TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#637/07-Jul-02

これまで TidBITS の配信が途切れた経験のある人は?Geoff Duncan が、メールサーバのフィルタ機能が過度に設定されると TidBITS でさえ(そして他のメールも)バウンスされ宇宙のかなたへのもくずと化してしまう様子を解説する。その他今週号では、Eolake Stobblehouse がフラットパネル iMac への賛辞をおくり、Adam は次週に迫った Macworld Expo New York でのイベントを事前紹介し、eBay が PayPal を $1.5 billion で買収したこと、そして Microsoft が Internet Explorer 5.2.1 をリリースしたことをお伝えする。

記事:

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MailBITS/07-Jul-02

eBay が PayPal を $1.5 Billion で買収 -- インターネットオークションの先駆者である eBay は、インターネット支払サービスの大手である PayPal を $1. 5 billion の株式交換で買収する計画だと発表した。この動きは当然である - PayPal のビジネスのほぼ 60% は eBay 上でのもので、逆に eBay オークションの 25% は PayPal を利用して決済されている(この他さらに 15% が他の電子決済機構を使ってなされている)。eBay は現在競合している自分のサービスである Billpoint による eBay Payments を徐々になくしていくことになろう。この事業は、PayPal との競合で苦戦しており毎年 $10 から $15 million の赤字となっている。PayPal のサービスはそのまま継続されるだろうが、例外となりそうなのが同社によるオンラインギャンブリングに対するサポートである。この分野に対する法制による関心は日々に高まっているからである。全般的には、両社とも高い評価を受けているが、どちらも批判にさらされているのも事実である - eBay はセキュリティ攻撃に対する対応のまずさと不正の追求に本腰を入れていないとして、そして PayPal はそのカストマサービスのまずさ(その結果口座を凍結されてしまったユーザーから集団訴訟を受ける羽目になっている) に対して、そしていくつかの州から PayPal を銀行として規制すべきかどうかの調査の手がはいったことに対してである。[ACE](カメ)

<http://www.shareholder.com/ebay/news/20020708-84142.htm>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06260>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06652>

Internet Explorer 5.2.1 リリースされる -- 全く訳のわからない動きなのだが、Microsoft は Internet Explorer 5.2.1 for Mac OS X を何が変更になったのかの説明一切なしでリリースした。Internet Explorer 5.2.1 をインストールするには、そうする必要があるようには全く思えないにもかかわらず走っているアプリケーションは全部終了させねばならなかった。しかし私のホームページの設定は書き替えなかった(これとは違う報告をしている人もいる)。Microsoft は一つか二つのバグ修正をしたのだろうと憶測はできるが、とにかくリリースノートらしきものすら全く無い状態では、アップデートすべきかどうかのリコメンドすらできない。本当に、Microsoft には TidBITS-491 に掲載した "製品リリースにおける 7 つの大罪" を読んで欲しいものである。[ACE](カメ)

<http://www.microsoft.com/mac/DOWNLOAD/IE/ie521.asp>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05497>


Macworld Expo NY 2002 でのイベント数々

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: 溝畑 考史<mizo-tid@grf-design.com>

スニーカーと Mac Tシャツを準備して!さぁショータイムだ!New York City の Macworld Expo の季節がまたやって来た。今回は 2002年7月17日から19日まで。毎年のように私はこのショーが楽しみなのだが、不安もないでもない。2つの大きな企業、つまり Adobe と Macromedia が展示を行わないのだ。昨年の New York と今年1月の San Francisco で行われた最近2回の Macworld Expo では、昨今の経済状況にも関わらず驚くほどの強力さを見せつけてくれたので、今回もそうなるように期待したい。

Macworld 基調講演 Web 中継 -- この Macworld Expo に参加できない人々のため、QuickTime Player による Steve Jobs の基調講演が 7月17日 水曜日 9時(東部標準時)に Web 中継されるだろう。私が“だろう”と言ったのは、これだけ注目されているイベントだとしばしばとぎれてしまうからだ。間違いなく、インターネットへの接続は速いほうがいい。

