TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#532/22-May-00

ビッグ・ブラザーが監視している?気になる?プライバシーの世界と他の 世界との境界線について、CFP 2000 での作家 Neal Stephenson 氏の基調 演説に基づいた Adam の考察を読もう。Adam はまた、Apple 社の Worldwide Developer Conference を Mac OS X と WebObjects、QuickTime に関して取り上げる。先週出荷されたものには、PowerMail 3.0.1、 Farallon 社の 11 Mbps の SkyLINE 無線 PC Card、EIMS 3.0 がある。 (ご注意:来週号はお休み!)

目次:

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今回の TidBITS のスポンサーは:


MailBITS/22-May-00

(翻訳:西村 尚 <hisashin@hotsync.co.jp>)
(  :三好 泰子 <yokomo@mio.to>)
(  :冨田 将英 <atimot18@sa2.so-net.ne.jp>)

次号は 00 年 6 月 5 日 -- 来週末は米国の戦没将兵記念日なので、00 年 5 月 29 日号を発行しない。それでも重要なニュースは来週ずっと Web サイトに掲載する。00 年 6 月 5 日発行の次号をお楽しみに。この休刊中 に Macintosh 界に起きた劇的な変動はすべて注視している。(我々はまだ 1996 年 12 月のクリスマス休暇中に起きた Apple の NeXT 買収を思うと 胸が痛む。 TidBITS-360 の“NeXT とともにやってくる次のシステムとは?” を参照。) [JLC]

<http://www.tidbits.com/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=00778>

Farallon 社 11 Mbps 無線 SkyLINE カード出荷 -- Farallon Communications 社は、既に 2 月にアナウンスしている、SkyLINE 11 Mbps 無線ネットワーク接続カードの出荷を開始した。この SkyLINE カードに よって、PC カードスロット付きの Macintosh PowerBook やラップトップ PC を 802.11 のネットワーク規格に基づいた無線ネットワークへ接続する ことができる。この規格のネットワークには、Apple 社の AirPort カード やベースステーションを使ったネットワークも含まれる。SkyLINE カード は、200 ドルで、スループットが最大で 1 秒あたり 11 メガバイト(実際 のスルーアウトは、もっと低い値であることは間違いないが)、使用可能 範囲は、約 150 フィート(約 50 メートル)、そして、マルチプラット ホームドライバによって、PowerBook 190、1400、2400、3400、5300、G3 シリーズ(Mac OS 7.5. 5 以上)、また、Windows 95/98、Windows NT が 稼働するラップトップ PC( Windows 2000 のサポートは計画の段階)で使 用できる。Farallon 社製 2 Mbps の SkyLINE カードを使用しているユー ザーは、160 ドルで 11 Mbps バージョンにアップグレードできる。しかし ながら、インターネットにアクセスするために無線ネットワークを主に使 用する場合、この 2 Mbps スループットの旧式 SkyLINE カードでも、おそ らく、ボトルネックにはならない、ということを心に留めておく価値はあ るだろう。[ACE]

<http://farallon.com/products/wireless/skyline/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05808>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05524>
<http://farallon.com/products/wireless/skyline/upgrade.html>

PowerMail 3.0.1、マニュアル追加とバグフィックス -- バージョン 3.0 が出たばかりだというのに、CTM Development 社は、PowerMail 3.0.1 を リリースした。無償アップグレードで、電子メールクライアントに関する 多くのマイナーな問題に取り組み、いくつかの待ち望んでいた機能が付け 加えられている(TidBITS-530 「新天地 PowerMail へ」を参照のこと)。 改良点の中で、主なものは、マニュアルのアップデート、パフォーマンス の向上、undo の適用範囲の拡大、フィルタ作成の簡単化、そして、うわべ だけのもの、徹底的なものを含む多くのバグ修正を行っている。もしも、 PowerMail 3.0 を使用中、あるいは、30 日間限定のデモ版( PowerMail のリリース日からではなく、プログラムを起動してから 30 日間)を評価 中であるなら、絶対、アップグレード版をダウンロードすべきだ(ダウン ロードサイズ 2.4 MB)。動作条件として、PowerPC 搭載の Mac で Mac OS 8.5 以上が必要。[ACE]

<http://www.ctmdev.com/powermail3.shtml>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05930>

Qualcomm社 EIMS 3.0 を出荷 -- Qualcomm 社は、Eudora Internet Mail Server (EIMS) 3.0 の出荷を開始した。これは、Glenn Anderson 氏の人気 の高い Mac OS 用メールサーバ の最新バージョンである。EIMS 3.0 で強 化されている機能の中で最も重要なのは、IMAP 4 のサポートだ。(よく知 られている POP 3 で行っているような)ユーザーのマシン上ではなく、 サーバ上にメッセージを蓄積しておくことができる。Eudora、Outlook Express、PowerMail、Mulberry、そして、Netscape Communicator の現バー ジョンでは、Macintosh 上の IMAP をサポートしている。また、EIMS 3.0 は、スループットがバージョン 2.x の 2 倍、管理者が SMTP サービス用 に使うポートをコンフィグできるようになったなど、他にも改良がなされ ている。動作のためには、68030 搭載の Mac かその上位機種で、最低 8 MB の RAM、System 7.1 以上、Transport 1.12 が必要。ただし、IMAP を 使用するならば、実際には、もっと必要になるかもしれない。さらに、 EIMS は、新しい価格設定を行った。8 月中旬までは、新規購入が 400 ド ル、アップグレードが 150 ドル、8 月中旬以降は、それぞれ、500 ドル、 250 ドルに跳ね上がる。60 日間デモバージョンもあり、これは、ダウン ロードサイズ 2.3 MB。[GD]

<http://www.eudora.com/eims/>

アンケート結果:正当な代価の支払い -- 先週号の Gadget Software 社 による盗作事件についての記事をきっかけとして、我々はもっと一般的な、 人々がシェアウェアフィーを支払わずにシェアウェアを使っている状況が 気になりだした。TidBITS のアンケートが匿名であることを告知しながら、 “あなたが普段 Mac で使用しているシェアウェアプログラムのうち、およ そ何パーセントについてフィーを支払っているか?”という問いかけをし た。結果によると、TidBITS の読者はおおよそ正直者の集まりのようだ。 1,180 の返信のうち、約 70 % の人が半分以上のシェアウェアフィーを支 払っており、うち22 % の人は必ず全てのシェアウェアフィーを支払ってい ると述べた。半分以下のシェアウェアにしかフィーを支払っていないと述 べた約 30 % の回答者のうち、わずかに 7 % がシェアウェアフィーを全く 支払っていないことを認めた。また、TidBITS Talk ではこの話題につい て、なぜ人々はシェアウェアフィーを常に払おうとはしないのか、シェア ウェアの作者はどうすればフィーを支払ってもらえるのか、そしてどんど んと縮まるシェアウェアと市販ソフトウェアの違いといった興味深い問題 を取り上げている。[JLC]

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbpoll=41>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1037+1038>

アンケートのお知らせ:あなたの秘密を守る -- ニュースメディアはこ このところ顧客プライバシーへの脅威に関する話で持ちきりだ。会社の電 子メールをスキャンする雇い主、ユーザーの全ての動きを追跡するサイト (そしてサイト間のユーザーの動きを追跡している広告サービス!)、ま たは−あまりにも−予想できるパスワードを推測して家庭のコンピュータ へのアクセスを得ている悪党の話を毎日耳にする。というわけで、今週の アンケートは“あなたはオンラインのプライバシーを守るのに何か特定の 作戦を立てているか”である。答えには、強力な(簡単に思いつくもので はなく)パスワードを使用している、ウェブサイトが要求する cookies を ブロック、または監視している、匿名の電子メールまたはウェブサービス を利用している、そしてデータ保護に暗号化を用いている、がある。ホー ムページから投票して欲しい。そして もちろん 我々のアンケートは匿 名である![GD]

<http://www.tidbits.com/>


Mac OS X が駅から発車

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:畔上 毅範 <azegami@mwe.biglobe.ne.jp>)
( :尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)

Apple 社が毎年開催する Worldwide Developers Conference(WWDC)は、 開発者の頭部、製品マーケッティングマネージャーの胴体、そして宣伝係 の後ろ脚を持つ奇妙な獣だ。表面的には、この会議は Mac 信奉者の集まり としては 2 番目のもので(もちろん来月の MacHack が 1 番だが)、数千 人の Macintosh 開発者が出席し、その中には Apple の市場のほぼ半分を 占め、そして Mac コミュニティーにさまざまな製品を供給する、外国から の参加者が含まれている。しかしこの会議を開催する Apple の目標は、 マーケッティングと宣伝と同じくらいに、近々登場する Apple テクノロ ジーについての技術詳細を伝えることでもある。健全で熱狂的な開発コミュ ニティーなくして Macintosh が成功する可能性が、ペンギンが空を飛ぶよ りも低いことを、Apple は理解している。

しかし開発者は、マーケッティング活動の焦点になることについて疑問を 持っている。そして Apple が過去に犯したテクノロジーに関してのドタバ タ劇は、彼らの軽い被害妄想を強くするだけだった。Macintosh コミュニ ティー全体における Mac 開発者の重要性はいうまでもないので、WWDC に 参加している開発者のやる気を見極めることに、私は最も興味があった。 なぜなら、前進する Macintosh の成功を左右するのは、Apple 以上に開発 者だからだ。

<http://www.apple.com/developer/wwdc2000/>

重たい貨車 -- 基調演説で Steve Jobs 氏は、Mac OS X 列車は駅から動 き出したとコメントした。そして、Apple は、会議全体を通じてこのメッ セージを繰り返し強調した。Mac OS X は、Mac OS の将来だ。Apple はこ こ数年、休むことなく Mac OS X の開発を続けてきた。適切かつ必要な改 良と、それに伴う遅れにもかかわらず、Mac OS X の開発は Apple が意図 する軌道に乗っている。不透明な動きや、現バージョンの Mac OS を使っ てリスクヘッジを行なうなどの動きは見られなかった。そして、第 3 四半 期に Mac OS 9 用製品のリリースを計画していた開発者は、Mac OS 9 と Mac OS X の両方に対応する完全にカーボン化されたバージョンを、来年始 めにリリースするように強く勧められた。Apple の開発者向け Web サイト のバッジには誇らしげに、「去年は Mac OS X は約束だった。今年は現実 だ。」と書いてあった。

<http://www.apple.com/developer/>

過去 2 年間では、WWDC の後で私が話す機会があった開発者は、Mac OS X に関するApple の計画については、慎重ではあるが楽観的な見方をしてい た。しかし、Apple が Mac OS X に対してコミットするのを見るまでは、 開発者は Mac OS X に対してコミットすることには積極的ではなかった。 Apple が Mac OS X から撤退しないという見方は、時が経つにつれて勢力 を増している。最近では 1 月の Macworld Expo の基調演説で、2001 年 1 月に出荷するすべての Mac に Mac OS X をインストールすると約束した ことで、最高に達した。開発者は新技術に対してリスクを負うことはいと わないが、Apple も同じ馬にたっぷりと賭けていることが条件だ。

スケジュールに関してマイナーな遅れはいくつかある。(たとえば、今年 の半ばにあるのは、Mac OS X の“カスタマーリリース”や“予約販売”で はなく、“公開ベータ”であること。あるいは、2001 年 1 月のリリース は、“出荷するすべての Mac”ではなく、“インストールオプション”で あること。)しかし、Apple が全速で Mac OS X に向かって突き進んでい るのは明らかだ。すべての物事は想像よりも難しいことを忘れてはならな い。まったく新しいオペレーティングシステムを、16 年目のプラット フォームに持ってくることの複雑さには、尻ごみしてしまう。私は、数ヶ 月早く Mac OS X を使えることよりも、Mac OS X が機能し、安定し、洗練 していることを Apple に望む。

WWDC で Mac OS X を中心にした多くのセッションからのレポートによれ ば、開発者の数は増加し、慎重ではあるが楽観的だった見方の多くは、はっ きりした熱狂に変わった。Apple が同じことをここ数年続けて言っている こと、そして実際に Mac OS X の実動プレビュー版を見せたことが、去年 に比べて苦情を減らすことに大きく貢献している。なぜなら開発者は、基 礎レベルの技術問題の決着がつき、現在では出荷することに注力している ことを理解したからだ。

いずれにしても、客席からあれこれ言っても意味がない。少なくとも数ヶ 月以内に出る公開ベータまでは。あるフィードバックセッションからのリ ポートによれば、より良いオンラインフィードバックとサポートフォーラ ムを可能にするシステムに、Apple は投資している。外部からのフィード バックには長年無関心であり、過去にフィードバックを求めたときでも、 フィードバックされた情報を無視し、何のフォローもしなかったApple に とって、そういったシステムは、重要なステップになるだろう。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05554>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=01104>

Mac OS X の詳細 -- Mac OS X に関する子細をお伝えしよう。WWDC でデ ベロッパー全員に配られた Developer Preview 4 の中に、Microsoft Internet Explorer の Mac OS X 対応バージョンが入っており、Microsoft 社の Macintosh インターネットソフトウェアチームの支持が得られている ことがよく分かる。また、Mac OS X は Java 2 Platform をサポートする ので、Mac OS X が載った Mac が現在の汚名を返上して、Java マシンとし て気に入ってもらえるようになるかもしれない。Mac OS X の動作条件は 64 MB 以上の RAM を搭載し、PowerPC G3 または PowerPC G4 プロセッサ で稼働する Mac となっている(が、例によってアップグレードカードを挿 した Mac は問題になる)。なお、Apple は最終リリースのことを“Mac OS X 1.0”と慎重に呼んでいた。これはつまり、単に Mac OS 9 の後に続くも のではなく、全く新しい製品であるという意味が込められているのだ。Mac OS X はMac と使う人の関係を大きく変えるものなので、バージョン番号の カウンタをリセットして、これからの製品なんだと思ってもらうことが重 要なのだ。

<http://www.apple.com/pr/library/2000/may/15macosx.html>

WebObjects がただ(同然)に -- WWDC では、Apple のパワフルな Web アプリケーションサーバーソフトである WebObjects 4.5 の価格を現在の 5 万ドルから 700 ドルに引き下げるというビッグニュースも発表された。 実は、この WebObjects は使用制限なしに一つのサーバで利用するバージョ ンの話であり、制限のあるバージョンで以前から 5 万ドル以下で入手でき るものもあった。さらに、WebObjects のこの大幅な値下げにより、コンサ ルタントなどの業界が異常に盛り上がるだろうことは目に見えている。 WebObjects を利用したソリューションを他の多数の競合製品よりもずっと 安く顧客に売ることができるようになるのだから。

<http://apple.com/pr/library/2000/may/15webobjects.html>

Apple が WebObjects の価格を普通の人の手の届くところまで下げたから といっても、WebObjects が突然ユーザーレベルの開発環境になるわけでは ない。WebObjects の右に出るものなどなかなかいないのだが、WebObjects は巨大かつ複雑なシステムで、完全に理解するにはものすごい時間と労力 がいるのだという話をデベロッパーたちがしてくれた。このレベルの製品 としては当たり前のことなのだが、おおかたの Macintosh ユーザーが求め るものではないだろう。

それにもかかわらず、値下げにともない Apple は WWDC でかなりの数の セッションを WebObjects に割いた。同社がより多くの人に WebObjects を使ってもらいたいと思っていることが窺える。今まではその価格、必要 システム条件、Apple のマーケティングの努力不足のために、相当な数の 潜在的ユーザーの足を遠ざけていたのだ。Apple はコンシューマー、教育 関係、クリエイティブ、小企業といった市場で成功しているのだから、 WebObjects の値下げは、収益の上がるビジネス市場に手を伸ばす長期戦略 開始の前兆かもしれない。これは 1996 年後半に Apple が NeXT を買収し たときの私の予想でもあった。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=00778>

WebObjects 4.5 は現在 Mac OS X Server、Windows NT/2000、Solaris、 HP-UX で動作するのだが、Apple は、WebObjects 5 は完全に Java で書か れるのでその他の OS にも門戸が開かれることになると、発表した。

次期 QuickTime -- 普及している QuickTime は今なお Apple の社宝の 一つである。Apple は、Mac 版と Windows 版合わせて 5 千万本以上の QuickTime 4 Player が配布されたと公表し、このテクノロジの重要性をデ ベロッパーにしっかりと認識させた。さらに、次期バージョンの QuickTime が披露された。これは、MPEG-1 および MPEG-2 ビデオ、Flash 4 Web アニ メーションがクロスプラットフォームでサポートされ、QuickTime VR が改 良され完全な三次元ビューが可能になった。さらに、QuickTime は G4 チッ プの Velocity Engine に対応した QDesign ソフトウェアを利用している ので音楽のエンコードがかなり速くなる。この次期バージョンの QuickTime は今年の半ばに出荷されることになっている。また、(QuickTime Player や Mac OS 9 の Sherlock 2 で目にする) Apple のインターフェースのな かでもとりわけ使いづらい嫌われ者の「引きだし」も姿を消すことになる らしいという噂がある。

<http://www.apple.com/quicktime/>
<http://www.apple.com/pr/library/2000/may/15qt.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbpoll=14>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05433>

期待の WWDC 2001 -- 今年の WWDC が終了し、ぐったりした参加者達は 耳にした情報に思いを巡らすために家路へとついた。多くのデベロッパー がかなりやる気になっていると見受けられたので、来年の WWDC の参加者 はさらに増えるのではないだろうか。今年は、Unix デベロッパーが多数参 加していた。彼らは、はたして Mac OS X が自分たちを大衆市場へと導い てくれるカードになるとかどうかや、Apple が自ら課したスケジュールを まっとうするかどうかを見に来てたのだ。Mac OS X に魅了されたデベロッ パー達が水が湧くように Macintosh プラットフォームにやって来るかもし れない。これは我々にとってありがたいことである。


脅威モデルと抑圧体系

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <shu@pobox.com>)
(  :亀岡 孝仁 <tkameoka@fujikura.co.jp>)
(  :吉田 節 <benjamin.takashi@nifty.ne.jp>)

ビッグ・ブラザーを恐れておいでだろうか? 朝のおはようから始まり、長 時間におよぶメールや Web の使用、それに寝る前に Mac をシャットダウ ンするまでが、秘密スパイ衛星によって監視されているのではないかと不 安ではないだろうか? 私はそんなことはないが、気になるという人はいる。 それどころか、私は毎年トロントで開催されるプライバシーのメッカ、 Computers, Freedom and Privacy(CFP)に出席した後でもまだビッグ・ブ ラザーに悩まされるには至っていないのだ。

<http://www.cfp2000.org/>

ではあなたはビッグ・ブラザーを気にするべきだろうか? それはどちらと も言える。私は最近、自分がプライバシーを気にしていないということに ちょっと不満を覚えてきている。私が選んだ人生では、公の存在であるの はバーチャルな世界だけであることも関係があるかもしれない。あるいは、 私の考えがあまりにも世の中に知れ渡っているため、個人的な通信が公開 されてもせいぜい恥をかく程度で済むからかもしれない。隠すようなこと は何もないと思っているのも確かだ。

だからといって決して私が個人のプライバシーを軽んじているというわけ ではない。有名人のプライベートな面に焦点を当てるマスメディアは、良 くいえばプロとしての礼節を欠いているし、悪くいえば道徳観念が消し飛 んでいる。私の(あるいはナイーブな)世界観では、誰もがある程度のプ ライバシーの権利を持っており、その権利があまりにも基本的なものであ るからこそ、日頃そのことを心配する必要があってはならないのだ。

そうであってくれれば良いのだが。

ハイエナとビッグ・ブラザー -- 小説家 Neal Stephenson 氏(好評だっ た『Cryptonomicon』や古典的『Snow Crash』をはじめとするサイバーパン ク小説の作者)が CFP の基調講演で語ったことが、私はもっとセキュリ ティの心配をしているべきなのではないかと思うきっかけとなった。彼の 講演の中心は“脅威モデル”というものだった。これは単純な円グラフで、 人々がどんなことを思い悩んでいるかを示すものだ。Neal によれば、初期 の人類はハイエナの恐怖に悩まされたらしい。ハイエナは喉ではなく腹部 を攻撃するから、ということだった。早い話、同じ死ぬには最悪の過程と なるわけで、この説が人類学的・古生物学的に正しいかどうかは別として、 このシナリオのおかげで Neal は初期の人類の脅威モデルを構築すること ができたのだ。それは円グラフの形をしており、95 % には“ハイエナ”と 書かれており、残りの 5 % は“その他”となっていた。要するに、初期の 人類はハイエナに脅えながら暮らしていたのであり、ハイエナに対する恐 怖がライオンや腸内寄生虫、あるいは隣の部族と比べて誇張されていたに もかかわらず、ハイエナが恐怖の大半を占めていたということがポイント なのだ。

<http://www.cryptonomicon.com/>
<http://www.amazon.com/exec/obidos/ISBN=0380788624/tidbitselectro00A/>
<http://www.amazon.com/exec/obidos/ISBN=0553562614/tidbitselectro00A/>
<http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A24833-2000Apr6.html>

時代は下って現代、George Orwell の専制政治小説や世界各地で現実に起 きている政府による諜報活動の行きすぎにより、多くの人がハイエナをビッ グ・ブラザー(George Orwell の“1984”に登場する全知全能の政府)で 置き換えた脅威モデルを培ってきた。他の心配事もありはするのだが、い ずれもビッグ・ブラザーとは比較にならない。プライバシーに関するレト リックのほとんどがこの脅威モデルの枠内のものであり、私のような他の 人々がこのレトリックを非現実的で誇張されていると感じるのは、まさに こうした単線的思考が理由となっている。ビッグ・ブラザーも気になるか もしれないが、ほかにも気になることはたくさんあるのだ。

<http://www.amazon.com/exec/obidos/ISBN=0451524934/tidbitselectro00A/>

Neal はこうした“ほかにも気になること”を Walter Wink 氏の用語を用 いながら説明した。Walter Wink は個人に対する権威主義構造の影響を 論じながら“抑圧体系”という言葉を生んだ人だ。要約すれば、抑圧体系 とはあなたに力を及ぼすことのできるあらゆる権威的集団を指す。抑圧体 系とは理論的には中立で(特定の抑圧体系、たとえばビッグ・ブラザーは 違うかもしれないが)、善玉でも悪玉でもありえ、仮に悪さを働いてもそ の埋合せをすることができる。ビッグ・ブラザーは全知全能であるが、抑 圧体系には境界がある。ひとつの抑圧体系から別の抑圧体系の影響のもと へと移動することができ、あるいは境界線が自らが移動することもあるの だ。

次に Neal は抑圧体系間の相互作用を示す例として、John Brodeur 氏の例 を挙げた。John Brodeur 氏はワシントン州東部にある Hanford Nuclear Reservation の内部告発に立ち上がった人物だ。放射性廃棄物漏れを暴露 した後のある朝、彼は暴漢に追跡され、とある駐車場で口論になった。彼 が拳銃を取り出すと、まわりの野次馬が警察を呼んだ。そのうち実はこの 暴漢は Hanford の警備員だということがわかった。ここでのポイントは、 二つの抑圧体系(暴漢と Brodeur 氏の告発に敵意を懐いている Hanford の体制)が一つになったことだ。さらにいえば、もう一つの抑圧体系(拳 銃を隠し持っている Brodeur 氏を逮捕しにきた警察)が、Brodeur 氏が武 器所持許可証を持っていることがわかると、結果的に暴漢の脅威を中和す ることにもなった。(Neal は、この話がもしフィクションだったら、暴漢 に拳銃を向けておきながら無事で終わることはまずないだろう、と皮肉交 じりに語った。)

<http://www.whistleblower.org/www/hanford.htm>
<http://www.seattletimes.com/news/lifestyles/html98/pruud_19991017.html>

まとめると、私たちの多くが持っている脅威モデルにはビッグ・プラザー も含まれているだろうが、ほかにも多くの異なる抑圧体系が存在している。 私たちは上司や日頃乗っている航空会社の飛行機、私たちの健康を握って いる病院、わが家に電力を供給している電力会社、それに私たちのお金を 守っている銀行といった小さなことにも心を砕くのだ。政府機関が脅威モ デルの円グラフに登場することはあっても、それぞれが個別に登場するこ とになる。米国の場合なら固定資産の評価、交通警察のネズミ取り、それ に食品医薬品局が認定した医薬品の安全性といったぐあいだ。

銃と暗号化 -- この多面的な脅威モデルがプライバシーグループに対し て提示している問題は、単純に一般の人はどの一つの脅威に対しても十分 に心配しないことである。もちろん、一般論としては誰もが医療記録はプ ライベートなものとの見方に賛成だが、いったい何人の人がこれまで医師 のオフィスでで自分の全ファイルを読み通しているであろうか?そして何 人の人がこれらの情報の配布についての規則を知っているであろうか?だ からといって医療記録に関するプライバシーはさほど重要でないと言って いるわけではないが、色々な理由によって脅威モデルの円グラフの中でこ の部分は多くの人にとって小さいのである。

医療記録に関するこの関心の欠如はプライバシーに関するその他のどの側 面にも当てはめることができるし、他のことでも総論には賛成だが、各論に なるとその重要性に関する無関心さを見ることができると思う。この重要 性に関する無関心さこそがプライバシー技術の広範囲な採用への道で当面 してきた困難の一つでもあった。たとえば、実際にあった話なのだが、最 近 Tonya と私は確定申告の準備をしてもらうために我々の会計士に対して 家計に関する情報を郵送した。ところが理由はわからないのだが、この郵 便は我が家と彼の事務所の間の 25 マイルを旅するのに 6 週間もかかって しまったのだ。その間我々はこの郵便は行方不明になってしまったのであ ろうと思わざるをえなかった。言うまでもないことであろうが、彼からま だ郵便が届いていないと聞いたとき我々は頭にきた。なぜならそこには 1999 年の我が家の家計情報のコピーが入っていたからである。しかしなが ら我々は、代わりのパッケージを再送するときもっと確実な方法に変える というところまで頭にきてはいなかったのである(結果的にはこの 2 番目 は最初のものより速く到着した)。

これと同じ程度の重要性に関する無関心さが PGP 暗号化にもあてはまる。 私の Mac には古いバージョンではあるが PGP がインストールされている し、過去にはパスワードを送る時 Eudora 内でそれを使ったことすらある。 しかしながら、インターネット経由でアクセスできるよく知られたコン ピュータへのパスワードほど重要でないものを暗号化するのは、私にとっ ては単純に手がかかりすぎるのである。

暗号化には他の問題もある。まずは、もしあなたの脅威モデルのなかでビッ グ・ブラザーが第一位の地位を占めているとすると、おそらくあなたはそ の他の脅威については無視しているであろう。Neal が冷酷にも言っている ように、ハイエナ脅威モデルを解くためにより進化した武器を手に入れた としても、初期の人間の平均寿命はおおよそ 3 週間のびるにすぎない。同 様に、あなたの通信の暗号化に全精力を費やしているとその他の脅威に対 応する余地はほとんど残せないであろう、それがプライバシーに関すか否 かを問わずに。次に、Neal が紹介したのは警備専門家の Bruce Schneier 氏の話として、非常に強固な鍵と共に PGP を使うことは自分の家を高さが 1 マイルの一本の杭でできたフェンスで警護するようなものであると。確 かに誰もそのフェンスを通り抜けることはできないであろう - しかし誰で もそれを迂回することはできる。

(ちょっとした裏話:PGP の発明者である Phil Zimmerman 氏も会場に来 ており Neal の基調講演の後立ち上がりこの杭の例えに同感だとした後、 Neal が Cryptonomicon で使った暗号化システムになぜ仮想の名前をつけ たのか訊ねた。Neal の答えは、もし現実の名前をつけていたならば、今頃 はそれを正確に使っているかどうかいつも気にしている羽目になっていた であろうであった。)

どこへ? この話はぜんぶ否定的に、そしてまったく敗北主義的に聞こえ るかもしれない。しかし私は、複数の抑圧体系を扱う脅威モデルは、私た ちがプライバシーを全面的に改善するために必要な手がかりを与えると思 う。ビッグ・ブラザーの心配事と、機会均等である私たちの心配事の違い は、前者がしばしば彼らの関心事によって生じる点だ。彼らは暗号を使い、 私たちは使わない。彼らは決して自分の Web ブラウザが cookies を受け 付けるようにせず、私たちは買い物が簡単にできるほうを選ぶ。彼らは フォームに本当の名前と住所を書くのを拒み、私たちはばかげたものにも 書き入れる。

これまでのところ、プライバシーの過激論者がもっとも一般的なアプロー チとして行うのは、一般大衆に対する教育か、それとも円グラフの一区画 の大きさを広げることで私たちの脅威モデルを変更しようという試みであ る。もし脅威モデルを心配事に費やす時間やエネルギーの量だと考えるな ら、一区画が増大するには他の区画が減少するか、円グラフそのものが大 きくなるかのどちらかが必要だ。だが、ひとつめの可能性はありそうもな い。なぜなら私は(米国国家安全保障局は私のメールを読むことができる そうだから)自分が通う病院について今より心配しなくなることはないか らである。そして 2 つめの可能性も疑わしい。私たちはみんな時間とエネ ルギーが足りないので、心配することにもっと時間を費やすよう私たちを 納得させようと試みるのは難しいからだ。さらに悪いことに、私は一般大 衆を教育するというアプローチは“狼と少年”の寓話のようなシナリオを 生みがちだと思う。自分の生活におけるプライバシー侵害を指摘できる人 たちは少数なので、潜在的な侵害について警告し続けることは、私たちを 鈍感にするとともに他の価値あるメッセージを過小評価してしまいがちだ。

古い Web ブラウザのセキュリティ証明書が期限切れになったという最近の 問題は、この点を際立たせる。ユーザーは混乱させるような警告を受けな がらも操作を続けて、安全を保ったままで取り引きを完了できるからだ。 しかし、そのように続けると、売り主が詐欺師でないことの唯一の保証が 無効になるだけでなく、警告というものはほとんど常に偽りの警報だとい う意識を持つことになる。そのうえ、多くの小規模商店は自分たちが利用 している ISP の証明書を使っているので、セキュリティ証明書は本来の意 味を失っている。もし、あなたが“ishopalot.com”に行ったはずなのに、 売り主がそれとは違う“superduperhighspeed.net”であると証明する警報 を受けたなら、あなたが今までに学んだとおりそのサイトの真正さを再証 明するものは何もないのだ。

ところで、解決策は明らかに私たちの今の脅威モデルの大きさに見合うも のでなければならない。私たちはどの区画も拡げないし、円グラフそのも のを大きくすることもない。唯一のアプローチは、プライバシー保護技術 とそのシステムを単純化し、日々使うツールに組み込むことだ。たとえば、 自分のメールを暗号化するのに余計な努力をする必要がなく、そして受取 人が暗号を簡単に解ければ、私は喜んで自分のメール通信を暗号化するだ ろう。同様に、もし Mac OS 9 のキーチェーンを使ってパスワードを保管 しても自分が永年行ってきたやり方に影響がないなら(そしてもっと多く のアプリケーションがキーチェーンをサポートすれば)、私は喜んでキー チェーンをもっと頻繁に使うだろう。

この解決策に向けて、多少の努力がなされている。Hush Communications 社、Network Associates 社(PGP を所有)、PrivacyX 社、ZeroKnowledge 社などの資金豊富な会社が徐々に、簡単に使えるツールを作りつつある。 そして多かれ少なかれ成功を収めている(特に彼らの製品の Macintosh 版 を作るという面で)。

<http://www.hush.com/>
<http://www.pgp.com/>
<http://www.privacyx.com/>
<http://www.zeroknowledge.com/>
<http://www.nytimes.com/library/tech/00/05/circuits/articles/18cryp.html>

プライバシーの現状を助けるにはもうひとつの方法がある。プライバシー に関わる人たちからの圧力と主流メディアの優れた宣伝により、プライバ シー関連の法律を改善すれば、円グラフの一区画を小さくすることができ るだろう。そうすれば、誰かが他の区画にもっと時間とエネルギーを注ぐ ことができる。もしくは、もっとうまくいけば私たちが自分の脅威モデル の円グラフを全体的に小さくする助けになるだろう。そうなれば私たちは、 もっと生産的だったり楽しめたりする活動に時間を使うことができる。

そういう訳で、プライバシーに関わる人たちにお願いしたいのは、チャレ ンジである。ツールをもっとシンプルにし、ドキュメントを改善し、ソフ トウェアメーカーがプライバシー技術を組み込むように伝道し、そして全 体としてプライバシーを最小の努力と配慮しか必要としないものにしてい ただきたい。そのようにする一方で、プライバシー関連の法律を改善し、 メディア露出を増やすためにロビー活動を続けていただきたい。しかし私 の感じでは、あなた方はその価値を信じているのだから、これらのチャレ ンジを全部行わなければならなくなる。あなた方の努力を一般大衆がほめ るだろうとか必ず評価するだろうとかの理由ではない。あなた方がもたら す結果は充分に報いられるに違いない。


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