TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#562/08-Jan-01

Macworld Expo がやってきた。そこで今週の我々は、Apple 社やほかの会 社からの新製品を物珍しく眺めて回るため群衆をかき分けているであろう。 その間、我々の関心のあるのはお金と音楽である。最初に、Adam が個人 と個人の間の支払いサービスである PayPal を探り、そしてマイクロペイ メントユーティリティの欠如について嘆く。次に、Travis Butler 氏が Nomad Jukebox MP3 プレーヤーへの賞賛(と多少のブルースも)を歌う。 さらに、Palmtop Publishing 社は Palm ハンドヘルド用に Macworld ショー ガイドを載せた。

目次:

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MailBITS/08-Jan-01

(翻訳:亀岡 孝仁 <kameotak@iea.att.ne.jp>)
(  :敦賀 康子 <hiroki-tsuruga.soul75@nifty.com>)

Macworld Expo ショーガイドが復活 -- 昨年の Macworld Expo NY 用の ショーガイドの変更にはがっかりさせられたが、Palmtop Publishing 社 製の無料の Macworld Expo ショーガイドが詳しいすべての出展者リスト、 ブースの場所、そして案内図を完備して復活した。曜日とトラックごとの イベントやショー、会合時間のスケジュールも含まれている。もしあなた が Macworld Expo に行こうと思っていて、Palm ハンドヘルドを持ってい るのなら、是非、この小さくて便利な物を手に入れることをお勧めする。 (ダウンロードサイズは 32k でハンドヘルドの空き容量 67k が必要)。 [ACE]

<http://www.palmtoppublishing.com/macworldexpo/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06033>


お薦め Web Site:PayPal

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <shu@pobox.com>)
(  :尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)
(  :斎藤 美礼 <mirei@x.age.ne.jp>)

ここ数年の間、インターネット商取引の台頭と衰退(と見えるもの)に関 する議論が嫌というほど行われてきたが、 マイクロペイメント の実現 に近づく動きはほとんど見えなかった。マイクロペイメントは、インター ネット決済が発達するうえで、次の段階として必然的に現れるものと多く の人々(私と Jakob Nielsen 氏を含めて)に考えられている。マイクロ ペイメントの思想は単純そのものだ。Web コンテンツの持続的ビジネスモ デルとして、興味深い内容を持ったページを見るための料金が 1 セント 以下であるとしよう。これはあまりにも小額なため、一ヶ月間の合計支払 金額しか問題にならない。電気代や電話代と同じようなものだ。ところが 残念なことに、マイクロペイメントが受け入れられるようになるにはまだ 課題がある。大きな問題の一つは、支払いを受け付け、取りまとめ、適切 に処理してくれるサービスがないことだ。

<http://www.useit.com/alertbox/980125.html>

マイクロペイメントが主流になるまではまだ何年もかかるだろうが (Jakob はマイクロペイメントの実現予想を何度も先送りしてきている)、 マイクロペイメント実現の地ならし的役割を担ったサービスが少しずつ受 け入れられてきているようだ。決済サービスのような個人対個人取引では 何よりも重要な要素である利用者数からすると、本命は PayPal と見受け られる。

<http://www.useit.com/alertbox/1998_not.html>
<http://www.useit.com/alertbox/991226.html>
<http://www.paypal.com/>

オンライン貨幣 -- PayPal の本質的はこのうえもなくシンプルなもの で、メールを利用して送金と受取を行うことができる。もちろん、実際に はもっと複雑なことが行われているのだが、メールを使うので分かりやす い。

PayPal には、Personal、Premier、Business の 3 種類の口座がある。 Personal 口座は、完全に無料となっているが、ほかの口座に比べて制限 が多い。Premier と Business では利用できる機能が増える代わりに、受 領額、支払いの一括処理、PayPal 口座から銀行口座への日ごとの振替と いったサービスにはわずかな額の手数料が課される。どのタイプの口座に するかを決めるのは簡単で、電子商取引をまめには利用しない個人の方だっ たら Personal 口座が妥当であろう。電子商取引をメインに商売している 場合、個人は Premier 口座、企業は Business 口座ということになる。

<http://www.paypal.com/cgi-bin/webscr?cmd=p/gen/personal_vs_business-outside>

送金するためには、まず PayPal に登録しなければならない。この手続き は、名前、メールアドレスなどを入力するほか、処理の安全性を高めるた めにグラフィックで表示されている数字を入力する(これはプログラムで は簡単にこなせないことだから)という簡単なものである。そうすると、 メールアドレスを確認するためのリンク入りメッセージが送られてくる。

次は、PayPal 口座と財源(クレジットカードまたは米国の利用者なら銀 行口座も可)をリンクする。最初はクレジットカードの番号を登録してサー ビスを利用し、不安を抱かなくなってから PayPal に銀行口座の情報を通 知するのが普通だろうと思う(また、PayPal の利用定款である Terms of Use を是非ともしっかりと読んで、リスクを認識するとともに、承認して いない取引に対する 10 万ドルを限度とした保険を標準にしている方針、 売り手および買い手の保護がどのようなっているかなどを理解していただ きたい)。PayPal はクレジットカードでの処理を厭わないが、これにも 限度がある。クレジットカードでは取引の度に、金額に応じて小額の経費 がかかってしまうのだ。Personal 口座でクレジットカードを財源にして いる場合、受け取ることのできる額が月に 100 ドルまでに制限されてい るのは、おおむねこのためである。また、銀行の口座をリンクしていない と PayPal 口座の保証ができないので一度に 250 ドル以上を送れないと いう制限もある。

<https://secure.paypal.com/cgi-bin/webscr?cmd=p/gen/terms-pop-outside>

インターネットを信用するのは不安を伴うこのご時世、PayPal が銀行の 口座情報を聞きだしておいて後で何かしようとしているのではと疑ってし まうかもしれない。気になるのなら、伝えなくてもよいのだ。PayPal が まっとうな商売をやっていると考えるなら(そうでないのなら、初めから 使わなければよい)、そんな心配は無用であろう。支払い処理を行ってい るのは PayPal だけではないし、どこも可能なかぎり安全で信頼のおける サービスを提供するために奮闘している。もっとも、そうしなければ自滅 してしまう。PayPal の口座を自分の銀行口座にリンクさせると、システ ム全体の信用が上がる(だからこそ、PayPal は銀行口座へリンクするこ とを、口座を「保証する」と呼んでいるのだ)。

インターネットで身元を偽るのは簡単なことだし、クレジットカードの番 号を盗むのもさほど難しい話ではない。だが、PayPal の銀行口座確認シ ステムに引っ掛からないでだまし通すのは難しいだろう。銀行の口座番号 を入力すると、PayPal はそこに 1 ドル以下のお金を 2 件振り込んでく るので、口座の明細を確認する。その振り込まれた金額を PayPal のセキュ リティ用の確認ページに入力する。情報を盗み出されてPayPal の口座で 悪用されたとしたら、それは PayPal うんぬんという以前に深刻な問題を 抱えているのだ。銀行口座のような確認できる情報が増えるということは、 それだけ身元が確実な人が増えるということになる(外国のユーザーに対 してはクレジットカードを使った同様の確認が行われる)。

銀行口座の確認処理をすぐに行うかどうかはともかく、PayPal の口座と 財源をリンクしてしまえば、シンプルな Web フォームに受取人のメール アドレス、金額などを入力するだけで送金できる。ただし、どのようなタ イプの取引をやろうとしているのかを尋ねるポップアップメニューに注意 していただきたい。これは分かりづらいだろうが、財源としてクレジット カードを利用している場合は「Quasi-Cash」を選ばないのが賢明である。 これを選ぶとキャッシング手数料が加算されてしまうから。手続きが終わ ると、PayPal は委託された第三者として、送金主の PayPal 口座から (必要に応じて、クレジットカードや銀行口座から)お金を引き出して、 受取人の口座へと動かす。受取人が PayPal 口座を持っていない場合は、 口座を作るか(よくできたウイルス型マーケティング手法である)、 PayPal に小切手を振り出すよう依頼するかのどちらかになる。送金者側 は、受取人の銀行口座やクレジットカードの情報には一切触れない。受取 人は PayPal から誰がいくら振り込んだかの連絡をもらうだけである。

PayPal 口座からの払い戻しは、(到着までに数週間を要する)小切手を 発行してもらうことができる。銀行口座にリンクしていればすぐに入金の ある電子送金をしてもらえる。もちろん、PayPal の口座にお金を置いた ままにしておいても構わない。送金する場合はそのお金が優先的に使われ る。利子分が損になるとお考えの方は、PayPal 口座に入っているお金を 金融市場で運用するように登録をすると利子がつくようになる。現時点の 金利は 5.2 % である。

メールの中の小切手 -- PayPal は小額決済では期待に添うものではな い。Premier 口座、Business 口座とも、15 ドル未満の取引ではお金を受 け取るのに手数料が最低 30 セントかかってしまう(15 ドル以上の取引 でも数 % の手数料がかかる)。しかし、PayPal はオンラインオークショ ンではものすごく普及している。小切手をあちこちに送るよりずっと簡単 で確実なのだ。もうひとつ、昔からの「お先にどうぞ」問題、つまり、買 い手が先にお金を払うか、売り手が先に品物を送るかという問題がなくな る。

しかし、PayPal が最高に素晴らしいと思わずにはいられないのは、友達 同士での小額のお金のやり取りの場でだ。夕食に出かけて複雑な数学の問 題を解くような場面に遭遇することは多いだろう。誰かがお金が足りない と言い出し、他の人からちょっと借りたりしたときには、誰がいくらにな るのか決めるのは大変だ。PayPal があれば、友達との複雑なやり取りの 記録(「先週の木曜日にお昼の分借りたけど、その前の週に貸した野球の 試合の分まだだよね」)を取っておかなくても、必要な金額を正確にやり 取りできる。また、雑事に紛れて分からなくなってしまいそうな小額の取 引でも役にたつ。たとえば、私は、ある古い本を出版するときに一緒に働 いた仲間に、その本を郵送した。彼はお金を払うと言ってくれたが、正直 言って私はその本のお金を請求することはできなかった。出版社からただ でもらったものだった。それで、彼は送料だけを PayPal で払ってくれた。

PayPal を使用する時の主な欠点は、Web サイトに行って送金するのを覚 えていなければならない、ということぐらいだ(PayPal を使って相手に 請求し、思い出してもらうこともできる)。PayPal は以前 Palm ハンド ヘルド機同士でお金をビームする Palm 用ソフトウェアを持っていた。お 金をビームできるという発想は素晴らしいと思わずにはいられない(レジ に歩いていってハンドヘルド機の Beam ボタンをタップして代金を払う様 子を想像してほしい)が、残念なことに、PayPal がそのソフトウェアを 管理するのは明らかに困難すぎた。現在、PayPal に移動中にアクセスし たければ、Web 閲覧の可能な携帯電話が必要である。これがあれば PayPal の Web サイトにアクセスできる。

シェアウェア作家が PayPal を使ってシェアウェアの代金を回収している のはまだ見たことがないが、できない理由はないだろう。PayPal はユー ザーの Web サイト上での支払いを可能にする Web Accept 機能を持って いるが、Kagi 社のサービスのように特にシェアウェア用に融通がきくわ けでもあわせて作ってあるわけでもない。PayPal の方がが総収入から引 く手数料はわずかだけれど。それでもなお、オンライン上での支払いが必 要な事業を運営するなら、PayPal の簡単さに勝つのは難しい。しかも非 常に多くの人がオンラインでの購入用に PayPal の口座を持っているのだ。

<http://www.kagi.com/>

PayPal は、違った国の人同士での支払いを最近サポートするようになっ た。2000 年 11 月 10 日現在で、26 ヵ国の人(リストは下記のリンクを 参照)が PayPal にサインアップでき、相手の PayPal ユーザーがどこに いてもお金をやり取りできる。いうまでもなく、通貨を交換するコストの 上昇や、その他世界中でお金を動かす時に生じる問題により、クレジット カードからの送金や、お金を PayPal から引き出してクレジットカードへ 移す際(現在は Visa のみ使用可能)2.6 % に 30 セント加えた手数料が かかる。頻繁に使うなら、PayPal の口座にかなり高い預金残高を維持し、 クレジットカード手数料を避けるようにしたほうが理にかなっているだろ う。海外のユーザーでは細かい点でわずかに違うところがかなりあるので、 PayPal の海外ユーザー向けのヘルプである International Account Help Center の一読をお勧めする。

<http://www.paypal.com/cgi-bin/webscr?cmd=p/gen/approved_countries-outside>
<http://www.paypal.com/cgi-bin/webscr?cmd=p/hlp/help_global_intl-outside>

初回無料 -- 以前 PayPal は新規ユーザー獲得のため 5 ドルの紹介料 を支払っていた。今でもまだ行っているが、紹介者が Premier 口座か Business 口座を持ち、なおかつ新規ユーザーが銀行口座にリンクして保 証する、100 ドルを PayPal に預金として電子送金する、金融市場で運用 可能な口座として契約する、などを行った場合にのみ支払われるようになっ ている。同様に、始終細心の注意を払っていたわけではないが、PayPal は手数料を高く設定しはじめ、だいたいのところコミュニティを作ろうと するやり方から利益を得る方に向かおうとしている印象を受ける。PayPal はベンチャーキャピタルのこげつきを起こしていたと思うし、今日の事業 環境では、そのような戦略は長く成功することはない。

PayPal の事業が健全かどうか、内部情報を持っていないので、自分の PayPal 口座に何千ドルも置いておこうとは思わないが、PayPal のサービ スをチェックしてみることをお勧めする。インターネットの中で小額のお 金を PayPal 経由であちこちに送るのは往年の厄介なやり方に頼るよりずっ と簡単である。このような進歩は、私の意見では、採用する価値がある。 私達の生活を小さいけれど重要な点で変える力があるからだ。私の経験で は、PayPal を使うのは最初の何度かは少々厄介だが、その後はほとんど 第二の天性となる。動詞として使いはじめた友達もいる。「しまった。財 布を忘れたよ。そこの食料品店で立て替えてもらえたら、家に帰ってから ペイパルするよ。」というふうに。

TidBITS の PayPal 口座を用意した(代表メールアドレスである <editors@tidbits.com> を使っている)ので、PayPal を試してみたかっ たら、下記のリンクを使用すれば、もしすべて指示に従うことができたら、 我々に 5 ドルの紹介料がはいる。これからも PayPal からは目を離さず に、小額決済に役立つような変化がないか気をつけるつもりである。

<https://secure.paypal.com/refer/pal=editors%40tidbits.com>


携帯する MP3: Nomad Jukebox

by Travis Butler <tbutler@birch.net>
(翻訳:山下 英治 <vatcanza@fhe.freeserve.ne.jp>)
(  :飯橋 真紀 <k-m611@ma4.seikyou.ne.jp>)
(  :尾高 修一 <shu@pobox.com>)
(  :今井 律子 <poorsun@mb.neweb.ne.jp>)

MP3 フォーマットは私たちの音楽鑑賞の仕方を大きく変革させている。あ いにく仕事で多忙な人たちにとって、この画期的フォーマットを携帯する には問題点があった。実用的なポータブル MP3 ソリューションが登場し てかなりの時間が経過している。

すでにノートパソコンを無理して持ち運んでいるというなら、それも一つ の選択だが、バッテリーの寿命が限られた厳しい選択だ。限られたディス ク容量を利用しようと MP3 ファイルは作業と競合するはずだ。 MP3 のコ レクションを CD-R に焼いて、ノートパソコンで再生することも可能だろ う(私もそうしていた)が、そうすれば頻繁にディスク交換することにな る。ゆえにとっさに聴きたくなった曲が、ロードした CD-R 上に必ずある とは限らない。手元に携帯していればノートパソコンでも十分うまくいく のだが、音楽を携帯して聴くだけならその方法は度を越している。

専用ポータブル MP3 プレーヤはここ 2 年ほどの間でやたらに増えてきて おり、Best Buy のような小売販売店もが数種の異なったモデルを売り出 している。そのほとんどすべてが固体状態記憶装置を使用しており、いく つか長所がある。駆動部品がなく、小型で、音飛びの可能性もないし、バッ テリーの消費量も少ない。一年前、Rio 500(これは今でも最高のメモリ ベース・プレーヤだと思うが)を譲り受け、全体的にとても気に入った。 とはいえ、おそらく自分で買うことはしなかったと思う。なぜならメモリ ベース・プレーヤには重大な短所もあるからだ。フラッシュメモリは高価 だし、そしてこの手のものは再生時間が限られていて、だいたいほんの 30 分から 2 時間だ。これまで Rio を弁護してきたが、私にとって再生 時間の短かさは重大なハンディである。

<http://www.rioport.com/>

もう一つの携帯の選択としては、新たに登場した MP3-CD プレーヤ群があ るが、実質は MP3 ファイルを収録した CD-R を再生できるポータブル CD プレーヤだ。値段は 100 ドルぐらいからで、たいていのメモリベース・ プレーヤよりも安く、一枚の CD-R につき 11 時間とこれまでよりずと長 時間にわたって音楽が聴ける。残念ながら初期の機種はかなり粗削りな部 分があった。さらに、本来は CD 一枚あたりの収録時間を大きく拡張した CD プレーヤなので、ユーザは音楽コレクションを他の作業をしながらう まく整理したり管理できない。前述したように、CD-R に音楽コレクショ ンを置くと結局ディスク交換にいらいらしてしまう。それでも Creative 社の Nomad Jukebox という新製品を手にすることがなかったら、おそら く結局は買うことになっただろう。

<http://www.nomadworld.com/products/jukebox/>

Creative 社は先の Nomad モデルを含め、評価の良いメモリベースの MP3 プレーヤをいくつか製造している。理論上では Nomad Jukebox にかなう ものはなさそうだ。高価なフラッシュメモリに代えて、比較的安価である 6 GB のノートパソコン並みのハードディスクを使用し、収録時間は最長 3 日と半日となった。これが Nomad Jukebox の抜群の魅力だ。6 GB で音 楽コレクション全体が収まりきらないとしても、ヴォーカルもののお気に 入りと相当な数のインストゥルメンタルが十分収まる。このモデルはコン ピュータ使用に負うところが多く、MP3 ファイルの ID3 タグの情報を読 み取ることができるので、アーティストやアルバム別に分類するなど、自 分の音楽コレクションの情報をメディアプレーヤよりもっとうまく整理し 表示できる。最終的に大手メーカーの製品ほど(Creative 社は SoundBlaster シリーズのサウンドカードや PC 周辺機器も製造している) 十分に設計され、洗練された商品を期待できるだろう。Nomad Jukebox は どれだけ満足にその可能性に応えてくれるだろうか ?

曲を並べる -- Jukebox の再生機能の中枢部は、再生キューだ。曲は、 検索管理機能をもつ様々な音楽ライブラリから再生キューに保管される。 音楽ライブラリは、プレイリスト、アルバム、アーチスト、ジャンル(す べては ID3 タグから収集)、といった 4 つのカテゴリで分類され、曲に アクセスしやすい。アルバム、アーチスト、ジャンルのカテゴリからあな たの聴きたい曲へたどり着くには、サブカテゴリのリストをくぐりぬける (たとえば、ジャンルを選べば、サウンドトラック画面で、Cowboy Bebop OST 1 を出せる。あるいは、アーチストを選べば、America を探して、次 に America の超メガヒット曲集に行きつく)。検索機能を使えば、たち まち目的の曲を探し出せるのでリストの長さは関係ない。ただあいにくな ことに、便利なアルファベット順の曲リストは存在しないようだ。特定の 一曲を収録するには、2 、3 通りのリスト画面を通過しなければならない し、いろんなアルバムから数曲を収録するには、リスト画面を行き来しな ければならない。私のように、全アルバム曲ではなくアルバムごとに数曲 だけ収録したい時などは、最悪だ。そんな訳で、Jukebox でダウンロード できる何百枚の曲から収録する最善の方法はプレイリストを活用すること だろう。Macromedia 製 Flash を使うのであれば、Creative 社のウェブ サイトを見るとよい。どのように機能するか、デモ版が教えてくれる。

<http://www.nomadworld.com/flash/Jukebox_Interactive.asp>

プレイリスト作成には、2 つの方法がある。再生キューに曲をフル収録す れば、それ自体をプレイリストとして保管できる。とは言っても、手順を ふんで再生キューにフル収録するといった気の遠くなるような作業は遠慮 したい。実に効率の良い方法があるのだ。Jukebox は、SoundJam MP を付 属している。MP3 プレイヤとエンコーダの機能を合体させた素晴らしいア プリケーションの一つだ。SoundJam は、MP3 プレイヤを操作するプラグ イン構造が自慢だ(すべてではないが、Mac 対応 MP3 プレイヤのほとん どに有効だ)。SoundJam のプラグインがあれば、Jukebox でダウンロー ドした曲でプレイリストを作成できる。さらにうれしいことに、アーチス ト、アルバム、ジャンル別に分類できると同時にアルファベット順の曲リ ストも作成できる。ついに、曲を再生するのに最適な方法がみつかった。 SoundJam を活用すれば、再生キューにダウンロードできる曲数は少ない が聴きたい曲を集めたプレイリストや、Jukebox でランダム再生できる多 数の曲が保管されたプレイリストを作成できる。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05988>

曲出しの速さ -- プラス面からいえば、プレイヤの音質は想像以上だ。 付属の首にかけるタイプのヘッドフォンや、私の Rio のイヤフォン(音 質がよくなる傾向あり)、アンプ内臓スピーカ、自宅のステレオにつながっ ているスピーカ等で試してみたが、どれをとってもその音質は素晴らしかっ た。ハードディスク(駆動部)を使用しているにもかかわらず、RAM 再生 バッファの効力により振動による音飛びはなかった。Mac 基準の MP3 ソ フトウェアとは違って、システム設定の切り替え、曲検索、リストから目 的の曲に行き来する、といったようなプログラム動作がスムーズに処理さ れる。

ところが残念なことに、他場面での動きは鈍くて、おそろしく時間がかか ることもあった。電源を入れ自動スリープから起動すると、私の Jukebox は、保管された曲を再生するのに 1 分半かかる。瞬間起動の Rio と比べ るとはるかに遅い。PowerBook と Palm の起動時間を比較して、その差を 3 倍したぐらいの遅さだと思って頂ければ間違いない。画面に曲リストを 読み込ませるのにかなりの時間がとられていると予想される。50 曲を保 管した再生キューへの切り替えは、ほぼ瞬時に処理されるが、一方で、 860 曲を保管したプレイリストの表示画面への切り替えには、少なくとも 45 秒はかかる。さらに、曲の停止や切り替えに時間のずれが生じる場合 もあり、画面表示は、1 、2 秒ほどプレイヤの動きに遅れをとる。これら の欠点は致命的ではないが、かなりのイライラ感をつのらせるものだ。

バッテリ寿命にもがっかりだ。Jukebox は、4 本の高容量 1600 mAh 単 3 ニッケル水素電池が 2 セット付属されている。一般的なニッケル水素電 池よりもスタミナがあるのは確かだが、それでも予備電源は必要であろう。 なんといっても、連続再生可能時間はたったの 4 時間なのだ。Jukebox 付属の AC アダプタを本体に接続すれば充電可能だが、かなりの時間を要 する。10 時間フル充電しても、4 時間で消耗されるのはつらい。 Creative 社が、特殊サイズの電池ではなく規格サイズの単 3 電池を採用 してくれたことは嬉しい限りだ。それなら、私の Olympus 製デジタルカ メラ付属のニッケル水素充電器でフル充電もできるし、すべての充電池が 消耗してもアルカリ電池で代用可能だ。しかしながら、Creative 社には、 電池耐久時間と充電時間のさらなる改良に取り組んで頂きたい。

サウンドをいじる -- Jukebox は単に音楽をそのまま再生するだけでは ない。Creative 社は、EAX という名の音質強化技術を大いに自慢してい る。EAX にはパラメトリックイコライザ、ヘッドフォンサラウンド、エン バイロンメンタルオーディオ、再生速度といった機能が含まれている。残 念なことに、こうした機能の効果は耳で感じられるものの、このために音 質が向上しているとは思えないし、ほとんどはギミックに過ぎないという 印象を受ける。

Jukebox の音量調節範囲はちょっと狭い。目盛りは 1 から 20 まである のだが、静かな部屋では 8 から 10 がちょうどよく、職場では 15、自動 車で移動中はヘッドフォンをしても 20 では小さすぎる。最大音量をもっ と大きくしてくれるといいのだが、そうするとバッテリの持ちに影響が出 るのだろう。

最後に、バグと呼ぶべき実用上の問題点を挙げておこう。

以上で述べた問題点からは、実際よりも Jukebox の出来が悪く見えるが、 MP3 を再生するという肝心な仕事は上手にこなしてくれる。問題点や奇妙 に見える点は、何千という数の MP3 ファイルを扱ううえで避けて通れな い問題なのかもしれない。とはいえ、Creative 社が EAX のようなギミッ クではなく、スピードやバグフィックスといったことに力を注いでくれて いればと思う。

インターフェースとデザイン -- 外形的には、Nomad Jukebox は洗練さ れた工業デザインの好例だ。筐体の大きさと形はポータブル CD プレイヤ ぐらいだが、これはたぶん使い勝手を考えてのことだろう。また、なだら かなカーブを描くデザインは、眺めるにしても使ってみても楽しいものだっ た。ソリッドな造りで、操作ボタンも便利な位置に付いている。通常の Play/Stop/Next Track ボタンや Previous Track ボタンに加えて、 Jukebox にはリストをスクロールするための一対の Up/Down ボタンや、 ライブラリにジャンプしたりシステム設定機能のための専用ボタン、また 様々な状況感知機能を操作するための”ソフト”ボタン類が LCD ディス プレイの近くに表示されている。すべてのボタンはしっかりとした感触で、 押したときのカチッという音も心地よい。

外形的デザインに関して敢えてアラ探しをすれば、大き過ぎるサイズと (中心にあるラップトップハードドライブは煙草の箱より小さいのに) LCD ディスプレイが小さ過ぎることだけだ(選曲リストではたった 6 行、 25 文字しか表示できないが、これでは Jukebox に入っている曲の数々を 操作しづらい)。

残念ながら、インターフェースは工業デザインとしての期待に沿っている とは言い難い。たとえば、Jukebox には専用の Pause ボタンが付いてい ない。私の経験では、Pause ボタンの付いていないほとんどのプレイヤは Play ボタンを再使用する。Play ボタンを押して再生し、一時停止するに はもう一度押す。Jukebox では代わりに Stop ボタンを使用する。一時停 止するために一度押し、2 度押せば停止になる。この用法には論議がある が、先に述べた使い方の方がより一般的に思えるし、私の好みでもある。 検索機能にも別の妙な癖がある。左右のソフトボタンでアルファベット文 字の中を移動させるのだが(普段、私が上下にスクロールするようなイメー ジを抱くもの)、up/down ボタンでカーソルが曲のタイトル上を左右に動 いているのだ(はぁ?)。少なくとも Jukebox のオペレーティングシス テムはアップグレード可能であり、Creative 社がこれらのイライラを解 決したバージョンをリリースしてくれることを私は望んでいる。

可もなく不可もなし -- では、私は自腹を切っても Nomad Jukebox を 買っていただろうか? 500 ドル(オンラインでの実勢価格は 450 ドル) という金額は気軽に買える値段ではないが、手元にお金があったら買って いたと思う。私のミュージックライブラリの大部分を持ち歩くことができ、 しかもすぐに聴くことができるのは大いに魅力だ。今のところ、Jukebox の競合製品は HanGo Personal Jukebox PJB-100 だけで、資料からは前述 の私の不満を解消してくれているように見えるが、値段が高く、あまり馴 染みのない会社の製品でもある。

<http://www.pjbox.com/>

つまるところ、Jukebox は決定版となる素質を持っているものの、そこま では達していない。基本機能はしっかり押えてあるのだが、数は少ないが 深刻な欠点と細かな不満点に足を引っ張られているのだ。Jukebox はもっ と優れた製品になる可能性を持っていたし、Creative のような会社なら、 もっと出来の良いものを作ることができたはずだ。


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