TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#662/13-Jan-03

Macworld Expo で Steve Jobs はそのキーノート講演中、新しいものの紹介で我々の注意を逸らさなかった;二つの新型 PowerBook; iMovie 3, iPhoto 2,そして iDVD 3 (iTunes 3 を加えて iLife という名前のパッケージとした)へのアップデート;Keynote と呼ばれるプレゼンテーションアプリケーション;それに新しい Safari Web ブラウザである。我々もこれらを全部お伝えする。さらにこれが Apple-Microsoft の関係にどう影響するのかについても考察する。その他に今週号では:X11 for Mac OS X; TiVo, Brother, 及びAspyr からの Rendezvous サポート; それに Office X 10.1.3 についてお伝えする。

記事:

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MailBITS/13-Jan-03

Apple、X11 for Mac OS X をリリース -- Mac OS X の核である Unix の特長を生かして、Apple は X11 for Mac OS X のパブリックベータを出した。これは一つの環境であり、Mac OS X の中で X11 アプリケーションを走らせるのを可能にし、そして X11 アプリケーションの Mac への移植を容易にする。この X11 パッケージには、ディスプレイサーバソフトウェア、クライアントライブラリ、及びデベロッパ用ツールキットが含まれている;オプションで X11 Software Developer Kit for Mac OS X もある。このパブリックベータは無償の 41.5 MB ダウンロードとなっている;SDK の方は 3.8 MB のダウンロードである。[JLC](カメ)

<http://www.apple.com/macosx/x11/>

TiVo, Brother, そして Aspyr、Mac とランデブー -- Apple は Rendezvous の導入でネットワーキングをさらに簡単にしたが(これは IP ネットワーク上のデバイスを自動的に探し接続する一つの方法で、同社はこれをオープンソース標準として提供している)、今や他の企業も Rendezvous を採用し始め、先週これに関する発表が三つあった。TiVo Series2 デジタルビデオレコーダは、Mac を探し出し、共有された音楽を聴いたり TiVo 装備のテレビ上に写真を映し出したりすることが出来るようになる。但し、これには間もなく発表されるプレミアムサービスパッケージが必要である。Brother の HL-5070N Laser Printer はローカルプリンタに対しての設定そして印刷の作業を大幅に簡略化する。そして、Aspyr の NASCAR Racing 2002 Season ゲームはネットワーク上で複数のプレイヤーがゲームを見つけて参加するのを容易にする。[JLC](カメ)

<http://www.apple.com/macosx/rendezvous>
<http://www.apple.com/pr/library/2003/jan/07rendezvous.html>
<http://www.tivo.com/>
<http://www.brother.com/>
<http://www.aspyr.com/mini-sites/sierra2002/>

Microsoft Office X 10.1.3 リリースされる -- Microsoft は今日 Microsoft Office X に対するアップデータをリリースした。ここでは Italian Spelling Tool と French Proofing Tools に関わる問題に対応している。10.1.3 をインストールするにはすでに10.1.2 アップデート(11月にリリースされた)がインストールされていることが必要である。

<http://www.microsoft.com/mac/DOWNLOAD/OFFICEX/OfficeX_1013.asp>
<http://www.microsoft.com/mac/DOWNLOAD/OFFICEX/OfficeX_1012.asp>

このアップデートは Office X、そして Mac OS X 用の個別の Word, Excel, PowerPoint, 及び Entourage の English, French, German, Spanish, 及び Swedish 版をパッチする。このアップデートは Microsoft Office のなかで外国語機能に関する問題のみを扱っているように思えるのだが、大部分のユーザーがこのアップデートを必要とするのかはハッキリしない。[MHA](カメ)


新しい Apple ソフトウェアで iLife に色づけ

by Geoff Duncan <geoff@tidbits.com>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@earthlink.net>

今日は Macworld 二回分の価値があります、との言葉通り、Steve Jobs は数多くの新ソフトウェア(そしてハードウェアもだが、これは本号の別のところで扱っている)の提供を Macworld Expo San Francisco 2003 のキーノート講演で明らかにした。事実、その数の多さ故に今週号では個々の詳細について触れるだけのスペースが無い - それは今後の TidBITS でのお楽しみとして欲しい。

iLife -- デジタルハブは Apple 戦略の核であることに変わりはないが、iTunes 3, iPhoto 2, iMovie 3, 及び iDVD 3 をバンドルして iLife を作ったことで iApps の半径を小さくした。新機能に加えて、これらのアプリケーションは今やお互いに統合された - 例えば、iTunes のプレイリストは iMovie 上でも使え、iPhoto のアルバムは iDVD でもアクセスできる、等々である。iPhoto 2 と iMovie 3 は 25-Jan-03 に無償ダウンロードとして入手可となる(iTunes 3 はすでに出ている)。iDVD はそのサイズが大きすぎてオンラインでの配布は現実的でないので、25-Jan-03 に Apple は全 iLife パッケージを収めた CD-ROM を $50 で売り始める。

<http://www.apple.com/ilife/>

Keynote -- Steve Jobs はいつも見栄えのするキーノート講演をすることで有名である;その彼が 2002年中あの洗練されたスライドショーを作成するのに使ってきたアプリケーションを今回明らかにしたのである。それが Keynote で、洗練されたスライドショーを作るのに Quartz や OpenGL といった Mac OS X のディスプレイ技術の特長を生かしたプレゼンテーションプログラムとなっている。これは PowerPoint との間のインポート及びエクスポートが出来るので、Microsoft の独壇場となっているプレゼンテーションプログラムに対する一つの興味をそそる選択肢となり得る (この号の "Apple Reduces Its Microsoft Dependency" を参照)。 Keynote は現在入手可で $100 となっている。

<http://www.apple.com/keynote/>

Final Cut Express -- Apple はさらに Final Cut Express を発表した。これは同社のデジタルビデオ編集アプリケーションである Final Cut Pro の廉価版である。Final Cut Express は Final Cut Pro と同じインターフェースを持ち、プロレベルの非線形編集、合成機能、それに実時間エフェクトと言ったそのビッグブラザーが提供する機能のほとんどを三分の一の値段で提供している。従って、iMovie でできる以上の洗練されたプロジェクトを制作したいが、そうかと言って画像キャプチャやエクスポート機能はそれほどいらないという人にはよき選択肢となるであろう。Final Cut Express は現在入手可で $300 である。

<http://www.apple.com/finalcutexpress/>

Safari パブリックベータ -- 最も刺激的な発表の一つは Apple の庭で育てられた Web ブラウザの Safari であった。Chimera for Mac OS X を開発した人達の一部の人によって作られた Safari は、オープンソース KHTML レンダリングエンジンをベースにした新しい Web ブラウザである。Apple の意図はこれを Mac 上での最高速のブラウザとすることである - 今の所、その意図は実現されているようである - しかも使い易さも兼ね備えて。現在 Safari はパブリックベータの状態で小さな 2.9 MB のダウンロードとなっている。10-Jan-03 に Apple は v51 アップデートをリリースし、Safari リリース直後の最初の数日間にダウンロードした人はすべてアップデートするようすすめている。

<http://www.apple.com/safari/>


新型 PowerBook: ミニ・ミーとランチ・トレイ

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

ビデオ iPod やタブレット Mac が出るのではないかという噂の飛び交う中、Macworld Expo のキーノート講演に立った Steve Jobs は、落ち着き払って新型の PowerBook モデルを2つ紹介した。Apple の現行の iBook や PowerBook のラインアップの中に、これらはまさにぴったりとはまり込むべき機種と言えるだろう。この新型モデルの一番はっきりした特徴といえば、ディスプレイ画面のサイズだ。Apple による公式機種名もその点を前面に出しており、それぞれ 12 インチ PowerBook G4 と 17 インチ PowerBook G4 と呼ばれている。12 インチ PowerBook G4 の方は強力なパワーをこれまで Apple が作った中で最小のサイズのラップトップの中に詰め込んでおり、一方 17 インチ PowerBook G4 の方はラップトップコンピュータのスクリーンサイズにおいてこれまでに無かった新たな地平を開くものとなっている。どちらの PowerBook も Apple の新しい 802.11g の AirPort Extreme (AirMac Extreme) を使ったワイヤレスネットワーキングを装備しており、どちらも Mac OS X 専用であって Mac OS 9 ではブートすることができない。(Mac OS 9 アプリケーションを走らせるための Classic 環境は、依然として利用可能だ。)

<http://www.apple.com/powerbook/>

Apple は新型 Mac の正式名称をできるだけ違いが少ないように名付ける傾向があるようだが、この新型 PowerBook の両機種を皆がどう呼ぶようになるか、というのは今回の Expo 会場での大きな話題の一つだった。思い起こせば、現行のチタニウム (Titanium) PowerBook G4 は大抵の人に TiBook(タイブック)と呼ばれている。Apple が括弧付きの名前で Power Mac G4 (Mirrored Drive Doors) と呼んだような機種については、覚えにくいし呼びにくい、と大変な不評を買った。(Netters Dinner の会場で私がこの名前を大声で呼んだ時に傍にいた誰かが私に指摘してくれた通り、括弧は声に出すと無音なのだ。)とにかく、Netters Dinner の参加者たちによる投票の結果では、17 インチ PowerBook G4 の名前として人気があったのは“Lunch Tray”(ランチ・トレイ)で、12 インチ PowerBook G4 の方は“Happy Meal”だった。確かに、この2つの名前はどちらも食堂を思わせてぴったり対になっているのだが、私の感じでは 12 インチ PowerBook は何か“Mini Me”(ミニ・ミー)に関係した名前が定着するのではないかという気がする。ミニ・ミーはオースティン・パワーズの映画のシリーズでヴァーン・トロイアーが扮する役の名前で、彼は Apple のテレビコマーシャルにも出演している。このコマーシャル(下記のリンク参照)はなかなかの傑作で、身長の低いヴァーン・トロイアーと、バスケットボールのヒューストン・ロケッツのセンターである 7 フィート 6 インチ (2.3 m) のヨー・ミンの二人が、大小2つの新型 PowerBook を膝に笑いを誘う。さて、どんな名前が一般に定着することになるのか、楽しみだ。

<http://www.apple.com/hardware/video/powerbookg4bigandsmall.html>

17 インチ PowerBook G4 -- 今回の 17 インチ PowerBook で、 Apple はラップトップサイズというものの概念を塗り換えた。この 17 インチ のスクリーンはおそらく過去最大のラップトップスクリーンだろう。但し、この 1440 × 900 の解像度(ワイドスクリーン 16 対 10 のアスペクトレシオ)は過去最高とは言えない。これまでにも 1600 × 1200 で動作する PC ラップトップのスクリーンはあったからだ。ヒンジ部分の中のカウンターウェイトを設計した Apple のデザイナーには称賛の声を捧げたい。リッドの開閉は信じられないほどスムースだ。これほど巨大なスクリーンにもかかわらず、Apple は総重量を 6.8 ポンド (3.1 kg) にまで抑えることに成功した。また、全体の厚みも 1 インチ (2.54 cm) をわずかに切っており、これまでで最も薄い PowerBook と言える。現行のチタニウム PowerBook G4 よりも少し薄いのだ。それ以外の外形寸法を言えば、幅が 15.4 インチ (39.2 cm) で奥行きが 10.2 インチ (25.9 cm) だ。

<http://www.apple.com/powerbook/specs.html>

新型 PowerBook の外部材質では、Apple はこれまでのチタニウムを使うのをやめて、航空機材にも使われるアルミニウム合金に切り替えた。私は冶金学に詳しいわけではないが、Apple によればこのアルミニウム合金は TiBook に使われているチタニウムよりも軽量で耐久性に優れているそうだ。自転車のフレーム設計に関する議論を読んだことがあるが、そこではアルミニウムはチタニウムよりも確かに軽いが、強度では一般的にチタニウムに譲るとなっていたと思う。けれども、その議論では最終的な強度は材質だけではなく個別のデザインそのものによって大きく左右されるとも書いてあった。この PowerBook のアルミニウム材には塗装が施されていない。これまでチタニウム表面に掻き傷を作ってしまったり、手の油のせいで TiBook の塗装面が泡立ったりはがれてしまったりしたことのある人々には朗報だろう。

内部はと言えば、17 インチ PowerBook G4 は 1 GHz PowerPC G4 プロセッサに 1 MB の L3 キャッシュを備え、メインメモリには 512 MB の PC2700 DDR RAM (1 GB にアップグレード可)、64 MB のビデオメモリを備えた GeForce4 440 Go グラフィックプロセッサ、60 GB のハードディスク、スロットローディングの SuperDrive (CD-RW/DVD-R)、2基の USB ポート、ギガビット Ethernet、PC カードスロット、オーディオ入力、内蔵ステレオスピーカー、ヘッドホンジャック、内蔵マイクなどを装備している。ビデオ出力は S-video および DVI 双方のコネクタがあり、Apple は DVI to VGA のアダプタも提供している。この 17 インチ PowerBook G4 はデュアルディスプレイもサポートし、キーボードに装備された新しいファンクションキーを使って拡張デスクトップやミラーディスプレイとのスイッチも簡単にできる。このように巨大なスクリーンと高速のプロセッサにもかかわらず、Apple によれば新装のリチウムイオンプリズムバッテリーを使ってユーザーが最長 4.5 時間の連続駆動できるバッテリー能力があるということだ。

FireWire も、標準の FireWire 400 ポートに加えて、新たに別途 FireWire 800 ポートも装備された。そう、ご想像の通り、この第2のポートは 800 Mbps を達成しているのだ。FireWire 800 には新型のコネクタが必要だが、Apple から出ているアダプタを使えば FireWire 400 とも下位互換となっている。そして、ポートと言えば、2基の USB ポートは賢明にも本体の左右に分けて設置してあるので、左利きのユーザーがマウスを使うにも(またはビデオ・オーディオコントローラなどの追加 USB 機器を使う人にも)ケーブルが入り組むのを予防してくれるのが嬉しい。

また、何と2通りのワイヤレスコミュニケーションが内蔵されているのにも驚く。Bluetooth は、いまや携帯電話との接続や、その他の Bluetooth-互換な機器との通信のためのスタンダードとも言えるだろう。これに加えて、AirPort (AirMac) ワイヤレスネットワーキングの拡張版に当たる AirPort Extreme (AirMac Extreme) も装備されている。AirPort Extreme (AirMac Extreme) は802.11g のドラフト仕様スタンダードによって他の AirPort Extreme (AirMac Extreme) との間の通信に 54 Mbps の帯域幅を実現しつつ、従来の 11 Mbps (802.11b) の AirPort (AirMac) 機器との間の下位互換性を完全に保持している。ふくれっ面でアップグレードの口実を探している現行の TiBook ユーザーのためにはちょっといいニュースになるが、今回 Apple はアンテナを従来のスクリーン基部からスクリーン上端部へと移した。(このアンテナは AirPort Extreme (AirMac Extreme) と Bluetooth で共用される。両者が互いに干渉しないように巧みなスイッチング技術が用いられている。)Apple の発表によればこれでアンテナの受信状態は最近の iBook モデルと同等、つまりこれまでのどのマシンと比べても最高レベルのものになるという。

最後に、Apple は 17 インチ PowerBook のクールな見栄えを高めるために、キーボードを内側から照らし出す光ファイバーのシステムを追加してくれた。レーザーで刻まれたキートップの文字から、光が透け出して見えるのだ。これはなかなかカッコいいのだが、さらにカッコいいのはこの光源が環境光センサーと連動していて、部屋が暗くなると自動的にバックライトの光量が上がるようになっている点だ。この環境光センサーはスクリーンの輝度も自動的に調整する。但しユーザーが手動でキーボードから輝度を調節することもできる。この自動調整機能は、薄暗い環境で作業をすることが多い人たちには特に便利なものと言えるだろう。

17 インチ PowerBook G4 は、2 月になって出荷される予定だ。(但し、Apple のオンラインストアは現在 7 - 10 週間後に出荷の予定としている。)定価は $3,300 で、追加の 512 MB の RAM が $300 増しで付けられる他は何もオプションが設定されていない。付属品として、Intuit の QuickBooks for Mac(新規ユーザー版)が無料で付いてくる。

<http://quickbooks.intuit.com/qbcom/jhtml/skins/prod_ovw.jhtml?ssaPath=qb_2003_mac_pro_1user>

はたして 17 インチ PowerBook がどの程度売れるか、私は興味津々でいる。価格は順当と言えるだろうし、機能のラインアップも素晴しく良い。スクリーンも超豪華だ。ただ、一つだけ問題がある。こいつは、とにかく大きい。本当にデカイのだ。Expo の会場で私が話した人たちはほとんど例外なしに、普通のラップトップコンピュータとして使うには大きすぎる、というのが現物を見た印象だと言っていた。でも、机から机へと持ち運ぶことのできるポータブルコンピュータが欲しいというだけの人にとっては、まさにこれはうってつけの機種だろう。うまく設計されたスクリーンヒンジのお陰で全体の高さは TiBook よりほんの少し高いだけに収められているが、横幅はおそろしく広い。これを飛行機の座席で使うなんて、ちょっと私には考えられない。普通の PowerBook バッグにはたぶん入らないだろうが、Apple のオンラインストアにはオプションでこの PowerBook を収納するためにデザインされた Brenthaven 製のケースが2種類売られている。(他のバッグ製造元も現在新しいデザインのものを競って製作中のことだろう。)この、大きさの問題について Apple のハードウェア製品担当の副社長である Greg Joswiak に聞いてみたところ、彼はただ肩をすくめて「チタニウム PowerBook G4 を初めて発表した時も、皆そんな風に言っていたよ」という、あっさりした返事だった。Apple のために、私は彼の見解が当たっていることを願おう。なぜなら、これは本当にクールなマシンなのだし、これがまさに理想的なマシンだと感じる人々も、確かに大勢居るのだから。

12 インチ PowerBook G4 -- それはおよそ最大の PowerBook でもあれば、およそ最小の PowerBook でもあった。チャールズ・ディケンズの口まねをして申し訳ないが、キーノートを目のあたりにしながら私の脳裏に浮かんだのは、まさにそういう感じだった。大スクリーンの 17 インチ PowerBook G4 を紹介した後に、Steve Jobs は突然ギアをバックに切り替えて、粋な 12 インチ PowerBook G4 を取り出してみせたのだ。

こちらも 17 インチ PowerBook G4 と同じくアルミニウム合金の外材を使っている。けれども、1024 × 768 で動作する 12.1 インチ のスクリーンを持つこの新型 PowerBook は、むしろ 12 インチ iBook との共通点の方を多く持っている。但し、この新型マシンはいろいろな面で iBook よりも小さく出来ている。高さはわずか 1.2 インチ (3.0 cm)、幅が 10.9 インチ (27.7 cm) で奥行きが 8.6 インチ (21.8 cm)、重量は 4.6 ポンド (2.1 kg) だ。PowerBook Duo や PowerBook 2400 ですら、この 12 インチ PowerBook G4 と比べて1つや2つの点で小さいところはあっても、すべての寸法で、または総体積で小さいということはない。

そうは言っても、iBook が PowerPC G3 のために速度に限界があるのに対して、この 12 インチ PowerBook G4 は 867 MHz の PowerPC G4 を使っている。そればかりではなく、メモリは 256 MB の PC2100 DDR RAM (640 MB にアップグレード可)、40 GB のハードディスク (60 GB ディスクのモデルは $50 増し)、32 MB のビデオメモリを備えてデュアルディスプレイもサポートした GeForce4 420 Go グラフィックプロセッサ、スロットローディング方式のコンボドライブ (CD-RW/DVD-ROM)、VGA および S-video 出力 (両者ともアダプタ使用)、FireWire 400 ポート1基、USB ポート2基、10/100Base-T Ethernet、それに内蔵ステレオスピーカー (第3のミッドレンジスピーカーも背面中央に内蔵されている)、オーディオ入力、ヘッドホン出力、内蔵マイクも装備している。ワイヤレス関係では、この 12 インチ PowerBook G4 は Bluetooth のサポートを内蔵しているのに加えて、オプションの AirPort Extreme (AirMac Extreme) カード ($100) を差し込むスロットも付いている。アンテナはやはりスクリーン部分にあり、Apple によれば iBook と同等のワイヤレス到達範囲を持つという。 Apple はまた、12 インチ PowerBook G4 はリチウムイオンバッテリーで最長 5 時間の連続駆動が可能としている。

12 インチ PowerBook G4 は、およそ2週間以内に出荷される予定だ。定価は $1,800 で、$200 を追加すればコンボドライブを SuperDrive (CD-RW/DVD-R) にすることができる。現時点では、Intuit の QuickBooks が付いてくる。残念ながら、この 12 インチ PowerBook には 17 インチ PowerBook G4 のような環境光センサーや光ファイバーのキーボードバックライトは付いていない。

17 インチモデルの売れ行きに関しては私はあまり自信を持って断言できないが、こちらの 12 インチモデルに関しては、私はほとんど躊躇なく好調な売れ行きを予言できる。多くの人々にとって、TiBook はちょっと大きすぎて値段も高すぎたが、一方 iBook はパワー不足とデュアルディスプレイのサポートの欠如が問題だった。その双方を解決した上に、Bluetooth も AirPort Extreme (AirMac Extreme) も両方使えるとなれば、もうこれ以上美味しい話はないではないか。12 インチ PowerBook G4 は、一言で言って、本格的 Mac ユーザーのための理想的な旅行用ラップトップ機だ。私も1台欲しい。

一歩後退 -- とは言ったものの、この 12 インチ PowerBook G4 にもいくつか重大な限界点があることに、気付かれた方も多いだろう。640 MB の RAM は充分な量なのだろうが、もっとインストールしたい、という欲を持つ人もきっと多いだろう。PC カードスロットもあればいいのにと思うし、どうせならバックライト付きキーボードも装備して欲しかった。また、DVI 出力は無くて VGA 出力のみ、FireWire 800 は無くて FireWire 400 のみ、ギガビット Ethernet は無くて 10/100 Mbps Ethernet のみだ。どうしてこんなに装備を抑えたのだろうか? もちろん、これほど小さなマシンなのだからスペースもパワーも限界があるというのは確かなのだが、Apple はむしろ iBook や PowerBook の各モデルの装備を注意深く振り分けて、ユーザーがそれぞれの使用目的に適した機種を選べるように提供しようと試みているのだろう。12 インチ PowerBook G4 に装備を詰め込みすぎれば、もっと大きくて高価な PowerBook たちの存在がかすんでしまうことになる。(特に、引き続き提供される現行の 15 インチ チタニウムモデルは今後 PowerBook ラインアップの中堅を担うことになるのだから。)Apple の価格設定も、なだらかに上昇するように工夫されている。次の表をご覧頂きたい:

それぞれのマシンの機能装備はほぼ価格に連動したものに設定されているので、あなた自身の目的に合わせてふさわしいものを選ぶのも簡単だろう。明らかに Apple はポータブルマシンを重視している。Steve Jobs も、会社としてはポータブル機の売り上げがデスクトップ機を凌駕する日がいつかやって来ると見越している、とまで言っているくらいだから。現在、Apple の Macintosh セールスのおよそ3分の1がノートブック機によるものとなっている。これは、業界全体での比率が4分の1以下であるのと好対照だ。

この製品ラインアップを心の中で温めつつ、将来はこれがどう発展するのかと思い巡らしてみよう。私の目には、Apple が将来 15 インチ PowerBook G4 を今回の新型 PowerBook と同じアルミニウム合金で新装させて出してくる姿がありありと見える。ことに、現在の TiBook が多くの新規顧客のニーズにマッチしたものであり続けるなら、その可能性が高いように思える。また、私は G4 ベースの iBook も近い将来登場するかも知れないと思う。但しこれは、そのような iBook のパッケージそのものが PowerBook ラインの製品と衝突してしまうことがない、という条件付きの予想だが。


Apple が Microsoft 依存からの脱却を図る

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: 倉石毅雄 <takeo.kuraishi@attglobal.net>
訳: 佐藤浩一 <koichis@anet.ne.jp>

近年の Macworld Expo の例にもれず、Apple は幅広いハードやソフト製品を発表して来場者の関心をくぎ付けにした。新しい 12-インチと 17-インチの PowerBook や 高速 802.11g-ベースの AirPort (AirMac) Extreme、四つの iApp のうちの三つの大幅な更新、Safari、Keynote、そして Final Cut Express の三つの新しいアプリケーションなど。 Steve Jobs の二時間の基調演説の間、記者達は矢継ぎ早の発表についてゆくのに必死だった。

発表の殆どが興味深いものだったが、それ以上に、Safari Web ブラウザと Keynote プレゼンテーションプログラムのリリースから得られる Apple のここ最近の主要なゴールの一つについての洞察はもっと興味深い。それは仕事に欠かせないソフトでの Microsoft への依存を減らすことだ。この作業は完了からは程遠い。様々な分野で、Microsoft のソフトを唯一の選択肢とするのではなく、一つの優れた代替ソフトという位置付けに移すための、これからの努力に注目したい。

今日までの努力 -- 1997年に Steve Jobs が Apple に戻った時、五年間は Microsoft が Macintosh 用ソフトの開発を続け、その代りに Apple が Outlook Express と Internet Explorer の Microsoft ソフトを Mac OS にバンドルするという協定が二社の間で結ばれた。その合意期間は終了し、更新されていない。逆に Apple は最近、Microsoft への依存から脱却する努力をしている。これは Apple への利益だけでなく、Microsoft の Macintosh Business Unit (MacBU) に、切望されている競争相手を与えることにより、彼らにも利益があるかもしれない。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04090>(日本語)Microsoft が Jobs のナンバー 1

当時は Apple が強調しなかったものの、Mac OS X に Mail を含めたのはこの戦略の第一歩だった。これにより、それまでバンドルされていた Microsoft の Outlook Express をはずせたからだ。Apple の 2002 年 5 月の iChat の発表なども最近の一例だ。なぜなら iChat は Microsoft の MSN Messenger ではなく、AOL Instant Messen との互換性を提供しているからだ。あからさまではないものの、Apple のシステム全体で使用できる Address Book や iCal のリリースは Apple が Entourage X の基本機能のほとんどを再製したことを示している。Microsoft が Office X の売れ行きが鈍いのは Apple がその宣伝を助けていないからだと苦情を述べていることなどにもその問題の公の面が見られる。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06816>(日本語)次期 Mac OS X: Jaguar が姿を現す
<http://news.com.com/2100-1040-943859.html>

Safari の大きな獲物 -- 割れ目が見え出すと、Apple の最初の標的が Internet Explorer だったのは明らかだ。Apple 製でないにも拘らず、Dock モードで目立つ位置を占めている唯一の優遇されたプログラムだ。現代のコンピュータ界における Web ブラウザの明白な重要性を考えると、Apple はその位置をとり返す必要があった。

確かに、Apple は OmniWeb や iCab のような小さなブラウザを買収できたかもしれない。だが、Apple は iApps で Casady & Greene の SoundJam を iTunes に変身させて以来、その方法を避けている。特に、Apple が買収して開発の踏み台にできたかもしれないようなまともなプログラムが多数あったにも関わらず、iPhoto や iCal を社内で開発している。それの一部はいかに速く Cocoa アプリケーションを土台から開発できるかを示したいという Apple の意思であったのだろう。同時に“Not Invented Here (自分達が発明したものではない)”症候群の問題も絡んでいたのかも知れない。もっとも以下にリンクした "Joel on Software" の記事を読んでもらえれば自分でソフトを開発する良い理由もあることを理解してもらえるだろう。

<http://www.joelonsoftware.com/articles/fog0000000007.html>

そこで、Apple はオープンソースの Chimera ブラウザにも関わった Netscape の開発者を雇い、独自のブラウザの開発に乗り出した。このため、Apple は Netscape から派生したブラウザ (Netscape、Mozilla、そして Chimera) の土台になっているオープンソースの Gecko HTML 表示エンジンを使用するのだろうと思われていた。しかし、Steve Jobs が Apple がオープンソースの KHTML エンジンを使用したと発表した時点でこれは間違いであったことが判明した。その理由は KHTML は Gecko に比べて段違いに速く、しかもコードの大きさは七分の一だからだと言われている。見えないところの細かいところはどうあれ、Safari は素晴らしいとまで言えなくとも、良い Web ブラウザとなりそうだ。これからもこれによって Apple がブラウザのパラダイムを推し進めてくれることを期待している。

<http://www.apple.com/safari/>

Safari のリリースは Web ブラウザの世界を変えるだろうか?一夜にしてInternet 上の主要 Web ブラウザの一つになることを考えれば、答はイエスだろう。HTML を書いている者は、他の広く使用されているブラウザだけでなく、Safari に対してもテストしなくてはならない。しかし全体としては、Mac ユーザはこの変更に違和感を覚えないだろう。Safari 以前は、Internet Explorer が主要なブラウザで、それ以外 (Netscape、Mozilla、Chimera、iCab、OmniWeb、そして Opera) は Internet Explorer がどうもしっくりこない人達が使用していた。Safari はおそらく Dock 上だけでなく Macintosh の主要な Web ブラウザとして Internet Explorer を置き換え、そして Internet Explorer は現状維持に満足したくない人の選択肢の一つになるだろう。

“Keynote”を売る -- Safari のリリースは予期せぬ出来事ではなかったとしても、Keynote の発表には本当に驚いた。たぶん、PowerPoint のエキスパート達は、2002 年の Macworld Expo でおこなわれた Steve Jobs の基調講演で使われた、すべてリリース前段階の Keynote によるいくつかのエフェクトについて不思議に思っていたかもしれない。しかしそのような憶測がながれていたとしても、私はそのような話は聞いていなかった。自分自身では、Appleは AppleWorks を強化してある程度 Microsoft Office X と対抗できるようにしているのではないかと思っていたが、AppleWorks にはプレゼンテーション用ソフトが含まれていないので、私はその方面のことは考えていなかった。

今にして思えば、Office プログラムの中で一番弱い部分をターゲットにしたのはまさに正鵠を射た戦略と言えよう。Excel は、充分成熟していて、日々の無数の業務において Excel のスプレッドシートは必要とされており、確固たる位置を占めている。Word もまた、安泰と言えよう。Macintosh と Windows ユーザのあいだで Word 文書をやりとりしたり、レイアウトプログラムに取り込むために必要であるからだ。だが、Word は Excel ほどではない。多数の人が、Word の機能を、たとえそれがバージョン管理やコメントなどの必要不可欠のものであっても、不格好とか使いづらいと感じている。Word は多くの人にとって必須のアプリケーションではあるが、Word フォーマットを完全に読み書きできる競合アプリケーションには Word に取って代わるチャンスがあるだろう。

Mail と Address Book、iCal で Entourage の代わりになることから、Appleが次のターゲットとして PowerPoint を選んだのは当然である。小規模の会社をターゲットとする ConceptDraw Presenter などのいくつかのプログラムを除けば、PowerPoint の競争相手は 1990 年代中ほどに Aldus Persuasion が消えてから本当の意味でいなかった。PowerPoint は悪いプログラムではないが、その比較できない機能や圧倒的な使いやすさでというよりも Office プログラムに含まれていたという理由で優位に立った。PowerPoint のファイルの互換性は重要だが Word ほどではないし、Excel が日々業務で使用されるような役割はいらない。

<http://www.conceptdraw.com/en/products/CDPresenter/>

そこで、Keynote だ。PowerPoint と機能を一つ一つ挙げて比較することはできないが、競争力は充分あると見ている。当然のように、Apple は Keynote で視覚的に目を引くプレゼンテーションを作成するユーザの手助けをすることに焦点を当てていたが、先進的なところは、Keynote のファイルフォーマットが XML(eXtensible Markup Language) を用いているということだ。XML ファイルは単に構造化されたテキストファイルなので、ほかのプログラムから Keynote ファイルを書きだすことも可能となり、たとえば毎日の売り上げデータに基づくプレゼンテーションを自動的に作成することも可能となる。さらに、Apple はKeynote で PowerPoint ファイルを取り込み・書き出しできるようにしたが、多くのファイル互換性に対する懸念を扱う必要がある (伝えられるところのよると、 PowerPoint プレゼンテーション中の QuickTime ムービーは、自分で移さないといけない)。

<http://www.apple.com/keynote/>

無料の Safari や i アプリケーションシリーズとは違い、Keynote は 100 ドルするので、自動的に Macintosh の最適プレゼンテーションソフトウエアとなるわけではない。しかし、Macworld Expo での声は好意的であり、少なくてもPowerPoint 開発チームに対し、プログラムを刷新する必要があることを警告する目覚ましのベルとなるだろう。でなければ、Macintosh でのマーケットを失うリスクを背負うことになる。

Microsoft はどのように反応するべきか -- 宣戦布告はなかったが、Appleは間違いなく戦いを仕掛けてきた。次は Microsoft が反応する番だ。Microsoftの MacBU は、2001 年 10 月の Office X のリリース以降目立った成果をあげていない。最近 MacBU のジェネラルマネージャの Kevin Browne 氏がやめたことは、グループの混乱を際立たせ、Microsoft の重要なソフトウエアに関してApple が依存性を減らすことの重要性を浮き彫りにした。

Apple は、この Microsoft との近すぎる関係から慎重に脱出しないといけない。Apple という会社とその製品の出方次第では Microsoft の怒りを買ってしまう可能性があり、Microsoft が MacBU を解散し (Microsoft の利益にはそれほど貢献していないことだろう) Macintosh 用ソフトウエアの作成を完全にやめてしまうことも想像できなくはない。Word と Excel が仕事上、政府機関、そして学校で演じる重要な役割を考えれば、そのような動きは Apple にとってやはり破滅的であろう。しかしながら、私は Microsoft にはもっと良い反応を期待している。なぜかといえば、Apple が Macintosh マーケットを後押ししているように Microsoft も Windows マーケットでずっと同じ戦略を取ってきたのだ。つまり、一方に当てはまる事は、他方にも当てはまるということだ。

基本的にライバル関係にある会社に対し恩義を受けているという問題はさておき、 Apple が Microsoft に依存する割合を減らす別の理由は、Microsoft が最近なにもリリースしていないということだ。Office X のリリースからは 14ヶ月がたっており、Office の 4 つのプログラムをカーボン化する作業は確かに大変な作業であるとしても、13 ヶ月前に出た Office 2001 と比較してOffice X には新機能が数えるほどしか無い。そして Internet Explorer は2000 年 3 月から大きなアップデートは見受けられない。理由の一つは長い期間開発チームが付かなかったためである。

悲しいことだが、Microsoft の新たな目的意識は、もしそれが本当に内部的に起こっているとしても、まだ表面に現れてはきていない。Microsoft との報告会の中で彼らが見せた新しいものは、初心者用のインターネットサービスである MSN for Mac OS X だけだったが、なかなか興味深い保護者による規制機能を除いては、基本的にたいして興味をそそられないものだった。しかし、MSN for Mac OS X でさえほかの Microsoft の元気のないアナウンスと比べれば良いほうだ。新規 Mac 購入者に対する Office X の割引期間の延長、100 ドルする Entourage X 単体でのリリース、そして新しい Mac すべてに Office X Test Drive を同梱、というような発表ばかりだった。(この Test Drive の同梱には、Apple が Microsoft をゆっくりと見放そうとしているのが見え隠れする。) 2003 年中に Office X の新バージョンがでるかどうかという私の質問はうやむやになり、誰も Safari や Keynote についてはコメントしようとはしなかった。

私を楽観主義者と呼んでも良いが、Apple が Microsoft への依存を減らすことにより Microsoft が改めて Office X と Internet Explorer を興味深く革新的な方法で推進するような刺激となることを期待したい。競争は良いことであり、そして Microsoft は最近まで十分な競争をしてこなかったのだから。


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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA