TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#369/10-Mar-97

Mac OS 8 をどのくらい待てばよいのだろう? あとわずか数ヵ月である。 Apple 社が Tempo を命名し直したからだ。今週号では、CFM-68K の最終 バージョンのリリース、Mac OS の市場シェアの増加、そして特定の Performa 所有者に対する Apple 社からの耳寄りな商談のニュースをお届 けする。さらに、Macintosh 小売販売についての読者からの反響について 触れ、Matt Neuburg がマルチメディアオーサリングプログラムである SuperCard 3.0 に関する詳細な考察を行っている。

目次:

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MailBITS/10-Mar-97

(翻訳:高島 均 <hitak@kk.iij4u.or.jp>)

CFM-68K 4.0 -- Apple 社は、CFM-68K Runtime Enabler のバージョン 4.0 をリリースした。これはこのコンポーネントの旧バージョンにあった “全ての既知の問題”を解決するものである( TidBITS-356 参照)。 CFM-68K は、Code Fragment Manager を必要とする(LaserWriter 8.4、 Cyberdog、AOL 3.0 や Microsoft Internet Explorer 3.0 のような)アプ リケーションを 68K マシン上で作動させる。CFM-68K の最終バージョンが 入手可能となったからには、68K マシン用 CFM アプリケーションのリリー スが速やかになされるべきだろう。[JLC]

<ftp://ftp.info.apple.com/Apple_Support_Area/Apple_SW_Updates/US/ Macintosh/System/CFM-68K/>

Info-Mac が 2 週間シャットダウン -- 97 年 3 月 12 日から、Info-Mac のソフトウェアアーカイブとメーリングリストが 2 週間に渡り停止する予 定だ。これは全員ボランティアである Info-Mac のモデレーターたちが、 その運営の場を由緒ある sumex-aim.stanford.edu から新しいマシンへ移 行するためだ。この間いかなる新規アップロードやダイジェストメッセー ジも受け付けられないだろう。ただし、世界中の Info-Mac ミラーはもち ろん利用可能である。Info-Mac が MIT の新しい住いで再開されたならば、 TidBITS でお知らせするつもりだ。[GD]

Fetch 3.0.2 がリリース -- 企業がインターネットを利用してソフトウェ アをユーザーに直接届けるようになってからというもの、ファイルサイズ は指数的に増大してきているようだ。そして、こうした巨大なファイルを ダウンロードしている最中にモデムの接続が切れてしまい、再び全部を ダウンロードし直さなければならないこともしばしばだろう。Fetch 3.0.2 は、Resume Download という機能を組み込むことによってこの問題を回避 している。この機能は、利用するサーバがそれに対応しているものとして、 当初の接続が中断したところからの再開を試みるものだ。今回のリリース におけるその他の改善点には、Open Transport でのさらなる安定性や Stuart Cheshire 氏の Natural Order ソートアルゴリズム( TidBITS-364 参照)の組み込みなどがある。 [JLC]

http://www.dartmouth.edu/pages/softdev/fetch.html>

PowerBook 1400 用内蔵イーサネット -- Dayna Communications 社は、 最近、この春に PowerBook 1400 シリーズ用内蔵イーサネットアダプタを 出荷する計画を明らかにした。10Base-T アダプタが、2 つの PC カードス ロットのいずれかではなく、ラップトップのキーボードの下に装着される ことになる。Dayna 社や他のメーカーからは、すでに 10Base-T 又は 10Base-2(thin)イーサネットポート搭載の PowerBook 互換 PC カードや イーサネットポートとデータ/ファックスモデム機能兼用のカードが提供 されているところである。 [MHA]

<http://www.dayna.com/dayna/pressreleases/pb1400.html>

WebTV Alertbox -- TidBITS-367 での Mark Anbinder による WebTV に ついての記事のあと、Keith Instone <instone@cs.bgsu.edu> さんから、 WebTV に関するある一つの記事を調べてみてはという提案が寄せられた。 (SunSoft の Distinguished Engineer である)Jakob Nielsen 氏が彼の  Alertbox に書いているその記事は、WebTV の有用性の要因について詳細 に考察しており、もし購入を考えているなら必読に値する。また Jakob の その他の Alertbox コラムについても一度読まれることをおすすめする。 特に、Webにおけるスピードの必要性に関する 3 月 1 日付けコラムには興 味をそそられた。そのコラムでは、スピード(それは最小のグラフィックと マルチメディア効果を意味する)は Web ページに対するデザイン的標準より も優先されなければならないと結論づけている。このことは我々がここ TidBITS でずっと述べてきたことだ。[ACE]

<http://www.useit.com/alertbox/9702a.html>

TidBITS 検索ツール決定戦をお忘れなく -- TidBITS-368 で、11 MB に 及ぶ TidBITS のバックナンバーで使われる最良の Macintosh 用 Web 検索 ツールを見い出そうとするコンテストの詳細についてお知らせした。(そ れが特定の製品であろうといろいろなツールの独創的な実装であろうと) 勝者は、我々が与えるべきにふさわしいもの - TidBITS における公開を手 にすることになる。申し込みの期限 - 97 年 3 月 17 日 - は足早に迫っ ているので、参加する方は編集長の Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com> まで連絡されたい。[JLC]


8 の話で十分 (だけどその他の Apple 社に関するニュースも)

by TidBITS Staff <editors@tidbits.com>
(翻訳:米谷 仁志 <comet@kk.iij4u.or.jp>)

予想外の動きではあるが、Apple 社は先週、7 月に予定される次期 Mac OS について、Mac OS 7.7 という名前の代わりに Mac OS 8 という名で段階的 にリリースするであろう。Apple 社によれば、Tempo は技術的にもまたユー ザーの実際の作業からしても重要なアップグレードである。つまり PowerPC ネイティブでマルチスレッドに対応した Finder 、インターフェースの大 幅な変更、Copland (以前の Mac OS 8 として知られ、今はおしゃかになっ たオペレーティングシステム)で企画されていたアイコンを重ねる度に自 動的に開くフォルダー、といった機能を含んでいる。

この名前の付け直しについては、オペレーティング・システムのリリース を顧客に対してはっきりさせるためというよりは、Mac OS のライセンス料 に関係しているといううわさが広まっている。クローン・ベンダーは、目 下のところ System 7 のライセンスしか持っていない状態で、Mac OS 8 に ついては新たにライセンスを取得する必要があるかもしれない。このこと はアプリケーションが不足気味の BeOS にとっては新たなビジネスチャン スになるかもしれないが、タイミング自体は驚きでもなかった。というの は、クローン・ベンダーの多くは、もともと登録した時点で Mac OS 8 が 1997 年中に出荷が計画されていることを知っていたからだ。しかし Apple 社としては、Mac OS のライセンス料と引替えに、減り気味の収入を増やす ことを当てにすることもできた。そうするならクローン・ベンダーサイド や今日の危機的な市場の動きにとっては打撃になりえたろう。 [GD]

<http://macos.apple.com/macos/releases/macos8/naming.html>
<http://www.be.com/aboutbe/benewsletter/Issue63.html#Gassee>

Mac OS クローンの売り上げ-- Dataquest 社は先頃、パーソナルコン ピュータの市場シェアについての報告を新たに行った。その数字によれば、 Apple 社が Mac OS をライセンスしたことによって、1996 年の Mac OS 全 体のシェアは注目すべき伸びを示している。Apple Computer 自体の 1996 年のシェアはパーソナルコンピュータ市場全体の 6.7 % で、第 5 位にと どまるが、これに Mac OS クローンを加えるとシェアは 7.8 % に増加し、 第 4 位になる。さらに Computer Intelligence 社が最近発表した数字に よると Mac OS のアメリカ市場におけるディーラーベースのシェアは、1996 年 11 月の 8 % から、97 年 1 月には 11 % に増加しており、その主たる 原因はクローンの売り上げによるものであった。Matt Deatherage 氏の TidBITS-363 でのコメントに照らして考えると興味深いことである。 [ACE]

<http://www.ci.zd.com/news/macos.html>

Apple 社 QuickDraw GX Printing をあきらめる-- ユーザーの受けが今 一つだったのとディベロッパー・サポートの都合もあって、Apple 社は、 来る Mac OS 8 においては、QuickDraw GX 技術をプリント機能の中に含め ないと発表した。QuickDraw GX 技術のもう1つの面、タイポグラフィ機能 ・オブジェクトベースのグラフィックを含む部分に関しては今度の OS の リリースに含まれることになるだろう。[JLC]

<http://product.info.apple.com/pr/press.releases/1997/q2/ 970303.pr.rel.print.html>

FTC Apple 社の責任を問う -- もし、Performa か LC 550 、または Performa 560 を 1994 年 4 月 1 日以降に購入したなら、PowerPC への アップグレードを 599 ドルで受けられるかもしれない。それもアップグ レードしたソフトと追加の RAM 付きで、−しかも、もし PowerPC にアッ プグレードしてしまっているなら、776 ドルを Apple 社から返してもらえ るかもしれない。連邦取引委員会(The Federal Trade Commission )が、 これらの機種のための PowerPC へのアップグレードについて「間違った、 また顧客を戸惑わせる」広告を行ったとして、Apple 社の責任を問うたか らである。Apple 社は落度を認めてはないものの、このリベートについて 顧客に直接連絡することになるだろう。この決定にあてはまるなら、あな たの機械の製造番号と購入に関する証明書をもって、Apple 社に遠慮なく 連絡してほしい。Apple Computer, Inc. -- 408/996-1010 [GD]

さらにディベロッパー向けの情報を -- Apple 社は最近、お馴染みの Heidi Roizen( TidBITS-365 参照)の後任として、David Krathwohl を Apple ディベロッパー関連担当の副社長に任命した。この異動についてディ ベロッパーたちから十分な情報が得られているわけではないが、David に はこの仕事に関しての素養はある。つまり彼は、3 年間にわたりヨーロッ パでディベロッパー関連の運営に携わってきており、その後 Heidi が彼を International ディベロッパー関連の重役に任命している。[ACE]


最前線:続報

by Tonya Engst <tonya@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

Ian Gregson 氏は TidBITS-367 に、昨年の年末商戦期間中に Future Shopで仕事をしたときの体験と Apple が売上を伸ばすためには、消費者が Mac を買いたいと思うようにもっと努力したり、Mac を売る販売員がもっとい い見返りが得られるようにすべきだという提案を書いた。読者の数名から、 彼の見解を裏付けたり、補足するような便りが寄せられた。

Peter Miller 氏 <ocean@mpx.com.au> は、オーストラリアの様子を伝え るとともに、カスタマーサービスの重要性を説いている:

シドニーには、Apple センター、正規販売店、至る所に店を出している MacWarehouse など、いろいろな Mac の販売ルートがあります。でも、い ずれも、あらゆる消費者のニーズに対しての通常考えられるサービス水準 を一様に下回っているのです。この状況が余りにもひどいので、「それな りのサービスのための出費ならみんな喜んで出しますよ」とこの間うちの オフィスのマネージャが MacWarehouse の管理職の人に意見したほどです。

Apple は、(少なくとも)次の 2 点において怠慢であると言えるでしょ う。一つには、プラットフォームによる価格差が広がることになっても、 Mac のエバンジェリスト達に気を配り、彼らへの支援を続けるべきなので す。第二には、製品を積極的に薦め、かつサポートしてくれる聡明な販売 員が Apple に必要だということです。このどちらもシドニーでは実現され ていないように思います。

Francis Drake 氏 <fdrake3335@aol.com> は、アメリカ南東部から Mac の維持に関る心配を次のように伝えてきてくれた。

私は Tampa Bay に住んでいます。最近、(Computer City や CompUSA の ような)地元の超大型店に行った時のことですが、だんだんと狭くなって いき、そして時には全く存在しなくなっていたりする“Mac ゲットー”の 横を通りかかった時、デモ用のマシンは動かないし、販売員が一人として いませんでした。

Jeri Croucher 氏 <fsjkc1@aurora.alaska.edu> は、アラスカから、新し い Mac や修理部品の供給に関するコメントを寄せてくれた:

私はアラスカの Fairbanks にある店でコンピュータを販売しています。初 めてコンピュータを使うという人にとっては、Mac の方が PC よりもずっ と上手に使えるだろうと考えているので、Mac の販売台数の方が断然多い のですが、最近では、Mac を売るのが難しくなってきています。例えば、 新しい PowerBook がリリースされた時に、8 台注文を受けました。でも、 結局それから 2 〜 3 ヶ月内には、全部キャンセルされてしまいました。 お客様は、ポータブルなマシンが 欲しかったのです。うちの店に PowerBook 1400 がようやく入荷したのは、2 週間前です。このマシンはリ リース当日に注文を出した商品でした。もし今度私がお客様に入荷できる と分かっているマシンを薦めたからといって誰も私を責めることはできな いでしょう。それに、修理の必要な時でも、部品が届くまでに随分と待た されるのです。うちのお客様の中には、2 ヶ月しか使っていない Mac の修 理部品が届くのに 6 ヶ月待たされたという方もいらっしゃいます。だれも が Mac を持てたらいいと思うものの、Apple の商売のやり方のため思うよ うにはいかないのです。サポートと供給の面をもっとちゃんとしない以上、 Apple 社はいくら広告をやっても無駄なのです。

Shawn King 氏 <sking@direct.ca> は、TidBITS と Guy Kawasaki 氏の やっている EvangeList に次のような Apple に対するコメントと提案を 送ってくれた:

私は、当地カナダ西部で行われた過去 2 回の Apple Demo Days で Supervisor として仕事をしました。私の経験から見ると、Apple 社はコン ピュータを使ったことがない人達とのコミュニケーションをおろそかにし ているのです。私は一日に何十人ものお客様の相手をしましたが、Performa の購入者としては最適の人達(お父さん、お母さん、その子供達など)も、 Mac が使いやすいことは分かっていても、“時代遅れ”だとか“潰れそう な会社製”のマシンは買いたくないのです。TV チューナーカード、QTVR、 インターネットの簡単セットアップ、Megaphone などといったお客様を圧 倒するような機能を見せるよりも、Apple 社についての説明にものすごい 時間を掛けたのです。Apple 社に闘志が欠けているので、消費者は Apple が諦めて、ただ“在庫一掃”をやっているんだと思うのです。

冷え冷えとした風潮 -- 正直な話、コンピュータ界の全般的な風潮とし て、Apple は報道関係受けが悪い [ そのほとんどが、ユーザーの正直な批 評よりも“ニュース”レポートや時評によるものだ -Jeff]。だが、Ian が 記事にしていたような問題に対し相対するような例を挙げてくる意見を TidBITS によこした人はいなかった。

こういった問題に注意をそそぐための計画を練り、その計画の実行状況を 定期的に報告するといったことを行う人が Apple の経営陣の中にいてくれ ればいいのにと思う。America Online を例にとろう:彼らは大きな問題を 抱えている。定額料金制を導入して以来、電話がかかりにくくなってしまっ ているのだ。で、どうしたか? ゴールデンアワーに問題解決にどのように 取り組んでいるかのテレビ広告を流している。昨夜私が目にした広告では、 最近新たに引いた電話線の数について触れていた。私にとって Apple が次 の年末商戦のために、歯切れのいい洗練された販売戦略を行っていること に関する熱烈な記事を(今から 6 ヶ月後に)書くこと以上の喜びはないだ ろう。


SuperCard の驚き

by Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)

私は昔から Apple 社の HyperCard ユーザーだったため、SuperCard には 一瞥もくれたことがなかった。無償だった頃の HyperCard が、私が初めて Macintosh を買うきっかけだったのだ。その後は語学教室の教材を作った り、スタックをネット上で配布したりしたし、今でも情報の格納や作業の 自動化が必要な時には、手っ取り早く解決策を編み出すために HyperCard へと手を伸ばす。HyperCard は実に手軽なのだ。クリックするボタンやテ キストを入れるフィールドを描き、“カード”(ウインドウ・コンテント のセット)上に配置する。そして、自然言語に近く、パワフルで、そこそ こにオブジェクト指向で、ダイナミックなスクリプティング言語である HyperTalk を使って必要な機能を与える。はい、これで Mac らしいイン ターフェースを持った手作りプログラムのできあがり。

私の HyperCard への忠誠は熱狂にも近い。HyperCard を再び無償にするこ とは、私の Mac を救うための気狂いじみた秘密戦略の中心的な役割を担っ ているのだ。ともあれ、1987 年から 1991 年の間に爆発的な進歩を遂げた 後、HyperCard は停滞しバージョン 2.1 で死に絶えそうになった。確かに 1994 年初頭には、私を含め多くのユーザーを大いに安心させたメジャー アップグレード、バージョン 2.2 が登場した。しかし、その後の進歩には 現行バージョンの 2.3.5 に至っても見るべきものがない。Apple が計画し ている QuickTime への移植と HyperCard 3 は、興味はそそられるものの まだ遠い夢でしかない。

一方の SuperCard のことは、私は“HyperCard のマネ”だという噂でしか 知らなかった。ところが 1 月の Macworld Expo で SuperCard のデモを見 た時、「もしかしたら、これが HyperCard の本来あるべき姿ではないだろ うか?」という疑問を抱いた。

SuperCard は 後に Aldus 社に買収された Silicon Beach Software 社に よって生み出された。Aldus 社による買収の後、Allegiant Technologies 社が SuperCard の開発を担って分離独立した。これは 1993 年末のこと だったので、ちょうど今にも HyperCard の息が絶えそうに見えた時 SuperCard は大きな発展を遂げたことになる。ついこの前の 12 月には、 メジャーアップグレードである SuperCard 3.0 がリリースされた。[パ フォーマンスを向上させる 3.0.1 アップデータが Allegiant 社の Web サ イトから入手可能だ。 -Adam]

<http://www.allegiant.com/>

大いなるオブジェクト -- SuperCard は HyperCard が持っているオブ ジェクト群を考え直したうえで拡張している。HyperCard のオブジェクト の階層の最上位にあるのはスタックだ。XCMD を使って“外部”ウインドウ を開かない限り、別のウインドウを開くことは別のスタックに切り替える ことになる。SuperCard の場合、最上位にあるのは“プロジェクト”であ る。一つのプロジェクトは別のプロジェクトを開くこともできるが、プロ ジェクトは複数のウインドウを持つことができ、それぞれのウインドウが 事実上 HyperCard でいうスタックに相当するとともに、ウインドウの種類 にはダイアログやフローティングパレットといった標準的なウインドウタ イプならどれを使っても良い。

メニューも同様にうまく組み込まれている。プロジェクトはそれぞれがメ ニューアイテムを含んだ複数のメニューセットを持つことができる。メ ニューもメニューアイテムも完全なオブジェクトなので、スクリプトを内 蔵したりメッセージを受け取ることが可能だ。

HyperCard スタックのように、SuperCard ウインドウにはバックグラウン ドとカードがあり、このいずれにもボタンやフィールドを入れることがで きる。また、グラフィックを入れることもできる。このグラフィックもス クリプトを入れたり、ボタンのようにマウスイベントのメッセージを受け 取ることができる。グラフィックはビットマップでも、ベクターベースの 領域でも良いので、メモリの消費量が少なく、標準的なシェイプ(長方形、 楕円、弧、角の丸い長方形、多角形、フリーハンド)を使うことができる。 ボタンもが同時に多角形でありえるので、かつて“なんでもボタンにでき る”が SuperCard のモットーだったのも納得できる。

プログラミング言語の SuperTalk はほぼ HyperTalk のスーパーセットと なっており、巧妙かつ望ましい方法で HyperTalk を拡張している。代表的 な例を少し挙げよう。“case”制御構造。文字列のオフセット以外にも、 ある文字列が別の文字列の何行目にあるかを教えてくれる lineOffset。た とえばこのバックグラウンドにあるすべてのボタン、といった具合に、似 たもののリストを作る“describe”機能。フィールドに入っているテキス トの高さの合計をピクセルで示す textHeightSum。itemDelimiter だけで なく、wordDelimiter や lineDelimiter の指定。メッセージの送信経路も HyperCard より優れており、HyperCard の“start using”機能が拡大さ れ、ほかのオブジェクトからのスクリプトを階層の一番上にでも一番下に でも挿入することができる。

たった一つだけ、SuperCard の設計に不満な点がある。たとえば to-do リ ストのスタック(プロジェクト)があるとしよう。どのカードにも、アイ テムを記述したフィールドと、その作業が終了したかどうかを示すチェッ クボックスがある。こういったエレメントはすべてのカードに共通してい るため、バックグラウンドに置かれるべきなのだが、SuperCard のバック グラウンドボタンにはカードごとに異なるハイライトを指定することがで きないのだ(チェックボックスをチェックするのはハイライトを指定する ことに相当するとされている)。同じ問題により、カスタムプロパティと いう SuperCard の最も優れた新機能の一つが無駄になっている。どんなオ ブジェクトについても、カスタムプロパティを定義して操作することがで きるので、ある情報と直接関係のあるオブジェクトと関連づけることがで きるが、バックグラウンドオブジェクトには個々のカードで異なるユーザー プロパティを設定することができないのだ。私に言わせると、これではバッ クグラウンドオブジェクトの意味が無い。

マルチメディアの主張 -- Macromedia Director と張り合うだけのマル チメディアツールというイメージにふさわしく、SuperCard はエンドユー ザーをあっと言わせる機能を豊富に備えている。この中でも、HyperCard ユーザーが最も喜ぶのは完全に内蔵されたカラー機能だろう。ベクターグ ラフィック、フィールド、それにボタンにも色を付けることができ、外枠 や塗り潰しにパターンを使うこともできる。フィールドでは、文字スタイ ルに色を使うことができる。ボタンにはカラーアイコンを付けることがで きる(だが、妙なことに、色付きのテキストはダメ)。ベクターグラフィッ クには色付きのテキストや(各種の一般的なフォーマットからインポート することができる)画像を含むことができる。重なった色は数多くの透明 度、ブレンド、それにエフェクトによって複雑に絡め合わせることができ る。カスタムカラーテーブルと 16 ビットおよび 24 ビットのビットマッ プのインポートにより、最高品質の画像を実現することが可能だ。

強力なムービーコマンドを使えば、こころゆくまで QuickTime を操作する ことができる。さらに、PICS アニメーションや PICT“フィルムストリッ プ”を再生することもできるうえ、オブジェクトをパスに沿わせて動かし たり、オブジェクトのピクチャーやアイコンを変えることもできる。サウ ンドはリソースまたは AIFF/AIFC ファイルから再生することができ、 Speech Manager 経由で text-to-speech にもアクセスすることができる。 こういった効果は非同期なので、あっという間にアクションやサウンドが 溢れるプロジェクトができてしまうだろう。

とことん編集-- SuperCard の環境は完全にはダイナミックではない。エ ンドユーザーとしてプロジェクトを実行するか、システムメッセージを抑 止した状態でオブジェクトを追加したり、削除したり、変更するなどの編 集を加えるしかない。この 2 つの状態は多少はオーバーラップしている。 実行モードでもスクリプトを編集することはでき、編集モードでもメッセー ジボックス経由でメッセージを送ることができる。いずれにせよ、この二 分法は HyperCard ユーザーにはわかりにくく窮屈に感じられる(そのう え、私の 68K マシンではモードの切替え動作が鈍い)。

編集には新機能である Project Editor を使用する。Project Editorはそ れ自体が SuperCard プロジェクトであるウインドウ、フローティングパ レット、メニューから構成されており、SuperCard の驚くべきパワーを誇 示することになっている(それに、ツールメーカーが自社のツールを使用 するという姿勢には拍手を送りたい。ツールがさらに改良されることにつ ながるからだ。)Project Editor は以前 SuperCard の開発環境だった SuperEdit に代わるものだが、今でも SuperEdit は同梱されている(すべ ての機能が Project Editor でエミュレートできるわけではないからだ)。 SuperEdit は SuperCard の新しいエンティティをサポートするようには アップグレードされていない。

そこで結果はハイブリッドな編集環境になる。ポインタやアイコン、カラー テーブル、拡大したビットマップ(“fatbits”)を編集できるのは SuperEdit だけだし、多角形のボタンをオートトレースでシェイプに変換 したり、カードレイヤに影響を及ぼすことなくカードのバックグランドを 入れ替えることができるのも SuperEdit だけだ。一方、SuperEdit はカ ラーアイコンは無視するし、PICT リソースをグラフィックとしてインポー トすることもできない。普通は Project Editor を使い、必要な場合にだ け Quit して SuperEdit を使うということになる。あまり気持ちのいいも のではない。

逆に良い点は、Project Editor のツールはまさに HyperCard ユーザーが 渇望しているようなものだということだ。Property Inspector パレットは カレントなカードやバックグラウンドのオブジェクトをすべて列挙してく れる。あるオブジェクトを選択したら、その名前、位置、サイズなどの主 なプロパティを表示してくれる。Project Browser はウインドウ、カード、 バックグラウンドやメニューを列挙し、選択したり、作成したり、削除さ せてくれる。それに加えて、リソースをコピーする機能も備えている。オ ブジェクトの色やテキストを操作するためのパレットもある。オブジェク トは整列、拡大・縮小、回転、誤操作を防ぐためのロック、それに新しく 複合オブジェクトとしてグループ化することさえできる。優秀な Search 機能により、オブジェクトの名前やスクリプト、内部にあるテキストを検 索することができ、オブジェクトやスクリプトをクリック可能なリストと して表示したり、検索範囲をオブジェクトのサブセットに限定することが できる。

最も優れているのはメッセージボックスだ。なぜ HyperCard もこうしな かったのだろう? SuperCard のメッセージボックスは 2 つに分かれてお り、片方はコマンド入力エリア、もう片方は SuperCard からのレスポンス 表示エリアとなっている(一方、HyperCard の場合は、レスポンスがコマ ンドを上書きしてしまう)。レスポンスエリアは拡大することができるの で、複数行にまたがるレスポンスもスクロールして見ることができ、コマ ンドは後で再利用できるようにヒストリパネルに保存される。しかし、な ぜ Allegiant 社はこの際行くところまで行ってコマンド入力部も複数行に しなかったのだろう? そうすればスクリプトをメッセージボックスから直 接入力して実行することができるのに。これができないため、HyperCard 同様にどこかのオブジェクトのスクリプトにハンドラを作って、それをコー ルしなければならない。

スクリプトの編集は画面を覆うリサイズのできない(SuperEdit を使用し ている場合を除く)モーダルなダイアログボックスで行う。私にはこれは 不愉快で驚くほど原始的に感じられる。スクリプトを編集している時は、 ほかのオブジェクトやスクリプトを覗く必要があるのだ。

ドキュメント、どうした? マニュアルは題材の膨大さからいえば、決し て悪くはない。だが誤植が少なくなく、時には大事な文が本来の正しい文 と全く逆のことを述べているような大失敗もある。また、ややくり返しが 多く、マニュアルと製品の同期が取れていないこともある。最もクールな 新機能が触れられていないのだ。しかし、明らかにこのマニュアルを網羅 的かつ有用にするために多大な努力が注がれており、その努力は実を結ん でいる。

世に問う -- SuperCard プロジェクトは 3 種類の形態でリリースするこ とができる。SuperCard か無償の SuperCard Player を持っている人には プロジェクトそのものを渡すことができる。あるいは、プロジェクトをス タンドアロンなアプリケーションとすることもできる。あるいは、無償の Roadster Web プラグインを使えば、インターネット上で再生することもで きる(ウインドウが一つしかないプロジェクトしか使えないなど、多くの 制約があるが)。

私はプロジェクトを単体のアプリケーションにコンバートしようとして、 その操作が実に苦痛であることを知った。主な問題は SuperCard が SharedFile ライブラリのカラーアイコンを操作する方法にあることが判明 した。アイコンはプロジェクトに移されなければならないが、Standalone Maker を使うとアイコンの ID が自動的に書き換えられてしまい、プロジェ クトには認識できなくなってしまうのだ。そこですべてのカラーアイコン を手作業で探し出し、プロジェクトに移し、このアイコンを使うボタンを すべて変更して新たな番号が付けられたアイコンを認識させなければなら ない。この作業に 2 時間ほどを費やした。インターフェースはバグが多く 粗削りだ。。しまいには Standalone Maker が原因不明のエラーで終了し てしまい、結局単体のアプリケーションは作れずじまいだった。それでも、 68K マシン用のアプリケーションはプロジェクトのファイルサイズより 1 MB ほど大きくなることだけは分かった。マニュアルが謳っている 540K よ りもはるかに大きい。

私にはこのレビュー用に Roadster をきちんと試す根性はなかった。でも Roadster には興味をそそられるし、マニュアルにはすべてのリソースや データがユーザーのマシンにダウンロードされる前からプロジェクトが動 き出すようにするための方法が多数書かれている(特定のデータやメディ アが存在しない場合にどうすべきかなども書かれているのだ)。問題はユー ザーに受け入れてもらえるかだ。特に多数のプラグインや Java がユーザー の注意を引こうとしている時に、単に私のプロジェクトを見るために 1 MB ものプラグインをダウンロードしてくれるだろうか。

SuperCard が私のソフトウエアコレクションから HyperCard を駆逐するこ とはない。私に言わせれば、SuperCard と HyperCard は別の種類のものな のだ。自分だけのためのソリューションを取りまとめるためには、私は常 に HyperCard を選ぶだろう。HyperCard の方が速く、小さく、はるかに便 利なのだ。それに、Allegiant 社は HyperCard との互換性を売りにしてい るものの、私が今までに作った HyperCard スタックの多くはうまく SuperCard に移植することができなかった。というのは、そのいずれもが SuperCard には無い HyperCard の機能に依存しているからだ。レポートや フィールドを印刷する機能、完全なスクリプタビリティ(と内部で OSA ス クリプトを実行する機能)、選択リストにフィールドを使う機能 (SuperCard にも選択リストフィールドはあるが、その中のテキストのス タイルを個別に設定することはできない)、はるかに優秀なソート、カー ドの Boolean マーク、それに(既に述べたように)バックグラウンドボタ ンのハイライトの問題がある。こういった短所は XCMD (全部が無償とい うわけではない)でほとんど解決できるとは思うが、私の HyperCard ス タックがまさに SuperCard に欠けている機能を中心としているのは興味深 いところだ。

それでも、こういった機能を必要としないスタンドアロンアプリケーショ ンを作って配布するには(私が遭遇した Standalone Maker の問題は多分 解決されるだろうから)、SuperCard は理想的だろう。SuperCard の合理 的な設計と比べると、HyperCard はぎくしゃくした、いびつな成長を遂げ た植物のように見える。拡張された HyperCard ライクなメタファは、イン タラクティブなアプリケーションを作る強力で、簡単で、柔軟な方法だ。 また、統合されたカラー環境とマルチメディアエフェクトによって、高度 なプレゼンテーションが保証される。価格はやや高いとは思うが(約 330 ドル)、学割価格はリーズナブルな 129 ドルだし、サイトライセンスのオ プションも用意されている。すでに知り合いの中に SuperCard ユーザーが いたら、Allegiant 社から“SuperCard for a Friend”キャンペーンのダ イレクトメールを受け取っているかもしれない。これなら 149.95 ドルで SuperCard を買うことができる。それでも、SuperCard 3.0 は真面目に検 討されてしかるべき製品のメジャーアップグレードなので、高価格にもか かわらず注目を集めるだろう。

DealBITS -- Cyberian Outpost は以下の URL 経由で、TidBITS 読者に SuperCard を 317.95 ドルで提供している(Cyberian Outpost の 通常価 格の 10 ドル引き)。

<http://www.tidbits.com/products/super-card.html>

    Allegiant Technologies, Inc. -- 800/255-8258 -- 619/587-0500
619/587-1314 (fax) -- <info@allegiant.com>

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