TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#536/26-Jun-00

毎年恒例の MacHack デベロッパー会議において、名高いオープンソースの 提唱者、Eric Raymond 氏が 300 人ものがんこな Mac のプログラマー達と 衝突して、いったい何が起こったか?意見のぶつかり合いか?それとも、 気持ちの合意があったのか?また、今週は、使い古した PowerBook を強力 なインターネットのルータやサーバに作りかえてしまう、という経験につ いて、Ron Risley 氏が語る。ついに、Microsoft の独占禁止法違反の裁判 が連邦最高裁に持ち込まれることになったという記事、そして、最も人気 の高い MP3 プレイヤーは何かをレポートする。

目次:

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MailBITS/26-Jun-00

(翻訳:三好 泰子 <yokomo@vm01.vaio.ne.jp>)
(  :尾高 修一 <shu@pobox.com>)

Microsoft 独占禁止法違反の裁判は、連邦最高裁へ -- Microsoft の独 占禁止法違反の訴訟の裁判長である、連邦地方裁判所 Thomas Penfield Jackson 判事は、独占禁止法裁判の迅速化のための促進法(Antitrust Expediting Act)に基づき、連邦巡回控訴院を通さずに Microsoft の控訴 を直接連邦最高裁へ送るという司法省の要求に同意した。Jackson 判事は、 既に独占禁止法違反で Microsoft に対し有罪の判決を下しており、6 月上 旬に、Microsoft のビジネス遂行上の暫定制限と 2 社への分割を命令し た。この訴訟を迅速に片づけるよう直接最高裁へ送ってしまうという決定 は、Microsoft に一撃をくらわした。Microsoft は、控訴審へ手続きを持っ ていくことを望んでいた。なぜなら、ここは、Microsoft に対して以前か ら好意的であることと、(論争の流れは)既に Microsoft の控訴を通常は 3 人であるところを 7 人の審査官の陪審団によって聞くことに同意してい るからだ。しかしながら、Jackson 判事が下した決定には、ソフトウェア の巨人にとって希望の光がある。それは、判決が覆されるまで、あるいは、 Microsoft が控訴をすべて完了させるまで、判事の分割命令と Microsoft の経営制限が保留されることだ。連邦最高裁は、今、この問題を審理する かどうかの決定を下さなければならない。それは、早急に下されるかもし れないし、何ヶ月もかかる可能性もある。また、控訴審へこの訴訟を委譲 することも考えられる。(この背景についての詳細は、TidBITS でカバー している Microsoft 独占禁止法違反の記事を参照のこと) [GD]

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05875>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05971>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1152>

アンケートのお知らせ: サーバ命 -- 近年 Apple からの関心は薄いもの の、Mac OS はそこそこの負荷で(または今週号の Ron Risley 氏の記事に あるように、個人で)使うなら、安定して、安価で、しかも管理が楽なイ ンターネットサーバプラットフォームなのだ。そこで今週の質問は、あな たが Macintosh を使って提供しているインターネットサービスにはどんな ものがあるか、というものだ。これまで Mac OS ベースのインターネット サーバの優秀さを説いてきたという方、Mac が立派に通用するプラット フォームだということを信じない輩を改宗させるチャンスだ。ホームペー ジですぐに票を投じるべし。 [ACE]

<http://www.tidbits.com/>

アンケート結果: MP3 物色中 -- 先週のアンケートでどの MP3 プレー ヤーを気に入っているかという質問をしたが、結果は意外だった。900 人 近くの回答者のうち、MP3 を全く聴かないというのは 12 % にすぎなかっ た。これはもっと多いだろうと予想していた。プログラムの方は、SoundJam と Audion がほとんど同率首位で、それぞれ 30 % の得票率を誇った。 QuickTime Player、SoundApp、それに Macast も 5 % から 9 % の票を獲 得したが、GrayAmp、RealPlayer、MVP、Aqueous、それに QuickAmp は数え るほどの票しか得られなかった。その他に投票したのはわずか 21 人で、 TidBITS Talk で推薦があったのは AppleSource MP3、MPLAY、Liquid Audio Player、それに Amp Radio だった。詳しい情報とリンクは TidBITS Talk のスレッドを参照していただこう。 [ACE]

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbpoll=45>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1069>


オープンソースとMacintosh

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:佐藤 公子 <umi@cf.mbn.or.jp>)
(  :尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)

私は今年度の MacHack デベロッパーコンファレンスから戻ったところだ。 コンファレンスは、オープンソース提議者であり Open Source Initiative の代表である Eric Raymond 氏の挑戦的な基調講演のおかげで、オープン ソースの話題に支配されていた。真夜中という定例時間に始まった基調講 演は、Eric 氏および会場の Macintosh デベロッパーが Macintosh 業界に おけるオープンソースのメリットについて議論を交わしつつ、早朝 6 時ま で続いた(MacHackについての説明は、 TidBITS-487 の“MacHack: 究極 の Macintosh イベント”を参照)。

<http://www.opensource.org/>
<http://www.tuxedo.org/~esr/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05463>

オープンソースとは? オープンソースの基本概念は、興味を寄せたデベ ロッパーたちが、数人のコアプログラマーによってコーディネートされ、 管理されたソフトウェアプロジェクトに関し、インターネット経由で共同 作業を行うということである。できあがったソフトウェアは、そのソース コードとともに無償で配付されるので、バグを発見したり、何らかの改造 をしたい場合、デベロッパーは誰でも好きなようにできる。コーディネー ターに承認されると、修正個所が次期リリースに反映される。

このアプローチは、オープンソースソフトウェアに高い信頼性と、バグや セキュリティホールに対する迅速な対応をもたらすことになる。その価格 (無料!)のことも含めて、Linux オペレーティングシステムや Apache Web サーバのようなオープンソースイニシアチブの人気に合点がいくこと だろう。

オープンソースモデルは本質的に金とは無縁のようにみえるかもしれない が、これは実のところ正しくない。議論の余地はあるが、ソフトウェア産 業の創世を可能にした Bill Gates 氏の革新は、MS-DOS や Windows では なくむしろソフトウェアそのものに価値があり商品となるというコンセプ トにある。次に、この業界は工場生産部品同様にソフトウェアを配給する 方式へと変革を遂げ、販売で金を儲け、ドキュメントを提供し、無償でサ ポートを行うようになった。問題は、Eric 氏が指摘するように、この“工 場的生産方式”が将来的に天井知らずのサポートコストを内在させながら も、儲けが限られているという点である。

さて、オープンソースへ話を戻そう。無償ソフトは悪くないが、誰でも日々 の糧を稼ぐ必要がある。オープンソースの概念は、ソフトウェア以外のも のに料金を課せる場合にのみビジネスモデルとして機能する。それはドキュ メントの場合もあるし、サポートやパッケージ、プラグインなどの副次的 な製品かもしれない - 詳細はともあれ、工場的生産方式に代わるサービス 方式について語ろう。これが Red Hat 社や他のオープンソース企業が金を 稼ぐ方法であり、従来の商業的ソフトウェアの世界でさえ、サポートやト レーニング、ドキュメントの販売が、ソフトウェア企業の収益を上げるた めの一般的な方法になりつつある。

<http://www.redhat.com/>

意見のぶつかり合い -- 最初のうち Eric 氏の話はすべての聴衆に向け られられたはずであり、オープンソースが従来の開発モデルよりうまく機 能する理由について引き込まれるような主張を行ったが、この場が Macintosh の開発コミュニティとのはじめての関わりであることは明白だっ た。ほとんどすぐに露見した重大な断絶は、オープンソース界が協力的な 開発コミュニティを重要とし、対して Macintosh 界はエンドユーザーに重 きをおくという主張である。

オープンソースでは、プロジェクトがコアグループであるプログラマー達 によって管理されているものの、誰もがコードに貢献できる。メーリング リスト、Web サイト、および他の形式での電子的通信手段でプログラマー 達が結ばれ、彼らの大半がプログラマー兼ユーザーである。オープンソー スプログラムがより主流のユーザー界に流れてきたのはほんの最近のこと である - 技術にたけたユーザーなら Linux のコピーを入手してすぐさま インストールできるが、コンピュータ教育を受けていない人間に対して、 標準の Linux ボックスを提供することなど依然としてとてもありそうもな い。

