TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#454/09-Nov-98

HyperCard はクールだろう。しかしビジネスの立場から見て、すべての Mac に無料バンドルする価値があるのか? HyperCard の有用性について述べた Adam の記事を読んでほしい。過度な使用からくる手首の痛みに悩んでいる 人は Andrew Laurence 氏の Kinesis Ergonomic Contoured Keyboard に関 するレビューを読むといい。また Apple 社が新しく導入した 1 ヶ月 30 ドルの分割払い方式や、Retrospect のアップデート、BBEdit 5.0 と Web Confidential 1.1 のリリース、Sherlock プロキシバグの WebDoubler を 使った解決法、窮地に立つ SyQuest 社についてなどを見てゆく。

目次:

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MailBITS/09-Nov-98

(翻訳:秋山 晃子 <nobineko@club.udn.ne.jp>)

Retrospect 4.1 Upgrade がドライブとドライバに対処 -- Dantz 社が Retrospect 4.1 パッケージの種々のパートに対するアップデートのセット を出した。Retrospect 4.1 Driver Update はバージョン 1.6(150K の ダウンロード)で、新しく CD-RW ドライブをサポートし、より高速の DAT (DDS-2 と DDS-3)ドライブがいくつかのコンピュータで起こす問題に対 処している。Retrospect 4.1A Updater( 288K のダウンロード)は AppleShare のロックアウト機能にある問題を解決している。最後に、 Retrospect 4.1 Client Updater(96K のダウンロード)は初期に出荷され た Retrospect 4.1 の CD-ROM バージョンで起こる問題を解決している。 [JLC]

<http://www.dantz.com/upgrades_and_updates/rdu.html>
<http://www.dantz.com/upgrades_and_updates/retro4_1A_updater.html>
<http://www.dantz.com/upgrades_and_updates/client4_1updater.html>

WebDoubler のアップデートが Sherlock プロキシバグを修正 -- Apple 社の Sherlock にバグが報告されている。プロキシサーバから Sherlock を使った場合、正しい検索結果の代わりにエラーメッセージが表示される ことがある。この問題の原因は Sherlock が間違った HTTP ヘッダを作る ことにある。しかし Mac で Maxum 社の WebDoubler を使用し、プロキシ サーバでのキャッシュを設定している人は、今 157K の WebDoubler プラ グインを無料でダウンロードできる。このプラグインは Sherlock が出し た間違った要求を修正し、正しく表示させる。もしネットワークに接続し ているなら、WebDoubler の試用期間限定のデモバージョンをダウンロード し、無料プラグインをインストールし、Sherlock の検索を全部 WebDoubler を通して行ってみるといい。さしあたって問題を回避できるし、WebDoubler をテストするチャンスでもある。 [ACE]

<http://til.info.apple.com/techinfo.nsf/artnum/n24701>
<http://www.maxum.com/WebDoubler/Sherlock.html>
<http://www.maxum.com/WebDoubler/>

強化された HTML 機能が BBEdit 5.0 を際立たせる -- Bare Bones Software 社が BBEdit 5.0 をリリースした。BBEdit 5.0 ではテキストエ ディタの強力な HTML サポートがさらに改良され、マルチファイル検索も 改良され、構文色分けの機能が新たに JavaScript と Perl をサポートする ようになった。新 Tag Maker と Edit Tag コマンドを使えば、コンテクス トに応じたタグが選択されるので、Web コードの製作過程を簡略化できる。 新しい SGML(Standardized General Markup Language)パーサーでは HTML の構文チェック機能が改良されている。また新バージョンに加えられた Set Menu Keys コマンドを使って、よく行う作業のキーボードショートカット を作成できる。BBEdit 5.0 の定価は 120 ドルだが、BBEdit Lite か 競合 する Web オーサリングユーティリティを所有している人なら 80 ドルで入 手できる。BBEdit のバージョン 2.5 以降を所有している人は 40 ドル (送料と取り扱い料が別途必要)で Bare Bones Software 社から直接アッ プグレードできる。BBEdit 4.5 を 98 年 8 月 1 日以降に購入した人、ま たは Dreamweaver(これには BBEdit が含まれている)を 98 年 11 月 6 日以降に購入した人には無料アップグレードが用意されている。2.6 MB の デモ版が入手可能。 [JLC]

<http://web.barebones.com/products/bbedit/bbedit.html>
<http://web.barebones.com/free/free.html>

前向きの Iomega 社、後ろ向きの SyQuest 社 -- 関連する 2 つのニュー スが先週我々の目を引いた。Iomega 社が発表した計画によると、人気の高 い Zip ドライブをコンピュータ市場のみならず、プリンタ、スキャナ、 セットトップボックス、プロジェクションシステム、音楽装置、医療機器、 などにインストールを拡大してゆくという。Zip ディスクは特に信頼性が あるという訳ではないが、十分に小さく、まずまず安く、コンピュータ界 ではかなり普及した装置なので、真の消費者むけ装置へ飛躍する条件は揃っ ている。これは勇敢な挑戦といえる。しかし Iomega 社がうまくやりおお せ、これまで成功から利益を生み出せなかった同社が今度こそ適切に対処 できたらの話である。

<http://www.businesswire.com/iomega/bw.110298/861429.htm>
<http://www.iomega.com/company/news/q398earn.html>

また、競争の激しいリムーバブル・ストレージ市場で Iomega 社の最大の 競争相手である SyQuest Technology 社が操業を停止した。今後、連邦破 産法 Chapter 11 に基づき会社更生を申請するかもしれない。この処置は SyQuest 社が社員を半減した 8 月の 950 人解雇に続くものだ。SyQuest 社によると操業停止中は、ともかく少人数だが暫くはサポートスタッフを 配置し続ける、とのことだ。アクセスに応答が無いので、どうやら SyQuest 社の Web サイトも“操業停止”しているらしい。 [ACE]

<http://dailynews.yahoo.com/headlines/wr/story.html?s=v/nm/19981103/wr/ disks_1.html>

Web Confidential 1.1 アップデートのリリース -- Alco Blom 氏が Web Confidential 1.1 をリリースした。これはパスワードや機密を要する他の 情報を安全に保存するために同氏が開発したユーティリティの最新バージョ ンである(“Web Confidential:あらゆる秘密に安全を” TidBITS-441 を参照)。変更されたのは Mac OS 8.5 の ナビゲーション・サービス と Theme Fonts へのサポート、そして書類が覗き見されないように、使われ ない時間が数分間経過した時点で自動的に書類が閉じる有用なオプション も加えられている。他の小さな機能には、カテゴリ間でカードを移動させ るときに使う Copy Card と Paste Card コマンド、Export To Text コマ ンド、カードにテキストを追加するときのドラッグ ドロップ機能、イン ターネット設定のスクリーン用フォント設定に対するサポート、改善され た Netscape Communicator 4.5 のサポートなどがある。Web Confidential 1.1 は 25 ドルのシェアウェアで 460K のダウンロードだ。正式ユーザの アップグレードは無料になる。 [ACE]

<http://www.web-confidential.com/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05020>
<http://www.web-confidential.com/notes11.html>


iMac が月々 3 枚のピザと同じ

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:松岡 文昭 <mtokfmak@mxa.meshnet.or.jp>)

Apple はクリスマス商戦に向け、さらに多くの iMac 購入者を引きつける ための積極的なファイナンス・プログラムを発表した。1,299 ドルでも iMac は高価と受け取られるかもしれない。だが、Apple の新しいプランで はその代わりとして月々 30 ドルを支払うこともできるのだ(加えて年率 14.89 パーセントとローン締結代金が必要)。暫定 CEO の Steve Jobs 氏 が特筆するには、「一月 3 枚のピザの値段で iMac を所有することができ るのだ。」確かにそれは 67 ヶ月間で毎月 3 枚のピザを食べたならばの話 であり、この方法のファイナンスだと iMac の総コストは 2,000 ドル強 (または 200 枚以上のピザ)となる。

また Apple は、今後、iMac には、Mac OS 8.5、ATI Rage Pro Turbo グラ フィックコントローラー、6 MB のビデオ RAM、そして Adobe PageMill 3.0 が同梱されることを発表した。

この方法での iMac のファイナンス総価格について私は特段否定的なるべ きではないのであろう。5 年以上にわたる支払いの場合、総コストがかな り高くなってしまうのは珍しいことではないからだ。だが、今回のオファー がそれを受ける個人にとって本当に節約となるかは疑問だと思う。加えて、 6 ヶ月以内にますます旧式となるコンピュータのようなものをファイナン スするには 5 年間は長い。

小さな文字で書かれていた部分で私が悲しく思ったのは「ISP 料金は含ま れていません...」であった。私は今年のエイプリルフール号 ( TidBITS-423 )で、Apple が 1 月のサンフランシスコでの Macworld Expo でデビューとなるかもしれないコンシューマー用ポータブル Macintosh と携帯電話を、どのように一緒に使いうるかについて“The First One's Free...”というパロディを書いた。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04794>

それは、Apple が ISP 業者と取引を行い、Macintosh オーナーは Internet 接続に毎月の固定額を払うが、Mac 本体は「ただ」となるというものであっ た。冗談で書いたものだが、そのアイデアにはいくらかのメリットがある。 Apple の今回の月額 30 ドルのファイナンスへの移行は、その他のファイ ナンス方式も検討する意志が Apple にあることを示すものだ。Apple は ISP サービス込みの PC ローンや 2 年後にその PC をトレードできる Gateway 2000 の YourWare プログラムを採用することさえできるのだ。

<http://www.gw2k.com/home/yourware/>

私にはこれらのプログラムがどれほど巧くいくものなのか全く分からない。 Apple では試算を既に済ませており、伝統的なコンピュータ販売方式がベ ストと結論づけているかもしれない。しかしながら、Dell 社は伝統的な販 売チャンネルの否定からスタートしており、オンラインでの販売チャンネ ルは十分成功するものであることが立証されているので、革新的なファイ ナンス方式は Apple の年間業績を向上させるかもしれない。


Kinesis Ergonomic Contoured Keyboard

by Andrew Laurence <atlauren@uci.edu>
(翻訳:高島 均 <hitak@kk.iij4u.or.jp>)

私はここ数年間手や手首の腱鞘炎に苦しんできた。コンピュータに関る仕 事を選んだ以上、これは必然的な職業上のリスクなのかもしれない。とは いえ、反復運動損傷に悩んでいる人なら誰しもが異口同音であるように、 衰弱するは言うに及ばず、状態は耐え難いほどひどくなることがあるのだ。 TidBITS で Handeze グラブのことを読んだときには、すぐさま買いに走り 一セットを求めてきた。このグラブは役に立つことがわかったけれど、引 き続き、異なる机、異なる椅子、異なるキーボードやら何やらを試してみ たのだった。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=02372>
<http://www.handeze.com/>

キーボードについては、モデルの違いによって全く異なるものなのだとい うことがわかった。私の手の場合、上質のがっちりした QWERTY キーボー ドが一番ひどくならずに済むようだ。以前使っていた AST 社のキーボード は素晴らしかったが、同僚の Hewlett-Packard システムのキーボードでは 悲鳴をあげんばかりだった。Mac ユーザーとして、Apple 社の初代 Extended キーボードからは痛みが起こらなかったことに感謝している。 Extended II もおおむね良好だが、AppleDesign キーボードは柔らかくて、 キーをより強く押さねばならず、腱鞘炎を悪化させる。一方、PowerBook G3 シリーズのキーボードは気に入っている。でもこれらはすべて標準的な キーボードの話だ。風変わりな格好をしたエルゴノミックキーボードの場 合はどうなのだろう?

エルゴノミックキーボードは、標準的 101 キーボードよりも人体に悪影響 が少ないと言われている。いろいろな理由から、私はエルゴノミックキー ボードを便利だとは思えなかった。例えば、Apple Adjustable Keyboard のキーは柔らかくて、押下したときのはっきりした感触がない。Microsoft Natural キーボードのキーは気に入っていたが、そのデザインのせいでホー ムポジションからはるか離れたところにまで指を伸ばさなければならなかっ た。指を伸ばそうと努力すればするほど、痛みが増していく。一方、キー ボードを A 字形フレームに収めるもの(例えば BAT)やキーコンビネー ションに依存するようなものは、日常的に多くの種類のキーボードを使わ なければならない私の職業にはあまりに奇抜過ぎていた。

<http://www.infogrip.com/>

そこで、私は、Kinesis Ergonomic Contoured Keyboard を試してみること にしたのだ。

分割する -- Kinesis 社の Ergonomic Contoured Keyboard は、QWERTY レイアウトのタッチタイピングレッスンみたいに、左手用キーと右手用キー とに 2 つに分割されている。それぞれの半分がキーボードの両端近くに位 置するにも関らず、キーボードはほぼ標準 101 キーボードと同じ幅だ。こ の配置によって両手をほぼ肩幅ぐらいに置くことができ、標準キーボード の場合のように両手をひどく前腕を曲げた状態にする(手首を外側に曲げ て大きく開いた“V”の字のようにする)必要がない。さらに、左右のキー セットをお椀のようなくぼみの中に配置しているので、手を休めたときに 自動的にホームポジションに指が位置するのだ。正しい指が自然に動く範 囲にそれぞれのキーがくるようキーに傾きをつけ高さを合わせることによっ て、指をあちこちに移動することがない。(右手の中指で 8 を押すときに 指を前に伸ばす必要がない。指をちょっとまっすぐにするだけで 8 を押さ ずにはいられないのだ。)Macintosh 用モデルでは、パワーキーがキーボー ド背面にあったりして、Apple 社のキーボードを使い慣れた人には妙な感 じだが、それでもごく小さな不便に過ぎない。

<http://www.kinesis-ergo.com/>

モディファイヤキー(Command、Option、Control、Alt)はキーボード中央 付近の 2 つのパッドにある。これらパッドにあるボタンは親指で押すこと になる。スペース、backspace、forward delete、page up、page down、 home、end などのキーもこのパッド内にある。これらパッドにあるモディ ファイヤが移行上の最も困難な点で、これらのキー位置を一から憶えなけ ればならない。ユーザーの多くは、おそらくこれらキーのいくつかを移動 させる必要があると思うだろう。私の場合は、スペースをいつも左手親指 で押していたことから、スペースキーの位置をマップし直さなければなら なかった。Kinesis はデフォルトでこれを右側のパッドに割り当てている のだ。

その変更を施してもなお、私は、再びタイピングの練習をしているような 気分だった。最初の数日間、キーボードから生み出されるのは、出来の悪 かった頃の Newton の手書き文字認識さながらだった。そうでなくても単 語の一つ一つは“ああ!”という叫びとともに寸断され、さもなくばスク リーンに信じられないようなタイポが現れ出た。(大きなプロジェクトの 最中にはこのキーボードに取り替えるもんじゃない!)しかしながら、まも なくスピードや正確度は通常の状態に復帰し、今では以前よりもさらに速 くさらに正確なタイピストとなれたようだ。この上達は、くぼみに収容し キーに傾きをつけ高さを合わせたそのキー配列のおかげであることは疑い ない。ただただタイプが楽になったのである。

苦しみからの解放され大好きに -- とはいえやはり、その証左は苦痛が 消えたことにあるのだろう。Kinesis を 4 ヶ月間使ってみて、手や手首は 数時間キーボードを操作してももはや病むことはない。かつて日常生活に おいても障害者のような感じだったが、今では健常者になれたようだ。そ れはこれまで私が使用したなかで唯一手を傷つけないキーボードである。 少しも痛むことことがないのだ。

Kinesis 社では、Mac、PC、あるいは Sun 社のワークステーションで使え るいくつかのタイプの Ergonomic Contoured Keyboard を販売している。 すべてのモデルは PC 互換だが、Mac ユーザーならおそらく MPC モデルを 求めるべきだろう。このモデルは Mac と PC とで切り替えができる。キー の再マップやマクロプログラム機能によって異なるグレードを選ぶことも できる。Essential(その機能なし)、Classic(ほどほどの機能)、 Expert(機能満載)の 3 種類だ。また、QWERTY もしくは Dvorak のいず れかのキーレイアウトが選べ、両用のキー配列のものさえある。

<http://www.kinesis-ergo.com/contspec.html>

ほとんどのコンピュータストアには置かれていないので、Kinesis 社のキー ボードを探し求めるのは大変かもしれない。Fry's Electronic 社なら PC 用のみの Essential を取り扱っていて、試してみたところではこのキー ボードでも使いやすい。(Fry's 社でそのデモ品を試してみて、私はスペー スキーが再マップできるよう Classic モデルを買うことに決めたのだっ た。)幸いなことに、Kinesis 社では同社の Web サイトに販売店リストを 掲載している。

<http://www.kinesis-ergo.com/resellrs.html>

けちな人に忠告だが、これらのキーボードは安くはない。キーボードに 100 ドル以上つぎ込むなんて想像できない人は値札を見てショックを受けるこ とだろう。私が持っている Mac/PC Switchable Essential QWERTY キーボー ドは 239 ドルだったが、それでも安く手に入った方だと思う。しかしなが ら、その値段は、お金と苦痛の見地からみた潜在的なコストに比べれば極 めて妥当である。最も重要なことは、私の手が痛まないことなのだから。

[コンピュータを生涯の仕事としたことで、Andrew Laurence 氏は作家一族 のはみ出し者である。彼は現在、California 大学 Irvine 校で Macintosh 生態系の面倒を見ている。]


儲かる HyperCard

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)
(翻訳:尾高 修一 <shu@pobox.com>)

“HyperCard よ、おまえもか!( TidBITS-453 )”の記事には、HyperCard への支援の声から今なお健在な HyperCard の話まで多くの反響が寄せられ た。HyperCard と聞くとマルチメディア的なものを思い浮かべる方もいる だろうが、そこで出てきたプロジェクトのほとんどは違うタイプのものだっ た。Geoff が記したように HyperCard は Macromedia Director のような 本格的なマルチメディアプログラムと張り合うようなものではない。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05155>

Geoff の書いた HyperCard の不幸の歴史とその解説を繰返すつもりはな い。私がここで取り上げたいのは、HyperCard がいかに Apple に貢献して きたかということと、今後どんな役目が期待できるかということだ。

コンピュータを使うことはプログラムをすることなり -- 今の時代、こ の見出しに同意しないという人がほとんどであろう。なにしろたいていは、 ワープロ、表計算、グラフィック、レイアウトなどのプログラム、そして メールクライアントや Web ブラウザなどを使っているだけなのだから。だ がアプリケーションが有能になるつい最近まで、ある作業を実行させるツー ルを作ることができるということが Macintosh の強い魅力だった。 TidBITS 編集者の一人の Matt Neuburg は、私の Cornell 大学時代の古典 文学の教授だったのだが、HyperCard がリリースされるまで Macintosh を 購入したり使用したりすることを頑として拒んでいた(これは放課後の 論争の恰好の話題だった)。Matt は決められたことしかできないものには 興味が無く、自分で作り上げる道具が欲しかったのだ。変数をそのまま入 力したり、オブジェクト単位でメッセージを送ったり、実行と編集の間に 違いのない環境といった凝ったコンセプトを持った HyperCard の秘められ た賢いパワーを歓迎した。1994 年 2 月の TidBITS-213 に掲載された HyperCard 2.2 のレビューに Matt の意見の一部が書かれている。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04075>

しかしもっと正確に言うと、コンテクストメニューユーティリティをイン ストールする時、Kaleidoscope のテーマをいじる時、特定のウインドウで アイコンを丹念に配置する時でさえ、コンピュータをプログラムしている のだ。我々はツール、それも相当高度なツールを使って、他にないカスタ マイズのできる環境を作り上げている。たとえば、私は Tonya の Mac が あまり好きではない。それは設定が“間違っている”と思ってしまうから だ。これはあくまでも私から見たらの話で、彼女にとっては完璧なのだ。 我が家の台所 Mac はというと、お互いに妥協して、出荷時の状態に近いま まにしてある。

多くの人のこの手の望みは HyperCard によってかなえられた。デスクトッ プの配置よりも手間のかかるものだったが、ResEdit を使って起動画面に 手を入れることを覚えた者は HyperCard が出現したときにすぐに手を出し た。共有の見込みと、コミュニティが広がりそうだということがその理由 の一部だっただろう。突然自分が“プログラムした”ものが他の人と共有 できるようになった。スタックは豊富にあり、インターネットがまだ駆け 出しだったにも係わらず、コミュニティの間を駆け巡った。共有は実現した。

先週のメッセージの中におもしろい点を突いているものがあった。人は誰 かのことを語るように HyperCard のことを語る。たいていのプログラムに は個性があるが、HyperCard はその比ではない。数多くの個性を伝えるこ とができるのだから。スタック一つ一つがそれを創った人の個性を反映し ている。ひどいインターフェースやとんでもないグラフィックでさえ、そ れが生身の人間またはごろつきがスタックを書いたのだということを表す。 しかしそれ以上に重要なのは、スタックが Macintosh を媒介にしてある人 の技や知識を他の人が利用できるようにしてくれたということだ。

ビジネスへの貢献 -- ここまでは心の問題だが、ビジネスにおける HyperCard の役割はどうなっているだろうか。HyperCard スタックの大多 数は取るに足らないものだったり、似たり寄ったりのものまたは、無意味 なものだったりしたが、複雑高度なことをこなしてくれるものも多くある。 たとえば、私は大学を卒業後、大学の共用レーザープリンタ用に HyperCard ベースのフロントエンドを書いた。バージョンの異なる Microsoft Word 間で互換性のないファイル形式の問題を解決するということに端を発して、 専用の印刷インターフェース、情報リソース、サービスのログを取るため のアプリケーションといったものが完備されるまで至ったのだ。

しかし、他の重大な HyperCard ベースのプロジェクトと比べると私のやっ たことなど取るに足らない。ミネアポリスにある Northwest 航空の Line Maintenance Automation のマネージャである Harry Stripe 氏 <harry.stripe@nwa.com> からのメールを紹介しよう。彼は社内の大型コン ピュータとのインターフェースに HyperCard を使っていて、自分の作った ソリューションを動かすために世界中に Mac のシステムをセットアップし ている。

「HyperCard は 75 を超えるプロセスをサポートするために、一日 24 時 間休む日もなく利用されています。たとえば、大型コンピュータの紙資源 消費型システムはマシンに機体の保守用部品一つの変更があるたびに警告 を印刷するようになっています。それをもっとフレキシブルな HyperCard のネットワーキングソリューションで置き換えたところ、年間 50 万ドル の節約を過去 3 年間行うことができました。HyperCard があるからこそ、 Northwest 航空の 25 ヶ所以上のオフィスで 375 台以上の Macintosh が 今もなお使われていると言ってよいでしょう。HyperCard が無ければ Northwest 航空が Macintosh をサポートし続ける理由が一つなくなります。」

非営利団体である Hippocrates・Winslow・Babbage 財団は、ショック性の 障害の診断、治療、合併症に関する医学的情報を大学の付属病院から集め ている。この団体は大学病院に必要なハードやソフトを提供し、それによ りインターネット経由で集まった情報の統計などにも自由にアクセスでき るようにし、医療における教育と実践の進歩を助長している。医学博士で ある William Burman 氏は次のように語ってくれた。

「HyperCard のおかげで、DOS オンリーの世界に Mac OS をもたらすこと ができたうえ、ネットワークに AppleTalk を持ち込むことを許さない病院 の情報処理部門との激しい戦いにも打ち勝つことができました。HyperCard で Mac OS の威力を誇示することができたために、数十万ドルに上る Apple 製ハードウェアの購入が実現しました。今ではこのハードウェアが米国の 主な大学病院の緊急治療室、手術室、クリニック、それに病棟で医学生や インターン、専門医学実習生、それに医師になくてはならないサービスを 提供しているのです。」

「このソフトウェアが無くなったら、私たちと私たちが看病している患者 にとって大変な打撃となるでしょう。HyperCard が 10 年以上もの間、入 手可能で安定していた(コンピュータ業界ではほぼ前代未聞のことですが) おかげで、ソフトウェアを手直しして改良し続けることができ、今では必 須の診断ツールとなっているのです。Apple の経営陣を連れてきて何が失 われようとしているかを見せたいものです。」

こういったプロジェクトは広く宣伝される商品ではないが、実在する問題 を解決する。しかもその解決の方法は、Macintosh の存在を必要とするも のなのだ。HyperCard が無償ですべての Mac に同梱されていた頃、企業・ 団体ユーザーは積極的にカスタム HyperCard スタックを発注していた。そ れ以上ソフトウェアを購入する必要ないことが判っていたからだ。PC へ乗 り換えるように圧力がかかった際には、カスタム HyperCard スタックを指 して「いえ、残念ですがそれはできません。ソフトが Mac オンリーですか ら。」と簡単にかわすことができた。PC ユーザーは長年 Mac にはソフト ウェアが少ないとわめいていたが、黙々と働いてきた HyperCard スタック の数を数えたことはあったのだろうか?

HyperCard は Mac を繋ぎ止めてきた錨だったのだ。PC にはワープロや表 計算ソフトがあったし、HyperCard クローンすらいくつか存在した。だが 無料だったものはないし、あらゆる Macintosh に同梱されていたものもな かった。

こういった傾向は Apple の HyperCard 開発の滞りと、HyperCard を商品 化するという運命の決断によってほとんどかき消された。私は 1990 年の TidBITS-21 でこれは誤りだと述べたし、HyperCard の開発責任者とリー ドエンジニアからの興味深いメッセージを含んだ 1992 年の TidBITS-106 でも議論を展開した。自分が昔書いた記事というのはたいてい恥ずかしい ものだが、年月を経ても私の意見が全く変わっていないということは象徴 的でもある。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03769>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03228>

こうした障害にもかかわらず、HyperCard スタックはここ数年の Apple 低 迷期に Macintosh が取り去られるような場面で Mac の命をつないだこと は間違いない。たとえば、HyperCard でコンタクトデータベースを作った サンフランシスコのレコーディングスタジオがある。一見たいしたことは なさそうだが、このスタックは単にアーティストの氏名や住所だけでなく、 マネージャ、所属、ギャラ、演奏楽器、ディスコグラフィー、紹介者、特 殊技能(インストやボーカルのアレンジ、編曲、ダイアログルーピング、 物真似)、所在、旅費、それにいつどこで誰が誰とどんな仕事をいくらで したかの系譜を表示する相関関係を見ることもできるのだ。

さらに Avi Rappoport 氏 <avirr@lanminds.com> は TidBITS Talk に以下 の報告を寄せてくれた。

「私の夫の Ed Allen は Geoff と同様、10 年前から HyperCard の仕事を してきており、現実に真剣なプロジェクトに利用しています。今現在彼は Stanford Genome Sequence Center の Human Genome Project に携わって いて、HyperCard をシーケンス分析とバックエンドの Sybase データベー スのリンクに使っています。つい最近この作業のためにハイエンドの Mac を 20 台購入したそうです。」

利益の証明 -- HyperCard の販売数を Apple PR に問い合わせたが、回 答は得られなかった。でも飛ぶように売れたとは考え難いし、時とともに 売上ペースも落ちたことだろう。

だが、ここで私たちは HyperCard が Macintosh の販売に貢献した例を目 の当たりにしている。既存の Macintosh を失わないということの恩恵を定 量化することはできないが、ハイエンド Mac を売れば Apple は確実に儲 けることになるのだ。しかし、HyperCard スタックは今日の最高速 Power Mac G3 でもきちんと動作する。しかもパフォーマンスはぶっとびだ。

こういった状況で HyperCard の存在は新しい Macintosh の導入コストを 相対的に下げる効果がある。というのは、もう一方の選択枝である Windows PC を導入したら、Visual Basic や ToolBook、MetaCard などでプログラ ミングをし直す時間と手間がかかるだけでなく、ダウンタイムやコンバー ジョンに伴う頭痛にも悩まされるからだ。よく言われる PC の安さという メリットも、カスタムアプリケーションの移行ができないとなると雲散霧 消してしまう。

Steve、再考を -- ここで私は、こうした状況について Steve Jobs 氏に あてて礼節をわきまえた手紙を送ることからさらに一歩すすんだ提案をし たい。この手紙の中に、Apple が HyperCard の開発を再開することに加 え、すべての Macintosh に無料で同梱することを説いていただきたい。 HyperCard Player では不十分だ。もし完全版の HyperCard がバンドルさ れたら、今までの停滞から前進することができると思うのだ。

<http://www.hyperactivesw.com/SaveHC.html>

この話題に関しては TidBITS Talk でもいくらかは悲観的な意見が聞かれ たものの、否定的な見方をする人はほとんど HyperCard が無料で普遍的な ツールではなくなり、説得力を失ってからの時代しか知らない世代だ。 HyperCard のソースコードを HyperCard コミュニティに公開することさ え、すべての Macintosh と Mac OS にバンドルするほどの効果はない。こ れでようやく HyperCard が 再び Mac をなくてはならない存在にすること ができるのだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=451>

こうしたところで Apple にとって即利益にはつながらないことは十分承知 している。したがってこれは容易な決断ではないだろう。だが、必要な出 費は必ずしもすぐに利益につながるわけではないのだ。マーケティングや 広告は金をどぶに捨てるようなものだが、これがなければヒット商品は生 まれないことは誰でも知っている。Steve、HyperCard チームにこのあたり の費目から予算を回したらいかがだろうか。HyperCard を Macintosh にイ ンストールすることによって、Mac が守られる効果があると考えて。


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