TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#495/30-Aug-99

この世の終わりを告げるのは、爆発音ではなくハードディスクから響く引 き掻くような音だ。DriveSavers 社が死の世界からデータを連れ戻した話 を Jeff Carlson が語ってくれる。内部情報や逸話も書かれている波乱万 丈の Apple 伝、Apple Confidential のレビューと PowerPC 界の最近の変 化をお伝えする。今週は SkyLINE ワイヤレスネットワーキングのこと、 Anarchie、Documents to Go、BBEdit Lite のアップデート情報のニュース がある。

目次:

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MailBITS/30-Aug-99

(翻訳:尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)

Farallon 社 SkyLINE Wireless PC Card を出荷 -- Apple の AirPort が工場でくすぶっている間に、Farallon 社は SkyLINE Wireless PC Card を擁して Macintosh ワイヤレスネットワーキングの門から飛び出していっ た。このカードにより PC カードスロットが搭載されている Mac および PC は 2 Mbps のワイヤレス Ethernet が可能になる。SkyLINE は間もなく Apple から出る 11 Mbps AirPort テクノロジーと同じ 802.11 ワイヤレス Ethernet 標準を採用しており、同社は両製品の互換性を確認している。 SkyLINE を搭載した Mac は Nokia、Lucent、MaxTech、Nortel、Zoom から のアクセスポイントにもなるし(これは AirPort Base Station に相当す る)、SkyLINE を搭載した Mac がもう一台あると peer-to-peer のネット ワーキングを仕立て上げることもできる。SkyLINE の利用範囲は屋外で 1,000 フィート(305 メートル)、屋内で 300フィート(91 メートル)と なっている。SkyLINE は一枚 300 ドルで、北米、オーストラリア、(フラ ンスとスペインを除く)ヨーロッパでの使用の認可が下りており、フラン ス、スペイン、日本での認可を待っている。Apple の AirPort が世に出て きても、SkyLINE は既存の PowerBook をワイヤレスの空の下に出してくれ るものとして人気は絶えないだろう。

<http://www.apple.com/airport/>
<http://www.farallon.com/tidbits/skyline.html>

バージョンコントロールのバグが解消された Anarchie 3.6.1 -- Stairways Shareware 社は Anarchie 3.6.1 をリリースした。これは出た ばかりの Anarchie 3.6 の小さくはあるが重大なアップデートである。 Stairways 社は 3.6.1 で Anarchie が自分の新しいバージョンをチェック しに行くことができないというバグをフィックスした。このバグは他の機 能の安定性に影響を及ぼす可能性がある。このアップデートは当然のこと ながら無償であり、同社は Anarchie 3.x の全ユーザーがこの 1.4 MB の アップデートをダウンロードするよう推奨している。[ACE]

<http://www.stairways.com/anarchie/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05516>

Palm にもっとたくさんの文書を -- DataViz 社は Documents to Go の バージョン 2.002 をリリースした。これはワープロやスプレッドシートの 文書を Palm ハンドヘルド機で見るためのユーティリティである。(我々 が最初にこの Documents to Go を取りあげたのは TidBITS-469 の「Palm Desktop、馴染みの Organizer 復活を記す」の記事であった。)アップデー トは Macintosh 版と Windows 版の両方が用意されており、スプレッドシー トやワープロファイル内でブックマークを作成、編集、消去できるように なっており、Mac 用の Word 98 Insert Bookmark もサポートされている。 また Macintosh 版の方は AppleWorks/ClarisWorks 5 の文書を読めるよう になり、AppleScript をサポートし、さらには Documents to Go を立ち上 げなくても新規の文書を追加するコンテクストメニューアイテムが用意さ れた。登録ユーザーに対しては無償アップグレードになっており、ダウン ロードサイズは 4.9 MB である。 [JLC]

<http://www.dataviz.com/Products/PIM-PDA/DxTG/DxTG_home.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05300>

輝き続ける無償の BBEdit Lite 4.6 -- Bare Bones Software 社は同社 の息の長い無償のテキストエディタの最新版 BBEdit Lite 4.6 をリリース した(TidBITS Talk ではこの製品について何度も議論があった)。4.6 で はインターフェースが多数加わり、性能が向上し、パターンベースの Grep 検索・置換機能やすべてのメニューコマンドにキーを割り当てるなどの拡 張性がました。そして相変わらず、ディスクスペースとメモリをあまりと らないスマートなアプリケーションであり、プラグイン(同梱されている ものもある)を追加することで機能を拡張できるようになっている。BBEdit Lite は Web サイトの管理やいくつものテキストを対象とした検索などの 高度なテキスト処理を行う手始めになるものである。BBEdit Lite に不満 を感じるならば、登録ユーザーを対象に商用 BBEdit への割引アップグレー ドが用意されている。BBEdit Lite 4.6 のダウンロード量は 1.7 MB で、 使用最低条件は System 7.0 以上(System 7.5 以降を推奨)となってい る。 [GD]

<http://web.barebones.com/free/bbedit_lite.html>
<http://hyperarchive.lcs.mit.edu/HyperArchive/Archive/text/bbe/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbtxt=BBEdit%20Lite>


PowerPC 界で地殻変動?

by Geoff Duncan <geoff@tidbits.com>
(翻訳:亀岡 孝仁 <tkameoka@fujikura.co.jp>)

最近 PowerPC チップの将来はその製造元である IBM 社と Motorola 社の 間の静かだが濁った水の中にあるように見える。一年ちょっと前になるが、 両社は次期 PowerPC G4 プロセサについて意見を異にした ‐ とりわけ、 AltiVec ベクトルプロセサを入れるかどうかについて - そして結果的には 訣別した。Motorola 社は AltiVec を残し PowerPC チップの主開発部門を 取り、一方 IBM 社は埋め込みシステム用の PowerPC チップとそのサーバ 製品の開発に特化するという方向に。ここ数週間の間の二つの出来事は PowerPC の水面を大いに波立たせはしたが澄ませてはくれなかった:IBM 社は PowerPC ベースのコンピュータのためのマザーボードの設計を無償で リリースする計画だし、一方 Motorola 社は Mac OS と PowerPC プロセサ の開発ツールの先端企業である Metrowerks 社を買収する計画だと発表した。

IBM と共に進む -- 今月の San Jose での LinuxWorld カンファレンス で、IBM 社のエンジニア達は PowerPC 750 プロセサ(Macintosh の世界で は PowerPC G3 として知られている)に基づいた IBM 社のマザーボードの 設計を使ってメーカーが自由にコンピュータを作ってもよいと発表した。 これは今ではすたれてしまった Common Hardware Reference Platform (CHRP) 仕様からの派生の設計で、特別貴重な部品は使用しておらず、また 即生産を開始する事に対して障害となる特別のあるいは法律上の制約もな い。見るところ IBM 社自身はこの設計に基づいた製品を作るつもりはない 様だから、他のメーカ−はそのまま使うことも、あるいは他のオプション をつけ加えたりすることもできる。狙いは他のコンピュータメーカーがた とえば Linux を走らせる PowerPC ベースのシステムを作ることである、 これは他の Linux システムに対しても大幅な性能アドバンテージが取れる であろう(とりわけレンダリングやグラフィカル処理で多く使われる浮動 小数点計算で)。PowerPC ベースの Linux システムの市場が大きくなれ ば、IBM 社はより多くの PowerPC チップを売ることができる算段である。

PowerPC ベースの Linux システムが Macintosh の世界にどんな影響を及 ぼすか、あるいは Apple 社が第三者のハードウェア上で Mac OS や Unix ベースの Mac OS X が走るのを許すかどうかを言うのは次期尚早であろう (Steve Jobs 氏復帰以来の Macintosh クローンに対する Apple 社の否定 的な対応から言えば、ありそうにはない事である)。いずれにしても、高 価でない高性能の PowerPC Linux システムが手に入るようになれば PowerPC の存在価値も上がり、間接的にではあるが Apple 社にとっても良 い事となろう。PowerPC Linux ボックスが出たからと言って、Apple 社が 多くの Macintosh ユーザを失うとは考えにくい;Linux を走らせるために 新しい Mac を買う人は非常に少数であろう。さらに興味のあることとして は、Mac OS X の基礎レイヤーにからむ Apple 社のオープンソースイニシ アティブである Darwin が、これら PowerPC ベースのマシン上で展開され るオープンソースグループによって修正が加えられるかもしれない。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04119>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05318>

Motorola 社 Metrowerks 社を買収中 -- Motorola 社は最近その Semiconductor Products Sector が Metrowerks 社を、株主と法制の承認 がとりつけられれば 95 百万ドルのキャッシュ買収をする計画だと発表し た。Metrowerks 社はプログラミングツールである CodeWarrior 製品群を 開発している;CodeWarrior は Mac OS の主導的な開発環境であるが、そ れだけでなく Linux, Microsoft Windows, Solaris, Java, Palm デバイ ス、ゲームコンソール等々数多くのバージョンを用意している。Motorola 社によると、Metrowerks 社の製品と技術は、携帯電話、デジタルテレビか ら通信、そして自動車システムに至る広い範囲での埋め込みシステムのた めの Motorola 社の DigitalDNA イニシアティブのソフトウェアバックボー ンを形成するのに役立つであろうとしている。

<http://www.mot-sps.com/>
<http://www.metrowerks.com/news/index.taf?function=PR&rowid=225>
<http://digitaldna.com/>

しかしながら、Metrowerks 社は現在の経営陣によって独立子会社として運 営されるということなので、おそらくデスクトップ OS (Mac OS を含んで) 用の CodeWarrior 製品の開発及び改良は引き続き継続されるであろう。 Motorola 社の動きは Apple 社に対して複雑な影響を及ぼすかも知れない、 というのも Motorola 社は Macintosh 製品に使われている PowerPC CPU チップを供給するだけでなく Macintosh 用の最も広く使われているソフト 開発環境をも所有する事となったからである。


夏の日の読書: Apple Confidential

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)

10 月に発売予定の本を書き上げたところで、少しばかりリラックスしよう と夏の日の読書を楽しむことにした。私の読書リストの一番上にあったの は、Owen Linzmayer 氏の『Apple Confidential』(No Starch Press 社発 行、ISBN 1-88641-28-X、17.95 ドル。Amazon から買えばもう少し安くな るし、作者のサイン入り本を直接購入することもできる)だった。これは 創立から 1999 年の Macworld San Francisco までの波乱に富んだ Apple Computer 社の社史である。

<http://pweb.netcom.com/~owenink/confidential.html>
<http://www.amazon.com/exec/obidos/ISBN=188641128X/ tidbitselectro00A/>

書名と発行元が変わってはいるが、この Apple Confidential は同氏が Macintosh に関する引用文や実話などを集めて 1994 年に出した本『The Mac Bathroom Reader』の実質上の第二版である。私はお風呂で読書という ことに違和感(と心地悪さ)を覚える人種に属しているが、「バスルーム 読本」というタイトは実に適切だと考える。なぜなら、一章一章は短いし、 引用文や補足的なコラムさらには把握しやすくまとまった情報が満載なの だ。ところが Apple Confidential では、このスタイルが悪いほうに作用 してしまっている。Apple 社史の異なる側面を伝える必要から同じ情報が 別の章で繰り返されており、まとまりが悪いとかしつこいといった印象を 持ってしまう。

しかし、この本の内容と Owen の仕事ぶりは感嘆モノだ。私も TidBITS を 通じ、ほぼ 10 年にわたり Apple を追い続けているし、Macintosh 関連会 社の表の顔に隠された真実を学ぶのがこの仕事をやっていて一番楽しいこ とだと思っている。Apple Confidential は『Apple Computer, Inc. の実 話』という副題通りのもので、他では知ることのできないような情報もあ り、裏切られることはない。Owen は本をまとめる間相当な数の Apple 内 部の人と話をし、様々な出来事の原因や真相を探ることに成功している。

Apple にはビッグブラザーっぽい 1984 という金髪モデルの Anya Major を起用したもの(彼女は円盤投げの経験があったので選ばれた)と、崖の 縁に向かってやみくもに行進していくビジネスマンの行列を映した悲惨な Lemmings という有名なコマーシャルがあるが、これらにまつわる話はこの 本が内部情報に通じていることをよく現している。両コマーシャルとも Apple の上層部で論争になったために、当時の CEO John Sculley 氏が広 告代理店 Chiat/Day にスーパーボウルのコマーシャル枠を売り戻すように と命じたほどだ。1984 に関しては Chiat/Day は Apple が買っていた枠 90 秒のうちの 30 秒を売ることができ、John Sculley はこの 1984 の取 り扱いを(当時のマーケティング担当副社長、現在 Intuit 社の取締役会 長である)William Campbell 氏と(マーケティングと販売担当の筆頭副社 長)E. Floyd Kvamme 氏に委ねた。両氏は 1984 に賭けることを選び成功 した。Lemmings では、Chiat/Day 社は Apple の 60 秒枠を売ることに成 功したのだが、Sculley が再度決定をマーケティングの責任者 Mike Murray 氏に委ね、同氏の意向により買い戻すことになったが、Lemmings は失敗に 終わった。過去を読み取るというのがこの本の趣旨であり、Owen は 1984 が Macintosh の華々しいスタートという加勢のもとに成功したものであ り、一方 Lemmings は Macintosh Office という Macintosh をファイル サーバ上にある LaserWriter や共有ファイルに繋ぐことがそもそものコン セプトであるものを発表するはずのコマーシャルだったと指摘している。 残念ながら、Macintosh Office のコンセプト自体は素晴らしかったもの の、ファイルサーバ部分が出荷されるまでそれから 2 年の月日を待たなけ ればならなかった。この件を表現した当時の Apple France のジェネラル マネージャー Jean-Louis Gassee 氏の言葉「Macintosh オリフィス (穴)」が紹介されている。

Steve Jobs、John Sculley、(3 年の任期中常に Apple を売ろうと必死に なっていた)Michael Spindler、Gilbert Amelio、そして再び Steve Jobs と移り変わった CEO のそれぞれの在職期間ごとに同社の内部をかいま見る ことのできる話が盛りだくさんだ。『The Mac Bathroom Reader』をすでに お読みになっている方は新しい話を期待しているだろう。なにしろこの 5 年間の Apple はジェットコースターに乗っていたようなものだったのだか ら。Copland などのテクノロジーが現れては消え、Apple の株価は乱高下 を繰り返し、Macintosh クローンが登場して結局は Apple によって刈り取 られた。Apple は采配が難しい組織ではあるが、Apple の CEO は現在の姿 になるような重要な決定をおこなってきており、各人の話は示唆深い。

Owen Linzmayer 氏は主に Macintosh 雑誌に記事を書いており、彼の雑誌 記者的な経験は個々の章の報道文的スタイル以上に Apple Confidential 全体によく現れている。この本の正確さは特筆に値する。自分がよく知っ ている分野のことについて書かれている本を読み、真実なり分析なりに賛 同できなかったりすとがっかりし、そのためにその本のその他の部分の信 ぴょう性も疑ってしまう。私は Apple の内部事情には精通していないが (特に設立当初当時のことは)、同社の歴史についての彼が暴いたことや 解説のいずれについても一度も疑問に思わなかった。

Owen がこれら事実の多くを雑誌記事用に調査したことが読んでとれるだろ う。Mac OS や Macintosh モデルの年表の数字などは興味をそそるだけで なく、Apple について書こうとするすべて者にとってものすごく有益であ る。また、過去 4 年間の CEO(Spindler、Amelio、Jobs)別になっている Apple の四半期利益のグラフは学ぶものがある。

最後に、私はこの Apple Confidential を今後記事を書いたりする時の情 報源として利用するだろう。Macintosh 史実、引用文、話、コードネーム のことなどこの本に勝る情報源などない。(この本が発売されて以降で面 白かった話は、ブロンズキーボードの PowerBook G3 のことである。これ は一般的には「Lombard」として知られていたが、私が話をした Apple 社 の人すべてが「101」というコードネームで呼んでいた。)みなさんは Apple Confidential を私のようにリファレンスとして利用する必要はない かもしれないが、Apple や Macintosh に興味のある方であれば時が経つの も忘れるぐらいこの本に書かれている情報に夢中になるだろう。


DriveSavers 救助隊

by Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
(翻訳:西村 尚 <hisashin@hotsync.co.jp>)
(  :尾高 修一 <shu@pobox.com>)

ある夜遅くまで高校の校内新聞用の記事を書いているころのこと、職員の 新しい Mac Plus を使って記事を書き終えてフロッピーディスクに保存し た。その記事を書き終えたのが嬉しかったのだろうか、あるいは若さで体 力をもてあましていただけかもしれないが、私はメジャーリーグの野球の ピッチャーのように身体を巻き上げ、ホームベースに向かって決め球の速 球を投げ込むようにして巻き戻した。いつもと違っていたのは、フロッピー を右手の親指と人指し指で軽く握っていたので、ディスクを部屋の向こう の金属の書類棚の側面に直接投げつけることになったことだ。

この一投はいまでも忘れられない。ライティングとソフトレンズで優美に 映画のスポーツスターによって演じられたようなスローモーションの記憶 がつきまとう。ベージュのプラスチックの小さな破片が水平に飛び出し、 それから数秒前まで私の記事の 唯一のコピー を意味していたゆがんだ 磁気円盤の上に落ちた。ハイテク機器がいかにこわれやすいか初めて学ん だときだった。

このフロッピーディスクの破壊の記憶が最近文字通りよみがえった。 PowerBook のハードディスクが不快なガチャーンという音を立て始めて主 力マシンが壊れてしまったのだ。ドライブともっと大事なそこに格納して いたデータを救済するためには、Disk First Aid を使った診断以上のもの が必要だった。以前から私は DriveSavers の評判のよいデータ復旧サービ スがその評判に値するのだろうかと思っていた。これは直接体験できるチャ ンスだった。

<http://www.drivesavers.com/>

こうしてドライブはお亡くなりになる - 私は常にひどいハードドライブ のクラッシュは視覚的な見ものだと考えていた。データは画面上にさまざ まな形で表示されるわけだから、それをみなめちゃめちゃにされるという ことは、まぶしい色とデジタルの花火でも起こるんだと思うだろう。しか し、私のドライブの終焉は静かなものだった。Command + S を押してファ イルを保存した後で、ドライブが少し回ってからときどき大きなクラック 音に中断されながら速いクリック音を立てた。

私は PowerBook を止めて再起動したが、疑問符のアイコンが点滅する以外 なにも起こらなかった。Mac OS 8.5 CD-ROM からの起動はうまくいくが、 私のドライブのパーティションは現れないし、Disk First Aid や Drive Setup でも見えない。しかし、マシンの電源を入れると必ずクリック音と クラック音が続いた。読込み/書込み機構がきこりのようにディスクプラッ タを傷つけている様子が目に浮かび、よけいな損傷が加わるのを最小限に できればと、急いでシステム終了した。

幸いにも、自分の Macintosh のバックアップに関する Adam の記事 ( TidBITS-432 の“今日のバックアップはお済ですか?”を参照)に促さ れて、私はついに自宅に DAT ドライブと Retrospect を購入していた。つ まり自分のデータをバックアップしていたわけだ。残念なことに、テクノ ロジーのせいで良好に動作しているかに見えることがあまりに多かったの で、自分のバックアップが完全かどうか確かめることに熱心ではなかった。 だから、きちんと定期的に情報をバックアップはしていたが、私の方の過 ちは Retrospect が間違ったデータをバックアップしていたという意味だ。 つまり、毎日の Web ブラウザのキャッシュファイルを 除外する 替わり に、それ だけ をアーカイブしていたのだ。なんてこった。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1041>

フルバックアップは 2 週間前に行っていたので、データの多くは有効だっ た。オフィスにある別のインクリメンタル・バックアップで、データ損出 の大部分は 1 週間に抑えられた。電子メール以外はだ!私は大量の電子 メールを受け取り、長年に渡って、電子メールプログラムは私の生活を左 右するようになっていた。まるまる一週間分のメモと締め切り、会話、取 り決めがなくなってしまった。そして、もちろん、多数の締め切りを手品 のようにやりくりしていくのだ。

恐ろしい静けさという寒気のする妙な感覚が私を襲った。映画ジョーズで Roy Scheider 演ずる登場人物が最初に人食いザメに出会って「もっと大き な舟が必要になるぞ。」といったときのように。長い一週間になること悟っ たのだ。

<http://us.imdb.com/Title?0073195>

応急処理 -- DriveSavers に連絡して(800/440-1904、米国とカナダ以 外からは 415/382-200)、問題のほとんどはハードウェアの損傷らしいこ とを確認した後で、マシンからドライブを外してカリフォルニア州ノヴァ トの本社に送った。PowerBook G3 の扱いやすい設計のおかげで取り外しは 簡単だった。

とかくするうち、できる限りデータをバックアップから外付けの APS ハー ドドライブにリストアし、これが PowerBook G3 用の主たる起動ドライブ となった。携帯が必要になることは何度もあったし、外付けドライブを持 ち運ぶのはお粗末で格好も悪いので、PowerBook 5300cs を再起用して一週 間前の電子メールと必須のファイルを詰め込んだ。2 つのマシンの速度の 違いは劇的だったが、モバイルを続けることができ、仕事への影響を最小 限に抑えられた。今回の場合特に、PowerBook 5300 はこれを売ることで得 るなによりも、私には控えのマシンとして価値があった。

DriveSavers 救助隊 -- 消えてしまった仕事や連絡文書の断片をなんと かつなぎ合わせようとしていた間、DriveSavers の技術者たちは私の不調 ディスクを診断していた。DriveSavers をご存じでない方でも、Macworld Expo でのブースの様子を聞いたことはあるだろう。水槽の底に沈んだ PowerBook 100 や、原形をとどめないほど溶けたラップトップ PC の展示 からは、DriveSavers がほとんどあらゆる災難からデータを救出するとい うのが本当だということがわかる。(同社の Web サイトにある Museum of Bizarre Disk-asters では同様のデータ救出劇の例を見ることができる。)

<http://www.drivesavers.com/0/museum.html>

DriveSavers で私に応対してくれた John Christopher 氏は、クラッシュ の原因がディスクのヘッドを支えるアクチュエータの故障にあったことを 突き止めた。原因究明のためにはディスクの物理的機能をテストする独自 のハードウェアデバイスを用いる。診察のために故障したディスクをコン ピュータでマウントすることは絶対にしない。というのも、ディスクをマ ウントするとディスクの構成が書き換えられ、データ救出に必要な貴重な 情報が消されてしまう恐れがあるからだ。

「当社ではクリーンルームで毎日ディスクの分解や組み立てだけを専門に 行う技術者がいます。」と彼は述べた。「技術者はあなたのディスクが故 障の原因が物理的なものであることを突き止め、アクチュエータを取り外 し、全く同一モデルのドライブから取ってきた部品を代わりに入れたので す。」 DriveSavers では 128K 以降のあらゆる Macintosh を 100 台ほど 揃えており、存在したことのあるリムーバブルドライブは各種最低 1 台を 用意し、かつ 3,000 種類を超えるハードディスクの部品を用意してある。 「これで安全のため一つ一つのセクタをコピーしたディスクのクローンを 作ります。ディスクが届けられた時には、すべてがおしゃかになる前にチャ ンスは一回だけだと考えるからです。」

私の場合、ハードウェアの故障がディスク上にある情報を破損しなかった ので、データの回復は簡単だった。「完璧なディレクトリが残っていたの で、クローンをマウントしてデータをコピーしました」と John は言う。 「ほとんどの場合はこんなに簡単ではないので、ディスクをくまなく漁り まわる自社製ソフトウェアを使い、なんとかしてデータを回復しようとす るのです。」

診断とデータ回復、それに復旧には約 7 時間かかった。分解と組み立てが 通常 1 〜 2 時間かかり、クローン作成とデータ回復にはデータの量にも よるが最低 2 時間が必要だ。DriveSavers は続いてデータにウイルスが潜 んでいないかチェックし、CD-ROM、Zip ディスク、Jaz ディスク、ハード ディスクなど好みのメディアにデータを移してくれる。DriveSavers が提 供している DataExpress サービスを利用すれば、データを FTP サイトか らダウンロードすることもできる。米国東海岸のクライアントには時間の 節約になるオプションだ。

「一度ニューヨークのクライアントのために急ぎの仕事をしたことがあり ます」と John は言う。「ディスクは西海岸時間の午後 9 時に宅配便で到 着しました。データの復旧が終わったのは午前 3 時だったので、 DataExpress サイトから東海岸時間の午前 6 時にはダウンロードを開始す ることができ、午前 9 時にはサーバを復旧させることができたのです。」

私のディスクが音を立てて死んでから 6 日後、UPS が死んだハードディス クとその中身をすべて収めた 5 枚の CD-ROM を届けてきた。これで当時の データが半永久的にアーカイブされたというおまけつきだ。私のようなケー スで、DriveSavers が通常の 1 〜 2 日サービスで 4 GB のディスクを回 復した場合、価格は問題の原因にもよるが 900 ドルから 2,800 ドルにま で上る。DriveSavers は特急、エコノミー、海外、出張サービスに加え、 高セキュリティサービスも用意している。早い話、DriveSavers はカジュ アルな使用には決して安くないが、データが本当に大切な場合はそれだけ の価値があるものだ。

保証問題 -- データを取り戻した私にとって、最後のハードルは壊れた ディスクを交換してもらうことだった。PowerBook はまだ買ってから一年 経っていなかったので、故障したディスクは保証対象内だったことになる。 だが、DriveSavers がディスクのケースを開けている(通常は保証が無効 になる)ので、保証対象であることを確認しておきたかったのだ。幸い、 これはいらぬ心配だった。DriveSavers は毎月 400 個に近いデバイスを処 理するので、ハードウェアベンダーやディスクメーカーと緊密に連絡を取 り合っている。私は保証内でディスクを交換してもらえることになったのだ。

ここまで来てからの問題は、意外なことに新しいディスクを文句言わずに 注文してくれる地元の業者を探し出すことにあった。ある業者は診断のた めに PowerBook を丸ごと持ってこいと言った(オリジナルのディスクは DriveSavers によって開けられ、改造されていたこでこれは不可能)うえ に、ディスクを注文して取り付けまで行うと言った。これだと完全に正常 な PowerBook が最低でも 5 日間使えないことになる。調べてまわった結 果、地元の Apple 認定サービスセンターである MacTechs にたどり着い た。ここは交換用ディスクを注文し、壊れた方と引き換えに渡してくれた。

<http://www.mactechs.com/>

この場合 Apple に直接電話するのは役に立たなかったが興味深いことでは あった。私の説明を聞いた後、テクニカルサポート担当者は DriveSavers がディスクを外したかどうか聞いた。私がノーと答えたら、自分でドライ ブを取り外したことによって保証が切れた可能性があると言った。Apple は PowerBook でユーザーが自分で取り外しのできる部品は RAM だけであ ると考えているからだという。私の PowerBook のマニュアルの 81 ページ と 82 ページには、ユーザーが“修理またはセキュリティ上の理由のため” ディスクを取り外すための方法が詳しく説明してあるのであるが。この点を 指摘したら、担当者は機嫌を損ねたのでこれ以上は追求しなかった。すで に地元の業者が対処できそうだったので、Apple の誰かに聞いてみること もしなかった。これは単にこの担当者が理解不足だったのかもしれない。

その夜遅く、新しいディスクを取り付け、DriveSavers の CD-ROM から回 復したデータをコピーし、その週に加えた変更と付け合わせ、高校の編集 室でしたこととは違うことをした。ベッドに入ってぐっすりと寝たのだ (もちろん、その間 DAT ドライブがきちんとバックアップを取っていた)。


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