TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#348/07-Oct-96

将来のバージョンの Mac OS が現在のソフトウェアと下位互換はないだろう ということを聞いたことがあるなら、再考してほしい。つまりこれは Apple を誤った方向に導く最初の大きな流れとはならないだろうというこ とだ。また、今週号では、UserLand Frontier と Corel WordPerfect の アップデートに関するニュース、DealBITS を休刊した理由のいくつかを Adam が説明、 Matt Neuburg 氏が QuickKeys 3.5 の評価記事を結び、 TidBITS のスポンサーに加わった Aladdin System 社を歓迎する。

今回の TidBITS のスポンサーは:

Copyright 1990-1996 Adam & Tonya Engst. 詳細は末尾を参照してください。
問い合わせは <info@tidbits.com> へ、感想は <editors@tidbits.com> へ。

TidBITS 日本語版は以下のメンバーのボランティアによって翻訳・発行されています。
Kaz Yoshikawa <kaz@fact.com>
尾高 修一  <odaka@iprolink.ch>
尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>
小山 純一  <vb4j-oym@asahi-net.or.jp>
加藤 たけあき<oiso@wolfenet.com>
米谷 仁志  <comet@po.iijnet.or.jp>
齊藤 聡   <akkun@ca2.so-net.or.jp>
杉浦 雄一郎 <ysugiura@direct.ca>
高島 均   <hitak@can.bekkoame.or.jp>
西村 尚   <hisashin@st.rim.or.jp>
水木 潔   <HGH03125@niftyserve.or.jp>
村上 浩   <murasan@yk.rim.or.jp>
矢倉 遠十吉 <oto@mb.infoweb.or.jp>
山浦 礼子  <raeko@bnn.co.jp>

目次:


MailBITS/07-Oct-96

(翻訳::米谷 仁志 <comet@po.iijnet.or.jp>)

ここでちょっと皆さんにお知らせしておきたいのは、TidBITS のこの号で メーリングリストの参加者数が ちょうど 40000 人に達したことだ。わ れわれのメーリングリストの参加者はかなりの割合で毎日増えている(50 人から 100 人の間で)。しかも、メールに関する問題によって毎週何百人 もの人をリストから削除しているにもかかわらずである。それでも、われ われは 40000 人の近辺をずっとさ迷ってきたわけだが、ついに結構なこと にそれを達成したわけである。 [ACE]

Aladdin 社が、TidBITS のスポンサーに -- 長年 Macintosh でのデベ ロッパーとして活躍してきた Aladdin Systems 社をわれわれの最新のスポ ンサーとして迎えることができるのは大変喜ばしいことだ。Aladdin 社は、 もっともよく知られた Macintosh での小規模デベロッパーであり、特に ネットワークの世界では、彼らの手によるソフトウエア StuffIt が圧縮 フォーマットの標準とされている。StuffIt のフォーマットが全体に普及 している理由は、単純である。 StuffIt は、最初シェアウエアとして世に 送り出されたが、 Aladdin 社は、すべての範囲をカバーする StuffIt の 関連商品を常に育ててきた。つまり、フリーウエア(必須の StuffIt Expander)もあれば、シェアウエア(DropStuff と StuffIt Lite)もある し、そして商用のソフトウエア(StuffIt Deluxe, Aladdin Desktop Tools, CyberFinder) もそろえている。そしてあの使いやすい StuffIt InstallerMaker のように、あらゆるライセンス形態に対応したライセンス 授与機能まで装備したソフトもある。

Aladdin 社は、つねに、Macintosh をめぐるオンライン共同体のサポーター である。この会社の商用プログラムは、いつでもダウンロードでき、テス トすることができる。またそれらは、オンラインで安く登録できるのだ。 さらに社員のいく人かは、多くのインターネットや Macintosh に関する メーリングリストに多大な時間をさき、自分たちの時間や才能、そしてオ ンラインのプロジェクトや組織に関する専門的な知識を提供してくれてい る。

最近、Aladdin 社は、新しい CEO (最高経営責任者)として John Nesheim 氏を迎えた。彼は、速い成長と、その製品の持つ安定性を広げていこうと する Aladdin 社の努力を助けるために迎えられた。私たちとしては、彼ら の幸運を心から望み、TidBITS をサポートしてくれることに対し心から喜 びたいと思う。 [ACE]

<http://www.aladdinsys.com/>

Frontier 4.1 -- Dave Winer 氏と Doug Baron 氏をはじめとする UserLand 社は、Frontier 4.1 をリリースした。これは、彼らが開発した インターネット対応の Macintosh でのスクリプティング環境である。 Frontier 4.1 となったことで、新しいメニューや、Object Database の主 要な機能にアクセスしやすいようになった2つの "Navigators" 、そして 完全に一新されたユーザーガイド、Frontier を使ったスクリプト機能を備 えた Web サイトに関する説明書が提供される。また MacBird ( TidBITS-309 )を動かすことができるようになった。MacBird は、カ スタム・インターフェイスをつけ加えてくれるソフトである。また Frontier 4.1 には、バグ・フィクスの嵐も、そして Frontier のアクティ ブなユーザーコミュニティにより寄せられた変更も含まれている。しか し、 - もっともよいことには - Frontier はまだ無料で提供されている。

目下、4.0.1 から Frontier 4.1 へのアップデータが利用可能である(約 2.5 MB)。だが、あなたがこれを読む頃までには、完全な「送付用の」 Frontier 4.1 の準備ができているはずだ。必ず、installation instructions に目を通すこと。(そして、Frontier.root ファイルのバッ クアップを取ること!)そして、新しいユーザーガイドをダウンロードし ておこう(約 1.1 MB)。 [GD]

<http://www.scripting.com/frontier/>

Corel 社 WordPerfect 3.5.2 アップデータを発表 -- Corel 社は、 WordPerfect 3.5.2 へのアップデータをリリースした。伝えられるところ では、これにより、封筒に印刷するときのバグを含むたくさんのバグが修 正される。同時に、このアップデータはどうも、Corel 社により運営され る混雑気味の Wildcat BBS system でのみ入手可能であるらしい。この FTP サービスはどこか標準と違うところがあり、多くの Macintosh ユーザーが ダウンロードや 2.5 MB のアップデート・パッケージをデコードする際に 問題があると報告している。しかし、私は Fetch の “text”モードを使っ て何の問題もなくデコードできた。 [GD]

<ftp://bbs.corelus.com/WordPerfectfortheMac/wp35.hqx>

Seymour Cray 氏逝く -- 厳密に言うと、Macintosh とは関係のない話な のだが、私たちとしては、96 年 10 月 5 日に交通事故のけがにより Seymour Cray 氏が亡くなったことを記しておきたいと思う。Cray 氏は、 世界で最初のトランジスターベースのスーパーコンピュータを1958 年に作 り上げた。また 縮小命令セットコンピューティング(Reduced Instruction Set Computing (RISC) )のアイデアでひろく知られている。このアイデア は、PowerPC など近代的なマイクロプロセッサーの基本となっている。Cray 氏自身の事業投資はいつも成功というわけにはいかなかった。(Cray Research 社は、数年前に Silicon Graphics 社に売却された。)おそら く、彼は、高性能のコンピューティングにもっとも影響を与えた人物のひ とりとして記憶されるだろう。 [GD]

<http://www.cnn.com/TECH/9610/05/cray.obit/index.html>


DealBITS の処遇

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

1995 年 10 月に TidBITS-297 で書いた通り、一年に及ぶ DealBITS の発 行は一種の実験であった。インターネット上での広告が、広告業界に建設 的な影響を与えるということについて考え直すことができるかどうかを確 かめたかった。DealBITS は理想であったが、同時に TidBITS を出しなが ら生計を立てるための現実的な必要性も兼ねていた。そして、多くの点で 成功だったのだが、期待していただけの効果を及ぼすことができるほどは 我々が広告の世界を理解していないということも分かった。

DealBITS は、労働に見合った稼ぎが無いことが根本的な問題だった。儲け るための苦労は全く無かったのだが、我々の、特に Tonya の時間を投資す るほどの利益ではなかった。もっと大切なのは、月に 2 回の DealBITS の 作成は、本質的にやりがいが無かったし、それによって得ることのできる 金額がもともと釣り合うものではなかったということだろう。それで DealBITS のコンセプトと奏効の 2 点について考え直す間、休刊すること にした。

DealBITS がぶつかった最も重大な問題は、Mac ユーザー だれも にうけ るようなものにするだけの売り物が常に不足していたということだった。 最初のうちは、紙の出版物で広告を出すのとは違い経費がわずかであれ ば、DealBITS の利点を売り込まなくても、多くの会社が広告を出すように なるだろうと誤った思い込みをしていた。これは大きな間違いだった。広 告の注文取りも一種の営業であり、優秀なセールスマンは我々とは別の人 種なのだということが分かった。今後の成功のためには、プロの広告販売 屋を見つけ出ださなければならない。業界人全てを知っていて、業界用語 を使え、そして一番重要なのは、絶えず広告主に気を配る時間があるそん な人だ。その気になった広告主の発掘は始まりにしかすぎない。その後、 広告主に宣伝文句や様々なお買得商品を出させるという大変な仕事が待っ ているのだ。

お買得品というのは別の理想だった。可能かどうかに関らず、ともかく毎 回目玉商品を出さなければならなかった。発想は良かったかもしれない が、振り返ってみると、広告主になり得た多く、とりわけ大会社を排除す ることになっていた。大きな会社は製品を直接販売したりしないというこ とが問題だった。卸売業者や別のルートを使うのが彼らのやり方で、通常 とは異なるやり方で物を売るのは、困難であり時には不可能でさえあるの だ。大きな会社抜きでは、DealBITS は多くの人気の高い主流製品を欠いて しまうのだ。ここも DealBITS が変わらなければいけない点である。流通 ルートと気まずくなるおそれのある特別奉仕品を出すことのできない大き な会社を冷たくあしらうような身分でもないのだ。

DealBITS 実現のためには本格的な自動処理を用いなければならないという ことは、最初から分かっていた。それに、おおむね実現していたのだが、 見逃していた問題が一つあった。広告主達の多くが首尾一貫した体裁の良 い広告を作るのに、なんらかの編集協力を必要とした。もちろん私たちは 協力をいとわなかったが、この点に関しては自動化する術がなかったの だ。DealBITS を出す度に Tonya は少なくとも丸一日を潰すことになっ た。コピー提出期限に遅れたり、もう少し時間が欲しいと言ってきたりす ると、提出したり戻したりの編集作業がストレスになることも分かった。 月に 2 回の DealBITS と TidBITS を同一日に出さなければならない月曜 日の締め切りが、突然重いプレッシャーになってしまったのだ。この件は 検討中で、未だに結論は出ていない。2 通りの可能性が考えられる。私た ちは編集に全く手を出さず、(必要なエレメントを要求し、広告サイズの 制限を強要するコピー提出用の Web ページのような)テクノロジーに頼る というものと、歯を食いしばって、手作業で全ての編集を続けるというも ののどちらかだ。

我々の発行スケジュールも問題になった。TidBITS 以外の締め切りが毎週 あるのは嬉しくないし、隔週にすると広告費用の請求や半年先の号の前予 約予測がややこしくなるだろう。結局、毎月第一・第三月曜日に発行する ことにしたのは、筋が通っているようだったが、少なくとも広告主を戸惑 わせ、締め切りに遅れたり、前述の付加的ストレスの原因になった。週刊 にするか隔週にするかというのが最終的な解決策だと思っている。

DealBITS は、もっと多くのお買得品を惹き付け、広告を出す気になるだけ の読者数に達しなかったと言うことが決定的な問題だった。DealBITS のリ ストは最終的に 8 千人足らずだったし、Web 版の読者は 1 〜 3 千人 だった。この数を増やす何らかの方法を見つけだそうと思っており、いず れ、Web 調査で提案を求めたりアイディアのいくつかをアンケートにして みるかもしれない。

結論として、私は DealBITS が出版物として成功したと思っている。休刊 をアナウンスした際に、ガッカリした読者からのメッセージを受け取った し、長期にわたり広告主になってくれたところを相当落胆させてしまっ た。DealBITS の読者はいいお客様で、広告主達はそんな読者との関係を失 いたくなかった。ハードウェア・ソフトウェア・Mac のシステムを販売し ている Small Dog Electronics 社は、DealBITS の読者とのつきあいを保 つために、なんとリストまで立ち上げた。このリストに加わりたい人は、 <donmayer@aol.com> にメールを送って頂きたい。DealBITS すべての目標 を達成し、TidBITS の維持を助けることができるように、実務の問題を解 決し、出版の他の面とうまくいくように調整することが、我々の現在の課 題である。


下位互換性を与えよ

by Geoff Duncan <geoff@tidbits.com>
(翻訳:齊藤 聡<akkun@ca2.so-net.or.jp>)

先週、San Francisco Examiner 紙に掲載された Tom Abate 氏の記事が、 推測の雪崩、マスコミの憶測記事、そして(例によって)なかばヒステリッ クな TidBITS への手紙の引き金となった。原因は? Examiner の記事は Apple 社の Chief Technology Officer である Ellen Hancock 氏が Mac OS の将来のバージョンでは下位互換性を犠牲にすることを計画中であると 主張したようだ。

<http://www.sfgate.com/cgi-bin/examiner/article.cgi?year=1996&month=10day=04article=BUSINESS15526.dtl>

記事は Hancock 氏が“もし我々が下位互換性と新機能との狭間に立たされ たとしたら、我々は新機能を選ぶでしょう”と語ったとしている。マスコ ミの憶測記事、メーリングリストや Usenet のポスト記事といった物言わ ぬ世代に増幅されたおかげで、いまや一般的な認識では Apple 社が Mac OS 8 では現行の Macintosh のプログラムは動か ない と語ったという ものになっているようだ。

それは単なる誤りである。なぜかを理解するのに頭をひねることはほとん どない。もしも あらゆる Macintosh のソフトウェアが Mac OS の将来 のバージョンで操作できなくなるならば、Apple 社は会社としての自殺を 図ることになる。これは、Apple 社が Unix や Microsoft Windows を選ん で現在の Mac OS を見捨てることを決めるよりも悪い決断だろう。開発者 は商売上 Mac プラットフォームを見捨てるだろうし、もっと重要なこと に、多くのユーザーは愛想が尽きて Apple 社を確実に見限るだろう。そも そも大部分の Macintosh ユーザーは一つの根本的な理由のために Mac を 選択している。それはソフトウェアだ。もしそういったソフトウェアがまっ たく機能しないとしたら、Macintosh はその最も大きな利点を失う。

それでは Apple 社はなんと言っているのか? 基本的に、新しいことは何 もない。Mac OS への段階的なアップデートは毎 6 か月程度の頻度でリリー スされるだろう。Copland の新機能(プリエンプティブ・マルチタスキン グ、新しいマイクロカーネル、新しいファイルシステムなど)が導入され るときに、一部の Macintosh プログラムは新しいシステムソフトウェアの もとで走らせるためにアップデートする必要があるだろう。これは初耳で はないはずだ。Apple 社はこういったことを 1993 年の Copland について の開発者への説明会から明言してきている。ある種のプログラムはほかの ものに比べて問題が深刻化することもあるだろう。もっとも注目すべきは コントロールパネルや多くの機能拡張であるが、明文化されていないシス テムコールに頼っているアプリケーションも問題が起きるだろう。

以前、Apple 社は現存するアプリケーションが最新のシステムソフトウェ アのもとで既存のアプリケーションが動作することを保証するために懸命 になっていた。これはつねに可能だったわけではなく、ある場合では Apple 社は特殊なバグや明文化されていない動作をシステムに残した。これは主 要なソフトウェアプログラムはそういった問題を解決してしまうと動作し なかったからである。Apple 社の方針変更は、明文化されていないような システムコールやそのほかの予測できない非標準的なプログラムの実行に 頼っているアプリケーションやソフトウェアによって自らのシステムソフ トウェアが窮地に陥るのをもはや容認しないことにしたというだけのこと だと思う。Apple 社は以前、下位互換性の保持を(Finder、Sound Manager、QuickDraw などを含めた)システムソフトウェアの種々のコン ポーネントの登場のときに行った。いつも最初に騒動が起こったけれども オペレーティングシステムはなんとかして進歩しなければならなかったし、 これは昔からあったことだ。実際、それは、Unix、Windows 95、Windows NT、VMS といった大部分の他のオペレーティングシステムでも起こってき たことなのだ。

Examiner 紙の記事が、Apple 社は Mac OS の将来のバージョンのかわりに Be OS を使おうと計画しているという兆候であると予想するむきもある。 私にわかるところでは、Apple 社と Be 社の間の状況は、Apple 社と Be 社の両方のユーザーからの多数の広範囲の要求にもかかわらず大きく変化 していない。( TidBITS-343 を参照。)そのあいまに Be 社は(決定し たことではないが)Power Macintosh 用の BeOS のシングル及びマルチプ ロセッサのバージョンを 1997 年の初頭に発表すると言っている。

この出来事(と Apple 社に対する最近のこれとよく似たメディアの混乱) から学ぶことがあるとすれば、それは Macintosh に関する主流メディアの 技術的報告は眉唾ものだということだ。これは必ずしも記者あるいはメディ アに対する批判ではない。私はこういった人々を知らないし、不当な中傷 をぶつけるつもりもない。しかし、流れてきている Apple Computer につ いての主流メディアの記事は 20 人の列で行われた伝言ゲームで耳から耳 へ囁かれて伝えられたメッセージと類似している。たいていの場合、20 番 目の人が受け取ったメッセージは最初のメッセージとはまったく異なって いる。主流メディアの記事では、その列はレポーター、編集者、職員、校 正者、コピーライターおよび寄稿者で構成されている。そして Macintosh ユーザーはつねにその列の最後に位置しているのである。


形態、機能と Quickeys 3.5(第二部)

by Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)
(  :村上 浩  <murasan@yk.rim.or.jp>)

先週号の第一部では、CE Software 社の Quickeys (QK) の概要を述べ、最 近リリースされた 3.5 で新たに加えられた機能をひとつだけ(ツールバー からのトリガ)紹介した。今週号は、QK 3.5 の本格的な評価で締めくくろ う。

創造の制約 -- QK が使用に耐えるものであるためには、QK アクション を作成・編集するプロセスが単純かつ便利でなければならない。私たちは コンピュータを使いたいのであって、コンピュータを楽に使えるようにす るプログラムをいじりたいのではないのだ。多くのアクションはその場の 思い付きから生まれるものだ − 一連のグラフィックを Scrapbook にコ ピーしたいのであれば、単に手作業でやるよりも速くて便利でなければわ ざわざ自動化したいとは思わないだろう。

いずれにせよ、QK ユーザーはこれまでアクションを作成・編集するための インターフェースの不便さやわかりにくさに多少なりともつきあわされて きた。QK アクションには色々なタイプがあり、正しいタイプを不細工な階 層メニューから選択しなければならなかった。多くのアクションタイプは 下手なデザインのダイアログを通じて作成・編集されなければならず、そ のダイアログが多くの場合にはこれまた次のダイアログを呼び出す。これ らのダイアログは QK のメインダイアログと同様にモーダルで、画面上に あるもの(ほかの QK ダイアログを含め)を見えなくしてしまう。(3.5 では、メインダイアログは動かすこともリサイズすることもできるように なったが、依然としてモーダルなうえ、背後のウインドウは描きかえられ ないので、動かしても意味がない。)

いったん QK アクションを作ったら、それがどういうことをするのかを簡 単に見る方法は開いて編集する以外になく(そこでまた例のダイアログが 登場するわけだ)、わかりやすい名前を付けることはできない。場合に よっては名前を変えることもできたりはするが、文字数が非常に限られて いる。それ以外の場合は、名前を変えることは全くできない。たとえば、 Close メニューアイテムを選択するアクションと、Shift と Option キー を押しながら同じメニューアイテムを選択するアクション(Nisus Writer では Close All)には、どちらも Close という名前が付く。コメントを書 くこともできるが、コメントはメインウインドウからは見えない(アク ションのコメントアイコンをクリックしなければ読むことができない)。

アクションをつなげてシーケンスを作るのはさらに大変だ。シーケンスエ ディタでは、シーケンス内でのアクションの位置を変更するためにドラッ グ & ドロップを使うことができないし、カット ペーストで移動する方 法すら直感的にはわかりづらい。ここでも体を表さない名前の問題がある うえ、シーケンスエディタではコメントが全く使えないというさらなる頭 痛の種がある。私はなぜ CE 社がユーザーに編集可能なアクションタイプ からなるシーケンスを作成させることに成功しているプログラムのイン ターフェースを参考にしようとしないのか理解に苦しむ。FileMaker Pro が良い例だろう。

QK シーケンスは長い間、ループやブランチといったプログラミング用の基 本構造を欠いていた。ほかのアクションを呼び出す(または自分自身を無 限にコールする)ことを別とすれば、シーケンスは直線的だったのだ。よ うやく 2.1.2 になって不細工な if 条件文が登場し、3.0 では大幅に改善 された。3.5 では Jump コマンドが改良され、Batch Processor という新 しいタイプのループが追加された。これはフォルダ内にあるファイルをす べて開いてシーケンスを実行するというものだ。ただし、ファイルに加え たいと思う処理が、ファイルを開くという動作を伴わないものだったら役 に立たないということに注意していただきたい。どの条件コマンドも QK のテスト能力という点では限定されたものだし、使うには不細工で不便 だ。

OSA する CE ここで歴史のお勉強だ。1991 年に、System 7 は Apple イベントを導入し、Apple イベントを送受信する方法を知っているアプリ ケーションどうしのアプリケーション間通信(inter-application communication = IAC)を可能にした。1992 年には、System 7.1 が Open Scripting Architecture (OSA) を追加し、Apple イベントを元にしたプロ グラミング言語を作り出すことを可能にした。そして、1993 年には、 Apple 社は自社製のプログラミング言語、AppleScript をリリースした。

CE 社は QK 2.1 に Apple イベントを送受信する CEIAC(おわかりかな?) という機能拡張を導入して System 7 に対応した。しかし、むきだしの Apple イベントは使いにくく、1993 年半ばに QK 3.0 が 3 つの新技術を もたらすことによって大きな変化が生じた:

たとえば、私は複数のグラフィックを QuarkXPress からコピーし Microsoft Word にペーストする AppleScript スクリプトを使っていた。 しかし、この途中で GraphicConverter を経由させて減色処理を施したかっ たのだが、GraphicConverter はスクリプタブルではなかった。そこで、私 のスクリプトが各画像を処理するたびに、Quark と Word には AppleScript で話しかけ、その途中で GraphicConverter には QK の言語でしゃべって メニューを選択したりボタンをクリックするようにしたのだ。

残念ながら、QK とほかのスクリプト言語のインテグレーションはあまり良 くない。これは QK が変数を持っていないため、情報をやりとりすること が難しいからだ。

たとえば、私がスクリプタブルではない Pegasus Mail を使わなければな らなかった時、Novell サーバから私のハードディスクに自動的にメッセー ジをダウンロードし、サーバにあるメッセージを削除するという作業をさ せたかった。QK で次のメッセージを選択して Save を選ぶところまではで きた。しかし、変数がないため、保存ダイアログに毎回新しいファイル名 (“Temp1”、“Temp2”、という具合に)を入力する方法がなかった。そ こで私はほかのスクリプティング用アプリケーションから QK を駆動し、 連続したファイル名を生成するしかなかった。私は HyperCard を選んだ。 これは一応うまく動いたが、非常に微妙で難しかった。ループする度に、 HyperCard は次のファイル名を QK に教えてやらなければならなかったの だ − すべてのメッセージが削除された時、QK にはそのことがわかった (“Save”ボタンが無効になるため)が、HyperCard にループを停止する ように伝えなければならなかった。これにはかなりややこしい技が必要 だった。

私がこのスクリプトを書いて以来、世界は進歩したが QK は進歩しなかっ た。私は今ではこのような場合には PreFab Player を使っている。 Player にはインターフェースがないので、QK のようにアクションやシー ケンスにユーザーが直接トリガをかけるためのものではない。しかし、ス クリプタブルではないアプリケーションをスクリプティング用アプリケー ションで駆動する方法としてはより優れている。というのは、Player のコ マンドは AppleScript や Frontier の UserTalk コマンドなので、このい ずれの言語でもシームレスに変数を使い、ループを処理することができ る。OSA 言語の壁を越えて情報を渡す必要がなく、そもそも言語を変える 必要もないのだ。

<http://www.tiac.net/prefab/player.html>

…できたかもしれない -- 長年に渡り、QK は私の Mac にとって頼もし い働き手となってくれた。Mac のふるまいを変更したり自動化したいとき にはいつも QK にまかせてきた。コンピュータとはプログラムするもの、 というのが私の持論である。少なくとも、コンピュータに命令するのは人 間なのであって、コンピュータが人間に命令するのではない。不便さ、定 型作業、お決まりのアクションや応答を含んでいたり、コンピュータでは なく私の方が機械になってしまいそうなオペレーションやアプリケーショ ン動作から QK は私を開放してくれたのだ。

QK はトップランクに位置する必須の Mac ツールとして長いあいだ賞賛さ れてきた。だが、CE 社はその成功に安して立ち止まることはなかった。継 続的にリリースされてきた QK には常に変更や微調整の跡がうかがえた。 それはまるで現ユーザーの経験を利用しながら使い勝手を向上させ、新し いユーザーをひき寄せる方法を模索しているかのようだった。しかしなが ら QK 3.5 の場合、ツールバー機能とバッチ・プロセッサ命令は別として、 基本的にメンテナンス用のリリースである。3 年間の沈黙期間に CE 社が 最善を尽くした結果がこれかと思うと残念だ。この期間中 CE 社にはほか にどんなことができたと考えられるだろう?

CE 社は QK のプログラミング機能の素性や規模を変更できたかもしれな い。おそらく変数や算術演算子を追加して、QK の内部プログラミング構造 を改良できただろう。それとは逆に、既存のスクリプト言語との統合を強 化できたかもしれない。現状はというと、QK は独立したスクリプティング ・ツールとしては貧弱なままだし、AppleScript や UserTalk 依存型とし てももはや PreFab Player の方が優れている。

CE 社はユーザーの教育や援助のためにマニュアルの改善を決断できたかも しれない。非常に明快だった第二版(尊敬すべき Fred Terry 氏の手によ る)以来悪化の一途をだどっているマニュアルだが、いまや薄っぺらで醜 く、造りは貧素で内容も不十分、しかも情報価値がないときている。これ まで印刷されていた参照情報はすべて削除され、鈍くて融通の聞かない不 適当な Apple Guide フォーマットのオンラインヘルプに置き換えられてし まった。

CE 社は 3.5 をもっと多くの機種で使えるようにできたかもしれない。今 回は System 7.5 以上での動作に限定したため、インストールできるマシ ンはおそらく全体の半数ぐらいになってしまった。

CE 社は QK の基礎能力を向上させることができたかもしれない。以下、考 えられるものを挙げてみる。

<ftp://mirror.aol.com/pub/info-mac/gui/no-desktop-cleanup-121.hqx>

最後になるが、CE 社は QK のインターフェースに真の改良を施すことがで きたかもしれない。新しくなったメイン・ダイアログとシーケンス・エディ タは単に外見を手直ししただけのものである。必要なのはインターフェー スの見直しだ。それも根本から見直す必要がある。

最後に -- QK は今もって意義ある存在だ。私にはこれ無しで作業するこ となど想像できない。System 7.5 以上を使っているユーザーなら、たとえ それが私には気がつかないバグ修正の恩恵を受けるためだけであっても、 きっとアップグレードしたいと考えるだろう。しかしながら、3 年という 休止期間後のリリースだったことを考えると、新規ユーザーのためにも長 年使い続けているユーザーのためにも、今回の 3.5 とは違う全体的にもっ と見直したものをリリースして然るべきである。

<http://www.cesoft.com/quickeys/qkhome.html>

[近いうちに、QuickKeys の主だった競争相手である WestCode Software 社の OneClick と Binary Software 社の KeyQuencer 2.0 のレビューをお 伝えしたいと思う。 -Adam]

CE Software, Inc. -- 515/221-1801 -- 800/523-7638


非営利、非商用の出版物およびウェブサイトは、フルクレジットを明記すれば記事を転載またはウェブページにリンクすることが できます。それ以外の場合はお問い合わせ下さい。記事が正確であることの保証はありませ ん。書名、製品名および会社名は、それぞれ該当する権利者の登録商標または権利です。TidBITS ISSN 1090-7017

tb_badge_trans-jp2Valid HTML 4.01!Another HTML-lint gateway