TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#335/08-Jul-96

1 週間の休暇から戻り、私達は Geoff による PowerPC チップと Macintosh アーキテクチャに関する考察の第 2 部を再開する。また Adam はインター ネットプレゼンテーションを行なわなければならない人々に対してアドバ イスをひっさげて登場し、Tonya は DisabledTalk という新しいメーリン グリストや、Web ブラウザ上で話したり聞いたりする機能を提供するい くつかのブラウザ・プラグインを紹介する。最後になったが、MailBITS では商品版 System 7.5.3 のリリースや BBEdit 4.0.1 について触れてい る。

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目次:


MailBITS/08-Jul-96

(翻訳::山浦 礼子 <raeko@bnn.co.jp>)

Unity 御一行様について Apple の窓口 -- Apple は System7.5.3 を待 望の小売版をようやく出荷した。このバージョンでは、Mac Plus 以降の すべてを起動するユニバーサル・システムをインストールできる。コード ネームで Unity と呼ばれていた System7.5.3 の小売版は、System 7.5.3 Revision 2 からの修正( TidBITS-332 を参照)や LaserWriter 8.3.4 ( TidBITS-333 を参照)を収録し、8 倍速 CD-ROM ドライブ、Apple Internet Connection Kit、そして OpenDoc 1.0.4 のオプショナル・イン ストーラをサポートしている。製品は99ドルで、フロッピーディスク、あ るいは CD-ROM により通常のソフトウェアの販売経路を通じて入手可能だ。 なお、現在の System 7.5 ユーザーは、800/293-6617、内線 1 番で登録を 証明すれば 49 ドルでアップグレードすることができる。Mac ユーザーや サポート担当者は、いくつものインストーラ、ダウンロード、そしてパッ チという一連の作業をこなして System 7.5.3 のインストールを行なって きた。(それを思えば)たとえそれらがすぐに新しい OpenTransport やほ かのシステム・コンポーネントで書き換えられるとしても、Apple がすべ てのものをようやく 1 つのリリースにまとめたことは素晴しい。Apple で は、Unity のインターナショナル版はこれから 90 日以内に入手可能にな るとしている。 [GD]

<http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1996/q4/ 960702.pr.rel.macos.html>

BBEdit 4.0.1 アップデート -- Bare Bones Software 社は、BBEdit 4.0.1 へのアップデートをリリースした。これには、改良された HTML ツー ル、テキストファイルを直接 FTP サーバ上で編集して収録する機能、(素 晴しいことに!)複数回のアンドゥーが含まれている。BBEdit 4.0 ユー ザーからは無料でバージョンアップすることができるが、どのバージョン の BBEdit Lite からもアップデートはできない。 [GD]

<ftp://ftp.barebones.com/pub/updaters/>


インターネット上の Plain Talk

by Tonya Engst <tonya@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

Web とのインタフェースに音声を使うことに関心がおありだろうか? Web ブラウザ用プラグインである ListenUp や Talker を使えばまさにそれが 可能になる。私の Power Macintosh 7100 では、両方のプラグインとも、 Netscape 2 を使った場合でも Internet Explorer 2 を使った場合でもク ラッシュせずに動いている。どちらのプラグインを使う場合でも、Apple の音声認識技術である PlainTalk をインストールしておかなければならな い。PlainTalk は、Apple の System 7.5 にも付いてくるし、オンライン からのダウンロードも可能だ。

<ftp://ftp.info.apple.com/Apple.Support.Area/Apple.Software.Updates/US/ Macintosh/System/PlainTalk_1.4.1/>

Bill Noon 氏が作った ListenUP 1.41 は、リンクの名前を読み上げると、 そのリンクへ接続してくれるというものだ。ただし、PlainTalk マイクロ フォンの付いた Power Mac で 7.5 以降の System を稼動させて、なおか つ、特別なコードを持っている Web ページでしか ListenUP が動作しない という落とし穴もある。さらには、音声認識が Macintosh で常に機能する といった幸運にも恵まれなければならない。この件に関しては、私は今の ところ並み程度しかうまくいっていない。ListenUp をサポートしようと思 う Web 作家は、ページに HTML を少しだけ追加しなければならないし(よ く分かっている方のために付け加えておくと、少しだけと言うのは、 <EMBED> というタグのことだ)、Web サーバーにリンクテキストと実際の URL をつなぐための特別なテキストファイルを置いておかなければならな い。

<http://snow.cit.cornell.edu/noon/ListenUp.html>

ListenUp が Web に向かって話しかけるためのものであるのとは対照的に、 Talker 2.0 の方は、Web に書いてあるものを聞くためのものである。 Talker 2.0 は、MVP Solutions 社から出ている無償のプラグインで、Web ページに表示されているテキストを読み上げてくれるのだ。Talker に対応 した Web ページは通常の目で見える形でページを表示されると同時に、そ のページに書かれているテキストを Macintosh が読み上げてくれる。Web 作家は、テキストごとに異なる声で読み上げるように、または歌ったりも するようにもページを設定することができる。Talker を使うためには、 PlainTalk の一部である English-Text-to-Speech をインストールしてお かなければならない。Talker の Read Me ファイルには、どうしたらその ソフトウェアが正しくインストールされているかどうか知ることができる か、もしされていない場合は何をしなければならないかということが親切 に書かれている。

<http://www.mvpsolutions.com/PlugInSite/Talker.html>

現在のところ、TidBITS は ListenUp や Talker に対応した HTML には なっていないが、将来的には取り入れる可能性がある。しかし、Web 作家 が自分のページを音声対応にするために特殊な HTML タグを書き足すので はなく、もっと多くのブラウザが音声をサポートしてくれれば良いと思う。 たとえば、NCSA Mosaic 3.0b2 は特殊な HTML を必要とせずにページの内 容を読み上げてくれる。適度に気の利いたブラウザなら <EM> タグのテキ ストを強調したり、色々なタグの付いたテキストにそれぞれ違う声を割り 当てる設定ができたりしても良いだろう。たとえば、見出しには普通のテ キストよりも偉そうな声を割り当てるかもしれない。

<http://www.ncsa.uiuc.edu/SDG/Software/MacMosaic/>

すでに PlainTalk と PowerBook を使って、毎日の通勤の時に TidBITS な どのオンラインパブリケーションを読むという作業を行っている読者を一 人知っている。彼は Mosaic ユーザーではないので、多少自分で設定しな ければならないこともあるが、彼の車が Redmond の自宅から Seattle の 都心部にあるオフィスに到着する頃、彼の Macintosh が TidBITS を読み 上げ終わるのだ。

Disabled-Talk -- もし音声を通じて Web とコミュニケーションするの が目新しさよりも必要の問題であるなら、また、これ以外の Macintosh を 使っての、あるいは Macintosh とのコミュニケーションに関心がある方 は、Disabled-Talk という新しくできたメーリングリストに参加すると良 いかもしれない。このリストは、障害を負った人がより暮らしやすくなる ための Macintosh 関連技術を中心に語り合う場である。そこでは、 Macintosh の音声インターフェース、拡大表示、さらには、電灯をつける といったような Macintosh を使って自動化できる様々な動作などの情報が 取り上げられるかもしれない。

<http://thelorax.res.cmu.edu/lists/disabled.html>


インターネットプレゼンテーション

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

最近私は Adobe Internet Solutions Conference などの会議で何度か講演 をする機会があったので、今までに蓄積したインターネットのプレゼンテー ションをする際に役に立つコツや小技について述べようと思う。

Cornell 大学の学生だった頃にしていたアルバイトで、プロジェクタが設 置してあるセミナー室の管理が仕事の一部としてあったことがある。私は 技術的な不具合にたたられた(そして私が救った)プレゼンテーションを あまりにも多く見てきた。その結果、私自身は極めて原始的なプレゼンテー ションをするようになっている。ただ喋っているだけなら、喉頭炎になる 以外、さほど悪い状況というのは起こりえない。OHP を使えば、電球が切 れる可能性がある。Macintosh を使えば、プロジェクタがおかしくなる理 由にはことかかない。普段使い慣れていない Mac を使った場合、妙なフォ ントやシステム機能拡張などがしでかしてくれる災いについては述べるま でもないだろう。これにライブのインターネット接続を足せばほとんどマー フィーの法則を適用してもらおうとしているようなものだ(失敗する可能 性がある時は、必ず失敗する)。

そこで、私からの主なアドバイスは、どのようなプレゼンテーションの場 合にも使用するテクノロジーの水準を最低限に抑えることだ。もちろん、 ここではインターネットプレゼンテーションの話をしているので、これは なかなか難しい。したがって、ハイテクなプレゼンテーションをしなけれ ばならない時には、可能な限りの不安定要因を取り除くことだ。もし自分 の PowerBook を持っていてプロジェクタに接続することができるなら、会 場に置いてある Macintosh ではなく、自分のものを使う。自分のモデムが ある場合にも同様だ。未知の世界に入り込まずに、ちゃんと動くと分かっ ているものを使うことは、何かがうまく動かなかったためにプレゼンテー ションをだいなしにしてしまうという可能性を低減してくれる。

最近のインターネットプレゼンテーションでは、Persuasion や PowerPoint などといったプログラムではなく、“スライド”を HTML で作って非常に うまくいっている。Persuasion も PowerPoint 持っていないし使い方も知 らないということを別としても、HTML は極めて柔軟だ。たとえば、手元の ファイルに何かが起きた場合のバックアップ用として、プレゼンテーショ ンを Web サーバーに置いておくことができる。そのバックアップが必要に なったことはまだないが、HTML でスライドを作ると、プレゼンテーション の一部として色々な Web サイトを見せることも簡単にできる。クリックす ればそれで済んでしまうのだ。もう何度かプレゼンテーション用の HTML スライドを作ったが、どれも極めてシンプルなもので、だいたいその会議 用のグラフィックが一番上にあり、その次に話のポイントが列挙してある。 ページの一番下には前後に移動するための Next と Previous リンクがあ る。いたるところにリンクを張ることもできるが、シンプルかつ直線的に しておいたほうが良いだろう。人前に出るとあがってどこにいるかがわか らなくなることも大いにありえるからだ。

私のスライドの作り方はちょっと変わっている。アウトラインから始めて、 実際に自分が話す内容を頭の中でたどると同時に HTML ファイルを作るの だ。最初のファイルをたとえば "connect1.html" という名前にし、それが 終わったら Finder で複製を作って "connect2.html" という名前を付け、 編集する。この方が個々のファイルを最初から作るよりも簡単だし統一感 が出るからだ。最初のファイルをしっかり作らないと、後でほかのファイ ルも全部修正するはめになる。小さな修正は BBEdit や Nisus Writer の ようなツールを使えばプレゼンテーションで使用するファイル全部に検索 ・置換をかけることができるので問題ない。ほかの人の HTML スライドプ レゼンテーションでは、一つだけの長い HTML ファイルを使い、スクロー ルしたりアンカーリンクを使うというものも見たことがある。

プレゼンテーションで Web サイトの実例を見せようというのであれば、 The ForeFront Group 社の WebWhacker を使い、サイトの一部をグラフィッ クやリンクともどもダウンロードしておくことを検討すると良いだろう。 この方法を使えば、プレゼンテーションの最中にインターネットへの接続 がうまくいかなくても問題にはならない。各サンプルサイトには、ダウン ロードしたローカル版と実際にオンラインのサイトへのリモート版の 2 種 類のリンクを張っておいた方が良いだろう。というのは、サイトの必要な 部分をダウンロードしていないこともありえるからだ。もっと重要なこと は、時にはハードディスクからの高速な“できあいデモ”よりライブのテ ストでサイトの本当のスピードを見せたほうが良い場合もあるということ だ。

<http://www.ffg.com/whacker.html>

プレゼンテーションに HTML を使うもう一つの利点は、ブラウザの選択が できるということにある。たとえば Netscape 拡張に依存したサイトを見 せるのでなければ、どのブラウザを使うかはたいした問題ではない。Tonya はプレゼンテーションによっては MacWeb を使うのを好んでいる。画面上 に現れるフォントやスタイルを Internet Explorer や Netscape より細か くコントロールすることができるからだ。フォントといえば、プレゼンテー ションの会場でプロジェクタを使って HTML をテストする際には、部屋の 後ろの方からも文字が読めるかどうか確認されたい。たとえば Netscape はデフォルトでテキストフォントを Times 12 ポイントに設定するので、 小さくて画面上では読みにくい。私はたいていはるかに目に優しくて画面 上での読みやすさを考慮してデザインされた New York 12 ポイントに切り 替える。各スライドに個別の HTML ファイルを用意してある場合には、ス クロールしなければならない状況が最小限になっているかどうかを確認す るために、プレゼンテーション全体をリハーサルしていただきたい。スク ロールしているともっと大事な喋るという作業がおろそかになるからだ。

どのブラウザを使っても、ウインドウの上部にあるツールバーやその他の フィールドはできるだけオフにするべきだ。Location フィールドなどは誰 にも読めないし、プレゼンテーションがローカルに行われているなら URL はいずれにしても無意味だ。Netscape の Directory ボタンなどもプレゼ ンテーションの目的からしたら無意味だし、スクロールを避けるためにも その分のスペースが無駄になる。また、聴衆の多くは画面の下 1/3 は見え ないので、必要な情報は誰もが見ることのできる画面の上の方に書いてお きたい。これは小さなことのようだが、画面のスペースを無駄にするのも、 不必要な画面の操作によって聴衆の注意をそらすのも好ましいことではな い。このことに気がつくプレゼンターは少ないようだ。

プレゼンテーションで接続している URL は誰からも見えないのだから、必 ず配布資料に URL を入れておいていただきたい。いずれにしても資料を配 付するのは良いことだ。というのは、聴衆が本来ならあなたの喋っている ことに注意を払っているべき時に、がむしゃらにメモを取ることを防ぐこ とができるからだ。どういうわけか、聴衆はいつもどの URL に行ったかを 正確に知りたがり、口頭で URL を伝えるのは嫌になるほど大変なことだ。

実際にプレゼンテーションを作ることの詳細には触れないが、2 つだけ大 事な点を指摘しておきたい。まず、モデムでしか接続できない場合には、 スピードが遅いことについてお詫びする必要はない。もしどうしても気に なるなら、一度だけにしていただきたい。次に、聴衆から質問を受ける際 には(もちろん質問は受け付けるべきだが、切りの良い場面と最後だけに されたい)、答える前に質問を復唱すべきだ。参加者全員が聞き取れるよ うに質問を復唱しないのは恐らくテクニカルなプレゼンテーションで最も 多い失敗だろう。


チップを探して(第二部)

by GeoffDuncan <geoff@tidbits.com>
(翻訳:矢倉遠十吉 <oto@infoweb.or.jp>)
(  :村上 浩  <murasan@mail.yk.rim.or.jp>)
(  :Kaz Yoshikawa <kaz@fact.com>)

TidBITS-334 で、私達は PowerPC プロセッサファミリーとそれに関連し たいくつかの用語と技術を眺めてきた。もし、あなたがその記事を読んで いたのであれば、おそらく 68K と PowerPC チップとの違いが分かったは ずである。なぜクロックスピードとクロック・マルチプライヤが重要なの か、一次キャッシュ と 二次キャッシュの違い、そして異なる PowerPC チップ間の違いなど。こういった情報をもとにして第二部をつけ加え、そ して前回で取り上げなかった Power Macintosh のソフトウェアとハード ウェアのコンポーネントを調査してみたのである。

エミュレータ、永遠なれ -- もし、Power Macintosh を成功に導いたこ とが一つだけあるとするならば、それは 68K エミュレータをそのシステム に組み込んだことだろう。概念的に 68K エミュレータは PowerPC プロセッ サと実行コードとの間に位置する。もし、コードが PowerPC 用(そのよう なコードが“ネイティブ”とされる)に書かれたものであるなら、エミュ レータはなにも行なわない。もしコードが 68K マシン用に書かれたものな ら、エミュレータはそれを PowerPC コード(非常に低いレベルで)へ翻訳 し、それをPowerPC プロセッサへ送る。68K エミュレータなしでは、 ネイティブプログラムでないと Power Mac 上では全く走らないのである。

68K エミュレータにより、Apple 社は Macintosh を新しいプロセッサ・ アーキテクチャへと容易に移行することができた。その間に、既存のプロ グラムとの強力な互換性を維持し続けたのである。それは間違いなく良い ことである。同時に68K エミュレーションは Power Mac のアキレス腱でも ある。というのは 68K エミュレーションのパフォーマンスは ネイティブ PowerPC コードで書かれたそれとは比較にならないものである。Power Mac が導入されたとき、おびただしい数の主要な Mac 用ソフトウェアが 68K マシン用しかなかったため、Power Mac ユーザーは常にパフォーマンスの 低下という後戻りを経験することとなった。いくつかのネイティブ・アプ リケーションがすぐに登場したけれども、QuarkXPress、Microsoft Office、そして FileMaker Pro といった主要ツールは Power Mac にネイ ティブ化されるまで多少の時間を要したのである。

さらに、Apple 社は PowerPC を活用するためにシステムソフトウェアの多 くの重要な部分を移植したのだが、ほとんどのシステムが未だ 68K エミュ レータ上に依存している。このようにハイエンド Power Macintosh でさえ 68K コードの泥沼に足をとられている。ネイティブアプリケーションを走 らせるときでさえも、それらの可能性を秘めた実質上のパフォーマンスを 抑制していることになるのだ。

もし、68K コードがそれほど遅いのであれば、68K エミュレータは将来に 向かってどれほど長く存在することになるのだろうか?その答えは単純だ。 Apple 社はシステムの中で 68K エミュレータを永久に保持する必要がある のだ。

まず一番に、Mac OS は 68K エミュレータ上にかなり依存している。そし て System 8 は System 7.5.3 より以上の Power Mac ネイティブコードを 大幅に含むだろうが、すべてのオペレーティングシステムが完全なネイティ ブとなることはありそうもない。基本レベルにおいては、すべてをネイティ ブに移植するために努力するほどの価値が見いだせないし、システムの中 であまり使用されず、性能に無関係の部分では特にそうである。

第二に Apple 社は、68K コードとアプリケーションが走り続けるのを確認 していくことに重大な関心がある。ほとんどすべての Power Mac ユーザー は、決して PowerPC に移植されない 68K マシン用に書かれたソフトウェ アを所有している。ひとつのよい例として Ambrosia Software 社のアー ケードゲームの傑作 Maelstrom (大混乱)がある。それは大部分が 68K アセンブリ言語で書かれたものだ。仮に Maelstrom を PowerPC へと移植 したのなら大仕事となったことだろう。そして Power Macintosh が世にで てから 2 年以上経過し、いまだ Maelstrom はエミュレーションですばら しく走り続けている。そしてこのことは 68K エミュレータの現実面での良 いテスト例なのである。

<http://www.ambrosiasw.com/Ambrosia_Products/Maelstrom.html>

システムで 68K エミュレーションを保持していくことは、改善が不可能だ という意味ではない。Apple 社のオリジナル 68K エミュレータはスタ ティックなもので、68K の命令文を一回あたり一つの PowerPC コードに翻 訳するものだ。エミュレーションのパフォーマンスはより大きな一次キャッ シュあるいは二次プロセッサキャッシュで改善される(オリジナル 603 よ りも PowerPC 603e チップ上での方がより大きな一次キャッシュをもつた めに、エミュレータ・パフォーマンスは良くなる)。しかし、さらに速い エミュレータを構築することも可能であるのだ。

PCI Power Mac とともに、Apple 社は大幅に高速なダイナミック・リコン パイル(DR)エミュレータを紹介した。DR エミュレータは 68K コードを ループする間監視し、後での使用のために翻訳された PowerPC コードを とっておくのだ。それは同様の 68K の命令文を繰り返し再三にわたり翻訳 するというかわりにである。しかし、DR エミュレータは互換性という部分 で見るとわずかながら高い価格となっている。プロセッサキャッシュを可 能とした 68040 マシン上で正確にオペレートしないプログラムは正確に走 らないかもしれない。そして、Apple 社の DR エミュレータは PCI Power Mac 上でのみ動作する。初期 Power Mac の ROM はそれをサポートしてい ないのだ

別の選択肢としてよいのは Speed Emulator である。それは Connectix 社 の Speed Doulbler の一部分だ。( TidBITS-292 参照)Speed Emulator もまたDR エミュレータであり、Apple 社のものよりも多くのメモリを使う が、それよりも目だって優れていて、どんな Power Mac 上でも走る。 Speed Emulator の追加された実行能力は特にいくつかの領域のなかで明白 となる。例えば、Apple Event Manager を極端にスピードアップでき、 AppleScript ユーザーに特に評価される特徴をもっている。

<http://www.connectix.com/>

Apple 社と Connectix 社両方のエミュレータは 68L040 を手本としてい る。それは、もしあなたが とくに浮動小数点演算ユニット(FPU)を必要 とするプログラムと一緒に 68K プログラムを使う必要があるのなら一つの 問題となる。68K ファミリーのなかで、FPU は本来浮動小数点演算作業と いう目的にそって振り当てられた分割されたチップである。68040 で Motorola 社は殆どの FPU 機能をプロセッサに直接組込んでしまった。そ して(コスト削減運動の中で)、68L040 の中のそれははずしてしまったの である。FPU を要求するプログラムは Power Mac 上でエミュレーションの もとに走りはしないのだ。というのは FPU が利用可能でないことを正確に 判定するからである。

もしあなたが Power Macintosh 上で FPU を要求するプログラムを使う必 要があるのなら、2 つの選択肢がある。それは SoftwareFPU と PowerFPU である。両方とも John Neil and Associates 社のものである。これらの プログラムは 68K FPU をエミュレートし、そして FPU を必要とする 68K プログラムを機能させようとする。SoftwareFPU は 10 ドルのシェアウェ ア製品であり、きちんと動作し、PowerPC ネイティブではなく 68K エミュ レータを通して呼び出すその演算機能を詰め込んでいる。PowerFPU は PowerPC ネイティブ FPU のエミュレーションを供給する 20 ドルの商品版 だ。そのためネイティブ PowerPC の浮動小数点機能が速くなり、PowerFPU の能力はなかなか速いものとなったのである。

<http://www.jna.com/>

魔法のバス -- コンピュータの処理能力を評価する際、ほとんどのユー ザーはマシンのプロセッサ・タイプやクロック・スピードを参照する。こ れら用語はよく知られているし、ときには比較の目安にもなるし、またマー ケティング資料にも広く使われているからというのが、その主な理由であ る。しかしながら、コンピュータの総合的な処理能力に関わる重要な要素 にはもう一つある。それはプロセッサとほかのコンポーネントを繋ぐ主要 なデータ経路、バスである。

身近なものにたとえるのが、バスを説明する最も簡単な方法だ。読者のコ ンピュータを、道が一本しかない小さな町と考えて欲しい。コンピュータ のコンポーネントは、ほとんどがこの道沿いに位置しており、コンポーネ ント間で情報をやりとりするには必ずこの道を通らなければならない。交 通は信号機で制御され、誰が先に行くのか、誰が待たなければならないの か、どれだけ道に出入りできるのかは、この町の複雑な法規により管理さ れている。車線の数と信号が変わる頻度によって、どれだけ 速く 通行 できるかが制御される。そして、どれだけ 効果的 に通行できるかを制 御するのが、町の交通法規である。

このたとえでは、バス幅が車線数、バス・スピードが信号の変わる間隔、 そしてハードウェア・アーキテクチャとオペレーティング・システムが交 通法規である。

バスの盛りつけ -- 上記のたとえ話はかなり単純化してある。実際には、 Macintosh は幾つもの異なったバスを持っており、そのほとんどがサブ・ システム中に存在している。SCSI、Ethernet、シリアル・ポート、RAM、拡 張スロット(NuBus や PCI)、入力デバイスはすべて独立したバスを持っ ている。そしてそれぞれ独自のバス幅や(時には)クロック・オシレータ を持っているのだ。

アップグレードを考える際、バス・スピードは重要な要素のひとつである。 クロックアップは Quadra や第一世代の PowerMac を安価にアップグレー ドする方法として普及しているが、コンピュータのクロック・オシレータ を高速のものに取り替える必要がある。この方法だと、Apple 社の保証は 無効となるし、必ずしもクロックアップに成功するとは限らない(成功率 は約 90 % である)のだが、クロック・チップを交換することでコンピュ ータのプロセッサやバスはスピードアップするし、総合的なパフォーマン スの改善に役立つ場合も多いのだ。クロックアップについて詳しく知りた い方は、Marc Schrier 氏の Clock Chipping FAQ を参照願いたい。

<http://violet.berkeley.edu/~schrier/mhz.html>

PCI PowerMac やそのクローンの多くは、クロック・オシレータとプロセッ サ両方のチップを取り外し可能な CPU ドーターカードに搭載しているので、 より高速なクロックとプロセッサへのアップグレード・パスをすでに備え ている。この設計のおかげで、プロセッサとクロック・オシレータを同時 に交換できるのだ。しかしながら、多くの場合、メイン・バスの速度に限 界があることには変わりない。Apple 社の現行モデルの上限は 50 MHz、 Power Computing 社の PowerTower は 60 MHz である。これはドーターカ ードのアップグレードがこれらマシンにとって価値のないものだという意 味ではないが、ある限界以上にシステムの全ての面でパフォーマンスを改 善することはできないのだ。同様に、初期の Mac 用(IIci から Quadra シリーズまで)に Apple 社や DayStar 社のようなベンダーが開発したア ップグレード・カードを評価する際には、PowerPC チップのスペック上の クロック・スピードだけではなく、ほかのハードウェアによって強いられ るパフォーマンス上の制約に関しても考慮しなければならない。多くの場 合、これらのカードがディスク、ポート、他のデバイス、RAM からデータ を得るためには、比較的遅く狭いバスを通らなければならないため、同等 のプロセッサ・スピードを持った PowerMac と較べると、実際にはかなり パフォーマンスが劣ってしまう。このアップグレードは PowerPC コードを 走らせるには十分なのかもしれないが、中古の PowerMac と同等のパフォ ーマンスは見込めないし、それより高くつく場合も多いのだ。

クロックスピード伝説 -- 最後に今の時期にマッキントシュを買うとい う事にどういう意味があるのであろうか?

特定の機種においては、単純にクロックスピードに惑わされないように注 意する必要がある。プロセッサのスピードは実際その性能に結び付いてい るし、だから多くのコンピュータ業者は自社製品の機種のクロックスピー ドを他の部分に比べて強調してみたりするのであるが、他の多くの要因 (プロセッサタイプ、キャッシュ、エミュレーション、バススピード、シ ステムソフトウェア、などなど)も総合的な性能に影響しているのである。

例えば、Power Macにはクロック・マルチプライヤが組み込まれており、こ れはプロセッサがクロック・オシレータのクロック周波数よりも速く実行 する事を可能にするもので、これにより高速なプロセッサのスピードを達 成しているのである。この技術によりパフォーマンスが改善する事は疑う 余地もないが、この技術に手間とコストをかけてもその結果得られる性能 には限度があるのだ。120 MHz のプロセッサに 20 MHz のバスに 6 倍のマ ルチプライヤを搭載した機種と、60 MHz のバスに 2 倍のマルチプライヤ を搭載した機種では総合的な性能は異なるものになる。どちらの機種も問 題なく動作するのであるが、前者はディスク、ネットワーク、メモリ、周 辺カードへのアクセスに後者よりも時間をずいぶん費やす事になるのであ る。確かにプロセッサ自身のスピードはおおむね同等なのであるが、前者 はプロセッサのサイクルのより多くをハードウェアからの待ちに費やすの である。

同様に、コンピュータが搭載しているプロセッサにも気を配る必要がある。 プロセッサ自身のパワーという点において、120 MHz の PowerPC 604 は チップの設計上で、同じ 120 MHz の PowerPC 601 や 603e と比べて大き く(50% から 70%)高速化されているのである。とはいえ、現実の世界で は、PowerPC 604 を搭載した機種は、120 MHz 603e と比べて高速なバス、 高速なビデオ、高速なディスク、出来の良いエミュレータと組み合わせて、 若干速い程度に過ぎない。

ではクロックスピードでコンピュータを判断できないなら、どうすればい いのだろうか?総合的な性能を測定するには、Speedometer、MacBench、 Norton Utilities System Info といったベンチーマークアプリケーション を利用する事である。

<ftp://mirror.aol.com/pub/info-mac/cfg/speedometer-402.hqx>
<http://www.zdnet.com/zdbop/macbench/macbench.html>

これらのプログラムから得られた結果は鵜呑みにできるようなものではな いであろう。これらの計測値は私の持っている各々の機種では、ほぼ妥当 なものであったが、これらのアプリケーションのどれもが、繰り返しの計 測により一定した計測値を示さない。とわいえ、これらのプログラムは最 低限、プロセッサ単体より広い範囲で性能をはじき出そうとするのである。 しかるにして、その結果がいろいろな設定で十分に平均的な結果であれば、 これらのプログラムはその機種の総合的な性能を知る手助けとなるのであ る。

より詳細な情報 -- これら二つの記事は広い分野に渡って網羅されたし、 私はそれらが、ハードウェアの一部の違いと、それらの仕様の違いをどの ように総合的な性能と関連付けできるかという点で、いくつかの疑念を払 いのける事ができたものと期待している。

PowerPC プロセッサについてのより詳細な情報ついては、Motorola 社と IBM 社の情報を PowerPC FAQ 同様ご覧いただきたい。

<http://www.mot.com/SPS/PowerPC/library/library.html>
<http://www.chips.ibm.com/products/ppc/index.html>
<http://www.mot.com/SPS/PowerPC/library/ppc_faq/ppc_faq.html>

プロセッサがどのように公式にベンチマークテストされているか(または SPECint95 が何であるか)興味のある方は、次のソースをご確認いただき たい。

<http://www.specbench.org/>

最後に、Macintosh で PowerPC チップがどの様に動作するか興味がある方 がおいででしたら、私は Apple's Developer University のイントロダク ション (introduction) をお勧めます。

<http://dev.info.apple.com/du/intro_to_ppc/ppc0_index.html>


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