イバラの茂みでウサギどんが何をしたか覚えてる? アンクル・リーマスの物語を、マイクロソフト社はきっと読んでいたに違いない。同社に対する集団訴訟において今回提示された和解案の内容を見れば、そうとしか思えないのだ。また、Joe Clark 氏は「Mac とアクセシビリティ」シリーズのアップデートを続編として寄稿してくれた。いくつかの良いニュースといくつかの悪いニュースがあり、障害のあるコンピュータユーザーの人数についての統計も挙げられている。その他のニュースとしては StuffIt 6.5.1 のリリースを報告し、Best of the Mac Web 投票での TidBITS の成績を報告、そして歳末ギフト好適品の提案募集のお知らせをする。
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2001年歳末ギフト好適品の提案募集 -- 今年もまた恒例の、消費者が大胆に財布の紐をゆるめる季節がやって来た。グローバルな経済状況をしっかりと支え、企業の税金による大きな刺激によって世界を再び安全な場所へと戻すことが私たちの肩にかかっているのだとしたら、私たちがまず成すべきささやかな寄与はといえば、私たちが愛してやまない Macintosh 関連の各会社の経営状況をバラ色に保つ、ということだろう! 年末恒例の TidBITS ギフト特集号の伝統に倣い、今年も皆さん、TidBITS の愛読者の皆さんの提案に基いて特集号を組んでみたいと思う。そこで、あなたが友人や家族にどんな物を贈ろうと考えているか、あるいは自分がもらうならどんな物が欲しいかを、聞かせてもらいたい。去年までと同様、ご意見は TidBITS Talk で集めているので、あなたの提案を <tidbits-talk@tidbits.com> あてに送って欲しい。すでに、いくつかのカテゴリーに分けてスレッドを立ててあるので、TidBITS Talk のウェブアーカイブの中の適切なメッセージの末尾にある“Respond (via email)”リンクが利用できる。例年と同じく、1つのメッセージには1つの製品の紹介、または1つのアイデアの説明、にとどめて欲しい。そして必ず、それを推薦する理由と、URL その他の必要な連絡先とを書き添えてもらいたい。推薦できるのは自分以外の人の作品に限る。これまでに推薦を受けたことのない製品を推薦してもらえると、とりわけありがたい。どうぞよろしくお願いします! [ACE](永田)
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<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbiss=510>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbiss=560>
StuffIt 6.5.1 が Mac OS X 対応を改善 -- Aladdin Systems 社は最近 StuffIt Deluxe 6.5.1 と StuffIt Lite 6.5.1(英語版、日本語版、ドイツ語版、フランス語版)をリリースした。このバージョンでは、Mac OS X ユーザーにとっての使い勝手がいっそう向上している。Deluxe 版では StuffIt CM(コンテクストメニュー)が追加され、StuffIt の機能の多くが Finder でファイルを Control-クリックすることで利用できるようになった。また、AppleScript の対応も改良された。どちらのバージョンでも、「パッケージ」形式のアプリケーションが正しく起動できるようになり、バージョン番号チェック機能でのバグも修正されている。ビールス検知プログラムとの相互作用もこのアップデートで改良されており、Norton Anti-Virus や McAfee の Virex の Mac OS X 版も認識するようになった。また、それ以外のアンチビールスプログラムもユーザーが選択できるようになっている。どちらのユーティリティセットについても、今回から StuffIt Engine 6.5 なしには動作しないようになった。StuffIt Deluxe 6.5.1 はバージョン 6.5 のオーナーには無料のアップデートで、それ以前のバージョンからのアップデートは $20 となっている。StuffIt Lite 6.5.1 というのは StuffIt Expander、DropStuff、DropZip、それに DropTar を合わせたものだが、DropStuff と DropZip についてはそれぞれのバージョン 5.0 以降の登録オーナーにはそれぞれ該当するものが無料のアップデートとなっており、これらのユーティリティはそれぞれ個別に登録もできる。セット全体での登録は $50 になる。StuffIt Expander 6.5.1 は依然として無料のままである。さらに、StuffIt Engine Software Developer's Kit のバージョン 6.5.1 も同時にリリースされた。これはソフトウェア開発者が自分のアプリケーションに StuffIt の圧縮・エンコード機能のサポートを付け加えることができるようにするためのものである。ライセンス料金はプロジェクトによって異なる。試用版もある。[JLC](永田)
<http://www.stuffit.com/stuffit/deluxe/updates.html>
<http://www.stuffit.com/stuffit/lite/updates.html>
<http://www.stuffit.com/sdk/>
第2回 Best of the Mac Web 投票で TidBITS がランク入り -- Low End Mac ウェブサイトの第2回 Best of the Mac Web 投票で、TidBITS はベストレーティングサイトの5位にランクされた。上位にランクされたのは As the Apple Turns、VersionTracker、MacFixIt、MacSurfer's Headline News の4つである。4月に行なわれた前回の投票で TidBITS は 10位だったので、これは大幅な進歩と言える。TidBITS に投票してくれた人数は、前回の 694 から今回は 1,057 と、格段に増えている。これはたぶん、前号の TidBITS で皆さんに投票をお願いしたからだろう。この投票は何ということもない人気投票に過ぎないが、これまで知らなかった Macintosh サイトのことを知ることができるかもしれない、という意義はあるだろう。[ACE](永田)
<http://lowendmac.com/botmw/011126.html>
<http://lowendmac.com/botmw/11-2001.html>
<http://lowendmac.com/musings/botmw3.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06635>(日本語)TidBITS へ投票を!
文:Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳:倉石毅雄 <takeo.kuraishi@attglobal.net>
マイクロソフトに対して個人が起こした集団訴訟は、マイクロソフトに対する州と連邦政府の独占禁止法違反裁判関連のニュースに隠されがちである。これらの個人からの集団訴訟はマイクロソフトがそのソフトで不当に高い値段をつけたと主張している。最近の高等裁判所による、マイクロソフトが独占禁止法に反する行為でデスクトップOSの市場独占を維持しているという認定によって勢いづけられたり、起こされたりしてきた。(詳しくはマイクロソフト独占禁止法裁判についての記事集「モノポリで遊ぼう」を参照して欲しい。)
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1152>
(日本語)分割への険しき道
(日本語)マイクロソフトが独占判決を最高裁判所へ控訴
(日本語)政府が Microsoft 分割を断念
2001年11月20日、集団訴訟原告団の一部とマイクロソフトの弁護士らが個人からの集団訴訟全てのために、画期的な和解案を提示した。簡単に言えば、マイクロソフトが5年間で10億ドルを払い、全国のもっとも貧しい12500の学校にソフトとコンピュータを提供し、教師を訓練するというものだ。素晴らしい案のように聞こえるかもしれない。特に、弁護士らの言うように、集団訴訟原告団の人数(6500万人前後)が大きいため、一人あたりの賠償額が10ドル程度にしかならないと考えれば、良い案のようだ。
<http://dailynews.yahoo.com/h/nm/20011120/tc/tech_microsoft_dc_11.html>
この案が学校の助けになるのは疑いない。しかし、競争が激しい教育市場ではApple が5割近くを押さえている。この案ではマイクロソフトが独占の悪用に対して弁償を払うというよりは、そこでの市場シェアを増やすために10億ドルを使うことを許されているという状況になってしまう。Apple は、この和解案はマイクロソフトの独占力をさらに増すだけだと言う意見陳述書を提出した。また、Apple CEO の SteveJobs は「法律に違反したマイクロソフトを懲罰するべき和解案が、不公平な手段で教育 - 彼らが独占していない数少ない市場の一つ -を開拓するのを許す、いや、促していることに大いに困惑している。」と述べたと、広く報道されている。
<http://www.otmfan.com/html/brertar.htm>
和解案の内容はまだ正確には分からないが、報告によれば、マイクロソフトが学校に、ハードやソフトの購入のために1.5億ドル、他の寄付にマッチングとして1億ドル、技術的サポートに1.6億ドル、教師の訓練に9千万ドルを払うとなっている。さらに、マイクロソフトは50ドル以下の値段で再生されたパソコンを20万台提供し、提供された新品や再生コンピュータそれぞれにただでウィンドウズのライセンスを提供する。
学校らにはマイクロソフト社以外の製品の購入も許されるが、同社はマイクロソフト製品を利用する方が、無料ソフトや訓練などのおまけより多く受け取るであろうことを認めている。(一部の「批評家」らはマイクロソフトが全て Apple 製品やソフトを提供するよう義務付けるべきだと提案している。)さらに、教育市場におけるマイクロソフトの存在はさらに浸透し、Mac や Linux を搭載した PC ではなく、ウィンドウズを搭載した PC を購入させる圧力が増える状況になるだろう。
教育の現場からも批評が出ている。この案では既存のコンピュータ関係の計画に資金を提供するのではなく、長期的な計画を脱線させるのではないかという懸念が挙げられている。他の懸念としては、再生されたコンピュータが最新のソフトを走らせるには馬力が足りない可能性や、サポートに当てられている額の低さなどがある。特に後者は PC や古いコンピュータでは高くなりがちである。
<http://www.salon.com/tech/wire/2001/11/27/apple_microsoft/>
もっと一般的には、消費者に不当な値段を払わせたことに対してこの調停案がどのようにマイクロソフトを罰しているのかという疑問がある。行動に対する制限、値段の変更、もしくは被害をこうむった相手に対しての直接の支払いが含まれていないからだ。
2001年11月27日に連邦高等裁判官 J. Frederick Motz は原告の弁護士や Apple の意見陳情を聞いたが、時間がなくなったところで、マイクロソフトからの陳情のために2001年12月10日にさらに時間を予定した。この訴訟は非常に複雑になっている。和解だけでなく、100以上の訴訟をどのように組み合わせるか、そのうちのどれがIllinois Brick(間接的な購入においては製造元を直接訴えられないという 1977年の最高裁判所判例)の下で棄却されるべきか、そして、間接的な購入でも製造元を直接訴えられるという法律があるカリフォルニア州からの訴訟をどう扱うかなど、係争点は多い。
<http://www.zdnet.com/zdnn/stories/news/0,4586,5100005,00.html>
多くの場合、弁護士の懐を潤すだけのような数え切れない訴訟に決着をつけるためにも、集団訴訟を和解に持っていこうという努力には、一応、賛成だ。また、この和解案に致命的な問題点があるにせよ、原告それぞれに雀の涙ほどの額(それもおそらくマイクロソフト製品に対する割引になるだろう)を配るより、教育の場に巨額の資金をつぎ込むという基本的な概念は悪くない。教育に携わる者が本当の必要とするものを提供し、Apple などの競争相手を踏み台にしてマイクロソフトの独占を促すのではない、修正和解案を双方の弁護士らがまとめることが出来るのなら。
文: Joe Clark <joeclark@joeclark.org>
訳: 亀岡 孝仁 <tkameoka@fujikura.co.jp>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
訳: 細川 秀治 <hosoka@ca2.so-net.ne.jp>
今年のはじめに私は 4 回シリーズの "Mac とアクセシビリティ:エデンの園の課題" を書いた。そこでは、障害を抱えた Mac ユーザーのための adaptive technology(適応支援技術)が相対的に遅れていることを説明し、アクセシビリティに対する Apple 社の長年にわたる無関心さについて立証した。
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1189>
(日本語)Mac とアクセシビリティ:エデンの園の課題
(日本語)Mac とアクセシビリティ:対応策
(日本語Web のアクセシビリティ:見ずに Web をサーフする
(日本語)Web のアクセシビリティ:Web の音声と映像
さてその後の動きについても触れる時が来たようだ。
Apple は Mac OS X の導入に伴い少しではあるが前進した;マルチメディアの世界でも動きがあった;障害のあるユーザーの数に関する統計もついに探しあてることが出来た。しかしながら、巨大な Windows 市場に較べれば Mac のための adaptive technology は未開発のままである。このシリーズ最初の記事が出されて以来、残念ながら Macintosh adaptive technology の重要なアップグレードにも Mac OS X 対応するための新企画にも一度もお目にかかることが出来ていない。もし現実に起こっているのだとしても、私がことさらにお願いしてきているにも拘わらず adaptive-technology の業者は沈黙を続けたままだ。
Mac OS X と Apple 社の思惑 -- Apple 内外の多くの人が、私の最初のシリーズ記事が彼らの目にとまらなかったわけではないと言ってくれている。事実、Apple 社及び adaptive-technology 業者の一社は、内部の恥を(もちろん彼らの見方)を公に流しているとして憤慨していた。
ことわざにも言う通り、真実というのは辛いものである。擁護ジャーナリズムには長い歴史があって、書き手は社会的良識に拍車をかけようとしてきた。さいわい今回の場合、我々の努力が結果に結びつきつつあるように見える。
ともかく、一連の基本的なアクセシビリティのためのユーティリティが Mac OS X 10.1 に慌しく組み込まれた。System 7 とそれ以来ずっと有ったのに Mac OS X の最初のリリースでは無くなっていた Sticky Keys と Mouse Keys が戻ってきた。しかし、スクリーン拡大ユーティリティである CloseView は元々出来が良くはなかったが、無くなったままである。(Mac OS X developer tools に含まれているユーティリティの一つである Pixie を使ってある程度の成果を報告しているユーザーもいる。)それでも、これでついに標準の Mac OS バージョンの中で初めて、Windows のユーザーにはごく当たり前の機能であるオンスクリーンインターフェースをキーボードを使ってコントロールすることが可能となる。Dock とメニューバーがいい例である。
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06588>
悲しいことには、このキーボードコントロール機能はバグが多くかつ動作が一定していない。TidBITS の編集部でもいろいろ試みているが、いまだウィンドウやダイアログのなかで特定のコントロールをハイライトするオプションはどうするのかわかっていない。どうも Cocoa アプリケーションの Open ダイアログのなかでは Keyboard 設定パネルの設定が何であろうと働くようだが、Carbon アプリケーションの Open ダイアログのなかでは、Keyboard 設定パネルが何と言っておろうが、働かない ようなのである。他には、"Toolbar" と "Utility window (palette)" へのアクセスのためのキーボードショートカットがあるのだが、これがどれのことを指しているのかはっきりしないのである。Ars Technica での John Siracusa のいつも興味深く読める Mac OS X 10.1 のレビューでは、このキーボードコントロール機能に関する多くのバグの一つに着目している。
<http://arstechnica.com/reviews/01q4/macosx-10.1/macosx-10.1-3.html#keyboard-access-bugs>
キーボードでオペレーティングシステムのコントロールが可能になったということは、一方では、Web の作者は、HTML の ACCESSKEY アトリビュート(リンクとかイメージのような Web ページ機能にキーストロークを割り付ける)を使う時に、コンフリクトを起こす全く新たな材料を持つことになったことでもある。Windows システムキーストロークとのコンフリクトはすでに問題となっている(Alt キーを押したまま文字キーを押すとプルダウンメニューと選択オプションの操作が出来てしまう)。そして今やもう一つの更なるコンフリクトを起こす可能性と対峙しなければならなくなった。一歩前進、一歩後退である。もちろん、公平にいえば、キーストロークに関するコンフリクトは ACCESSKEY 自体の整合問題の単に表面を撫でたに過ぎない。これがオンラインで使われているのは大変稀である。
Apple が正しい対応をしたことの一つに、アクセシビリティという概念を象徴するシンボルについに行き着いたことである - 丸のなかにダビンチのような人が両腕を拡げている。これは Mac OS X の Universal Access コントロールパネルのなかにある。あの馬鹿馬鹿しいおたまじゃくし頭の車椅子に乗ったホッケー選手のようなのとはお別れである!
<http://www.joeclark.org/symbolizing.html#Xaccess>
Apple のアクセシビリティ対応に関するオンラインプロモーションもそれなりに更新されているが、この新しくなったユーティリティのスナップショットや使い方すら提供していない。その Web ページは "特別のニーズを持つ人々" をタイトルに心和む婉曲表現でいまだに飾り立てられており、その上このサイトの一つのパート全部が speech-to-speech 電話取り次ぎサービスに当てられている。これはコンピュータとは何の関係もなく、Mac のマの字もないのである。
<http://www.apple.com/disability/>
<http://www.apple.com/disability/telephone.html>
私はそれでも Apple がアクセシビリティの課題に "やる気を見せる" 日を待っている。それにははっきりしたコミットメントが必要である、広範囲の活動に携わる専任のスタッフを雇うことを含んで。それでも、ここにきてようやく Apple が adaptive technology パートナーシップマネジャ−一人を事実雇ったことを確認する事が出来た。それはともかく第一歩である。そしてその筋によれば、Apple 内部でもアクセシビリティにこれ以上目をつぶってやってはいけないことに気づくマネジャーの数は日に日に増えているという。
これらの改善があっても、Mac は依然として Windows のアクセシビリティの陰の真っ只中にいることに変りはない。Mac OS は adaptive technology による使いやすさのための一連のシステムレベルのフック(一連の Microsoft Active Accessibility on Windows のような)に欠けている。それに、一日中アクセシビリティ以外の何もしない Microsoft の開発スタッフに較べられるようなものは何もない。
<http://www.microsoft.com/enable/>
<http://www.msdn.microsoft.com/library/default.asp?url=/nhp/Default.asp?contentid=28000544>
Section 508 -- この世の中、金しだい。Apple は米連邦政府との契約をすべて失ってしまうのを避けるため急遽賢くなったようである。いわゆる Section 508 と呼ばれる法律が 2001年6月21日付けで効力を発したのである;これは米連邦政府機関に対して、障害のある公務員とその顧客である公衆のためにアクセシビリティを改善するよう求めている。ほとんどすべてのデスクトップ及び携帯型のコンピュータ、そして Web サイトが対象となる。
<http://www.section508.gov/>
<http://www.joeclark.org/accessiblog/ab-government.html#section508>
この Section 508 の広範で焦点の定まらない法律は専門家にとってすら理解は容易でないが、選択の余地はないのである。法的にはこの 508 法制を今直ちに強制することは可能であるが、現実にはある程度の猶予期間が与えられている。近い将来、購入する前に政府の役人は業者にその納入機器は 508 適合であることを証明するよう求めるようになるであろう。非適合システムは単純に _購入されない_ のである。別の言い方をすれば、最悪の場合そして最もありそうなのだが、米政府は Macintosh をもう一台も買えなくなる可能性がある。
Apple はすでにこの 508 適合問題に関しての声明を、あまり知られていない米連邦政府専用に設けた Web ページに載せている。
<http://applefederal.apple.com/compliance.html>
このページにのっている Mac OS 9 の適合声明:"Apple のシステムソフトウェアである Mac OS 9.1 は Section 508 の技術要件のすべてに適合している。但し例外はキーボードマウス代替手段であり、我々の知りうる限り、この技術で我々のプラットフォームに対応するものは市場には現時点で存在しない。" 私はいろいろ問い合わせを試みたが、この声明が何を意味するのか明らかにすることが出来ていない。 Mouse Keys ユーティリティそのものがマウス代替機能としてちゃんと働くように見える。このことは Apple も Mac OS X アクセシビリティについて扱っている同じページの前の方で述べている(Mouse Keys は "マウス自身に代わってユーザーがキーボードのキーパッドを使ってマウスカーソルのコントロールをできるようにする")。想像するに、 Mouse Keys はキーボード経由でコントロールを直接できる手段を提供していないのかもしれない;キーボードからカーソルをコントロールできることとは全く同じではない。
とも角、Apple にとってもコンピュータ業界全体にとっても、誰にとっても Section 508 規制あるいはそれに並ぶものが来るまで 2 年半の警告期間があった(実際の法律の詳細が明らかになってから半年の警告期間を含んで);Apple はその間に、完全な "キーボードマウス代替手段" も書けたはずである。
また、オンラインの Apple Store のどこにもアクセシビリティについての情報を見出すことが出来ない - 米連邦政府のオンラインストアにおいてすらである。そしてこれがほとんど知られていないが Apple の政府向けセールス部隊そのものなのである。
<http://www.apple.com/r/store/federal/>
Apple Store の話題のついでに、その Web サイトの話をすると、Apple の Web サイト全般にいえることなのだが、World Wide Web Consortium の Web Content Accessibility Guidelines に従っていない。例えば、スクリーンリーダーを使っている難視の人は Apple の Web サイトを動き回るのに大変な苦労を強いられるであろう、ましてやそこで何かを買おうとすることなど不可能に限りなく近いことである。
<http://www.w3.org/WAI/Resources/#gl>
マルチメディア -- もしもあなたがムービーファイルを作ろうとするなら、(耳が聞こえない、あるいは難聴の人のために)字幕を入れたり(目が見えない、あるいは視力障害のある人のために)音声解説を入れたりしたいと思うかもしれない。
<http://www.joeclark.org/understanding.html#captioning>
<http://www.joeclark.org/understanding.html#ad>
WGBH Educational Foundation によるフリーウェア、Media Access Generator ソフトウェア (MAGpie) はマルチメディアファイルにキャプション・字幕を入れたり解説を入れたりでき、バージョン 2.0 にアップグレードされている。その新機能の中でも特記すべきなのが、その場の同時進行で音声解説をあなたが自分で録音できる機能がやっと装備されたことだ。これまでは、あらかじめ別に録音しておいたオーディオファイルを挿入できるのみだった。まだベータ版の段階ではあるが、MAGpie はもはや Windows 専用の製品ではない。ただし残念なことに、Macintosh 上では Mac OS X 専用なのだ。さらにもっと残念なことに、WGBH はもうこれ以上のベータテスターを採用することはしないらしい。
<http://main.wgbh.org/wgbh/pages/ncam/webaccess/magpie/>
<http://ncam.wgbh.org/richmedia/magpiev2.html>
一方、Leapfrog Productions 社によるスグレモノの Macintosh ソフトウェア、CCaption というのもあって、これはクローズド、オープン双方のキャプションの付いたビデオおよび QuickTime ファイルを作ることができる。まだまだ完成とは言い難い段階にあるソフトウェアではあるが、それでも CCaption は Mac プラットフォーム上では他のどのソフトウェアにもできないようなことをすでにやってのけている。
<http://www.ccaption.com/nmain.html>
Macromedia 社は依然として Flash や Shockwave のコンテンツについてのアクセシビリティの問題を解決しようとやっきになっている。しかし、Flash ファイルというのは視力障害のあるユーザーには本質的にアクセシビリティの無い性質のものであり、また聴力障害のある者にとってもアクセシビリティを得るのがかなり困難である、という事実は否めない。
<http://www.macromedia.com/macromedia/accessibility/>
<http://www.alistapart.com/stories/unclear/>
それでもなお、キャプション付きの Flash アニメーションの実例も、一度だけではあるが私は見たことがある。こういう動きでも無いよりはましとは言えるだろうが、それでも決して本物の進歩と言うに値するようなものではない。
<http://www.brainpop.com/health/endocrine/acne/captioned.weml>
Apple は依然として、もう十年間以上も続けている伝統、つまりさまざまのウェブサイトに合計何時間相当にもわたるような QuickTime ビデオをポストしながら、それらのうちのどれとしてキャプション、音声解説、字幕、ダビング、その他のアクセス関係機能を事実上全く持っていない、という伝統を固く守り続けている。しかし、Apple はアクセシビリティが重要な問題だということにいつまでも気が付かない振りを続けるわけにはいかない。そもそも、QuickTime フォーマットというものはそれ自体の中にはっきりと、複数個のテキスト・オーディオトラックを持てるように作られているのだから。
さらに、iDVD や DVD Studio Pro も依然としてアクセシビリティのある DVD を作るには適していない。その理由は簡単で、キャプションや音声解説といったアクセス関係テクニックを教えるトレーニングを受ける場が無いからだ。これは Apple のせいだけではない。こうしたトレーニングはどこで受けることもできないのが現状だ。(ライブ劇場での音声解説、というのは時折見かけるが、映画やテレビ、ビデオといったものには、このようなトレーニングの機会は全く存在していないのだ。)
<http://www.joeclark.org/dvdsubs.html>
以前のシリーズ記事で私は、キャプション、字幕、ダビングなどは DVD 上のムービーで一般的になっているが、それに比べて音声解説は全く一般的とは言えない、と述べた。この状況は現在でも変わっていない。しかし、音声解説をもつ DVD の総数は確かに増えている。Region 1 (アメリカ、カナダ、アメリカ統治領) では7枚、Region 2 (日本、ヨーロッパ、南アメリカ、中東) ではおよそ1ダースほどを数えている。
<http://www.joeclark.org/dvd/>
<http://www.joeclark.org/dvd/listings.html#R1>
<http://www.joeclark.org/dvd/listings.html#R2>
前回紹介した以外の Region 1 DVD として新しいものでは、“How the Grinch Stole Christmas”がある。これは画期的な作品だ。このディスクは、商業用 DVD としては初めて、以下のものがすべて完備した例なのだ: 全体を通してのキャプショニング (2つの別会社による。これは明らかな見落としと思われるのだが、付属の Faith Hill ミュージックビデオにはキャプションが付いていない)、初めから終わりまで、ボーナス部分も含めて完璧に漏れなくカバーした音声解説、それに視力のない人にも使える“audiovisual”メニュー。
<http://www.joeclark.org/dvd/listings.html#grinch>
これからの商業用 DVD は、もはや言い訳はできない。この Grinch の前例が、何が可能かを、それもいかにエレガントに実装できるかを、示してくれているからだ。アクセシビリティに注意を払ったからといって人気度が下がるわけでもない。実際、ユニバーサルスタジオはこのアクセシブルな Grinch DVD をたった数週間の間に3百万枚も売ってのけた。そして、そのアクセシビリティ機能は、そのディスクの多数の他の機能と一緒に、あたかもあたりまえのことであるかのように並べて表示されていたのだ。
<http://dailynews.yahoo.com/htx/eo/20011127/en/_quot_grinch_quot_spreads_holiday_cheer_1.html>
けれども、劇場リリースでは音声解説付きだった何十もの映画(下記の MoPix の段落を参照)も、後で DVD リリースになる時には音声解説無しになってしまっている。人気の Star Wars: Episode 1, The Phantom Menace にしても同じだ。こうした DVD に音声解説を含めることのできない技術的理由が無いとは言えないかもしれないが、それでもこういうことははっきり言って許し難い。音声解説トラックは既に原稿が書かれ、録音され、制作費が払われ、デジタル化も済んでいるのだから。
<http://www.dvdspecialedition.com/grinchrelease.html>
<http://www.joeclark.org/dvd/listings.html#shouldas>
劇場映画と言えば、人権擁護運動の高まりの結果、オーストラリアの主要な都市においては、定期スケジュールの上映でオープン・キャプション付きの映画を見ることができる。オープン・キャプション、つまりキャプションが画面上に常に見えているようなものは、他の国ではあまり一般的ではない。アメリカ国内ではオープン・キャプションの映画を上映している劇場はたった百館ほどで、大海の中の一滴という存在にすぎない。
<http://www.hreoc.gov.au/disability_rights/inquiries/capmovie/capmovie.html>
<http://www.tripod.org/dedicated_screens.html>
クローズド・キャプションと音声解説を封切り映画に付ける WGBH MoPix システムは、アメリカ国内に9館、カナダに5館ある。アメリカ国外に進出したのはカナダが初めてだった。現在では MoPix のキャプションまたは音声解説を使う映画館は全世界で 60 館ほどになっている。どう考えてみても、これは決して多い数ではない。“Harry Potter and the Sorcerer's Stone”の封切りは 3,672 館の劇場で上映された。もちろん、その中の MoPix システムの劇場ではキャプションと音声解説付きで上映されたのである。
<http://www.joeclark.org/cinema/>
<http://www.mopix.org/>
<http://ncam.wgbh.org/mopix/locations.html>
<http://www.wired.com/news/print/0,1294,48375,00.html>
統計 -- かなり色々と調べたあげく、障害を持つユーザのコンピュータとインターネットの利用率に関する信用できそうな幾つかの統計値になんとか辿り着いた。
米国商務省の下部機関である電気通信情報局 (NTIA) によるレポートによると、米国では障害を持つ人々の 20.9 パーセントが日常的にコンピュータを使用している(健常者の場合この値は51 パーセント)。インターネット使用の値も同様、障害を持つ人々の 21.6パーセントがオンラインに接続しており、この値は健常者の 42.1 パーセントに比較できる。
<http://www.ntia.doc.gov/ntiahome/fttn00/Falling.htm#61>
<http://www.esa.doc.gov/508/esa/pdf/FALLING.pdf>
この研究は特定のコンピュータプラットフォーム使用について調査したわけでもないし、用語も“コンピュータ”ではなく “PC” を採用している。調査者のひとりが語ってくれたことによると、事実 Mac オーナーは“PC”にアクセスしたことがないと答える傾向がある。
障害の定義をもっと厳密にして、南カリフォルニア大学の研究によれば、障害を持つ人々の 23.9 パーセントが家庭にコンピュータを所有しており (健常者は 51.7 パーセント) そして障害者の 11.1 パーセントが“家庭”または“どこか”でインターネットを利用している (健常者は 46.5 パーセント)。両方の研究者たちのどちらも、これらの調査以外には信頼できる統計は発表されたことがないと言っている。
<http://dsc.ucsf.edu/UCSF/pub.taf?_function=search&recid=112&grow=1>
<http://dsc.ucsf.edu/UCSF/pdf/REPORT13.pdf>
さてどうする? -- 実のところ、Macintosh のアクセシビリティはそれほど速やかに改善されていない。これは紛れもなく首脳部の責任だ。この問題の核心はApple にある。全社的に重要な問題として充分に討議されていないだけだ。むろんアクセシビリティを重要と考えている Apple 従業員の幾人かを、私は知っており、そして彼らの真剣な取り組みは会社の見習うモデルとなりえるものだ。Microsoft に倣うのもひとつの妥当な選択であり、Apple はモデルを持っていないわけではない。アクセシビリティは Mac ユーザがWindows ユーザよりも未だ劣った状況に置かれているひとつの分野だ。このギャップは早急に埋める必要がある。
[トロントのライター Joe Clark は 20 年以上もアクセシビリティの問題に取り組んでおり、Building Accessible Websites (New Riders Publishing, 2002) の著作がある]
<http://joeclark.org/access/>
<http://joeclark.org/book/>
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, , 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA