TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#629/06-May-02

Apple の Worldwide Developers Conference で今日 Steve Jobs が Mac OS X の次期版となる Jaguar について語った。Apple の新しい OS とはどんなものか気になるであろう。この TidBITS での報告を参考にして欲しい。また、New York での Macworld Expo 2002 における小企業のために役立つかもしれない商機についてお伝えする。ニュースの部では、Default Folder 1.5, ConceptDraw Presenter, icWord 2.1、それに Adam の書いた iPhoto の本を海外からどうやって買うかについてお伝えする。

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MailBITS/06-May-02

Default Folder X 1.5、Cocoa にも対応 --St. Clair Software は Default Folder X 1.5 をリリースした。これは Mac OS X の Open および Save ダイアログに対する価値ある改善となっている。いくつかのバグ修正と共に、このバージョンでは前バージョンで欠けていた Cocoa アプリケーションへの対応を追加し、ファイル情報を表示する Bare Bones Software の Super Get Info とも連携動作する。Default Folder 1.5 は Keyboard Maestro のもうすぐリリースされる版とも連携し、ファイルダイアログでフォルダを切替える時にキーコマンドを使える。Default Folder X 1.5 は従前のバージョンのユーザーには無償のアップグレードであり、1. 7 MB のダウンロードとなっている。[JLC](カメ)

<http://www.stclairsoft.com/DefaultFolderX/>
<http://www.barebones.com/products/supergetinfo.html>
<http://www.keyboardmaestro.com/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06718>(日本語)Default Folder X、Mac OS X Open/Save ダイアログを改善
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06805>(日本語)厳選 Mac OS X ユーティリティ: コントロールをカスタム化

ConceptDraw Presenter が PowerPoint に対応 --CS Odessa は ConceptDraw Presenter 1.0 をリリースした。これは同社の強力なダイヤグラム作成ソフトウェア (TidBITS-jp-553 の "ConceptDraw コネクション" 参照) から派生した最新製品である。ConceptDraw Presenter は Microsoft PowerPoint と真正面から競合している - これを使えば、テキスト、グラフ、それに音を使ったプレゼンテーションを作成でき、かつスライド間のトランジションも扱える。ConceptDraw Presenter 内で直接プレゼンテーションを表示できるし、または PowerPoint フォーマット、HTML, PDF, Macromedia Flash や他のいろいろなグラフィックフォーマットへのエクスポートもできる。ConceptDraw Presenter は ConceptDraw ダイヤグラムのみならず PowerPoint プレゼンテーションも開くことができる。この最初のバージョンである ConceptDraw Presenter はまだまだあらが見えるが、Microsoft Office を持っていない人のためには PowerPoint に代るものとして信をおいてもいいもののように見受けられる。ConceptDraw Presenter には Macintosh (Mac OS 8.6 から Mac OS X)および Windows のそれぞれの版があり $200、他の ConceptDraw 製品のオーナーには $120 となる。学校関係者は $85 を払えばよい。デモ版もあり 10.3 MB のダウンロードであるが、保存機能がない。[ACE](カメ)

<http://www.conceptdraw.com/presenter/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06179>(日本語)ConceptDraw コネクション
<http://www.conceptdraw.com/download/>

icWord & icExcel、Mac OS X 下で Office 文書を閲覧 --Panergy Ltd. は icWord 2.1 をリリースした。これは Word や AppleWorks を持たない人のための有用な Microsoft Word と AppleWorks の文書閲覧ソフトで Mac OS X 対応版である (TidBITS-jp-543 の "Word 文書閲覧・印刷ユーティリティ、icWord" 参照)。icWord は文書の編集はさせてくれないが、読むことができるしテキスト、RTF、あるいは AppleWorks フォーマットで保存することができる。icWord 2.0 での主な変更点は Mac OS X 対応だが、その他にもグラフィックスの処理、テキストのエクスポート、キーボードショートカット等に改良が加えられた。Mac OS X 対応について言えば、icWord 2.1 は同社の icExcel 1.1 の仲間入りをした。icExcel 1.1 でユーザーは Microsoft Excel および AppleWorks のスプレッドシートを閲覧、印刷、そして変換できる。双方のユーティリティとも $20 で、バンドルだと $30 である;icWord 2.0 からのアップグレードは無料で、さらに 30日期間限定の試用版も両方とも無料である。[ACE](カメ)

<http://www.icword.com/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06074>(日本語)Word 文書閲覧・印刷ユーティリティ、icWord
<http://www.icexcel.com/>

iPhoto の本、海外の読者にも --私の書いた本 iPhoto for Mac OS X: Visual QuickStart Guide を買いたいという海外の読者に対して Amazon が紙版が出る前に電子版をダウンロードさせてくれないということを知った時、私は驚きかつがっかりした。(TidBITS-jp-626 の "新刊書! iPhoto ビジュアルガイド" 参照。) それで何とかこの問題を回避できる方法はないのか出版元である Peachpit と相談してきたが、うまくいくのではないかという方法に行き当った。理想からはほど遠いが、機能するはずである。まず、Peachpit のカタログでこの本を探し、この本を買う手続をする。手続が完了すると、Peachpit はこの本をダウンロードするのに必要な情報をメールで送ってくる。もちろん次版で紙版が出たときには、それも送られてくる。

<http://www.peachpit.com/books/catalog/12165.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06787>

それでも問題はあり、現時点で海外からの注文に対してもっといい方法が提供できないことに対してあらかじめお詫びしておきたい。第一に、本の値段が Amazon での $14 に対して $16 になってしまうことである。第二に、実際の注文をするフォームまでいった時海外のオフィスからの注文に関するコメントを無視し(この人達はこの本の PDF 版のことは知らないかもしれない)、そして Special フィールドにご自分の国名を記入して欲しい。第三に、海外への送料が $14 と大変高いうえに長い時間かかる可能性もある。この様な新しい流通方法へのチャレンジに伴う問題の一つは、伝統的な方法にどれだけの試行錯誤が試みられてきたかということである;次回にはもっと簡単に扱えるようになっていたいと思う。[ACE](カメ)


Macworld Expoにおける蚤の市出展者の商機

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: 細川 秀治 <hosoka@ca2.so-net.ne.jp>

Macworld Expoがどのように Macintosh 業界の状態を表しているかについての我々の定点観測には、通常、入場者数と入場者の雰囲気、出展者数と展示する製品の範囲についての分析が含まれる。来たる 2002年7月17〜19日ニューヨークでの Macworld Expo については、最近 2 つの重要な企画があって、これらがショーで出展者数と展示する製品の範囲を改善するのに役立つだろうと思われる。

<http://www.macworldexpo.com/>

ひとつ屋根の下で --最も興味深い製品を展示する会社はしばしば小さな会社で、Macworld Expo の展示に天文学的な費用がかかることを考えれば、彼らにブースを買う余裕はない。これらの会社がやって来たとしても、たいがいは分野別パビリオン内ステーションへの参加に落ち着く。ステーションのスペースならフルのブースよりもかなり安価だ、出展者はブースの造作費用を買わなくてもよいし、準備や設営も殆どない。それに加えて、パビリオンは同じ業種で幾つかの会社をまとめ、互いに交流の機会を提供し、関心を持った入場者を引き付ける可能性を高める。

ともあれこれは理論だが、この理論は開発者向け MacTech Central パビリオンでこれまでの 8 年間うまく働いた。そのパビリオンは、MacTech 誌の親会社である Xplain Corporation によって運営されているが、MacTech 誌がインターネット指向の NeTProfessional 誌を吸収したときに、小規模のインターネット会社を出展者に追加して膨張した。他のパビリオンはこれほどまでには成功していない。そして今年の Macworld Expo in San Francisco では、MacTech Central は他の全てのパビリオンを合計したものよりも大きかった。

ところが今度、Macworld Expo 主催者の IDG World Expo が、すべてのパビリオンを管理する作業を Xplain に一任した (ゲーム、音楽とオーディオシアター、Appleのビジネスソリューション分野など、この移動に影響されないパビリオンも若干ある)。Macworld Expo 2002 in New York では Xplain が様々なマーケットにフォーカスした多くの新しいパビリオンを追加してくれるだろう。

ステーションパッケージは 3,000ドルからだ。もしあなたが Macworld Expoでの展示に関心を持つ小さな会社なら、詳細と出展予約の情報について下記のウェブページを訪れるとよい。

<http://www.xplain.com/pavilions/mwny2002/>

消費者に熱狂を --小さい会社にとって、3,000ドルの出費は、特に旅費、食費、宿代を加算すると結構な金額だ。多くの会社は製品を販売してその展示に掛かる経費を埋め合わせている。Aladdin、Peachpit Press、Connectix、Power On Software のような会社はすべて、彼らの製品をショーの会場で大量に売り捌いている。けれども小さな会社でそれをするのはなかなか困難だ。迫力満点の押し出しや、実地販売をやりくりするスタッフやリソースを持っていなかったり、デモンストレーションが主体で販売の許されていないパビリオンに居たりするとそれができない。

今年 IDG World Expo は DevDepot を Macworld Expo 公式ストアのプロデューサに任命した。そこで、どんな出展者でも (パビリオン内の出展者さえ) DevDepot を通しての販売が可能になるだろう。DevDepot はこれまでずっと Macworld Expo ショーのフロアに、長さ45フィートのトレーラー型倉庫で常設展示してきた。自力で販売できる会社は、それによって売上高あたりより多くの利益を確保できることは明らかだが、入場者がハードウェアやソフトウェアまたはアクセサリまですべてを一ヶ所の、まとまった場所で買うことができるのはとても便利だろう。そう思わないかも知れないが、販売にはずいぶん経費が掛かり、そして販売業者と協力することで販売量は大幅に増加するものだ。DevDepot を通した販売に関心を持つなら、どの会社でも <vendor_relations@devdepot.com> に連絡を取るとよいだろう。

<http://www.devdepot.com/>

性能試験場 --我々の連載「厳選 Mac OS X ユーティリティ」の最初で、Appleは、小さなユーティリティの開発者達を他の何よりも高く評価することに触れたのは、意図的な皮肉だったが、しかしこの業界にとってより小さな会社を育成することは重要だ。全ての会社が、急速な成長というわけではないが、幾つかの小さな会社が成長していまや業界の中堅になっている。数年の間でかなり多くの会社が MacTech Central からMacworldのメインフロアへ出世した。Xplain がパビリオンの組織任務を引き受けて DevDepot がすべての出展者に販売店舗を提供するなら、より小さな Macintosh 会社の成長が促され、我々すべての得になるだろう。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06763>(日本語)厳選 Mac OS X ユーティリティ: Mac OS 9 の機能を取り戻す


Mac OS X: 新しさのジレンマ

文:Adam C. Engst <ace@tidbits.com
訳:倉石毅雄 <takeo.kuraishi@attglobal.net>

既に気付いているとは思うが、TidBITS では Mac OS X だけの記事を増やしつつある。この変化にはそれなりの理由はある。だが、多くのユーザがいまだに Mac OS の古いバージョンを使用している状況では摩擦の原因ともなり得る。何人かの読者が私達の Mac OS X 向けの内容の増加に対して懸念を表している。今までは個人的に返事を返してきたが、その理由について公の場で述べたい。

その前に、疑問を提示したい。実際に Mac OS X を使用している人は何人くらいだろう?MDJ と MWJ を発行している Matt Deatherage が、Apple からのもっとも新しい四半期の結果を基に計算している。それによると、Apple は Mac OS X をインストールした Mac を今までに約300万台、そして Mac OS X を100万箱ほど出荷している。これらの数と推算から、約420万の Mac OS X があると推測しているが、Matt はそのうちの半分 - 210万 - ぐらいしか定期的に使われていないだろうと見ている。この数を Apple が普段主張している 2500 万から 3000 万人の Mac ユーザの数と比べると(その多くは Mac OS X を走らせることも出来ないのは事実だが)、全 Mac のうち、10パーセント以下しか Mac OS X を走らせていないことが分かるだろう。Mac OS X がデフォルトのオペレーティングシステムに設定されている今、この割合は急激に上がるだろうと思われる。Matt は一年以内に 50 パーセントに達してもおかしくないと推測している。Mac OS X を走らせることが出来る Mac に限定すればもっと高いだろう。

<http://www.macjournals.com/>

おそらく、TidBITS の読者は多くのユーザに比べて新しいテクノロジーに飛びつくのは早いだろうから、Mac OS X に切り替えた読者の数は一般に比べて高いだろう。しかし推測だけに頼りたくはない。今週はホームページで、主に使用している Mac が Mac OS X で起動されている時間の割合についてのアンケートを行っている。二つの疑問に答えるためにもぜひアンケートに参加して欲しい:Mac OS X に切り替えた人数と、切り替えた人達がどれくらい完全に使用しているかの二点だ。例えば、Geoff Duncan と私は最近、主に使用している Mac を Mac OS X に切り替えたが、彼は専門的なオーディオの仕事に使用するため多くの時間を Mac OS 9 で過ごしているが、私はインストールして以来、一度も Mac OS X から離れたことがない。

<http://www.tidbits.com/>

しかし関係ない --だが残念なことにどのような数が出ようと、私達の Macintosh に関する報道には、Apple の方針のため選択の余地はないという厳しい現実に変わりはない。TidBITS に登場する記事を振り返って欲しい。ソフトの評価、既に評価したソフトについての再評価、Macintosh 関係のイベントの報道ですら、Mac OS X 特定の内容について書く以外に出来ることはない。

なぜなら、私達の好みがどうであれ、報道に値するニュースは Mac OS X の話題しかないからだ。Apple はディベロッパに対して、Mac OS 9 の行く末は限られているということをはっきり示している(Worldwide Developers Conference のキーノートで Mac OS 9 の模擬葬式までやっている)。そのため、皆、既存のアプリケーションを(新しい機能を付け加える代わりに)カーボン化するか、Mac OS X のために新しいアプリケーションを作っているかのいずれかだ。そのような Mac OS X 製品のニュースに加え、良きにせよ悪しきにせよ新しい発見がない見慣れた Mac OS 9 のデスクトップに比べて、Mac OS X の新しい世界の方が興味深いことを考えれば、Mac OS X の報道が増えていく傾向は理解してもらえるだろうと思う。

私達だけではない。他の大きな Macintosh 関係の出版者らも同じジレンマに悩んでおり、私が知っているところは全て同じ決断を下している。Mac OS X が未来であり、技術的出版は過去にしがみついていては生きていけないからだ。ある意味では、私達は他以上に厳しい立場にある。過去に十分深く報道した内容をもう一度取り上げることはほとんどないからだ。記事のデータベースはそのためにある。今でも役に立つような古い記事をまた発行したいと思うこともあるが、それは手抜きのような気もする。

どうしようか? --TidBITS Talk からのフィードバックは歓迎する。だが、私達の考えは以下の通りだ。これからも Mac OS X に特定した製品やイベントを報道する予定だ。その頻度はさらに増えるだろう。しかし、その報道は Mac OS X への切り替えに関係したトピックに集中するつもりだ。つい先日の Retrospect 5.0 と Photoshop 7.0 のリリースで、多くの人達にとっての切り替えの最後の障害二つがなくなった(ユーザが多いアプリケーションのうちで Classic モードでしか走らないのは QuarkXpress だけだ)。例えば、Mac OS X ユーティリティの記事のシリーズは Mac OS 9 からの乗換えを楽にすることを目的としている。また、私はアップグレードの苦しみを軽くするための準備の手順をまとめた記事を書いている最中だ。時間が経つにつれ、Mac OS X の報道と一般的な Macintosh の報道との区別は無くなっていくだろう。

それまでは、私達はどの号にもまだ Mac OS X を走らせていない人達も興味を持つような情報を含めるように努力していくつもりだ。それらの記事は Mac に関係はないかもしれないが、場合によってはもっとさりげないものかもしれない。例えば、先週取り上げた Mac OS X ユーティリティには Mac OS 9 でも使用できるものがいくつかある。独立した記事として取り上げるほどのものではないが、記事が Mac OS X だけみたいだからといって、切り替えていない人が関心を持つ内容が無いとは思わないで欲しい。

Mac OS X への移行についての苦情を書くつもりは全く無い。大変だったし、これからも大変だろう。しかし、文句を言う時は過ぎた。Apple は Mac OS X が未来であるということをここ数年、はっきり示してきたし、苦情を言っても何も変わらない。けれども、建設的な批判は役に立つことがあるかもしれない。適切な批判があって、かつ同時に解決策を提示できる場合には、そのような批判をも加えるつもりでいる。


次期 Mac OS X: Jaguar が姿を現す

文 : TidBITS Staff <editors@tidbits.com>
訳 : 佐藤浩一 <koichis@anet.ne.jp>
訳 : Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

本日の Worldwide Developers Conference (WWDC) で、Apple の最高経営責任者 (CEO) である Steve Jobs は、Mac OS X の次期メジャーリリース (コードネーム“Jaguar”) の概要を明らかにした。リリース時期は“今夏遅く”となっているが、私達はこれを 8 月末になるとみている。この後触れる Mac 専用の機能に加え、Jaguar は Mac OS X の基礎となっている Unix オペレーティングシステムとツールの最新版により構築される。その中のいくつかのツール、例えば GCC 3 コンパイラなどのツールは、開発者がより良いパフォーマンスを提供するのに役立つし、その他の次世代インターネットプロトコル IPv6 や IPSecなどでは、 Mac OS X はインターネットでファーストクラスの席を獲得するだろう。だが、これらの変化は、もちろん歓迎するとしても、Jobs が概略を示したさらなる全体像の改善と同じ程度ユーザーに影響するとは思われない。ここで一つ注意していただきたいのは、Apple が基調講演をインターネットを通じて配信しなかったので、開発者でない私達は様々な情報源から断片を継ぎ合わせなければならなかったことだ。詳細は WWDC が進むにつれ確実に明らかになるだろう。

<http://www.apple.com/macosx/newversion/>
<http://www.apple.com/pr/library/2002/may/06jaguar.html>
<http://maccentral.macworld.com/news/0205/06.wwdckeynote.php>

iChat --Apple の i シリーズアプリケーションがまた増えた。Jobs は、iChat と呼ばれるインスタントメッセージソフトウエアが Jaguar に組み込まれると発表したのだ。iChat は AOL Instant Messenger (AIM) と互換になる予定で、他社に AIM と動作することを AOL が許可するのは初めてのことだ。それでも様々な会社が AIM サポートをリバースエンジニアリングすることを止めることはできないが、Mac OS X ユーザーが 1 億 5,000 万人の AIM ユーザの輪に加わるということで、AIM との互換性は一層魅力的に映るだろう。iTools のユーザ名が使えるため iChat を使用するのに AOL や AIM アカウントは不要で、伝えられるところによればローカルネットワーク内にいるバディーのリストも作成できるという。Apple は iChat を 拡張された Mail や Adress Bookと統合しようとしているので、バディーリスト内の人がオンラインかどうか見ることができ、電子メールのやりとりからリアルタイムのチャットに変更できる。iChat のインターフェースはシンプルだ。“ダイアログバブル”を使用した“グラフィック的に会話する方法”でインスタントメッセージを表現している。バルーンヘルプが終わったなんて言ったのは誰だろう?

<http://www.apple.com/pr/library/2002/may/06ichat.html>

私達はそれほどインスタントメッセージの愛好者ではないが、iChat は Mac OS X に標準で付属するおかげで多分ヒットするだろう。チャットアプリケーションは登場した数年前から大きく進化していないが、iChat にはきれいな Aqua インターフェースを見せる以上のことを期待したい。私達の希望はと問われれば、スペルがいつも正しくなるようにする自動修正オプションと“cul8r”のような略語を正しく“See you later.”に自動的に展開する機能だろうか。だが、昔ながらのスタイルの人はどうなるのだろう?

Mail --Apple に標準で付属している Mail クライアントは今のところ、良く知られた電子メールクライアントにはかなわない。しかしながら、WWDC の基調講演から判断すると、Mail の次期バージョンは、複数の条件によるフィルタ、終了時に書きかけメッセージを自動保存、複数のメールボックスを対象とした検索、カラーでのハイライト、セキュリティ機能、仮想プライベートネットワーク、そして QuickTime のサポートなどを提供し、ライバル達に迫ろうとしている。

なかでも興味深いのは、迷惑メール (spam) の意味を理解して動作する spam フィルタが約束されたことである。Apple は、どのように Mail が spam と認定するかに対して、きわめて注意深くあるべきだ。なぜなら適法なメールが誤って spam と判断された場合、送信した会社の評判に致命的なダメージを与えかねないからである。Outlook Express が初めてリリースされた時、これの Junk Mail Filter が TidBITS を spam と認定したため、私達は大変な目にあった。TidBITS は常に希望したユーザだけが購読するメーリングリストであるのに、Outlook Express がそう言っただけで私達を迷惑メールの送信者だと沢山の読者が言ってきたのだ。もしその判断が Apple の標準電子メールクライアントから示されれば、特に初心者が多く使うであろうことを考えると、私達のような電子メールでのコミュニケーションに頼る会社にはまさに破滅的な事態となろう。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05647>(日本語)OE 5.0 Junk Mail Filter の困った所行

Address Book --iChat と Mail を支えるのは、新しい Address Book である。主たる変更は、どのようなアプリケーションでもそのシステム全体に渡る連絡先データベースにアクセスできるようになったことだ。vCard をサポートし、LDAP (Lightweight Directory Access Protocol) による検索も可能になると聞いている。さらに、Apple の来たるべき Bluetooth のサポートと協調し、 vCard を個人情報端末や携帯電話とやりとりできる。その他の種類の情報を含むデータベースと動作するために、その他のアプリケーションが Address Book を使えるようになるかどうかはまだ不明だ。Address Book の基礎となるデータベースエンジンが充分な性能を提供できるか、またそのような使用に耐えうるのかどうかも未知数である。私達は 1996 年からシステムレベルでのデータベースの必要性を唱えてきた ( TidBITS-jp-341 の“データベースの再来”を参照)。 Apple がついにそのようなサービスを提供するようなったことは喜ばしいことだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=00906>(日本語)データベースの再来

Finder の機能向上 --Mac OS 9 のフォルダナビゲーションが好きなら、この機能が Mac OS X に戻ってくるのを知って喜ぶに違いない。これはクリックした後フォルダ上でそのまま待っていると、フォルダ内を表示しさらに下層のフォルダへ辿れる機能である。他にもツールバーに、検索フィールドへファイル名や文書に含まれるテキストを入力し即座に検索ができる機能が Finderに新しく加わる。検索結果は Finder ウインドウ内に表示される。Sherlock で検索する今の素っ気無いやり方よりも遥かに良い方法だ。

Finder はまた、マルチスレッドおよびグラフィックの描画を受け持つ Quartz レンダリングエンジンの拡張バージョンである Quartz Extreme により、パフォーマンスが促進されるだろう。Quartz Extreme は、グラフィック処理をサポートされているビデオカードに受け持たせ、これにより Mac のメインプロセッサがアプリケーションの処理に専念できるようにする。3D ゲームやビデオユーティリティなどのグラフィックを多用するプログラムはパフォーマンスが改善され、例えば ドロップシャドーや透過ウインドウなどの Finder インターフェースの構成要素の描画も同様だ。ただし、ここで重要なのは“サポートされているビデオカード”というところで、これは Nvidia GeForce2 MX、GeForce3、GeForce4 Ti、GeForce4 あるいは GeForce4 MX、そして ATI AGP Radeon カードを含み、最低 32 MB の RAM を搭載しているものが望ましい。つまり、実質的には最新の Mac (iBook は除く) しか Quartz Extreme の恩恵を受けられないということになり、これは間違いなく Jaguar がリリースされる時ハードウエアの販売が刺激されるようにとの Apple の戦略だろう。

Sherlock 3 --私達は主に Sherlock をファイルの検索に使っているが、Apple はこれを、ニュースのヘッドラインや電話番号などインターネットの情報を探す方法として常に後押ししてきた。Sherlock は常に出発点で、結果を表示してもそれをクリックするとウェブブラウザに飛んでしまうこともあり、これらの機能には結局心を動かされなかった。Sherlock 3 では、自分自身のウインドウに適切にフォーマットされた結果を表示することができ、この Apple の名探偵を Karelia の素晴らしい Watson のクローンのように見せることができる。ただ、Apple の Sherlock 3 のスクリーンショットで確認できる限り、Watson より沢山のツールを提供することはできないようだ。

<http://www.karelia.com/watson/?src=_tb>

手書き入力 --今回の発表で特に注目に値するものの一つに、手書き入力認識の機能がある。これは Apple のウェブサイトでは Ink という名で呼ばれている。WWDC 会場からの報道によれば、Terminal のような Unix プログラムを含め、テキスト入力のできるすべてのアプリケーションで手書き入力が認識されるとのことだった。けれども Apple の Jaguar ページを見ると、Ink は Mail と TextEdit で動作し、Ink をサポートしていないプログラムでは InkPad という別プログラムを使ってコピー・ペーストでテキストを入力する、となっている。入力のためにはタブレットが必要という説が有力だが、PowerBook や iBook のトラックパッドに指を走らせて使えるようにもなって欲しいものだ。

Ink の存在が Mac OS ベースの新しいハンドヘルド機器の登場を予感させる、という噂が立ち上るのは当然のことだろう。我々自身も、手書き入力が実際にできるようになれば当然同じことを予感するだろう。ただ、当面の展望としては、こうしたタイプのロー・レベルのサポートによってキーボード入力に代わるべき新しい入力方法の開発の道が開かれた、ということが重要だろうと思う。グラフィックスプログラムにおいても画像内にテキストを追加するために Ink をサポートすることが考えられるし、子供たちの書き取りの勉強の助けとなるような教育プログラムも可能だろう。けれども、大多数のコンピュータユーザーにとってはこれまで手書き入力が真剣に受け取るべきものに思えたことは一度も無かったのだし、タブレットがごく特殊な入力機器であることに変わりはない、ということも忘れてはならない。

QuickTime 6 --Apple の Jaguar プレビューのもう一つの重要な要素は QuickTime 6 と QuickTime Broadcaster だった。QuickTime は依然として Apple のキー・テクノロジーの一つであり、Mac 及び Windows 用の QuickTime 5 は毎週数百万回もダウンロードされている。QuickTime 6 は(またまた)新たなユーザーインターフェースを装備しており、帯域幅の限られた接続におけるストリーミングメディアのパフォーマンスが向上している。また、MPEG-4 ビデオが見られるようにもなっている。MPEG-4 はデジタル機器用、またはインターネットで転送されるためにオーディオ・ビデオをエンコードするための標準方式で、4年ほど前に定められ、一部はそれ自身 QuickTime に基づいて定義されたものである。QuickTime と同様、MPEG-4 も多彩な種類の機器に適合可能で、帯域幅の限られた(今日のインターネットでのストリーミングに見られるような)状況においてもコンテンツを伝えることができるようになっている。MPEG-4 はまたハイ・エンドのデジタルテレビやビデオの市場をも念頭に置いており、インタラクティブなアプリケーションを作る機能もあって、さらにはデジタルコンテンツに関する権利を管理する機能も備えている。MPEG-4 はさらに Advanced Audio Coding(AAC と略記され、Dolby Labs の開発した認知理論に基づくオーディオ・エンコーディング法で、小さな帯域幅で MP3 オーディオよりも優れた忠実度を実現するもの)もサポートしている。QuickTime Broadcaster(と QuickTime Streaming Server との組み合わせ)を利用することで、QuickTime 6 を装備した Jaguar は、おそらく MPEG-4 を制作・ストリーム・視聴できるプラットフォームとしては最初のものになることだろう。

<http://www.apple.com/pr/library/2002/may/06quicktime.html>
<http://www.aac-audio.com/>

このような MPEG-4 による統合解決法は、理論的には素晴しいものだ。けれども、現時点ではさまざまなライセンス契約の泥沼に埋もれているというのが現実だ。マルチメディア・ビデオの業界は、現在のところ1分ごとの使用料金(1時間あたりおよそ $.02)を盛り込んだライセンス提案を受け入れようとしている。しかもこれは MPEG-4 エンコーダ・デコーダを配布する際にかかる料金を別にしての話だ。Apple はすでに実質的に QuickTime 6 の開発を完成させているにもかかわらず、このライセンスの問題が解決しなければこれを発表することができないわけだ。今回 QuickTime 6 を Jaguar に含めることを発表したことは、MPEG-4 のライセンスに関わる問題を近日中に解決することができるという Apple の自信のあらわれなのかもしれない。

<http://www.mpegla.com/>
<http://www.m4if.org/>

Rendezvous --Jaguar のもう一つの目玉は Rendezvous だ。これは Apple のまったく新しいテクノロジーで、IP ベースのネットワークサービスの管理・設定を容易にするためのものだ。古くからの Mac ユーザーなら、AppleTalk によるネットワークの設定がいかに簡単なものだったかを懐かしく思い出すことだろう。単に機器を繋ぎ、スイッチを入れるだけで、魔法のようにすべての機器が互いに相手のことを認識したのだ。Rendezvous は、これと同じ手軽さを IP ベースのネットワークに実現する、というのが売りのようだ。各機器がネットワーク上で利用可能なサービスを自動的に見つけ出し、かつそれぞれの提供できるサービスを相手に伝えることができる、これが Ethernet、AirPort、Bluetooth、FireWire、その他あらゆるネットワークテクノロジーで可能になる、というのだ。AirPort カードを装備した iBook が自動的に2階の iMac に接続されたプリンタを認識することができ、一人のユーザーが iTunes をミュージック・ジュークボックスのサーバーとして設定しておくだけでローカルネットワーク上のすべてのマシンでそれを聴くことができるのだ。Rendezvous は Zero Configuration Networking と呼ばれる予備的な IETF 標準に基づいており、ネットワーク管理の手が行き届かない、もしくはまったく存在しないような小さなネットワークに適している。願わくは、Rendezvous がセキュリティーに関するごたごたに巻き込まれないことを祈りたいものだ。

<http://www.ietf.org/html.charters/zeroconf-charter.html>

Windows との互換性 --クロス・プラットフォームの面に関しては、Jaguar は Mac OS X における Windows 中心のネットワークへの接続機能をさらに改良している。SMB 経由での Windows 共有フォルダへのアクセスにいちいち URL をタイプする必要がなくなった。これは、Jaguar が SMB ブラウジングを内蔵しているからだ。さらに、これは Thursby Systems で DAVE を作っている連中にはあまり喜ばれないニュースだろうが、Jaguar は Mac OS X に Windows マシンとファイルの共有ができるようにする機能も持っている。(ただし、Apple のプレスリリースではプリンタ共有については何も言及していない。)最後に、Jaguar は virtual private network (VPN) での使用のための PPTP (Point-to-Point Tunnelling Protocol) セキュリティー機能も内蔵している。

<http://www.thursby.com/products/dave.html>

アクセスの普遍性 --障害を持った Mac ユーザーはこれまで実質的に Mac OS X から締め出されてきた。例外としては Niemeijer Consult の KeyStrokes と Black Cat Software の Mouseki とが Mac OS X でオン・スクリーンのキーボードを提供してくれただけだった。しかし、Jaguar のリリース後は大きく状況が変わるはずだ。Jaguar はソフトウェア開発者たちのためにいくつかの API を提供して、Quartz によるスクリーンの拡大を提供したり、カーソル下のテキストを音声で朗読したり、すべてのアクセスをキーボードで可能にしたり、警告を目で見えるように通知したり、といったことを開発者たちが実現できるようにしている。Apple が Jaguar のリリースを機会にシンプルなユーザーレベルのユーティリティを提供することも期待できるが、それよりもさらに重要なことは、Apple が障害を持った Mac ユーザーのためのツールを作っている開発者たちに向けてこれらのシステムレベルの機能をきちんと提供することなのだ。

<http://www.assistiveware.com/keystrokes.html>
<http://www.blackcat-software.com/mouseki.htm>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06773>(日本語)Mac OS X のためのキーボードアクセシビリティ
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1189>
日本語
<Mac とアクセシビリティ:エデンの園の課題
<Mac とアクセシビリティ:対応策
<Web のアクセシビリティ:見ずに Web をサーフする
<Web のアクセシビリティ:Web の音声と映像
<Mac とアクセシビリティ:エデンの園を更にかいま見る

息を殺して待とう --Jaguar は数多くの新技術を約束してくれた。けれどもこの技術内容が今 WWDC において開発者たちに配られるということは、数ヵ月後の私達がただ新技術を体験できるというだけではなくて、これらの新技術を利用することによって以前には考えられなかったような新機能を提供できるようになったさまざまのアプリケーションが、数ヵ月後には私達の前に登場してくれているはずだ、ということも意味しているのだ。Apple はきっと、7 月の New York での Macworld Expo においても Jaguar のプレビューを実施するに違いない。その時には、開発者向けというよりは一般ユーザー向けを狙ったデモンストレーションがおこなわれることだろう。その時まで... 息を殺して待とうではないか。


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