TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#679/05-May-03

今週も前号に引き続き iTunes Music Store に焦点をあてよう。今回はその機能の仕組み、誰が利益を受けることになるか、現時点までの驚くべき成果、等について詳しく検討してみたい。また、皆さんのメールボックスに何週間も前の TidBITS の号が突然届いた理由を弁解させて頂き、それから Rick Smolan による最新の協同写真プロジェクトのニュースをお伝えし、また TidBITS の中で TidBITS Talk の議論内容を紹介することについての皆さんの意見をお伺いする。今週の注目すべきリリースとしては、Watson 1.7 と Palm Desktop 4.1 がある。

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MailBITS/05-May-03

遅刻した TidBITS の事件 -- 先週、読者の皆さんのうちの一部の方々の手元に TidBITS の古い号が電子メールで届くという事態が発生してしまった。その一部は3月中旬の号という古いものだった。これまで何週間にもわたって、かなりの数の読者の皆さんから、いつも購読しているはずの号が届かない、という報告が届いていたのだが、我々はその原因を特定することができずにいた。我々の側では、どこにも何の異常も発見できなかったのだ。我々には何のエラーも返ってきていなかったし、我々のホストであるプロバイダの digital.forest でログを調べてもらっても、何のトラブルも見つからなかった。もちろん、我々はずっと平常通り毎週の号を送り出していたのだ。こうして何週間にもわたって頭を掻く日々を続けたあげく、我々は配布プロセスのいくつかの段階で少しずつ部品を組み替えてみることで、何か情報が見えてこないかと試してみた。すると、その結果どうやら欠号の問題は解消したようだったが、何が原因なのかはさっぱりわからなかった。

けれども、今週になって原因がわかった。3月の初めに、digital.forest のメールサーバでは一連のアップグレード作業をおこなっていた。これは、セキュリティーの問題に対処しようとするための努力の一環だったのだ。その結果として、いくつかの送信用スプールが送信されないまま滞ってしまうという状態が発生し、その中にいくつもの TidBITS の号が含まれていたのだ。digital.forest の技術者たちは既にこの問題点を修正しており、滞っていたメールもすべて発送された。というわけで、もしもあなたが最近、賞味期限切れの TidBITS の号をメールで受け取られたとしたら、それはこういう事情によるもので、我々一同、発送の遅れをお詫び申し上げます! [GD](永田)

Karelia が Watson を 1.7 にアップデート -- Karelia 社は、すっきりした独自のインターフェースでウェブのコンテンツを閲覧できる、革新的なプログラムの最新版 Watson 1.7 をリリースした。Watson 1.7 は、Epicurious データベースのレシピを検索するツールと共に、各ウェブサイトの検索エンジンへSherlock プラグインからアクセスできるようにする、SiteSearch を提供している。数多くの Sherlock プラグインが同梱されており、さらに追加することも可能だ。その他に、新規項目あるいは入力した項目の最後の 12 個より選択可能な“コンボボックス”への移行、ユーザにより変更可能なフォント設定、そして PriceGrabber ツールで追加されたカテゴリーなど、細かい改善がなされている。登録ユーザは無料で Watson 1.7 にアップグレードできる。新規購入なら 30 ドルで、1.8 MB のダウンロードだ。[ACE] (佐藤)

<http://www.karelia.com/watson/>

Palm Desktop 4.1 がリリース -- Palm 社は、Macintosh 用 Palm Desktop 4.1 をリリースした。このバージョンでは、アプリケーションアイコンにドロップすることによりイメージや MP3 音楽ファイルを Palm OS 機器へ追加することができる、Send to Handheld アプリケーションが新しく追加された。このSend to Handheld アプリケーションで、Palm に差し込まれている SD (Secure Digital) カードに直接ファイルをコピーすることも可能だ。Palm Tungsten Tハンドヘルドのオーナーなら、無料の 350K のダウンロードとして最近リリースされた RealOne Mobile Player (新機種である Palm Zire 71 なら内蔵されている) で、MP3 ファイルが再生可能である (TidBITS-678 の“Palm Tungsten C と Zire 71 に興味深い機能が登場”を参照のこと)。Palm Desktop 4.1 はMac OS X と Mac OS 9 どちらでも動作し (Palm はしかし、同じハンドヘルドを両方のシステムで同期することを推奨していない)、AppleScript のサポートが改善された。インストーラは無料で 11.2 MB のダウンロードになる。[JLC](佐藤)

<http://www.palm.com/support/macintosh/mac_desktop.html>
<http://www.palm.com/solutions/personal/realone/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=07166> (日本語)<Palm Tungsten C と Zire 71 に興味深い機能が登場

America 24/7 デジタル・フォト・プロジェクト -- もしあなたが米国内にいて、今までで最大の共同写真制作作業プロジェクトに参加したいと思うのなら、America 24/7 ウェブサイトをチェックされたい。世界的に有名な“Day in the Life”写真集や、“From Alice to Ocean”あるいは“Passage to Vietnam”などの画期的な CD-ROM プロジェクトで良く知られている Rick Smolan 氏と David Elliot Cohen 氏がコーディネートしている America 24/7プロジェクトでは、2003 年の米国人がどのようであったかを記録する予定で、プロカメラマンの目とレンズを通してだけでなく、アマチュアのデジカメ写真家にも参加を呼びかけている。写真はデジカメで 2003 年 5 月 12 日から 2003年 5 月 18 日の間に撮る必要があり、Snapfish フォトサービス経由で最大 7枚の写真をアップロードできる (Apple がこの作業を行なう iPhoto 書き出しプラグインを作成するなどしてこのプロジェクトに一役買えなかったのは残念だ)。応募した写真に関するすべての権利は留保されるが、必ず参加条件を注意深く読んで欲しい。 [ACE] (佐藤)

<http://www.america24-7.com/>

TidBITS アンケート: TidBITS Talk をもっと公開 -- ここ3週間の TidBITS の各号で、TidBITS Talk での主な話題について紹介する短い記事を続けてきた。これは、TidBITS Talk でなされている有意義な議論の内容についてもっと多くの読者の方々に知ってもらいたいという試みなのだ。これまで、その情報のフォーマットの仕方として3つの違った方法を試してきた。ここで、アンケートをとって皆さんの感想をお伺いしたいと思う。どうぞ、我々のホームページでのアンケートにご協力頂きたい。モデレータが管理し、かつすべての記事に編集を加えている TidBITS Talk の議論について、毎週の TidBITS の中でリンクを掲載することについてあなたは賛成して頂けるだろうか? そして、もしも賛成して頂けるならばどの掲載方法が一番お好みだっただろうか?(3つの方法の違いは、主にどれだけ簡潔かという点だけだ。)先週・先々週の掲載方法は、下記のリンクをご覧頂きたい。今週のものは、この号の末尾をご覧頂きたい。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=07156>(日本語)TidBITS Talk/21-Apr-03 のホットな話題
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=07168>(日本語)TidBITS Talk/28-Apr-03 のホットな話題
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=07155>(日本語)TidBITS Talk をもっと公開

ご注意頂きたいことは、どの掲載方法を採るにせよ、他の記事には全く何の影響も与えないということだ。これは、あくまでも従来の TidBITS の各号に、追加の情報として、以前から我々がやっていることの紹介を加えるというだけのことなのだ。また、TidBITS Talk のウェブアーカイブにパフォーマンスの問題点があることは、我々は重々承知していることも言い添えておきたい。これは、いろいろの技術的原因によるものであり、将来的には新しいシステムに移行することで解消されるべきものなので、今回のアンケートの投票に際しては、どうかこのパフォーマンスの問題は無いものとして選択をして頂きたいと思う。[ACE](永田)


Apple、デジタル音楽の新しい顔となる

文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@earthlink.net>
訳: 倉石毅雄 <takeo.kuraishi@attglobal.net>

我々がこの新しい iTunes Music Store を使い始めて1週間が経った。この間、我々はこれを使いながらその使い勝手を分析し、同時にこれが Apple に対して、あるいはレコード業界に対して、アーティストたちに対して、ピア・ツー・ピアのファイル共有ネットワークに対して、はたまた町のレコード店に対して、一体どんな影響をもたらすことになるのかについて、考えをめぐらせてきた。(Apple のこの新しい音楽サービスに関する我々の第1レポートについては、TidBITS-678 に載った2つの記事、“iTunes Music Store がデビュー”と“Apple 社、iTunes 4 にバージョンアップ”を参照して頂きたい。)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=07163>(日本語)iTunes Music Store がデビュー
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=07164>(日本語)Apple 社、iTunes 4 にバージョンアップ

デジタル権利の管理とコピー防止技術 -- 現実から目を逸らすのはやめよう。iTunes Music Store が存在しているそもそもの理由は、Apple が AAC ファイルを使っていて、それがデジタル権利の管理 (digital rights management, DRM) のためのテクノロジーを含んでいるからなのだ。何らかの DRM 技術を含めること無しには、Apple がメジャーなレコードレーベル各社から楽曲の権利のライセンスを受けることにはフロリダ州の雪ダルマほどの可能性も無かったに違いない。AAC そのものは、決してデジタル権利の管理のために作られたものではない。むしろ、圧縮率および音質の双方の面において MP3 フォーマットよりも良いものを、ということを目指して開発されたものだ。ただ、Apple の採用した AAC の実装方法には、気軽なコピーを防止できるデジタル権利の管理のためのフックも提供されていたというわけだ。

あなたが購入した曲は、あなたの iTunes Music Store 認証情報によって保護されている。どのマシン上の iTunes を使うにせよ(あるいは QuickTime 6.2.2 対応のソフトウェアならばどんなものでも - QuickTime Player でも動くようになっている)その曲を演奏するためにはそのソフトウェアがあなたの認証情報を知っていなければならない。さらに、あなたの購入した曲に対する iTunes の[情報を見る]ウィンドウを見ればわかる通り、あなたの名前と電子メールアドレスも記録されている。このこと自体、コピーを抑制する効果があるだろう。なぜなら、多くの人は自分の名前が扇動者として記録されているようなトラックを配布することに抵抗を感じるだろうから。それにもちろん、RIAA から差し向けられた弁護士の大群が押し寄せた場合、彼らはすぐさまあなたのもとに殺到するだろうから。(実際、大量の音楽ファイルを共有していると彼らが目を付けた大学生たちの所に彼らが殺到する、という事例が昨今ますます増えてきている。)偽名と偽のメールアドレスを使う、という古来のやり口もなかなか使いにくくなるだろう。なぜなら、この情報はあなたの Apple 1-Click アカウントの情報から取られるからだ。

こうした DRM 情報を利用することによって、Apple はあなたがダウンロードしたその曲をどのように使うことができるのかについて4つの制限を課している。これらの制限は一応道理に合ったものではあるが、それでも制限であるには違いない。まず第1に、曲を演奏できるための認証は一度に3台の Mac のみにしか与えることができない。私の感想を言えば、3台というのは厳しすぎると思う。Apple の意図した効果を得るためには、9台くらいまでに制限を緩めても実質的に充分だろうと思われるが、一方3台にまで制限してしまうと完璧に正当なユーザーでも困ってしまう状況が容易に想像できる。例えば、Tonya と私はそれぞれメインのコンピュータとして1台ずつの Power Mac G4 を使っており、さらにもう1台の Power Mac G4 をわが家のすべての Mac ネットワークにおける音楽サーバとして使っている。1階の居間で音楽を演奏するにはブルーベリー色の iBook を、旅行用には新機種の iBook に音楽をコピーして持って行く。これで既に5台の Mac になる。もっとも、うちの音楽サーバには認証を与える必要はなく、保護されたファイルを認証付きのコンピュータから共有使用するためだけに使うことはできるのだが。もしも新しい Mac を購入した場合、古いコンピュータの認証を外してから新しい Mac に認証を与えることはいつでもできる。ただし、問題が起こるのはコンピュータが盗まれたり壊れてしまったりした場合で、その場合は失われてしまった購入済みの音楽から認証を外すことができなくなる。もしもあなたがハードドライブを新しいものに取り替えて購入済みの音楽をバックアップから復旧した場合は、そのコンピュータを再認証する必要はあるが、それによって認証コンピュータの数を減らされてしまうことはない。

<http://docs.info.apple.com/article.html?artnum=93033>

第2の制限事項として、Apple はあなたが曲を何回でも好きなだけオーディオ CD に焼くことは許しているものの、あなたがそのために使うプレイリストは同じものを 10 回までのみしか使えず、それ以上はプレイリストを変更しなければ iTunes が動かなくなる。私自身これまでにほんの数枚しかオーディオ CD を焼いた経験がないためかも知れないが、私にはこの制限は完璧に合理的なもので、コンピュータを使って大量コピーされるのを防ぐためだけに設けられた低いハードルとして有効なものだと思われる。もちろん、一旦あなたがオーディオ CD を作ってしまえば、Roxio の Toast なり他の同様のツールなりを使ってあなたがその CD の追加コピーを作ることを妨げるものは何もない。

<http://www.roxio.com/en/products/toast/>

第3の制限事項は、iTunes 4 の Rendezvous による共有機能を使って購入済みの音楽を共有する場合、その共有に使う Mac はすべてあなたが購入したトラックを演奏できるよう認証を受けたものでなければならない、というものだ。この制限は私には全く合点が行かない。なぜなら、この場合すべてのリモートユーザーはただ曲を演奏させているだけであって、共有した曲をコピーしたり、プレイリストに追加したり、CD に焼いたり、その他問題になりそうな行動はすべて不可能だからだ。

最後に、第4の制限事項として、AAC フォーマットの使用およびデジタル権利の管理の結果、少なくとも今の所は、購入した曲の演奏が Mac 上の iTunes 4 か、または iPod か、どちらかを使ってしかできなくなっていることがある。この制限は、まだ Mac OS X への移行を遂げていない Macintosh ユーザーたちの怒りを買っているが、考えてみればそれほど驚くには当たらないだろう。これまでも Apple は一貫して旧来のユーザーたちにアップグレードすることを勧めてきたからだ。Windows ユーザーたちは現時点では置き去りにされた形だが、Apple は将来 Windows のサポートも追加しようと作業中だ。当然ながら、Mac OS X 以外の Unix の諸形態も全くサポートされていないので、iTunes Music Store は Unix ユーザーたちを Mac に引き寄せるための新たな牽引車の一つとも言えるだろう。さらに、Apple 以外のポータブル MP3 プレイヤーの各機種も完全に置き去りにされてしまった。その結果、好評を得たものの値段が高かった iPod を敬遠して他のデバイスを選んだ人々は、きっと皆不満で一杯の気持ちでいるに違いない。

これほどまでに iTunes Music Store の市場の可能性に制限を課したことは、はたして Apple が大しくじりをやらかしたことを意味しているのだろうか? 短期的に見れば、答えはノーだ。Apple がレコードレーベル各社とライセンス契約の交渉を進めることができた最大の理由は、ユーザーベースの規模の可能性が比較的小さかったからであり、従って仮に Apple の制限事項が簡単に破られる事態に陥ったとしてもその損害は限定的なものに止まると予想されたからだろう。また、噂によれば、iTunes Music Store が発表されたその当日、Apple のサーバは猛烈な負担に晒され、Akamai 配布ネットワークの助けをもってしても追い付かなかったという。これほど人気が高くて使用度の高いサービスは過去にも例が無いわけではあるまいが、それでも Apple のサーバ管理者たちにとっては、開始当初から Windows もサポートしていた場合に起こり得たものよりも、少しはゆっくりしたペースでシステムの動作を計測して評価できる機会を得たことを歓迎しているに違いない。そうは言っても Windows のサポートは近々実現されるだろうし、また AAC のサポート、その他必要な事柄をサポートして Apple の DRM スキームと互換となるようなサードパーティの音楽プレイヤーが登場することも、充分予想できることだと思う。

けれども、依然として大きな疑問が残る。それは、誰かが Apple の保護付き AAC ファイルを変換して、DRM 無し、あるいは何ら認識情報を持たない MP3 ファイルへとコンバートすることが、どれほど簡単なことなのか、という疑問だ。実際その答は簡単で、それは何も難しいことではない。なぜなら、あなたが購入した音楽を iTunes 4 を使ってオーディオ CD に焼き、それからそれらのファイルを MP3 として取り出すことができるからだ。その際、トラック名やその他のメタデータはすべて保ったままにすることもできる。この操作の結果いくらかの音質低下は避けられず、ハイファイ愛好家ならばきっと気になることだろうが、これはたいていの人は全く気にしない程度の違いだ。(私の耳には全然違いがわからない。)比較的低いビットレートでエンコードされた MP3 ファイルが大人気で出回っているという事実からしても、オーディオの音質そのものは MP3 フォーマットの成功の全般的要因としてそれほど重大な障害とはならなかったということの証明になるだろう。また、例えば Audio Hijack のようなツールを使えば、現在演奏中の音楽を AIFF ファイルとしてキャプチャしてから MP3 に変換することもできる。ただ、この Audio Hijack の使い心地はまるでカセットテープレコーダを使っているような感じだったが。実際問題として、ファイルを MP3 に変換して保存するのは良いバックアップの方法とも言える。Mac が盗まれたり、その他の理由で認証関係の条件に問題が起こった場合に備えての、良い対策と言えるだろう。

<http://www.rogueamoeba.com/audiohijack/>

必要なのはユーザー体験 -- しかしながら、人々は peer-to-peer のファイル共有ネットワークで無料でダウンロードできる同じ曲に一曲あたり $1 も払うのだろうか?私はそうだと思う - iPod がその高価さにもかかわらず携帯ミュージックプレーヤを牽引しているのと全く同じ理由で、Apple はここでも勝ち馬を持っている。ずばり言えば、Apple はユーザー体験を非常に大事にしている。だからと言って、iTunes Music Store や Apple のその他の製品のユーザー体験が完全だなどと言っているわけではないが、それでも最後には、大抵の場合 Apple の製品の方が競争相手より優れたユーザー体験を提供して来ている。

iTunes Music Store には沢山の競争相手がいる。物理的な音楽店との競争でiTunes Music Store が勝っているのは、より優れた検索とリンク、低価格(大抵のアルバムは $10)、すぐに楽しめる、故意に破壊された音楽 CD を掴まされない、一曲単位で買える嬉しい細かさがある。音楽店ではざーっと全体を見渡せるという長所があるが、Amazon の例が示しているように、本や CD を繰っていくという機能を失うことにあまり気をとめない人も増えている。Amazon といえば、iTunes Music Store はオンラインの CD 販売店との戦いでも疑いなく善戦すると思える。なぜならば、iTunes のインターフェースは比べ様もなく良いし(Amazon の音楽のためし版を聴くということだけのために、あの全く忌まわしい RealPlayer を何度再インストールしなければならなかったことか!)、価格は安いし、すぐにその場で楽しめるし、曲を個別に買える。オンライン CD 販売店が持つ唯一の利点は、CD 現物が綺麗なケース付き、解説、等々が付いてくることぐらいである。

他の商業インターネット音楽サービス (Rhapsody, PressPlay, MusicNet 等々) との競争にも触れるべきとは思うが、iTunes Music Store が Windows もサポートするようになるまでは同じ土俵での比較にならない。その頃には、iTunes Music Store は更に改善されたインターフェース、何でも死刑にしてしまうような雁字搦めのコピー防止対策からの前進、もっと魅力ある曲単位の方式を提供してくると思う。定額購入方式の方が安いし(そして将来 Apple も同様の方式も付け加えるかもしれないというのはあながちあり得ない話ではない)、毎月定額の $10 を払うよりは曲ごとに $1 で数曲買えるのであればその様なサービスを試してみると言う人の数は多いのではないだろうか。別の見方をすれば、Apple の曲単位の課金方式が成功すれば他のサービスもそれを採用するというのは大いにあり得る;そうなれば、ユーザーはシステム対応性、価格、選択範囲、それにインターフェースをもとにどのサービスを使うかを決めるようになるであろう。

勿論、本当の質問は、Kazaa とか Gnutella といった peer-to-peer ファイル共有ネットワークと iTunes Music Store はどう戦えるのかである。私は Apple は iTunes Music Store を作り上げていく段階でこれらのサービスについて徹底的な分析をしたのだと思う、と言うのもそれが目に見えるからである。これらのサービスのユーザー体験はマチマチで、はっきり言えば、恐ろしい。検索で何が出てくるのか見当もつかないし、ダウンロードしたものがまともかどうかもわからないし、ダウンロードするのに未来永劫かかるかもしれないし、曲のメタデータ(名前、アーチスト、アルバム、ジャンル、年、等々)が付いているのはまれである。それでも尚且つ人気があるのはなぜか?価格(無料)、新曲の探求、それに体制に対する反抗精神であろうか。

iTunes Music Store はここでの比較の中でもいい点を上げている。全般的なユーザー体験は大変良い。これは、簡潔な iTunes のインターフェース、速いダウンロード、信頼できる品質、それに良く出来た説明付きの曲(カバーアートも付いてくる)などのお陰である。iTunes Music Store を検索していると思いがけないものに行き当たることがある(私が最初に購入したのは Nina Simone のカバー付きの Leonard Cohen の "Suzanne" である)。それに体制に対する反抗精神の点から言えば、Apple は常に自らを主流の外側にいるとイメージ付けてきた。そうすれば残るのは価格($1 以下対無料)と選択範囲(200,000 曲対不明膨大)である。Apple の価格に対して "以下" といったのは、ほとんどのアルバムは $10 の値段であり、もしアルバムが 10 曲以上含んでいればアルバムで買うと一曲あたりの価格は安くなるからである。

実際、上記の比較は iTunes Music Store とファイル共有サービスとの間の重大な違いを無視している - 人によっては感じ方が違うであろうが、ファイル共有サービスからのダウンロードは法的に或いは道徳上の問題があるかもしれないという。数百万人のファイル共有ユーザーはさほど気にしていないという事も明らかである。では、iTunes Music Store に乗り換えて、一曲あたり $1 払ってでも解消したい程その懸念は強いと思う人はいるのだろうか?それが Apple の賭けでもあるし、私は結構良い賭けだと思う。どんな価格でも高すぎると言う人は常にいる;そのような人は引き続きファイル共有ネットワークを使いつづけるだろう。一方で、ファイル共有ネットワークはどうも使い辛いと思っている人は、少なくとも一度は iTunes Music Store を試してみるのではなかろうか。なぜなら、それは速いし、簡単だし、それに著作権侵害の恐れもないからである。

不自然な選曲 -- 200,000 曲が iTunes Music Store にはあると言えば多いように聞こえるが、もしあなたの興味をひく曲が含まれていなければその数はあっという間に縮んでしまうであろう。全く非科学的ではあるが、私は iTunes Music Store, Gnutella ネットワーク (Mac OS X の LimeWire 経由), それに Kazaa ネットワーク (Virtual PC 下の Windows XP の Kazaa Media Desktop 経由) で同じ検索をかけてみたのである。曲のタイトルで "Ipanema" という言葉を探してみた。これは "The Girl from Ipanema" についてどれだけ多くのカバーや派生曲があるか見てみたいと思ってのことである。iTunes Music Library での検索は一瞬で、47 曲が返ってきた。この中のいくつかは明らかに違うアルバムからの同じ曲であったが、それでも 23 の異なったアーティストによるものが抽出された。LimeWire では検索を 5 回やってみたが、毎回違う結果で 3 から 22 ヒットの間であった。毎回変わるヒット数もさることながら、メタデータの方もどうしようもないもので、どのヒットが重複しているのか見定めるのを難しくし、明らかに胡散臭いエントリーも見受けられた。Kazaa Media Desktop では Search More を数回クリックし一度はクラッシュしたあと 284 のファイルを見つけた。そのうち 79 は重複なしで(多くのファイルが一人以上のユーザーによって提供されていた)、そのうち 69 は違うアーティストによるものに見受けられた(LimeWire に比べれば Kazaa の方がそのインターフェースでより多くのメタデータ、例えば Artist のような、が読み取れる)。

このテストからちゃんとした結論を出す事は不可能である。と言うのも、ファイル共有ネットワークでアクセスできるファイル数は常に変化しており、例え同時であっても人が違えば結果も同じではないであろう。LimeWire は 525 のホストがオンライン上にあると報じており、Kazaa は何と 4.3 百万のユーザーがいるとしている。いずれにしても、Apple がしなければならない事は単純で、出来る限り多くの曲を iTunes Music Store に加えなければならない。その意味では、Apple が今週、06-May-03 に更に 3,200 曲を追加したと発表したのは喜ばしいことである。このことが、Apple が Universal Music を買おうとしているという噂の元になっていたとしても不思議ではない。Universal は MP3.com を所有しており、265,000 以上のアーティストからなる 1.7 百万曲を有し、しかも多くのアーティストは大手レーベルとまだ契約していないからである。これらのアーティスト中には、自分の曲を無料で広めたいと思っている人も多いであろうが、一方で iTunes Music Store に含まれるのを歓迎する人もかなりいるであろう。将来の MP3.com の買収の話はさておいても、Apple は独立系のレーベルやアーティストが自らの音楽を iTunes Music Store に載せやすくしてやれば、曲の数も増やせるし曲の幅も広がり、よくやっていけると思う。

将来の動向 -- iTunes Music Store はまだ 1.0 リリースだということを忘れてはいけない。改善の余地は十分あるので以下のような機能を加えてもよいだろう。

富は公平に分配している? Fortune の記事によれば、Apple は購入された曲ごとに $0.35 の収入を得て、残りの $0.65 は音楽会社の懐に入る。では iTunes Music Store に名前が並んでいるアーティストの収入の助けになるのだろうか?はっきりとは分からないし、それぞれのアーティストの契約にもよるだろう。だが、どうやら答えはノーのようだ。TidBITS Talk やn Salon の "Courtney Love Does the Math" や Janis Ian の "The Internet Debacle - An Alternate View" などからすると、アーティストはヒットのアルバムでもレコーディング契約からは大して収入が入らないようだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=1923>
<http://dir.salon.com/tech/feature/2000/06/14/love/index.html?pn=1>
<http://www.janisian.com/article-internet_debacle.html>

音楽業界が儲けるのは間違いない。売上は売上だし、どんな形であれ音楽を売る経路は良いことだからだ。さらに大事なのは、もし iTunes Music Store が成功したら、音楽会社は客を犯罪者扱いするのは馬鹿げたことだと認識するだろう。The Princess Bride の台詞を借りればアジアの陸上戦に並ぶ愚かな行為だ。

ではこれは Apple が音楽業界に屈したことを意味するのかと尋ねる人もいるだろう。これは難しい質問だ。Apple のような上場企業は Mac ユーザが著作権を侵害することを勧めるわけにはいかない。馬鹿げた騒ぎもあったが、Apple の“Rip、Mix、Burn”広告キャンペーンでも著作権がある曲をダウンロードして CD にバーンして個人用や公正な使用以外に配布することなど何も言っていない。だから、Apple は iTunes Music Store のようなサービスを作るのに必要な手続きを行なっている。だが、著作権を所有する音楽会社と一緒に働く必要があるため、Apple が他にどのような手を打てたか私には分からない。

では iTunes Music Store は Apple にとって有益だろうか?間違いない。過去同様、Apple が他のサービスが判断される標準を定めているのだ。他社が競争相手として現れるまで、Apple は成功するだろうと思う。同時に、iTunes Music Store は iPod の、そしてもしかしたら Mac の販売を促進するだろう。少なくとも iTunes for Windows が出るまでは。

Apple が最初の一週間で百万以上の曲を販売して、世界最大のオンラインの音楽会社になったという今日のプレスリリースからすれば、今のところはこの意見は正当化されているようだ。半分以上はアルバムの一部として販売され、iTunes Music Store の 200,000 曲のうち 100,000 が少なくとも一部以上売れたということは、選択の幅が広いことは大事だという事を痛いほど明らかにしている。Apple によれば、先週だけで iTunes 4 が百万以上ダウンロードされ、新しい iPods の注文が 110,000 以上入り、先週末にはアメリカだけで 20,000 以上売れた。

<http://www.apple.com/pr/library/2003/may/05musicstore.html>

これらの数字は立派なもので、音楽会社のうちの二社の CEO も Apple のプレスリリース中で驚きを表明している。興味深いのは Apple が Mac ユーザだけ、それも Mac OS X ユーザだけでこれだけの実績を挙げたことだ。Apple は技術革新とユーザ経験に集中すれば、市場のほんのひとかけらしか押さえていなくても世界を変えられることを再び実証した。派手な発進が過ぎた今、店の売れ行きがどうなるか、興味深いところだ。これからも毎週百万曲を売れるとは思えない。iTunes for Windows が出たらどうなるだろう?

iTunes Music Store が成功すれば、Apple がさらにコンピュータ会社の枠から抜け出していくだろう。まず、iPod で、そして今度は iTunes Music Store、その次は何だろう?Apple が QuickTime の映画の予告編を流すなど、Pixar を通しての Steve Jobs の映画業界とのつながりがある。もしかしたら iMovie Video Store が登場を待っているのかもしれない。もちろん、あくまで仮定のビデオ iPod やタブレット Mac が発売になってからだが。

PayBITS: Adam の iTunes Music Store への詳しい調査に興味を
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<http://www.amazon.com/paypage/PM6DNUK1HJOP6>
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PayBITS の説明: <http://www.tidbits.com/tb-issues/lang/jp/paybits-jp.html>


TidBITS Talk/05-May-03 のホットな話題

文: TidBITS Staff <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

予想された通り先週の TidBITS Talk は Apple の新しい iTunes Music Store、それに iTunes 4 と新しい iPod についての議論で盛り上がった。Mac OS 9 ユーザーが見捨てられたのは痛い知らせだったし、アメリカ以外の国では使えないこともまた痛かった。Apple には iPhoto のブック・プリントサービスで国外のユーザーをサポートできていないというまずい前例もあるのだから。何人かの人は iTunes Music Store によってアーティストたちが恩恵を受けるだろうという楽観論を述べたが、これは今すぐそのままに受け取れるようなものではない。何しろ、レコード業界の契約というのはあまりにも酷いものだから。関連した話題としては、AAC ファイルフォーマットについての議論や、Apple の手でそれがいかにしてデジタル権利の管理のために使われるのか、という議論が交された。また、従来の機種の iPod では新バージョンの iPod ソフトウェア機能のすべてが享受できないことに対する不満の声も多数寄せられた。ただ、この点に関しては Apple のやり方を擁護する意見も寄せられた。最後に、このような少額の売り上げを非常に多数扱うというやり方の中で一体 Apple はどうやって取り引き手数料を処理しているのだろうかという議論もあり、何人かの人がそれぞれに違った理論を展開してくれた。

音楽関係の大騒ぎ以外の話題としては、より良い Mac OS X 用ソフトウェアの配布方法を述べた Dan Frakes の記事に関する議論もあり、Dan 自身からも長いフォローアップが寄せられた。Mac OS X の Nisus Writer Express のパブリックベータ版についてもかなりのやり取りがあった。また、USB ハブがカーネルパニックを引き起こしてしまうという Mac OS X 10.2.5 のトラブルをめぐって、いくつもの驚くべき情報が寄せられた。[訳注: Mac OS X 10.2.6 アップデートが出ました。このトラブルが修正されているそうです。日本語情報

最後に、TidBITS 自体についてのメタ議論として、TidBITS の記事中で価格の数字を大きな桁の金額に切り上げて読みやすくしようという我々の方針に対して、賛成・反対双方の立場から喧々たるやり取りがあった。その方針がありがたいという意見も多かった一方、正確な数字を書いて欲しいという意見も多かった。また、コンテンツ管理システムの候補として新たにいくつかのものが挙げられたが、これについては引き続き皆さんのフィードバックをお願いしている。もしもこれらのシステムについてよくご存じの方がおられたら、ぜひご意見をお寄せ頂きたいと思う。


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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA