Mac ではない新しいデバイスとして Apple がどんなものを出してくるかという人々の期待に答えて登場したのは、iPod だった。この見事にまとまった小型の MP3 オーディオプレイヤーは、このジャンルで新たなスタンダードを切り開く画期的な製品だ。Jeff Carlson が実地に使ってみてのレビューをおこなう。この iPod がその斬新さにもかかわらず大ヒットにはならないかもしれぬ、1つの要素についても触れる。また、Dan Kohn は暗号化技術がオンラインの歳入システムを守るためには役に立たない理由について述べ、ニュースとしては Windows XP と IPNetSentry 1.3 のリリースをお知らせする。
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Microsoft が Windows XP をリリース -- Microsoft は先週 Windows XP を発表した。これは Windows オペレーティングシステムとしては初めて、Windows NT/2000 系統での業務用クラスの根幹部と Windows 95/98/Me 系統でのユーザーに優しい機能やインターフェイスとを融合させたものだ。ユーザーの反応ははっきりと2つに分かれている。ある者は新しいインターフェイスや内蔵ツール、信頼性の向上などに熱狂的な歓迎を示し、またある者は XP の造りがいいかげんで随所が未完成であり、既存の周辺機器の多くをサポートせず、また Microsoft の .NET サービスへのリンクに問題があることなどに不満を示している。
PC を使わざるを得ない Macintosh ユーザーの見地から言えば、Windows XP はおそらく歓迎すべきものだろう。これまでの、どう見ても間の抜けた Windows のインターフェイスに多くの変更が加えられて、ヒューマン・インターフェイスのデザインと実装に向けて、より Macintosh のやり方を思わせるものに近づいているのだから。以前のシステムからの各種アップグレードも可能だが、現実的には数年以上前に購入したマシンならば買い換えた方が賢明だろう。古いハードウェアの場合はいろいろな問題が起こりうるし、新しい PC は値段も安いのだから。Windows XP と Mac OS X との比較については、まあ、もう少し時間が経たないと判断できないだろう。殊に、Apple は Mac OS X に次々に改良を加えているところなのだから。ちなみに、これとは対照的に Microsoft はあまり頻繁にオペレーティングシステムの更新はしていない。 [ACE] (永田)
<http://www.microsoft.com/windowsxp/>
<http://www.forbes.com/forbes/2001/1001/118.html>
<http://www.zdnet.com/zdnn/stories/comment/0,5859,2819063,00.html>
<http://www.zdnet.com/products/stories/reviews/0,4161,2809517,00.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05809>(日本語)Microsoft が Windows 2000 をリリース
IPNetSentry 1.3 は個人利用を超える -- Sustainable Softworks は、同社の個人用ファイヤウォール・侵入探知ソフトウェアの最新版、IPNetSentry 1.3 を発表した。(パーソナルファイヤウォールについて詳しいことは、TidBITS-564 の記事“Macworld SF 2001 のトレンド:パーソナルファイアウォール”を参照。)このバージョン 1.3 では、トラフィック量の多い環境でパフォーマンスを向上させるための多くの改良がなされている。例えば、ペイロード点検機能の効率が上がって Code Red や Nimda などのワームのトラフィックが阻止できるようになり、フィルターのエイジが 250 から 2000 まで上がって侵入攻撃を探知して将来の同様の攻撃を防いだり、侵入しようとするTCP 接続を閉じるオプションや、ハイ・パフォーマンスのネットワーク環境などですべてのディスクアクセスを阻止できる機能などもある。登録ユーザーは無料でアップグレードできる。[ACE] (永田)
<http://www.sustworks.com/site/prod_ipns_overview.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06281>(日本語)Macworld SF 2001 のトレンド:パーソナルファイアウォール
文: Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
訳: 倉石毅雄 <takeo.kuraishi@attglobal.net>
訳: 斎藤美礼 <mirei@x.age.ne.jp>
Appleが新しいオーディオプレーヤーを紹介するために作ったビデオでは、Apple の工業デザイン担当の副社長Jonathan Iveは「我々の目標は出来る限り最高のMP3プレーヤーを設計することだった。」と言っている。iPodを見れば、彼らが成功したことは明らかだ。しかし一台当たり400ドルという値段を考えると、これがiMacのような成功となるかG4 Cubeのような痛い教訓となるかが大きな疑問だ。
HAL、iPod格納庫のドアを開けてくれ -- iPodはステンレス製で6.5オンスの携帯音楽プレーヤーである。薄型の5 GBハードドライブのおかげで、幅2.4インチ、高さ4 インチ、そして厚さは1インチ未満だ。FireWireで接続して約1000 (圧縮率によってはもっと多く)のMP3形式の曲を記録することができる。AppleによればFireWireの転送能力のおかげでCD一枚分の音楽を10秒で、個人の全てのMP3コレクションだったら(コレクション全部入るのであれば)5分から10分で転送することが出来る。iPodはWAVや AIFF形式もサポートしており、ファームウェアがアップグレード可能なので他の音声形式のサポートを加えることも出来る。
32 MBのキャッシュがあるので、なんと20分もの「音飛び防止」が可能である。もっともRAMはディスクが停止して電池の寿命を延ばすための大きなキャッシュと考えたほうが良いだろう。iPodは10時間の連続再生を実現するリチウムポリマー電池で作動する。約1時間で80%まで、3時間で完全に充電出来る。FireWireを使用しているのでMac に接続していれば充電される。FireWireディスクモードにすれば普通のハードディスクと同じように他のデータを保存することも出来る。
iPodはハードディスク使用のMP3プレーヤーとしての最初の製品ではないが(TidBITS-592 の「Nomad Jukeboxに挑戦するArchos Jukebox 6000」を参照)、外見は一番だし、複数の言語(現在は英語、フランス語、ドイツ語、日本語)をサポートしている。またiPodにはFireWireケーブルで接続する交流電源アダプター(とケーブル)、そしてイヤフォンが付いてくる。Appleは現在、2001年11月10日に発売開始の iPodの注文を受け付けている。
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06521>(日本語)Nomad Jukebox に挑戦する Archos Jukebox 6000
無駄なものを一切省くAppleのデザイン方針に倣い、iPodには2インチ四方のバックライト付き白黒LCDと、(Play/Pause、Forward、Reverse、メニュー)四つのボタン、両方向に回転できるスクロールホイール、そしてハイライトしたアイテムを選択するためのボタンを配置した大きな円形部がある。上部に配置されたHoldと記されたボタンでコンソールをロックすれば、間違えて触れて曲を切り替えたりすることを防げる。(iPodにはベルトクリップがついておらず、ポケットに入れておかなければいけないため、これは頻繁に起こりうる。)
インターフェースは(懐かしいChicago字体を使っているからだけではなく)素晴らしい。どれでもボタンを押せば最上レベルの選択肢の一覧が表示される。プレーリスト、演奏者、曲のいずれかを選んだり、設定を替えたり、Aboutを選択してiPodの情報を見たりなどが出来る。(ちなみに設計者らはここにおまけ- Easter Egg - を隠し ている。About画面で中央のボタンを数秒押すとブロック崩しゲームが現れる。)スクロールホイールを使って一覧中のアイテムをハイライトし、中央のボタンを押して選択する。階層中で上に戻るにはメニューボタンを押す。
<http://www.apple.com/ipod/userinterface.html>
メニューボタンを二秒押せば画面の驚くほど明るい白色のLEDバックライトが点く(Appleのプロモーションビデオの涼しそうな青ではない)。家に帰る道を照らすことが出来るほどだ。音楽を演奏中は中央ボタンを押して残りの演奏時間を表示でき、スクロールホイールを転がして音量を変えられる。もしiPodが演奏中でなければ二分後に自動的に電源が切れ、手動で切りたければPlay/Pauseボタンを二秒間押せばよい。
iPodの他のソフトウェア機能としては、ユーザが設定した期間後に演奏を中止するスリープタイマーや、スクロールホイールを回転されたときのカチッと言う音を消す機能などがある。左右のイヤフォンで音声を調整する機能や他の機器に含まれているイコライザー設定などがソフトウェアに含まれていないのには驚いたが、1.0版では許そうという気にもなる。
音波の下でシンクロ -- もしiPodが曲をコピーする機械でしかなければ、ここまで興味深いものではないだろう。関心を引く点の一つにはiPodと(11月上旬にMac OS 9とMac OS X用の無料ダウンロードとして発表される予定の)iTunes 2との間での自動シンクロがある。iPodをMacに初めて接続するとiTunesは音楽コレクションを全て転送することが出来る。それ以降の接続ではMacとの間で曲やプレーリストが自動的にシンクロされる。手動でMacからiPodへ移動することも出来る。しかしAppleのFAQと私の実験によれば、iPodからMacのiTunesへ移動することは出来ない(iPodを閲覧している際には「ファイル」メニューの「曲ファイルを表示」オプションは使用できなくなっている)。
<http://www.apple.com/ipod/pdf/iPod_FAQ-b.pdf>
iTunesはiPodの製品番号を使い、iTunes音楽コレクションを認識し、iPodの持ち主を判断する。(Seattle Timesの記事のためにiPodを評価していた)友人のGlenn Fleishmanが音楽コレクションをiPodにロードしていたため、私のPowerBook G4に接続したところiPod内蔵の音楽コレクションがiTunesと一致しないというダイアログが出てきた。選択肢としては、内蔵の曲を完全に消して私のコレクションを代わりにシンクロして使用するか、所有者を変えずにそのまま使うかだった。iPodを短期間借りているだけだったのでシンクロするのはやめておいた。その場合、iPod中の曲はiTunes ではロックされてグレーで表示される。私の曲を付け加えるためにはiTunes中から(iPodが接続されているときにiTunesの右下の隅に現れる特別なボタンを押して)iPodの機能設定を開き、手動モードに切り替える必要があった。
その操作を行った後は私の曲を加えることも可能になり、転送もAppleの宣伝どおりの速さだった。CD一枚分の曲を移すためには13秒ほどかかり(iPodは転送を開始するまでに数秒を要する)、(398MB相当の)102曲を移するためには約一分半ほどかかり、私のPowerBook上の残りの3GB相当の曲を移すには11分かかった。ドライブの全容量の 4.6GBを満たすには至らなかったが、iPodのFAQによればiTunesはコレクションが全部収まらないことを探知し、プレーリストを選択してシンクロするか、手動モードに切り替えるよう促すそうだ。
ポケットで燃えるFireWire -- iPod は FireWire を使って Mac に接続しているから、普通のハードディスクとしてデスクトップにマウントすることもできる。Appleは音楽ファイルを不可視フォルダの中に格納し、オーディオ再生の部分をデータ記憶装置の機能から分離しているので、たとえ MP3 ファイルをFinder を経由してドライブにコピーしても、iPod は再生しない。
Apple が大々的にプッシュしていなくても、FireWire ディスクモード機能は大事なボーナスだ。確かに、音楽ライブラリを持ち歩くことができる。しかし、ハードディスクにメールフォルダや、暗号化された機密書類や、パスワード保存用ユーティリティで保護されたソフトウェアのレジスタレーションコードをコピーして持ち歩く、というのはどうだろう。5 GB のハードディスクがポケットに入るのだから、2 か所以上で利用する必要がある場合、Zip ディスクを持ち歩いたり、インターネット経由で大きなファイルをコピーしたり、といったことがなくなる。
FireWire ディスクモードを使う時の唯一の欠点は、データを失う危険を避けるために、Finder のデスクトップからハードディスクを手動で取り外してから(または iTunes の Eject ボタンを使用する)iPod 本体を取り外さなければいけないことだ。
iTunes 2 -- iTunes の新しいバージョンは iPod との互換性の他にもいろいろと加えた。iTunes 2 ではようやく 10 バンドイコライザ(EQ)機能を取り入れた(iTunes の前身だった SoundJam にはあった)。ユーザーは 22 のプリセット設定から選択することも、手動で設定を調整しユーザー独自のプリセットを作成することもできる。1 曲ごとに違ったEQ プリセットをあてることさえできる(曲の「情報を見る」ダイアログボックスを出し、オプションタブをクリックし、イコライザプリセットを選択する)。再生している音楽の種類やレコーディングのマスタ製作の仕方によっては、EQ のブーストで音楽にひずみが生じることがある。その場合、iTunes がイコライゼーションを適用する前にPreamp スライダで音量を下げるとよい。iTunes 2 は 150 以上の MP3 ファイルを保存できる MP3 の CD も焼くことができ、曲を再生するときに、曲の間に無音の状態を少し残すのではなく、オーバーラップさせるクロスフェーダー機能も持っている。Mac OS X 上では、Dock の iTunes アイコンをクリックしたときの曲の再生のオプションにリピートとシャッフル再生とのコントロールが加えられている。
<http://www.apple.com/itunes/>
Apple の Web サイトによると、iTunes は音楽 CD を以前の最大 2 倍の速度で焼くとのとことだが、CD が焼ける Mac を持っていないので、これは検証できなかった。プログラムには Sound Enhancer という素っ気ない名前の機能も追加され、iTunes の環境設定に高低を変えるスライダーがついている。最低の値にすると、この機能を全く使用しないようだが、値を増やすに従って、iTunes はステレオの領域を離していくが、これはいくつかのポータブルステレオにある「3D」効果にかなり似ている。サウンドエンハンサーはひずみや奇妙な副次的効果を引き起こすことがあるが、特に小さなスピーカーや音量を下げているときに、音楽がクリアで明確になることもある。
iPod は Mac だけ -- Apple は iPod が FireWire を搭載した Mac でのみ動作し、Windows マシンや Linux 機では利用できなくてもよい、という事実によって非難を浴びている。この決定については多くの憶測がなされている。というのも、本質的に Mac が必須であるはずがない製品で巨大な Windows 市場を無視するのは Apple にとって自殺行為のように思えるからだ。クロスプラットフォームのユーザーは無視されたことに対してすでに失望の意を表している。もっとも、他にも述べた人がいるように、もし使用したい Windows マシンが外部スピーカーを持っているなら、そのスピーカーを iPod に差し込むのは、iPodをコンピュータに差し込むのに比べ何ら難しいことではない。
Steve Jobs 氏は Apple は将来 iPod を Windows との互換性を持たせるように研究する予定だと述べたが、この製品は構想から完成までわずか 9 か月しかかかっておらず、このような短い製品サイクルでは、単純に Windows との互換性を追加する余地は残されていないのではないだろうか。また、Apple がWindows 市場を避けることを選んだのは、休暇シーズンに向けた供給量の問題を回避するためだった可能性もある。仮に、iPod の内部に使用される東芝の1.8 インチのハードドライブが供給不足だったり、Apple が需要を満たせると確証がなかったら、基本的な Mac ユーザーの市場に集中した方がいいのではないだろうか。
Apple が Windows 市場を避けるのは何ら新しい話ではない。Apple は Windows ユーザがAirport (日本名 AirMac) Base Station を使いやすいようにはしなかった。その情報は間もなく出回ったが。iPod でも同様のことが起きるだろうと思う。FireWire を装備している Windows や Linux のコンピュータからハードドライブ上の正しい個所に書き込む方法を誰かが割り出し、必要なドライバーがすぐに広まるだろう。Airport Base Station 同様、他の会社が Apple のデザインに追随して Apple を下回る値段で売り出すだろう。そう考えれば、Apple が複数の機種に対応するために労力を費やすのではなく Mac ユーザのために最高の経験を提供することだけに集中したのは正しいと言えるだろう。
見た、買った、考えたiPod -- 正直に言えば、Apple は市場で一番のポータブルオーディオプレーヤを作り出したと思う。シャープでエレガントで、なんで64MB の RAM を搭載した Rio 500 を持っているのがクールだと考えていたのか不思議に思ってしまう。しかし、価格が 400 ドルもすることが、iPod のもっとも大きな障害になるだろう。もちろん、どんなものでもまずは 100 ドル高すぎると言ってみるという世の中だから、「もし誰かが iPod を無料でくれるのなら…」という誰もが持つ夢は無視することにしよう。それでも、400ドルの iPod の問題は、値段が適正であるにも関わらず、高いと感じられてしまうことだろう。
iPod の機能を見て、その工業デザインとサイズ(当然小さいほうが高価になる)を考えれば、値段は妥当だ。そして Toshiba の 1.8 インチハードドライブ自体が 400 ドルすることを思えば、iPod は安すぎるとさえ言える。TidBITS Talk で Marshall Clow が述べたように、iPod は非常に携帯しやすいハードドライブに無料の MP3 プレーヤーが付属していると考えることもできる。
<http://www.toshiba.com/taecdpd/products/features/MK5002-Over.shtml>
<http://www.smartdisk.com/Products/Storage%20Products/Hard%20Drives/FWFL.asp>
<http://www.smartdisk.com/Press%20Releases/5GBHardDrive.asp>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1500>
しかし、市場を考えると、いくら今までに最高の MP3 プレーヤーだとはいえ、それに 400ドルを払うのは許容範囲の上限に近い。私が尋ねた人たちの多くは250 ドルか 300 ドルだったら既に注文を入れていただろうと言っていた。しかし、Creative の Nomad Jukebox 20 GB プレーヤーが同じ値段で iPod の4倍の容量があることを考えると、400 ドルではオーディオプレーヤーに払う気になる金額としては無理が出てくる。もし 100 ドル以上の節約になるのであれば、iPod のスリムなデザイン、優れたインターフェース、長い電池寿命などが欠けていても、我慢して大きな機種を買うかもしれない。
<http://www.nomadworld.com/products/jukebox_20gb/>
読者の皆さんはどう思う? TidBIT のホームページで、いくらまでの額なら本気で iPod に払っても良いか、という今週のアンケートにぜひ参加して欲しい。
iPod の売れ行きがどうなるか、興味がある。特に十分な数の iPod が市場に出て、客が実際に見て触れられるようになったら。Apple の広告は興味を引くものではあるが、片手に持って(操作して)みない事にはその小ささを実感することは出来ない。
文: Dan Kohn
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
(
信用するのは大事だが、確認するのも大事だ)
- ロナルド・レーガン大統領の引用したロシアの格言
コンテンツが純粋公共物になりつつある、この時代に至っても、コンテンツの創作者たちは(少なくとも、創作者たちの代理者と自称している出版業界・レコード業界の会社たちは)今だに暗号化さえあれば彼らの収入源が確保できると信じ込まされている。前回のこのエッセイは盗用自由−その1: コンテンツは純粋公共物で述べたように、実は、彼らはもはや、まな板の上のコイの立場でしかないのだ。
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06604>(日本語)このエッセイは盗用自由−その1: コンテンツは純粋公共物
コンテンツが純粋公共物になりつつあるのは何故だろうか? すでに相当の期間にわたって、これらは事実上「非競争的」なものになっている。つまり、私があなたの CD の音楽やソフトウェアをコピーするには、ほんのわずかの費用しかかからないし、そのことによってあなたが何ら被害を受けるわけではない。(もちろん、この「窃盗行為」によってそのコンテンツの著者は被害を受けたと感じるだろうが、あなたの方は、その CD に傷をつけられたりでもしない限り、私が数分間借りたからといって何も気にすることもないわけだ。)実際のところ、あらゆるコンテンツを0と1の信号データに変換するデジタル時代の中心的コンセプトは、必然的に無限回のコピーを、それも品質低下を全く起こさないコピーを可能としてきたのであり、それこそが「非競争的」商品の本質であったのだ。
そればかりではなく、最近2年ほどの間に明らかになってきたことは、デジタルのコンテンツは「非競争的」だけでなく「非排除的」でもあるということだ。(もっとも Recording Industry Association of America (RIAA) は依然としてこれが見えないふりをしているのだが。)もちろん、デジタルコンテンツをコピー不可にするためのさまざまな技術の開発には、これまで何千万ドルという費用が投じられてきた。コピーを探知するために画像に「削除不可能な」ウォーターマークを埋め込んだり (例: SDMI や Macrovision)、コンテンツを暗号化して正当なプレイヤー以外では読めないようにしたり (例: DVD CSS、また音楽業界側で Napster に対抗すべき PressPlay や MusicNet の使用している Microsoft や Real Network のデジタル権利管理システムなど)、あるいは動作させるのに何らかの形での登録を必要としたり (例: Office や Windows XP)、といった技術だ。
<http://www.riaa.org/>
<http://www.sdmi.org/>
<http://www.macrovision.com/>
<http://www.dvdcca.org/>
<http://www.pressplay.com/>
<http://www.musicnet.com/>
暗号化は結局無意味 -- これらのさまざまな防護策には、共通の問題点がある。それは、暗号専門家の Bruce Schneier 氏が指摘した通り、ユーザーには基本的に2通りのユーザーしかいない、ということだ。普通のユーザーに対しては どんな 形のコピープロテクションでも同等に有効だし、他方熟練のハッカーに対しては どんな 技術をもってしても防護にはなり得ないのだ。あなたのお母さんに代表されるような技術オンチの人々が前者に属し、あなたの甥ッ子に代表されるようなパソコンオタクが後者に属する。どうして暗号化がハッカーの防護にならないのだろうか? もしもたった1つのファイルをある所から別の所へ、その内容を人に見られずに運びたいというだけなら、暗号化は充分役に立つだろう。けれども、一般のユーザーが実際に聴いたり観たりするのは暗号化されたファイル内容ではない。実際に再生されるのはファイル内容を元に戻したバージョンのものなのだ。従って、ユーザーが実際に利用する段階の近辺のどこかで、必ず暗号は解読されているはずだ。その解読作業はたいてい PC の中で実行されるわけで、熟練のハッカーならばソフトウェアの動作を一段階ごとに傍受してその動作を変更させ、解読後のコンテンツをコピーできるようにするのは不可能ではない。
別の言葉で言えば、コンテンツを最終的にユーザーの手元に届けようとする意図がある限り (RIAA がその目的さえもまだ見失っていないと信じたいものだが)、手練手管のハッカーがコンテンツの暗号解読後のバージョンに手を付けてそれを自由にするのを防ぐ手だてはありえない、ということだ。Schneier 氏は最近こうも述べている。「デジタル商品を保護しようとするのは、濡れない水を作ろうとするようなものだ。ビットデータはその定義からしてコピー可能なのだ。」
2000年の初めごろ、ノルウェーの Jon Johansen という 16才の少年が、彼の Linux 機の DVD ドライブで DVD ムービーを観ようとしたが、Linux 機のプレイヤーは映画業界に公認されていなかった。そこで彼は、インターネット上の何人かの匿名の協力者と共同で作業した結果、すべての DVD で採用されているコピープロテクション機構を破ることに成功し、彼のマシンで再生を可能にしたばかりかコピーも無制限に完全にできるようにしてしまった。(ノルウェーの警察は Motion Picture Association of America の要請に応じて彼のコンピュータを押収したのだが、それは彼がそのコードをインターネットに配布してしまった数日後のことだった。戸締りしても後の祭り、という見事な実例だ。)この例からもわかることは、インターネット接続さえ持っていればそこらの普通の 16才の少年でも片手間にちょっとやるだけで破れてしまうというのが事実なら、コピープロテクション機構というものにいったいどんな意味があるのか、ということだろう。
しかし他方、私のような著者の側にしてみれば、自分の著作から収入を得ようとしてみても、状況は悪くなる一方だ。音楽業界では 98% のコピープロテクション成功率があれば充分だと主張する人が多い。これはデパートの売り場で商品の損傷率(つまり万引きの率)を評価する計算に用いられる数字から来ている。しかし、デパートの商品でこの計算が成り立つのは、競争的だからこそなのだ。つまり、何人かの不心得な客に万引きされたとしても、それ以外の大多数の客はちゃんと代金を払ってくれるからだ。RIAA が直面している問題は、非競争的なコンテンツは一旦クラックされたが最後、至るところに溢れかえる、ということだ。つまり、一人の頭のいいハッカーがコピープロテクション機構を破るだけで、誰もが破れる状態になるわけだ。そうしたら、あなたの甥ッ子は自分のハックをあなたのお母さんでもインストールできるような使いやすいフォーマットにして配布することもできるし、または、もっと直接に暗号解読後のコンテンツをそのまま配布することもできるのだ。
広告が解決策? -- 暗号化によってコンテンツを排除的にすること(それで簡単に料金を徴収できるようにすること)が不可能ならば、別の方法でコンテンツにまつわるビジネスモデルを構築することはできないだろうか。広告はどうだろう? 考えてみれば、テレビ放送は本質的に非競争的かつ非排除的であり、そして広告によって資金を調達しているのだ。残念ながら、これはうまくいかない。まず第一に、バナー広告というものは、今では至るところに溢れており、有効性は急激に低下している。クリックスルーの率をみても、以前の 4% から今では 0.1% にまで下がってしまった。これは驚くにはあたらない。たいていの人はバナー広告にうんざりしていて何とかしてこれを見ないで済まそうと苦労しているくらいだから。大きなサイトの中には広告レートが 40 セントから0.1 セント以下にまで下がってしまったところもあって、これがドット・コムの元社員たちが Starbucks カフェのウェイター求人面接に長蛇の列をなして殺到している第一の原因にもなっているわけだ。
そして、コンテンツのプロバイダについて言えば、状況はさらに悪い。景気の悪化に伴って、ことに定着した読者層を持たない出版者にとっては、どれだけ広告レートを下げても広告主の関心を引くのは困難になってきている。その上、WebWasher のようなソフトウェアが登場して、あらゆるウェブページでバナー広告を自動探知して表示から外すようになってしまった。ちなみに、こうすることでページの読み込みは速くなる。(ちょうど、30分のテレビ番組が広告を飛ばせば 22分で観られるのと同じことだ。)こうして広告阻止ソフトウェアがコンテンツの制作資金を調達するはずの広告を空白の表示で置き換えることで、今日ではコンテンツプロバイダの歳入モデルまでもが空白状態になりつつある。こういうソフトウェアの動作はまだ完璧なものとは言えないが、徐々にそれは向上しつつあり、コンテンツ出版者や広告主の心情に恐怖を打ち込むだけのものにまで成長を遂げている。
<http://www.webwasher.com/en/products/wwash/functions.htm>
例えば、これまで長年にわたって昼のメロドラマを提供してきた石鹸製造会社たちも、今後の広告予算を再検討し始めている。その原因の1つは、TiVo のようなデジタルビデオ録画機が普及してきたことだ。このような録画機があれば、視聴者は手軽に好きな番組をハードディスクに録画しておいて、何時でも自分の好きな時に(放送局の好きな時にではなく)再生することができる。LAとかニューヨークとかにいる鼻もちならないテレビ局のお偉いさんが決めたスケジュールではなくて、自分自身のスケジュールで番組が観られる快感を想像して欲しい。その上、こういう機械を使えば、リモコンのボタンをちょっと押すだけで簡単にコマーシャルがスキップできてしまうのだ。こうして、これまで 50 年間多くの利益を上げ続けてきた放送業界の根底が、もろくも崩れ去ろうとしている。さらには、SnapStream のような新手の PC-ベースの録画ソフトウェアのおかげで、インターネット経由で番組録画を共有することが可能になり、Napster に早くも取って替わったピア・ツー・ピアのネットワークの上で、ビデオが MP3 と同等の位置を獲得する日もそう遠いことではない。いつでも好きな番組が観られて、しかもコマーシャルはすでに編集して取り除かれているとしたら、いったい誰がテレビ放送の時間にあわせて夕方の自分の時間をやりくりしたり、頭が痛くなるようなコマーシャルを我慢したりする気になるだろうか。デジタルビデオ録画機で溢れた世の中においては、カウチポテト族はテレビ局の番組スケジュールからの攻撃(あの新番組をいったい何で Survivor と同じ時間に組んだりするんだ!)から解放され、何を、いつ、どうやって観るのかについての選択の自由を再び獲得することができるのだ。[TiVo について詳しいことは、Andrew Laurence の二部作の記事「TiVo:時間をずらせばそこに自由が」と、ビデオ録画機が広告に与える影響についての TidBITS Talk での詳細にわたる議論とを読んでもらいたい。 -Adam]
<http://www.snapstream.com/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1204>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1461>
(日本語)TiVo: 時間をずらせばそこに自由が(第1部)
(日本語)TiVo:時間をずらせばそこに自由が(第2部)
個人に対して排除的になりうるようなコンテンツの種類が残っているだろうか? 私の知る限り、2つだけだ。1つは、映画館での映画の上映だ。デジタル配布に充分な投資を行ない、それよりさらに大きな投資を映画館での実際の保安管理に充てさえすれば、すぐにはインターネットに映画をコピーされることなく映画会社は映画の配給を続けられるだろう。(ただし、16才の映写技師兼ハッカーにだけは気を付けなければ。)もう1つの可能性はウェブ・サービスで、ソフトウェアがインターネット上に広く弱い結び付きで散らばったコンポーネントから成っているような場合だ。ユーザーは多数の他のコンピュータと作用し合うので、個々のユーザーは常時追跡して特定され得る。(これが Microsoftが Hailstorm で計画している方策だ。)従って料金の支払いを免れることはほとんど不可能だろう。しかし、オフラインの非接続モードをサポートするソフトウェア(たとえばオペレーティングシステム)ならば、(ハッカーにとっては)簡単に改変してしまえるので、もはや安心して出所真性を確かめることはできない。例えば Windows XP の登録システムは、このソフトウェアがリリースされるよりも6ヵ月も前にすでにクラックされて、簡単なプログラムを走らせるだけでオンライン活動許可のための制限を除去できるようになってしまっている。
インターネットの各家庭へのブロードバンド接続が至るところに普及され尽くし、巨大なファイルの転送が日常茶飯時となる時代が来るまで、あと十年間くらいはコンテンツが真の意味で純粋公共物になることはないだろう。しかし、その時代に向かうプロセスはすでに加速を始めている。(Napster はすでにブロードバンド接続を手にしていた大学生たちの間からスタートしたのだし、新規のピア・ツー・ピアのファイル共有サービスの中には非常に大きなファイルをバックグラウンドでダウンロードすることをはっきりと念頭に置いてデザインされているものもある。)だから、従来の報酬支払いシステムが機能しないこの時代に、我々はいったい何のためにコンテンツを創り出すのか、という問を提示するのは、今こそ意味のあることだろう。次回のこのエッセイは盗用自由−その3: コンテンツ作成の報酬はでは、この問への答えを語ることにしよう。
[Dan Kohn は Skymoon Ventures 社の General Partner として働いている。彼の著作のアナウンスメントは <dankohn-subscribe@yahoogroups.com> で知ることができ、関連する討論は<dankohn-discuss-subscribe@yahoogroups.com>で参加できる。]
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<http://www.skymoonventures.com/>
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, , 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA