TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#675/07-Apr-03

Glenn Fleishman の身に振り掛かった悪夢を想い出してほしい。今となっては杞憂かもしれないが、我々の最終的な帳尻と、この事件で Glenn が何を学んだかを教訓としよう。Adam は、次世代のコンテンツ管理システムについて考察する。Matt Neuburg はお気に入りのデジタル下駄箱 Casady & Greene の iData Pro X について検証した。ニュースではApple のハイエンド向けデジタルビデオ編集ツールの一挙公開と SETI@home 3.08 のセキュリティホール封鎖について。

記事:

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MailBITS/07-Apr-03

SETI@home 3.08がセキュリティを修正 -- 分散コンピューティングプロジェクトである SETI@home がネットワークコードの中でバッファオーバーフローを起こす可能性のあるセキュリティーホールの解決をしたクライアントソフトウェアのバージョン 3.08 を公開した。個人的には、私は SETI@home をスクリーンセーバーとして使うのをやめて、その代わりに常時バックグラウンドで動かし、私のデュアル1GHzのG4のフルパワーを使う必要のある作業(Apple純正のCPU Monitorが示すには、私の普段の作業にはその潜在処理能力のほんの一部しか必要としない)にはいるときだけ終了させるようにしている。もしもあなたがSETI@home を動かしているなら、ぜひ TidBITS チームに参加することを考えてみて頂きたい。わがチームは、現在プロジェクト内の処理情報量ランキングで 143 番にランクされている。[ACE](坂本 和也)

<http://setiathome.ssl.berkeley.edu/version308.html>
<http://setiathome.ssl.berkeley.edu/download.html>
<http://setiathome.ssl.berkeley.edu/stats/team/team_3308.html>


Final Cut Pro 4、DVD Studio Pro 2、Shake 3を発表

文: Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
訳: 坂本 和也<psyugiku@nanairos.com>

Appleは先週ラスベガスで開かれたNational Association of Broadcasters(NAB)で映像監督たちの心を鷲掴みにした。プロフェッショナル向けの映像編集ソフト群のアップデートを発表し、ニュースの見出しにはRT Extreme(サポートする Mac 上でリアルタイムの合成と特殊効果を実現する)、高品質の8bitと10bitの非圧縮フォーマット、より高品質なビデオレンダリングのためのチャンネルごとの32bitの浮動小数点処理を追加したFinal Cut Pro 4の名前が踊った。Appleは動的タイトル作成用のLiveTape、音楽制作用のSoundTrack、そして動画を複数のファイルフォーマットで出力するため(例えばDVD制作用のMPEG-2ファイルを、1パスもしくは2パスの可変ビットレートをサポートするように出力する)のCompressorという三つの独立したプログラムをFinal Cut Pro 4に付属させる。Apple はまたカットリストを管理するためのハイエンドデータベース、Cinema Tools も同梱した。これは以前は 1000ドルで販売されていたものだ。Final Cut Pro 4はより高度なオーディオ編集機能を追加され、インターフェースのカスタマイズ機能の提供、そして他にも多くの改善点を含んでいる。Final Cut Pro 4は2003年の6月に1,000ドルで購入可能になり、また以前のバージョンのFinal Cut Proユーザーは400ドルでアップグレードすることができるようになる。

<http://www.apple.com/finalcutpro/>

Appleは最新の企業向けハイエンドDVDオーサリングソフトであるDVD Studio Pro 2も発表した。より簡単にDVDコンテンツを構築できることを目標にインターフェースを改善し、新しいメニューエディタやタイムラインベースのトラック編集、プロ用にデザインしたテンプレートライブラリ、そしてFinal Cut Pro 4にも付属するCompressorが追加された。DVD Studio Pro 2は2003年の8月には500ドルで購入可能になる。また2003年4月6日からはDVD Studio Pro 1.5が1,000 ドルから値下げされた500ドルで購入できるようになっている。バージョン1.5を購入すれば、Apple Up-to-Dateを通して30ドルでバージョン2にアップグレードすることができる。

<http://www.apple.com/dvdstudiopro/newversion/>
<http://www.apple.com/dvdstudiopro/newversion/uptodate.html>

最後にAppleはプロの特殊効果やプロダクションで使われている高度な映像合成ソフトのShake 3を発表した。Appleは2003年の6月にバージョン3を提供できるようにするとしている。Shake 3は新しいQmaster ネットワークレンダリング管理ソフトを追加し、Rendezvousを複数マシンを使用したレンダリング処理の操作に使用することもでき、合成処理の高速化を約束する。Shake 3 for MacOS Xの価格は4,950ドルで、無制限のレンダリングマシン用ライセンスを含み、Apple Authorized Pro Film Resellerを通じてのみ購入できる。Shake 3 にはLinuxゃIRIX(Appleが買収する前にオリジナルのShakeが稼働していたプラットフォーム)版も提供される。しかしコストとしては本体価格の9,900ドルに加えて年間メンテナンス料として1,485ドルが発生する。

<http://www.apple.com/shake/>
<http://www.apple.com/shake/proresellers.html>

Appleは過去数年間にわたって積極的にハイエンド映像、映画市場向けの強化策を行なってきた。もしもこれらの業界に関わりがないとしても、Appleの放つ高機能な専門ソフトたちがコンピュータや映画、映像業界にどれだけ大きな影響を与えるかを見守るのは大変おもしろい。


コンテンツ管理システム選定に御協力を

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: パブロ永井<pablo@pricelessmac.com>
訳: 佐藤浩一 <koichis@anet.ne.jp>

私は以前我々のTidBITS - 全てのサーバーは G3 よりも前のPowerPC 機 - とつぎはぎのソフト群 - FileMaker や Lasso, HyperCard, AppleScript, Retrospect - を稼働させている老朽化したハードウェアを新しいものに置き換えることについて触れたことがあった。 ハードウェアの選定は簡単-Xserve1台で我々の望むあらゆることやそれ以上のことができるに違いないし、我々のサーバーのホスティング先である digital.forest のラックにも見事に収まるだろう。しかし、コンテンツ管理ソフトとなると話は別だ。

<http://www.forest.net/>

コンテンツ管理システムとは、様々なタイプのコンテンツを格納し、管理し、表示し、そしてアーカイブするためのプログラムの集まりである。一般にフルセットのコンテンツ管理システムは、格納するためのデータベース、コンテンツを抽出し提示するためのミドルウェア、そして実際に配信するウェブサーバーを含んでいる。我々は発行物や連載記事、メッセージスレッドに付随する、記事や投票、TidBITS Talk のメッセージをかかえている。加えて我々のコンテンツは(電子メール、ウェブ、FTP、Usenet news などの)様々な場において、(setext, HTML, RSS などの)様々なフォーマットで発行している。

ウェブが成熟したように、コンテンツ管理システムへの必要性はますます一般化しつつある。コンテンツの制作者はウェブページにコンテンツを収めるためのツール(例として Claris HomePage や Symantec の Visual Page)が必要だと実感していた。その要求はウェブサイト全体を管理するツール(Adobe SiteMill や最近では Adobe GoLiveや Macromedia Dreamweaver)へと拡大していった。それにもかかわらず今ふたたび、定期的なコンテンツの管理、新しいコンテンツの追加作業の簡略化、古いコンテンツのアーカイブ、そして適切な手段での新旧両方のコンテンツへのアクセスの提供といった作業を支援するソフトウェアへの多数の要求が高まってきた。

もちろんユーザーのニーズは全て異なるが、ある種のコンテンツ管理システムへのニーズはきわめて一般化してきている。あなたが個人的な weblog を管理するにしても、ビジネスにおいて商品のカタログの管理をするにしても、コンテンツ管理システムが必要となろう。だからこそたくさんのパッケージソフトがコンテンツ管理システムと称するのだ。いくつかは地方紙の新聞向けに設計されていたり、はたまた大学の全キャンパスへの情報提供を想定したものであったりだ。またいくつかはシステムの構築・ホスティング業者との契約によってのみ使用できる独占的なものであったり、対していくつかはオープンソースの決まり事に徹底的にこだわる、と行った具合だ。(この場合、残念ながらしばしば間抜け者相手の説明書きしかないこともある。)加えて無数のweblog ソフトにいたっては、特定の目的に最適なコンテンツ管理システムを見つけることがいかに困難かということを垣間見ることができる。

我々の新しいコンテンツ管理システムをどう計画し構築するかの長い議論の末、Tonya と私は最終的に友人の Keith Kubarek 氏(自分の Web デザインと開発の会社 One Bad Ant 社に集中するために、16年間働いたコーネル大学を最近退職した)にお願いすることに決めた。作業は順調で、他の誰かがTidBITS が何をしているかを理解していく様を見ることは、すばらしく役立つし教育的でもある。(システムを客観的に見るには我々はあまりに近すぎる。)Keith の業務分析は、我々が今現在何をしているかだけではなく、今後やろうとしている様々な領域までも明確にする手助けとなったことが特に興味深かった。

<http://www.onebadant.com/>

初期の技術的分析 -- 業務分析が完了した現在、Keith はさらに突っ込んで評価する価値があり、今後生じるであろうサービスの選択肢を把握するために、既存のコンテンツ管理システムの評価を通じて技術的分析へと移った。

我々の第一の要求はなにか。コンテンツの格納、管理、表示、アーカイブという基本に立って、電子メールでの発行物配布、ユーザーによる管理が可能なユーザーアカウントの運営、記事間や TidBITS Talk のメッセージ間のリンク、スポンサー表示の管理、全体の発行部数の計算、様々なフォーマットや場での発行への対応、PayBITS の一体化、その他もろもろが岩の様に強固に統合されたような特徴が要求される。

どのコンテンツ管理パッケージがこれらの特徴を実現するかを把握しようとするのは困難な作業だ。幸い我々は2つの簡単な基準をもとに、多数の見かけ上の候補を除外できた。

フィールドを狭める -- このように最初のふるいにかけたあと、条件を追加してさらに対象を絞り込んだ。これらの条件は前述のような絶対的なものではないが、いくつかの条件に合わない場合はリストから外されることになる。

現在の候補 -- そこで、この結果を見て欲しい。結局のところ、それが何であれ私たちが作成したものを利用するのは TidBITS の読者の皆さんなのだ。私たちは、さらに調査を行なうに値すると判断したパッケージの短いリストを作成したが、全ての可能性を調査できたとは微塵も思っていない。もしこれ以外に私たちのニーズに合った物を御存知なら、調査するので教えて頂きたい。同様に、これらのパッケージに関する経験に基づいた意見や深い知識をお持ちなら、是非それもお聞かせ願いたい。私は、この議論を主に TidBITS Talk で行なうつもりである (コメントは <tidbits-talk@tidbits.com> にお送り頂きたい) ので、あなたのメッセージを公にしたくない場合はその旨を書き添えて、私宛に個人的に送って欲しい。

<http://www.aegir-cms.org/>
<http://www.midgard-project.org/>

<http://www.bricolage.cc/>
<http://www.masonhq.com/>

<http://www.cofax.org/>

<http://www.blueworld.com/>

<http://www.phpnuke.org/>
<http://www.postnuke.com/>

<http://www.xoops.org/>

<http://www.zope.org/>
<http://www.plone.org/>

<http://www.4d.com/>

次のステップ -- 私たちは、現在の候補のリストがスクリプト用言語、基礎をなすデータベース、そしてサポートされるテクノロジーなどのオプションでごちゃ混ぜであることを自覚しており、可能性を検討しようすると混乱してしまう。そこで、あなたの意見をお聞かせ願いたい。後日さらに詳しく進行状況について書くことを約束する。


帯域幅! と叫んだオオカミ少年

文: Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

二週間前の号で、Adam は同僚の Glenn Fleishman が帯域幅にまつわる悲惨な事件に出くわしたようだ、という記事を書いた。その内容は、Glenn と私の共著の本、Real World Adobe GoLive 6 の無料の PDF 版を配布しようとしたところ、帯域幅の超過使用料として最高で $15,000 にもなり得る料金を Glenn が払わなければならないかも知れないことになった、というものだった。私は Glenn のオフィスメイトでもあり、その本の共著者でもある立場上、この問題がどういう結末を迎えるのかと、興味津々で見守ってきた。使用料がどうなるのかはなかなかはっきりした通知が来なかった一方、TidBITS 読者や GoLive ユーザーの方たちからは素晴しいサポートの波が寄せられて来た。そうこうするうち、ついに申し渡しの通知が届いた。開けて見ると、超過使用料は、何と、ゼロだったのだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=07115>(日本語)電子出版生き残りゲーム
<http://www.realworldgolive.com/six/freepdf.html>

数字は巡る -- Glenn のホストの会社、Level 3 は、月のうちの最も使用の密だった1時間に基いて使用料金を課している。ただし、所定のパーセンテージ(およそ 5%)はカットすることになっている。これは、偶然生じたピーク時に対して課金してしまうのを避けるためだ。Glenn の使用ログを検討し、プロバイダから届いた予備的情報と比較した結果、当初は使用料が $15,000 か、ひょっとしたらそれ以上にもなり得るように思われた。36 時間にわたって 10,000 件以上ものダウンロードが続く、という状態だったからだ。(もしもこのプロバイダが帯域幅ではなく純粋なバイト量のみに基いて料金を計算していたのならば、使用料金はこれほど天井破りのものにはならなかったはずだが。)Level 3 社は、我々が使用量の数値的評価を手軽に下せるようなソフトウェアは提供してくれていないし、最終的な数字の通知もなかなか送ってこなかった。それがやっと届いたのは 4 月 1 日、皮肉にもエイプリルフールの日だった。

<http://www.level3.net/>

では、いったいどうして Glenn はまんまと超過使用料金ゼロという結果を勝ちおおせることができたのだろうか? プロバイダによれば、Glenn が問題のファイルを削除した時点で、かろうじて帯域幅の超過使用料がカットオフの限界を超える寸前だったということだ。もしもあと数時間、ダウンロード可能の状態を続けていたならば、Glenn はおそらく $2,000 から $5,000 までの間程度の料金を払うことになっただろうというのが、Level 3 から最終的に届いた情報から判断できた結果だった。

献金袋は廻る -- ありがたいことに 200 人近くの方々からあたたかい寄付が寄せられ、Glenn の許には 2003 年 3 月 20 日から 2003 年 4 月 1 日までの間におよそ $1,800 にのぼる額が集まった。この前の TidBITS の記事でも、また本のウェブサイトでも明記されていたことだが、彼は寄付金のうちの余剰の分すべてを、インターネットにおけるすべての電子書籍プロジェクトの源とも言うべき Project Gutenberg に寄付する、とあらかじめ約束していた。帯域幅使用料金の請求書がゼロという数字であったのを見て、Glenn はすぐに寄付を寄せてくれた人々全員に電子メールを送り、PayPal 経由の分については返金を申し出、Amazon.com の分は Honor System によるキャンセルを発注することができると説明した。現在のところ、返金して欲しいと頼んだ人はたった1人だけで、皮肉にもその人は先月、自分自身が思いがけない帯域幅超過使用料金の請求書を受け取ることになったので、ということだった。というわけで、結構な額の小切手に、Glenn 自身からの志も追加されて、Project Gutenberg が今後もその立派な活動を続けられるようにとの寄付が送られることとなった。

<http://gutenberg.net/>

Glenn は今回このような寄付をお願いしてしまったことを恥ずかしく思っているのだろうか?「いいえ、そんなことはありません。」と彼は答えてくれた。「もしも私が鉄を熱いうちに打つことをせずにいたら、たとえ最悪の状況が起こったとしても、これほどまでに沢山の寄付が集まることはなかっただろうと思います。Adam の提案のおかげで、私がバックアップの寄付のことを明言していたからこそ、Level 3 が現金を受け取る結果になる代わりに、善い志こそが思いもかけぬ寄付を集める、ということが実現されたのだと思います。」

教訓は心に染みる -- この Glenn の経験をもっと一般の状況に置き換えて考えてみたい、というのはちょっと魅力的ではないだろうか。果たして、電子出版というものは、まだまだ経済的に存続不可能なメカニズムなのだろうか? いや、Glenn の経験したことをよく見れば、期待以上にうまく行くこともあり得るという事実が見て取れる。ただしこれは、あくまでも現実的な期待をする範囲内で、ということだ。

何かを無料で提供するということは、Glenn が予期したよりもはるかに強力な呼び物となった。それだけでなく、Glenn が痛感したのは本の個別の章を提供するよりも本全体をまとめて提供する方がずっと価値を認められるということだった。過去に実験的に試した結果では、コンテンツのうちの一部だけを提供した場合にはダウンロードの数がごく控えめ程度の量を超えることは決して起こらなかった。私たちの著書を 128 ページの要約にまとめて提供した時もそうだった。こうした実験では、ほとんどのダウンロードが帯域幅の非常に制限されたサイト、例えば私たちのオフィスのマシン(768 Kbps の SDSL 接続)でも充分賄える程度のものだった。けれども、本全体をそのままダウンロードできるというのは、きっと信じられないようなニュースに聞こえたのだろう、消えてしまわないうちに急いでダウンロードしておこう、と人々は競ってこれに群がったのだ。実際、ほんの短期間のことながら、このファイルは消してしまわなければならない事態にも追い込まれたわけだったが。

という訳で、配布のための帯域幅、というのは考慮すべき重大な要素であることがわかる。その後、帯域幅によって課金されることのない多数のサイト、例えば Info-Mac Archive や Bare Bones Software のサイトに問題の PDF ファイルをホストしてもらっているが、現在のところ少なくとも(Glenn が直接追跡できている範囲内で)さらに 6,000 件ほど、この本のダウンロードが行なわれているようだ。

<http://www.info-mac.org/>
<http://www.barebones.com/>

けれども帯域幅の問題は別にしても、Glenn の今回の経験の中で、再確認しておくべき重要なことがある。それは、人々の親切心を決して過小評価してはいけない、ということだ。彼は言葉を続けて言う。「いつもインターネットに繋がっている私たちにとって、他所者であるのはなかなか難しいことです。何百人もの人たちが、私という人間と、私に起こった問題を、本当に親身になって考えて下さったのです。皆さん、ありがとうございました。」


デジタル下駄箱: iData Pro X 1.0.5

文: Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
訳: 湯本 敬<ymo@big.or.jp>

あなたのデジタル下駄箱には、何が詰まっているだろうか? デジタル下駄箱って、つまり、あなたがいろいろのごちゃごちゃしたテキスト断片を、まとめてしまっておく場所のことだ。そういうテキストはほんの数語だけのこともあれば、たくさんの段落から成っていることもあり、どれもこれも、きっとあとで役に立つだろうと思ってしまってあるのだけれどもどうにもうまく整理がつかない、という状態だろう。こういうごたごたを整理するために本格的なデータベースソフトウェアを使うのは大袈裟というものだし、かと言って単純なアウトライナーの階層だけでは整理し切れないのもまた事実だろう。というわけであなたの前にはきっと、それらをそのまま積み上げ何でもかんでも放り込んで膨大な量になった、つまりデジタル下駄箱の状態が、存在しているに違いない。

私のデジタル下駄箱に何が入っているのかを、ちょっと紹介しておこう。まず、Mac OS X で使えるいくつかのキーボードコマンドのヒント、それから私がTerminal で時々使う必要のある Unix フレーズがいくつか、どのルータを買うのがいいかという意見をメモしたもの、これはインターネットニュースグループからコピーしてきたものだ。それに、私の自宅への道順の説明、これは家を訪問してくれる人にメールで送るためのものだ。次には私が eBay で売り出しているものの URL がある。かと思えばわが家の掃除機のモデル番号も控えてある。これはもう、バラバラの内容の寄せ集めだ。それでも、私は欲しいものをいつでも即座に開いて見ることができるのだ。

さて、読者の方々にはご存じの方も多いとは思うが、私は情報の保管・検索ということに対して救いようのないほどに執着を持っている。階層、ハイパーリンク、キーワード、カテゴリー、これらはすべて私の大好きな概念だ。これらはまさに、デジタル下駄箱の雑然さとは正反対のものに見えるだろう! けれども実は、物事はシンプルであればあるほど素晴しい、ということもある。そして、本来のデジタル下駄箱というものの真価は、実はとてもシンプルなのだ。突き詰めてみれば、最善の下駄箱の持つべき主要な性質とはたった2つ、非常にすっきりしたインターフェイスと、非常に高速の検索機能、この2つのみにつきる。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1196>
(日本語)WebArranger は Web よりも使える
(日本語)復活: Helix の逆襲
(日本語)それはキーパー(Idea Keeper だ、それは)
(日本語)Boswell:テキスト保管庫
(日本語)断片情報キーパーをあと3つ
(日本語)Tinderbox でハートに火を点けて

現在私が使っているデジタル下駄箱は、Casady & Greene 社の iData Pro だ。このプログラムは古式ゆかしい香りを持っており、InfoGenie や QuickDex のような伝統ある名前に繋がるものを備えている。どんな風に古式ゆかしいかって? 例えば、QuickDex はデスクアクセサリだった。(デスクアクセサリとは何だったか、覚えておられない読者の方もおられるかとは思うが。)そして、私の研究の記録をたどって昔のことを考えてみれば、このデスクアクセサリは熱狂的なカルト集団とも言えるような信奉者を大勢抱えており、またその最初のリリース日は 1987 のことだった、などという事実が思い起こされる。まあ、一言で言えば、iData Pro というのはその昔に皆が大好きだったソフトウェアが Mac OS X の下で体現されたもの、ということだ。

<http://www.casadyg.com/products/idatapro/>

iData Pro がデジタル下駄箱の真価を備えている一番の理由は、その扱うファイルがただのテキストファイルであり、決してそれ以上のものではないということだ。ファイル内容を表示する時には、1つのファイルごとに1つのフォント、フォントサイズ、テキストスタイルしか使えない。このテキストファイルに普通でない点があるとすればそれはただ1つ、そのファイル内容の内部で項目分けの区切りを指定するためにコントロール文字の ASCII 06 が使われていることだけだ。従って、もしもある日突然 iData Pro が故障して使えなくなってしまったとしても、ファイル内容のデータはちゃんと見える形で、プレーンテキストとしてそこにあり、BBEdit なり Microsoft Word なり、好きなソフトウェアで問題なく読むことができるのだ。また、iData Pro がファイルを開くときにはファイル全体をメモリに読み込むので、見つけたいテキストを検索するのも非常に高速だ。

フリーフォームのファイル -- iData Pro は2つの種類のファイルを扱う。どちらの種類にするかは、そのファイルをあなたが新規作成する時に指定する。1つ目は、こちらの方がより下駄箱的とも言えるタイプだが、フリーフォームのファイルだ。フリーフォームのファイルは、表示した時にはそのファイル内容のテキストのうち、項目分けによる1つの項目部分が表示される。それ以外には何もない - その項目にはタイトルも付いていないし、キーワードもないし、判別のためのマークもない。とにかくその内容のテキストがあるだけだ。ウィンドウの上部には検索フィールドがある。テキスト内容の表示部分はなかなか機能の充実したテキストエディタにもなっている。キーボードを使っての移動や選択、ドラッグ&ドロップなど、すべて予想通りに動作してくれる。Option-Tab を押せば検索フィールドとテキスト内容領域との間をジャンプすることができる。

このウィンドウで、新規の項目を追加したり、現在の項目を消去したりできる。次の項目や1つ前の項目に移動することもできる。最初の項目や最後の項目へとジャンプすることもできる。けれどもこのような機能は、あなたがファイル内容全体をざっと概観したいというような場合でもない限り、普段は使わないだろう。普段最もよく使うのは、むしろ検索による移動だろう。検索フィールドで何か単語をタイプしてから Return を押せば、現在の項目内にしろ別の項目内にしろ、そのファイル内でその単語が次に登場する箇所へとジャンプしてくれる。これはまさしく、HyperCard での移動と検索のやり方を思わせるものだ。(もちろん、この連想は私が最初に思いついたものではない。)

フリーフォームのファイルに関しては、もうこれ以上説明すべきことはない。あなたは新規の項目を追加して、そこに何かテキストをタイプしておき、後になってそれを見たくなれば、そのテキストに出てくる単語を思い出してそれで検索すればよいのだ。実際問題として、おそらくあなたは習慣的に自分の考え方のパターンを組み入れて考え、あとで検索する時に自分が考えそうな単語をあらかじめテキストに含めておくようになってゆくことだろう。例えば、良いルータの選び方のヒントをペーストしたとすると、その項目のテキストの冒頭に「良いルータについての意見」などと書き込んでおく習慣がつくだろう。後になってこのテキストを探す時にはおそらく「ルータ」という単語を検索するだろうが、今ペーストしたヒントのテキストの内容自体には「ルータ」という具体的な単語が含まれていないかも知れないからだ。

ところで、一度に1個の項目内容しか表示されないというのは、ちょっと考えると不便なことに思えるかも知れないが、実際にはそんなことはない。もしも必要ならば、同じファイルの第2ウィンドウ(ただしこれは読み出し専用で編集不可)を開いて2つのウィンドウを並べることで、2つの項目を一度に見ることもできる。また、1項目ずつを検索して見る代わりに、該当する項目すべてを選り出してそれらすべてを1つのセットとして表示する(この操作を“selecting”と呼ぶ)こともできる。“selecting”で現在選ばれているセットの内部のみを対象に次の検索をおこなうことも、またそのセット以外の項目のみを対象にすることも可能だ。このようにして、うまい方法を選んで使えば、そのファイルの内容がどんなものかをかなりの確かさをもって概観することができるし、欲しい内容の項目を探すのも、検索対象を順次に絞り込むことによって素早く簡単にできる。

フィールドに基づいたファイル -- フィールドに基づいたファイルは、自由形式のファイルとは少し異なる :すべてのエントリーはいくつかの指定されたフィールドから構成されている。フィールドに基づいたファイルを作成する場合、これらのフィールド名を宣言しなければならない。 (心配しなくても良い ;フィールドの名前およびオーダーはその後変更することができたり、フィールドを加えて、撤去することができる。) 従って、フラット・ファイル・データ・ベースといくつかの表面的な類似点はあるが、 iData Pro の2つのファイル・タイプ間の違いがないので、結局この類似点は実際には表面的に過ぎない。違いは、ファイルのテキストがどのように示されるかという点にある ;フィールドに基づいたファイルでは、各パラグラフが個別のフィールドとして描写される。従って、フィールドは最後のひとつを除いて多数のパラグラフから構成されることが出来ない。

フィールドに基づいたファイルのウィンドウと、そこで出きる事柄とは、自由形式のファイルに比べてどんなことが異なるのだろうか?自由形式のファイルとはどんなことが異なるのだろうか? 第一に、フィールド名はウィンドウの左側下側に現われる。あなたは、フィールドからフィールドへと tab キーで移動して、次々とテキストを入力したり修正したりしてゆくことが出来る。更に、1つのエントリーを表わす各列と1つのフィールドを表わす各カラムのセルにグリッドがついた "list view " にウィンドウを切り替えることが出きる。あるフィールドが "list view " に現れないように指定も出きる。ただ一つ項目フィールドの中から、検索またはセレクトすることも出来る。また、1つまたは2つのフィールドでソートすることが出きる。自由形式のファイルでもソートすることは出きるが、パワフルかつあなたが望んでいるようには出来ない。(実際には、自由形式のファイルの場合、仮にエントリーが一貫した構造を持っているとすれば、ソートまたはセレクトする場合ある程度その構造を使うことが出きる。)

フィールドに基づいたファイルの候補は何があるだろうか? アドレス帳 (姓、名、アドレス、アドレス 2行目、電話番号等々) は、明白な例だ。私が現実に作った最初のフィールドに基づいたファイルはクリスマスプレゼントリストだった。フィールドは、人物・贈り物・まだ贈り物を購入していないかどうか・贈り物を送ったかどうか、そして最後はメモ用、という構成だった。(最後のフィールドのみが複数のパラグラフを持つことが出きるので、自由なメモを書き込むのに向いている。)この目的のために、よりパワフルなプログラムを使うことも可能だった−例えばデータベースやスプレッドシートなどの−しかしこうした基礎的なものについては、単純なiData Proが完璧だ。

その他の特徴 -- あなたのファイルがすべて同じ場所に存在する場合、それらはすべてスペシャルメニュー ( Data files メニュー )に現われ、そこからどれでも開くことが出きる。こうしてファイルがあなたの大量のデータをカテゴリー毎に分類するための道具となる。さらに、特定のファイルは、iData Pro がスタートした時には自動的に開くようにセットされる。これにより、最も一般的に必要とするデータにはいつもアクセス可能な状態となる。

データはエクスポートもインポートも出きる。ほとんどの場合はタブ区切りのフォーマットを使うでしょうが、iData Pro は一般的電子メールプログラムのフォーマットを認識し、全てのメールボックスからデータをインポートすることが出きる。更に、iData Pro はアドレス抽出機能が内蔵されており、その結果フィールドに基づいたアドレス帳ファイルを持っていれば、アドレスを構成する様々なフィールドをどのように書き込ませるかを指定することが出きる。更にその上、重要なのは、iData Pro はスクリプトを使って、他のタスクと同じようにこうした作業も、正確にカスタマイズすることが出きる。

iData Pro は選択された電話番号へ様々な方法で、モデムを通じて、電話をかけることが出きる。実際、このプログラムは、非常に使い勝手が良い。あなたは構成の変更が可能なテンプレートを使って、ラベルや封筒に印刷することも出きる。電子メールやウエッブURL へのリンクも生きており、それらをクリックすると、あなたの指定したヘルパーアプリケーションで電子メールのメッセージを作成したり、ウエッブページを開いたりすることが出きる。あなたのPDA にホットに同期もする。残念ながら私はこのテストの際には、Palmを持っていませんでしたが。

結論 -- iData Proは、主として Mac OS X 対応にするための書き直しに関係して、いくつかの厄介な欠点を持っている。例えば、ウィンドウが私のマウスのスクロールホイールに応答せず、今では私の持っているプログラムでこの問題を残しているのは iData Pro のみになってしまった。さらに、iData Pro のテキストについての概念は必要上に原始的だ。豊かなUnicode 世界の環境について何も知らないし、ファイルを表示しているフォントの最初の 230文字余り以上にはアクセスすることが出来ない。これほど単純なプログラムなのだから、これを真の Mac OS X ネイティブなアプリケーションとして Cocoa で書き直すこともそれほど困難なものとは思われないので、私はCasady & Greene 社には是非ともそうして欲しいと願っている。少なくともプログラムはアクティブにサポートされていり、開発者サイトの主催する良い掲示板があり、バグフィックスのリリースも定期的に行われている。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1217>

iData Pro は40ドルで、様々な他の競合商品であるオーガナイザーやデータベースプログラムからの乗換アップグレードは30ドルになっている。無料のデモ・バージョンも利用可能だ。

<http://www.casadyg.com/products/idatapro/mac/>

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