TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#829/15-May-06

盛り上がっている「ネットの中立性」の議論で混乱してしまった人のために、今週は Geoff Duncan がそのすべてを解説する。それから Adam が最近の休暇旅行で大変役に立った Garmin StreetPilot 2720 GPS ユニットの使用体験談を披露する。Apple は引き続きアップデートのリリースを矢継ぎ早に出してきており、今回は Security Update 2006-003、QuickTime 7.1、それに Front Row 1.2.2、それから四つの iLife プログラムのアップデートがある。けれどもテレビ番組ファンの方々に一番嬉しいニュースは、いくつかの Fox TV の新番組が iTunes Music Store で入手できるようになったことだろう。その他のお知らせとしては、NetNewsWire 2.1 のリリースと、Open Door Networks の DoorStop X Security Suite が当たる DealBITS 抽選もある。

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MailBITS/15-May-06

四つの iLife アプリがアップデート -- Apple は本日、iLife '06 アプリケーションのうち、iWeb、iPhoto、iMovie HD、iDVD の四つについて、マイナーアップデートをリリースした。アップデートはソフトウェアアップデートと単独ダウンロードの両方で提供される。通常通り、全てのアップデートには不特定のマイナーなバグフィックスや安定性の改善なども含まれている。それにとどまらず、iPhoto 6.0.3(14.1 MB のダウンロード)は iPhoto ライブラリの共有に関する問題点を解決したと言われている(とはいうものの、どのように修正されたのかは分からない。iPhoto 6.0.3 は未だに、サムネイルをリードオンリーのアクセス権で作成するために 共有フォルダの中に置いた iPhoto ライブラリを全面的に共有することができないままだ)。同様に、スマートアルバムからの photocasting やカレンダーとフォトブックの作成に関する問題も解決したという。iMovie HD 6.0.2(7.0 MB)は PAL オーディオに関する問題点を解決し、iLife メディアブラウザでサウンドエフェクトを正しく表示できるようになった。iDVD 6.0.2(5.6 MB)は、Appleによると「16:9 のプロジェクトを焼くときに時々発生していた問題を修正した」ということだ。

<http://www.apple.com/support/downloads/iphoto603.html>
<http://www.apple.com/support/downloads/imoviehd602.html>
<http://www.apple.com/support/downloads/idvd602.html>

もう少し大きなニュースは、より巨大なダウンロードでもたらされた iWeb 1.1(95.3 MB)だ。これは、非常に強い要望があった二つの機能を付け加えている。.Mac で公開されたブログや Podcast のための、コメント(最大で 5 MB までの添付を含むことができる)と検索フィールドだ。さらに、アップデートには「サイトの読み込み速度を改善するための画像管理の改修」も含まれているとのことだ。 [JK](笠原)

<http://www.apple.com/support/downloads/iweb11.html>

Security Update 2006-003 がリリース -- Apple は先週、Finder、Mail、プレビュー、Safari、CoreGraphics、AppKit、キーチェーン、Launch Services といった Mac OS X の主要コンポーネントに存在した脆弱性を塞ぐためのセキュリティ・アップデートを提供した。いくつかのフィックスは、不正な形式の画像ファイルがクラッシュの原因になったり任意のコードを実行したりするのを防ぐものであり、他のフィックスも、それぞれ特定のセキュリティホールに対処するものとなっている。アップデートはソフトウェアアップデート経由でも単独のダウンロードでも利用可能になっている。単独ダウンロードの場合は、Mac OS X 10.4.6 Client(PowerPC 用が 12 MB で Intel 用が 23.5 MB)と Server(13.1 MB のダウンロード)、Mac OS X 10.3.9 Client(28 MB のダウンロード) と Serve(41.6 MB のダウンロード)に分かれている。 [JLC](笠原)

<http://docs.info.apple.com/article.html?artnum=303737>(日本語)アップル - サポート - TIL (Security Update 2006-003 について)
<http://www.apple.com/support/downloads/securityupdate2006003macosx1046clientppc.html>(日本語)アップル - サポート - ダウンロード - Security Update 2006-003 Mac OS X 10.4.6 Client (PPC)
<http://www.apple.com/support/downloads/securityupdate2006003macosx1046clientintel.html>(日本語)アップル - サポート - ダウンロード - Security Update 2006-003 Mac OS X 10.4.6 Client (Intel)
<http://www.apple.com/support/downloads/securityupdate20060031046server.html>(日本語)アップル - サポート - ダウンロード - Security Update 2006-003 (10.4.6 Server)
<http://www.apple.com/support/downloads/securityupdate20060031039client.html> (日本語)アップル - サポート - ダウンロード - Security Update 2006-003 (10.3.9 Client)
<http://www.apple.com/support/downloads/securityupdate20060031039server.html> (日本語)アップル - サポート - ダウンロード - Security Update 2006-003 (10.3.9 Server)

QuickTime 7.1 と Front Row 1.2.2 がリリース -- Apple は、先週同社のメディア・センター製品二つを改良した。QuickTime 7.1 は 49.1 MB のダウンロードで、「多数のバグフィックス」を提供し、H.264 のパフォーマンスを改良し、iLife '06 のための不特定のサポートを付け加えた。メディア再生アプリケーションの Front Row 1.2.2 は 4 MB のダウンロードで、プレイリストでのシャフルを付け加え、Audible オーディオブックの再生を妨げることや DVD の互換性の問題やその他諸々のバグフィックスも行っている当然ながらソフトウェアアップデートにもアップデートはあるが、警戒を怠ってはならないことは、いつもと同様、QuickTime 7.1 が QuickTime Pro 6 ライセンスを上書きしてしまうことだ。[JLC](笠原)

<http://www.apple.com/support/downloads/quicktime71.html>(日本語)アップル - サポート - ダウンロード - QuickTime 7.1
<http://www.apple.com/support/downloads/frontrow122.html>(日本語)アップル - サポート - ダウンロード - Front Row 1.2.2

NetNewsWire 2.1 がリリース -- RSS ニュースアグリゲータ・リーダーの NetNewsWire 2.1 の最新版が先週 NewsGator 社から出荷された。昨年この製品を買収し、開発者の Brent Simmons を自社に雇い入れたのだった(「NewsGator が NetNewsWire を買収」を参照)。NetNewsWire 2.1 は、複数のコンピュータにまたがる同期を劇的に改良した。このおかげで、同じ購読セットを別のコンピュータ上でメンテナンスすることが可能になり、どこかで既読としてマークした記事を見ることは無くなる。そして、NewsGator Web site 経由でニュース記事を読んだり購読の設定を変更できるようになった。同様に、"sort by attention" というオプションにより、あなたが興味を持つであろうとプログラムが判断した購読記事をトップに持っていくことも出来るようにもなった。パフォーマンスも改善され、事実上あらゆる面で大幅に高速化された。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=08278>(日本語)NewsGator が NetNewsWire を買収
<http://www.newsgator.com/NGOLProduct.aspx?ProdID=NetNewsWire>

NetNewsWire は $30 で、NewsGator Online Premium の年間購読が含まれている。このプログラムは、速度、効率、賢明さのいずれの点でも見劣りがするものの、.Mac または FTP サーバ経由でのシンクも行うことができる。このため、シンクの利点を活用するために NewsGator の購読が絶対に必要というわけではない。アプリケーションは Mac OS X 10.3.9 以降が必要で Universal バイナリだ。NewsGator は無料で利用できる NetNewsWire Lite(未だベータ)も開発を続けている。それはインターフェース機能の多数を含んでいないがシンクは行える。 [GF](笠原)

<http://www.newsgator.com/NGOLProduct.aspx?ProdId=NetNewsWire&ProdView=lite>

Fox TV の番組が iTunes に -- 単独のネットワークのデビューとしてはこれまでで最大のものとなるが、Apple はまた一つテレビ番組の大集団を iTunes Music Store に加えた。今回は Fox Entertainment の番組だ。iTunes で新たに利用できるようになった 16 の番組の中には、現在放映中のシリーズの 24、Prison Break、それに fX Network の The Shield、それから Whedon-verse の人気番組 Firefly や Buffy the Vampire Slayer、リアリティーショウの 30 Days や Unan1mous、Fox 系のテレビ局 SPEED と FUEL の番組である Pinks や First Hand スポーツダイアリーなども含まれている。これまでと同様に、コマーシャル無しのフォーマットが一エピソードあたり $2 で購入でき、コンピュータで、あるいはビデオ対応の iPod で見ることができる。シーズン単位で番組を購入(あるいはギフト購入)すればいくらかの割引価格が適用される。

<http://www.newscorp.com/news/news_294.html >
<http://phobos.apple.com/WebObjects/MZStore.woa/wa/viewCustomPage?name=pageNetworkPage_FOX>

テレビ番組を iTunes に置くという Fox の決断は、同ネットワークがそのネットワーク提携各局との間で利益共有に関する合意を結んだ、そのほんの数週間後に発表された。具体的な契約内容は発表されていないが、Wall Street Journal の報道によれば、この結果 Fox はそのゴールデンタイムの番組のうち 60% を放映の翌朝にはインターネットで提供することとなり、その結果テレビ各局が受け取るコスト差引き後の収入は 12.5% の落ち込みとなるという。[GD](永田)


DealBITS 抽選: DoorStop X の Security Suite

文: Adam C. Engst <[email protected]>

Mac の世界はマルウェアや侵入などに関しては Windows の世界ほど怖いところではないが、それでもインターネットに直接接続されている Mac にはすべてファイヤウォールをきちんと装備しておくのが賢明なことと言える。けれども、確かに Apple はオープンソースのファイヤウォールであなたを保護できる能力を持ったものを内蔵してはいるものの、これはあなたに多数のオプションを提供できるようなものではないし、悪意ある人々や“ボット”たちから放出され続けるほとんど定常的なインターネットからのチクチクとした攻撃にあなたの Mac がさらされた時にどう対処すべきなのかの助言をしてくれるようなものでもない。このような懸念に対処したい人のため、長年の Mac ソフトウェア開発者であり ISP の運営もしている Open Door Networks(何年も前に初めての Mac 用ファイヤウォールを書いたのもこの会社だ)が DoorStop X Security Suite を出してくれた。この中に含まれている DoorStop X は、システム内蔵のファイヤウォールよりも使いやすいインターフェイスとより高度な柔軟性、それにより良いログ機能を備えている。また、Who's There? Firewall Advisor を使えばログに残されたアクセス記録を調べ、その意味をより深く理解できる。それから Macintosh におけるセキュリティについて徹底的に解説した電子ブック“Internet Security for Your Macintosh”の第二版も含まれている。これら三つの製品はすべて互いに統合されており、例えば Who's There? をただ単に特定の攻撃について理解するために使うだけでなく、それと並べて電子ブックの関連するセクションを開いたり、その攻撃を受けたサービスをファイヤウォールで保護したり、といった風に使うこともできる。

<http://www.opendoor.com/doorstopsuite/>

今週の DealBITS 抽選では、DoorStop X Security Suite を3本、賞品にする。それぞれ定価 $79 相当の製品だ。幸運が足りずに当選から漏れた応募者にももれなく DoorStop X Security Suite の割引価格の資格が贈られるので、ぜひ奮って下記リンクの DealBITS ページで応募して頂きたい。寄せられた情報のすべては TidBITS の包括的プライバシー規約の下で扱われる。どうかご自分のスパムフィルターに注意されたい。当選したかどうかをお知らせする私のアドレスからのメールを、あなたに受け取って頂くのだから。また、もしもあなたがこの抽選を紹介して下さった方が当選すれば、紹介に対するお礼としてあなたの手にも同じ賞品が届くことになるのもお忘れなく。

<http://www.tidbits.com/dealbits/doorstop/>
<http://www.tidbits.com/about/privacy.html>(日本語)TidBITS プライバシー規約

[訳注: 応募期間は 11:59 PM PDT, 21-May-2006 まで、つまり日本時間で 5 月 22 日(月曜日)の午後 4 時頃までとなっています。]


中立性論争

文: Geoff Duncan <[email protected]>
訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>

ここ何週間か、ネットワークの中立性をめぐる話題に、大量のインクとピクセルとが費やされている。専門家やいくつかのマスメディアが語っているように、主に争っているのは、かたやインターネットを構成するネットワークを構築している金持ちの通信関連企業、こなたインターネットに依存した事業を展開している金持ちの技術関連企業だ。通信会社としては、インターネット企業に課金する見返りに、ネットワークのユーザに優先的な接続を提供するということを可能にしたい。それに対し、主要なインターネット企業(消費者団体の多くも)は、そのような有料優先接続方式では持てるもののインターネットと持たざるもののインターネットとができてしまい、技術革新が抑えられ、稼ぎの大きい一握りのオンラインサービスだけにしか接続が保証されなくなると主張している。

米国では、この問題が政治の舞台に持ち込まれている。何人かの議員がネットワークの中立性を法的に保証しようと提案しているし、企業や利益団体は世論を(そして政治家たちの票も)自らの立場に与させようとしている。両陣営の宣伝用サイトがオンラインで公開されている。

<http://www.handsoff.org/>
<http://www.savetheinternet.com/>

いったい、この大騒ぎは何なのだろうか。そもそも何が問題なのだろう。

ネットの中立性とは -- こんなことを言うと奇妙に思われるかもしれないが、実際問題として、インターネットが中立的であったことなど一度もない。インターネット体験は常に、接続方法や通信性能に左右されてきた。100 メガバイトを超える Apple のシステムアップデートをダイアルアップでダウンロードしている人に聞いてみればよい。彼らは、自分たちがインターネット上で _差別されている_ と言うに違いない。同様に、自分がブロードバンドで接続していても、最近お気に入りのバンドの MP3 ファイルが ISDN 回線で提供されていれば、ダウンロードはのろのろと遅いだろうし、あるいはケーブルプロバイダが QuickTime ムービーのストリーミングに対応していないかもしれない。また、プロバイダによっては、メールを送信するときに、仕事先や自分自身のサーバから送信することが許されておらず、プロバイダのメールサーバを経由しなければならないこともある。そして、ファイアウォールは、今ではどこにでも存在しているが、インターネットの「中立性」を取り除くものにほかならない。つまり、インターネット上の様々な種類のトラフィックを注意深くより分け、ブロックしている。企業では、ピアツーピアファイル共有などセキュリティリスクのあるサービスをブロックすることがよくあるし、学校では「ホワイトリスト」で許可されたサイトにしか接続できないこともある(または問題のあるサイトをブラックリストに載せることもある。テキサス州の Del Mar College は最近 MySpace への接続をブロックした)。特定のユーザや地域、サービスに対して帯域幅の上限を設けることによって、インターネットのトラフィックを「最適化」するという技術もある。そしてもちろん、国によっては政府が積極的にインターネットをブロックしたり検閲したりしている。今日のインターネットが現実に中立的でない事例は、これだけあるのだ。

さらに、インターネットサービスでは常に、料金を払ったものだけに帯域幅が与えられてきた。それについては中立も何もない。誰もインターネットを無料で使う権利は持っていないのだ。最近では Wi-Fi ホットスポットを飛び歩いて、一銭も払わなくともそれなりのインターネット接続が得られるようになったが、それも、ホットスポットを運営している人たちが帯域幅の料金を支払っているおかげだ。インターネットに接続するには金がかかる。ダイアルアップであろうと、ケーブルモデムであろうと、DSL、無線、衛星やそのほかの接続方法であろうと、同じことだ。一般に、多くの金額を払えば、それだけ多くの帯域幅を手に入れることができる。今日のインターネットの巨大企業は、ユーザの需要に応える帯域幅を確保するため、巨額の金銭を支払っている。Appleがあれだけ大量のシステムアップデートに対応するのに、どれだけ太いインターネット回線が必要か考えたことがあるだろうか。それを言うならMicrosoft はどうだろう。Amazon.com、Google、MySpace、YouTube といったサイトが必要とする帯域幅も相当なものだ。これらもやはり、無料ではない。

現実にインターネット接続が「中立」であったことなどないのだから、「ネットの中立性」を定義するのは難しい。しかし、とりあえずは、今日インターネットが米国(および世界中の多くの地域)で運用されているしかたが中立性を表していると考えることができる。上で述べたような、接続方法、利用条件、帯域幅(およびそのほか)の変数をおくとすれば、ユーザはインターネットのどこから接続しようと、大抵の場合、ほとんどすべてのデータにベストエフォートの速度で接続できる。それは、大規模なオンラインサイトやオンラインサービス(例えば AOL、Yahoo、Google、MySpace、Amazon.com、iTunes)に接続しようと、ネットの片隅のブログや写真ページ、あるいは Brad Pitt の腹筋を褒め称える若者の詩に接続しようと、変わりがない。理論上は、それらのサイト _すべて_ のデータが平等に扱われ、インターネットは、データが通過する物理的ネットワークが誰の運営するものであろうとも、状況が許す限り最も効率的に、情報を届ける。これが、ネットの中立性の本質だ。

通信業者が恐れること -- インターネットの主要部分を築き上げた通信会社、例えば Verizon、生まれ変わった AT&T、Comcast、BellSouth などは、ジレンマに直面している。一方では、インターネットとブロードバンドサービスに対する需要は決して落ち込むことなく、右肩上がりで成長している。しかしもう一方で、ブロードバンド接続によって可能となったインターネット上のサービスが、通信会社の本業を侵食しようとしている。

例えば、将来的に放送中のテレビ番組や封切りされた映画をインターネットで配信できるようになれば、Comcast のケーブルテレビ事業(あるいは衛星放送サービス)などのサービスにとっては、よい話ではない。見たい映画を、いつでも好きなときに、より安価にインターネットのストリーミングで見ることができるとすれば、HBO(訳注: 米国最大手のケーブルテレビサービス)に加入する理由はなくなる。また、Vonage や Skype が提供しているような VoIP(Voice-over-Internet-Protocol)サービスを使えば、インターネット経由でコンピュータ間の通話ができるし、加えて映像を送ったり会議もでき、通常の電話に「かける」ことすらできる。VoIP など、この分野に参入しつつある技術(例えばインスタントメッセージ)は、通信業者の食い扶持の心臓部、つまり、しばしば独占的な認可契約の下に提供している通常の電話サービスに打撃を与える。携帯電話のおかげで、通信業者はすでに固定電話の(主として若い)顧客を失いつつある。近い将来、さらに多くの顧客を VoIP に奪われることになるだろう。(とりわけ法人顧客を。VoIP は、特に国際通話について、法人向けの通話・会議サービスよりも魅力的だ。)

通信業者にとってはさらに困ったことに、ブロードバンドサービスへの需要は拡大し続ける一方、帯域幅当たりの通信会社の収入は、この 10 年で 100 分の 1 にまで落ち込んでいる。90 年代半ばに1月数百万ドルした高速帯域幅も、今では1月数万ドルだ。(この現象は末端にまで及んでいる。私の自宅兼仕事場の接続料金は 1996 年から比べると 20 パーセントほどになり、一方帯域幅はおよそ 18 倍になった。)確かに、通信業者がそれだけの帯域幅を用意するために支払っている支出も減少しているが、収入ほど大幅に減少してはいないし、場合によっては増加することもある。地中に回線を敷設する権利を取得するのはますます難しくなっているし、ハードウェアをアップグレードしたり巨大なネットワークを構築するためのコストは、電力料金の上昇などの外的要因もあって、増加している。米国のブロードバンドネットワークの現状を簡単にまとめるとするなら、多少まとめ過ぎかもしれないが、以下のようになる。簡単なことはほとんど済んで、ここからさらにネットワークの能力を拡大しようとすれば、ますます高くつく。

段階的アクセスを定義 -- ブロードバンドのネットワークを作り出しているメジャーな通信業者たちは、収入増加率の下降傾向とコストの上昇傾向を秤にかけて、ブロードバンドネットワークにはそれほどバラ色の未来が待ってはいない(ましてや会社の収入の大黒柱にはならない)ことを認識している。その上で、彼らは既存のブロードバンド対応インターネットサービスを利用している会社たちが何億万というドルを稼いでいることも承知している。だから、彼らは基本的にこう言っているのだ。「おい、こいつらが便乗して使っているこのネットワークは、俺たちが _築いた_ ものだぞ! だから俺たちも、もう少し分け前を貰えてもいいんじゃないか?」と。まして、ネットワークによってはそういうインターネット会社たちが帯域幅の費用をあまり払っていない(あるいは全く払っていない)こともあるとなれば、なおさら怒りがつのろうというものだ。例を挙げてみよう。仮に、Vonage がすべての帯域幅を Verizon から買い上げたとしよう。(これは事実ではない。あくまでも仮想上の話だ。)その上で、もしも Vonage が音声電話を BellSouth と契約している人々に対してインターネットを通じて VoIP サービスを提供し始めたら、BellSouth はいったいどう思うだろうか。ひょっとして、Vonage がそういう人々に対して音声電話のサービス契約の格下げを勧めたり、さらには解約を勧めたりしたらどうだろうか。しかも、Vonage は BellSouth のブロードバンドネットワークにアクセスするためには一銭も払っていないのに! そんなことになったならば BellSouth が怒り出すのも無理はないことがお分かりだろう。けれどもその一方、Vonage の立場からはこの状況に何の問題も見出せないということもお分かり頂けるだろう。つまるところ、Vonage は既に巨額のお金を Verizon に支払っているのだから。

もちろんこの例はあくまでも架空のことだ。(ほとんどの大規模なインターネットサービスは、多数の場所でいくつものプロバイダから帯域幅と共に専用のネットワークアクセス権を購入しなければならない。)けれども考え方はシンプルだ。インターネット上のすべてのデータ送信では、多かれ少なかれ皆が同等の優先度をもって扱われているので、インターネット会社たちは通信業者たちのインフラ構造を使ってそれと競合するサービスを提供することもでき、場合によっては彼らの顧客を盗み取ることもあり得るわけだ。

だから、通信業者たちは何とかして自社のブロードバンドネットワークを使って巨大インターネット会社たちから収入を得、その収入を少しでも増やす道を探ろうとしているのだ。新たな収入が得られるということは、彼ら通信業者たちの手持ちの資金が増えることを意味するのだが、それと同時に投資資本に対してより魅力を発揮できることをも意味しており、それによってさらに高度なネットワーク容量や機能を構築することも可能となるだろう。結局のところ、貸し主や投資家たちにとって一番興味があるのは、利益を生む望みの大きいプロジェクトの後押しをすることなのだから。そこで問題となるのは、通信業者たちが巨大インターネット会社たちに対して何が提供できるのか、何を提供すれば相互の契約がより魅力を増し、彼らにお金を払わせる動機となることができるのか、あるいは少なくとも _現在よりは多くの_ お金を払わせられるようになるのか、ということだ。

一つの考え方は、インターネット会社たちが通信業者たちにお金を払って自分たちのデータを優先的に扱ってもらう、というプログラムを作り出すことだ。例えば、仮にあなたがストリーミングビデオを提供するインターネット会社を運営していたとする。もしもあなたのデータが、いくつかのメジャーな通信業者のネットワークよりも高速かつ確実に配送されるようにあらかじめ手配できたとしたら、あなたはどう思うだろうか? そうしたら、あなたの競争相手に比べてあなたが一歩リードすることもでき、あなたの顧客の満足度も上がり、結果としてあなたの会社の業績も上がるのではないだろうか? これは、あなたにとって魅力的な選択肢ではないか? この考え方こそが、いわゆる段階的アクセスの根幹を成している。料金の支払いと引き換えに、通信業者は特定のインターネットデータに他のデータよりも高い優先度を与える、ということだ。

ここでもやはり、実際問題としては、インターネットアクセスが _既に_ 段階的となっているとも言える。一般的に言って、会社や個人のインターネットユーザーが支払うインターネットアクセス料金は享受できる帯域幅の量と相関関係がある。もう何年もの間 ISP 各社は段階的アクセスを提供し続けており、ユーザーたちがダイヤルアップからブロードバンドのサービスにアップグレードするようにと呼びかけたり、ISDN やローエンドの DSL などの“低速の”テクノロジーから“ワールドクラス”の DSL、ワイヤレス、ケーブルモデムなどに乗り換えるようにと勧めたりしている。業務用の契約についても同様のことがより大規模な意味で行なわれており、必要とするサービスの内容に応じてさまざまの異なった料金での帯域幅や、ネットワークアクセス、Colocation(ハウジング)サービスなどを購入するようになっている。

その核心は -- もしもこれが本格的に実装されれば、段階的アクセスの体制はインターネットの(抽象的かもしれないが)根本的な原則の一つを大きく変えてしまうことになる。つまり、すべてのデータが、そのタイプや発信源、目的地などによることなく同じ優先度で扱われるという原則だ。段階的アクセスの下では、優先度の高い発信源またはサービスから来たデータが特別の扱いを受けられることになる。プロバイダによっては、その情報だけが専用のネットワークリンクを通ることができたり、ボトルネックを通る時に可能な帯域幅の大部分を占めることが許されたり、あるいは他のデータを待たせて先にルーティングが受けられたりするかもしれない。方法はいろいろなものがあるだろうが、いずれにしても優先的なデータはその通信業者のインターネットネットワークをより高速に、より確実に通過することができるようになる。

通信業者たちは、基本的に言ってこの考え方こそが画期的な解決策だと思っている。彼らは新しい「プレミアム」サービスを始めようとしていて、このサービスはオンラインビジネスにとって価値の高いものであると同時にそれに対して支払うべき料金も「プレミアム」な金額になるというわけだ。AT&T の幹部の一人が最近述べたところによれば、段階的アクセスが実施されてもインターネットを毎日お使いの皆様にとっては何も変わらないのだそうだ。段階的アクセスは、既存のインターネットのインフラ構造に加えて新たに別のコミュニケーションチャンネルを作り出すものだから、ということだ。実際にどのようなものが作り出されるのかの技術的詳細はほとんど何も公開されていないが、もちろん通信業者たちが言っているような、そういうシナリオが実現されるということも容易に想像できる。現にさまざまの異なったタイプの会社や組織などが、信頼度が高くてセキュリティの確実なデータ送信メカニズムを必要としている。銀行や財務組織、政府機関、製造業者、政府の請負業者、それにメディア各社などを考えてみるとよい。「古き良き時代」には、これらの業界ではそれぞれに独自のプライベートなネットワークを作っていたものだ。典型的な例の一つが、今では至る所にある ATM(現金自動預け払い機)が使っているネットワークだ。今日では、これらの業界が使うツールはインターネットテクノロジーに基づくものとなっており、従ってそのような会社は皆インターネットを使いたがることになる。段階的アクセスによって、通信業者たちは基本的にこれらの業界各社に信頼度の高いプライベートなネットワークをインターネットの利点を伴ったままで提供しようと申し出ているわけだ。

けれども、段階的アクセスがそこで留まることはない。通信業者たちは自然の流れとして、Google、Yahoo、それに Microsoft といったインターネット会社たちとパートナー契約を結んで _彼ら_ のデータが優先的に扱われるようにしたり、また顧客たちがサービスをアップグレードすればデータの要求が優先的に扱われるようにしたり、という道を歩むようになる。そしてこれこそが、込み入った議論を引き起こす火種なのだ。通信業者たちの言い分では、優先的なアクセスのためにインターネット会社に料金を払わせるのは全く正当なことだ、なぜならそうした会社の多くが通信業者のインターネットネットワークに「ただ乗り」しているのが現状だから、ということになる。段階的アクセスによって新たな収入源を得れば、通信業者が新世代のインターネットネットワークを構築することも可能となるだろう。

それに対してインターネット会社たちは、段階的アクセスは最も裕福な者たちだけがデータの信頼性を享受できるというインターネット世界を作り出すだけだと反論する。インターネット会社が通信業者に「保護費用」を支払わなければ、自分たちのデータが効果的にユーザーたちに届くことが期待できなくなるのではないか、と恐れているのだ。

段階的アクセスに対する技術的な反論もある。ただし、実際に段階的アクセスのシステムがどのように運営されるのかの詳細がわからなければ具体的な評価は困難なのだが。一般的に言って、ネットワークエンジニアにとっては作用の透明な「頭の悪い」ネットワークの方が、いわゆる「賢い」データ管理を使ったネットワークアーキテクチャよりも好ましい。歴史的に見ても、できる限り素早く透明に、可能な限り多数のビットを動かそうとするネットワークの方が、データ内容を分析して、データ転送とルーティングにポリシーを適用しようとするネットワークに比べてより良いパフォーマンスとより高度な信頼性を達成してきている。通信業者たちは、インターネット全体をたった一つの「頭の悪いパイプ」とみなして扱っている限り、明日のオンラインビジネスが求めている新しいタイプのネットワークやデータサービスを実現することは不可能だと論じている。他方、ファイヤウォールやアクセステクノロジー、セキュリティツール、その他の拡張がインターネットの基本動作に付け加わることが一般的となるに従い、現実的に見れば、今日のインターネットはもはや既に昔のような「頭の悪い」ものではなくなっているとも言える。ただし、メジャーな基幹回線網や相互接続ポイントの多くは現在でも驚くほど透明な動作を続けているのだが。

政治問題 -- 米国の政治の世界においては、"ネットの中立性" は取り立てて新しい話題ではないが、会議室や職場から米国議会の場へと急速に移動している。2006年の議会の委員会にかかっているいくつかの議案はネットワークの中立性を義務付ける条項を含んでいる(この記事を書いている時点では、どれも委員会を通過していない)。2005年の8月には、Federal Communications Commission (FCC) はネットワーク中立性に立脚する政策を規定する一連の原則を採用した。この前に FCC は Madison River Communications に対してVonage の市内通話加入者に対する VoIP サービスを阻害したとして 2005年3月に小額の罰金を科している。いずれにしても、法的に言えば米国内にあってはインターネットは規制を受けない情報サービスなのである。

<http://hraunfoss.fcc.gov/edocs_public/attachmatch/DOC-260435A1.pdf>

ネットワーク中立性の規制に関する賛否双方の論議に共通するものは、電話網 (そして、その前は電信であり鉄道であった) のために制定された "公衆通信業者" 規制にインターネットは該当すべきかどうかという概念である。この公衆通信業法の下では、システムの所有者はその所有権を利用して第三者のサービスより安い値段を提供することを禁止している。合衆国においては、インターネットサービスは公衆通信業法に該当して _いない_ 。インターネットを構成するネットワークは私的に所有され運営されているもので、FCC の政策綱領に拘わらず、殆どが政府の規制の対象外なのである。通例、ネットワークオペレーターはやりたいことは何でもやれるのである - これまでの所、実際にネットワークをお互い同士比較的透明にしているのは、たまたまそれが自分のためにもなるからというだけのことである。

通信業者は、ネットワーク中立性を規制すると言うことはまず第一にインターネットを大幅に規制することになるであろうし、そして、最終的にはインターネットサービスの料金制度も政府の規制下に入ってくることになるであろうと主張している。料金設定の自由なしに - アメリカ経済の多くの業種にとって当たり前でそして大切な概念 - 進化した新たなネットワークを構築することなど不可能であると通信業者は言っている。ことは単純で、これでは商売が成り立たない:通信業者が構築出来る全てのものからの収入をあげる機会の大部分は、ネットワークにアクセスするためにほんのちょっぴりか或いは全く払わないインタネット業者に持っていかれてしまうと言うのである。

これに対してインターネット会社やその支持団体は、Yahoo, Google, そして YouTube のようなサイトが、もし通信業者に対して優先ネットワークアクセスとして料金を払わなければならなかったとしたら、その存在すらおぼつかなかったであろうと主張している。もし階層化されたアクセス体系が実行に移されていたとしたら、インスタントメッセージング、デジタルメディア、そして VoIP (そして、事実 peer-to-peer ファイルシェアリングのようなより意見の分かれるものも含んで) といった新技術は生まれてこなかったかもしれないと言うのである。

更に、階層化されたアクセスは消費者の選択をも制限する可能性があると主張する人たちもいる。もし(例えば)RealNetworks はお金を払って優先アクセスを選択し、一方で Apple はそうしないとした場合、とたんに RealNetworks のオンライン音楽配信は iTunes よりも魅力的に見えるようになるであろう - ここでは何もサービスの中身や製品の優位性を論じているのではなく、ただ単純に RealNetworks のデータの方がユーザーにより速くより確実に届くであろうとの観点からの話である。より小さな企業は最初から金持ちコースには乗れない可能性が高いので、その製品やサービスがいくら良くても "次なる目玉" になるための大きさまで到達できないかもしれないと言うのである。

支援団体はこの考え方を企業の枠を超えて捉えている:政治団体、非営利団体、それに "市民ジャーナリスト" (ブロッガーのこと) の声が押し潰されてしまうかもしれない、なぜならばこれらの人は通信業者の金持ちレーンに乗る余裕がないからである。更に、通信業者は優先アクセスを、特定の事業や技術、そしてもっと怖いことには、ある特定の政治観点をもつ出版者に対して単純に売らないという選択も出来るということである。Verizon はひょっとしたら VoIP の技術は自分の伝統的な電話サービス商品にあまりに深く入り込みすぎていると思っているかもしれない:事実、彼らの優先アクセスを Vonage や Skype といった会社に売ることを _義務付ける_ 法は何もないのである。通信業者は自分のネットワークに乗っているインターネットサービスを阻止したり低下させたりするわけがない、なぜならば、そんなことをすれば企業イメージは損なうし顧客を失うことになってしまうから、と言っている。それはそうかもしれないが、そもそも米国の消費者はブロードバンドサービスに十分な選択肢を持たず、通信のアクセス政策に対して市場勢力として大きな役割を演じることが出来ないでいると反対派は主張している。

<http://www.linuxinsider.com/story/exclusives/50442.html>

これから -- ネットワーク中立性に関する論議はこれからますます活発になってくるであろうし、いわゆる有識者も双方から間違いなく出て来るであろう。結局のところ、覚えておかなければいけない大事なことは、これらの論議は、インターネット経済の中での大手のプレーヤー、Google, Amazon.com, Yahoo, Microsoft, そして Apple のような、更に、ストリーミングビデオ、テレビ、それに消費者向け映画の分野でこれから台頭してくるであろうリーダー達によって稼ぎ出されるお金の中からの取り分を少しでも大きくしたいとう通信業者の願望から来ていることである。これまでの通信業者によってふるわれてきた経済と政治の力を考えれば、彼らが成功することには疑いの余地はない:問題はどの様にと言うのと、彼らの成功への道が否定論者達によって言われているが如き滑りやすい坂道なのかどうかである。


Garmin StreetPilot 2720、カーナビの好感度を上げる

文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

音声案内ナビゲーション付き GPS 機器の探究を続けてきた私たちのシリーズに私が最後に記事を書いてからもう六ヵ月が過ぎた。その最後の記事で、私は Magellan RoadMate 760 についておおむね好意的なことを書いた。その後、これに最も近い Garmin 社製の対抗機種、StreetPilot 2720 が評価用として私のところに届き、それから私は二回の旅行で、一回は San Francisco から Seattle まで、もう一回は New York 州 Ithaca にあるわが家から New York 市まで、それぞれドライブ旅行にこれを使ってみる機会に恵まれた。全体的に見て、この StreetPilot 2720 はほぼ同価格の RoadMate 760 と比べてほとんど同じような機能を提供しているのだが、ただ細かな点や使い勝手などでより行き届いた心遣いが感じられ、結局私はどちらかと言えばこちらの方が気に入った。それに、この StreetPilot 2720 については、私はこれ以上の改善の余地を提案しろと言われても返答に困るような気がする。これは Garmin の傑作だと思うし、このユニットの機能を Garmin が拡張できる点もほんの少ししか残っていないと思う。どちらの機器も普通 $700 前後の安売り価格で売られているが、あまり知られていないベンダーを探せば RoadMate 760 の方がもっと安い価格で手に入るようだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1264>
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<http://www.magellangps.com/en/products/product.asp?PRODID=1091>
<http://www.garmin.com/products/sp2720/>

私がこの話題で書いた過去の記事を皆さんにはぜひ読んで頂きたいが、簡単に要約すれば、これらの機器は目的地の住所が入力されるとその目的地に至る道筋を計算し、曲り角ごとに音声で方向を案内して、もしも道を間違えれば(GPS が間違いを起こした場合も運転手が間違った場合も)素早く道筋を再計算してくれる。また、何らかの理由で運転手が示された道筋と違うところにあえて進んでしまっても、再計算してくれる。いつも小さな町の中でお馴染みの道しか運転しない人にはお勧めできないが、知らない地方へ長い旅をする人や、大都市で複雑に道が入り組んだ地域を道案内して欲しい人などにとっては、これらの GPS 機器が本当に必需品だと言っても過言ではないだろう。

RoadMate 760 がその前の機器である RoadMate 700 と大きく違っていたのは二つの機能だ。一つは SayWhere、これは次に曲がるべき道路の名前と曲がる方向を音声で読み上げてくれるというものだ。もう一つは SmartDetour、こちらは道路の渋滞などで車が時間を費やしている場合に自動的に迂回路を計算してくれる機能だ。当然予想されるように、Garmin の StreetPilot 2720 もこれらに非常によく似た機能を提供しているので、まずはそこから話を始めよう。

おしゃべりな地図 -- RoadMate 760 で街路名を読み上げてくれる合成音声は、それ以前の機種が曲がり方のみ(「5 マイル先で左に曲がります」)しか言わなかったのに比べれば、大きな改善をみたと言えた。けれども、RoadMate 760 では曲がり方の部分に録音済みの音声が使われていて、一続きの文章の中で異なった声が聞こえるのためにいつもイライラさせられた。それに比べ、この StreetPilot 2720 では非常に上質な合成音声が街路名と曲がり方の双方に使われていて、説明の言葉が一続きの自然な文章として聞こえる。両者を並べて詳しく音質を比較したわけではないが、私の印象ではこの StreetPilot の text-to-speech 合成音声の方がより上質なものに聞こえたし、また珍しい名前の発音もより正確だったように思う。もちろん完璧ではないのだが。さらに、二つ以上の名前や番号を持っている道路もたくさんあるが、StreetPilot 2720 では最初の名前しか言わないようになっているので、すべての種類の名前をせっせと読み続ける RoadMate 760 のやり方に比べてよりスマートな感じがした。

残念なことに、私は RoadMate 760 の SmartDetour 機能を実際の交通渋滞でテストしてみる機会がなかった。(Ithaca では交通渋滞なんか起こらないので。)けれども今回は San Francisco、Seattle、それに New York City という大都会で StreetPilot 2720 を使ってみたので、迂回路についての機能をテストする機会が数多くあった。私の見る限り、これは RoadMate 760 で言われているのと同じように自動的に迂回路を表示するということはないようだったが、私たちが手動で迂回路を求めたところ、素早い計算でちゃんと別ルートを表示してくれた。もう一つ悔やまれるのは私がその時 Garmin の GTM 10 を使ってみるのをすっかり忘れていたことだ。GTM 10 はオプションの FM 交通情報受信機で、指定された都市における渋滞情報、道路工事情報、気象関係の情報などをリアルタイムで受信してくれるものだ。これを StreetPilot 2720 に繋ぐと、少なくとも理論的にはそういう情報を受け取った上で別ルートを選んでくれる。普段は 45 分で行ける Queens から Staten Island へのドライブが、Belt Parkway と Brooklyn-Queens Expressway の両方でひどい渋滞だったために何時間もかかることがあるのだから、そういう場合にこのオプション機能が有効ならば素晴らしいことだろう。

別ルートを選ぶこの種の機能でのインターフェイスは、これらすべての GPS 機器で改善の余地があると思う。通常、ユーザーは迂回路がどの程度遠くなってもよいかを指定できるようになっており、また特定の道路を問題があるとして指定もできた。そういう設定事項があるのは良いことだが、それでも私たちの感じでは全体のプロセスが何となく謎めいていた。実際にノロノロした渋滞状況に出くわした時、その場でどの程度の距離まで迂回するのが妥当かを判断する材料は私たちには無かった。第一、私たちはそのあたりの道路に馴染みが無かったのだから、私たちが今いる道路以外にどの道路に問題があるのかどうかなど分かるはずもなかった。それだけではない。新しいルートを表示させた時、私たちは手で交差点のリストをスクロールして、そのルートにするのがより良い選択なのかどうか判断を試みなければならなかった。StreetPilot 2720 には、古いルートと新しいルートを比較する方法が何も用意されていなかったからだ。一度など、オレゴン州の Grants Pass の近くで道路工事関係の渋滞に引っ掛かって困ってしまった時、迂回路は表示されたのだが、私たちは幸運にもそこにオレゴン州 Ashland への到着予想時刻が 40 分も遅れると表示されているのに気付いた。もちろんその迂回路でも行けたのだろうが、私たちは猛烈な遠回りをすることになっていただろう。こういうところにはもっと良いインターフェイスを使って、いくつかの違ったルートの選択肢を提供し、それぞれの所要時間や距離で並べ替えたり、それぞれの交差点リストをもっと簡単に一覧できるようにしたり、というものにして欲しいと思う。

何とも言えず快い使用感 -- 効果的なインターフェイスを作り出すための努力の大部分は、ちょっとした工夫の積み重ねだ。そして、そここそが現時点で Garmin が Magellan よりも一歩リードしているところだと私は思う。例えば、確かに RoadMate 760 は曲がるべき交差点に近づいた時に自動的に表示を標準の平面図から立体的な 3D 表示に切り替えてくれるのだが、StreetPilot 2720 の方は(そしてこれは私が以前にレビューした旧機種の StreetPilot c330 でも同じだったが)普段は俯瞰図の 3D 表示で、現在の位置(こちらは大きくスケールされている)と次に曲がる交差点(こちらはまだ遠いので小さくスケールされている)を両方表示するようになっている。この方式は非常に直観的で、StreetPilot 2720 は現在位置と次に曲がる交差点が何マイルも離れている時だけ平面図表示に切り替わるようになっている。

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もう何年も前のこと、私が Seattle 市内を友人の Sandro と一緒にドライブしていた時、彼は私に道案内をしてくれたやり方は、私が交差点を曲がるとすぐにその次に曲がるべき交差点を言ってくれるというものだった。その交差点がまだまだ先にあっても、彼はいつも次に曲がるのがどこかを先に言ってくれるのだ。これは新年の決意で決めたやり方なんだ、と彼は言っていた。そして私は、そういう風に道案内してもらうとどれほど運転が楽か、驚きの気持ちで印象に残ったのを覚えている。この方法ならば、運転者は次に曲がるのがどこかが常に頭に入っている気がして安心だからだ。この点 RoadMate 760 がどう挙動したかを私ははっきりとは覚えていないが、私の印象では StreetPilot 2720 の方がより Sandro のやり方に近い感じを与えてくれていたと思う。特に、曲がるべき交差点が次々と連続している場合にそういう感じが強かった。

RoadMate 760 では、目的地に到着するまであとどのくらいの距離かのカウントダウンを表示してくれていたが、到着時間がいつ頃になるのかを知るには私たちが計算をしなければならなかった。その点、StreetPilot 2720 の場合はデフォルトでその反対の挙動をする。つまり、到着予想時刻を表示して、それがどの程度の距離なのかは私たちの計算に任せるのだ。私たちは、この方が自分たちの思考パターンに合っていると思った。

最後にもう一つ、私たちはあまりデフォルト設定を変えることはしなかったが、この StreetPilot 2720 では表示やその他の挙動をさまざまの幅広い選択肢の中から選んでカスタマイズできる。特定のデフォルト設定が気に入らない人もいることは容易に想像できるので、それを変更して使えるという機能は大歓迎だ。

機器の詳細 -- RoadMate 760 と StreetPilot 2720 は違っている所よりも似ている所の方が多いのは確かだが、やはり比べれば StreetPilot の方に軍配が挙がる。RoadMate 760 ではユーザーが伸ばさなければならない外部アンテナが、StreetPilot 2720 では内蔵型になっている。(両機種とも、必要ならばもっと感度の高い外部アンテナを使うこともできる。)それでいて、衛星からの電波の受信は同程度に良好だ。けれどこれも完璧ではなかった。ニューヨーク市街地の高層ビルの谷間や、北カリフォルニアの雨に濡れたレッドウッドの森の中では、衛星からの信号にロックオンする機能があまり良好には働かなかった。もちろんカリフォルニアの田舎の Highway 101 では何の問題もなかったが、私たちが Manhattan を走っていた時に、なかなか自分の位置が正しく特定されず、Queens への大切な道筋を提供してくれるまでに数ブロック待たなければならなかったのは相当焦った。(Midtown Tunnel の中を運転するのは相当の強心臓を要すると、この機械が教えてくれればよかったのに!)

両者のスクリーンを並べて比較することができないのは残念だが、少なくとも StreetPilot 2720 のスクリーンが素晴らしいことは確かだ。日光の下でサングラスをかけて運転していても、スクリーン上の表示がすぐに読めないということは一度も無かった。Garmin はまた付属品としてぴったり嵌まるプラスチックカバーも付けていて、StreetPilot を梱包するときや、あるいは駐車中に隠しておくためにグローブコンパートメントに押し込んでおく時などにスクリーンを保護できるようになっている。

この StreetPilot 2720 は私が使ったことのある GPS の中では初めて、吸盤で取り付けた雁首状のマウントではなくて beanbag タイプのマウントが標準仕様となっているものだ。私はすっかりこちらのタイプのファンになった。beanbag タイプのマウントは自由に調整できるのが素晴らしく、底部には接着性の無いプラスチックを使っていて非常に安定している。グラグラ揺れる雁首マウントとは大違いだし、新しい目的地を入力するなど各種の操作をするのに前屈みにならなくてもよいように、Tonya が本体をダッシュボードからつかみ取るのも簡単にできる。ただ一つの問題は、時々衝撃などで背面の電源コネクタが抜けてしまうことで、そうなると機器を再起動しなければならなくなる。Garmin はまた同乗者が前屈みにならずにインターフェイスを使いこなせるようにと赤外線式のリモコンも付属させているが、これはあまり私たちの気に入らなかった。リモコンのキーは StreetPilot 2720 のタッチスクリーンインターフェイスとあまりうまく対応していなかったし、新品のバッテリを入れたばかりなのにボタンを押しても無視されるということがよくあった。

最初のうち私は StreetPilot 2720 がスクリーン上のコントロールで音量を調節するようになっているのが嫌だった。車の速度が速くなったり遅くなったりする度に道路から来るノイズに合わせて音量を上下させて調節しなければならないのがかなり面倒だったからだ。これは、物理的なノブを回して調節する方がよいのに、と思った。けれどもしばらくするうちに、私は車速にリンクして自動で音量調節をするという設定があることに気付いた。それ以後は、私が説明を聞きそびれるのは音楽やポッドキャストが大音量で鳴っているような時だけになった。

奇妙なことに、StreetPilot 2720 にはスピーカーが含まれていない。その代わりに、スピーカーは電源プラグに統合されている。私がテストしたどの車の中でもこれが問題になったことはないが、プラグを差し込む位置によってはスピーカー両用とするにはちょっと不便になってしまうような状況も充分想像できると思う。

次はどこに向かう? -- GPS 各社は、その製品を改善するための努力を主にいくつかの重点的な機能だけに絞って振り向けてきた。それは、音楽、ハンズフリーの携帯電話使用、交通情報、XM ラジオ、写真の表示、追加の観光地情報などだ。これらの中で、同じ機器の中に MP3 プレイヤーを統合させるというのは明らかに意味のあることだと思う。ダッシュボードに一つしか電源を取るところがないのに iPod を追加でぶら下げたりするのは理に合わないからだ。それでいて、iPod のインターフェイスに Apple があまりにも素晴らしい成果を残しているので、私としては GPS 機器に音楽プレイヤーのインターフェイスを組み込んでも常に不満が付きまとってしまうのが落ちだろうと思わざるを得ない。それをうまく仕上げるのが不可能だと言っているわけではないし、道順を音声で案内している間は自動的に音楽演奏を一時停止したり、音楽と地図表示を手軽に切り替えられたり、といった機能があれば注目に値するとも思うが、いずれにしても現物を見てからでなければ何とも言えない。

同じように、ハンズフリーの携帯電話のために GPS 機器のスピーカーを使ったり、XM ラジオを聴いたり、交通渋滞情報を道筋決定のために組み入れたりするのはそれぞれに大きな意味を持っている。特に(製造者の立場から言えば)これらの機能は機種間の差別化をはっきりさせるためや、価格を高く保つために役立つだろう。その一方で、スクリーン上に写真を表示する機能(もちろんバッテリ電源で動くモデルでの話だ)は全く余計なことという気がする。簡単に実現できるかもしれないが、無視するのもまた容易い機能だ。

私が実際楽しみに待っているのは、Garmin StreetPilot c550 に付くことが予定されている Travel Guide アドオン機能だ。これは、レストランやその他の興味深い場所を推薦してくれるというものだ。実際私たちは旅行中、何度も観光地情報のデータベースを使っては、近くに良いレストランがないかと調べたり、レストランがリストされればされたで、その名前を真剣に見つめながら行く価値があるところかどうか、名前だけで判断しようと苦闘していたものだ。私たちが結局落ち着いた最良の戦略は、その近所に同様のビジネスが多数集まっているような場所を探すことで、普通、例えばレストランやガソリンスタンドなどは近くに何軒かが集まっていることが多く、そういう場所に行ってみれば良い食事や(少しは)安いガソリンを見つけるチャンスも増えることが分かったからだ。

<http://www.garmin.com/products/sp550/>

Travel Guide は手始めとしては良い選択だろう。でも、私が本当に実現を待っているものは何かといえば、それはその場所その場所の、現地での情報をこれらの機器に取り込んで生かせるのではないかということだ。ユーザーの手の加わったウェブサイトを通じてそれらの情報を調整できればなお良い。例えば、こんなことを想像してみよう。既存の観光地情報にあなたがレーティングで評価を付けられて、それぞれにコメントも付けられたとしよう。そういうあなたの意志をサイトにアップロードしたり、他の人たちのレーティングやコメントもダウンロードできたりしたらどうだろうか。さらにこれをもう一段進化させて、ユーザーコミュニティーの力で地図情報や観光地情報の誤りを修正できるようになれば、すべてのユーザーにとってこのシステム全体の価値が上がるというものだろう。Garmin と Magellan の両社とも、観光地情報のデータベースをカスタマイズする機能は提供しているが、データベース全体をユーザーコミュニティーに開放するというようなアイデアについてはどちらの会社もまだ徴候すら見せていない。ひょっとしたら、TomTom とか他の会社のどれかで、こんな風に製品の進化にユーザーを関与させるという新しい第一歩を踏み出してくれるところが現われたなら、と思う。


TidBITS Talk/15-May-06 のホットな話題

文: TidBITS Staff <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

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ロング・アンド・ワインディング・ロード -- Apple Computer 対 Apple Corps の裁判で勝訴判決が出たことに関して読者たちが議論する。これら二つの「ブランド」の価値を相対的に評価すると、という話題も出た。(メッセージ数 8)

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TidBITS 827 に二つの訂正 -- スクリーンショットのキーボードコマンドに関する先週号での訂正に関連して、読者たちから Snapz Pro X についての話題と、それから Mac OS X でスクリーン画像をクリップボードに取り込むキー組み合わせについての情報が寄せられる。(メッセージ数 3)

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