TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#832/05-Jun-06

単なる噂が、どれほど容易くニュースに変貌してしまうことか。GoLive と FreeHand がスクラップ置き場に投げ捨てられる運命だろうという声が囁かれる中、Glenn Fleishman が自慢の多言語能力を生かして真実を掘り起こす。また今週号では、Adam が J. D. Lasica の本“Darknet”をレビューし、著作権や知的財産といったものに人々がどういう反応を示すものなのかについて理解を深める。それから Joe Kissell は FileMaker Mobile 8 の中に奇しくも映し出された Palm ハンドヘルドの将来に思いを馳せる。その他のお知らせとしては、Apple が QuickTime 7.1.1 を出していくつかの抜け穴を埋め、私たちからは新刊の電子ブック“Take Control of iWeb”と“Macworld iPod and iTunes Superguide”が登場、SmileOnMyMac の TextExpander が当たる DealBITS 抽選もある。

記事:

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MailBITS/05-Jun-06

QuickTime 7.1.1 をリリース -- Apple は先週、一部の Adobe 社製品ユー ザーには重要な、QuickTime の小さなアップデートを公表した。QuickTime 7.1.1 ではインテルベースの Mac に Adobe Creative Suite 2 (CS2) をインス トールした場合に発生する問題を修正する。又、これは Keynote で作ったプレ ゼンテーションを iDVD へエクスポートする際の問題を修正し、そしてインテ ル Mac においてサード・パーティー製の起動項目がある場合に生じる問題にも 対処している。QuickTime 7.1.1はソフトウェア・アップデートか、49.4 MBの 単独ダウンロードにより入手できる。[JLC](田中)

<http://www.apple.com/support/downloads/quicktime711.html>(日本語)アップル - サポート - ダウンロード - QuickTime 7.1.1


DealBITS 抽選: SmileOnMyMac の TextExpander

文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: 笠原正純<panhead@draconia.jp>

ユーティリティソフトウェアの中でも最も古いカテゴリの一つは、省略入力に関するものだ。これは驚くにはあたらない。コンピュータは我々が仕事をするのを省力化することを期待されているのだから。それに、一部を入力するだけで住所全部に置き換えてくれるユーティリティがあるというのに、郵政省メールの住所を書くのに毎回手入力したい人がいるだろうか?SmileOnMyMac は最近、Peter Maurer の注目に値する Textpander ユーティリティを獲得、アップデートし、同種のプログラムの中で最高のものにした(そして、TextExpander と改名した)。このプログラムが展開表示するもの(スニピットと呼んでいる)にはフォーマット付きのテキストやグラフィックを含めることができ、省略語中の大文字と小文字は区別される。さらに、展開されたものの中にさらに展開すべき省略語を含むこともできる。これにより、入れ子状のスニピットを使うことができる。登録した snippets を入力するためのメニューバー上メニューやサービスメニュー、拡張実行後のカーソル移動等を提供する。そして、同種のユーティリティとの、スニピットのエクスポート・インポートもできる。

<http://smileonmymac.com/textexpander/>(日本語)TextExpander:入力中に省略形の代わりにテキストスニピットを自動的に挿入する

今週の DealBITS 抽選では、一本 $29.95 の TextExpander を 5 本、賞品にする。幸運な当選者になれなくても TextExpander の値引きを受けることができるので、下記リンクの DealBITS ページで応募して頂きたい。寄せられた情報のすべては TidBITS の包括的プライバシー規約の下で扱われる。どうかご自分のスパムフィルターに注意されたい。当選したかどうかをお知らせする私のアドレスからのメールを受け取って頂くのだから。前回の DealBITS 抽選では、当選したにもかかわらず、何回も電子メールが返送されたために賞品を受け取れなかった人がいた。また、もしもあなたがこの抽選を紹介して下さった方が当選すれば、紹介に対するお礼としてあなたの手にも同じ賞品が届くことになるのもお忘れなく。

<http://www.tidbits.com/dealbits/textexpander/>
<http://www.tidbits.com/about/privacy.html>(日本語)TidBITS プライバシー規約

[訳注: 応募期間は 11:59 PM PDT, 11-Jun-2006 まで、つまり日本時間で 6 月 12 日(月曜日)の午後 4 時頃までとなっています。]


GoLive, FreeHand 終焉の噂からよみがえる

文: Glenn Fleishman <[email protected]>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>

同僚でもあり TidBITS の編集主幹でもある Jeff Carlson が叫ぶ、"おい、GoLive は死んだぞ!" 私はながーい悲鳴をあげる "ノォォォォ・・・!" そして言う "ついに来たか!" と。(我々はこれまで "Real World GoLive" を何回か一緒に書いてきたので、このプログラムについては長いこと注意を払ってきた経緯がある。)

昨年の Adobe による Macromedia の買収以来、Adobe GoLive (Macromedia Dreamweaver の方が強かった) とその放蕩息子の Macromedia FreeHand (Adobe Illustrator の方が強かった) の運命についての憶測の雲は途切れることはなかった。2007年に予定されている Creative Suite 3 のリリースのことも考慮に入れると、この二つの会社の製品群がどの様に統合されていくのかは未だ定かではない。従って、Adobe がもう一つ成果の出ていないこれら二つの製品を止めるかも知れないというニュースは必ずしも驚きには値しない。

しかしながら、本当の驚きはこのニュースは贋物であったという事のみではなかった:この噂がニュースに成り代わった道筋には実に胡散臭い翻訳が関わっていた。この話を辿っていくと、意図的かそうでなかったかに拘わらず何かが正当に発表されたのかどうかすら推測するのは困難である。

噂の尻尾を追いかける -- この探索の旅は Macworld のフォーラムサイトである MacUser から始まった。ここには、これら二つの製品は死んでしまったという話が載せられ、それに伴う結構気の利いた分析も提供されていた。この記事によると、今後の開発は計画されていないが、将来にわたるサポートは約束されているとしていた。しかしながら、Adobe の情報源は明らかにされておらず単にリンクが一つ示されていただけである。

<http://www.macuser.com/software/adobe_axes_extraneous_software.php>

このリンクを辿ってみたら Macsimum News に行き当たった。そこでは Adobe Systems France の経営陣の一人である Robert Raiola がヨーロッパでの Adobe Live カンファレンスで、これら二つの製品は今後開発されないであろうとコメントしたと報じていた。この記事では多少の分析結果には触れているが Adobe の情報源は明らかにされていない - 一つのフランスのサイトである MacGeneration に対する謝意だけである。

<http://www.macsimumnews.com/index.php/archive/goodbye_to_freehand_golive/>

幸いにして私はフランス語を多少読める。MacGeneration に足を踏み入れてみたら、一つの記事を発見できた。それは基本的には Macsimum News サイトで翻訳されたものである - "この情報は Frederic の好意によるものである" という説明は訳されていなかった。と言うことは、MacGeneration はその会場には行っておらず、一読者か同僚が語ったものを報じただけである。私の勘定では、MacUser は 4番煎じのニュースとなるが、本当にそうか?

<http://www.macgeneration.com/mgnews/depeche.php?aIdDepeche=121149>

私は昔はドイツ語も堪能であったので、MacGeneration が報じている他の記事も読んでみた。これは、Macnews.de の同僚が Adobe の中央及び東ヨーロッパ地域会社の PR マネジャーである Alexander Hopstein と話したこととして報じたものである。Macnews.de は書いている、Hopstein によると FreeHand 廃止の報告は正しくないと;GoLive については触れていない。彼の言によれば、"FreeHand は独立商品として提供され続けるであろう。"

<http://www.macnews.de/news/76355>

実際 Macnews.de の人たちは MacBidouille を指し示していることに私は気づいた。どうもそこがこのニュースの最初の出所らしいのである。このリポートによると、Frederic は Adobe Live からの報告として FreeHand の死を伝えてきたが、GoLive が死んだとは言っていない。いつか GoLive にさよならを言う日が来るのは間違いないとコメントしているが、これが会場からの PR 担当から発せられた言葉とは到底思えないのである。この件に関するアップデートとして報じられているのは、FreeHand の開発は中止となったが GoLive の開発は "特定のアプリケーション" 用に継続されるであろう、その結果として他のソフトウェアへの埋め込みモジュールという形に姿を変える可能性もあると。いずれにしても全てが多少曖昧である。

<http://www.macbidouille.com/news/2006-05-30/#12856>

Adobe の反応 -- このニュースが広がるのに応じて、Adobe は基本的に次の様な言い方をした、"いや、いや、いや、フランス事務所が言ったと報じられている様には言っていない。" Adobe の公式の発表は:

"Adobe は GoLive と FreeHand のサポート及び、顧客の [単数形、原文のまま] ニーズに応じた開発は継続していく計画である。Web デザイン/開発及びベクタグラフィック/イラストに関して言えば、 Dreamweaver と Illustrator は明らかに業界を先導している製品である。従って、Adobe はこれら二つの製品の周りにその開発努力を集中していくと思っていただいていい - とりわけ将来の革新と Creative Suite 統合に関しては。"

(上記で "顧客の" を単数形で表したのは単なるミススペルであり、Adobe がその製品開発計画を GoLive と FreeHand を使っている一人のユーザーだけを念頭においてするとは思わないこととしたい。)

この一連の話は、ある言語で気楽に語られた事がいつの間にかニュース、しかもその内容は正直いって多くの人がそうなるであろうと予想してものと同じ、となっていく過程を示す興味深い (そして多少滑稽な) ものである。Adobe は "これらの製品を顧客のニーズに応じて開発していく" と言っているが、そこには場合によっては GoLive または FreeHand を殺したり売却したりする自由度は残されている。けれども、Adobe がこれらの弁護のために早い反応を示したという事実を見れば、2007年は Adobe の動向に注意を払っている人達にとってはとても面白い年となりそうである。


J.D. Lasica の Darknet: 著作権戦争のさなかにある人々

文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

ものを書くことで生計を立てている者の一人として、私はいつも、この著作権戦争のさなかに起こりつつあるすべてのことに目を配るように心掛けている。ここで言う著作権戦争とは、さまざまのタイプのメディアに関して著作権を所有している巨大企業たちと、そうしたメディアを消費し使う立場にある一般大衆との間に今も繰り広げられつつあるせめぎ合いのことだ。一部ではコンテンツ・カルテルという呼び名で知られているこれらの企業がビジネスを進め顧客たちを扱っている、そのやり方を私は基本的に認めることはできないが、それよりもずっと深刻なことだと私が思うのは、彼らがたっぷりと貯えた資金力を使って法律制定のプロセスに影響を与え、例えばあの根本的に問題のある法律、デジタルミレニアム著作権法 (Digital Millennium Copyright Act, DMCA) のようなものを作らせる力となっていることだ。けれども、現在の著作権制度の愚劣さをあらわす理論的な状況を詳しく論議したオンライン討論のようなものには、これまで私は数限りなく参加してきたものの、実際に著作権や DMCA、あるいはコンテンツ・カルテル各社の戦術が、普通の人々のメディア関連の活動、公正な使用法の常識的な基準に合致した活動に対して現実の衝突を引き起こしたという実例には、私はまだ一度も出会っていない。

私にとっては幸運なことに、著明なブロガーの J.D. Lasica が、二年という歳月を費やしてこうした実例を集め、それを一冊の本にまとめあげてくれた。それが“Darknet: Hollywood's War Against the Digital Generation”だ。Lasica はまず DMCA について、それからコンテンツ・カルテルの望まない方法に基づくメディアの使用を弾圧しようという他のいろいろな試みについて、見事な説明を展開する。こうした分野で現在いったいどんな危険が潜んでいるのか、確かなことを知りたいと思われる方には、そのことのためにこの本を読むだけでも充分な価値があるとお薦めしたい。けれども、私が読んでいて一番のめり込んでしまったのは、現実の人々の物語、さまざまの異なった理由でこの著作権制度と衝突を起こしてしまった人々の実体験を彼が語っている部分だった。例えば、彼はある福音派キリスト教会の牧師の話を語る。この牧師は説教の中で、いろいろな映画やテレビ番組の一部分を使っている。彼のこの行為が「公正な使用」にあたるのかということに議論の余地があろうとなかろうと、とにかく彼が DVD からその一部分をリッピングしたという事実だけで、既に DMCA に抵触しているのだ。また、ある Intel 幹部が彼の息子の所属する Pop Warner フットボールチームのために作った自家製の DVD も、やはり非合法となる。なぜなら、彼はこの DVD の中に、ファンたちが熱狂して応援している一場面をフットボール映画“Rudy”の DVD 版から取り込んだり、また NFL の選手がタッチダウンダンスをしている場面や、オーディオなどを“Who Let the Dogs Out?”から取り込んだりしているからだ。おもしろいのは、Lasica が実際にこの幹部の自家製 DVD について MPAA 代表の Jack Valenti に説明している所で、それに対して Valenti はにべもなくこう答えている。「その人は連邦法違反を犯している」と。それから、限定仕様の CD を作ろうとしたテネシー州のミュージシャンの話もある。彼は、1920 年代南部の無名のブルースアーティストたちの楽曲でもう何十年も絶版になっているものを集めて CD にし、彼らの音楽を守ろうと考えた。ところが彼のこの非営利の努力に対して Sony Music が $40,000 を要求してきたので、彼はその努力を地下に持ち込むこととなり、その過程で著作権を犯すことになった。

<http://www.darknet.com/>

けれども、すべての話がこんな風に、何というか、明々白々の話という訳でもない。Lasica はまた、そこらにいるありふれた子供たちの話も語る。彼らは、10 歳から始めてその後七年間、“Raiders of the Lost Ark”をシーンごとに忠実に真似て作った作品を撮り溜めていた。けれどもそういうものをあなたが目にすることは決してない。法律による報復が恐いからだ。(著作権の伴うオリジナルな作品に「本質的な類似性」を持つような作品に対しては、たとえそれが商業的に上映されることのないものであっても、一年間の懲役刑あるいは最高 $50,000 の罰金刑が課される可能性がある。)それからこれはちょっと皮肉な話で、これまで私が聞いたことのなかったものだが、Lasica はあるユタ州の家族の話を語る。この家族は、R-指定の映画をセックスや暴力のシーン抜きで見たいと考え、ムービー・フィルタリングのテクノロジーを使って普通の DVD を再生する際に不適切なシーンや台詞などを消した上で見られるようにしていた。ところがそのテクノロジーを作り出した会社数社がハリウッドからの告訴を受けてしまい、告訴されたという事実のみで出資者たちが怖じ気づいたためにこれらの会社は資本不足に陥り、少なくとも一社は廃業に追い込まれてしまった。(著作権関係の愚劣さをあらわすさらに興味深い話の数々を知りたければ、2006 年 5 月 19 日に放送された NPR ラジオの番組 On the Media あるいはそのポッドキャストの“Fair Use Follies”コーナーを読むか聴くかしてみられるとよい。)

<http://onthemedia.org/otm051906.html>

ムービー交換の地下世界に Lasica が旅するという部分も、魅力たっぷりだ。ここには某重要人物たちとの iChat によるインタビューもあって、ムービーを獲得、暗号解読、エンコード、そして配付するという、時間と手間のかかる作業をいかにして「リリースグループ」内で分担し合っているかの詳細が語られる。これは何にもましてソーシャルなネットワークの姿だと言えよう。なぜなら、どの過程においても人の手から手へお金が渡されるということが一切無く、しかもこの「リリースグループ」は全世界規模で拡がっていることが多いからだ。メンバーたちは自分たちのしていることが映画会社の利益を損なうかもしれないことははっきりと認めているが、それでも自分たちは始終映画館にお金を払って行っているし、DVD もいつも買っている、少なくとも見る価値のある映画については、と言う。(このインタビューの全文は、一種独特の IM 言語(インスタント・メッセンジャー言葉)でだが、Darknet ウェブサイトで読める。)

<http://www.darknet.com/2005/05/interview_a_maj.html>

Lasica は決して無関心の傍観者ではない。彼は Ourmedia の創始者としても知られている。これはオープンソースのプロジェクトおよびウェブサイトで、その使命はあらゆるパーソナルなメディアを - 無料で - ホストしアーカイブすることだ。この“Darknet”における我々の文化的未来に対して、たとえあのコンテンツ・カルテルの代表者たちがその庇護者として(ましてや創出者として)やって来ることがなかったとしても(現実はまさにその反対だろうが)そこに厳然と見えているのは Lasica 自身の姿だ。彼は、ただ問題点を記録し、人々が滑りやすい危険な坂道を指摘するだけの役割に甘んじているのではない。この本の最後には、すべての人の必要に応えることのできるデジタルな文化を創り出すために彼が掲げた十カ条のロードマップが示されている。それだけではどうということもないかもしれないが、少なくとも最初の第一歩としては素晴らしい指針と言えるだろう。

  1. 私たちは皆、消費者であると同時にユーザーでもある。
  2. アーティストたちは、作品に対する報酬を支払われなければならない。
  3. 一般大衆のデジタルな権利は、認められなければならない。
  4. DMCA は、劇的なる書き直しを必要としている。
  5. 個人参与の文化を誉め讃えよ。非合法化はするな。
  6. Darknet は、大衆による平等化の大きな力である。
  7. インターネットは、娯楽のための媒介手段ではない。
  8. ファイル共有と Darknet を無関係にするために、革新せよ。
  9. 市場を信頼せよ。
  10. パブリックドメインを豊かにするための努力を促進せよ。

知的財産と著作権保護というこの話題全般について、多くの人々が感じているのと同様、もしあなたも混乱したりストレスを感じたりしているのなら、ぜひこの“Darknet”を手に取って読んでみられることをお勧めしたい。そうすることで、この問題に対するあなたの考えも、よりはっきりしたものになるかもしれない。これは重要な本だと私は思うし、またこの問題点は当分の間消えてなくなることはないだろうから。

<http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/0471683345/tidbitselectro00/ref%3Dnosim/>


FileMaker Mobile 8 と PDA の未来

文: Joe Kissell <[email protected]>
訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

Palm は最近、同社最初の製品 PalmPilot PDA の誕生 10 周年を祝った。私はこの製品を最初期から利用している熱烈なファンの1人だ。私が感動したのは、それ以前の大きな紙の手帳と異なり、すばやく検索ができ、コンピュータと同期できるということだった。しかし、PDA の使い道は、連絡先や、スケジュール、メモの保存だけにとどまらなかった。退屈な会議に出席しているあいだに電子メールの返信をしたり、無線モデムを接続してウェブで映画の切符を買ったり、暗号化メモプログラムを使ってパスワードや個人情報を保存したりした。画面はとても小さく、バックライトもなく、モノクロだったし、キーボードもなかったが、それでもできる限り、ラップトップの代わりとして PDAを使っていた。コンパクトであることを考えれば、欠点も気にならなかった。

<http://www.palm.com/>(日本語)Palm Japan

しかし、年を経るにつれ、私にとって(私の周りの Palm ユーザにとっても)携帯電話が PDA の機能を徐々に取り込んでいることが明らかとなり、同時に、ハンドヘルドの制約のために、ますます多くの作業を本格的なコンピュータで行わざるを得なくなっているように感じられた。私が現在持っている新しい機種は、画面はカラーで、メモリも多く、手書き認識も優秀なのだが、そのPalm ですら、使う機会は次第に減ってきた。今でも、ソリティアをしたりメモを取ったりということなら、携帯電話よりも PDA の方がよいが、それほどの差はない。そこで私は、PDA 専用機を携帯する意味はもはやなくなっているのではないだろうかと自問し始めた。私個人は、Plam OS や Windows Mobile OS で動くスマートフォンから恩恵を受けるようなユーザではないけれど、スマートフォンが役に立つ人もいるだろうと思う。携帯電話はいずれにしても持ち歩くのだとすれば、コンピューティング機能が豊富で、電車で仕事ができるようなものを持ち歩いた方がよい。では、従来型の Palm PDA についてはどうだろう。電話としては使えないというのに、それでも使う理由があるだろうか。

私が FileMaker Mobile 8 を見たとき、このような疑問が、私の頭にあった。この製品では、Palm PDA や Windows Mobile PDA で FileMaker Pro データベースの内容を閲覧したり編集したりすることができ、データをコンピュータと同期することもできる。ポケットの中の編集可能なデータベースというものが役に立つ場面というのは、いくつも考え付く。そして、まさにそのことが、Palm を使い続ける十分な理由となるかもしれない。Document To Go が Wordや Excel の書類をほぼ全機能にわたって編集できるのと同じように、私は当初、この Palm 版プログラムはそのデスクトップ版とほぼ同じ機能を持っていると、素朴に考えていた。

<http://www.filemaker.com/products/fmm/>(日本語)FileMaker Mobile 8 - FileMaker
<http://www.dataviz.com/products/documentstogo/index_palm.html>(日本語)Documents To Go Premium Edition: Word、Excel および PowerPoint ファイルを Palm OS 搭載のハンドヘルドで

結末を先に言うと、FileMaker Mobile 8 には大変がっかりさせられた。このプログラムが 2000 年に登場してから、このバージョンで4度目のメジャーリリースになったというのに、その最大のセールスポイントは、以前のバージョンよりも制限が少なくなったということでしかないように思われるからだ。

公正を期するために言えば、FileMaker Mobile 8 は謳われている通りのことをする。データはコンピュータと PDA とのあいだで正しくやり取りされるし、クラッシュなどの深刻なバグに出くわしたことはない。問題は単純で、できることがあまりに少ないということだ。

例えば、FileMaker Mobile を PDA で使うと、計算、集計、タイムスタンプの各フィールド、コンテナフィールド(写真など)、ラジオボタンフィールド、複数の値があるチェックボックスフィールド、複数のテーブル(およびそれに依存するリレーション)、カスタムフォーム要素、そしてあらゆる種類の画像を表示することができない。さらに、スクリプト、ボタン、入力値の制限に対応していない。実際、デスクトップデータベースに厳しい入力値の制限が設定されているフィールドがあると、PDA で入力した不正な値のせいで、同期が全くできなくなってしまう。(別の言い方をすれば、入力値の制限の設定を、FileMaker Pro は遵守するが、FileMaker Mobile は無視する。)

ほかにも数々の制限を並べ立てることもできるが、要するに言いたいことは、Palm でできることにはコンピュータでできることの面影がかすかに残るのみだということだ。データベースがテキストのみの単純なフラットファイルデータベースで、入力値の制限や計算、スクリプトなどをほとんどないし全く必要としなければ、FileMaker Mobile は非常に役に立つだろうと思う。例えば、レシピを保存して台所で手軽に参照する(そして編集する)ことも簡単にできる。また、毎日現場に出向く配管工や電気工が備品を管理するのにも使える。学生や研究者にとっては、手軽な文献目録保存ツールとなる。しかし、70 ドルという値段を見れば、もっと多くを期待したいし、まして作っているのがFileMaker, Inc. なのだから、なおさらだ。

FileMaker の宣伝文句は、FileMaker Mobile 8 の新機能、例えばサーバにホストしたデータベースとの同期などを喧伝している。その新機能によって、以前のバージョンよりも便利になったことを否定するつもりはない。同期の前または後にスクリプトを走らせることもできるから、入力値の制限の問題に対処することも可能だろう。しかし、繰り返すが、これらの変更点は、機能の追加というよりは、制限の減少というものだ。

私は当初、この状況に対し、FileMaker Mobile に有利な方向で解釈してみようと思った。私が望んでいるようなことは、ひょっとして、PDA の貧弱な処理能力を越えているだけなのかもしれないと考えてみた。しかし、その考えは成り立たなかった。HanDBase という Palm アプリケーションは、リレーショナルデータベース、フォームのデザイン(PDA だけで)、計算、多段階ポップアップリスト、(グレースケール)画像のサポートなど、FileMaker Mobileに欠けているさまざまな機能を備えている。残念ながら、HanDBase Desktopアプリケーションの Mac OS X 版は開発が止まっており、FileMaker Pro と同期するためのコンジットも悲惨なほど時代遅れで、Classic(および Palm Desktop と FileMaker Pro 両方の古いバージョン)を必要とする。もう1つの Palm データベース JFile も、PDA だけで FileMaker Mobile よりもずっと多くの機能を実現しているが、これもまた、FileMaker Pro と同期するためのコンジットは時代遅れで、FileMaker Pro 6 かそれ以前を必要とする。ということはつまり、Palm のデータベースを最近のバージョンの Mac OS X で最近のバージョンの FileMaker Pro と同期しようとすれば、悲しいことに、FileMaker Mobile 以外に選択の余地がない。

<http://www.ddhsoftware.com/palm_software.html>
<http://www.land-j.com/jfile.html>

FileMaker Pro の本当の力は、柔軟なカスタマイズ可能性、リレーション機能、スクリプトなどの高度な機能にあると、FileMaker, Inc. は長年強調してきた。それは確かに正しい。FileMaker Pro は素晴らしいアプリケーションであり、バージョン 8 については、その利点を言い尽くすことができない。しかし、その素晴らしい機能を存分に活かして、本当に複雑なデータベースを作ったとしたら、それをモバイルと同期しようとすると大変なことになる。これが私の不満の核心だ。FileMaker Mobile が得意とすることは、FileMaker Pro が得意とすることと、根本的に異なっている。FileMaker Pro の各種付加機能を活用するのはもっともなことなのだが、実際に活用しているユーザは、FileMaker Mobile が対象とするユーザではないということになってしまう。

ここで先ほどの疑問が再び浮かび上がる。FileMaker Pro のデータベースにどこででもアクセスできるということは、PDA 専用機を携帯し続けるためのキラーアプリとなり得るだろうか。あるいはまた、このことは、現在使っている携帯電話を買い換える必要が生じたとき、Palm ベースまたは Windows ベースのスマートフォンを購入することに対する誘惑となるだろうか。私の答えは、両方とも明らかに、否だ。もしも私が Windows ユーザなら、選択の余地があるだろう。そしてもちろん、Mac で Windows を走らせることはできる。しかし、いくら私が "Take Control of Running Windows on a Mac" をまるまる一冊書いたからといって、私は Windows を使う習慣をつけたくはない。たとえWindows を使ったとしても、私が本当に欲しいと思ったものを手に入れられるわけではない。私が欲しかったものは、FileMaker Pro のデスクトップ版とシームレスに統合された、デスクトップ版と本質的に同等なポケット版なのだ。

<http://www.takecontrolbooks.com/windows-on-mac.html?14@@!pt=TB832>

最後に、私はこう自問せざるを得ない。FileMaker が十分な機能を持ったFileMaker Mobile を生み出せないということが、ひょっとして、従来型のPDA 一般に対する市場の興味を反映してはいないかと。Blackberry や Treoなど、元来は通信ツールとして作られた機器が市場で勢いを増している一方で、リアルタイムの通信ができない PDA の売り上げは落ち込んでいる。

Palm は 10 年前の PalmPilot で世界を席巻した。しかし今では、Macworld Expo のようなマニアの祭典ですら、Palm ハンドヘルドを使っている人を見かけることはめったにない。使われているのをよく見るのは、携帯電話と統合されているものだ。携帯電話と PDA との収斂は、現実には対等合併ではない。携帯通信機器が、基本的なカレンダー機能と連絡先管理機能だけを提供することで、ほとんどの人が PDA に実際求めている機能の全てをまかなってしまったらしく、PDA の概念をほぼ完全に包摂してしまったのだ。


Take Control ニュース/05-Jun-06

文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

"Take Control of iWeb" で iWeb ユーザもクリエイティブに -- Apple の新しい iWeb アプリケーションは素早く手軽にウェブサイトを構築できることを狙ったものだが、もしもあなたが基本的な作業しかできずに困ってしまったり、アマチュアっぽい結果にしか仕上がらなくて不満に感じたりしているのなら、ぜひ Steve Sande の 123 ページの電子ブック“Take Control of iWeb”で、いろいろなアイデアや助言をご覧あれ。この本で Steve は、iWeb サイトを構築して .Mac あるいはあなた独自のウェブホストにアップロードするまでのステップ・バイ・ステップの説明を展開してくれるので、あなたはまるで彼の肩ごしに彼が作業するのを眺めて、彼がプロのデザイナーの目をもって iWeb テンプレートに手を入れて行くのを目の当たりにできるかのようだ。Steve はあなたを導いて各種の基本的な iWeb ページを作る最良の方法を教えてくれる。ブログ、ポッドキャスト、それにフォトページなども(他の iLife アプリケーションとの統合を使って)カバーされる。けれども彼はそこにとどまらず、基本レベルを超えたものについても特にページ数を割いて説明を加えてくれる。人の目を引くグラフィックス効果を作るにはどうするか、ポッドキャストやビデオを iWeb で使えるようにエンコードする方法は、あなたのサイトがより高速でロードされるように画像を編集する方法とは、イメージマップを作るには、さらにはあなた自身のオンラインストアを作るにはどうするかまでも学べる。複数個のサイトや複数台の Mac を持っている人のためには、Steve は一つのサイトを二台の Mac で編集する方法や、複数個のサイトを複数の iWeb ファイルで保存する方法なども解説している。その中身がわかればわかるほど、あなたもきっとこの本が欲しくなるはずだ!

<http://www.takecontrolbooks.com/iweb.html?14@@!pt=TRK-0031-TB832-TCNEWS>

既に“Take Control of iWeb”を事前注文して下さった方々は、今こそお持ちの PDF の最初のページにある Check for Updates ボタンをクリックして下さるべき時だ。そこで開くウェブページから、完成した電子ブックをダウンロードして頂けるようになっている。事前注文して下さった何百人もの皆さんに、感謝を捧げたい。中でも、リリース前の原稿に対してコメントや提案をお寄せ下さった方々には特別の感謝を申し上げたい。

iPod をマスターしよう: "Macworld iPod and iTunes Superguide" -- 私たちの Macworld Magazine 社での友人たちが、ピカピカの新刊書、iTunes と iPod に関する Macworld の選りすぐりの記事を 88 ページの電子ブックにまとめた“Macworld iPod and iTunes Superguide”を引っ提げて帰ってきた。筆者は Chris Breen、Dan Frakes、Kirk McElhearn、それに Jim Heid といった熟達者の面々だ。この電子ブックの内容は 22 個の詳細なセクションに分かれ、音楽をあなたの Mac に取り込む方法 (最良のエンコード設定を選ぶ方法や、テープや LP レコードから読み込む方法など)、楽曲の管理方法 (大きなライブラリ、クラシック音楽、ポッドキャストなどに重点)、ビデオの管理 (iPod への変換も含む)、iPod との接続 (複数台の iPod やコンピュータの扱い方さえも含む!)、iTunes や iPod で起こる問題のトラブルシューティング、さらには最高の iPod アクセサリの見つけ方までもカバーしている。実際、ここでその内容のすべてを要約するのは無理というものだ。ぜひ、目次ページですべての項目を展開表示にして一覧するとともに、前書きにも目を通して頂くことで、内容の概観を掴んで頂きたいと思う。

もしもあなたの願いが音楽と、iTunes、それに iPod を聴くことだけについて手助けが欲しいというのなら、この“Macworld iPod and iTunes Superguide”だけで充分だろう。けれどももしもあなたがただ音楽を聴くだけのこと以上のものを iPod に求めたいという気持ちをお持ちなら、もう一冊の私たちの電子ブック“Take Control of Your iPod: Beyond the Music”であなたの iPod を一段高いレベルへと引き上げることができるだろう。この二冊の電子ブックを同時に購入して下されば、25% お買得になる。

<http://www.takecontrolbooks.com/mw-ipod-itunes.html?14@@!pt=TRK-0038-TB832-TCNEWS>(日本語)Take Control Ebooks: あなたの知りたいことがすぐわかる

Macworld の電子ブックは私たちの電子ブックとは少し違ったデザインになっているので、ご購入の前にまず無料サンプルをダウンロードして頂き、どんな見栄えか(また、ご自分で印刷なさる方は、印刷するとどんな具合か)をまず手に取って試してみられることをお勧めする。紙に印刷された本としてご購入なさりたい方は、Macworld からフルカラーのプリント版が $24.99 で販売されているのでそちらをどうぞ。

<https://m1.buysub.com/webapp/wcs/stores/servlet/ProductDisplay?catalogId=11901&storeId=11901&productId=119357&sourcekey=PRT0605TPG>


TidBITS Talk/05-Jun-06 のホットな話題

文: TidBITS Staff <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

各話題の下の1つ目のリンクは従来型の TidBITS Talk インターフェイスを開く。2つ目のリンクは私たちの Web Crossing サーバ上で同じ討論に繋がる。画面上の見栄えが異なるほか、こちらの方が高速のはずだ。

セキュリティアップデートで Mail がクラッシュ? -- 最新の Mac OS X セキュリティアップデートを入れた後で起こったいくつかの問題点について読者たちが詳しく報告する。ただ、この問題はそれほど広範囲には影響を及ぼしていないようだ。(メッセージ数 8)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=3012>
<http://emperor.tidbits.com/TidBITS/Talk/844/>

QuickTake から iPhoto へ -- Apple の初期のデジタルカメラを持っている人が、その中の写真を iPhoto に持ち込みたいと考えている。でも、古い PICT フォーマットの写真を JPEG に変換して iPhoto で読めるようにするには、どの方法がベストなのだろうか? どうやらこれは、何か一つの画像変換プログラムさえあれば簡単にこなせる仕事という訳には行かないようだ。(メッセージ数 8)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=3013>
<http://emperor.tidbits.com/TidBITS/Talk/845/>

SE/30 を Ethernet LAN で -- Macintosh SE/30 を現代の Ethernet ネットワークに接続したい時、熟練者のアドバイスが欲しければどこを探せばよいだろうか? そして、必要なハードウェアを喜んで譲ってくれるような人たちは、いったいどこを探せば見つかるだろうか? その答は、もうお分かりだろう。(メッセージ数 14)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=3014>
<http://emperor.tidbits.com/TidBITS/Talk/846/>

Mac OS X でフォントの間違い -- Mac OS X のフォントについて最もよくある間違いを避けることについて語った Sharon Zardetto Aker の記事を受けて、フォント管理ツールについての議論が起こる。(メッセージ数 2)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=3016>
<http://emperor.tidbits.com/TidBITS/Talk/848/>

緊急モーションセンサーのハック -- Apple の最近のラップトップ機にある緊急モーションセンサーを利用する新しいソフトウェアを紹介した Adam の記事を受けて、このセンサーの加速度探知機についての議論や、MacBook を建築工事用の非常に高価な水準器として使うことができるものかどうか(実はできる!)という話が盛り上がった。(メッセージ数 9)

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tlkthrd=3019>
<http://emperor.tidbits.com/TidBITS/Talk/851/>


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Tiger でのファイル共有、TidBITS 翻訳チーム訳
Panther でのユーザとアカウント、TidBITS 翻訳チーム訳
Panther のカスタマイズ、TidBITS 翻訳チーム訳
Panther へのアップグレード、TidBITS 翻訳チーム訳

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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2006年 6月 10日 土曜日, S. HOSOKAWA