会社の創立者として Moore の果たした役割が大きいことは言うまでもないが、それに加えて 1965 年に彼が示した集積回路におけるトランジスタの個数が毎年2倍になるという予測は Moore's Law という名前で知られるようになった。

「私が努めてきたのはこのメッセージを世に知らしめること、つまり一つのチップの上にもっともっと多くのものを詰め込むことによって、私たちはあらゆる電子機器をより安価なものにしようとしているということです」と Moore は 2008 年のインタビューで語っている。

彼の 1965 年の予想は正しいことが判明したが、1975 年に Moore は次の 10 年を見据えて集積回路におけるトランジスタの個数が2年ごとに2倍になるという予測に修正した。いずれにしてもチップテクノロジーの着想は指数関数的に成長して、電子機器を継続的により速く、より小さく、より安価なものへと変えつつあり、半導体業界を支える推進力となるとともに、莫大な数の日常的な製品の中にチップが普及するための道を開いてきた。

Silicon Valley の開拓者であった Gordon Moore やその他の人々が世界に及ぼした影響は計り知れない。Intel の別の記事がこの業界の巨人の人物像を描き出しているが、そこには今日のテクノロジー記事を支配する肥大した自尊心とはほとんど共通点が見つからないように思われる。Moore とは全く違った道を通ってその地位に到達した人物ではあるけれども、Tim Cook こそが現代のテクノロジー CEO の中で最も Moore に近い振舞いをしているのではないかと私は思わざるを得ない。

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