TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#576/16-Apr-01

11 年 - TidBITS を開始してからほんとうにそんなに長い時間が経ったの か?Adam が Macintosh 業界で何が変わり、何が変わらないままかを振り 返る。Ron Risley 博士が、電子的なコミュニケーションを使う危険性を 最小にすることについての考えとともに、電子メールを使った医者とのコ ミュニケーションに関する記事を締めくくる。また、Mac OS X 10.0.1 と Mac OS X 用の Retrospect Client の公開ベータ版という重要なリリース を取りあげる。

目次:

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今回の TidBITS のスポンサーは:


MailBITS/16-Apr-01

(翻訳:西村 尚 <hisashin@hotsync.co.jp>)
(  :三好 泰子 <yokomo@mio.to>)

01 年 4 月 17 日に短時間のネットワーク停止 -- 我々は普通は短い中 断時間に煩わされたくないが、Qwest 社が、01 年 4 月 17 日火曜日の午 前 4 時から 7 時まで(米国 Pacific Time)ソフトウェアをアップグレー ドするため私の 56K フレームリレー接続を中断する予定だと伝えてきた。 この時間は週でもっとも込んでいる時間のひとつだ。db.tidbits.com の すべてのサービスはこの間利用できなくなる。[ACE]

Mac OS X 10.0.1 が入手可能に -- Mac OS X 10.0 の最初のリリースか らわずか 3 週間で、Apple 社は 10.0.1 をリリースした。これは Mac OS X の Software Update コントロールパネル(10.0.1 Update を入手する 前に、これ自体 700K のアップデートを必要とする)を通して入手可能な 4.1 MB のアップデートである。Apple によれば、改良点には、サードパー ティ製 USB デバイス用のサポートの改善、処理性能の向上、総合的なア プリケーションの改良と Classic モードの安定性の向上、iTunes 用のサ ポートの強化、Secure Shell サービスに対するサポート(旧いバージョ ンでもいたるところで一般に入手可能なのだが)が含まれる。

<http://www.apple.com/macosx/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1360>

Mac OS X 用 Retrospect Client パブリックベータ -- Dantz Development 社は、Mac OS X 用 Retrospect Client のパブリックベータ 版をリリースした。Mac OS X マシン上の Retrospect Client パブリック ベータと、Mac OS 8.x 、あるいは Mac OS 9.x が稼働しているバックアッ プサーバ上の Retrospect 4.3 に追加されたプラグインとによって、バッ クアップを可能するものである。Mac OS X 搭載の Mac を Mac OS 9.1 で 起動すると、バックアップされたすべてのファイルに対して、Unix ファ イルのパーミッションが失われてしまう。このように、このパブリックベー タは、まだ未熟な状態であるが、生産的な作業ができる Mac OS X マシン とするための 1 つの重要なステップなのである。Retrospect セレクタへ のサポートなし、通知とバックアップサーバの設定は不可、時計の同期な し、バックアップする前のカウントダウンのよる警告なし、UFS のボリュー ムへのサポートなし、アンインストーラなし、2001 年 7 月 1 日までの 期限付き、といった限定事項が含まれている。さらに、Complete リスト アは、別のボリュームからブートする必要があり、このボリュームには Mac OS X 用 の Retrospect Client がインストールされていなければな らない。Dantz 社のサポート用のメーリングリスト(今のところ利用可能 な唯一のサポート)には、数多くの問題が挙がっているいるので、私は、 Retrospect を頼りにしている方々は、是非 <retro.client.osx-on@list.dantz.com> にメールを送って購読するよう ことをお奨めする。444K のサイズのダウンロードには、自分の Retrospect ライセンスコード、あるいは登録番号が必要。さらに、Max OS X 用 Retrospect Client にログインするためには、有効なクライアン トライセンスが必要となる。 [ACE]

<http://www.dantz.com/index.php3?SCREEN=osxclient>


e ドクター、お元気ですか? 医者への電子メール、Part 2

by Ron Risley <ron@risley.net>
(翻訳:敦賀 康子 <hiroki-tsuruga.soul75@nifty.com>)
(  :飯橋 真紀 <k-m611@ma4.seikyou.ne.jp>)
(  :亀岡 孝仁 <kameotak@iea.att.ne.jp>)

前回の記事で、電子メールのより広範囲にわたる使用から医者と患者両方 がなぜ利益を得るのかを、そうすることによって起きる問題のいくつかに 加えてお伝えした。今週は医者と患者が電子メールでやり取りをする時に、 安全性を保証してミスコミュニケーションの危険を最小限にとどめるため のいくつかの方法についてお伝えする。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06392>

何が行なわれているか? American Medical Association からの簡潔な ガイドラインと Massachusetts Health Data Consortium でのより詳細な 分析が、医者と患者の間の電子メールでのコミュニケーション固有のいく つかの重要な問題について提言し始めた。これらのガイドラインを理解し、 それに従うことによって、その制限のいくつかを正しく評価すると同時に、 医者と患者が効率的に電子メールを使うことがでる。

<http://www.ama-assn.org/ama/pub/category/2386.html>
<http://www.mahealthdata.org/mhdc/mhdc2.nsf/e214ac63ff65c87e852564580073a9fd/ 4a7c6d398962159785256759006a1113?OpenDocument>

加えて、HIPAA(Health Information Portability and Accessibility Act)として知られているアメリカ合衆国の規則が近い将来、電子メール の医療的使用に重要な制約を置くだろう。患者が守秘放棄合意書に署名し ない限り、医者は強力な暗号を使わずに、電子の手段によって患者の記録 のどんな部分でも伝えることができなくなるだろう。プライバシーへの新 たな注目は歓迎されるが、保険業者や行政機関、そして雇用者達のような 団体がアクセスして同じデータを共有することをより簡単にすると同時に、 規則は患者と医者、あるいは医者同士の間の通信を改善するために電子メー ルを使うことへの障害にもなり得るのだ。

<http://aspe.os.dhhs.gov/admnsimp/>

個人による暗号化 -- 電子メールプライバシー問題の解決策の一つに、 個人による暗号化が挙げられる。PGP(Pretty Good Privacy)は、公開鍵 プログラムの賞賛すべき製品で、電子メール通信チャネルをセキュリティ 保護し得るものだ。PGP は、Mac OS 8 と 9 、Windows 各種、Unix/Linux、 といったプラットフォームでの個人的使用においては無料で利用できる。 その商用版は、Network Associates 社によって提供されている。また、 フリーウェアオープンソース版も入手可能だ。強力な暗号の輸出規制のた めに、PGP の配布はアメリカ合衆国とカナダに制限されている。ただ、 Mac OS X に移植されている完全に互換性のある Gnu 公式ライセンスを受 けた Gnu Privacy Guard(GPG または GnuPG)と同じく、合衆国外で配布 された国際版 PGPi は存在する。

<http://www.pgp.com/>
<http://web.mit.edu/network/pgp.html>
<http://www.pgpi.org/>
<http://www.gnupg.org/>

PGP に伴う問題は、送信側と受信側の双方に PGP あるいは互換性のある ソフトウェアをインストールし理解して、鍵を作成し、確実に公開鍵を配 布することを強いることだ。鍵の管理や配布は苦痛になり得るだろう。 PGP のここ最近のバージョンは、その有用性を高めることに大いに成功し ている(そして一部のモダン電子メールクライアントに首尾よく浸透して いる)が、PGP は依然としてユーザーにとって親しみやすいものとは言い 難い。私の患者のうち 2 人が現にわざわざインストールして使用してい るが、明らかに少数派だ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1044>

ゲリラ因子 -- 医療機関は患者ケアシステムを動かし続けるのに管理部 門が汗を流し、そして政府機関は閉鎖的な規制を考え出すのに四苦八苦し ている間に、インターネットはお構いなしに発展し続けている。保険会社 と医療機関の間で個人の私的情報を即時にやり取りするのを助成する代り に、インターネットは患者とその医師がこの個人情報の所有権を取り戻す ことを可能にしてくれるかもしれない。

TidBITS にいつも目を通している人なら覚えているかもしれないが、2 年 ほど前に私はサーバのバグに取りつかれしまったため、壊れていた PowerBook 5300cs を使って自前のインターネット空間を作り出したこと がある。当時感じた利点の一つに、自分でサーバをホストすることで、患 者が私宛に送ったメールが私が取り出すまで民間のサーバ上に残ったまま という事態だけは最低限避けられるということがあった。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05995>

それ以来私は何台もの古い Mac をリサイクルしてきた、そして今や私の ジャンクサーバ群は 6 台にまで増強された。大部分は Mac OS で動いて いるが、医療通信に要求されるセキュリティとプライバシーの問題を解決 するには、商用のセキュア Web サイトを支えている技術である Secure Sockets Layer (SSL) に頼るのが一番効果的であると判断した。私の予算 は不可能に近いほど少ないのに、Mac OS 用の無償のあるいは低コストの SSL サーバはない(この辺の事情は Mac OS X のリリースで変りつつある が、その代り高価なマシンが必要である)。そこで古い Power Mac 7200 に LinuxPPC をのせて Apache-SSL をインストールした(私は 1980 年代 に Unix システム管理者としての経験があるが、この作業をやってみてあ らためて Mac OS の使いやすさに対する尊敬を新たにした)。セキュアサー バの認定書を取得するため Thawte に対して 125 ドルを投入しなければ ならなかったが(これは TidBITS スポンサーである Small Dog Electronics からの 7200 一式のコストよりも高い!)、それでも Guerilla Physician Project は今やセキュアサーバを持つこととなった。

<http://home.netscape.com/security/techbriefs/ssl.html?cp=sciln>
<http://www.linuxppc.org/>
<http://www.apache-ssl.org/>
<http://www.thawte.com/>
<http://www.smalldog.com/>
<http://www.guerillaphysician.com/>

Guerilla Physician Project は何をやっているのか?Huntington's Disease の治療のためには機密性は極めて重要である。なぜならば、これ は遺伝的遺伝子欠陥によるもので、まったく症状がなくともテストをする と遺伝子的に陽性と判定される可能性がある。テストそのものは、患者が 自分の将来を計画する手助けになるし、症状が出始めたときに早期の介入 を可能とするので価値があるが、何十年もの間いかなる問題もなくきた人 が、突然雇用に適さないとか、保険を購入できないとかの問題に直面する 可能性がある。私は Huntington's Disease 治療チームのための電子連絡 ネットワークを設定した。このチームは大学だけではなく州やカウンティ の政府機関も含んだ複合グループであるので、それぞれの IS 関係者を集 めてセキュア通信のためのシステムを設計し承認を得ようとしたら 何年も かかったであろう。

その代りに、Guerilla Physician サーバを使うことで、オーブンソース のブレチンボードとチャットソフトウェアにその他もろもろの手ごろな機 能付きで、しかも予算措置ゼロで、システムを数週間で実用に供するよう にできた。このシステムのユーザーは SSL 付きの Web ブラウザ以外何も いらない。これらユーザの使うマシンに搭載できるプログラム群は厳しく 管理されていることが多いので、特別なソフトウェアをロードする必要が ないというのは大きな意味を持つ。商用のあるいは企業のシステムと違い、 これらのデータはこの治療チームに属する免許を受けたヘルスケアプロバ イダー以外のいかなる人の手に渡ることはない。

<http://www.hdteam.org/>

Guerilla Physician は拡大し続けている。まず、California の辺地にお ける精神ヘルスケアを統合する手助けをするプロジェクトである。今取組 んでいるのは PGP 暗号化を使った患者と医師が通信できる Web ベースの メールシステムのコーディングである。通常は自分のコンピュータに PGP をインストールし使わなければならないのだが、しばしばこれは困難で時 には間違いやすいので、これなしでやれるシステムを目指している。これ が完成した暁には、真に私的で機密性を持つ分散化した電子医療記録 - 患者と医師の間だけで共有される - への夢が現実へと一歩近づくことに なる。

<http://www.risley.net/comp.comm/emr/>

将来 -- 最近の Mac OS X のリリースやブロードバンド Net アクセス の拡大により、これらの垣根は十分低くなって Guerilla Physician のよ うなホストサービスをより多くの医師ができるようになるかもしれない。 医学は奇妙な世界である。最も私的で個人的なふれあいと世界最大のそし て最も非個人的は医療機関とが共存できるのである。私の願いはインター ネットの分散された力がプライバシーの妥協ではなく回復に使われること である。

[Ron Risley 氏は家庭医、精神科医であり、通信エンジニアの経歴を持ち、 Sacramento, California でその技量を生かした長年にわたるハッカーで もある]


TidBITS、11 年を経て

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)
(  :尾高 修一 <shu@pobox.com>)
(  :斎藤 美礼 <mirei@x.age.ne.jp>)

TidBITS は今週号が連続発行 11 周年にあたり、ついにあの Spinal Tap の中の有名なセリフ「普通より一枚上手の 11」を持ちだしてこれるまで になった。今までの記念号の記事では、我々の基本的な歴史や動機 (「TidBITS 創刊 9 周年を達成」)、過去 10 年間で学んだこと (「TidBITS 10 年の教訓」)を書いた。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1166>

今年の記念号の下準備として、TidBITS を始めてから一年経ち少し角の取 れてきた 10 年前に出したものすべてを読み返すことにした。一番気になっ ていたのは、過去 10 年間で何が変って、何が変っていないかということ だった。読んでいるうちに、人や製品や企業の名前が怒濤のように蘇って きた。TidBITS と Macintosh 業界の両方のその年のハイライトをいくつ か紹介するとともに、このような変化が現状にどのように影響を与えてい るかもあわせて見ていこう。

私がやったように今までの歴史にざっと目を通したいという方は(今まで 発行したものをすべてをオンラインに置くなんてほかではなかなかできな いだろう)、ftp.tidbits.com から全 setext ファイルをダウンロードし て、Easy View を使って眺めるのが一番手っ取り早いだろう(Easy View はもう何年もアップデートされていないが、Mac OS 9.1 が載った Power Mac G4 マシンで使ってみても今なお実用になるし動作も速い)。もしく は、読みながら 1991 年の 4 月に自分がどこにいたかを思い起こしてみ るのもいいだろう。

<ftp://ftp.tidbits.com/issues/>
<ftp://ftp.tidbits.com/misc/easy-view-262.hqx>

TidBITS の変化 -- 一番衝撃的な変化は、記事や一号分が短かったこと と、内容が現在 TidBITS Talk で話されている類いのものだったというこ とである。現在では短いニュースをお届けする場になっている MailBITS などは、当時は文字通り読者からのメールのためのコーナーだった。レ ビュー記事も同じく短かったが、毎週発行する中に組み込まずに単独で出 そうとしていた。私たちの記事が長くなった理由についてはいろいろと思 い当たる。

Tonya と二人で TidBITS を始めた当時は、ニュースをダイジェストにし て短く伝えようとしていた。1991 年、1992 年ごろは、Macintosh につい てや Mac 業界についてほとんど知らなかったが、そのうちにコメントを 付けたいという気持ちを押さえられなくなった。あの頃は、何でもやって みたいという気持ちもあったし、今よりはずっとたくさんのことを試して いたが、単に記事に加えるべき基本的なデータを欠いていたのだ。ミスの 多さやそれを翌週号で訂正していることの多さも私の無知さ加減をよく表 している。これを 11 年も続けた今は、ほとんどすべての話題に関して頭 の中に入っている情報が増えていき、有益なことを細々と書き足すのも楽 になった。もちろん、ミスはいまだに犯しているが、我々の編集や内容を チェックする能力は格段に向上した。

情報不足も影響していた。Web が頭角を現す以前で、私の情報源は、個人 的なメールや、Info-Mac Digest のようなメーリングリスト、Usenet ニュー ス、AOL のディスカッション、MacWEEK や InfoWorld のような業界誌、 Macworld Expo で集めたパンフレット類などだった。たいていは不完全な 情報で、長い記事を書くのは至難の業であり、ミスを犯しやすかった。噂 もかなりの影響力を持っていた。なぜなら、確かな情報があまりなかった し、オンラインの世界があまりにも小さく Apple はほとんど関心をして していなかったのだ。すべてが今よりも小さくかつ単純で、Mac のモデル やソフトウェアや関連企業はわずかしかなく、Macintosh ユーザー数も桁 違いに少なかった。時々ごく特定の読者に向けたコメントを書いていたの には特に驚いた。メリーランド州の倉庫から盗まれたMac 3 台に関する情 報を求める文を書いていたこともあったのだ。この 10 年の間に何台の Mac が盗まれただろうかと一瞬考えてしまった。

出版に利用してた媒体が HyperCard スタックだったことも要因の一つで ある。それまで発行されたもののアーカイブに毎週自己統合するタイプの スタックを利用していた。HyperCard で読むのは少々うっとうしかったの で、 TidBITS-100 から setext(structure enhanced text)形式に変更 し、その時を境に一号分の量が画期的に大きくなった。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03282>

個人的な変化と顔触れの変化 -- 今までずっと TidBITS を個人ベース で発行しているのは、それによって自分たちが世の中と双方向の関係を持 てるからであり、1991 年、1992 年の TidBITS に書いた個人的なコメン トで数多くの記憶が蘇ってきた。この 2 年は Tonya と私にとって重要な 年で、1991 年 6 月に結婚し、同 8 月にニューヨーク州 Ithaca からシ アトルに引っ越し、1992 年 1 月に初めて Macworld San Francisco に行っ た。引っ越しと Macworld の書きぶりから、今よりずっと若く、ずっとは まっていた自分が窺える。私はびくびくしながらやっていたが、それは記 事には出ていないようだし、とにかくあの手この手で自分を認めてもらお うとしていた。

こういった変化は、緊張して過ごすということに繋がる。若くて回復力も あったが財政的にはきつかった。インターネットが私の主要な命綱である ことが判明した(2400 bps のモデムである UUCP システムに接続してい たのだが、そこを運営していたのがその後 Northwest Nexus の創設に寄 与した人物で、現在我々はその ISP を利用している)。自分の人生に迷 いのある時期に、TidBITS のおかげで専念するものを見つけることができ た。それが、TidBITS 自ら収入を生み始めることができるようにスポンサー 方式の要綱をまとめた時期だった。1992 年 7 月に最初にスポンサーを発 表したとき、TidBITS はインターネットで広告を出す草分け的存在だった。 当時この概念で特許をとっていたら、今ごろは我々も右に倣って破産の道 を歩んでいただろう。

スポンサー方式が現在の域に達するまでには数年を要したが、1991 年、 1992 年当時に頑張って TidBITS を続けたことで得た知名度と書いたもの に対する信用のおかげで、1993 年に Internet Starter Kit for Macintosh の第一版を出すことができた。これはペストセラーシリーズに なり、生活の緊張は目に見えて変化し、何十万もの人達がインターネット に繋がるのに一役買い、TidBITS の読者が増えることにもなった。

昔書いたものを読むのは内向きな部分もあるが、その時分の TidBITS に 係わっていた人達で今でも繋がりのある人がいかに多いかに驚いた。 Contributing Editor の Mark Anbinder は、TidBITS を始めたばかりの 頃から手を貸してくれていおり、私がシアトルでインターネットに繋がっ ていなかったとき(現在は DNS の変更の遅さに文句を言いたくなるが、 1991 年当時は UUCP のマップをアップデートするのに一カ月かかってい たのだ)TidBITS の面倒を見てくれた。Contributing Editor の Matt Neuburg の最初の記事は、 TidBITS-095 の一号分にわたる Eastgate Systems 社製のハイパーテキストエディタ Storyspace のレビューだった。 Glenn Fleishman が登場したのも 1991 年、1992 年当時で、その後 NetBITS を開始することになった。当時から関係のあった人の中には、 Marshall Clow 氏、Edward Reid 氏、Mark Nagata 氏、Paul Durrant 氏、 Larry Rosenstein 氏など TidBITS Talk の常連として今でも名前を見か ける人がいる。

TidBITS のサービス -- 今でこそ TidBITS でもベーシックな Web サイ トから全文検索記事データベースまで、様々なタスクを 8 台の Mac に分 担させて多数のインターネットサービスを提供している。だが 1991 年当 時には、まだ TidBITS をメーリングリストで配信することすらしておら ず、配付には Usenet ニュースグループと Info-Mac Archive だけを頼り にしていた。

そして私の 24 歳の誕生日と重なった号で、ICE Engineering 社の UUCP プログラムである uAccess を使い、メールで利用するファイルサーバを 発表した。ファイルサーバにしかるべく書いたメールを送れば、ファイル をメールで送ってくれるというものだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03328>

当時は 2400 bps のモデムしか持っていなかったので、uAccess で TidBITS を公開したりメーリングリストを運営するということはできなかっ た。ところが間もなく Simon Fraser 大学の Alvin Khoo 氏が TidBITS 用メーリングリストを運営してくれると申し出てくれたのだ。殺到する購 読申し込みに Alvin の自家製メーリングリストサーバはあっという間に 耐えられなくなり、一ヵ月もしないうちに Rice 大学の Mark Williamson 氏が TidBITS リストを同大学の LISTSERV で運営してくれることになっ た。数週間後、Simon Fraser 大学のシステム管理者たちは Alvin のリス トの面倒を見るのをやめることにしたので、購読者全員を Rice 大学の LISTSERV に移した。このセットアップは 1996 年半ばに自前のサーバで ListSTAR を使い始めるまで続いた。面白いことに、短かった Simon Fraser 大学時代に TidBITS を購読し始めた 19 人は、今でも同じメール アドレスで TidBITS の配信を受けている。

1991/92 年から未来を見ると -- 10 年は長い時間だが、TidBITS の古 いテーマで現在に反映しているものが多くある。1991 年にさかのぼって みても、我々はバックアップを強調し、Retrospect や DiskFit Pro のレ ビュー記事を掲載していた。ほかにも、マルチモニタの使用、デジタルカ メラの特集、HyperCard(International HyperCard Users Group が Mac OS X 用にカーボン化するよう Apple の説得に努めている)、Mac OS の 使用上の Tips、古いコンピュータの寄付のアドバイスなどの話題ががく り返されている。

<http://homepage.mac.com/iHUG/>

また、TidBITS が Apple と Macintosh に関する国際的な問題に注意を払っ ていたのを見てうれしかった。我々の情報源には限りがあったし、ボラン ティアの翻訳者チームもいなかったが、多くの読者が他の国のニュースを 寄せてくれ、世界中に配信する手助けをしてくれた。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03374>

現実よりもむしろ欲望に根ざしている記事もあった。ワイヤレスネットワー クの記事が何度かあらわれているが、これは Apple が Data-PCS の無線 スペクトラムに関して FCC に強く論議を吹き掛けていたことによるもの で、以後まもなく断片的なニュースが他にもいくらか登場した。Apple が 1999 年 7 月に AirPort 製品をリリースするまで、ワイヤレスネットワー クがほとんどの人にとって現実とならなかったのは少々悲しいことだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03526>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03502>

1992 年からの記事で読むのが辛いのは、プリエンプティブマルチタスク、 メモリ保護、マルチスレッド化、ダイナミックリンクライブラリについて 基本的なことを解説した記事で、Apple がこういった機能を PowerPC へ の移行と同時に Mac OS に組み込むだろうと推測していた。共有ライブラ リやマルチスレッド化は Mac OS にしばらく前に登場したが、まるまる 8 年かかったし、Apple がプリエンプティブマルチタスクやメモリ保護を Mac OS X に載せて市場に出すまでに数多くの袋小路に入り込んだ。こん なに長くかかる必要などなかった。死産となった機能はすべて、経営力、 指導力の欠如によるもので、圧倒的な技術的困難によるものではない。 Mac OS X が日の目をみた主な理由は Steve Jobs 氏の攻撃的な経営によ るものだ。PowerPC チップへの移行以来、デベロッパーにアプリケーショ ンを新しい Mac OS のために書き直しはおろかコンパイルし直しさえも命 じる根性がほかの Apple の CEO にはなかった。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03180>

TidBITS にとって 1991 年と 1992 年で最大の話題は 1991 年 5 月に始 まった 24-bit ROM 災害だ。SE/30、IIx、IIcx の ROM チップは搭載でき る RAM を 16 MB に制限していた。Apple がこれらの機種で 128 MB 利用 できると宣伝していたにもかかわらずだ(当時 RAM の価格は 1 メガバイ トあたり 40 ドルだったが、ちなみに現在は 1 メガバイトあたり 35 セ ントである)。Jim Gaynor 氏(当時オハイオ州に在住)がこの問題につ いて議論するためメーリングリストを開設したが、そこでの政治的な問題 のため彼は閉鎖を余儀なくされ、私が Apple に ROM 問題についての声明 を求める公開状を取りまとめることとなった。署名を 576 人分集め、手 紙を発送し、Apple の経営者陣に完全に無視された。(お分かりだろう。 まったく変わらないこともあるのだ。)6 月までに Connectix 社が MODE32 で問題を解決した。最初は MODE32 は 170 ドルしたが、9 月まで には法的な威嚇も含む Apple への圧力のために Apple が Connectix か ら MODE32 の使用許諾を得て、無料で配付し、公式にサポートし、購入し た人に返金することさえした。この事件は大きな失敗だった。こういった ことがもう二度と起こるはずがないと思ってはいけない。最近のファーム ウェアアップデートについての大騒ぎで、Apple が取り組むべきだった RAM の問題をあるデベロッパーが独自に進んで解決してくれたことを考え てみるとよい。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1193>

予知能力? 現在のコンピューティングでは現実となっているものも、一 部は TidBITS にフィクションとしてすでに登場していた。たとえば、 1991 年のエイプリルフール号では分散コンピューティング製品に関する 記事を(怪しくもそれらしいスーパーコンピュータの広告コピーも合わせ て)捏造し、続いて二回にわたってこれがそれほど非現実的なものではな いことを論じた。今では SETI@home など、世界各地からコンピュータの パワーを集めるプロジェクトが多数存在する。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03580>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03573>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03534>

1991 年のエイプリルフール号はなかなかの出来で、4 年後に現実となっ た IBM による Lotus 買収も予言していたが、個人的には 1992 年のエイ プリルフール号も同じぐらい気に入っている。私は Retrospect とモデム を使ったリモートバックアップの記事を書いたが、これは今ではインター ネットと Retrospect や BackJack サービスを介して当たり前のことになっ ている。Microsoft が同社のアプリケーション群を NeXT に移植するとい う話も書いたが、これは Mac OS X 用にカーボン対応となった Internet Explorer 5.1 で現実のものとなった。それにサードパーティが開発中と していた Finder を置き換える製品では、モディファイアキ―を押しなが らドラッグしてエイリアスを作成することが可能になると述べたし(当て たぞ!)、Standard File Dialog でアウトラインビューが可能になること (後に Apple の Navigation Services で実現されたものに近い)、Mac OS X のパッケージ(複数のファイルをまとめたもので、ユーザーからは 一つのファイルに見える)に似た「スーパーフォルダ」の登場も予見して いた。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03157>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03158>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=03159>

Quote the Raven, "Nevermore" -- その後多くのテクノロジーや製品、 会社が発展を遂げた一方、忘れられてしまったものも数知れない。中でも 象徴的なのは 1991 年 8 月の Macworld Boston 号で、ここで取り上げた 製品のほとんどすべてがとっくに消滅している。Lotus Jazz、Claris Resolve、More After Dark、Abaton InterShare、Spectre、Hand-Off II、 Outbound 社の Macintosh ラップトップ、それに NewTek Video Toaster を憶えておいでだろうか?

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbiss=76>

1991 年はちょうど圧縮ソフト戦争の最盛期に当たったため、圧縮ソフト を扱った記事も多かった。当時ハードディスクは高価で、圧縮のおかげで わずかな空きスペースを節約することができたのだ。Aladdin 社の StuffIt Deluxe、Bill Goodman 氏作の Compact Pro、Salient 社の DiskDoubler、それに Alysis 社の SuperDisk が口火を切り、続いてより 低いレベルで動作する Salient 社の AutoDoubler、Aladdin 社の SpaceSaver、Alysis 社の More Disk Space といった自動圧縮ソフトと、 ディスクドライバとして動作する Golden Triangle 社の DiskSpace が登 場した。この分野での革新競争のスピードと威力はまさに自由競争の賜物 だったが、ハードディスクの価格が下落すると同時に容量が増大したおか げで(当時 200 ドルの 88 MB SyQuest や 90 MB の Bernoulli カートリッ ジについて書いたが、今では 80 GB の IDE ハードディスクが同じぐらい の値段だ)、自動圧縮ソフトはスピード低下と互換性の問題のため、最終 的に絶滅への道をたどった。上記の企業と製品の中で、今日でも元気なの は Aladdin と StuffIt Deluxe だけだ。

10 年前、ウィルスは今日よりも Mac の世界では大きな問題だった。 TidBITS で PC 雑誌ほど新種ウィルスについて書かないで済んだのは喜ぶ べきことだ。この理由は Macintosh の世界では注目すべき新種ウィルス が少ないこと(問題になるのはあのやっかいなマクロウィルスたちだ)と、 抗ウィルスソフトが自動的に自己アップデートすることができるようになっ たことが大きい。1991 年当時は新種ウィルスが登場するたびに、John Norstad 氏の名作 Disinfectant などの抗ウィルスソフトのアップデート が必要だったのだ。

最後に、1991 年にはお買い得情報も頻繁に登場し、新情報や特価品、少 し変わったバンドルなどについてお知らせしていた。特売期間が終了して しまう前に情報を伝達することができる情報源は当時数少なかったため、 これは意義のあることだったのだ。私たちは徐々にこうした情報を掲載し ないようにした。というのも、ベンダーに無料で宣伝してあげているよう なものだし、お買い得情報そのものが増加の一途をたどったからだ。1995 年 10 月、私たちはお買い得情報だけを扱った DealBITS という姉妹出版 物を発行したが、時代を先取りしすぎていたうえに TidBITS の持ち味を 発揮できなかった。今では dealmac がこの仕事を上手にこなしている。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=01306>
<http://www.dealmac.com/>

そして未来へ -- 過去を振り返って歴史から学ぶのもいいが、過去に生 きるのとは違う。10 年前に Macintosh の世界で起きていたことを振り返 ると、当時の目的は今と同じで、Macintosh プラットフォームを前進させ ることにあった。時には多少のつまずきや袋小路さえあったものの、常に コンピューティングを改良し、強化し、新しいアプローチを試すという基 本的な欲求があったのだ。Macintosh 業界から退いたり別の道を歩きだす のはもちろん個人の自由だが、現時点での Macintosh の世界は私たちが TidBITS を始めた 1990 年以来最も大きく充実しているということができ る。今日の Macintosh コミュニティが、10 年前のそれと同じように、活 発かつ建設的に Macintosh プラットフォームを前進させ、将来にわたっ て Macintosh を最初の(そしてベストの)パーソナルコンピューティン グ用プラットフォームとし続けることを願ってやまない。


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