しかしながら、初めから Macintosh は“みんなのコンピュータ”であり続 け、この姿勢はすべての基礎となっている。君のおばあちゃんに iMac を プレゼントしても大丈夫だ。そのうえ、比較的規模が小さく、少数派に位 置する Macintosh マーケットが、コミュニティとしての強い意識を生み出 し、プログラマーが“みんな”と一体感を持つ手助けをしている。初期の Macintosh では、電子通信は一般的ではなかったため、大規模なユーザー グループによって Mac ユーザーが一人ひとり集まることが可能となってい た。さらに、マーケットが存在したという単なる事実が - オープンソース 界でこれが真実となり始めたのはごく最近のことだ - Macworld Expo のよ うなイベントによりデベロッパーが一般と関わる機会をさらに提供するこ とにもつながった。最後に、MacHack での Carmageddon という熱狂的な ネットワークゲームを観戦すれば明らかなように、Macintosh の世界でプ ログラマーはユーザーでもあるのだ。

<http://www.interplay.com/carma/>

Mac がユーザー中心であることは、ユーザーインターフェースを見てもよ く分かる。これは(Eric も素直に認めているとおり)オープンソースソフ トウェアが大の苦手とする分野である。技術的に長けた人達だけしか使わ ないプログラムには、使いやすいインターフェースなどどうでもよいこと なのだ。それに、ある程度独裁的な方が、優れたインターフェースを作り やすい。Apple は GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)を 重視しており、Mac のユーザーインターフェースはかなりの一貫性を保っ ている。Macintosh プログラマーはこぞってインターフェースに力をそそ ぎ、時として、コード以上に頑張ったりすることもある。オープンソース のコミュニティには、プログラムの“しかるべき”ルック & フィールを規 定したヒューマン・インターフェース・ガイドラインがなく、ばらばらな やり方でインターフェースを作ってしまう。オープンソースの Unix 譲り のコマンドラインや文字列でできた設定ファイルがよく知られているとこ ろだ。

ソースを公表していないソフトウェアはほかのデベロッパーから批評して もらえないために本質的に信頼性が低いものになってしまうという Eric の発言から、ソフトウェアのデベロッパーとユーザー間の密接な関係もま た議論になった。MacHack の参加者は、自分の書くコードは信頼できるも のだと堅く信じている。なぜなら、信頼できないコードを書くことは、ユー ザーに対して失礼にあたるだけではなく、問い合わせに対応するという金 のかかるもののにも繋がるからだ。しかし、Eric は、通常 Mac は再起動 させなければならない状況に陥らず何年ぐらい動いてくれるだろうかとい う質問で一蹴した。MacHack の参加者は平均以上のコードを書いているの だろうから、客観的に状況をとらえるのは難しい。それに、プログラムの バグのように見えるものの多くは Mac OS が起因していることもあるし、 Mac OS が Linux ぐらい信頼性のあるものだと言い切れる者などいないだ ろう。とはいえ、Linux は本来サーバ用オペレーティングシステムであっ て、主に個人が使用する Mac OS とは違う。プログラマーの思いもよらな いことが実行される確率は、Mac OS のほうがかなり高いのだ。

Eric のオープンソースに関する考えに対する反対が特に際立ったのは、彼 がソフトウェアの工場的生産方式を批判したときだった。彼は、プログラ ム作業といえば商用ソフトウェアの作成がまず頭に浮かぶだろうが、その ほとんどは社内のサポート体制のためにあると指摘したのだ。一般論とし てはだれもが同意していたが、Mac では社内開発は一般的ではなく、参加 者の大半はソフトウェアの販売で生計を立てているのだ。参加者が Eric の製造業的生産方式に対する批判を自分たちの生計の道への攻撃だと受け 取り激怒した。幸い、冷静を取り戻し、Macintosh 業界は既に製造業的生 産方式から脱出し始めていることを皆が納得してその場は収まった。二次 的な製品(Photoshop のプラグインなど)、研修、ドキュメンテーション、 カスタマイズしたプログラム、無償サポート、そして広告までもが商品の 値段に上乗せされたり置き換えられたりする。ところがむしろ、Macintosh のソフトウェアは長い間コンピュータショップの店先に並べてもらえなかっ たので、我々はすでに一般的でない方法で自分たちのソフトウェアを購入 したり配布したりするのに馴れているのだ。我々には、製造業的生産方式 からの離れる流れに向かう土壌があったのだ。

気持ちを合わせて -- Eric Raymond 氏が真夜中から朝の 6 時までステー ジに立ち、満場の Mac デベロッパー達と議論を戦わしたことはおおいな賞 賛に値する。プログラマーのほとんどは自分が正しいとかたくなに信じて いるところがあるので、頑固者対頑固者の戦いだった。しかし、Eric が優 れたユーザーインターフェース作成方法と、消費者への対応の 2 つの面に ついては、オープンソースコミュニティが Macintosh コミュニティから学 ばなければならないと認めたことも褒めるべき行為であった。一方で、オー プンソースモデルが Mac 界にも極めて有用だということを、MacHack に出 席していたデベロッパーの一部は精力的に賛同したが、それ以外の者は渋々 ながら認めただけであった。

Eric は喋るだけ喋って去ってしまうようなことはしなかったので、会議が 進むに従い事態は改善されていった。Eric は会議の最後までいて、そこに 流れている精神をつかんだ。15 回の MacHack にすべて出席している大ベ テランでもあり、Macintosh ソフトウェアにおけるオープンソースモデル の擁護者でもある Leonard Rosenthol 氏は、Eric が会場近くの CompUSA で iBook を購入できるようにみんなに小額ずつお金を出し合うことを提案 した。翌日には“Eric Raymond に iBook を買ってあげよう”箱には十分 な額が集まり、RAM を追加したブルーベリーの iBook と MacHack に参加 している企業のソフトウェア一式が贈られた。Eric は目を白黒させながら 受け取ったが、Maurita Plouff 氏と共同で Python スクリプティング言語 でハックを書いて Hack Contest に参加までした。

最後に、Eric はふたたび MacHack に戻ってくるという約束をするととも に、MacHack のやり方と文化を参考にした OpenHack 会議を提案した。ど ちらもオープンソースと Macintosh コミュニティの絆を強くしてくれるだ ろうし、この絆により我々すべてが恩恵に浴すことができるだろう。


PowerBook 5300 をインターネットのサーバに仕立て上げる

by Ron Risley <ron@risley.net>
(翻訳:冨田 将英 <atimot18@sa2.so-net.ne.jp>)
(   尾高 修一 <shu@pobox.com>)
(   吉田 節 <benjamin.takashi@nifty.ne.jp>)
(   松岡 文昭 <mtokfmak@mxa.meshnet.or.jp>)

その誘惑が始まってから一年になる。

私は早い時期に ISDN を導入したが、数年経つとこれを高速通信とは考え られなくなってきた。現在では私の住む地区でも DSL が使えるようにな り、電話会社の中央事務所が私の裏庭から良くねらってボールを投げれば 当たるくらいのところにあることだし、これなら素晴らしい結果が得られ るだろうと踏んだのだ。なぜなら、DSL 経由の帯域幅は中央事務所からあ なたのサイトの間の回線の長さと状態に依る部分があるからだ。

DSL のインストールは、ISDN からの変換に起因する混乱にもかかわらず、 素早く、完璧であった。Pacific Bell は DSL を他のネットワークから切 り離すための PCI Ethernet カードを Mac 用に提供している。これで下り のリンクスピードは 1.5 メガビット/秒(Mbps)に達したが、PacBell で は上りの帯域は 128 Kbps までしか出ない。

<http://www.pacbell.com/>

喜びを広めよう -- このすぐにつながる高速通信が私のメインコンピュー タでしか使えないことを除けば、私は最高に幸せだった。私の妻 Kim の iMac は 2 メーターも離れていないのに、未だに 56 Kbps のアナログモデ ムにつながっていた(しかも、音声回線は DSL 接続と同じワイヤを使うた め、妻は DSL と同時にはネットサーフィンも電話もできないのだ)。家中 に散らばったその他のマシンにはインターネットへのアクセスは全くなかっ た。我々はこの強力な帯域資源を共有する術が必要だった。

Web のクイックサーチで DSL ルーターを発見した。これらの機器は、DSL 回線と Ethernet ネットワークの両方に接続し、加えて Network Address Translation (NAT) を使用することで一つの IP アドレスを数台のマシン で共有する事ができる。これぞ私が求めていたものだ。ただ、Kim と私は 研修医であるため、最低賃金より少しだけ多めに稼いでいるに過ぎない。 200 ドルの DSL 回線導入費用は、すでに私の数ヶ月分のコンピューター用 の予算を食いつぶしているのだ。そして Netopia 社などから出ている DSL ルーターは 500 ドル以上するのだ。

<http://www.faqs.org/rfcs/rfc1631.html>
<http://www.netopia.com/>

そういえば、ソフトウェアベースでの解決法があるはずだ。今度はサーチ により Vicomsoft 社の SurfDoubler と Sustainable Softworks 社の IPNetRouter を発見した。

<http://www.vicomsoft.com/>
<http://www.sustworks.com/>

Vicomsoft 社の製品は親しみやすく洗練されているように見えたが、同時 に使えるユーザー数が 2 か 3 に限られていた。私は Open Transport が 既に持ち合わせている力を引き出そうとする IPNetRouter のやり方が気に 入った。インターフェースは柔軟でありながらダサかったが、私もダサい くちだからということで、無料のデモをダウンロードした。

IPNetRouter は、作者である Peter Sichel 氏が約束したとおりのことを すべて実現してくれた。私は 89 ドルでプログラムの登録をして、かなり の予算オーバーになってしまった(寛大な教育向け、および対抗商品から のアップグレードもある)が、数分後には妻の iMac は私が使っていたの と同じ自由なインターネットアクセスを楽しんでいた。まさに自由だった。 私のマシンが稼働している限りは、である。ここで問題が生じた。私は低 レベルなソフトウェアを書くのが好きで、これはテストの時には頻繁にク ラッシュ、再起動を繰り返すということなのだ。また、私はファンの音も 嫌いだし、電気を無駄にするのもいやだ。デュアルファン、デュアルモニ ターの私の SuperMac S-900 を、私が使っていないときも継続的に稼働し ておくのはやっかいだった。

フルタイムサービス -- 私が聞いたところによると、IPNetRouter はあ まりプロセッサパワーを使わない。私はディスプレイとトラックパッドが 故障した置きっぱなしの PowerBook 5300cs を持っていた。手間とお金を かけて修理するには値しないが、プロセッサはまだ十分に動いた。ファン はない、省エネである、しかも組込型バッテリーという形でバックアップ 電源まで備えている。これはルーターに仕立て上げることができるのでは ないか?

そのとおり、できるのだ。外部モニタとマウスをつなぎ、インターネット を通して離れたマシンにキーボードとマウスのコマンドを送ることができ るソフトウェア、AT&T 社の Virtual Network Computing (VNC) をインス トールした(以前のバージョンの VNC については TidBITS-441 の Kevin Savetz の記事を見られたい)。これは Netopia 社の Timbuktu ほど安定 でも機能豊富でもないが、目的は果たせるし、タダなので私の予算にぴっ たりだ。私は TidBITS のスポンサーである Small Dog Electronics 社か ら 19 ドルの Ethernet PC カードを購入し、PowerBook に IPNetRouter をロードし、Ethernet ハブに接続した。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05021>
<http://www.uk.research.att.com/vnc/>
<http://www.netopia.com/software/>
<http://www.smalldog.com/>

ISDN から DSL への単純な切り替え作業として始めたことが、小規模なが らも素晴らしい LAN の構成プロジェクトへと成長してしまった。この時 点で私は安定で高速な、そして家中のコンピュータで共有できる 24/7 の インターネット接続を手に入れていた。これで私は満足したとお思いだろ う。

ところが、すぐに別の問題が現れたのだ。

自家製 Web -- 私はずいぶん前から Web サイトを持っていたが、ずっと ISP のサーバにホスティングしてもらうことで満足していた。たいていの ISP アカウントにサーバスペースが付属してくるのに、手間をかけて自分 でサーバを常時稼働させておく必要があるだろうか? ところが私が以前 ISDN 接続を利用していた ISP は、DSL をサポートしていなかった。とい うことはサイトの引っ越しをしなければならず、サーバに用意されていた リソース(主としてメール用フォームを処理する CGI スクリプト)に依存 したページを PacBell のサーバ用に書き直さなければならなかったのだ。 PacBell の DSL アカウントはサーバスペースが 3 MB までと制限されてお り、私のサイトにはやや手狭だった。無料のサーバサイトというものも存 在するが、たいていは広告を表示することが条件となっており、私は自分 のサイトには一切広告が無いことを誇りにしているのだ。PacBell などか らサーバスペースを買うこともできるが、すぐに予算オーバーという厄介 な問題に直面する。

私はふと机の下にある 5300cs に目をやった。常時オン。常時接続。固定 IP アドレス。何百 MB もの無料ディスクスペース。これこそサーバに最適 ではないか!

これまで Web サーバの必要がなかったため、私は世の中のサーバ用ソフト ウェアというものにあまり関心を示したことがなかった。StarNine の WebSTAR のことは知ってはいたが、私の低予算至上主義とは相容れなかっ た。しばらく超低価格サーバを探した後、Apple の Personal Web Sharing が Mac OS 8.0 からバンドルされており、Mac OS 7.6 でも動作することを 思い出した。[もう一つの選択肢に実績あるシェアウェアで Web、FTP、そ れに Gopher サービスさえも提供する NetPresenz がある。だが 75 ドル という価格は無料の Personal Web Sharing よりは高価だ。Ron は結局サー バを NetPresenz に変えたのだが、これは彼のサーバ物語でずっとあとの 話だ。 -Geoff]

<http://www.starnine.com/>
<http://asu.info.apple.com/swupdates.nsf/artnum/n10773>
<http://www.stairways.com/netpresenz/>

Personal Web Sharing をアクティブにし、私の Web サイトファイルを 5300cs にコピーしたらもう自分で自分のサイトをホストしていたのだ! Personal Web Sharing がベーシックな認証(パスワードで保護された Web ページ)と CGI スクリプトをサポートするために File Sharing を利用し ていることも驚きだった。間もなく私は Web で大量の AppleScript CGI を発見して、基本的なフォームをサポートするために実績ある Email CGI をインストールした。

<http://cgi-resources.com/Programs_and_Scripts/AppleScript/>
<http://www.lib.ncsu.edu/staff/morgan/email-cgi.html>

ついでにメールも すべてのマシンに高速アクセス、何百 MB ものローカ ル Web サーバ、自分で CGI スクリプトを書く自由 ― これでもう十分だ と思うだろうが、私はサーバ病に感染してしまったのだ。ずっと前から自 分でメーリングリストを主宰して、仲間の研修医たちと情報交換をしたかっ たのだが、今までリストサーバを使える立場にいなかったのだ。そこで古 くからあるメーリングリストサーバの Macjordomo を思い出し、依然とし て無償提供されていることを知って驚いた。

<http://leuca.med.cornell.edu/Macjordomo/>

Macjordomo は自前のメールサーバを必要とはしないが、設定をしているう ちに各リストに複数のメールアドレスが必要なことに気がついた。TidBITS で紹介されていたメーリングリスト管理の手法に沿ったものにしようと思っ ていたからだ(まだヘッダのセットアップが終わっていないが)。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05321>

もちろん PacBell からメールボックスを追加購入することもできるのだ が、予算の問題がまた頭をもたげた。Macjordomo のドキュメンテーション には無料の Mac 用 POP および SMTP サーバがいくつか紹介されていた。 これで必要なだけのメールボックスが手に入ることになる。私は Eudora の大ファンなので、まずは Eudora Internet Mail Server(EIMS)をチェッ クした。商品バージョンはなかなか良さそうだったが、私の予算を超えて いた。フリーウェア版も良さそうだったし熱心なファンもいるのだが、リ レー防止機能が期待したほどはうまく動かなかった。誰かが私のサイトを 使ってスパムをリレーしていたとしたらいたたまれない。そこで結局柔軟 なサーバで大変よくできた反スパム機能を持った Stalker Internet Mail Server(SIMS)に落ち着いた。

<http://www.eudora.com/freeware/servers.html>
<http://www.stalker.com/SIMS/>

これで好きなだけメールボックスを作り、その過程でもう一つの問題も解 決した。私の患者の多くがメールでのコミュニケーションを好むのだ。人 によっては PGP で暗号化したメールを送ってくるが、人によってはこれは ややこしすぎる。他人の POP サーバに患者のメールが暗号化もされずに置 かれているのが気になっていたのだ。送信途中のメッセージを傍受するこ とはできるが、これからは少なくとも直接私の管理下にあるコンピュータ に送られることになる。

名前に何の意味がある? それで終わりになるはずだった。今や私は、メー ルと Web のサーバ、メーリングリストマネージャ、それと NAT 装備のルー タを持っていた。これら全部を約 200 ドルで揃えたのだ。唯一の問題は、 PacBell が私の PowerBook 5300 にくれた“フレンドリーな”DNS ネーム がぞっとするものだったことである。それは 40 文字以上の長さがある、 文字、数字、ハイフンの寄せ集めだった。キーボードをランダムに叩いた ようなサイト名を持つメールアドレスを覚えなければならないとしたら、 どんな気分だろうか?

私はずっと、お化粧したインターネットアドレスが欲しかった。それは認 めよう。私にはその時、ドメインネーム登録手続きが自由化されたので値 段が下がっていたという理由があった。それはもう少しだけお金を使うこ とを意味したのだが、その時までに私はサーバソフトウェアをちゃんと動 かそうと試みる間に食事を抜くことで少し節約していた。そこで私は 2 年 分の料金として 70 ドルを払って、Network Solutions 社にドメインネー ムを登録した。

<http://www.networksolutions.com/>

しかしもうひとつ落とし穴があった。ドメインネームを登録するには 2つ_ の異なるドメインネームサーバ(DNS)を、理想的にはトポロジー 的に離れたインターネット上の 2 か所に持っていなければならない。くり 返しになるが、こうしたサービスを有償で提供している会社はいくらでも ある。けれど私にはもっと懐に優しい解決策が必要だった。

幸いにも Mac OS 用のフリーなネームサーバが 2 つある。だがその前に警 告を一言。いくらかの忍耐力と辛抱強さがあれば、ほとんどの人びとはこ こまでたどり着ける。フリーの Web、メール、メーリングリスト用サーバ ソフトウェアは、一般的に高品質でよくサポートされており、まあまあ簡 単に使える。しかし DNS システムは、ユーザーフレンドリーという点で優 れてはいない。DNS サーバとそのゾーンファイルに関する奥義を理解する のは、途方もないチャレンジであり得る。もしあなたが失敗して、誰か他 の人に自分のサイトの一部を管理してもらうためにお金を払おうとしてい るか、それともフレンドリーでサポートも付いているコマーシャル製品 (290 ドルの Men & Mice 社製 QuickDNS Pro など)に大金を投じようと しているなら、私もまさにそうするところだったのだ。

<http://www.menandmice.com/>

感心するのは、Mac でインターネットサーバをサポートするというアイデ アを Apple 社が試していた 1995 年に、早くも同社が DNS にフレンドリー なインターフェースを与えようとしていたことだ。MacDNS を使うとドメイ ンネームサーバを数分で立ち上げることができる。しかし機能は限定され ており、性能は低く、安定性には大いに疑問がある(問題なく使えている というレポートが少しはあるが)。MacDNS は今も Apple から無料でダウ ンロードできるが、1996 年以降はアップデートされていない。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=01532>
<http://asu.info.apple.com/swupdates.nsf/artnum/n11264>

NonSequitur は Unix 使いや、BIND 形式ゾーンファイルの謎にタックルし ようと思う人びと向けの、もうひとつの選択肢である。それは小さく、高 速で、きわめて安定していると思われる最新式のネームサーバだ。そして フリーでもあり、私はそれをネームサーバに選んだ。MacDNS と NonSequiturのゾーンファイルは共に BIND 形式なので、MacDNS のフロン トエンドを使って NonSequitur のゾーンファイルを作ることができると思 う。私は実際には試していないのだが。

<http://www.gross.net/sw/nonsequitur/>

セカンダリ DNS を準備するのにはもっと問題があることがわかった。私は IP アドレスを一つしか持っていなかったので、セカンダリサービスは他の ところでホスティングしてもらわなければならなかった。短期的な解決策 として、私は職場で一時的に使っていなかったコンピュータを流用するこ とにした。ふつう DNS は少ない帯域しか使わず、小規模なサイトであれば ほとんど気づかれずにバックグラウンドで動作できる。しかしこの解決策 は本当に満足なものではなかった。私が使っていたほんの少しのサイクル は、実際には私のものではなかったからだ。

理想を言えば、高速アクセスは今や一般的なものになってきているのだか ら、私たちは簡単な DNS ホスティング・パートナーシップを行うことがで きるはずである。つまり、あなたが私にセカンダリ DNS を提供し、私はあ なたに提供する訳だ。だが残念なことに、フリーな Mac OS 用 DNS プログ ラムのどちらもこの発想をサポートしない。ほとんどの DNS プログラムは プライマリに問い合わせることでセカンダリサーバとして動作することが できるので、手作業でゾーンファイルを 2 台のマシン間で同期させる必要 はない。しかし MacDNS と NonSequitur はプライマリとして動作するもの の、セカンダリ DNS をサポートしない。AppleScript をうまく使えばこの 制限を回避できるかもしれないが、その計画は今のところ私のやりたいこ との中で順位を下げつつある。コマーシャル製品である QuickDNS Pro は セカンダリサービスを提供するが、もし予算に少し余裕ができたら、私は 最終的な方法としてセカンダリ DNS サービスを利用する。いくつかのプロ バイダは月 1 ドルか 2 ドルでセカンダリ DNS を提供している。

<http://www.backupdns.com/>
<http://www.nols.com/dnservice.html>
<http://www.secondary.net/>

同じものを共有する -- 確かに十分だっだが、私にはあと一つ追加した いものがあった。ホストサービスを必要とするあるプロジェクトに私が参 加してたからだ。すべてのものが各々の場所に収まった状態で、もう一つ のドメインをサーバに追加するのはどれほど難しいだろう。

私はすぐに失望した。不足している IP アドレスのスペースを浪費しない 方法として、複数の Web サイトで一つの IP アドレスを共有するための確 立されたスタンダードがある。仮想ホストと呼ばれる手法だ。だが、Mac OS 用の仮想ホストは WebSTAR プラグインに限定されているように思われ た。数日間ゆっくりと考え、CGI スクリプトで解決できることを思いつい た。スクリプトの作成に着手し、それが驚くほど簡単であることに気づい た。最もベーシックな形では、Web サーバのマルチホーミングはたった 3 行の AppleScript で達成できるのだ。私がいくつかのエラーチェックや改 善を加えた後でさえ、スクリプトは画面の長さにも満たなく、同じ IP ア ドレスから無限の Web サイトをホストできるのだ。

Web の世界を支配 -- A.J. Liebling 氏の名言、“出版の自由とはその 手段を有する者のみに保証されている。”は、誰もが耳にしたことがある だろう。私にとっての驚きは、インターネットが出版のコスト・オブ・オー ナーシップを劇的に引き下げてしまったということだ。ジグゾーパズルを 完成するための主要なピースの一つはインターネットへの常時接続であっ て、インターネットでのプレゼンスを完成するための他の作業にはほとん どお金はかからず、スクラップとなったコンピュータと、時間的余裕が要 求されるだけであった。

昔、独自のサーバを構築することを考えていたときは、私は常に Linux で 走らせることを想定していた。計画的ではなかったが、今では Mac OS で のアプローチを取ったことを嬉しく思っている。それによって、インター ネット用プラットホームとしては、Macintosh の右に出るものがないこと を確信させられた。

Mac OS を使ってインターネットサービスを行うためのさらなる情報は、オ ンラインで入手可能な Carl Steadman 氏と Jason Snell 氏にの著書 “Providing Internet Services via the Mac OS” で見つけることができ る。この本は 1996 年半ばに出版され、いろんな箇所で時代遅れではある が、当時としては広範囲な事柄をカバーし、基本的なことはいまだに真実 である。

<http://www.pism.com/>

[Ron Risley 氏はサイバーベンチャーで成功を収めることもできた人物だ。 だが彼は 1986 年に、精神科医とファミリードクターとしての新しいキャ リアを追い求めるため、通信コンサルティングから身を引いている。]

<http://www.risley.net/>


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