TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#396/08-Sep-97

Power Computing のクローンが消滅してしまった今、Apple の将来を憂え ていないだろうか ? 今週はゲストライターの Matt Deatherage 氏が詳し い分析を行い Apple が競争を恐れていると判断を下した記事を寄稿してく れた。そのほか、Apple が Newton を手放さないニュース、WorldCom と AOL への CompuServe の身売りの話、RAM Doubler、Conflict Catcher、 OneClick をはじめとするソフトの Mac OS 8 対応アップデート情報をお送 りする。今週載らなかった連載記事『成功するシェアウェア』は、いずれ 掲載するのでご心配なく。

目次:

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MailBITS/08-Sep-97

(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

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<http://www.tidbits.com/>

Newton, Inc. はどうなるの ? 誕生したての Newton, Inc. は Apple の 巣から羽ばたくことがないかも知れない。先週の金曜日に TidBITS Updates でお伝えしたように、現在 Apple は PDA 部門を手放さないことをもくろ んでいる。その主な理由は eMate 300 である。Apple が教育市場向けの主 要製品として新しく eMate 300 のデザインを使用したシリーズを出すと か、eMate 300 のデザインを元にした安価なネットワークコンピュータ (アプリケーションとファイル両方のストレージ用としてネットワークを 利用するシステム)を作るとかという報道を行っているところもある。 Steve Jobs 氏は同社がその方向に進むことを歓迎するとのコメントを出し たし、Oracle 社の CEO でありかつネットワークコンピュータの推奨者で もある Larry Ellison 氏が Apple の取締役に名を連ねている現在では、 Cupertino 発のニュースの中で Java が動く eMate ベースのネットワーク コンピュータは特に珍しいニュースでもないだろう。 [ACE]

<http://www.tidbits.com/macnews.html>
<http://www.newton.apple.com/>
<http://www.nc.com/>

WorldCom と AOL に引き取られる CompuServe -- HR Block 社は CompuServe 社株の 80 % を通信関係の大企業である WorldCom に売却し て、引き換えに約 12 億ドル相当の株を受け取ることに合意した。これと は別に、WorldCom は、ANS Communications ネットワークサービス部門用 として AOL 社にCompuServe を利用している顧客を 1 億 7500 万ドルで売 ることになっている。この金額は、AOL がここ数年で ANS 用に支出した 3500 万ドルの約 5 倍に相当する( TidBITS-254 を参照)。つまり、AOL は 260 万人の CompuServe 利用者をもらい受け(CompuServe の名前は存 続されるらしい)、WorldCom は自社の UUNET ネットワークに CompuServe と ANS のネットワークを加え、50 万以上のダイアルアップポートを持つ 巨大ネットワークを生み出すことになるのだ。さらに AOL は、数百万ドル のディスカウントと引き換えに、向こう 5 年間 WorldCom を自社の最大 ネットワークプロバイダとする旨の契約を交わした。CompuServe 社の買収 は避けられないことであったし、一連の取引で各社は自分の欲しいものを 手に入れたようだ。CompuServe 利用者への影響の方は、未だ闇の中であ る。 [ACE]

<http://world.compuserve.com/news/19970905.asp>
<http://www.aol.com/corp/news/press/more/970908.html>

Aladdin 社、ShrinkWrap 3.0 を販売へ -- 先頃 Chad Magendanz 氏作の シェアウェアであった有名なディスクイメージユーティリティ、ShrinkWrap ( TidBITS-339 を参照)を買い取った Aladdin Systems 社は、バージョ ン 3.3 を 29.95 ドルの市販品としてリリースした(アップグレード料は 15 ドルである)。バックグラウンドで動作する新バージョンは、Apple の DiskCopy 6.1 をネイティブにサポートするようになったほか、Aladdin の StuffIt テクノロジーを用いて圧縮率を向上させてある。それ以外にも、 RSA 40 ビットの暗号化や BinHex 化のオプションがついたり、ディスクイ メージを含んだフォルダなりボリュームなりでバッチ処理ができるように なった。ShrinkWrap は(Mac OS 8 を含む) System 7 以降のシステムを 搭載している 全ての Macintosh で動作するが、Plus では利用できない機 能が幾つかある。15 日間限定のお試し版(600K)がダウンロードできるよ うになっている。Aladdin Systems -- 408/761-6200 -- 408/761-6206 (fax) <info@aladdinsys.com> [TJE]

<http://www.aladdinsys.com/dev/shrinkwrap/>

成功するシェアウェアの続編予定 -- 今週は色々なニュースに押され、 Rick Holzgrafe 氏の連載記事『成功するシェアウェア』を掲載するスペー スがなくなってしまった。連載はすぐに再開されるのでご心配なく。 [ACE]


OS 8 関連アップデート情報

by Tonya Engst <tonya@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <odaka@iprolink.ch>)

最近 Mac OS 8 の環境下で発生する問題をフィックスしたり、Mac OS 8 の もとで快調に動作するように調整するためにプログラムのアップデートが 行われたりしている。ありとあらゆるアップデート情報を網羅するのは到 底無理なので、目に付いたものだけでもいくつか取り上げてみようと思う。 アップデートは Mac OS 8 に関連したものだけでなく、System 7 ユーザー にとってもうれしい改良が施されたプログラムが多数ある。

Default Folder のアップデート -- St. Clair Software 社が力を入れ ている Default Folder は、「開く」「保存」のダイアログに機能を加え る便利なユーティリティだ。この中には、多くの人が依存していた(Mac OS 8 上では深刻な問題が発生してしまう)Now Utilities のようなソフト ウェアにある機能が幾つか含まれている。2.7.4 以降のs Default Folder ならすべて Mac OS 8 上で動作するが、(この記事を書いている時点での) 最新バージョンは 2.7.6 である。これは、ダウンロードサイズ 300K の シェアウェア(25 ドル)で、英語版・ドイツ語版・日本語版が用意されて いる。

<http://www.stclairsw.com/df_bg.html>
<http://www.nowutilities.com/os8.html>

Bare Bones の修繕 -- Bare Bones Software 社は 68040 ベースの Macintosh で仮想メモリをオンにしている場合、Mac OS 8 上で BBEdit を 動作させると不安定になるという報告を受け、Mac OS 8 に潜んでいたバグ をつきとめた。Bare Bones 社は Apple が次期バージョンでその問題を フィックスするように求めてはいるものの、修正用機能拡張 VM 8.0 をリ リースした。これにより BBEdit を起動しているいないに関わらず、68040 ベースの Mac での安定性が向上するかもしれない。ダウンロードサイズ は、わずか 3K である。

<ftp://ftp.barebones.com/pub/freeware/VM_8.0_Fix.hqx>

Casady & Greene 社、コンフリクトを発見 -- Casady Greene 社は Conflict Catcher のバージョンを 4.0.3 にアップデートする CC 4.0.3 Updater v2 をリリースした。これは、Appearance Manager を誤ってオフ にしてしまい、そのため Mac を起動できなくなるという問題を解決するも のである。その他、ユーザーインターフェースが少々改良されるなど Mac OS 8 に関係のないマイナーチェンジも施されている。また 97 年 6 月 25 日 〜 29 日の間にアップデータをダウンロードして使用している人は、そ のアップデータで見つかった 2 〜 3 の問題を修正してくれる CC 4.0.3 Update Fixer を入手して戴きたい。ダウンロードサイズは、CC 4.0.3 Updater v2 が約 750K、Update Fixer の方は約 70K である。

<http://www.casadyg.com/C%26G/updaters.html>

Connectix 社、RAM Doubler にパッチを入れる -- Connectix 社は先週 金曜日に RAM Doubler 2.0.2 アップデータをリリースした。これにより、 PowerPC ベースの Macintosh のいくつかでフロッピーをマウントする際 や、Power Macintosh および Performa 61xx で DOS Compatibility Card を使用している際に、RAM Doubler を起動していると生じる不具合を解決 できる。また“このコンピュータについて”のウィンドウが RAM Doubler を正しく認識できるようになった。さらに、このパッチにより Netscape Navigator/Communicator の信頼性が増し、“もうじき登場する Apple PowerBook”で生じるだろう問題を回避することができる。このパッチの ダウンロードサイズは 234K である。

<http://www.connectix.com/html/rd__mac__update.html>

治療済み Norton Utilities -- Symantec 社は Norton Utilities for Macintosh を含む 4 つのユーティリティをバージョン 3.5 から 3.5.1 に するアップデートを用意した。OS 8 ユーザーのための修正点は、Norton Disk Doctor が間違って“Finder の設定に誤りがあります”という診断結 果を出してしまうバグのフィックスがメインである。そのほかとしては、 Speed Disk が出す“b-tree レコードに問題があります”というレポート を Disk Doctor が検知しないという問題や、Speed Disk のマイナーな問 題をいくつか、FileSaver が“色々な PPP ソフトウェア”とコンフリクト を起こしてしまう問題などが修正されている。また、新バージョンの CrashGuard は Virtual PC や Netscape Communicator 4 をはじめとする 幾つかのアプリケーションとの相性が前より良くなった。ダウンロードファ イルは様々な形式で用意されており、サイズは 500K 〜 1 MB である。

<ftp://ftp.symantec.com/public/english_us_canada/products/ norton_utilities/ver3.5_mac/updates/>

Mac OS の中を飛び回るトースター -- (ダウンロードサイズ 780K の) AD 4.0.3 Updater は“After Dark が Mac OS 8 上でうまく動かないとい う問題をフィックスした”のに加え、601 または 603 プロセッサを搭載し ている PowerPC Mac で起動の際に機能拡張の Screen Posters がクラッ シュすることがある、スタートアップのパスワード機能が上手く動作しな い、何を間違ってかスピーカーのボリュームが最大に設定されてしまう、 デスクトップを作りなおしている最中にフリーズするといった問題を修正 している。

<http://www.berksys.com/lite/products/afterdark/ad.html>

OneClick、Mac OS 8 と意気投合 -- WestCode Software 社は OneClick のバージョンを 1.0.3 にするアップデータ OneClick v1.0.3 Updater を リリースした。新バージョンでは、Appearance Manager に対応するように なり、Mac OS 8 での OneClick のメニュー表示の問題や、Mac OS 8 で新 しくなったウィンドウのズームボックスに関る問題を修正してある。ダウ ンロードサイズは、176K である。

<http://www.westcodesoft.com/oneclick/update.html>

多弁な舌への贈り物 -- Apple は Mac OS 8 用の Language Kit Updater をリリースした。これにより、Mac OS 8 で 8 つの異なる言語の Language Kit を使用できるようになった。また、Mac OS 8 に同梱されている Adobe Type Manager のバージョンにご注意戴きたい。バージョンが 4.0.2 であ れば Mac OS 8 や Language Kit に関連したバグをフィックスしてある。 このアップデータは、ダウンロード用に 2 つのディスクイメージ(それぞ れ約 1.5 MB)が用意されており、2 つめの方は Arabic Language Kit を アップデートする場合にのみ必要となる。このディスクイメージは Disk Copy 6.1 形式である。

<http://www.macos.apple.com/multilingual/updater.html>
<ftp://ftp.info.apple.com/Apple.Support.Area/Apple.Software.Updates/ US/Macintosh/System/Language_Kits/>

Novell 社、NetWare Client に対応措置 -- Novell 社がりリースした NetWare Client for Mac OS v5.11は、Mac OS 8 上で使用した場合に生じ る問題(NetWare Encryption を使用中にセレクタからログインできないと か、Open Transport と NuBus ネットワークカードを使用すると障害が出 るなど)をフィックスしたものである。ダウンロードサイズは 164K で、 NetWare UAM、NetWare File Access、MacIPX Ethernet、NetWare Print Chooser の新バージョンも入っている。

<http://support.novell.com/cgi-bin/show_information?FileName=mclupd3.bin>

手直しされた Illustrator -- Mac OS 8 に関連したフィックスを特に上 げることはできないのだが、このアップデート情報も取り敢えず記事に入 れることにした。Adobe Illustrator 7.0.1 Updater は、7.0 をアップデー トするもので、PageMaker や QuarkXPress から Illustrator EPS 画像を 印刷する際に起る問題や Illustrator 7.0 で Illustrator 6.0 形式に保 存した Illustrator ファイルを開く際に起こる問題、Scitex イメージセッ タに印刷する際に起こる問題をフィックスしてある。また、この新バージョ ンにはイメージマップを作る JPEG エクスポート、GIF エクスポートでの 拡散ディザリングといった新機能が加わっている。

<http://www.adobe.com/supportservice/custsupport/LIBRARY/3df2.htm>

ObjectSupportLib -- 最後に、ObjectSupportLib を利用している方は Mac OS 8 システムファイルに共有ライブラリが内蔵されるという話は嬉し いことだろう。これで、ハードディスク上に散らばっているだろうコピー を削除しても大丈夫になるのだ。ハードディスクにまだ古いバージョンが 残っていると Microsoft Excel はそちらの方を使おうとして障害が発生す るという報告を耳にした。

今回の記事ではアップデート情報を網羅しきっていないので、もっと完備 した情報をお知りになりたい方は MacInTouch の Mac OS 8 Special Report にある Compatibility と Bugs の項をご覧頂きたい。

<http://www.macintouch.com/m8compat.html>


Apple 流の競争

by Matt Deatherage
(翻訳:尾高 修一 <odaka@iprolink.ch>)
(翻訳:亀岡 孝仁 <tkameoka@fujikura.co.jp>)

Apple Computer 社はまたもや競争という事態に直面し、野球でいえばノー アウトランナーなしから敬遠策に出た。

Apple の眼力 -- 先週月曜日、Apple 社は代表的 Mac OS クローンメー カー、Power Computing 社の“主要資産”を購入することを発表した。こ の中にはユーザーデータベース、主な社員、それに Power Computing の Mac OS ライセンスが含まれている。その見返りとして、Power Computing に出資した投資家たちは 1 億ドル相当の Apple 株を受け取ることになる。 この金額は Power Computing の自己評価額の半分以上に相当する。同社は 6 月末、認可を受けた 1,772 万株のうち 300 万株を一株 8 〜 10 ドルで 売りに出し上場する計画を発表した。その後この計画は反古になったのだ が、株式市場における同社の価格は 1 億 4,200 万ドルから 1 億 7,700 万ドルということになる。

Power 社に投資した人たちは、Apple が同社の経営戦略を極めて難しいも のにしていたことを考えると、1 億ドル相当の Apple 株は悪い取り引きで はないと思うかもしれない。Apple の Mac OS ライセンス供与は Steve Jobs 氏の鎖国主義的経営のもとで事実上ストップした。さらに深刻なこと に、Apple はクローンメーカーが独自にマザーボードを設計できるような ライセンスの供与を完全に停止したのだ。月曜日の発表は Apple が過去に 生きており、企業の本質である“競争”を避けるためにあらゆる手段を講 じていることを示す最も新しい例ということができる。

チップ戦争 -- 発足当初は品質や出荷期日の問題に悩まされたものの、 Power Computing は性能でも評判でも Apple をはるかに上回っていた。 Apple が本格的な生産のために必要とする量を確保できないような最新の 超高速 PowerPC チップを用い、今年に入ってからは Pentium Pro にも優 る 225MHz 及び 250 MHz モデルを投入し、Power Computing は地上最速の コンピュータを作るという評判を打ち立てたのだ。同社の最新作には Motorola 社の新たな“第 3 世代”の PowerPC 750 プロセッサを使ったマ シンがある。このシリーズは 275 MHz から始まるが、先進のキャッシュ構 造をはじめとする過去 2 年間における PowerPC ファミリーの驚異的な性 能向上のため、旧型の 250 MHz マシンの最高 2 倍のスピードを誇っている。

一方の Apple は、今でも Arthur のコードネームで呼ばれるこの新チップ を使ったマシンをまだ用意していない。そのかわり、Apple の最新機種は PowerPC 604e の最新版である Mach 5 PowerPC プロセッサを搭載してお り、350 MHz のスピードを持っている。Mach 5 チップは速いし、改良され たキャッシュのおかげで同じクロックスピードでは従来の PowerPC 604e より確かに速いのだが、Arthur プロセッサほど高速ではない。この結果、 伝統的に Apple にとってもっとも利益率の高い最高速機種が Apple 自身 のライセンシーのために存在意義を失ってしまうという大きな危機に直面 したのだ。

ライセンス供与の理論と現実 -- ライセンス供与により Mac OS 市場が 拡大し、プラットフォームがより健全になるはずだから、理論的には Apple はこんなことを気にする必要はないはずだ。しかし現実には、過去 2 人の CEO(Michael Spindler 氏と Gil Amelio 氏)の任期にまたがるライセン ス契約は、Apple が Mac OS を製造してサポートする費用に基づいたライ センス料を還元するだけで、クローンメーカーにとっての価値に基づいた ライセンス料ではない。Apple は Microsoft 社が Windows のライセンス に対して要求する比較的低い単価に合わせようとしたようだが、そのため に事実上 Mac OS 市場の拡大だけが Apple に利益をもたらすような構造を 作り出してしまったのだ。Apple 自身には手が届かないが他社なら参入で きるかもしれないと考えた市場ではなく、既存の Apple ユーザーをクロー ンメーカーが追いかけるようになったら、ハードウェアの売り上げから得 られるはずだった利益はライセンス料収入ではとても埋め合わせができな くなる。

Apple にとって不愉快なことに、Power Computing はほぼこれをやってい たのだ。高い評価を確立しようとして、Power Computing は既存の Apple や Macintosh ユーザーにマーケティング努力を集中させたのだ。いったん Apple が消費者に Windows ではなく Mac OS を買わせるという比較的難し い仕事をなしとげたら、横から Power Computing が現れ、Apple ではなく Power Computing の Mac OS マシン、特に Apple が十分な量を確保できな い高速チップを使ったハイエンドのマシンを買うようにしむけたのだ。4 ヶ月前、180 MHz・512K 二次キャッシュつきの Apple 製 マシンは Power Computing の 210 MHz・1MB 二次キャッシュつきマシンよりも高く売られ ていた。

Apple の赤字が Austin の夏に氷が溶けるよりも速く膨らんでいったため、 同社は対策を講じなければならなかった。Apple 製マシンの平均単価は 2,000 ドル前後で、比較的安定した 20 %の 利益を上げることができるた め、一台の売り上げをクローンメーカーに奪われるたびに 400 ドルの損を することになる(それに加え、大量に生産して誰かが買ってくれることを 祈るといったリスクも負わなければならない)。一方、ライセンス供与に よって 50 ドルの確実な利益が上がる(それに加え、最高この 3 倍のマ ザーボード設計のライセンス料も)。Apple 自身のハードウェアの売り上 げほどの利益をライセンス供与から上げることはできないのは明らかだろ う。したがって Apple にとって合理的な方策は、少なくとも奪われた売り 上げの埋め合わせをできるだけライセンス料を値上げし、一方でクローン メーカーが必死で追い付こうとするような魅力的なマシンを作ることにな るだろう。

でも競争は? -- これはもちろん合理的な方策ではあるが、Apple のやり かたではない。最近廃位された CEO、Gil Amelio 氏のもとで一時的にこの 二つは一致した。MacAddict 誌とのインタビューで、Amelio 氏はライセン ス供与を支持した理由の一つとして、Apple が競争することを学ばなけれ ばならないことを挙げた。「 Apple は競争することを知らないのです。革 新することは知っているのですが、この二つは同じではありません。Apple は素晴らしいものを持っているのですが、最終的には競争できなければ市 場で魅力的に見えず、人がどうしても欲しいと思う製品にならなければ意 味が無いのです。」Amelio 氏は Apple に必要ならばやけどをしてでもビ ジネス世界の現実を学ばせようとしたのだ。

<http://www.macaddict.com/exclusive/giltalks.html>

Apple の製品は今まで何度も競合他社の同様の製品の挑戦を受け、Apple は今まで何度も敗れたか戦場に姿を見せなかった。Microsoft 社の Windows が初めて DOS の世界にグラフィカルな Macintosh の恩恵をもたらした時、 Apple は Mac を改良せずに競争を避けて Microsoft を訴えるという道を 選んだ。この戦略は最終的に実を結ばなかった。Windows 95 がさらに Mac との区別を曖昧にした時、Apple は新規購入層が Windows 化の流れに竿を 差すことにちっとも貢献しない“Been there, done that”という自己満足 的な広告で応えた。Apple の最新作、Mac OS 8 にはポップアップウインド ウなどの“新技術”が加えられているが、この機能は 4 年も前に特許が許 諾されていたのだ。Amelio 氏がいう競争というものを知っている会社な ら、新技術を利用するまでにこれほど時間をおくことはない。

Amelio 氏が 7 月に Apple の CEO 兼会長の座を下りなければならなかっ た理由は明らかだ。この人物は Apple の経営陣の中で生き延びるにはまと もすぎたのだ。月曜日夜の Power Computing の資産購入に関する記者会見 で、Apple の CFO 兼暫定指導者 Fred Anderson 氏は、Apple にとってラ イセンス供与は終わったものだということを明確に語った。Mac OS 7.6 の ライセンス契約(それにクローンメーカーの PowerTools と Umax は Mac OS 8 を配布できるようにライセンス契約を改訂した)と、Apple がライセ ンスすることにしたマザーボードの設計のライセンス供与は継続する。史 上初めて Apple の設計ではなくメーカーが独自に設計したマザーボードを 使うことができる CHRP 仕様を認めるつもりはないことも明らかにした。 Apple は CHRP マシンで動作する Mac OS さえリリースするつもりはない。 同社はライセンス供与は利益につながらなかったとしており、これは明ら かにそのとおりなのだが、競争に正面から立ち向かうかわりに、勝利を宣 言するために戦いを放棄しているのだ。

だが Apple の見方は違う。マーケティング担当副社長、Guerrino de Luca 氏は記者団に対し、ライセンシーたちは Mac OS 市場を拡大しておらず、 Apple が Mac OS を開発・販売するためのコスト全体(研究開発、デベロッ パーサポート、プラットフォームマーケティングなど)をカバーするに足 りるだけのフィーを支払っていないと述べた。しかし、de Luca 氏は Apple がまたもや競争から逃げているのではないかという質問には激しく反発し た。「経済的な側面から見たら、ライセンシーがクローンを出荷する度に、 Apple は数百ドルの資金援助をしていたことになります。私たちは(PC 市 場も含め)市場で激しく競争する用意があるし、現実にそうしますが、こ の競争世界でほかのメーカーを援助するつもりはありません。実のところ、 私たちは競争できるようになりたいからこのような方針をとっているので す。」

低いフィーを請求することによってクローンメーカーを援助しているとい う考えは、Apple がバラ色の色眼鏡を通して鏡を見つめていることから生 まれている。Apple が Mac OS ライセンシーに資金援助をしているという 主張は、クローンの売り上げが Apple のハードウェアの売り上げに食い込 んでいるという点においてしか成立しない。Mac OS クローンを買えなく なったユーザーが自動的に Apple に戻ってくるという保証はない。そもそ も最初にこういったユーザーが Apple を捨てた原因はほかにもあるのだ。 Apple は傲慢にも Power Computing の直販方式とカスタム構成が原因だと 考えており、好評の Power Computing マシン群そのものが関係していると は認めようとしない。このことは Apple が開発中の Power Computing 製 品を市場に投入する予定はないと述べていることからもうかがえる。

Anderson 氏は Power Computing 社が保持している 20 万人の Mac OS ユー ザーデータベースが重要な資産だと言っており、Apple はこの人数のうち かなりの部分を取り戻すことができると考えている。だが、Anderson 氏は ライセンス供与は Mac OS 市場を拡大しておらず、クローン購入者の「99 %」は元 Apple ユーザーだっとと述べている。もしこれが事実だとすれば、 Apple はこれらのユーザーの名前を既に知っているはずで、それでも彼ら の財布のひもを緩めさせることができる魅力のある製品を作っていなかっ たということになる。更新された氏名と住所のリストを買い取ったからと いって、この状況が変わるわけではない。

問題の根源 -- これらすべての背後にある本当の動機は、Apple 熱愛者 や Machintosh ユーザーにとってはずっと疑惑的であり、そして楽しみの ないものとなっている。MacWEEK 誌の Henry Norr 氏は公開の場で、Apple 社は 6 月に Mac OS 8 と CHRP のライセンス料について Power Computing 社や他のクローンメーカーとの金銭的合意に達し詳細は 97 年 9 月 28 日 までに決着するとする声明があったことを指摘している。これこそが Anderson 氏や de Luca 氏が、Apple 社に「株主価値」を残しながら達成 出来る内容ではないと月曜日に語ったものそのものである。Norr 氏は、 6 月と 7 月の間にこの契約書では儲からないとなってしまったのはどうし てかを尋ねたところ、Anderson 氏はこの件に関するおおかたの評判であっ た「経営方針の転換」に依るものであることを認めた。

それは "Steve Jobs" と読むべきものである。このApple 社の共同創業者 は、現在は取締役会に対する「特別顧問」であり、自らそのメンバーでも あり、そして会長兼最高経営責任者への就任を断ったにもかかわらず、自 分の時間の半分を会社の方向付けと戦略づくりに費やしている。Jobs 氏は 船長の座を避けるべき理由がある - 現在の契約下では、肩書きなしで効率 的に会社を動かしているし、責任を負うことなしに... あるいは万が一彼 の年代物の 1982 年戦略がうまくいかない場合でも非難を受けずに、権限 をふるうことができる。Jobs 氏は常に Mac OS のライセンシングには反対 で、本体の中の拡張スロットを持つ事にすら反対していた。

Jobs 氏の製品ビジョンは事実で裏付けられている - 彼はパソコンビジネ ス全体を見通していたし、グラフィカルインターフェースの登場も予見し ていた;そして今は、全世界にまたがる高速インターネットが普及すれば それにアクセスするため情報を自分自身で持ち歩く必要はなくなると予見 している。それはまだ小説の世界の彼の事業センスでもある。Microsoft 社は Jobs 氏の NeXTstep や OpenStep( Rhapsody の元になる)の様な先 進的な OS で全世界を席巻できたかもしれなかったのに、現実には Jobs 氏は 10 年の間に少数のしかし忠誠な支持者しか獲得できなかった、それ も高価なハードウェア事業から撤退し OpenStep を標準の Intel コン ピュータ上で走るようにした後ですら。彼は二度にわたって大量の Apple 株を安値で売り飛ばした;つい先月 Jobs 氏は Time Magazine 誌に対し て、Apple 社が NeXT 社を買収した時に彼の取り分となった 150 万株を史 上最低値で売ったことを認めている。彼は Apple 社の人事方針を変更し (人事担当の役員を失うという対価のもとに)従業員に対しても "起業家 的" であれと説いている一方で、自分はその会社の実質的な社長でありな がら個人的には一銭の投資もしていない。Jobs 氏のこの二面的な説教に対 して痛烈な漫画を書いた一人の従業員がいたが、その人は匿名でやったの で幸運であった、と言うのも、Jobs 氏は全従業員に対してその犯人は見つ け次第首であると語ったからだ。

今日 Jobs 氏は再びパーソナルコンピューティングの主要部隊として帰る には絶対勝たねばならない戦いからの Apple 社の撤退を指揮している。 Jobs 氏の夢の舞台は彼の耳に今でもささやき続けている:「もしお前がつ くれば、彼らは自らやってくるさ」。もし Apple がこの地上で一番のコン ピュータを作っていて、お客がこなくても気にすることはない。さらに良 いものを作ろう、あるいは競争にもっとうまく勝ち抜こうとするのではな く、Apple 社はほかの人が作るのを阻止出来ればと望んでいる。競争が、 とりわけ Power Computing 社からの競争がなかったら、Apple のシステム は今日ここまでよくはなっていなかったとしても気にすることはない。

Jobs 氏のこれまでのコメントの中に次のようなものがある、Apple 社は Mac OS というミルクをそれが枯れてしまうまでいかに搾り続け、それから 次の大事業、それは多分取締役会メンバーの Larry Ellison 氏の寵児であ るネットワークコンピュータを Newton の技術を元にして、に移ると言う ものである。もしこれが、大衆には全く正反対の事を言っておいて、Jobs 氏のやっていることなら(と言っても Apple II の所有者なら証言出来る ように、彼にとってはなんら新しい動きではないが)、彼は Mac OS には 実質的に 2 年以下の寿命しか残されていないと思っているのかもしれな い、と言うのも単一ソースと言う彼が Apple 社のために選んだ戦略は新た に Mac に乗り替えようとする人など呼び起こしそうにないからだ。成功で きるプラットフォームから徐々に撤退しお客さんの金を直接には関係のな さそうな事に使おうとすることで顧客の信用を増すことなどあり得ないこ とである。

Apple ファンが、Jobs 氏が失敗した戦略のわけのわからない繰り返しは、 おかしくなった証拠としてより、天才の印として認められる事はほとんど ないということにいつの日か気がつくであろうと望み続けるのは勝手であ る。その日まで、Apple 社は黒字に転化できる戦いで負けを自ら引き込も うとし、多くのまじめな Mac OS サポーターをコケにしようとしている。 顧客たちが、自由市場での Mac OS 競争がどの様な利益をもたらしたか知っ てしまった今、Apple 社の製品はこれ以上はあり得ない状態にあるという 会社の説明に納得するようには思えない。

Apple 社は、まだチャンピオンへの夢を捨てず精進しているのに、タイト ルベルトを勝ち取るには、第 4 ラウンドの終わりで自分が負けているなら リングから逃げ出すのではなく、リングの上にとどまる事が必要である事 を未だ学びとってはいないようだ、それももう第 8 ラウンドかも、いや第 14 ラウンドかもしれないのに。要は Apple 社がノックアウトパンチを受 けるか、時間切れになってしまう前にそれに気がつくかどうかなのである。

[Matt Deatherage 氏は Macintosh ニューズレター MDJ を発行している が、目下のところ休刊中である]

<http://www.gcsf.com/>


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