TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#332/10-Jun-96

今週は、SCSI トラブルに見舞われ散々だったが、データの完全破損という死 地から奇跡的に生還した記事達をお届けする。今週号では、Apple の出し たシステムソフトウェアの最新アップデートに関するニュース、 Gif*gIf*giF (スクリーン上の動きを GIF の動画として作成するための ユーティリティ)のレビュー、コンピュータ書籍の出版手順の長々とした 概観、そして、作家志望の人への各種アドバイスも網羅している。

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目次:


MailBITS/10-Jun-96

(翻訳::矢倉遠十吉 <oto@mb.infoweb.or.jp>)

TidBITS にとっては大変な一週間だった。私は、Internet Starter Kit for Macintosh の第 4 版の仕上げ段階で最後の産みの苦しみを味わいながら、 かろうじて息をつないでいる。そして、それだけでなく、Geoff と私の双 方に重大なディスクの問題が生じたのだ(ある瞬間、私が気に入っている 5 台のマシンのうち 4 台が一斉に重大なトラブルを引き起こし、そして Geoff はその日に彼が作業していたいくつかの MailBITS と記事を消失す るはめになった)。これらすべての問題が生じたことによって、この号を 配信するなかで特にオンラインサービスのいくつかに対しては、多少遅れ ることになるかもしれない。私はこのようなとき、多分何かしらコンピュー タの神様の機嫌を損ねることをしたのではないかと思ってしまう。そして、 もしいつもの豆腐のお供えが役に立ってくれるのなら有り難いのだが。 [ACE]

Email、苦難のアップデート -- Geoff はいまだ彼のハードディスク の問題を復旧しているところであり、彼もしくは <editors@tidbits.com> 宛てに送ってこられたメールに返事を出すのが遅れるということに理解を 示して頂くようお願いしている。私は、彼のことを記憶しているこの 10 年間というもの、 Adam がこんなにハードに働くのを見たことがなかった。 すなわち、言うまでもないことだが、彼宛てにきたメールへの返事はたぶ ん遅れるだろう。私は Internet Starter Kit の自分の担当した部分の作 業をしていた間に手をつけることができなかった 400 程のメッセージを整 理している段階なので、返事を出しているものの、それが片付くまでは返 事が遅れがちになる。 [TJE]


誰が Buster にうってつけ?

by Geoff Duncan <geoff@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

先週、Apple は System 7.5.3 へのパッチをリリースした。これは、コー ドネームを Buster といい、System 7.5.3 Revision 2 と呼ばれている。 (フロッピーディスク約 14 枚分で、システム構成への大きなアップデー トであり、Open Transport 1.1 のような新技術をもたらした)あの巨大な System 7.5 Update 2.0 とは違い、System 7.5.3 Revision 2 は、特定の 機種に対応するわずかな改良があるだけだ。System 7.5.3 に関してもっと 知りたい方は、 TidBITS-318 および TidBITS-325 を参照していただき たい。

対象 -- Apple は、今回のアップデートの対象が下記の Macintosh の ユーザーに限られているということを強調している。

Power Computing 社は、System 7.5.3 Revision 2 に対する評価をまだ終 えておらず、現時点では顧客への奨励は行っていない。しかしながら、 PowerCurve、PowerWave、PowerCenter および PowerTower のオーナーが、 自分たちのマシンと Apple がアップデートを奨励しているモデルの構成が 類似しているということを理由に、このパッチをインストールしたいと思 うのも無理のないことだと思える。DayStar 社や UMAX 社のクローンにこ のパッチをインストールすべきかどうかは、私には分からないが、Radius 社の初期のクローンは対象外になるだろう。

System 7.5.3 Revision 2 のインストーラーには、Remove(削除)機能は ないので、(いつものことだが ! )インストールする前に各自のデータの バックアップを取っておくようにしていただきたい。さらに、アップデー タは 2 枚のフロッピーディスクイメージで出荷されているが、System 7.5.3 の様々なインストールに完全に対応するようになっているのだ。もっ とも、多くのユーザーは 2 枚目のディスクの方は要求されないだろう。残 念ながら、U.S. バージョン以外の System 7.5.3 にSystem 7.5.3 Revision 2 のパッチがうまく当るかどうかはわからない。

解決されたこと -- System 7.5.3 Revision 2 で行われた最大の修正は、 PowerBook に関係するものである。何よりもまず、1.6.2 以前のバージョ ンの RAM Doubler を稼動させている PowerBook が正常にスリープから覚 める。以前は、これらのマシンは MacsBug がインストールされていなけれ ば( TidBITS-325 参照)、スリープから覚めることができなかった。さ らに、PowerPC アップグレードを搭載した PowerBook 500 および Duo 200 シリーズで PC ディスクを使用したりフォーマットしたりするときに起こ る問題も今回のアップデートで解決されている。これらのディスクは、今 後 DOS や Windows マシンで読むことができるようになる。さらに PowerPC アップグレードカードを搭載した PowerBook の総合的な性能も向上する。

そのほかには、コントロールパネルの Startup Disk で選択しておいたド ライブからの起動がうまくいかないという PCI 搭載の Power Mac でまれ に起こる問題も解決されている。

最後に、(Apple が「向上した信頼性」というあいまいな言葉を使ってい る)今回のアップデートのもっとも分かりづらい変更点は、最近の Mac の モデルに使用されている Dynamic Recompiling (DR) 68K エミュレータに 関ることである。このエミュレータは信頼性の高いものなのだが、このアッ プデートでは一連のはっきりとしない状況で起きたりし、時にはデータ破 損の原因になる問題を解決した。この問題はめったに起こるものではない し、下層で発生するものなので、どういった症状が現れるかを指摘するの は難しい。しかし、68K エミュレータは非常に広く利用されているので、 これは物陰に潜ましておくよりは解決したほうがよい問題である。

アップデートの入手 -- System 7.5.3 Revision 2 は、通常の Apple の サーバーからダウンロードできる。ほとんどのオンラインサービスや 2 〜 3 のサードパーティーのサイトにもある。

<ftp://ftp.info.apple.com/Apple_Support_Area/Apple.Software.Updates/ US/Macintosh/System/System_7.5.3_Revision_2/>

アップデートは、2 枚分のフロッピーディスクイメージから成っていて、 使用には DiskCopy または ShrinkWrap(こちらのほうがいいだろう)が必 要となる。

<ftp://mirror.aol.com/pub/info-mac/disk/shrink-wrap-201.hqx>

AppleVision モニターを使用している人は、System 7.5.3 Revision 2.0 をインストールする 前に AppleVision Fix 1.0 for 7.5.3 をインストー ルしなければならない。

<ftp://ftp.support.apple.com/pub/apple_sw_updates/US/mac/system_sw/ System_7.5_Update_2.0/AppleVision_Fix_1.0.hqx>

このアップデートをインストールする前に、System 7.5.3 をインストール しておかなければならないということは言うまでもない。System 7.5 Update 2.0(これは、System 7.5 のどのバージョンでも 7.5.3 へアップ デートできる)は、オンラインではApple から無償で手に入る。ただし、 System 7.5.3 へのアップデートの CD-ROM 版 やフロッピー版に対しては、 現在 Apple は代金を請求している。

<ftp://ftp.support.apple.com/pub/apple_sw_updates/US/mac/system_sw/ System_7.5_Update_2.0/>

関係の無い人と解決されていないこと -- あなたには、このアップデー トが必要だろうか? 私は Apple のアドバイスに従って、Apple が奨励して いる Mac にのみアップデートをインストールすることをお勧めする。多く のパワーユーザーが、何であろうと、とにかく最新バージョンのシステム ソフトウェアを欲しがるのだが、このパッチでの修正は対象外のマシンの ユーザーにとってはなんら恩恵を受ける見込みのない非常に限られたもの なのだ。68K ベースのデスクトップの Macintosh、5000 または 6000 シ リーズの Performa や LC、その他 Apple が名前をあげていないモデルを 使っている人は、今回のアップデートの話は聞き流していればいい。

とはいえ、System 7.5.3 Revision 2 で解決されなかったのは何かという ことに目を向けるのはおもしろく、今回何が解決されたのかということと 同じくらい注目に値する。5200、5300、6200 および 6300 シリーズの Performa と LC のオーナーは、いまだに Open Transport を待ち続けてい る。これらのマシンのシリアルポートの報告されているハードウェア・ハ ンドシェークの問題に関して、Apple からの情報は依然として少ない。


Gif*gIf*giF を見つめて

by Tonya Engst <tonya@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

Web を回っていると、動画を取り入れているページにぶつかるだろう。ほ とんどのこういった試みには、要望も多くあるのだが、将来的にはもっと ましになるだろうと思っている。ファイルのサイズは小さくなり、反対に テーマに対して適切に動画が使用される数は増えるだろう。さらには、安 く簡単に動画を作製するためのツールももっと出てくるようになるだろう。 こういったツールのひとつに、Gif*gIf*giF という妙な綴りの Macintosh の画面で表示できる動く GIF 画像を作成するものがある。 Gif*gIf*giF は、Pedagoguery Software 社が出している 28 ドルのシェアウェアプログ ラムである。Gif*gIf*giF には、68K バージョンと PowerPC バージョン (Windows 3.1 および 95 バージョンも)があり、どちらの Macintosh 用 のバージョンもともにダウンロードサイズは約 150K だ。

<http://espresso.cafe.net/peda/ggg/>

動く GIF 画像とは? 今のところ、GIF は Web で扱われている世界標準 のグラフィックフォーマットであり、通常は、静止画像として表示される。 GIF 89a の仕様書には、パラパラ漫画のような、ただし、コマ送りのスピー ドをコントロールできる複数の画像を持つ単一の GIF ファイルの作り方が 細かく書いてある。Web ブラウザ(主に、Netscape Navigator 2.0)は、 GIF 89a フォーマットのアニメーション部分を解釈し、こういったムービー を表示することができる。GIF アニメーションには、 長所も短所もある。 とりえは、圧縮率が高く、プラグインを使う必要もなく、制作用ソフトウェ アの選択幅が広がってきている(Yves Piguet 氏のフリーウェア、使いや すい GifBuilder がよい選択だろう)ということだ。欠点はと言うと、不 用意で、むやみな GIF アニメーションが Web ページを乱す傾向があり、 画面上に視覚的混乱をもたらすし、ムービーがループし続ける限りハード ディスクが音を立て続けることになるということだ。(動く GIF 画像につ いてもっと知りたいという人は、Royal Frazier 氏のすばらしい GIF Animation ホームページを見ていただきたい)

<http://iawww.epfl.ch/Staff/Yves.Piguet/clip2gif-home/GifBuilder.html>
<http://members.aol.com/royalef/gifanim.htm>

Gif*gIf*giF を使えば、スクリーン上で起こることを動く GIF 画像として 作成することができるので、Macintosh を使うためのチュートリアル用と して純粋に有益なアニメーションの作成を促進するかもしれない。 Gif*gIf*giF を使用するためには、スクリーンのどこの部分の動きを記録 するかを定義してから、マウスまたはキー操作を開始する。あなたの動作 がムービーに記録される。Gif*gIf*giF には、アニメーションをループさ せるかどうかや、一秒間あたりのコマ数の設定などのコントロールが少し 付いている。

Gif*gIf*giF が必要な人には、それが効果的なツールであることがわかる だろう。私の Macintosh にはモニターが 2 台つながっているのだが、 Gif*gIf*giF 1.0 を試したときは、メニューバーのない補助モニターの方 をどうしても記録しようとした。Pedagoguery Software 社の Jeff が Gif*gIf*giF 1.01 のベータ版を送ってくれ、1.01 バージョンではこの問 題は起こらなくなった。Gif*gIf*giF は、登録していないバージョンで作 成したアニメーションには、"unregistered copy" という文字が現れるし くみになっていて、28 ドルのシェアウェア料金を払わざるをえないのだ。


出版の手順

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:齊藤 聡 <akkun@ca2.so-net.or.jp>)
(  :尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)
(  :山浦 礼子 <raeko@bnn.co.jp>)
(  :Kaz Yoshikawa <kaz@fact.com>)

私の電子メールの署名に Internet Starter Kit for Macintosh の第 4 版 の作業のために電子メールの返事が短くなったり遅れたりする旨の注意書 きが最近付け加えられていることにあなた方の大多数は気づいているだろ う。私がそのように頼むと周りの人は私の電子メールの負荷を小さくする ためによくしてくれたが、それ以降私が何をしていて、そして情報の断片 を実体にどのように変換するのかよく質問を受けるようになった。その過 程については記憶に鮮やかに残っているので(そして驚くべきことにまだ 完全には終わっていないのだ)、私はコンピュータ書籍の出版についての 私の経験の一部を伝えたいと考えた。

アイデア -- どんな本の出版計画でも第 1 段階では書きたいことを考え 出し、計画を立て、全体の構成を完備したり、あるいはサンプルの文をつ くるといったことを行う。この過程により本の主題に焦点を当てることが 可能になる。これは出版社と話をするときに必要となる。また、文芸エー ジェントと一緒に仕事をするかどうか考える必要もある。エージェントは 出版社を迅速に見つけ出し、契約関係の交渉事の助けとなる。私は以前エー ジェントと一度も一緒に仕事をしていない。一概には言えないけれども、 私の契約の経験をもとにすれば、交渉事のうまくない作家は最初のうちは エージェントに相談するのがよいと思う。私は技術系の作家と仕事をする 文芸エージェントを 2 社知っている。 - Studio B と Waterside Productions である。潜在的な作家のためのたくさん情報を有しているの で、その 2 社の Web サイトを調べておくことは有意義なことだ。

<http://www.studiob.com/>
<http://www.waterside.com/>

契約 -- エージェントと仕事をするかどうかは別にして、最初に出版社 で打ち合わせをする場合の最初の人は契約担当編集者であろう。たいてい の人は出版計画について契約担当編集者と打ち合わせる。私のときがそう だったのだが、ある場合には、契約担当編集者とは本のアイデアを打ち合 わせることもあるだろう。私の印象ではメーリングリストやニュースグルー プで潜在的な作家を探すことに時間を費やしている契約担当編集者が増え ているようだ。これはなぜなのだろう?

ここ 2、3 年の間にコンピュータ関連の書籍が途方もなく出版されている ことにおそらく気づいているだろう。例えば、Internet Starter Kit for Macintosh が 1993 年の 9 月にはじめて出版されたとき、それは 5、6 冊 のインターネット本のうちの一冊だった。友人が最近 Barnes Noble (巨大なチェーンストアの本屋)のデータベースを調べ、1,000 冊以上も のインターネット関連の書籍を見つけた。それだけたくさんの本がそこに あるということは、競争が激烈だということだ。このために出版社はベス トセラーを得るためにたくさんの本を迅速に出版するという絶え間のない 努力を行っている。

(余談 - “ベストセラー”という言葉はコンピュータ関連書籍の業界では たいした意味をなさない。この言葉は数十万部売れた Internet Starter Kit for Macintosh にも、30,000 部売れただけの別の本にも平等に与えら れた。 Studio B はある小売店やチェーンストアの本屋の現在のベストセ ラー書籍についてのリストをいくつかポストしている。)

<http://www.studiob.com/roundtable/bestsellers/index.html>

この動きの早い競争の激しい世界おかげで、出版社は上手に書けて、早く 書けて、主題についてよく知っているような新しい作家を常に探している。 このごろは多くの書籍プロジェクトが 2 から 3 か月で起こっているよう に思える。そしてそれは作家の調査能力と早く書く能力がなければ十分な 時間ではない。もしも、Tonya が Word 5 についての最初の本を書いたと きのように、日常の仕事をしながら行うのならそれはもっとたいへんであ る。

契約担当編集者の仕事は作家を見つけることであり、本のプロジェクトの 基本的なアイデアを見いだすことであり、署名された契約書を得ることで ある。こういった契約書には注意すべきだ! 出版のための契約書にはあ なたが他社の本の仕事をするとき疑わしいと立証できるほど類似した本を 出さないことという独占的な条文をたまに含んでいる。またそれには副次 的な権利(翻訳、ブック・クラブ、そのようなちょっとしたもの)につい てあなたが受け取るものがどんなに少ないかを決定する条文が書かれてい る。エージェントは交渉の場で最も役に立つと私は考えている。なぜなら あなたが注意を払わなければ、あなたの最初の子供を売り渡すことに署名 するのは簡単なのだから。 - もっと正直に言えば - もしこれがあなたの 最初の本であればあなたはほとんど全てに署名してしまうだろう。注意深 く契約書を読み、特別な条文についての交渉を恐れるな。

恐らくあなたにとって契約の最大の関心事は報酬だろう。出版社は基本的 に 2 通りの報酬算定方式 ― 請負か印税 ― のいずれかを提示してくるだ ろう。請負というのは、どれだけ本が売れたか、あるいは売れなかったか に関係なく、出版社はあなたにたとえば 10,000 ドルを支払う、というこ とになる。私の考えでは、請負で仕事をする主な理由は、書いた本が全然 売れないと思えるような場合だろう(それならそんな本は書くべきではな いのだが)。私自身は、売上の 5 〜 20 % を受け取る印税方式の方がはる かに良いと思う(20 % というのは著名な作家の場合で、著名な作家でも もっと低い場合がある)。多分 10 % というのが相場だろうが、スライド 制になっていることも多い。たとえば、最初の 10,000 部については 6 %、 次の 2,000 部については 8 %、それ以降は 10 % という具合になる。

印税方式の場合、普通は印税の前払いを受け取ることになる。これは出版 社があなたに前金をくれるということだ(プロジェクトが始まってから最 低 3 〜 6 ヶ月は印税収入が入ってこないため)。ここで注意しなければ ならないのは、これが印税の前払いであるということだ。つまり、本が売 れだして印税が発生しても、前払いの分の埋め合わせができた時点でしか 実際には収入がないことになる。前金は通常 5,000 〜 20,000 ドルだが、 一部の著名な作家の場合にはこれ以上の場合もある。興味深いことに、仮 に本が売れずに前払いされた印税を埋め合わせるだけの売上がなかった場 合にも、出版社は前金の返済を要求しないようだ(要求することもありえ るが)。したがって、お金を使うこともできるし、もし使わなくても出版 社ではなくあなたに利子が入るので、前金を多くもらうことは一般的には 良いことだと言うべきだろう。

執筆 -- 細かい条件の整理がついたら、執筆が始まる。通常、あなたに は“執筆担当編集者”が付いて、本が書き上がるまでの世話をしてくれる ことになる。この人が各章の締め切りを設定し、書き上がった文章の構造 や内容についてコメントしてくれる。この時点で本格的な執筆が始まるの だが、たいていの場合は早めに書き始めるた方が良い。契約が成立するま での交渉が長引いて、時間が足りなくなることが少なくないからだ。

ここで大事なアドバイスを一つ: 現実的な締め切りを設定し、きちんとス ケジュール通りに作業し、早くかつ効率的に仕事を進めること。本をまる まる一冊書くというのは見た目よりも大変で、技術的な本を書く場合には、 本が対象としているプログラムがちゃんと動作しなかったり、率直に言っ て、書くべきとこについてよく知らない場合にはストレスの溜まる作業だ。 可能な限りできるだけの準備をして、ディスクや Web サイトといった関連 した事柄についても早めに考えておくべきだろう。少なくともある程度は 本のすべての章を同時に並行して書き進めるべきだ。というのは、 20 章 あるうちの 18 章が書き終わったら、実際には残った 2 章が最も長くて書 きにくくても、それで 90 % 終わったとつい考えてしまうからだ。あ、そ れからディスクのことはお忘れではないだろうか?

ほかの執筆者との共著の場合は、プロジェクト管理もする覚悟が必要だ。 電話やメールでコミュニケーションを図るように心がけたい。ほかの執筆 者に足を引っ張られ、何がどうなっているか分からないというのは最悪の パターンだ。

一般的には、プロジェクトの終りにすべてが書き上がってからではなく、 各章が書き上がった時点で執筆担当編集者に原稿を渡すことになる。執筆 担当編集者はすべての章を読み、必要ならあなたに突き返し、もしその必 要がなければコピー担当編集者に回す。ここでもう一つのアドバイス: で きるだけ完璧な原稿を渡すように。私の経験では、コピー担当編集者は一 定の割合で間違いを発見するため、たとえば 100 ヶ所の誤りがあり、 90 % の誤りが発見されれば、10 ヶ所の誤りが残ることになる。しかし、そも そも最初から誤りが 10 ヶ所しかなければ、コピー担当編集者が見落とす のは 1 ヶ所だけになる。私個人は簡単な Nisus Writer マクロを使って、 二重スペースや不揃いの引用符などのありがちなミスを発見するようにし ている。

あなたの執筆した箇所の内容の編集が済むと、通常は執筆担当編集者が著 者校正用にそれを送付してくれる。たいていの場合、これが編集作業中に 発生した問題を修正したり、あるいは詳細を追加できる最後のチャンスと なる。それを終えたら執筆担当編集者にその箇所を返送し、彼ははそれを 制作担当編集者に渡す。今度は彼が代わってそれを担当して制作部に回す のだ。

(見方を変えると、各出版社によりタイトルや肩書きは異なるが、出版社 にいる人のほとんどは何らかの編集者となる。だからひょっとすると、出 版社によっては掃除夫というかわりに清掃担当編集者というかもしれな い。)

制作と校了 -- 制作過程で実際にできあがったページを見る機会がある が、電子メールでやりとりするわけではないのでそれはたいへんな苦労を ともなうものとなる(出版社によってはこうした過程をすべて電子メール で行なうし、皆そうするべきだ − 近頃では、ただ原稿を送付するだけ のために全てを印刷するのは割高だし、無駄である)。私の経験では、何 度もそれらのページを熟読してしまっているため、著者校正後にもう一度 その文章を見たいは思わない。出版社には、印刷前にその全ページを読み、 タイプミスやそのほかの些細なミスを見つけてくれる校正者がいるが、そ れは内容に関わることではない。

もしも本にディスクや CD-ROM が付属するのであれば、それも同様に制作 しなくてはならない。出版社がディスクや CD-ROM を制作する機会はそれ ほど多くないが、あなたは本とディスクや CR-ROM の内容を同時に確認し なくてはならない。簡単なことに聞こえるかもしれないが、ほんのちょっ としたこと一つでも変更したら、その変更が本にも反映されるように確認 しなくてはならないのだ。あなたが完全主義者でなければないほど、それ は簡単なこととなる。

そして、どの程度あなたがディスクや CD-ROM に携わったかによらず、あ なたはそれをテストしなくてはならない。できる限り多くのコンピュータ で動作することを確認し、さらに友人にもテストしてもらう。小さなスク リーンでもそのウインドウが正しく表示され、アイコンが正確な位置にく ることも確認し、すべてを詳細にダブルチェックする。CD-ROM というの は、そのCD-ROM が適切に焼かれているかといった(ここで語ることはやめ ておくが)ややこしい問題は抜きにしても、フロッピーディスクとは比べ ものにならないくらい多くのファイルを収録しているといった点でよりやっ かいである。Tips を一つ。CD-ROM に何千ものファイルが存在し、それが 何百ものフォルダに入っている場合、Align Folders というフリーのユー ティリティを使用してウインドウの位置を整えるとよい。

<ftp://mirror.aol.com/pub/info-mac/gui/align-folders-20.hqx>

CD-ROM を電子メールで送付できないのは明らかだが、しかしたった一枚の フロッピーディスクであれば、幸運なことに担当編集者に電子メールで ShrinkWrap とディスクイメージを送付できるのだ。締切が近づくにつれ、 宅配便でさえも遅いものと感じられていくものである。

<ftp://mirror.aol.com/pub/info-mac/disk/shrink-wrap-201.hqx>

これらの過程が終了すると、あなたの仕事はほぼ終わりとなる。残された メインの仕事は、本の表紙を執筆担当編集者があなたに編集させてくれる ことを確認することだ。私の経験では、著者は本の見てくれに関して不満 を言わないので、ほとんどの出版社でこのことは一般的ではない。著者に 審美眼がないというのではなく、多くの場合(意見を伝えることはできる けれど)コントールできないのからだ。そのかわり、表紙のテキストに注 意を払うことはできる。それが潜在的な読者に悪い印象を与えることも多 いため、その内容が正しく、間違っていないことを確認したい。というの も、ほとんどの場合、表紙というのはその本の内容をまったく知らない販 売担当者によってデザインされたり、書かれたりするものだからである。 私は修正し直す必要のないテキストが書かれた表紙を見たことがなく、い まだに書き直している。

制作がすべて完了すると本は印刷所に行き、そこで印刷され、製本され、 倉庫へ行くのだ。この工程はどこでもだいたい(めったにないが)3 〜 6 週間、あるいはそれ以上、ほかの予定により異なる。書店はその時期の入 荷を期待しているので、出版社は彼等自身の本来の予定通りに本を出荷し ようとする。

販売 -- コンピュータの書籍はそれ自身の存在以前からある程度売れる ものである。これは予約販売(sell-in)と呼ばれ、書籍の販売担当が中心 になって、手短に本の仕入れ先にその書籍がどんな内容であるかの説明が 行われるのである。担当者は展示用に使われる表紙の実物大模型を使う事 もあるが、説明の内容といえば推測によるものである(むろん著者はこの 時点で執筆を終えていないのだから)。Borders 店 や Barnes Noble 店 などの大型書籍チェーン店では同書の成功において大きな影響力を持つ (役割を持つのである)。なぜならそれらの大型チェーン店は予約販売に 大く関与しているからである。

いったん本が書店に出荷されると、今度は実際に人間が本を買うのである。 ここでは二つの場合が考えられる。まず、同出版社が本のマーケティング と販売に多大なる貢献を残した場合であるが、同書はどこの書店の店頭に 並び、消費者は同書を目で見て買うのである。これはプッシュマーケティ ング(push-marketing)と呼ばれる。その一方で予約販売がたいして行わ れなかったにも関わらず、口込で多くの人が書店に足を運び同書を注文し、 書店が少しずつ同書の売れ行きが良い事に気が付き、全体としての在庫量 が増え続けると同時に継続的に同書の在庫を確保するのである。これはプ ルマーケティング(pull-marketing)と呼ばれ、私の Internet Starter Kit for Macintosh がこの例にあたる(インターネット上でのクチコミの 力を見くびらないでいただきたい)。もちろん、他にも考え方があり、そ れは店頭にたいして現われない書籍は、たいした人数が買うわけではない というものだ。私は、コンピュータ関連書籍の平均販売部数は 12,000 部 だと伺っている。この数字はそれほど多いわけではないし、執筆にかけた 時間に十分見合うものでもない。

一番最初の印税の明細をいつ受け取るかは出版社によって異なり、また何ヵ 月おきに印税の支払がなされるかも出版社によって異なる。Hayden 社は本 が出版されてから 3 ヵ月後に最初の印税の明細を送付してきた。その後の 明細は毎月送られてくる。また別の出版社では毎月明細を送ってはくるが、 実際に支払がなされるのは 3 ヵ月に一度または 6 ヵ月に一度あるといっ た具合だ。そこで著者にとっては印税に伴う資金繰りが問題となる。本を 書こうと考えている場合には、経済的な計画にも気を配っていただきたい。

おそらく、出版業界で最も不思議な事は、書店に売れ残った本を送り帰す 事ができる点である。著者は書店に販売された本のすべてに対して印税を 受け取るのであるが(そしてその印税は書店での価格を基準としており、 つまり一般的には書籍の価格の半分ほど)、同書が戻ってくると、著者は その本の印税を返済しなくてはならない。出版社はたいていの場合、返品 を見込んでいるもので,返品が見込みを超過しない限り影響を受けること はないだろう。その著者が複数の本を同じ出版社から出版しているのなら、 明細には一方の本に対して発生した印税に対して、もう一方の本の返却分 が相殺されている場合もあるので、契約書の該当部を確認していただきた い。

一冊の本が最終的にその販売寿命を終えたとき(同書が返品された場合や 全く売れなかった場合)、出版社は売れ残った本を原価相当で任意の量を 購入できる機会をしばし一番最初に著者に与える。ほとんどのコンピュー タの本は原料を含め 4 ドル以下である。それでも、各種行程を経て最終的 には店頭の価格になってしまうわけだが。量販店や安売り店はそれらの在 庫本を買い集め信じられない程の低価格で再販売するのである。たしか誰 かが Internet Starter Kit for Macintosh の初版を 2.19 ドルで販売し ていると教えてくれた事ある。こういった本はそう簡単には店頭から消え る事はない。著者が改訂第 2 版、第 3 版と出版したとしても、まだ余っ た初版本が入手可能なのである。その本を買った読者が古くなってしまっ たソフトウェアや操作方法を試みようとすると、やっかいな問題になるの である。

ここまで私の書いた事を絶対的なものであると受け止めないでいただきた い。私はこんな事を 3 年も続けているし出版された本も何冊かになった が、私はたった一社と取り引きを続けてきたに過ぎない。他の出版社に関 するコメントは主に他の著者から聞いたものである。

あなたは私がコンピュータの本の出版業界に飛び込む事を勧めていると思 うかもしれない。どんな状況に飛び込んでいくのかを理解していただいて いる限り、その答えはおそらく否定的である。私は素晴しい本を書いたが、 著者にはどうすることもできない諸事情により売れなかった著者を Tonya を含め何人か見てきた。また締切までに完成する見込みのない、行き過ぎ た本のプロジェクトに悪戦苦闘している著者もいる。その一方で、次から 次へと本を書き、時折雑誌に記事を寄稿し、その行程を楽しんで、良い暮 らしを送っている著者も何人か私は知ってもいる。どちらにしても、飛び 込むには、細心の注意を払っていただきたい。


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