<http://www.apple.com/quicktime/qtv/mwny02/>

TidBITS イベント -- TidBITS の東海岸部隊、つまり私とライター兼編集者の Mark Anbinder は、TidBITS 読者とお会いできることを楽しみにしている。もしショーフロアで私を見つけられなかったら、以下に挙げるイベントで必ずや私を見つけられるだろう。是非お声をかけてほしい。

<http://www.apple.com/retail/palisades/>

<http://www.macworldexpo.com/macworldexpo/v31/conference/session.cvn?eID=39>
<http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/0321121651/tidbitselectro00>

<http://www.mugcenter.com/macworld/mwnyc2002/ugl.html>

<http://www.apple.com/retail/soho/>
(訳註:スウィングバイ) <http://www.miyazaki-nw.or.jp/cosmoland/html/science/dome/dome/cosmos/swingby/>

Netter's Dinner -- Al Tucker は 7月17日(水)に今年で5回目を迎える NY Macworld Netter's Dinner を開催する。参加者は 午後 6時に Javits Convention Center の出口ドア付近に集まることになっている。食事はメキシカンスタイルのビュッフェで、前菜とドリンクも含まれている。Kagi 経由の先行予約が必要で、Netter's Dinner の Web ページで詳細を必ず確認して欲しい。私はその晩、ちょっと用事があるので、ディナーの最初しか居られないのだが。

<http://avalon.rockefeller.edu/nettersdinner/>

Hess イベントリスト -- 経済の停滞が Macworld パーティシーンに重大な減少をもたらしているが、まだいくつかのイベントは行われている。残っているイベントを見つけたかったらここ、Ilene Hoffman による Robert Hess Memorial Macworld Expo Events List を見てみよう。もし Macworld に行くのなら、Ilene のリストを必ずチェックして、もしイベントを開催するなら、Ilene に送ってリストに含めてもらおう。

<http://www.ilenesmachine.com/partylist.shtml>


白いドームに住んでみて

文: Eolake Stobblehouse <eolake@stobblehouse.com>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@earthlink.net>

最近振りかえってみて自分でも驚いたのだが、比較的短い Mac ユーザーとしてのキャリア(1995年以来)の中で、自分で所有した Macintosh が10種類にも及んでいるという事である。それぞれ違ってはいても、私はすべてが好きである。従って、Steve Jobs がフラットパネル iMac は Apple が作ったこれまでの Mac の中では一番の傑作であるといったとき、私は同意するであろうか?短い答は Yes である - とは言え、それは単に目を引くデザインとか印象的なハードウェア仕様のせいではない。

時として説明しがたい直感めいたひらめきに取りつかれた経験あります?1990年代の後半に入って Apple が間もなく登場する次世代の Mac OS について語った時、私は同じ様な感覚につつまれたことを覚えている。より機能的でもっと安定したオペレーティングシステム、それに合わせた PowerPC チップの将来(当時の)開発計画を思い描いた時、私の胸は躍った。私の頭の中には、決して邪魔くさい感じを持たせたり、動作が遅いと思わせたりせず、マルチタスクも少なくとも人間の私程度にはできるコンピュータがあった。私は Mac ユーザーとしては結構長いが、決してオタクとは言えない。大体プログラムなど組んだ事がないし、Mac OS X 上で Terminal を立ち上げた事すらない。

この理想の Mac が現実のものとなるのには結構時間がかかった。理由はいろいろあった。Unix ベースとは言え、Apple は全く新しいオペレーティングシステムを開発するという大変大きな仕事に食らいついた事に変りはない。Motorola と IBM は PowerPC チップに関する約束を果たさなかった:今では Pentium チップに追いつくのがやっとである(Apple のカタツムリの広告を憶えてる?)(訳註:G3 プロセッサは Pentium II より2倍は速いと宣伝していた。)もちろんこの間、2000 年問題による技術進化の停滞が、PC 業界全体での焦点の喪失と重なって、誰もの開発スケジュールを遅延させる結果となった。一方で、私自身も経験を積むにつれて進化したのも事実である。私と同じくらい速くて同じくらいマルチタスクできるコンピュータとは、定義は一緒でも満たさなければいけない条件は 3年前程高くなくてもいいのである。

そして Apple からはフラットパネル iMac が市場に出された。私の新しい iMac を購入して 2週間ほどあと、その前に座り使っていて、私はこのマシンがいかに私の夢見た理想の Mac に近いかに突然気付いたのである。

職業的一般人 -- だいたい私がなぜ iMac を持っているのかをまず説明すべきであろう。私の仕事は言ってみれば、写真やアート、Web のためのデザイン等々である。私は、素敵なデュアルプロセサの Power Mac G4 タワーと Cinema Display を持っている。ではなぜそれに加えて一般用コンピュータが欲しいのか?ただ単に iMac が好きだからというのをさておけば、私も、素晴らしい工業デザインそのものがあると黙って通り過ぎられない過剰反応 "芸術家" タイプの人間の一人だからという所に落ち着くのかもしれない。それで、創造的作業には Power Mac G4 を、私の時間の大半を占めるコミュニケーション(Web、メール、それに書きもの)にはより邪魔にならない iMac をと使い分けている。

iMac のほとんどすべてが気に入っている。バスケットボールを半分にした本体と滑らかなクロームの腕に支えられたフラットパネルスクリーンの組合せのデザインは見た目に美しいだけでなく、大変機能的である。スクリーンは実に滑らかに動くので、知らず知らずのうちにその時その時の私の姿勢に合わせて細かく調整している自分を発見する次第である。700 MHz G4 プロセサの性能は Mac OS X と、メールと Web という私の用途には十分すぎるぐらいといえる。それに付属のスピーカすらいい音を出し、私の Power Mac G4 のものよりもずっと良いし、音量すらずっと大きい。音といえば、私の Power Mac G4 タワーのノイズには参っている - 神経を逆なでするのである。もし Apple が私の願を一つ聞いてくれるとすれば、私の欲しいのは静かなプロ用の Mac である(Apple のこの分野の最初の実験台となった Power Mac G4 Cube にもっとパワーと拡張機能を加えたもの)。

次に、この iMac は私にとって Mac OS X をフルに使った最初のマシンであることをつけ加えておきたい。という訳で、私の iMac の印象というのは Mac OS X の印象とつながっている。公開ベータから始って私はすべてのバージョンを試してきたがとても実用に耐えるとは言えなかった。というのも私の大事なアプリケーションは Classic の元ではまともに動かなかったからである。しかしながら、この iMac で使うのは主にメールと Web であるので、Mac OS X で全く問題ない;事実 Mac OS 9 の方を起動しにいったことはこれまで全くない。

ところで、キチンと調べた上のものではないが私にも一つだけ気になるところがある:Mac OS X はスクリーンの種類とかスクリーンの大きさとかの将来の開発をすでに織りこんで設計されているのは明らかである。iMac の 15インチのスクリーン上でも良いのだが、22インチの Cinema Display 上のほうがずっと良いのである。(Photoshop 7.0 がネイティブになってから、私の Power Mac G4 の方も Mac OS X に切り替えた。)とは言っても全体の寸法のことは横におけば、iMac のスクリーンは、素晴らしいの一語に尽きる。22インチの Cinema Display よりもずっと明るい。

もし経済の事まで考慮すれば、22インチのスクリーンが一般用のコンピュータに使われるようになるまでにはまだ間があり、私の Power Mac G4 のデュアルプロセサも手の込んだ画像処理の仕事用としては素晴らしい。実用的な話をすれば、私のデザインの仕事用には Power Mac G4 をそのまま使い続けるとしても、この iMac は私の想像の及ぶ範囲での完全な一般用コンピュータの姿に近いものといえる。それは、速いし、静かだし、コンパクトだし、そしてかっこいい。

結論的に言えば、iMac は私をして私もこの製品のターゲット顧客層の一人であったならと願わせるほど素晴らしい。初めて使うコンピュータがこの様に素晴らしいものであったら何と幸せであったろう!学生とか家族とか、アマチュアレベルで、メール、Web ブラウジング、デジタル写真、それにビデオの編集も少々といろいろやってみるには、前にも言ったように、これはもう想像できる限りで完全といえるほど最高のマシンである。


メールのフィルタリング: 皆のアプリがダメになる

文: Geoff Duncan <geoff@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
訳: 細川秀治 <hosoka@ca2.so-net.ne.jp>

私が担当している TidBITS の裏方の仕事の1つは、バウンスメールの処理だ。つまり、配送不可能エラーで戻ってきたメールに対処するためにどのアドレスを我々のメーリングリストから削除すればよいのかを判定しなければならないという、退屈な作業だ。メーリングリストを「クリーン」に保つことは、電子メールベースの出版に携わる者としての責務の1つだと、我々は考えている。TidBITS を欲しいとは思っていない人のところへは TidBITS を送ってはならないし、メールを受け付けないようなアドレスへ TidBITS を送ろうとすることによって帯域幅と人的な(我々のにしろ、他の人々のにしろ)努力や時間を空費することも避けねばならない。もちろん、我々のメーリングリストには配送不可能なアドレスは1つもないなどと、豪語することはできない。そんなことは実現不可能な理想だ。けれども、我々はできるだけそれに近づこうと努力しているわけだ。そして、その作業は現実に必要な作業なのだ。なぜなら、インターネットのアクセスプロバイダーというものはしょっちゅう閉鎖したり、持ち主が変わったり名前が変わったりしているものだし、その上、我々の経験によれば、人々は往々にしてメーリングリストからの削除の手続きを忘れたままで電子メールアドレスをそのまま放置してしまう(あるいは止むを得ず放置せざるを得ない羽目に陥る)ものなのだ。こういうわけで、我々は始終たくさんのバウンスメールを受け取ることになる。

かなり以前になるが、私は TidBITS-420, の記事“正統のメーリングリストにあらず”で、この TidBITS でのバウンスメールの処理方法について解説した。その後いくつかの細かな事情の変化はあったけれども、基本的なやり方は変わっていない。簡単に言うと、我々が毎週たくさん受け取るバウンスメールの中から、バウンスしている電子メールアドレスを私が書いたカスタムツールが抽出し、一定期間に戻ってくるエラーの回数やタイプに基づいてそのアドレスをリストから削除すべきかどうかを判定する。リストによってその削除条件は変えてある。メインの TidBITS については4週から8週くらいエラーが続けばそのアドレスが削除される。(このリストでは1週間に1メッセージしか送られないから。)討論リストである TidBITS Talk ではもっと早く削除される。(その代わりにエラーの回数の条件を高く設定してある。)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04761>(日本語)正統のメーリングリストにあらず

ところが去年あたりから、我々はこれまでにない新しいタイプの問題を経験するようになってきた。週によって、一度に何百(時には何千!)もの購読者のアドレスから、その回の TidBITS の発送をサーバーが拒否したということで、一斉にエラーが返ってくることがあるのだ。そういうエラーの後を追うようにして、今度は苦情のメールが続々と到着する。「何で今週号が届かないんだ?」「すみませんが、私の購読を確認して下さい。今日 TidBITS が届きませんでしたがそちらのシステムでは私はちゃんと購読者として登録されているようなのですが?」というメールの嵐だ。

このエラーの理由というのは、時として、どこかの電子メールシステムが、TidBITS がスパムだと判断する、またはもっと悪い場合には電子メールに感染したワームやウイルスだと判断する、ということなのだ。もちろん、こうした電子メールシステムの判断は完全に間違った判断だ。TidBITS は購読者以外のアドレスにあてて送られたことは一度もないし、TidBITS の号がワームやウイルスに感染したこともない。けれども、このエラーについて調べていくうちに、いくつかの興味ある事実が浮かび上がってきた:

言葉を替えて言えば、電子メールはこれまで皆がインターネットを使う第一の利用法(いわゆるインターネットの「第1アプリ」)であったのだが、それがまさに危機に瀕している、つまり、いつどこで検閲されているかわからない、信用するに足りないメディアに成り下がってしまう、これはその前兆なのだ。その上悪いことには、我々の手ではどうしようもない、それをくい止めるために我々が出来ることはほとんど無いのだ。

これが彼らのスパム検出ワードだ! -- いくつかの電子メールシステムだけが TidBITS をスパムあるいは悪意のあるメールだと誤解してしまうのは、どういう訳だろうか? その原因となった単語を、ここであからさまに書くことはできない。もしもそんなことをしたら今週号もその何千人かの購読者のところには届かないことになるのだから! でも、できるだけ工夫して最近の例のいくつかを説明してみよう:

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06856>(日本語)Palm i705: 忍耐力も必要ワイヤレスインターネット

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06851>(日本語)iTools HomePage での帯域幅制限

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1217>(日本語)チェリーを2バイト - ユニコードと Mac OS X - その1
(日本語)チェリーを2バイト - ユニコードと Mac OS X - その2

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06729>(日本語)著作権:儲けるのは誰だ?

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06720>(日本語)面白い概念を数個

もう、どうにでもフィルターしてくれ -- ここで重要なのは、こうした TidBITS の各号が拒否されたのはメールサーバーによってである、ということだ。そういうサーバーは会社、その他の組織や、または ISP などによって運営されている。個々のユーザーのメールクライアント、例えば Eudora や Outlook Express などのソフトウェアによって拒否されているものとは違う、ということだ。確かに現在の電子メールプログラムは、受信したメールをさまざまの方法で処理することができ、例えばユーザーが自分で(または、ひょっとしたら無意識にさえ)ルールとかフィルターとかを作成して TidBITS をスパムとして即座に削除してしまうように設定することも十分可能だ。事実、TidBITS のような出版物ならば一度や二度はそういうクライアント側の設定事故に遭遇したことはあるもので、以前 Microsoft の Outlook Express と Entourage に内蔵されたフィルターでそういうことが起こったこともある。(TidBITS-505の記事“OE 5.0 Junk Mail Filter の困った所行”を参照)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05647>(日本語)OE 5.0 Junk Mail Filter の困った所行

Microsoft の Junk Mail フィルターのようにユーザーから非常に見にくいところでフィルターを実施しているようなソフトウェアは確かに困り者には違いないのだが、それでもそのようなクライアント側でのメールフィルターと、先程から説明しているようなサーバー側でのメールフィルターとの間には、決定的な違いがある。それは、前者がとにもかくにも個々の電子メールユーザーの力でコントロールが可能であるのに対して、後者、つまり今回問題にしているようなサーバー側でのメールフィルターは完全にその組織側の、組織としてのポリシーのみによって進められている、という点だ。組織においては、実際にはほんの一人か二人の人間が何千もの電子メールアカウントの運営を任されているもので、組織としてどのようなメールを受け付けてどのようなメールを拒否するのかはその人の裁量次第でいかようにも決まってしまうのだ。たいていの場合、ユーザーがメールのフィルターに関する決定に口出しをする余地は全く無いと言ってもよいだろう。

例えば、Adam の Mac.com サービスに関する記事を拒否したサーバーたちは、ある特定の有名ブランドのコマーシャルパッケージのアンチウイルス・プログラムを走らせており、これらのサーバーを管理する組織の責任者たちは、そのアンチウイルス・プログラムが正当な電子メールを拒否することなどないだろう、とその有名ブランドを信用して使っているのだ。今回明らかになったことは、その信用が裏切られている、ということだ。また別の実例を挙げてみると、TidBITS-601発行された週、ある世界的な航空産業の大会社(名前が「ボイ〜ン!」に響きがちょっと似ている、ほら、あの会社だ)では、記事の中にある特定の URL が記入されているというだけの理由で、すべての購読者にあてたTidBITS の送付が拒否されてしまった。何故かはわからないが、何万人もの人々をかかえるこの大会社のどこかで一人の電子メール管理者が、この URL を含んだ電子メールメッセージはとにかくきっぱりと拒否、と決めたらしいのだ。ただ、皮肉なことに、その問題の URL を所有する会社は、その航空産業会社をお得意様の名前の一つとして挙げているというのに。おやおや...

とんちんかんな検閲官 -- ものすごい量のスパムがインターネットを渋滞させている現状のなかでは、電子メールにフィルターをかけることの実際的な必要性には疑いの余地はない。(アンチスパム・フィルタリングサービスを大企業や組織に提供している会社 Brightmail は、今年スパムの量が600パーセント増加した、と見積もっている。)メールの保管、帯域幅、処理にさかれるパワーなどスパムによる経費損失は現実のものだ。多量の工数がスパムの削除、フィルタリング、識別、事後清掃に掛かっているのは言うまでもない。アドミニストレータ達が時間を節約し、問題を避けようと試み、場合により、電子メールをテストして実害がユーザのデスクトップに及ぼされるのを未然に防いでいる事実は否定できない。我々の TidBITS でも受け取ったメールに若干の非常に簡単なフィルタリングを掛けている、そして私の仕事上のサーバーではもっと積極的にメールをフィルタリングしている。

<http://www.brightmail.com/>

フィルタリングがうまく的中するとアドミニストレータとユーザーの時間や金をどれほどか節約し問題を避けるかもしれないが、同様にフィルタリングが裏目に出るとそれはコストが掛かることになる。そのコストの一部は不適切に識別された電子メールの送り主に負担させられる。スパムフィルターが TidBITSを捕まえる度に、この私が、問題の所在を追跡し、該当する電子メールアドミニストレータと交渉し、苛立っている購読者たちをなだめる、という労力を払わされるのだ。(それは私が無駄に費やす時間だ、この時間を記事を書いたり TidBITS サービスを改善するようなもっと有用なことに使うことができたのに。) コストの一部はまた、フィルタリングをしている組織が負担する、主に、配達されるべき電子メールが届かなかったユーザへの対応に追われたり、問題の所在を追跡しようとしている私のような他所のアドミニストレータとの交渉に明け暮れたり、という負担となってあらわれるのだ。とんちんかんなフィルターはすべての関係者にとって電子メールの有用性を貶める。

声を出すんじゃないぞ -- 我々は時折 TidBITS に使われている単語や用語でコンテンツフィルターに幅広く引っかかりそうなものを避けようと試みてきた。(ここで「我々」はたいてい「私」のこと、なぜなら私は電子メールエラーと TidBITS が遭遇する問題に最も精通したスタッフなので。) 例えば、我々はDan Kohn の「このエッセイは盗用自由」シリーズ で、アダルトものの単語を削除した。(その単語は“P”で始まって“ルノ”で終わる。最近では、過度に攻撃的なフィルターたちに過去にとがめられたことのある用語や語句をチェックして必要な変更を加えてから TidBITS をリリースする、というのがほとんど毎週のお決まりの仕事になってしまった。最近自己検閲した記事は以下のとおりだ。 Mac OS X 移行の落し穴を避けようシリーズ と「変造オーディオディスクが Mac の便秘を誘う」 (TidBITS-631 )、「Kensington 製のスグレモノ」( TidBITS-630 )、「Mac OS X: 新しさのジレンマ」( TidBITS-629_ )、「Bill Gates は嘘つきか?」(TidBITS-628 )。チェックする記事は TidBITS のカバーする検証や評論からニュースとレビューまですべての範囲だ。お気付きのように、今週号のこの記事でも私は TidBITS が検閲に引っ掛からないよう、アブナイ用語や語句の組み合わせを避けるよう努力している。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1209>(日本語)このエッセイは盗用自由−その1: コンテンツは純粋公共物
(日本語)このエッセイは盗用自由−その2: 暗号化では止められない
(日本語)このエッセイは盗用自由−その3: コンテンツ作成の報酬は
(日本語)このエッセイは盗用自由−その4: 窃盗を正当化してるだけ?
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1219>(日本語)Mac OS X 移行の落し穴を避けよう Part 1
(日本語)Mac OS X 移行の落し穴を避けよう Part 2
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06815>(日本語)Mac OS X: 新しさのジレンマ
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06804>(日本語)Bill Gates は嘘つきか?
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06821>(日本語)Kensington 製のスグレモノ
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06829>(日本語)変造オーディオディスクが Mac の便秘を誘う

ある意味では、出版物の中で不快語や問題用語を使用するのは慎重に判断すべき事柄だろう。文章の中でその言葉を使用する利点が、問題を引き起こす可能性、TidBITS の配送が拒否されてしまうかもしれない危険をおかすだけの価値があるのだろうか、という判断だ。しかし TidBITS がApple のウェブページ・ホステングサービスの名前を掲載した _同じ号_ の中に、“my”(私の)という単語、それに“pictures”(写真)という単語とを連続的に登場させると、何百という読者を混乱に陥れ、すでに限られた (私しかいない) スタッフの時間を問題の洗い出しに投入しなけらばならなかった時点で、一線は越えられたのだ。普通の果物の名前を "keystroke" のような単語と _同じ号_ に掲載できなくなり、ある種の医薬品名をちょっとだけでも言及できなくなり、有名なオンライン広告について論じることもできなくなったとき、もはや我々は道理の通る世界には住んでいない、我々は不条理の惑星に漂着した漂流者なのだ。

今は何とかOK -- この種の災難に対処して TidBITS がなんとか自己検閲できるようになる見込みは無い。用語と語句はただあまりにも気紛れで予測不能だ。おそらく明日に誰かが新しい Windows ワームをリリースすれば、市販のアンチウイルス・ソフトウェアは単語 "stopwatch" と "banana"を含むすべての電子メールをブロックし始めるだろう。(もしあなたが本号を毎度のように電子メールで受け取らなかったら、これがそんなバナナの理由だ!)

結論として、TidBITS が電子メールであなたに届られるのを我々が確実に保証できる方途は無い。それは我々は単にあなたやあなたのプロバイダがどのようなコンテンツを好ましくないと思うか知ることができないためだ。我々は合理的な努力を継続して、問題になりそうな用語や不快な用語を避けるだろう、あるいはそのような用語をドレスアップして、ある種の電子メールフィルタリングを潜り抜けることができるようにするだろう。我々は、しかしながら、我々はその記事の内容がスパムフィルターに引っ掛かるかもしれないという理由で特定の内容についての批評記事を控えるつもりは毛頭無い。なぜなら、そうすることは、こうした状態を(おそらくは意図せずにだろうが)引き起こしてしまった電子メール管理者たちの軍門に屈服することになるからだ。そして本当の検閲と報道の自由に関する全ての議論は一般に政府の関与にのみ関連するものだが、この種のコンテンツフィルタリングがより蔓延し続けるなら、電子メールによる言論の自由は無くなるだろう。

そこであなたがどうすれば良いかを説明しよう。もし、お待ちかねの TidBITSが電子メールで届かなかったら、最初に我々のウェブサイトをチェックしてその号が発行されたかどうかを確かめよう(毎年僅かだが休刊の週がある)。それから、<tidbits@tidbits.com> 宛て電子メールを送ると、おそらく数分以内に最新号が返信されて来る。もしそれが1 時間か2時間経っても到着しないなら、あなたの電子メールサーバーを管理する誰かさんが、お間抜なコンテンツフィルターを仕掛けており、我々が英語の使い方でフィルターを出し抜くのに失敗した、というのに賭けよう。(このリクエストした号が届いたとすれば、我々のサーバーとあなたのサーバーとの間に、我々が最初のコピーを送ったときコミュニケーション上の問題があって、現在それが解決されていることが考えられる。)あなたがリクエストしたメールを受け取らなかったら、次のステップは、あなたの電子メールアドミニストレーターに、受信するメールにコンテンツフィルタリングを実施しているかどうか (丁寧に) 尋ねることだ、受信するはずのメールが来ないから、と言って。あなたは、上記の理由を説明してコンテンツフィルタリングを取り外すよう彼らに依頼してもよい。この記事を引き合いに出しても構わない。こうした対処の仕方は根本的な問題の解決にはならないだろうが、少なくとも管理者の人たちに電子メールのフィルターがけの引き起こすインパクトについて考えてもらえるきっかけにはなるかもしれない。

そして、もしもどの方法もうまく行かなかったとしたら、最後の手段は TidBITS の購読をアナウンスメント版に切り替えることだ。それはその号の要旨とウェブの記事にリンクした記事の目次を含んでいる短い電子メールメッセージを届ける。TidBITS のアナウンスメント版ではその号の全文を含んでいないから、コンテンツフィルターを通過する確率が高い。

<http://www.tidbits.com/about/list.html>(日本語)TidBITS メーリングリストの購読


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