TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#642/12-Aug-02

デジタルハブの将来は危い?もしハリウッドが画策しているデジタルテレビを取巻く規制が法律となってしまうと、コンピュータと娯楽用機器の境界を希薄にしてきた Apple の革新的な製品を造り出す自由が制限されてしまうかもしれない。そして、Simon Spence は Apple がこれまで成功してきたブランド戦略に対する論評を開始する。ニュースの部では、iPod 1.2 アップデート、AOL for Mac OS X、そして CMS の ABSplus バックアップソリューションの Mac OS X 版についてお伝えする。

記事:

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MailBITS/12-Aug-02

iPod 1.2、 iTunes 3, Jaguar に対応 -- 7月の Macworld Expo(TidBITS-639で始る我々の記事を参照されたい) で iTunes 3 と新しいiPod モデルをお披露目したのに続いて、Apple は既存の iPod ユーザーのために iPod Software 1.2 Updater をリリースした。新しい Browse メニューからは自分のライブラリに対して、これまでのアーティスト、曲、アルバムタイトルに加えて、ジャンル、そして作曲家(もちろんこれらの情報が曲の ID3タグに含まれているという前提で)からの検索が可能となる。さらに、Audible.com オーディオブック対応が追加され、そして iTunes 3 で導入された Sound Check 機能にも対応する。これは異なるサウンドレベルでインポートされた個々のトラックの音量をバランスできる機能である。iPod には、Macとの FireWire 接続をいつ安全に切れるのかを表示するオンスクリーンの視覚フィードバック機能が追加された。そして、Mac OS X 10.2 のリリースに備えて、iPod には来るべき iCal とのカレンダー機能が含まれる。また、時を刻む時計(もっとも時間を見るにはナビゲーションから Clock メニューに到達しなければならない;将来のバージョンでは、メインの Now Playing スクリーン上にも表示するようにして欲しいものである)、そして注意を喚起するアラームも含まれている。iPod 1.2 Software Updater は無料の 6.7 MB ダウンロードとなっている。[JLC](カメ)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1220>
(日本語)Macworld NYC 2002特集
(日本語)Macworld NYC 2002続報
<http://www.apple.com/ipod/>
<http://www.audible.com/>
<http://www.apple.com/ipod/download/>

CMS ABSplus が Mac OS X 復元を追加 -- CMS Peripherals はそのAutomatic Backup System Plus バックアップソリューションをアップデートして、今度は Mac OS X システムを動作可能状態に復元できるようにした。2002年1月に Macworld San Francisco で初版をリリースした時には、この復元機能は Mac OS 8.6 及び Mac OS 9 しかサポートしていなかった (TidBITS-612 の "Macworld Expo San Francisco 2002 で見つけた珠玉たち" 参照)。ABSplus は FireWire ハードドライブとの組合せとなっており、独自のファームウェアとソフトウェアにより、Mac に接続すると直ちに変更のあったファイルのバックアップを可能とする。そして今や ABSplus は、前には出来なかったバックアップされたシステムのファイルを使って Mac OS X で Mac を立ち上げることが出来る。ABSplus が一つの Mac のバックアップを簡単に早く行うという点で群を抜いているのは間違いないが、保存しているのは個々のファイルの最新版だけであることをよく理解しておいて欲しい。FireWire のバス電源を使ったラップトップハードドライブ型の ABSplus ユニットは、10 GBから 60 GB の容量のものがありその価格は $240 から $700 である;外部電源を必要とするより大型のデスクトップユニットもあり、40 GB から 160 GB のハードドライブ付きで $300 から $600 の値段となっている。[ACE](カメ)

<http://www.cmsproducts.com/usb_abs_mac.htm>
<http://www.cmsproducts.com/usb_abs_desktop_mac.htm>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06687>(日本語)Macworld Expo San Francisco 2002 で見つけた珠玉たち

Mac OS X 対応 AOL -- America Online は America Online for Mac OS X をリリースした。これは AOL 固有のオンラインサービスを使うためのクライアントソフトウェアで Mac OS X に対してネイティブで動作する。AOL for Mac OS X の新機能には、Aqua 上に作られた新しいインターフェース、それに QuickTime 6、Apple の近々予定されている iChat インスタントメッセージソフトウェア、Netscape の Gecko HTML エンジンを用いた新 Web ブラウザソフトウェアへの対応を組みこんでいる。AOL for Mac OS X は、さらにユーザーが自分の Favorite Places, メール, Buddy Lists, そして Address Books にどのコンピュータからもアクセスできるようにしている。Mac OS X 10.1 かそれ以上、そしてモデムかインターネットアクセスが必要である;これは現 AOL のメンバーには無償となっている。[GD](カメ)

<http://free.aol.com/tryaolfree/dnld_aol/download_aol.adp#mac_os_x>


デジタルハブはハリウッドに対抗できるか?

文: Cory Doctorow <cory@eff.org>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
訳: 倉石毅雄 <takeo.kuraishi@attglobal.net>

最も重要な法則: 人々の欲しがる製品を創ること

iMovie、iPod、iPhoto、iTunes、それにテレビチューナーカード、コンポジットビデオ出力、ラップトップ機の CD バーナー、フラットスクリーンの iMac、Cinema Display、そして QuickTime... Apple は、四半期ごとに次から次へと皆がよだれをたらすような新しいテクノロジーを繰り出し続け、その結果、これまでも既に希薄だった「娯楽用機器」とコンピュータとの境目が、ますます見えにくくなりつつある。

1979 年以来、Apple は業界の法則をことごとく打ち破ってきた。コンピュータといえば何百万ドルもするもので、大学とか保険会社、国防省などだけのおもちゃであった時代に、個人用のパーソナルコンピュータを売り出した。「フレンドリー」なコンピュータなんて馬鹿げたアイデアさ、と鼻であざ笑うパワーオタクだらけの市場にグラフィカルインターフェイスを導入して商品化することに成功した。デスクトップにビデオを持ち込み、家庭にワイヤレスを持ち込み、過去に誰も作ったことのなかったような大きな、セクシーな、チタニウムのノートブックを、世界中の人の膝の上に実現してみせた。極め付けは、もはや伝統ともいえるその使いやすいオペレーティングシステムの基礎に、あの鬼ッ子ともいえるオープンソースの Unix を据えてしまったのだ!

Apple はしかし、たった1つ最も重要な法則だけは破らなかった。すなわち、顧客が買いたいと思うような製品を作る、ということだ。1979 年以来、Apple が成功を収めてきた理由は、あなたや私のような人々が買いたいと思うようなものを売ってきた、ということに尽きるのだ。1979 年以来、Apple の失敗作(Apple III を覚えていますか? Newton は? Cube は?)といえば、どれも売れ行きが良くなかった製品というだけのことなのだ。

ところが今や、Apple は顧客が買いたいと思うような機器を自由に創り出す権利を失う危機にさらされつつある。そしてそれは他のテクノロジー関連会社も皆同じことだ。というのは、人々がデジタルテレビから映画を取り込んで勝手に再配布するのではないかという恐怖にパニックとなったハリウッドが、デジタルテレビ信号を扱うことのできるすべての機器のデザインについて最終的コントロールの権限をハリウッドに与えるという法律の制定を、要求しつつあるのだ。

娯楽機器とコンピュータとの垣根をなくす方向に進んでいるすべての会社にとって、これは恐るべきニュースだ。デジタルハブのための各種のプロジェクトは皆の心をわくわくさせているというのに、それこそがハリウッドにとってはまさに壊滅させるべき標的なのだ。あなたの Mac がテレビ受像機と同じような働きをすればするほど(TidBITS の今年のエイプリルフールの傑作だった iTiVo の記事や、El Gato の新製品の EyeTV を思い浮かべてみよう)実はあなたの Mac は、デジタルテレビ (DTV) 機器“のみ”を規制するはずの法律の規制の下で制限を受けるようになってくるのだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06765>(日本語)Apple の新製品 iTiVo のビデオ性能判明
<http://www.elgato.com/eyeTV/>

テクノロジーの革新を無理やり支配しようとする試みはこれまでにもあった。例えば Fritz Hollings 上院議員(民主党、サウスカロライナ州)の提出した Consumer Broadband and Digital Television Promotion Act (CBDTPA)(俗に言う「消費せよ、でもプログラミングは一切禁止」法案)のような粗雑なものもあった。けれども現在進行中の法律案は、もっとずっと巧妙で狡猾なものになっていて、あなたのして欲しいことをしてくれる Mac を買うことのできるあなたの権利を現実に脅かすかも知れない。具体化がもう間近に迫っているこの法律案は、デジタルテレビの採用を促進しようという趣旨のものなのだが、実はこれが Apple を含むすべてのコンピュータ製造会社にとって壊滅的な打撃をもたらすものになるのだ。

デジタルテレビとハリウッド -- さて、デジタルテレビの話だが、今日普及しているアナログのテレビシステムに比べて、デジタルテレビ放送はずっと少ない電波の周波数帯しか使用しない。つまり、すべての放送局が現在のアナログ放送から将来デジタル放送に移行した場合には、アメリカ政府は余った周波数帯を競売して何十億何百億ドルも得ることができる、というわけだ。当然のことながら、FCC は躍起になってアメリカ全体をデジタル放送に切り替えさせようと動いており、既にすべてのアナログ放送局に対して、もしもアメリカ国民の 85% がデジタル受像機を購入し終えた場合には 2006 年までにアナログ放送を終了させるようにとの命令を出している。

そこでハリウッドの言い分は、デジタルテレビになれば放送された映画をデジタルにコピーしてインターネットで再配布するのがあまりにも簡単になってしまう、というのだ。デジタルテレビ信号は秒あたり 19.4 メガビットという桁違いに多いデータ量を使うので現在のインターネットのユーザーにとってはビデオを相当圧縮しなければ現実に再配布可能な範囲からはるかにかけ離れたものであり、一方ビデオを圧縮してしまえば現在の TV カードでキャプチャしたアナログ放送と変わらないものになる、というような事実は、ハリウッドは決して口には出さない。デジタル放送になってもデジタル受像機のアナログ出力にキャプチャカードを繋げばいつでもほぼ完璧なコピーが可能であるという事実も、ハリウッドは完全に知らぬふりだ。

現実がどうかということはこの際どうでもいいのだ。ハリウッドの偏執的な妄想の中では、デジタルテレビにインターネットを足せば、即座にすべてのテレビ映画が“ナップスター化”されてしまうことになるのだろう。というわけで、Motion Picture Association of America (MPAA) は「何かが成されなければ」デジタルテレビからすべての映画を引き上げるぞ、と脅しをかけているのだ。

この脅しは政府に「大いなる脅威」を与えた。もしも(その議論の言う通り)デジタルテレビに映画が全く出なくなれば、誰もデジタルテレビの受像機を買わないだろう。もしも誰もデジタルテレビの受像機を買わなければ、政府はあれだけの電波の周波数帯を節約することができない。そうすれば、空いた周波数帯を売却して利益を得ようという目論見が暗礁に乗り上げることになる。それは許されない。そこで「何かが成されざるを得ない」ということになる。

完璧なコントロール、すなわち不完全な機器 -- 2001 年の 11 月のこと、Billy Tauzin 下院議員(共和党、ルイジアナ州)の請求によって、MPAA のコピー防止技術ワーキンググループのの副次グループとして Broadcast Protection Discussion Group (BPDG) が発足した。これは異業種間にわたるグループで映画制作会社、家電業界、コンピュータ業界、放送局、それにケーブル放送・衛星放送の各業界の代表から構成されている。この BPDG の主な仕事は、これら各業界の意見を取りまとめて、デジタルテレビと関連するテクノロジーのうちどれだけを合法的なものとすべきかを検討し、それを答申として提出する、というものだった。

<http://bpdg.blogs.eff.org/>

BPDG が最初に裁可したのは次の2つの原則だった:

  1. デジタルテレビに使用されるすべての技術は、それに対する「不正変更を防止」できるものでなければならない。つまり、エンドユーザーの手でそれを変更することができないように作られていなければならない。この規則に従えば、オープンソースのデジタルテレビ・コンポーネントは非合法となる。なぜなら、オープンソースのソフトウェア(例えば Mac OS X の基盤となっている Darwin)は、元々エンドユーザーによって変更されることを念頭に置いてデザインされているからだ。

  2. 合法的であるためには、デジタルテレビ機器は承認された録画および出力テクノロジー以外は組み込んではならない。いかなるプログラミングとも「妥協」しないテクノロジーであることを診断できる何らかのシステムが考案される必要があり、すべてデジタルテレビ機器を製造する者は、その録画・出力コンポーネントを、既に認可されているテクノロジーのリストの中から明示的に選び出したものとしなければならない。

ハリウッドにはテクノロジーは不要 -- 娯楽業界というものは、その根幹に関わる新しいテクノロジーのインパクトを評価することにかけて、長い歴史にわたっで悲惨な経歴の記録を持っている。革新的なメディアのテクノロジーが登場するたびに、それらはまるで当然のことのように娯楽業界からの訴訟の標的にされて、テクノロジーとしての存在の権利さえも奪われようとされてきた。古くは自動演奏ピアノから、ラジオ放送、近年では VCR 技術、果ては MP3 フォーマットやデジタルビデオ録画機まで、この業界はあらゆる手を尽くして裁判所に働きかけ、こうした娯楽のための新テクノロジーを禁止、または骨抜きにしようとしつづけてきた。

<http://mmd.foxtail.com/Archives/Digests/200103/2001.03.09.01.html>
<http://www.oreillynet.com/cs/weblog/view/wlg/953>
<http://www.eff.org/Legal/Cases/RIAA_v_Diamond/>
<http://www.eff.org/IP/Video/Newmark_v_Turner/20020606_eff_pr.html>

1984 年に、ハリウッドは Sony の Betamax VCR を市場に出させまいとする裁判に敗訴した。ハリウッドの意見によれば、Betamax が普及すれば映画業界は壊滅するはずだった。MPAA 会長の Jack Valenti の言葉によれば、アメリカの映画業界にとっての VCR は「家に一人でいる女性にとっての Boston 絞殺魔のようなもの」なのだそうだ。この裁判の結果生み出された最も重要なものがいわゆる“ベータマックス・ドクトリン”という法律的原則で、これは、メディアテクノロジーというものは、たとえそれが著作権侵害のために使用される可能性のあるものであっても、もしも侵害とは関わりのない重要な使用目的があるならば合法的である、というものだ。

この原則に沿えば、VCR がたとえ商品として販売されているビデオカセットを不法に複製して販売するために使うことが可能であっても、VCR を製造すること自体は合法的である、なぜならユーザー個人が好きな番組を時間をずらして鑑賞するという合法的な目的に使えるから、ということになる。iPod の存在根拠もやはりこの原則に基づいている。あなたが合法的に入手した CD から iTunes を使って取り込んだ MP3 を作るのは合法的だからだ。ファイル共有ネットワークから MP3 を不法にダウンロードできるかどうかはここでは問題ではない。iPod にはそれとは無関係な、合法の使用目的があるからだ。

BPDG のまとめた答申は、このベータマックス・ドクトリンを脅かすものになっている。ベータマックス・ドクトリンに従えば、Apple は、著作権侵害に使われ得るかどうかなどと気にすることなく、何でも好きなように作ることができるはずだ。とにかく侵害にかかわりのない使用目的が少なくとも1つあれば十分なのだ。かなてこの製造者はその道具が住居侵入に使われないように対策を施さなければそのかなてこを販売できない、などということはない。かなてこに合法的な使用目的があることだけで十分だ。そもそも本当に良い、汎用目的の道具であって、決して非合法の目的には使うことができない、というものなどあり得ないではないか。Betamax のおかげで、各製造業者たちはその不可能の罠から解き放たれたのだ。

テクノロジー革新への拒否権 -- 家電業界と IT 関連各社は、すべての機器が「不正変更を防止」すべきものだということには異論を唱えなかった。また、録画および出力の方法についてもどんな方法が許容されるべきかについて何らかの基準を設けるべきだということについても同意していた。実は、各社ごとに、それぞれ参加のための動機はまちまちだったのである。

現在、独自のコピー防止テクノロジーを持つグループが2つあり、それぞれそのテクノロジーに基いて市場を形成していこうと動いている。Hitachi、Intel、Matsushita、Sony、Toshiba がメンバーとなっているのが“5C”グループで、Intel、IBM、Matsushita (Panasonic)、Toshiba がメンバーとなっているのが“4C”グループだ。これらの 4C および 5C のテクノロジーは既に BPDG におけるハリウッドの代表者たちの同意を取り付けているので、今後 BPDG 基準が義務化された時には、これら 4C および 5C のテクノロジーよりも規制度の緩い対抗製品は非合法と見なされるに違いない。つまり、これら 4C および 5C の各社は、BPDG に参加することによって商売敵を締め出し、将来すべての DTV 機器からあがる収益を独占しようというのが本音なのだ。

<http://www.dtcp.com/>
<http://www.4centity.com/>

他の会社、例えば Philips や Microsoft などもそれぞれ独自のコピー防止テクノロジーを持っており、もしもそれぞれのテクノロジーが BPDG とうまくやって行けなければ自分たちのテクノロジーを組み込んだ DTV 機器を販売することが非合法になるのではないかという危機感を持っている。

最後に、コンピュータ会社たちは、今後それに従うべき客観的基準を定める場所として BPDG に参加しており、その過程で、自分たちのコンピュータのユーザーがそのテクノロジーをハリウッドの怒りを買うようなやり方で使い出すことによって自分たちが訴えられて破産に追い込まれることのないように対策を練ろうというのが本音だった。けれどもここで、ハリウッドが大きな爆弾を落としてきた。DTV テクノロジーについての実際の基準を定めようという段階になって、ハリウッドは次のことを唯一考慮に足る案件として宣言してきたのだ。いわく、新規の DTV テクノロジーは、3大映画制作会社の承認が得られなければ合法とされない、というのだ。

それまでは、テクノロジー各社たちは、新テクノロジーについての客観的基準を定めるのが BPDG の目的だという了解のもとに BPDG に参加してきたのだ。こうした基準は制限の厳しいものになるかもしれないけれども、少なくともテクノロジー各社が新しい商品を企画開発する際に自分の立地点があらかじめはっきりとわかっていることだけは保証されているはずだった。

けれどもハリウッドはこうしたテクノロジー各社をそういう甘言で BPDG の場に呼び込んでおいて、いきなり罠を跳ね返らせたのだ: 「いや、我々は客観的基準をこれこれと決めるようなことはしない。これからは、新商品を開発したテクノロジー会社は、その都度我々の所にやって来て、膝をついて我々の許しを乞わなければならないのだ。どんなテクノロジーが認可されるかどうか、あらかじめ教えることはしない。その商品を見て我々が決める。我々の言う“基準”というのはそういうことだ。我々がそれを見てから、我々が決めるのだ。」

最後に残るのは -- BPDG の議長団は最終報告書を Tauzin 下院議員に提出した。もともと BPDG は Tauzin 議員にとって招集されたものだったからだ。この報告書の文面は短くて耳障りの良いものだったが、それに附帯した半インチもの厚さの分厚い資料があって、その中には Electronic Frontier Foundation、Free Software Foundation、Digital Consumer などの団体、また業界各社の Philips、Sharp、Zenith、Thomson、Microsoft など多方面からの異議の意見書が集まっていた。

<http://bpdg.blogs.eff.org/archives/000128.html#000128>
<http://www.house.gov/tauzin/>
<http://bpdg.blogs.eff.org/archives/000116.html>
<http://www.fsf.org/>
<http://www.digitalconsumer.org/>

コンピュータ製造会社からの異議は、この報告書に含まれていなかった。情報産業各社は Intel の主導の下にあり、Intel が 5C および 4C テクノロジーグループのメンバーとして利益関係が確立している以上、BPDG の規制が法律化されることを妨げる方向に動くことはできなかったのだ。Apple はどうかといえば、過去には自由なテクノロジー市場についてはっきりと物を言うことのできる立場にいたのだが、今回は IBM、HP、Dell、Gateway などの汎用コンピュータ各社と同様に沈黙を守っている。各社とも、BPDG の規制が実施されれば一番の被害を受けるというのに。

<http://maccentral.macworld.com/news/0203/04.jobs.php>

未来 -- 見通しは暗い。2002 年 8 月 8 日、FCC 議長の Michael Powell は BPDG 提案の義務化を FCC の議題に取り上げると発表し、この“基準”を法律に変えようとしている。技術革新の自由の旗を掲げ、映画業界からの監視無しに Betamax 的合法な技術を開発しようとするコンピュータ会社がいない状況では、BPDG 義務化は必然的だろう。

この BPDG 社会はデジタルハブ概念にとって非常に厳しいものになるだろう。高画質デジタルビデオ用の iMovie ツール一式を考えてみよう。これらのツールは高画質ビデオ画像をキャプチャし、保存して、操作するためにある。画像はビデオカメラ、テレビ、そして DVD のようなリムーバブルメディアなどから来る。デジタルハブに独立したテレビがなくても良い様に、ケーブルや DTV入力をサポートするかもしれない。そして DVD 録画/再生用ドライブやドライバを必要とするだろう。

Mac へのチューナや DVD 再生/録画装置の組み込みは、まさに BPDG が怖れているものだ。もし、既存の DVD を Mac で再生したり、ケーブルやアンテナからの番組を録画してテレビで再生できると思っているのなら考え直すべきだ。

ハリウッドとしては、映画スタジオの許可なくテレビやケーブルからのビデオを操作することは出来なくしたい。あなたは、自家製映画が一杯詰まった DVDを Mac に挿入し、五分の短編を編集して、遠くの親戚に iDisk からダウンロードしてもらおう、というだけの意図かも知れない。だがハリウッドは、テレビから録画した Buffy のエピソードで同じ事を出来なくするように努力している。もし遠くの親戚が自家製映画をダウンロードして DVD へ録画しているのなら、ハリウッドはそれが本当に自家製映画であって、ウェブへ流出してしまった Law & Order のエピソードでないことを確認したい。

どうやってこれが可能になるのか?一旦 DVD、ウェブサイト、もしくはハードドライブにビデオを持ってくれば、Mac もテレビもどちらもそれが Buffy か休日のビデオか区別出来ない。楽な答はない。だが運の良いことに、ベータマックス・ドクトリンによれば、誰かが El Gato の EyeTV や本当の iTivoを使って違法行為を行えるからといって、それらの所持が違法になるわけではない。その技術を使用して合法的な行為が可能であれば良いのだ。

しかし技術の使用に対してハリウッド級の完全な規制を加える手がない状況においては、BPDG はそれの具現化を禁止する。つまり、そのような機器を _製造_ することが違法になるのだ。

ハリウッドからの iTivo の承認はその「不正変更防止機能」にかかってくるだろう(Mac OS X さようなら、Mac OS 9 再びこんにちは!)。またそのオペレーティングシステムは AirPort カードや Ethernet ポートからストリーミングしてはいけないファイルをマークする機能を含んでいなければならない(居間のサーバに保存されたビデオをベッドルームに座って観るのは諦めよう)。オペレーティングシステムとケースはハリウッド映画の無許可コピーを防止するよう設計され直さなければならない。このおかげで自分自身のビデオデータをバックアップしたり、友人に送ったり、別の場所からアクセスできなくなろうとも。

もし娯楽業界の言うなりになっていたら、ラジオ、テレビ、ビデオ、MP3、DVRなどは今日存在していなかっただろう。Business Week に言わせれば、ハリウッドは“世界でもっとも変革を拒んでいる会社が揃っている。”どのような技術革新が許されるか判断する権利は誰にもない。とくに映画界の技術嫌いの連中には。

<http://www.businessweek.com/bwdaily/dnflash/mar2002/nf20020327_2364.htm>

希望の光明 -- BPDG の義務化が法律化される可能性は高いものの、必然的ではない。

ハイテク会社 - Apple、IBM、AMD、Gateway、Dell、HP - のうち一社だけでもこの過程を防げる。コピー防止技術の市場を確保しようとしている Intel や他の会社の仲間から外れて、BPDG への反対を発表するだけで良い。そうすれば、BPDG 義務化に関しての FCC の不安は現在に比べてはるかに増すだろう。

市場には既に数百万台の DTV 機が出ており、BPDG が義務化されたらこれらには対処しきれないだろう。あと 12 ヶ月もすれば一千万台を超えるだろう。そうなったら DTV の最も大事な顧客の永久な反感を買わずに DTV に鍵をかけるには遅すぎるだろう。

Apple はユーザが革新的な技術を購入して革新的な方法で使用するという顧客の権利の力強い代弁者であった。ハリウッドのいじめに屈せず、ルール違反を犯すだけの勇気があるとしたら、それは Apple だろう。もし私達が非常に運が良ければ、Apple も賛成するだろう。Steve Jobs が MPAA の不要を主張する記者会見を一度でも行えば、FCC の BPDG 検討過程は脱線してしまうだろう- おそらく永久に。

Mac ユーザは Macintosh に強い忠誠心をもっており、Apple はそれに応えて革新的な機能を備えた Mac を発表してきた。Apple のデジタルハブ構想と、皆がiMovie、iDVD、そして SuperDrive などのツールで Mac を使用してきた方法を制約するような法案が懸案となっている今、彼らがユーザを忘れないことを祈ろう。

(もっと関心があれば、以下のウェブサイトや記事を読むことを勧める:EFF のBPDG ウェブログ“Consensus at Lawyerpoint”; Tauzin 議員の BPDG 代議員へのメモ;EFF から Tauzin 議員への手紙;New York Times 紙の BPDG最終報告書の記事;BPDG 最終報告書に対する EFF の批判;BPDG 最終報告書に対する EFF の批判のまとめ;そして BPDG 最終報告書。)

<http://bpdg.blogs.eff.org/>
<http://bpdg.blogs.eff.org/archives/000138.html>
<http://bpdg.blogs.eff.org/archives/000133.html>
<http://www.nytimes.com/2002/06/05/technology/05DIGI.html>
<http://bpdg.blogs.eff.org/archives/000116.html>
<http://bpdg.blogs.eff.org/archives/one-page.pdf>
<http://bpdg.blogs.eff.org/archives/000128.html#000128>

[Cory Doctorow は Electronic Frontier Foundation の Outreach Coordinator だ。彼は 1979 年からの Apple ユーザで、右上腕に 27 画素四方の Sad Mac の刺青がある。彼は 2000 Hugo Awards で John W. Campbell Award for Best New Science Fiction Writer を受賞し、彼の最初の本 Down and Out in the Magic Kingdom はクリスマスに Tor Books から発売される予定だ。彼は 2 つのウェブログ Boing Boing と Forwarding Address: OS X の共編集者で、頻繁に Wired へ寄稿している。]

<http://www.boingboing.net/>
<http://www.saladwithsteve.com/osx/>
<http://www.wired.com/news/mac/0,2125,54202,00.html>


Apple のブランド戦略:ブランドこそが価値を体現する

文: Simon Spence <simon@alexanderdunlop.ie>
訳: 細川秀治 <hosoka@ca2.so-net.ne.jp>

ブランド戦略はこの21世紀初頭において大きなビジネスだ。様々な会社が、我々に信用してくれ、参加してくれ、何かの方法で彼らの商品に反応してくれと訴え、我々はそれらの会社からのイメージやメッセージに引き寄せられ、あるいは反発する。ブランド戦略の最たるものは、消費者を集めて、我々をそのブランドが体現してるスタイルの一部となるよう求めることだ。

Apple ほどブランド戦略に成功している会社は少ない、聞くところによればApple ロゴはかつて世界で 6 番目によく知られたロゴだった。これはパーソナルコンピュータ市場を一割も占めていない会社としては驚くべき偉業ではないか。良かれ悪しかれ、我々 Mac ユーザーはすべて、Apple の成功したブランド戦略の参加者だ。Mac ユーザーは一般に他社の顧客よりも Appleについてはるかに深い知識を持っているが、それだけでなく我々はまた、Apple のブランド戦略がどのように働くか、Apple はいかにしてそのブランドを構築したか、最近の Apple の小売分野進出においてこれらすべてがどのように結びついているか、理解すべきであると思う。この記事で、私はブランド戦略の役割について見てみよう、今後の連続記事では、ブランド戦略に対する Apple のアプローチの方法について詳しく見ていきたい。

ブランド戦略の基本 -- 地元のショッピングモールを歩いていてあなたはどれぐらい分別を持って冷静でいられるだろうか? あなたは競合社の製品を調べていたにも拘わらず、最後の土壇場になって、フィーリングや直観で Bではなく A の製品を選んだ経験は多いだろう。技術指向の会社が、信頼性と品質をあなたに約束してどんなに売り込みを掛けようとしても、消費者の理性を納得させるのみでなく心までも射止めるのには滅多に成功しない。マーケティング担当者の究極のゴールは潜在顧客がすべてのライバルを押しのけてひとつの製品を選択するまでに消費意欲を喚起することだ。彼らがその技術について疑問を持ったときに、消費者に先ずひとつの会社を思い浮かべさせ、この会社の製品を基準にして全ての競合製品を考えるようにさせることができるだろうか?

優れたブランド戦略は、顧客を呼び戻して、さらに継続してその会社から購入することを保証するのに役立つ。気まぐれな意思決定と、何を選ぶのか目も眩むほどに様々な商品溢れるこの時代に、ブランド忠誠度こそは最も高い報酬だ。ブランドは異なった様々な要素によって構築される。例えば、広告宣伝、商品を販売する小売店舗、製品がどんなに役立つか、販売後のサポートなどだ。

しかしながら、会社がこれらすべての要素をコントロールして、顧客に対する一貫性を保証しようとどれほど努力しても、全体をコントロールすることは不可能だ。会社は製品を作りそして製品をコントロールする、しかしブランドというものは会社と消費者の間の相互作用から生まれる。会社は会社自身についての訴求と提案のセットを作る、そして消費者はこれらのメッセージに反応する;ブランドはこの両者の間に存在する。その会社が何を言い何をしているか認知されることは、そのブランドで最初に重要な鍵だ。しかしそれらのメッセージが (ときには大幅に) 修正されるのは不可避だ。ともあれ、そのメッセージを翻訳し解釈するのは顧客だ。

認知は厳しいこともある。彼らのビジネスのひとつの面に関して悪いニュースや噂が絶えない会社は、他の全ての分野においても失敗しているものと見なされるだろう。陳腐な広報活動、貧弱な顧客サービス、初歩的な実装の欠陥などにより、技術指向ブランドは、そのブランドの周りに現実とかけ離れた認知を築くかもしれない。Microsoft はひとつの好例だ。今のところ独占禁止法の訴訟は会社の機構そのものに僅かあるいは全然影響を与えていないかもしれないが、Microsoft ブランドには否定的な影響を与えている。この訴訟と最終判決はまた係争中であり、会社の業務はそこなわれないで、製品も無傷のままだ。しかしながら、Microsoft が広告で、オープンな会社であること、競争に熱心であり、市場におけるフェアプレーの擁護者であること、を主張したなら、消費者の大多数は Microsoft の薄汚れたブランドのおかげで、これらのメッセージを拒絶するだろう。製品には何ら影響は無く、会社は元のままだが、しかしこの組織体と消費者間の関係は悪化する。今日までのいかなる法律上の裁定は別にしても、Microsoft はアンフェアな行動をしたと _認知_ される。このような見解が Microsoftブランドを取り巻く意識にまとわりついて、人々の心の中で、そのブランドが現すものの一部分になる。

ブランドの大物 -- 強力なブランドとその保有者や会社の経営者との間はしばしば容易ならざる関係に陥る。絶大な人気のブランドを抱えていながら、その保有者は、現在のトップ従業員がその地位に至るよりもはるかに長い間製品を買ってくれた忠誠な需要家によって、しばしば疑いの目で見られる。1985 年、製品の調合を変更して味を変えようとしたコカコーラに何が起きたかを覚えているだろうか? そして結果として生じた消費者の反対を宥めるため、速やかな後戻りとクラシックコークのリリースで決着をつけた。コカコーラ社が学んだことは、ブランドと消費者の間にある暗黙の契約を破ることは長期的ダメージのリスクを冒すことだ。

もし会社がその製品に変更を加えることを計画するなら、その変更がブランドと調和していることを確認しておくべきだ。1998年英国航空は、彼らの搭乗席を安値で売ることが会社のブランドイメージに否定的な影響を与えていることを発見した。彼らのブランドイメージは、品質、サービス、そして乗客に特別待遇を感じさせるものだった。そこで英国航空は欧州地域間でのお得用シートを提供する子会社の Go! を立ち上げた。Go! は、英国航空のそれよりも非常に異なったブランドポジションで、面白い、若者らしい、朗らかな、そして安価であることを訴求した。

英国航空がひとつの会社の中に二つの個別ブランドメッセージを一緒にしなかったことは重要なことだ。一緒にしてしまうと英国航空ブランドとその遺産は薄められてあまり認知されなくなるだろう、コカコーラの場合と同様に、認知することに厳しい反発があるかもしれない。

ブランドと製品 -- ブランドはまたそれと結びついている製品あるいは会社とは独立した別のものだ。Apple (会社) は iMac (製品) を作る、しかしこれらのどちらも Apple (ブランド) とは区別されるものだ。Apple のすること、言うこと、出版、広告などのすべてが会社の認知イメージであるブランドの構築に寄与する。多くの会社にとって、ブランドは会社の最も貴重な資産だ。90代初期、Apple の経営陣が貧弱な決定を下し、会社は目標を見失っていたようなときに、ユーザの大半はブランドに忠誠なままでいた。たとえ彼らがブランドの保有者に強く批判的であったとしても。

これらの忠誠なユーザーは様々な意味でこのブランドの代理大使であり、最近の無料 iTools から有料の .Mac サービスヘの移行は、この関係をあまりにも疎遠なものにする危険を孕んでいる。それはApple のブランド代理大使に重い負担をかけて、そしてApple の苦労して手に入れたブランド資本のいくらかを浪費する。

コンピュータの購入において、我々消費者は様々な方法で影響を受ける。マシンの技術的仕様はもちろん重要だ、しかしブランド忠誠度で購入を決める何人の人々が、仕様を引き合いに出して既に決定済みの判断を正当化するだろうか? 我々がそれを理解するか否かにかかわらず、ブランド戦略とブランドで体現される価値は我々消費者に決定的な影響力を持っている。

このブランド戦略シリーズの次報Apple のブランド戦略: Apple の無形資産で、私は Apple ブランドについてより詳細に検討し、コンピュータの業界の中でなぜ Apple がユニークな立場にあるのか、強力なブランド戦略を巧みに利用した方法について説明する。

[Simon Spence は、Alexander Dunlop Ltd. の調査および情報技術部門長で、顧客の多国籍企業がブランドイメージを確立するためのコンサルタント業を仕事にしている。彼はまたアイルランドの中小企業と教育施設のためにMac コンサルタントも提供している。]

<http://www.alexanderdunlop.ie/>


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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA