TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#534/12-Jun-00

オンラインに何を載せるべきか、それを決めるのは誰なのだろう? この問 いに対して、違った側面から 2 つの記事で取り組む。まず、Adam が、 Photoshop 6 のプレリリースの情報の公開について、Adobe が MacNN を起 訴した問題に重点を置いて述べる。そして、Kirk McElhearn 氏がハイパー リンクについて検分し、この背後にはコンテンツがあるのかどうか、疑問 を投げかける。さらに、Microsoft 社分割の判決、Apple の QuickTime に 関する RealNetworks 社との提携、QuicKeys 5.0と Illustrator 9.0 のリ リースについて取り上げる。

目次:

Copyright 2000 TidBITS Electronic Publishing. All rights reserved.
問い合わせは <info@tidbits.com> へ、感想は <editors@tidbits.com> へ。

TidBITS 日本語版は TidBITS 日本語版翻訳チーム メン バーのボランティアによって翻訳・発行されています。TidBITS 日本語版 では翻訳に協力してくれる方を募集しています。詳しくは以下の URL を 参照してください。

<http://jp.tidbits.com/join_us.html>


今回の TidBITS のスポンサーは:


MailBITS/12-Jun-00

(翻訳:三好 泰子 <yokomo@mio.to>)
(  :佐藤 公子 <umi@cf.mbn.or.jp>)
(  :吉田 節 <benjamin.takashi@nifty.ne.jp>)

Microsoft 分割命令の審判下る、当社は控訴 -- 連邦地方裁判所、Thomas Penfield Jackson 判事は、先週、Microsoft 社を 2 分割するよう判決を 下した。 2 社のうち、1 社はオペレーティングシステムを中核としたも の、もう 1 社は、 Microsoft 社のオペレーティングシステム以外のビジ ネスで、オフィス関連のアプリケーションとハードウェアから、ゲームや オンラインサービスまでの範囲を扱う。これは、Microsoft 社の独占禁止 法違反の公判における処罰審査の段階での判決であり、Microsoft 社は、 繰り返し、これに対するいかなる判決にも控訴していくことを主張してき た。また、連邦最高裁の前に速やかに控訴審を通すという手順を省くため の政府側のいかなる行為にも対抗していくとも言っている。最終判決にお いて、Jackson 判事は、Microsoft 社に対し、4 カ月以内に分割計画を提 出すること、そして、分割完了後も、ビジネス遂行上での暫定制限を 3 年 間は守ること、を要求している。Microsoft 社の分割されたビジネスは、 少なくとも 10 年間は分割されたままでなければならない。しかしながら、 判決命令は、厳しいものであるにも関わらず、すぐに事態が変わるとは思 えない。Microsoft 社は、控訴手続き中のまま、判決執行の保留を求める 行動を起こし、すべてのケースの控訴の手続きが済むまで、分割の実行は 2 年かそれ以上に持ち越されるかもしれない。[GD]

<http://usvms.gpo.gov/ms-final.html>
<http://usvms.gpo.gov/ms-final2.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1152>

RealNetworks 社が QuickTime をサポート -- Apple Computer 社および RealNetworks 社は、RealNetworks 社が QuickTime テクノロジーのライセ ンスを受け、RealServer 8 において Apple 社の QuickTime Player へ配 信するストリーミング QuickTime コンテンツのサポートを行うことを発表 した。RealNetworks 社と Microsoft 社との愛憎関係が、ストリーミング メディア技術における当業界の攻防を更に加熱させているのだが、 QuickTime コンテンツのサポートは、RealNetworks 社にとって有利に働 く。 QuickTime のライセンス認可およびサポートにより、世界中の Macintosh および Windows システムにインストールされた、5,000 万を超 える QuickTime 4 Player へのアクセスが可能となり、RealNetworks 社は 優位に立つことになる。また、Apple 社は、QuickTime が RealNetworks 社のメディアサーバで完全にサポートされるメディアタイプとなることに より、恩恵を受ける。このメディアサーバは、各種オンラインブロードキャ スティングアプリケーション用として、広く配備され使用されている。こ の契約は、 Apple 社の QuickTime Player へ配信するストリーミング QuickTime コンテンツをサポートするものであるが - RealNetworks 社の RealPlayer クライアントそのものは、QuickTime コンテンツをサポートし ない。 QuickTime をサポートした RealServer 8 のプレビューは、現在入 手可能である。RealNetworks 社によると、最終バージョンが 2000 年度後 半に出荷予定とのこと。 [GD]

<http://www.apple.com/pr/library/2000/june/12realnetworks.html>

Adobe 社が Illustrator 9.0 を発表 -- Adobe Systems 社は、Adobe Illustrator 9.0 のリリースに伴い、描画および書き出しオプションを追 加して、さらに多くの Web デザイナをベクターイラストレーションプログ ラムに引き寄せようとしている。この新バージョンには、透明オブジェク トの作成機能や、レイヤーコントロールの強化、Web グラフィック作業用 のピクセルプレビューモード、および Macromedia Flash 形式や SVG (Scalable Vector Graphics)形式への書き出し機能が含まれる。 Illustrator 9.0 には、 64 MB 以上の RAM を搭載した Mac OS 8.5 以上 のシステムが必要となる。 Illustrator 9.0 の販売価格は、400 ドルであ り、現ユーザーは 150 ドルでアップグレードすることができる。また、 Photoshop、InDesign、PageMaker および競合製品の登録ユーザーは、250 ドルで Illustrator 9.0 の購入が可能である。[JLC]

<http://www.adobe.com/products/illustrator/>
<http://www.macromedia.com/software/flash/>
<http://www.w3.org/Graphics/SVG/>

QuicKeys 5.0 にスピーチトリガ機能やその他機能が追加 -- CE Software 社は、同社の長寿マクロユーティリティである QuicKeys のメジャーアッ プグレードとなる QuicKeys 5.0 をリリースした(QuicKeys 4 のレビュー に関しては、TidBITS-492 の“気になる QuicKeys 4”を参照)。 QuicKeys 5.0 の新機能には、マクロ用のスピーチトリガ機能や Mac OS 9 におけるマルチユーザのサポート、特定の時間に動作を実行する曜日指定 トリガ、画面資源節約のためのポップアウトツールバー、プライバシーを 保つスクリーンロック機能、およびタブ化されたツールバーが含まれる。 また、重大な制約が 2 つ取り除かれている - ショートカット名は、13 文 字ではなく 250 文字までのテキストが指定できる、さらに、テキストツー ルは以前の 8 倍の量のテキストを保持できる。QuicKeys 5.0 には、Mac OS 8.5 以上(8.5.1 推奨)のシステム、32 MB の RAM を搭載した PowerPC ベースの Macintosh が必要となる。QuicKeys 5.0 の販売価格は 100 ド ル、4.0 からのアップグレードは 40 ドル、また、30 日間無料のデモが入 手可能。[ACE]

<http://www.cesoft.com/quickeys/qkhome.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05500>

アンケート結果: もう一度出かけよう -- 先週のアンケートでは、人び とが旅行中にもっとも便利だと思ったコンピューティングギアと通信用ギ アが何であるかを質問したが、その結果ちょっと驚くべきものが勝者となっ た。回答者は携帯電話、PDA、ラップトップコンピュータやポケベルなどの ハイテク機器の中から選ぶことができたのだが、70 % 近くの回答者が挙げ たのは古風なペンと紙だった。携帯電話、PDA、ラップトップコンピュータ は接戦で、51 〜 57 % の回答者が挙げていた。GPS デバイスやポケベルと いった残りの選択肢は 4 および 8 % と、大きく離されていた。どのデバ イスも便利だと思わなかった人はたったの 7 名だった。[GD]

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbpoll=43>

クイズのお知らせ: 苦痛からの脱却 -- 何年も前、Tonya と私は共に、 苦しくそして衰弱させられる反復ストレス障害(RSI)と闘病していた。私 は手根管症候群、彼女は腱炎だった。その後、暮らし方と働き方を調節し ながらの数年を経て私たちは共にすっかり回復したが、テンポの速いコン ピュータゲームやボーリングといった特定の活動はいまだに避けている。 1990 年代初めと比べれば、今では RSI は重大な健康上の問題と認知され ているかもしれない。しかし今も莫大な数のコンピュータユーザーが、タ イピングやマウス操作による苦痛や、生活の残りの部分でも苦痛が生じる といったことを経験している。だから、あなたが現在 RSI を経験している か、それとも RSI が自分の生活を台無しにしないことを確かめたいかを問 わず、私たちのホームページで今週のクイズを使って自分の知識をテスト していただきたい。反復ストレス症候群の苦しみを消したり減らしたりす る効果を持つものをさまざまな選択肢から選ぶというのが今週のクイズで ある。クイズの答えは、それぞれが正解かどうかを示し、過去に私たちが 発行した RSI 関連の役立つ記事と、関係のある TidBITS Talk のスレッド へのリンクも示す。さらに、RSI 対策を啓発するためにコンピュータの近 くに貼っておけるポスター(HTML フォーマットも用意した)へのリンクも ある。[ACE]

<http://www.tidbits.com/>


11 時のニュース - Adobe 社 MacNN を起訴

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:冨田 将英 <atimot18@sa2.so-net.ne.jp>)
(  :尾高 修一 <shu@pobox.com>)

仕事仲間が転送してくれた法律関係の新聞 The Recorder のおかげで、グ ラフィクスの有力企業である Adobe 社が Macintosh News Network (MacNN) を、2000 年 5 月 30 日発表の MacNN の AppleInsider Web サイトで次期 バージョンの Photoshop 6.0 と ImageReady 3.0 についての極秘文書の詳 細を公開したことに関して告訴していたことが分かった。Adobe 社は MacNN が Adobe 社の企業秘密、すなわちこれらのバージョンの存在と特殊な機能 を公開するのを阻止しようとしている。また、現行の売れ行きの減少、お よび競合商品に対する優位点の喪失による損失の補償を訴えている。

<http://www.law.com/cgi-bin/gx.cgi/AppLogic+FTContentServer?pagename=law/ View&c=Article&cid=ZZZHLJ8I79C&live=true&cst=4>

これは異常な事態だ。噂話を扱うサイトでは、ダメージを与えるおそれの ある漏洩極秘情報の投稿がしばしばあるものだが、こうした争いから有害 な情報の削除や法的な訴えにまで発展することはあまりない。今回のケー スでは、Adobe 社は MacNN の発行人である Monish Bhatia 氏に連絡を取 り、20 分以内にこの情報を削除するように要請し、削除されない場合は告 訴することを告げた。Bhatia 氏はそれを調べると述べるにとどまり、翌日 Adobe 社は告訴した。

なぜ MacNN なのか? Adobe 社は MacNN に対する努力に集中し、結局は その有害な記事は AppleInsider のウェブサイトから削除されたのだが、 Photoshop 6.0 に関する情報は MacUser UK からも発行されたし、これを 参考にした短めの話が MacPublishing Inc. の MacWEEK.com と MacCentral から発行され、我々は情報を見つけることはできたのだ。

<http://www.macuser.co.uk/macjournal/news/32870.html>
<http://macweek.zdnet.com/2000/05/28/0530pshop.html>
<http://www.maccentral.com/news/0006/01.photoshop.shtml>

MacNN と MacUser が別々にこの漏洩情報に目を付けたのか、どちらかが他 方をコピーしたのかはわからない。どちらも記事中に他方の名前を挙げて いなかったが、MacNN の記事の方が明らかに長い上に、Adobe 社によれば、 漏洩文書の一部をそのまま使用していたという。Adobe 社が MacNN の告訴 を選択したという事実は、漏洩が MacNN から起こったものであるとの確信 があったことを示しているのだろう。MacNN は、他の噂話サイトがそうで あるように、積極的に内部情報やうわさ話をせがんでいるのだ。しかし、 Adobe 社が、より大きな MacPublishing や巨大な出版社である Dennis Interactive 社をバックに持ち UK を中心に活動する MacUser よりも、 MacNN を突っつき回す方が簡単だと考えた可能性もある。

Mountain View からの眺め -- 間もなく登場する製品の機能を競合他社 に知られるのは問題なので、Adobe の観点からすればこの訴訟は筋の通っ たものだ。さらに、消費者が新製品が登場するのを待って現行製品を買い 控えてしまい、売上に響くということもある。

Henry Perritt, Jr. 氏の『Law and the Information Superhighway』によ ると、企業秘密漏洩の責は特別な関係(たとえば社員であるとか、守秘契約 をしたうえでマル秘情報を受け取ることができる立場にいるとか)による ものと、「偶然、または企業秘密であることを承知のうえで悪用する者」 のために知るに及んだ第三者、にも及ぶものである。MacNN はこの後者に 該当するように見えるのだが、一つ重要な事実がある。MacNN は出版者で あり、合衆国憲法によって保護されているのだ。

Adobe にとっては不幸なことに、法廷で争っても得るものはたいしてなさ そうだ。Web サイトがマル秘情報を掲載した似たような例が最近あったの だが、企業秘密が悪用されたにもかかわらず、出版者の行為は憲法によっ て正当化なものとされたのだ。1999 年 9 月に判決のあった Ford v. Lane の裁判で、東ミシガン州連邦地方裁判所の Nancy Edmunds 判事は、被告 Robert Lane 氏がミシガン州の Uniform Trade Secrets Act に違反して Ford Motor Company 社のマル秘文書を彼の Web サイトである BlueOvalNews に掲載したにもかかわらず、Ford 社の文書を Lane 氏のサ イトから削除するという同社の命令請求は「言論の自由を保証する合衆国 憲法に違反する」と判断したのだ。

<http://www.eff.org/pub/Legal/Cases/ford_v_lane_decision.html>
<http://www.blueovalnews.com/>

さらにいえば、Adobe が一体何を目的として訴訟に踏み切ったのか判然と しない。Recorder 誌の記事で、Adobe は「被害額は低く見積もって数千万 ドル」であると述べているが、MacNN がこんな大金を持っているわけがな い。確かに Adobe はすっぱ抜きを信条とする噂サイトに起訴の恐怖を植え つけることができたかもしれない。だがスクープがかかっているとなれば、 きちんとした法務部を抱えている出版社の記者たちがリークされた文書を 元に記事を書くことをためらうとは思えない。今後は Adobe のソフトウェ アのレビューは書かない、と息巻いているジャーナリストの声を耳にして いるぐらいだ。いずれにせよ、報道関係者を起訴したことにより、Adobe は多くのライターを敵に回してしまったかもしれないのだ。

Ford v. Lane の判例は Lane 氏と BlueOvalNews の完全勝訴だったという わけではない。Edmunds 判事は出荷緊急差し止め命令請求の二項目を認め たのだ。まず、「Lane は 1999 年 8 月 25 日の出荷緊急差し止め命令請 求で求められた通り、以下の文書を裁判所に提出し Ford に引き渡す義務 がある。すなわち、(1) 所持または管理下にある Ford 関連文書を詳細に 明示した申告書、(2) 各文書の出所(氏名または記述)を明示すること、 (3) 各文書をどのようにして取得したかを詳細に明示すること、である。」 次に、「Lane は (1) 今後 Ford の社員が職務上作成した、または Ford 社の外注によって作成された未公開文書の著作権を侵害しようとしてはな らない。」

この条件についてちょっと考えていただきたい。これはつまりこういうこ となのだ:

A) Lane 氏は持っている Ford 関連文書を明らかにし、それぞれの文書に ついて入手ルートと入手方法を明示しなければならない。 Lane は匿名の 情報筋から文書を入手したとしていた。

B) Lane 氏は未公開文書を含め、Ford の著作権を侵害しようとしてはなら ない。

A により、Ford は文書のリークについて可能な限りの情報を入手すること ができる。もし私が Lane にマル秘情報を渡していたら、仮に匿名でやっ ていたとしても、けっこう心配するだろう。B により、Lane は Ford の著 作権を侵害することなく同社のマル秘情報を語句を変えずにそのままポス トすることはできなくなる。

ここで Adobe v. MacNN のケースに戻ろう。すでに述べたように、 Adobe が企業秘密に関するカリフォルニア法を武器に合衆国憲法を覆すことはで きない。(企業秘密は一般的に州の守備範囲であり、連邦政府のものでは ない。)だが、MacNN はどのようにして Adobe 文書を入手するに至ったか を開示することを要求される可能性はあり、これによって Adobe はリーク 元を突き止めることができるかもしれない。他の企業同様、Adobe はマル 秘情報の漏洩は解雇に処するとしているので、Adobe が綱紀粛正に乗り出 しているということも考えられる。また、Recorder 誌の記事では Adobe が著作権法違反を理由に提訴しているとは述べていないが、MacNN が Adobe 文書の一部をまるごと引用していることも見逃せない。MacNN の記事では、 どの部分が書き下ろされていてどの部分が引用されているかを明確にして いないし、どの Adobe 文書を用いているかも明らかにしていない。Adobe 側は MacNN による引用が著作権法に違反すると主張することはできるだろ う。

出版の大義 -- この件に関して、私はさまざまな思いにとらわれている。 素人目には Ford v. Lane の判例とほぼ同じ事例に見えるので、Adobe v. MacNN も憲法の規定によって保護されるのは明らかだと思える。出版人と して、私は憲法は何よりも尊重されるべきだと考えている。

だがそれでも、私は MacNN がこの情報の公開に踏み切ったのは困ったこと だと思う。Adobe は Photoshop 6.0 と ImageReady 3.0 の機能が公開され たことにより当然損害を被ったと考えている。 Photoshop のようなマー ケットリーダーで「何千万ドル」の被害があったとは考えにくいが。でも、 MacNN はこの情報を誰のために公開したのだろう? このような状況で噂を 出版するのは、ユーザーに購入やアップグレードを判断するため情報を与 えるというのが大義名分となっている。私がグラフィックの世界に疎いせ いもあるだろうが、こうした情報をリークすることによって大方のユーザー がどのような恩恵を受けるか理解できない。

ハードウェアの世界では、この理屈は通りやすい。誰だって Apple がより 良くて安い新製品を出す一週間前に新しい Mac を買ってしまうという経験 はしたくないからだ。ソフトウェア、特に Photoshop のようにこれといっ た競合製品もないようなプログラムの場合、将来のバージョンに搭載され る機能を事前に知るだけの理由がない。旧バージョンを買っていれば、特 に新バージョンがリリースされる直前に購入したのであれば、無償か安価 なアップグレードが提供されるのが常だ。それに、MacNN が公開したよう な情報を元に現行バージョンの Photoshop を買い控える人がいるとは考え にくい。

そこでユーザーにとって恩恵がなく、Adobe にとっても苦痛なのであれば、 この情報を公開したことによる結果は単に記事が掲載されている 5 ページ に置いた広告から MacNN が収入を得たというだけのことだ。このこと自体 は悪いことではないのだが、Macintosh パブリケーションが読者にたいし た利益もなく、業界の大手デベロッパーに損害を与え、ひいては Mac コ ミュニティに悪影響を与えるような情報を公開したのは残念に思う。

この訴訟がたいしたことではないとお考えなら、iMac のリリースがリーク されていたら Mac 業界全体がどんなことになっていたかを想像していただ きたい。Apple を一気に注目の的に押し上げた衝撃発表が、誰もが知って いた新製品発表になっていたら。iMac のリリースはマーケティングが主な 目的だったのであり、Apple はこのビッグニュースがリークされてしまう ことはなんとしても防がなければならなかった。MWJ 誌の Matt Deatherage 氏によると、その後 Apple は 登場が予想される PowerBook の噂のために 現行モデルの売上が大幅に落ち込むということが報告されている。目立つ 存在である噂サイトによって吹聴されたこうした噂の大半は結局誤りであっ たのだが、このことによって Apple が在庫の山を抱えることになったの だ。誰もが明日にも登場するはずの新 PowerBook を待っている間。

Macintosh の生態系では、ちょっとの思慮深さが大きな意味を持つことが あることを覚えておいていただきたい。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05237>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04217>


またまたクリック(ハイパーテキストだらけ)

by Kirk McElhearn <kirk@mcelhearn.com>
(翻訳:尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)
(  :亀岡 孝仁 <tkameoka@fujikura.co.jp>)

どこもかしこもリンクだらけ。Web 中に無数のリンクが張られている。呆 れるほどのことではない。リンクあっての Web なのだから。 Web は一規 則、すなわち HTTP(HyperText Transfer Protocol)と呼ばれるプロトコ ル以外の何者でもない。共通言語としての役目を帯びたこの規則のおかげ で、(論理的には)瞬時にあるページから別のページへと移動することが できるのだ。

一つの発想や考えからさらなる場への掛け橋となっているこのリンクが Web をこれほどまでにパワフルで便利なものにしている、と一般的に思われて いる。ところで、このリンクは本当にパワフルで便利なものなのだろうか。 たとえば、Henry David Thoreau のことを調べているとき、インターネッ ト上で見つけた彼の生活や著作などの情報が、自分の探しているものであ るかどうかどうやって知るのだろう。ほとんどは、素性の分からないリン クを頼りに、殻に隠れている実を見つけ出そうとあちらこちらとさまよう ことになるのだ。

Web はこのリンク網と手にできる情報の多さゆえに未来の図書館とも言わ れている。では、旧態依然とした紙の本の並んだ図書館と今日の Web で は、質的にどんな違いがあるのだろうか。カード目録を利用して何かを探 しても、本への“リンク”をたどることになる。唯一の違いは、本を手に するために物理的に体を動かさなければならないということだ。そして、 その本には、次なる調査の手がかりとなる言葉、名称、概念などが出てい るだろう。構成の良い本であれば、注釈、参照文献、さらには索引でさえ 利用できる。同じテーマに関する他の人の発言を知るには、カード目録の ところへ戻って別のリンクを探すなり、先ほどの検索で引っ掛かった本の 置かれている棚のあたりを見るなりすればよい。これらのリンクは手を伸 ばせば届くものである。

つまり、リンクという概念自体は新しくないが、実現の仕方が目新しいの だ。Web を利用するのは、実際に図書館の中を移動してリンクをたどるよ りもずっと楽である。少なくとも、ハイパーテキストの概念を提唱した面々 (Vannevar Bush 氏、Ted Nelson 氏、 Douglas Engelbart 氏)が、膨大 な情報をリンクする法則を作り上げた目論みはここにあった。彼らは人間 の心が連想に導かれるとふまえて、大量の情報の海の中を進む最良の方法 は、関連文書へのリンクをだどることだと考えた。おそらくこれは間違っ ていないのだろうが、World Wide Web が短期間にこれほどになろうとは予 想だにしなかったのだろう。

<http://www.iberia.vassar.edu/~mijoyce/What_s_hypertext.html>

編集者はどこへ行った リンク時代に突入した。リンクの先にある情報よ りも、リンクそのものの方が価値があるとみなされる時代だ。まさにこの 権化がポータルであろう。ポータルは他のコンテンツへの入り口となるべ くデザインされており、リンクを通して他のところへ導いてくれる。ポー タルの中には自家製のコンテンツへ導いてくれるものもあるが、多くの場 合はどこかよそにある情報へのリンクが並んでいるだけである。

大切な情報を探して Web を駆け巡り、リンク以外は何もなく結局ページか らページへとさまよっただけだったということがどのくらいあっただろう。 リンクをたどっているうちに結局はスタート地点に戻ってきてしまったと いうこともあるだろう。もっとも、固有のコンテンツは持たなくてもリン ク一覧だけがあるページが最も便利な Web ページであるという意見もあり えるだろう。要するに、サーチエンジンがしてくれるのは、お仕立てのリ ンクの一覧を吐き出すことだけなのだ。

問題のひとつは、Web が営利目的に使われるようになるにしたがい、中味 よりもリンクを提供することがより採算性が高いと多くの企業が考えてい ることかもしれない。所詮、中味を作るよりもリンクを張るだけの方が楽 だし、特に質が高いコンテンツを作るのは大仕事だ。このやり方が、ユー ザーの要求に一致するかどうかという点だけに絞って考えてみるのも意義 があるだろう。長い記事よりも長いリンクの一覧のほうが価値があるのだ ろうか。答えはおおむねイエスだろう。リンクの一覧は即座に文章を読ん だり理解したりする負担を課すことなく、無限の可能性を提供するのだか ら。オンラインで長い文章を読みたいという人はほとんどいないだろうし、 豊かでかつ無料のコンテンツという要求に応えることことができるのは、 リンクの一覧だけだろう。

物書きは編集者がいなくなったという不満をしばしば口にする。多分これ はおおむね事実であろう。まさにこれの良い例が、リンクのページだろう。 もちろん載せるリンクを選んでいる人もいるだろうが、質よりも量を目指 しているほうが普通なので、取捨選択をやるのは結局自分になるのだ。

リンク一覧の編集に並々ならぬ努力をしているサイトもある。思い浮かぶ ところでは、About.com があり、この“案内のスペシャリスト”のところ には人の顔さえも置いてあるのだ。Web 目録というものもある(たとえば、 Yahoo や Apple 社の iReview)。ここでは、見つけたコンテンツを分類し ているだけでなく、その中味を見て取りあげるかどうかを決めているし、 選んだ理由を書いてある場合もある。

<http://www.about.com/>
<http://www.yahoo.com/>
<http://ireview.mac.com/>

これはリンクが本質的に悪いのではないということだ。多くのインターネッ ト出版物は、リンクを控えめに、そして情報的な目的で使用している。良 いリンクが分かりやすく使われていると、ちゃんとした説明のあるところ へと導いてくれたり、商品の仕様や関連記事への入り口ともなってくれる。 リンクが控えめにかつ適切に使われているところには、もともとのコンテ ンツに目を留めた編集者がまずいるのだ。誰でもインターネットで情報発 信ができるが、インターネットでの編集ができる人はごくごくわずかだと いうことだろう。

リンクするのではなく考えろ! 私は行き止まりに突き当たればいいのに と思うことがある - つまりその中身の品質については十分自信があるの で、それ以上さらにどこかへあなたを送り込む必要のないようなページの ことである。これらのページは、さらに他の良さそうなリンクへとクリッ クを継続させるのではなく、自分自身で考えることのできるような情報を 提供してくれるものである。

と言うのもこれがリンクにまつわる問題の一つだからである - つまり考え ることを避け、先延ばしにさせてしまう傾向がある。Web をサーフィング している時というのは、まるで宝探しでトンネルの出口で獲物の金を獲得 せんと集めたヒントをつなぎ合わせようとしている人の様である。しかし 問題はトンネルには多くの出口があるのだが、そのどれもが結局のところ 同じ道に行き着いてしまう。リンクの行く先の考え方が客観的であり、あ るいは調べている課題に対して均衡のとれた視点を提供してくれる保証は どこにもないのである。実際のところ、均衡のとれた客観的な視点を提供 するよりも、ある事柄に対する特定の視点に強く色づけられた一側面だけ に集中している可能性の方が高い。自分の情報を探索するかわりに、単に 次の放牧地に導かれているだけである - そしてそこはもっと緑がきれいな はずなのだ。自分が遭遇したものを立ち止まって、直視し、明せきに深く 分析するには意志の力が必要である。

もしチベットに関する中国の政策、あるいは有名な政治候補者達をとりま く争点、あるいは二次喫煙による健康リスクについて知りたいとした場合 どうだろう?例えば、タバコ業界によってつくられた喫煙に関する Web ページにたまたまぶつかってしまったとしたら、その問題の一面だけを見 ることになるのはほぼ保証されたようなものである。さらに、そこからた どることができるリンクも同じ見解を表明する、あるいはそれを支持する 他のページへと導いてしまうのはまずは間違いないであろう。

そしてたとえあなたが何かの調査をしようとしていたとしても、そもそも そのページにどうやってたどり着いたのか?たぶんサーチエンジンからの リンク経由であろう。結局のところサーチエンジンを使って情報を探し出 すのは容易である。いくつかのキーワードを入力すれば、あとはサーチエ ンジンが有意性があると称される一連のリンクを返してくる。しかしこの サーチエンジンからの結果は必ずしも本来の有意性通りとは限らない - 目 に付く場所は時として一番値を高くつけた人に売られ、またあるページを 他のページよりも出現しやすくする技術も数多くある(これがその気のな い普通のサーチでポルノサイトに引っかかってしまうことの多い理由でも ある)。あなたがたまたま見つけたサイトが全視野的に意見を網羅してい るかどうかを知るすべはないのである。しかしながら、多くのリンクがク リックしてと誘いをかけ、そのリンクの中身についての説明文もあったと しても最小限の状態である。

勿論、プロパガンダは現実の世界でも長く存在してきたし、それにインター ネットの情報源の偏りを現実の情報源ほどに評価しなくとも良いとは誰も 思わなくなってはきている。しかし Web ページ上のリンクの優位さは、あ たかもそれの支持材料とか外部の意見を提供する事で実際であるかのよう に見せることができることである。事実は、それらはただのリンクであっ て全くそれ以上のものではない。

リンクする -- これらのリンクを追いかけている時、何がおこっている のか?あなたはあなたの心でではなく、むず痒いマウス指で反応している。 今読んでいる文章を全部読む代わりに、更なる情報を求めてもう次のサー バへと移っている。目は下線付きのテキストに吸い寄せられる、なぜなら それは目立つから - それはまわりとは違う、だからまわりの何もないテキ ストより重要に違いないと思わせる。あなたは今読んでいるものについて 考えを巡らせ、自分のものにしようとする時間を取らないばかりか、時と してリンクからリンクへと追いかけ回して、まるで脈絡のない無関係の主 題について蜘蛛の子追いをしている自分を発見することとなる。我々の心 はこれらの条件反射で脈絡を失い、我々の注意力も既にテレビによって散 漫になっているのに加えて、ますます足りなくなりつつある。

私が最初にインターネットにアクセスできた時にどう反応したか覚えてい る。私はもともと本愛好家であった、そして私にとっては図書館が憩いの 館であった。そこで Web 上で最初はいく人かの作家、作曲家あるいはその 他の興味を引く主題について探すことから始めた。私はリンクからリンク へと、自分の興味を満たしてくれる情報を追い求めて夜遅くまでおきてい た。こんな状態が一週間かそこら続いた、そして気付いたのは、私の得て いるものは旅そのものであり、この場合の旅は見返りの少ないものである ことであった。

私が一番心配することは,このクリック動作が我々の情報収集の重要な方法 の一つとなってきた過程である。最初の頃、我々はラジオをスキャンする 事を覚えた、次にテレビをリモコンでサーフし、そして今や我々は Web 上 でリンクをクリックする。そして我々の子供達は幼い頃からコンピュータ ゲームでこれをやるよう訓練され、子供達は何かが起こることを見るため にホットスポットをクリックする。一年ほど前、当時 4 才だった我が家の 息子と昼食を取っているときのことを思い出す。息子はその日の午前中コ ンピュータゲームで遊んでいて、色々な場所をクリックするたびに飛び出 すもろもろのかっこいいものにすっかりとりつかれていた。そこで彼が私 に向かって訊ねたことは、彼がラジエターをクリックしたらどうなるので あった。その時は私は笑った。でも今は私は笑えない。

クリック。クリック。クリック。

[Kirk McElhearn 氏はフリーランスの翻訳家兼技術作家で,フレンチアルプ スのとある村の住人である]


非営利、非商用の出版物およびウェブサイトは、フルクレジットを明記すれば記事を転載またはウェブページにリンクすることが できます。それ以外の場合はお問い合わせ下さい。記事が正確であることの保証はありませ ん。書名、製品名および会社名は、それぞれ該当する権利者の登録商標または権利です。TidBITS ISSN 1090-7017

tb_badge_trans-jp2Valid HTML 4.01!Another HTML-lint gateway