TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#656/18-Nov-02

Digital Millennium Copyright Act (DMCA) は一般に悪法と思われているが、その魔手はどこまで届くのだろうか?DMCA がこれから文化と技術革新及ぼすであろう被害について Adam が意見を述べる。またこの号では Kevin Savetz が V.92 モデムの最新の情報をまとめ、BBEdit 7.0 と SpamSieve 1.2 のリリースをとりあげ、Microsoft の Ms. M.o.X.i.e. コンテストの準決勝進出者の一人が馴染みであることに驚いた。そして、今日は Adam の35歳の誕生日!

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MailBITS/18-Nov-02

Bare Bones が BBEdit 7.0 をリリース -- テキストエディタで大騒ぎするほどのことはないと思うかもしれない。だが、私達は Finder は BBEdit を起動するための障害でしかないと思っている人に出くわしたこともある。Bare Bones Software はその旗艦アプリケーションをバージョン 7.0 へ更新した。複数の Web サイトからのファイルの作業の簡略化や、テキストの四角領域の編集のサポート、Quartz テキストスムージング、Previous Clipboard の貼り付けコマンド、などの多くの改良点を含んでいる。BBEdit 7.0 のフルバージョンは $180 だ。BBEdit Lite、Adobe GoLive、もしくは Macromedia Dreamweaver を所有しているなら、$120 で乗り換えアップグレードができる。BBEdit 6.1 以前の旧バージョンのユーザは 2002 年 12 月 31 日までは $50、2003 年 1 月 1 日以降は $60 でアップグレード出来る (BBEdit 6.5 の所有者は 2003 年も $50 という値段だ)。もし 2002 年 9 月 1 日以降に BBEdit 6.5 を購入して登録したのなら、上記は無視して 2、3 週間後に無料アップグレードが届くのを待てば良い。[JLC] (倉石)

<http://www.barebones.com/products/bbedit.html>
<http://store.barebones.com/bbedit-free-upgrade.html>

SpamSieve 1.2.1 が電子メールクライアントを追加 -- Apple は Mail プログラムで使用されている不要メールを取り除く迷惑メールフィルタ方法を自慢している。Michael Tsai の SpamSieve 1.2.1 のおかげで、これと同じような技術が他の電子メールクライアントでも使用できるようになった。簡単に言えば、ユーザが受け取った迷惑メールと正規のメッセージを使用して訓練することにより、SpamSieve が迷惑メールの認識を学習する。SpamSieve の特に良い点はその訓練と迷惑メールの対処が全て、不慣れなインターフェース上ではなく、ユーザの電子メールプログラム中で行われる点だ。最新バージョンは Eudora 5.2 と Emailer のサポートを新たに加え (SpamSieve は Entourage、Mailsmith、そして PowerMail をもサポートしている)、Base64 や quoted-printable テキスト部分を解読でき、使用する単語の残骸の記録や操作を改善した。SpamSieve 1.2.1 は旧バージョンの所有者には無料のアップグレードだ。新規登録には $20 かかるシェアウェアなので、支払う前に試用が可能だ。SpamSieve は Mac OS X 10.1 以降を必要とし、1.4 MB のダウンロードだ。[JLC](倉石)

<http://www.c-command.com/spamsieve/>

Microsoft のコンテストがビジネス界の女性を表彰する -- 私達は Mac の世界での出来事を日々追っているが、時々見逃したものに出くわし驚かされる。なんと、Microsoft が女性企業家を表彰し (勿論ながら、Microsoft Office X をも) 宣伝することを目的としたコンテストを主催していた。上っ面だけのミスコンテストもどきかと心配していたが、Microsoft は“Ms. M.o.X.i.e.”の選択のポイントは Macs と Microsoft Office を新しい方法で活用しているビジネスウーマンを見つけることだとはっきり述べている。女性が会社を興し経営する支援を行うのは偉い目標だ。入選者の数は未公表だが、そのうちから Microsoft は十人の準決勝進出者を選び、三人の決勝進出者に絞るためにMacintosh ユーザらが 2002 年 11 月 29 日までに投票するよう要請している。そして、Microsoft が 2002 年 12 月 04 日までに決勝進出者のうちから最終的な勝者を選ぶ。準決勝進出者中に少数民族出身者がいなかったのは残念だった。Microsoft は入選者の数を明かしてくれなかったが、根本的に応募者が少なかったのだろうと推測している。しかし賞は本物だ。$10,000 と Microsoft Office X を搭載した iMac だ。

今までこの (十月上旬にスタートしていた) コンテストを見逃していただけでなく、なんと私達の友人で同僚の Toby Malina が準決勝進出者の一人であることを発見した時の驚きはさらに大きかった。驚くべきではなかっただろう。Toby は Microsoft が求めているタイプの人の良い例だ。One World Journeys (オンライン野生探検をデジタル写真家と作成する会社) のシニア現場技術士、フリーランス著者と編集者、そして Avondale Media (ソフト訓練用 DVD 製作会社) の共創業者で Technical Director だ。彼女はどんな障害にもめげる事はない (テレビを良く見ている人達は彼女の兄弟の Joshua が The West Wing に端役で出ていたことに気がついていたかもしれない)。Toby に私達が投票するつもりだと言うだけにとどめるが、皆が準決勝進出者の経歴を読んで投票することを強く勧める。Mac を使用してビジネス界で成功した女性達の素晴らしい話が揃っている。[ACE] (倉石)

<http://www.microsoft.com/mac/officex/contests/votemain.asp>


V.92 速度を上げる

文: Kevin Savetz <savetz@northcoast.com>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@earthlink.net>

以前に TidBITS-580 で V.92 に関する記事を書いた。これは当時の新しいアナログモデム標準で、製品が店頭に並び始めたばかりのころであった。それから一年半経過した今、V.92 は未だ家庭に溶け込んだ言葉になったとはいい難いが、これを使えばインターネット接続をより速く快適にすることが出来る。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06431>(日本語)V.92 モデムでダイヤルアップアクセスは速くなるか?

インターネット接続するのにアナログモデムを使っている場合、到達できる速度のすべてが必要となる。米国のインターネットユーザーのほぼ 80% はいまだ 56K モデムを使っている。これによって、いい日にであれば 50 キロビット/秒 (Kbps) のダウンロードが出来る。V.92 はこのインターネットの低速レーンを加速する希望を与えるものではあるが、インターネット接続業者もコンピュータメーカーもその採用には腰が重いまま推移している。

V.92 は 4 つの新機能を提供している:"Modem on-hold" は、オンライン中にかかってきた電話を受け、そしてインターネット接続に戻ることを出来るようにする;"quick connect" はモデムが接続を完了するに要する時間を半減させる;テキストファイルや Web ページの HTML 部分のダウンロードをより高速にするための改良された圧縮技術;そして旧型モデム (V.90) では 33.6 Kbps であるアップロード速度が 48 Kbps となる。

<http://www.v92.com/>

とはいっても、肝心のインターネット接続業者がそのハードウェアをアップグレードしてくれない限り、何も実現されない。V.92 を意識的にサポートしかつ推進してきたのは、つい最近まで地域レベルの ISP だけであった。全国規模の ISP で、全米にわたって V.92 アクセスを提供すると公にしたのは、NetZero や Juno の親会社である United Online が最初である。

<http://www.irconnect.com/untd/pages/news_releases.shtml?d=31885>
<http://www.netzero.com/>
<http://www.juno.com/>

America Online, EarthLink, MSN, それに AT&T WorldNet は未だ V.92 サポートを公にはしていないが、これらのバックボーンプロバイダーがハードウェアをアップグレードしていくにつれて、多くのユーザーが宣伝されていない V.92 アクセス番号を発見しているのも事実である。America Online は静かにではあるが、どのアクセス番号が V.92 対応であるかを明らかにし始めた。Modemsite.com の Web サイトでは、V.92 をサポートしているその他のインターネット接続業者のリストを提供している。

<http://access.web.aol.com/>
<http://www.modemsite.com/56k/v92isp.asp>

Mac の V.92 サポート -- もし最近 Mac をお買いになったのなら、V.92 モデムが付いてきているのに、それに気付いていないという可能性がある。多くのメーカーが今や V.92 モデムを付けて出しているが、その Web サイトを見てもそれを確認できるとは限らない。Apple は最近出荷しているすべてのハードウェアに V.92 モデムを付けているという報告があるが、iMac の仕様のページを見に行っても V.90 モデムとしかうたっていない。

この新しいモデムを試したことのあるユーザーのお気に入りは、modem on-hold である。誰もがスピードを欲しがるが、modem on-hold でお金を節約できる:もし、モデムのために二本目の電話回線を引いているのならば、キャッチホン付きの一回線に戻ることが出来る。Mac OS X 10.2 Jaguar は最初の modem on-hold 対応の Mac OS であり - インターネット接続中に電話がかかってくると、ウィンドウが現れ警告してくれる。ここで電話を取れば、あなたの接続業者がどれぐらいホールドしたままにしておいてくれるかにはよるが、30秒から 16分の間で話をすることが出来る。

その他の機能は - quick-connect とより高速の転送速度 - オペレーティングシステムには見えないので、ISP がサポートしている限り、どのバージョンの Mac OS でも実現できるはずである。

最近、二つの外付け V.92 モデム、両方とも $100 以下、を V.90 モデムと比較してみた。どちらの新モデムもより速いスピードの接続を達成できたし、V.92 は電話回線の擾乱にも強いようである。大きな、テキスト主体の Web ページは V.92 モデムを使った場合概して数秒早く表示されたが、グラフィック主体のページでは殆ど差は認められなかった。

V.92 モデムの所有者は、そのメーカーの Web サイトでファームウェアのアップデートは出されていないかチェックすべきである。というのも、殆どの会社がこのプロトコルを実用にするための微調整を未だ継続しているからである。

[Kevin Savetz は、ここ 10年ほどフリーランスのコンピュータ/テクノロジーのジャーナリストとして活躍している。]

<http://www.savetz.com/>

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邪悪な法律、DMCA

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: 蒲生竜哉 <gamo@earthlink.net>
訳: 佐藤浩一 <koichis@anet.ne.jp>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の何が悪いのかということについてはすでに多くの記事が書かれている。つまるところデジタルミレニアム著作権法 はもっぱらプログラマーたちを監獄に送ったり、大学教授たちを苦しめたり、出版物を検閲したりすることに使われるわけで、それが故に海外の多くの科学者 たちはアメリカに旅行することを避け、優秀な研究者たちは研究を差し控えているのだ。DMCAがもたらす予想外の結果に関する白書において電子フロン ティア財団は DMCA は言論の自由と研究活動を冷え込ませ、公平な利用を危険にさらし、さらには自由競争や革新を遅らせると述べている。簡単に言って DMCA はこの法律のために出資した企業のみが好むような法律なのだ。

<http://www.eff.org/IP/DMCA/20020503_dmca_consequences.html>
<http://www.educause.edu/issues/dmca.html>
<http://anti-dmca.org/>

それは誰のことを指しているのかって? 主に大量のコンテンツに対して著作権を持ち、それぞれの業界団体である 全米映画業界 (MPAA) と 全米レコード産業協会 (RIAA) を通じて人々がコンテンツを利用する手段を規制しようとしてきた大きな映画製作スタジオやレコード会社のことだ。実のところ、多くの人々は彼らの目的の 統一と突撃部隊戦術が故に彼らを“コンテンツ・カルテル”と見なしている。

<http://www.riaa.org/>
<http://www.mpaa.org/>

だが DMCA はコンテンツ・カルテルやほかの多くの企業が世界の共有文化遺産の利用を制限し、その過程で人々の財布からお金をせしめ、革新と競争を阻害し、厳重に守 られた彼らの権益を守ろうとする一連の連鎖的動きの中のひとつに過ぎない。

DMCA と高信頼性システム-- 私は最近コーネル大学の Tarleton Gillespie 教授 <tlg28@cornell.edu> の講演に出席したのだが、その中で教授はコンテンツ・カルテルが DMCA の法的圧力をどのように用いてコンテンツが“高信頼性システム”- ユーザーが許される範囲内でしかコンテンツを利用できないようにするために作られたソフトウェア、ハードウェアとファイルフォーマットによって構成され るシステム - の外では存在できない世界に私たちを導こうとしているのかという大変重要な議論を展開した(ここでいう高信頼性とはシステムを構成する各々の要素の間で の信頼性だ。コンテンツの所有者は彼らの顧客を全く信頼していない)。高信頼性システムの目標はシンプルだ - 全ての非承認利用を排除し、私たちが利用するコンテンツに対して支払う代価を引き上げるような状況を作り出すこと、である。

高信頼性システムはあなたが CD や DVD をコピーする事を制限するばかりではなく、CD を一日のうちに聴く回数を制限し、DVD やテレビ放送のコマーシャルを飛ばすことも制限する。さらには高信頼性システムによって保護されたコンテンツを視聴するために私たちは新しいハードウェ アを買わなければならないし、すでに持っているコンテンツについても新たに保護されたバージョンを買わなければならなくなる。高信頼性システムは他にも 問題のある可能性もある。なにしろ高信頼性システムは私たち自身が Apple がユーザーのために提供している iMovie、iDVD、iTunes、iPhoto を使って作ったコンテンツを視聴する事を制限する可能性があるのだ。最悪の場合、Apple は Mac の市場におけるデジタルメディアに関する優位性を失うばかりでなく、デジタルメディアを全く扱うことができなくなってしまうことがあり得る。この気の滅 入るような可能性の詳細については TidBITS-642に掲載された Cory Doctorow の記事、デジタルハブはハリウッドに対抗できるか?を参照されたい。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06901>(日本語)デジタルハブはハリウッドに対抗できるか?

Gillespie 教授は DVD 複製を抑止されるために使われている、Content Scramble System (CSS) という見苦しい名前のシステムおよび Linuxで 動作する DVD プレイヤーを作るためノルウェーのティーンエージャーが他のインターネットユーザーたちと協力して作った DeCSS ソフトウェアに関する議論を交えながら、上記のような事態がどうやって起こるのかという事を解説した。

(多少横道にそれるが、DeCSS はコピープロテクト技術を迂回するためにデザインされ、迂回以外には商用価値がなく、あるいはコピープロテクト技術迂回のために販売されるデバイスやサ ービスを禁止する DMCA の迂回禁止条項に違反している。DMCA は加盟国は著作権法に迂回禁止保護規定を盛り込まなければならないという世界知的所有権機関国際事務局 (WIPO) の二つの条約に米国が応諾するために立法されたところが大きい。あなたはおそらくこれらの WIPO の条約にサインした国の中にはノルウェーも含まれていると思うだろうが、実のところ米国、日本、あるいはキルギスタン、ガボン、パラグアイを含むわずか 37か国がサインしたに過ぎない。これは全世界的に支持されている訳ではないのだ。より一般的でながく支持されている文学と芸術作品の保護に関するベル ン協定に 149か国が署名していることと比較すると特にそれが判るだろう)

<http://www.wipo.int/treaties/ip/wct/>
<http://www.wipo.int/treaties/ip/berne/>

個別事例として Gillespie 教授はハッカー雑誌 2600 の出版者、Elic Corley に対し 2600 が DeCSS ソフトウェアを配布することを阻止するために映画製作会社 8 社がおこした訴訟で使われた 3 つの反対弁論について取り上げた。Elic Corley は DeCSS ソフトウェアを開発した訳ではないのだが、2600 のウェブサイトからダウンロードできるようにしたのだ。彼の弁護士たちの反対弁論はこの告訴で抵触しているとされた DMCA の迂回禁止条項について、DeCSS がこの法律の対象とはならない可能性に集中した。

結局映画会社が勝訴し、2600 誌に対して DeCSS プログラムを公開することを禁止する判決となったこの訴訟のこれら反対弁論を見て頂きたい。引き続きおこされた控訴でも敗訴し、被告側は最高裁に対して は上告しないことに決めた(おそらくこれは賢い決断だったろう - 特にこの件に関しては私もあまり強い印象がない)。

<http://www.eff.org/IP/Video/MPAA_DVD_cases/20000830_ny_amended_opinion.pdf>
<http://www.eff.org/IP/Video/MPAA_DVD_cases/20011128_ny_appeal_decision.html>

Linux 用プレイヤーを作成するため -- Electronic Frontier Foundation(EFF) の支援を受けている Eric Corley 氏の弁護団が最初に示した主張は、CSSがリバースエンジニアされ DeCSS が書かれたのはその時点で DVD を再生する方法が無かったと伝えられる Linux 用の DVD プレイヤーの開発を進めるためだった、というものだった (現在は 4 種類のプレイヤーが存在する。詳しくは、下のリンクにある Linux Journal のレビューを参照のこと)。残念なことに、DMCA は動機というものをまったく考慮しないため、判事はこの主張をまったくの見当外れと判断した。簡単に言えば、あるテクノロジーが DMCA の迂回禁止条項に抵触するかどうかは、それが何のために開発されたかを問わないということだ。また、DeCSS が実際は Windows プログラムであるという事実も判事に好印象を与えなかった。Linux の DVD プレイヤーを作成するため必要なステップだと争うこともできたが、論点としては弱い。

<http://www.linuxjournal.com/article.php?sid=5644>

実際に DVD プレイヤーを作成するうえで障害となるのは、DVD で使用されている CSS 暗号を解読するキーが無いことである。これを手に入れるのは、映画制作会社や家電製品・コンピュータの製造メーカーからなる DVD Copy Control Association (DVD CCA) から CSS をライセンスする契約を結ぶことだけが_唯一_の方法だ。15,500 ドルという金額はライセンス料として暴利をむさぼっているとは言えないが、この契約が実質的に個人や小規模な組織が CSS をライセンスするのを妨げている。どういうことかというと、重大な契約違反に対しては 100 万ドルが科されるということで、それは最大で 800 万ドルにまで膨らむ可能性があるのだ。付け加えて、契約ではライセンスを受けた者に対し、CSSのリバースエンジニアや DVD を保護するという CSS の目的に反した行為を禁止している。

簡単に言えば、CSS のライセンスを無理なく契約できるのは大企業くらいであり、DVD CCA の契約は新参者を居心地の良い小さな仲良しクラブから排除するためなのは明らかである。インターネット以前の時代にはそれほど問題にはならなかったかもしれないが、Linux や オープンソースの動きが台頭してきた今、インターネット上で組織された小規模で非公式のグループでも大企業を脅かすほどのソフトウエアを開発できるということを示している。

最終的な結末はつまり、“出る杭は打たれる”ということだ。CSS をライセンスしている企業は、DVD をコピーできる DVD レコーダなど消費者が買いたいと思うような製品を、たとえ望んだとしても作ることができない。これは、新規に参入する会社、ベンチャー企業、あるいは独立のプログラマが、どのような形であれ CSS に抵触するような革新的な機能を用いて家電製品を販売する大企業と競争することを不可能にしている。家電メーカーは消費者が DVD をコピーするのを気にかけていないかもしれないが、CSS が無ければそのようなことができる製品が販売される可能性もあるため、彼らにとって CSS を守るというととは潜在的な競争を避けることになるのだ。

同じくらい問題なのは、CSS のライセンスのおびただしい数の要件が、映画制作会社のために家電メーカーに対して映画を観たりコピーしたりする振舞いを規制する技術的な責任を負わせるよう強制していることである。この厳しい契約は全てか無かの取引であり、このようにして映画制作会社はうまいこと面倒な技術的な規定を他の誰かに押し付けることに成功している (彼らは作品を製作するだけで、DVD とプレイヤーを製作する会社が CSS を採用しないといけない)。これは、すべての参加各社が CSS で束縛される高信頼性システムにむけた大きな一歩だ。

(余談だが、CSS 契約にはこの問題のすべてを、少なくても公共を利する必要性をある程度仮定している著作権法から公共の利益などまったく考慮しない契約法の世界に引きずり込むという効果もある。もしこの論理が極端に続くなら、著作権のコンセプト、そして許可されないすべてのコンテンツへのアクセスは、高信頼性システムのテクノロジーの陰に隠れたごく単純な契約という罠の中に永遠に閉じ込められてしまうだろう。DMCA の迂回禁止条項こそが、そうした事柄すべての後ろ楯となるのだ。)

暗号化の研究をする -- Eric Corley の弁護士たちが提出したもう1つの弁論は、DeCSS が CSS の暗号化法についての研究の一環として作られたものだ、ということであった。DMCA の規定によれば、暗号化の研究目的ならばコピー防止テクノロジーを欺く行為も許されているからだ。しかしながら、DMCA はその規定において、暗号化されたものが合法的に入手されたものでありかつその研究を遂行する者があらかじめオーソライズを受けるように善良なる努力をすることを要件としている。加えて、そのような研究の結果得られた解読ツールは善良なる研究目的を持った協力者たちの間で分け合うことのみが許されている。言い替えれば、このようなツールを公開して配布するのは正しいことではない、というわけだ。

この要件で「善良なる」というところに注意してもらいたい。判事の意見によれば、暗号化の研究が善良なるものであるかどうかを判断するために、法廷は次の3つの点について判断を下さなければならない。すなわち、研究の結果が暗号化テクノロジーの知識の状況を進展させるようなやり方で広められているかどうか、その者が暗号化の研究にかかわる正規の職業に就いているかどうか、そして研究の結果が適時に著作権者に伝えられているかどうか、の3点だ。判事は Eric Corley の場合についてはこの3点のいずれも該当しないと判定し、DeCSS が DMCA の暗号化研究に関する例外規定によって守られているという申し立てを即座に却下した。

この判例の詳細を検討しつつ、どのような暗号化研究が善良なるものと認められるのかを考えてみよう。善良なるものと認められるためには、まず正規の職業に就いた研究者でなければならず、知識の状況を進展させるという目標を掲げていなければならず、著作権者からオーソライズを受けるために少なくとも努力はしなければならない。考えてみれば、これはつまり問題に興味を持った個々人や、インターネットのテクノロジーオタクのコミュニティーを完全に締め出すためのものではないか! 白衣を着てぶ厚い眼鏡をかけ、大学か会社・官庁などに職を持っていなければ正規の研究者になれないというのか?

つまり、我々が今目撃しつつあるのは、DMCA の元来の目的が、現在存るものにつっかい棒をたてて、現状を維持しようとするところにあるということなのだ。学問の府の建物や、大会社の研究開発部門など以外での研究は正規の研究とは認めない、ということだ。部外者はすべてクレイジーな、はぐれ者、反逆者、トラブルメーカー、というわけだ。ああまったく! あとはどうか Apple の Think Different キャンペーン広告の“Here's to the crazy ones”のところを読んでもらいたい。誰が本当にクレイジーなのか、Apple の広告ターゲットの人々なのか、それとも Microsoft をも恐れさせたオープンソースのコミュニティーなのか、ということは今はどうでもよいが、とにかく今問題なのは、この判決に裏打ちされた DMCA が、そうした人々に対して、認可されていないすべての行為を禁止しようとしているということだ。

<http://www.apple.com/thinkdifferent/>

ジャーナリストとしてのレポートをする -- さて、Eric Corley の弁護士たちが提出した第3の弁論は、DeCSS をポストすることが合衆国憲法修正第一条に記されている出版の自由、および合衆国憲法修正第一条全般、によって保護されているというものであった。言論の自由にかかわる問題は非常にデリケートな問題であるので、この弁論を片付けるために判事はかなりの時間をかけなければならなかったが、結局は DeCSS コードの機能的本性を考えればこの場合の言論がコンテンツそのものとは直接結び付かない、と判事は結論づけた。それに続けて判事は、「政府の利益を進捗させるもの」である限りにおいてコンテンツと直接結び付かない言論を制限することは合法であり、デジタルな作品のコピーを防止することは合衆国憲法の著作権条項の存在および著作権にかかわる物の輸出が合衆国の経済に与える影響を考えれば政府の利益に合致する、とのコメントも述べた。

合衆国憲法の条文なんて忘れた、という人のために著作権条項の一部をここに書いておこう。いわく、「科学と有用な芸術との振興のために、所定の期間にわたって著者と発明者とにそれぞれの著作および発見にかかわる独占的権利を保証することによって、」とある。個人的には、私は著作権が科学と有用な芸術との振興のためのものとして存在している、という面を重視したい。著者や発明家に独占的権利を与えるという側面は二次的なものと考えたい。私がこの条文を読んで理解する限り、政府の利益は科学と有用な芸術との進歩を促進するところにあるはずであって、DMCA がその進歩を疎外していることには疑問の余地が無い。

<http://www.law.cornell.edu/constitution/constitution.articlei.html>

話が少し逸れてしまった。最終的な判決では Eric Corley と 2600 とは DeCSS を彼らのウェブサイトにポストしたり、DeCSS のポストされている別のサイトへのリンクを知りつつ彼らのウェブサイトに載せたりしてはならないとされた。この判決文の中では、リンクそのものが DMCA に抵触するのではないという点に注意が払われている。抵触するのは「そのリンクに責を負う者が (a) 該当する時点においてリンク先のサイトに問題となる事物が存在していることを知っており、(b) それが合法的には配布できない保護回避テクノロジーであることを知っており、かつ (c) そのテクノロジーを広める目的でそのリンクを作り、あるいは保持している場合」だとされている。

言葉を替えて言えば、DeCSS を広めようという意図を持っておらず、単にその存在をレポートするだけの意図ならば DeCSS へのリンクを作ってもよいのだ。Google で“download DeCSS”を検索するだけで 17,000 件以上ものヒットがあり、その多くがまだ機能しているのを見て私は安心した。これはあなたも簡単に確認できるはずだ。但し、DeCSS が Windows 用であることだけは注意しておこう。

<http://www.google.com/search?q=download+DeCSS>

ここで Gillespie 教授の議論は少し推論的なものになってくる。今回の判決ではこれ以上踏み込んだものにはならなかったが、教授の予測では、今後リンクの合法性が問われるような裁判においては、問題となる出版そのものの性格が考慮の対象に含まれるようになるのではないか、ということだ。例えば、もしも New York Times が DeCSS やその他 DMCA に抵触するようなテクノロジーへのリンクを張ったとしたら、おそらく裁判所はそのリンクのジャーナリスト的な意図を認めて合法と判断するだろう、と教授は見ている。(現に San Jose Mercury News や Wired News が、リンクの禁止が重大な問題だという意図で、これを実行したことがある。)それに対して、もしもどこかのちっぽけな電子ニューズレターが Macintosh やインターネットのユーザーに向けて同じ行動をとったとしたら、きっと同じ弁論は通用しないのではないか、と教授は言う。いったい全体、TidBITS がジャーナリズムのレベルとして New York Times には及びもつかないとその仮想法廷の目に映るのだとしたら、個人のウェブログの作者はどうすればよいのだ?

こうして、この裁判所による DMCA の解釈の最終帰結として、やはり巨大なニュース産業の企業体だけを安定化させようという効果が生じ、小さなニューズレターや個人のウェブログなど、インターネットに裏打ちされた今日の世界においてジャーナリズムの意味を書き換えようとしている人々は無視されようとしているのだ。その書き換えのための努力を過去 12 年にわたって続けてきた者として、私の心は傷んでいる。

「取り決め制度」 -- 最後の結びとして Gillespie 教授が述べたことは、この DMCA の真のパワーが何処に存在しているのかというと、それはこの法律が著作権そのものに与える影響にあるのではなくて、むしろこの法律がさまざまの手段を弄することによって、製造業の巨大企業や大学などの研究機関、それにメディア複合企業体など既存の組織たちを、Gillespie 教授が言うところの「取り決め制度」の中に組み込んで行こうとするところにある、ということだった。

そうした既存の組織たちがそれら自身の意思に反してこの制度の中に取り込まれてしまったなどと思い込んではいけない。Apple の“Think Different”キャンペーンを見れば、まるで Apple がこの取り決め制度の枠から外れてしまった人々の味方だ、と宣言しているかのような印象を受けてしまうが、実は Apple 自身も DVD CCA のメンバーであり、当然ながら Mac 付属の DVD ハードウェア・ソフトウェアのために CSS のライセンスを受けている立場にあるのだ。今やオープンソースのコミュニティーが伝統的なソフトウェア開発モデルに取って代わり、独立のプログラマーたちから成るチームの持つパワーを実証するものとなっている。象牙の塔の研究機関が時代遅れなのも言うまでもない。遠隔通信による教育は伝統的な大学の意義を薄れさせているし、堅固に身を固めたメディア企業体たちも、誰もが出版者になれるというインターネットのやり方に直面して、もう何年にもわたって苦闘を続けてきた。

この 21 世紀に向かって我々が掲げるべき第一のテーマは何かといえば、それは集中の排除、分権化ということだろう。そしてそれは今日至る所で見られる。パーソナルコンピュータがメインフレームに取って代わり、Napster がレコード業界のあらゆる抵抗にもかかわらず音楽配信の方法を一新し、DeCSS が映画制作会社にヒステリーの発作を起こさせ、Linux が強大な Microsoft のサーバ・オペレーティングシステムに立ち向かって一定の成果をあげている。ワールドトレードセンターとペンタゴンへのテロリスト攻撃さえもこの図式に当てはまるかも知れない。これらはすべて分権化のパワーの実例であり、我々の世界のすべてをコントロールする中央集権のパワー構造と、それに対抗するこれらの分権化の力との間に日々強まりつつある衝突の証でもあるのだ。決定的な答えを出すことは私にはできないが、少なくとも私の目には、両サイドそれぞれに強大な力を持ってはいるものの、分権化の力の方がその攻撃の切っ先の鋭さにおいて一歩ずつ勝りつつあるように見える。

我々に何ができるのか -- 去年一年間、私は地元の Cornell 大学で著作権や知的所有権に関する講義を多数聴講してきた。それらの講義はほとんど例外なしに、暗い時代がやって来ると警告するものだった。(当然ながら、講師の関心は大学や図書館のサイドからの立場に傾斜しがちだった。)しかしそれと同時に、我々の伝統文化に錠前をかけて未来へのイノベーションをもみ消そうとするコンテンツカルテルの側からの働きかけを押し戻すためには我々は何をすれば良いのか、という見地からの具体的提案を提示したものが一つもなかったことが、私には不満だった。

最近 Center for Democracy and Technology (CDT) で聴いた Alan Davidson の講演の後、私は Alan とこの問題についてしばらくお喋りをした。それが問題なんだよ、と彼も同意してくれた。コンテンツカルテル側のロビイストたちが溢れるほどの財源を懐にして議会に押し寄せ、我々の選出した議員たちに自分たちのやり方を強制しようとする、その彼らの攻撃を防ぐことのできる純銀の弾丸は、やはり彼も持ち合わせていないようだった。私も、どうすれば一番効果的なのか、なかなか良い知恵が浮かばないが、当面以下のようなアイデアが候補として考えられると思う。

<http://www.cdt.org/>

<http://www.eff.org/>

<http://www.copyright.gov/1201/comment_forms/>
<http://www.bricklin.com/robfuture.htm>

<http://action.eff.org/>

正直言って、残念ながら今挙げたどの方法も十分なものとは言えないだろう。コンテンツカルテルの側には、有名人のオーラ、というものが付いている。今日の社会の頂点に位置しているロックスターや映画スターたちを、彼らは「擁護している」のだから。確かにスターたちは素晴しい連中であり、一方で市民権運動をしているような人々は往々にしてつまらないガリガリの真面目人間と見られがちかも知れない。今、私が密かに希望しているのは、ソフトウェア業界がかつて自らコピー防止技術を放棄したこと、消費者たちはコピー防止を嫌うから、という理由で自発的に防止を中止してくれたこと、これが現在のコンテンツのコピーの問題に関しても再現されないものか、ということだ。けれども、我々が今口を開いて発言しない限り、DMCA に守られた「トラストのシステム」が作動してすべてのコンテンツが封印されてしまう日が来るかも知れないのだ。

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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA