TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#591/06-Aug-01

Microsoft は Mac OS X に遅れを取ったのだろうか? Microsoft Office 10 のプレビューを見たところ、Microsoft Office 10 は Apple の新オペレーティングシステムをサポートするのに全力を投入しているようだ。反省と含め、Adam は TidBITS を新規購読または購読解除する人々へのアンケート集計について考察をまとめる。そしてニュースでは、Metricom の破産に伴うワイヤレス Ricochet ネットワークの閉鎖、Conflict Catcher 8.0.9 および Spring Cleaning 4.0 のリリースを伝える。

記事:

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本号の TidBITS のスポンサーは:


自分のおへそを眺めてみたことがありますか?

文:Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

今からちょうど十年前、TidBITS の誕生一周年を記念して、私は TidBITS の特集号を組んで読者アンケートの結果を発表した。この読者アンケートは、電子メールと郵便を使って行なわれた。(そう、普通の郵送による調査だった。Webというものが登場したのは、このあとさらに何年か経ってからのことだ。)最近私はこの特集号を読み返し、今の状況と比較してみて、あらためて驚かされた。比較というのは単に読者の数だけではない。(数だけを見れば、当時の読者数は 5,000 から 20,000 人くらい、およそ 18ヵ国くらいにわたっていたのだが、それが今日ではおよそ 60,000 人くらいで 120 以上のトップレベルドメイン(ほぼ国の数に相当)になっている。)私が最も驚いたことは、読者の人たちが TidBITS に求めるものが、当時と今とでほとんど変わっていない、ということなのだ。これは、私たちがいかに一貫性を保っているか、という証拠かもしれない。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbiss=54>

読者が TidBITS の購読を止める理由 -- しかしながら、物事は変わり、人も代わってゆく。Web の交通量は増える一方だが、最近ではメーリングリストの購読者の数は増えてはいない。その主な理由は、一言で言えるけれど本当に嫌なもの、bounce(メールの不達)だ。我々のメーリングリストは非常にクリーンな状態に保たれていて、何度か bounce が繰り返されると、そのアドレスを送付不可能アドレスとしてリストから削除するようにしている。TidBITS は長年にわたって続いているので、積算した bounce の量はきっとどこのメーリングリストにも負けないほど多いだろう。何年も前に1つのアドレスから購読を開始し、その後別のアドレスに引っ越した際に自動転送を設定してそのまま使い続け、何年か後に最初のアドレスが無効になってしまったり、またはさらに別のアドレスに引っ越した時にはじめの転送のことを忘れてしまったり、ということがよくあるのだ。(不達で我々のところに bounce してくるメールの中には、それがメーリングリストのどの購読者によるものなのかを判断するだけのためにとても長い時間がかかってしまうようなものもある。中にはどんなにがんばっても突き止められなかったものもいくつかあるのだ。)

さて、TidBITS では、ここ 15ヵ月にわたって、TidBITS の購読を止める読者に止める理由を尋ねるアンケートを続けてきた。その結果をもとに TidBITS を改良できないか、という意図での調査だった。このアンケートにはおよそ 1,800 人が回答を寄せてくれた。そのうちおよそ 1,100 件は、あまり実質的でない人数、つまり購読アドレスを別のアドレスに変更するだけの人々や、休暇のために一時的に購読を休止する人々だった。それ以外の人々、つまり実質的にTidBITS の購読を止めたいと思った人々の理由は、主に「内容」と「表現法」の2つに分かれた。

「内容」については、どうやら我々にはあまり責任はないようだ。およそ 23%の人々は、Mac を使わなくなったので読む必要がなくなった、と答えてくれた。これは残念なことだが我々の力ではどうしようもないことだ。(Windows に移行した読者には私は Lockergnome, Woody's Watch, The Naked PC などのニュースレターを勧めている。)問題は残りの、それ以外の理由を答えてくれた人々だが、その少なさを見れば、我々のやり方がいかに評価されているかがわかると思う。たった 0.9%がもっと広範囲の話題が必要と答え、0.7%が TidBITSには専門性が不足していると答え、2.3%は専門的過ぎると答え、3%がとにかくおもしろくないと、0.6%が内容が偏っていると答えてくれた。結局、内容を理由に購読を止めた読者はおよそ3分の1で、その大部分は Mac を使わなくなったというだけの理由だった。これはおおむね満足すべき結果だろう。

<http://www.lockergnome.com/>
<http://www.woodyswatch.com/>
<http://www.thenakedpc.com/>

「表現法」についても、我々がコントロールできる範囲の理由については良い結果だった。TidBITS が長すぎるという回答はたった 1.4%だったし、TidBITS の話題がタイムリーでないという理由で購読を止めた人は 0.6%だった。また13.5%の人々にとっては電子メールによる購読がもはやベストなメディアではない、TidBITS は Web サイトで読むから、というのが理由だった。数字は特定できなかったが、TidBITS のハンドヘルド版も、いくらかの人々をメーリングリストから引き離すことに貢献したのだろう。

<http://www.tidbits.com/about/handheld-edition.html>

さて問題は残った最後の理由だ: 43%の人々は、受け取る電子メールの量が多すぎるので購読を止めた、ということだった。これには参った。もちろん私も、メッセージの量が多すぎるという理由でメーリングリストを脱退したことは何度もあるので、理由としてはわかるのだが、でも TidBITS は1週間にたった1回の発行ではないか。まあたぶん、メールの量が多すぎるので TidBITS の購読を止めた、という読者は「内容」の方に不満があったということなのではないだろうか。TidBITS の内容がおもしろければ、週1回を負担に思うことはないだろうと思う。

11.2%の読者は、理由を挙げずに購読を中止、ないしは上記以外の理由、という答えだった。その「上記以外」を具体的に書いてくれたものを読んでみると、大体において上記のものいくつかの組み合わせが多く、ほとんどが受け取る電子メールの多さを理由の1つに挙げていた。

購読中止への対策 -- 上記の結果を見ると、内容をこう変えれば購読中止が減る、というようなものはあまり見えてこない。もちろん、 Macintosh 専門という方針をやめれば Macintosh 以外のプラットフォームに移った読者も引き留めることができるだろうが、もしもそれをすればより多数の読者に見放されてしまうだろう。(もちろん、我々自身が Windows に全然興味がないという事実以前に、ということだが)また同様に、何人かの読者は、何年も前の Mac を使い続けているので最近の話題ばかりの記事は読んでも意味がない、という意見を寄せてくれた。もちろん我々も、古い Mac をふさわしい環境でできるだけ長く使い続けるべきだ、という意見を断固支持する者ではあるけれど、歴史的な内容ばかりの記事では最近 Macintosh の世界にやってきた多くの読者たちを閉口させるだけだ、というのも事実だろう。

表現法に関して言えば、TidBITS の発行間隔を拡げることは不可能だけれども、1つ1つのメール受信時間を減らすことで「メールが多すぎる」という読者の不満を軽減することは可能だと思う。その方法というのは、メールによる TidBITS の発行をアナウンスメント版だけにすることだ。このアナウンスメント版には URL だけを記載することにして、実際の記事はその URL の示す Webに置く、というわけだ。こうすれば、読者は自分の読みたい記事だけをダウンロードすることができる。この方法は現在検討中なので乞うご期待。

もちろん、一番大きな問題点は我々が毎週大量に受け取る bounce(不達メール)の数を減らす方法がないか、ということだろう。これについても今ちょっとしたアイデアがあって、検討中だ。これがうまくいけば、メーリングリストの読者数もきっと安定するだろう。

読者の TidBITS への感想 -- 購読を止めた読者への、この自動アンケートを設定してから少し後になって、これから購読を開始する読者への自動アンケートも設定してみた。つまり、新規購読者に対して、TidBITS をどう思うかという感想を聞いてみたのである。このアンケートの意図は、どうすればより多くの人に購読してもらえるか、ということを探る点にあった。ただアドレスを変更する、というだけの人々を除いて、(そしてまた“Tidbits”という名前の我々とは無関係の非専門雑誌を購読しようとした5人の人には何とも混乱させられたのだったが)それ以外の回答は以下のようなものだった。

該当するおよそ 1,000 の回答のうち、29%は誰かの口から TidBITS のことを聞いたと答え、20.9%は我々の Web のリンクから、20.1%は他の雑誌などを見て TidBITS の購読を決めたと答え、11.1%は無回答またはそれ以外の回答だった。(最も傑作なものは、その人の会社の名前が“Tidbit Caramels”という名前だったことから我々の Web サイトを見つけて購読した、ということだった。)また 3.7%は TidBITS の記事が他の場所で引用されているのを見て TidBITS を知った、ということで、2.9%は我々編集チームの誰かが書いた本や記事を読んで TidBITS を知った、ということだった。

<http://www.charlottesconfections.com/tdbt.html>

最後に、新規購読者の 12.5%がこれまで TidBITS を Web サイトで読んでいたのだけれども電子メールで受け取るほうが良いと思った、という回答だった。これはとてもおもしろい数字だ。人数を比較してみると、Web からメールへと移行した人数 (122) の方がメールから Web へ移行した人数 (95) よりも多かったからだ。

新規購読者獲得に向けて -- 新規購読者が TidBITS を見つけた3大方法は口伝え、TidBITS Web サイトからのリンク、他の雑誌などでの TidBITS の引用、である。残念ながら、これらのことを我々が直接引き起こすことはできない。ただ、忠実なる読者の皆さんに、最初の2つのことについてお力添えをお願いすることができるだけだ。

もしもあなたの友人で TidBITS が役に立つかもしれないと思われるような人がいたら、どうかその人に TidBITS のことを知らせてあげて欲しい。我々の Web サイトのことを教えてもらえれば嬉しいし、または単に購読アドレス<tidbits-on@tidbits.com>.だけでも充分かもしれない。また、もしもあなたが何回か TidBITS の記事を転送したことがあるなら、どうかその人に、直接記事を購読するように勧めていただきたい。もしもあなたが Web ページを持っていて、その内容がちょっとでも TidBITS の記事の内容と関係があったなら、どうか我々のデータベースの中のその該当記事に(TidBITS の各記事の末尾にあるような固定 URL を使って)リンクを張っていただきたい。読者専用のバッジもいろいろ用意しているので、どうぞあなたの Web ページで使って欲しい。あなたのページにそんなに訪問者の数が多くないからと遠慮しないでもらいたい。実は、訪問者の数に関係なく、我々のサイトへのリンクの数が増えるだけで、TidBITS がいくつかのサーチエンジンでのランクを上げることができるのだ。中でも Google は我々の推奨するサーチエンジンでもあり、現在一番参照の多いサイトなのだ。

<http://www.tidbits.com/>
<http://www.tidbits.com/about/badges.html>
<http://www.google.com/>

Internet 上の他の雑誌などで引用されることも、もちろん重要なことだ。TidBITS のスポンサーでもある Small Dog Electronics の発行する The Kibbles & Bytes newsletter や、Bob Rankin と Patrick Crispen の the Internet Tourbus newsletter などでは、TidBITS は常時引用されてフィードバックのメッセージも得ている。これらのニュースレターの読者の方々は全般に TidBITS に好意を持って下さっているようだから、皆さんもぜひこれらのニュースレターを読んでみて、Macintosh 業界についての記事やハードウェアの記事 (Kibbles & Bytes) とか Internet の一般情報や推奨サイトについての記事 (Tourbus) とかに触れてみて欲しい。

<http://www.smalldog.com/>
<http://www.tourbus.com/>

最後に、我々が TidBITS を発行している目的は、できるだけ多くの読者のために有益な情報や分析の記事を送り届けることだ。読者であるあなたが、一人でも多くの人に、メーリングリストでの購読を、Web での記事を読むことを、またハンドヘルド版を読むことを、勧めて下さることは、TidBITS の目的にもかなうことで、どうぞよろしくお願いしたい!


Microsoft Office 10 のアメとムチ

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: 斎藤 美礼 <mirei@x.age.ne.jp> (前半)
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp> (後半)

Mac OS X 10.1 のデモが今年の Macworld Expo in New York で行われたが、Apple 社は必要な変更を行い、この次世代のオペレーティングシステムを早くから採用した最前線のユーザーや Macintosh/Unix マニア以外のユーザーにも気に入ってもらえるところまで持っていくようである。メインストリームのものとして認められるには、長年にわたる怠惰によって強められ、深く根ざしている意見に Apple が打ち勝たなければいけない。中には正しい意見もあるが、新しいインターフェースを学ぶのにうんざりしているユーザーの頑固さに過ぎないものもある。どちらにしても、Mac OS X の努力はApple と Macintosh 開発者の両方からのアメとムチの注目を受けることに よってのみ報いられるだろう。

Apple のアメは Mac OS X の強力な Unix コアと「なめられそうな」Aquaインターフェースだが、Mac OS X は旧型 Mac で徐々に Apple が行ってきたようには、ムチを振り回して新しいハードウェアを Mac OS X だけに制限する準備がまだ出来ていない。しかし、Macintosh 開発者にとっては状況は違っていて、彼らは Steve Jobs 氏が言った 2000 年の5 月にすでに駅を出発する Mac OS X という電車の迫ってくるヘッドライトの光に照らされている。急いで既存のアプリケーションをなんとかカーボン化して、Mac OS Xのメモリ保護やプリエンプティブマルチタスクなどの主な機能を利用しようとしている。Apple は比較的最近のアプリケーションをカーボン化するのは非常に簡単だと主張するが、開発者の多くは、特にきちんとやろうとすると時間のかかる仕事で、必要な技術がMac OS X で充分に機能していない場合はなおさら時間がかかる、と気づいている。私が Macworld で話した何人か のプログラマーは、Mac OS X バージョンは進行中だと言っていたが、ほとんど皆必要な情報や協力をApple から得るのに苦労していると漏らしていた。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05950>

読者の方も気がついているだろうが、我々が今まで見てきた既存のアプリケーションの Mac OS X バージョンは、明らかな制限を持つものが多かった。開発者が Mac OS 9 での機能群に匹敵するものを提供しようとしているが、Apple からの情報は限られていて苦労しているからだ。ずいぶんお粗末なアメだ。「これが Mac OS X 対応のすばらしい新バージョンだ。Mac OS 9バージョンの機能の多くが実行できて、Mac OS X でも動くんだ!」それに、ほとんどの場合、充分にムチが振られているのを見たことがない。MacOS X が最終的に成功するのに必要なレベルには達していない。

Microsoft の一歩前進 -- この状況で重要な Macintosh 開発者はMicrosoft 社だ。Adobe 社、Macromedia 社、Symantec 社、Intuit 社なども重要だが、Mac OS X の成功がかかっている必須のソフトウェアはMicrosoft Office である。Microsoft Office なしでは、Mac OS X は業界で受け入れられるために困難な戦いに直面することになり、Mach マイクロカーネルを持ってカーネギーメロン大学に帰った方がいいということになるかもしれない。また、Microsoft が Word 6 の大失敗の原因となったような態度なら、お粗末でいいかげんなカーボン化に終わり、Windows ユーザーにMac を侮辱する理由をまたひとつ与えるだけになってしまうだろう。しかし、現在 Microsoft に置かれている Macintosh Business Unit(Microsoft用語では MacBU)は理解があり、他の企業では悪夢でのみ起こるような、同社の Windows 陣営からのある種の政治的な戦いに対処しなければならないにも関わらず、彼らはできるかぎりきちんと仕事をしてる。

MacBU とほかのグループの違いの大きな例のひとつに、リリースされたばかりの Mac 版 Microsoft Outlook がある。これは Windows Outlookチームによって書かれている(Outlook Express と混同してはいけない)。一見 Mac用アプリケーションのようであり、ドラッグインストールやインターフェースの色の変更など「Mac 先行」機能もいくつかあるが、明らかに Windowsの移植である。メッセージやフォルダの詳細を得るために、「Properties」メニュー項目を選択するのだ。さらにひどいのは、HTML メッセージを RTFに変換し(変換中にリンクが失われる)、Palm 器機のサポートがなく、Redirect コマンドがなく、POP/IMAP サーバに接続できず、Entourage やOutlook Express にあるようなインターネット - スタイルの引用ができず、他の Office アプリケーションのようにはインラインのスペルチェック機能がないことだ。Mac 版のOutlook を目にすることができるのはいいことだ。というのも Mac がWindows 主体の企業で生き残るためには必須であることが多いからだ。しかし MacBU が仕事をすることは出来なかったのだろうか。

<http://www.microsoft.com/mac/products/outlook/outlook_prod.asp>

Mac OS X での Office 10 -- Macworld Expo の前に、Microsoft のKevin Browne 氏が私に Microsoft Office 10 を見せてくれ、議論の終わりまでに Microsoft は Mac OS X を全面的に支持していることがはっきりした。Microsoft が Office 10 に関して行ったもっとも重要な決定は、MacOS X 上でしか動作せず、将来加わる機能はすべて Office 10 上で行われる、というものだ。これは約束されたムチなのだ。もし前進を続け、Windows 側のものと互換性を保ちたいなら、Office 10 とその後継者は唯一のチャンスなのだ。しかし同時に、Mac OS X にアップグレードしたくない、またはできないユーザーは、Office 2001 を使い続けることができ、Kevin 氏はソフトウェアが将来のバージョンの Mac OS 9 で機能するために必要なメンテナンスアップグレードをリリースするだろうと語った。

<http://www.microsoft.com/mac/>

この決定をする際、Microsoft は Mac OS X に賭けていて、Office での山のような低レベルのアーキテクチャ面での作業(合計 2500 万行ものコードだ)をしてその決断を実際に行動で示している。Office でのコードには 10年以上昔からあるものもあり、単純なカーボン化では動くようにはならないだろう。低レベルのコードのかなりの部分を再設計している一方で、Microsoft はアプリケーションがオペレーティングシステムとの対話方法を変更する Carbon Event という Mac OS X の技術に依存することを決定した。従来の Mac OS では、アプリケーションはオペレーティングシステムに、マウスクリック、キー操作、ウインドウの操作など、関連するかもしれない次のイベントについてたずね、それから適切に反応する、ということに多くの時間を費やしている。そういったやり方は Mac OS X でもまだ通用するが、非効率的で、Mac OS X のパフォーマンスの問題の原因の一部となってしまう。Carbon Event を使用すれば、アプリケーションは関連するイベントをオペレーティングシステムに登録し、あとは静かに座って待っていれば、オペレーティングシステムがそういったイベントを見て送ってくれるので、それに反応すればよい。Carbon Event をサポートするアプリケーションがバックグラウンドにいるとき、完全におとなしくすることができ、CPU時間を消費することはまったくない。もちろん、Carbon Event のサポートがどれだけアプリケーションを高速化するかを示すのは難しいが、PowerBook G4 Titanium での Office 10 のパフォーマンスは、特にまだプレリリース版のコードであることを考慮するときわめて良好だ。

(ここまでの翻訳:斎藤 美礼<mirei@x.age.ne.jp>)

Office の新機能 -- 動作の軽快さだけでは「アメ」とは言えない。それは絶対必要条件というものだ。Microsoft が今回追加した「アメ」はと言えば、いくつかの新機能がある。どれも驚天動地の一大機能というわけではないが、それでも多くのユーザーにとってありがたい改良点であって、TidBITS の投稿エディタの Matt Neuburg が以前 TidBITS で Office 98 とOffice 2001 アプリケーションの詳細なレビュー記事を書いたときに指摘したような不満点のいくつかを解消するものになっている。たとえば:

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1139>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1183>

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04822>

Entourage はデモには含まれていなかったので新機能について報告することはできないが、これは間違いなくカーボン化が最も容易なアプリケーションだから、きっとたくさんの新機能があるだろうと思う。

抜けている機能 -- Microsoft でさえも、Office 2001 の機能をすべて Office 10 に盛り込むことはできなかった。2つの機能が欠けてしまったが、幸いなことにこれら2つとも比較的小さなものである。1つめは、Apple からも Palm からも援助を得られなかった結果、Microsoft は Palmデバイスとの同期化機能を Entourage の Office 10 版に盛り込むことができなかった。この機能はできるだけ早い機会に無料アップデートとして回復させてもらいたいと思う。

2つめは、Microsoft が Excel 2001 の ODBC (Open DatabaseConnectivity)機能を実装させないことを決めたことだ。その機能の実装にかかる労力と、その機能を本当に必要としているユーザーの数の少なさとを秤にかけた結果だろう。Office の Windows 版にある機能が Mac 版にはないのを見るのはくやしいが、よく考えてみれば ODBC を本当に必要とするユーザーの大多数はすでに Windows を使っているはずなのだった。ほんの少数のユーザーしか使わないようなデータベース接続機能に努力を費やすよりも、多数の Mac ユーザーが必要とするような機能やパフォーマンスの改良に Microsoft が努力を集中するように願うのが賢明というものだろう。もしも Microsoft の考えているよりも多数のユーザーが ODBC を Excel で使っているということならば、Microsoft にそのことを伝えてやりさえすれば、いずれその機能も再現してもらえるだろう。

[訳者注: ODBC については、Office 10 の最初のリリース時には実装されないが後日アップデートとして装備される予定、という未確認情報もある。]

その他のプログラム -- Microsoft の Macintosh 用フラッグシップ製品はOffice に違いないが、他にも現在開発中の製品はある。フリーウェアのMSN Messenger for Macintosh 2.0 はすでに入手可能で、Mac OS 8.6、MacOS 9.x、Mac OS X のいずれでも動作するカーボンアプリケーションである。私は MSN Messenger for Macintosh 1.0 は使ったことがないのでその品質比較をすることはできないが、聞くところによればなかなか良いインスタントメッセージングクライアントであって Windows 版の機能のほとんどを実装しているのだが、ファイル転送、ボイス、ビデオチャットの機能は無い、ということだ。Macworld Expo での Microsoft のキーノートでの発表とは異なり、人々をチャットに誘い込むことができたり相手のタイピング活動状態をレポートできたりする機能は、決して MSN Messenger のみのものではない。たとえば、Netopia の Timbuktu Pro のインスタントメッセージング機能の中にも存在している。MSN Messenger の欠点と思える点が1つある。それは、Microsoft Passport を必要とする点だ。Passport があなたが望まないのに HotMail アカウントを強要するということは今はなくなったが、Microsoft が勝手に個人情報を保存してしまうことを非常に不快に思う人々は大勢いる。信頼性の問題(最近多数のユーザーが一週間にわたってMessenger を使用できなくなったのは記憶に新しい)とプライバシーの問題(1つの会社がパワーを独占して、将来それを濫用する余地を持つ、ということが許されるだろうか?)の両面の理由からだ。

<http://www.microsoft.com/mac/messenger/messenger_default.asp>
<http://www.netopia.com/software/products/tb2/mac/>

さらにつまらないものに思えるのが Windows Media Player for Mac だ。現在入手可能なバージョン 7 は、Mac ユーザーが Windows Media ファイル(QuickTime ムービーに似たファイルで、ファイル名に .wma の接尾辞を持つ)をプレイできるようにするアプリケーションだ。Windows Media Playerfor Mac の次期バージョンは数ヵ月後にリリース予定だが、Mac OS X のみで動作するものになる。なぜそんなにけなすのかって? その理由はただ1つ、ある種のコンテンツは Windows Media フォーマットのみでしか入手できないからだ。それなのに Microsoft は Windows Media フォーマットのソングは MP3 ファイルに比べて半分のサイズになるなどと宣伝している。私の意見では、こんなプログラムは何の役にも立たないと思う。良識ある Macユーザーは Apple の QuickTime フォーマットをできる限り使うと思うし、第一“Windows Media Player for Mac”なんていう名前はたいていの Macユーザーなら気にも止めないはずだ。私の想像するところ、MacBU はただ政治的な理由だけのためにこのプログラムを作ったのであり、Apple のマウス以外は決して使わないような狂信者ならずとも Windows Media フォーマットで QuickTime を置き換えようなどという気は全く起きないはずだ。個人的には、こんなプログラムは「パス」の一言で片付け、コンテンツをWindows Media フォーマットに制限しているようなサイトには QuickTime もサポートするようにお願いしたい。

<http://www.microsoft.com/mac/products/mediaplayer/mediaplayer_default.asp>

まとめ -- Office の三本柱である Word、Excel、PowerPoint はいずれも熟成されたアプリケーションであって、もはや大きな新機能を組み込む余地はあまり残っていないように見える。それにもかかわらず、Microsoft はこの Office 10 をもって、ここ数ヵ月以内に Office 10 がデビューした暁にはユーザーに Mac OS X へとアップグレードさせるための真の動機を与えることができる、というものにまで仕上げることに成功したようだ。

Office 10 の価格の詳細はまだ発表されていないが、Microsoft によれば、もしも Office 2001 を持っていなくて Excel も PowerPoint も不要ならば、 Office 10 を最も安価に入手する方法は、まず期間限定版の Word +Entourage特別版を $150 で購入し、それから Office 10 がリリースされるのを待って、もう一度 $150 を払ってアップデートすることだそうだ。

<http://www.microsoft.com/mac/products/office/2001/word/wordentse.asp>

そうそう、1つ忘れていたことがある。“Office 10”というのは実はただのコードネームで、Microsoft はまだ正式名称もそのスペリングも決定してはいないのだ。でも、私の予感では、Microsoft が安易に Apple の真似をしてローマ数字の X を使うことはたぶん無いだろう。我々が TidBITS 読者へのアンケートで Mac OS X をどう読むかを尋ねた時、過半数の読者が“Mac OS Ex”と読むと答えたのだから。これと同じ発音を使って“OfficeX”を早口で読んでみたらどうなるか...即座にあなたの会社のセクハラ担当の人間が飛んできて、懇々と「職場での正しい言葉づかい」について講義をしてくれるだろう。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbpoll=58>

(ここまでの翻訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>)


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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA