TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#859/11-Dec-06

多くの人たちがアメリカ合衆国の Thanksgiving の休暇でのんびりしていた間、Adam と Tonya は溜まっていた読書とビデオ鑑賞をこなすのに一生懸命だった。Adam は Apple 社の初期の日々を描いた DVD“In Search of the Valley”について概観し、Tonya は Suzanne Stefanac の“Dispatches from Blogistan”と共に旅を楽しむ。また今週号では、Glenn Fleishman が最近の Mac のいくつかに 802.11n ワイヤレスネットワーキングハードウェアが搭載されていることについて沈思黙考し、Adam が Nike+iPod Sport Kit におけるプライバシーの問題を検討するとともに RollerMouse Pro をレビューする。また DiskWarrior 4 のリリースについてもお知らせする。

記事:


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DiskWarrior 4 が Intel 互換性を追加

  文: Jeff Carlson <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Alsoft が DiskWarrior 4 をリリースした。あの重要なディスク修復ユーティリティの待ちに待ったアップデートだ。DiskWarrior はディスクのディレクトリ情報を突き止めて修理する。これで、何の物理的故障あるいは他種のデータ障害がなくても他の方法では使えなくなってしまったようなパーティションも生き返らせることができる。(DiskWarrior は、メジャーなディスク修復アプリケーションを比較した David Shayer の記事“ディスク修復牧場の決闘”(2003-11-24) でも高く評価されている。)DiskWarrior 4 では Intel ベースの Mac との互換性を追加し、ファイルアクセス権の修理と、壊れた環境設定ファイルの特定とが可能になり、Mac OS X 10.4 Tiger の下でも Attribute B-tree と Access Control List が修復できるようになった。このユーティリティは Mac OS X 10.3.9 かそれ以降を必要とする。DiskWarrior 4 の価格は $100 で、従来のバージョンからのアップグレード価格は $50、またインストールディスクの送料として $9 かかる。(今回のアップグレードにはダウンロード可能なバージョンは提供されていない。)


Nike+iPod の生むプライバシー懸念

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

この問題は“P”の文字で分類しておこう。つまり“privacy”(プライバシー)の P でもあり。“paranoia”(偏執狂)の P でもある。Washington 大学のある研究グループが発表したところによれば、Nike+iPod Sport Kit を使っているとその情報が盗み見られ て、何物かにこっそりと Nike+iPod ユーザーの行動と位置が追跡されてしまうこともあり得る、とのことだ。

実は、Nike+iPod のセンサーは、Nike 製の靴では内蔵され、他の靴には上部に取り付けるようになっているが、これが個別の認識コードを含むメッセージを常時発信していて、Nike+iPod レシーバがそのコードによって特定のセンサーとの組み合わせを識別するようになっている。センサーが靴に取り付けられている必要は特になく、どこに置かれていたとしても、足の一歩を示唆するような種類の衝撃を探知すれば知らせることになる。このセンサーは最大 60 フィート (18.2 メートル) 離れた場所でレシーバが信号を受け取れるだけのパワーで電波を発信しているが、手製のレシーバを使って離れた所から特定のセンサーの存在を探知して識別することも可能となってしまう。このセンサーは信号を送信するのみで、レシーバからの返信を照合することはしていないので、より大きな、あるいはより感度の高いアンテナを使えばずっと遠くから信号を拾うことも理論的には可能だ。

もちろん、あなたとあなたの Nike+iPod センサーとの間には何も本来的な繋がりがある訳ではないが、いったん誰かが目で見てあなたを特定してしまえば、その後はあなたの Nike+iPod の持つ個別の認識コードを使って全く人の手を必要とせずにあなたが追跡されるということも可能になる。

そうされるのを防ぐには、Nike+iPod を家に置いておくという以外では、使わない時にこまめにセンサーの電源をオフにするのが唯一の方法だが、そんなことをわざわざする人は少数だろうし、Apple もそれを容易にする配慮はしていない。それにもちろん、あなたがワークアウトのために Nike+iPod Sport Kit を使いたい時には、その間センサーをオンにしておかなければ何の意味もない。

けれども本当の疑問点は、誰か悪者が Nike+iPod Sport Kit におけるこのデザイン上の問題点を利用して、誰かにストーカー行為をするなどその人の安全を脅かすような行動に出る可能性が実際どれほどあるのか、という疑問についてのことだ。残念ながら、技術的な面からその答を出すのは実は難しいことではない。今回の研究グループは、Windows XP ラップトップ機と、市場で入手可能なミニチュア“gumstix”コンピュータ($250 以下で売られている)に、 Intel Mote と組合わせた Microsoft SPOT Watch、それに Linux の走る iPod(何の特別なハードウェアも必要ない)これだけの機器を使って、実際に監視用の装置を作ってみせた。その上彼らは Google Maps ベースのウェブアプリケーションも書いて、監視したデータをリアルタイムで表示しその追跡データを電子メールや SMS テキストメッセージで送ることもできる、というところまで実演してみせた。(これらの機器を一つ一つ示した彼らのムービーをぜひご覧あれ。)これらの機器はどれも作るにはいくらかの技術的知識を要するものばかりだし、この研究チームはソースコードを公表する意図は持っていないが、それでもこの攻撃が政府機関の見えざる手にのみに限られたものではないということは明らかだろう。

Apple はしばらく前に 450,000 組以上の Nike+iPod Sport Kit が売れたと発表している。だから、この追跡の危険に晒される可能性がある人々のインストールベースは既に大規模なものとなっている。たとえ Apple がこの製品にアップデートを加えて問題の可能性を除去したとしても、対象が膨大な人数になっていることに変わりはない。理論的には、そのようなアップデートはそれほど難しいものではない。ただ単に、センサーとレシーバが認識コードを確認し合い、かつ定期的に認識コードを変更するようにすればよいだけのことだ。けれども、ちっぽけな $30 の機器という足枷があるところにそれを実装するとなれば、達成は困難なものとなるかもしれない。

では、もしもあなたが Nike+iPod のユーザーなら、あなたはこのことを心配すべきか? これは、手強い質問だ。たいてい私は常識に従うことにしており、この場合常識は私に Nike+iPod センサーを靴の中で持ち運んでも何か悪いことが起こる可能性は低いだろうと告げている。しかしそれでも、概念実証タイプのセキュリティ危険性の多くのものと比べれば、今回の問題は結構心配なものとも言える。簡単に実装ができることと、現実生活での危険と結び付いていることが理由だ。今回の 研究グループの論文にはかなり明瞭な、実際にありそうに思えるようなシナリオがいくつか紹介されている。例えば、嫉妬にかられたボーイフレンドが自分のガールフレンドを追跡するとか、元ボーイフレンドだった男がこれを使って元ガールフレンドの彼女に「偶然」ばったりと出会うとか、あるいはストーカーとか、プロの泥棒がだれかが在宅している時間帯を監視するとか、非倫理的な団体がそのメンバーや雇い人たちを監視するとか、商店が客の行動を追跡するとか、さらには強盗がこれを使って被害者をあらかじめ「品定め」するとか、といった具合だ。

結局は、これは個々の状況に帰着するべきものだと私は思う。誰かがあなたの所在地を追跡したい動機を持っているかどうか、あるいはあなたが空き巣や強盗の被害に会いそうかどうか、きっとあなたは自分で自分の見極めがつけられるだろう。もしもあなたがそういうことに該当しているのならば、やはり注意すべきだとお勧めしたい。エクササイズが済んだら Nike+iPod センサーをオフにするか、取り外すかする方がよい。あるいは、別のワークアウト用機器に乗り換えるのもよい。特に、オタクのいそうな環境、例えば大学のキャンパスのような場所では注意すべきだと思う。けれどもそうではないたいていの人たちには、リスクも最小限、もっと直接的なプライバシー侵害と同等のことと思ってよいだろう。悪者たちは、物陰にこそこそ隠れて覗くという伝統的に確かな方法があるというのに、わざわざハイテクの方法に頼って悪さをしようと思うことが多いとも思えない。

おそらく、このセキュリティ問題から学ぶべき、もっと大局的な教訓は、私たちがますます深く「情報圏」の中へと物理的に足を踏み入れつつある(この概念に馴染みのない方は Luciano Floridi の記事“情報圏の未来に目を凝らす”(2006-09-25) を参照)ということから生まれるさまざまの懸念に、私たちがもっと注意を払わなくてはならないということだろう。何らかの機器のメーカー自身が意図してあなたがそれと気付かぬうちにあなたの個人的プライバシーを侵害するためにその機器を使おうとしたような状況は除外した上であっても、今回のような予期せぬ問題が発生することは今後ますます一般的になっていくと思われる。例えば道路の料金所で通行料を取るためのトランスポンダ(このデータが道路の所要時間マップの作成に使われている)や、GM の OnStar 自動車モニタリングサービス携帯電話 (あなたの現在の所在地が 300 メートル程度の誤差ですべて携帯電話のプロバイダに知られている)など、いろいろの状況でプライバシーの問題は発生する。今後登場して人気を博するようになる便利なパーソナル・エレクトロニクス製品も、きっとあなたのプライバシー情報にかかわる問題を抱えることになるだろう。


Mac の 802.11n チップは新しい無線の兆しか?

  文: Glenn Fleishman <[email protected]>
訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

I Intel Core 2 Duo プロセッサを搭載した新しい MacBook Pro がリリースされてほどなく、MacRumors.com フォーラムのメンバーの1人がこれをじっくり観察し、改定された仕様の中に、Atheros 製 802.11n チップセットを見出した。その少し前、MacRumors.com フォーラムの別のメンバーが、Core 2 iMacに Broadcom 802.11n アダプタが内蔵されているのを見つけたと書いている

802.11n というのは、無線ネットワーク規格の1つで、現在は技術標準機関IEEE で策定中だ。802.11n 規格は、Wi-Fi を構成している 802.11b(Appleは AirPort(日本では AirMac)とよんでいる)および 802.11g(AirPort Extreme(日本では AirMac Extreme))の後継にあたるが、下位互換性がある。(Wi-Fi というのは、ハードウェアの標章で、そのハードウェアが相互運用性のテストを受け、特定のテストに合格したことを示す。)

802.11b は 11 Mbps で動作し、802.11g の仕様は 54 Mbps となっているが、この数字はネットワークの理論速度で、無線機器が相互通信するときに使うビット列など、ネットワーク上のあらゆるオーバーヘッドを含んでいる。このオーバーヘッドのおかげで、データの塊を梱包してパケットとし、電波に乗せて送信することができる。802.11b の実際のスループットは 5 Mbps ほどで、802.11g では、いくつかのメーカーが独自に拡張した数々の機能がない場合、実際のスループットは 25 Mbps ほどになる。

それに対し、802.11n は、理論速度で 150 Mbps から 600 Mbps を実現する予定だ。実際のスループットは、最低でも 100 Mbps、付加機能を満載した最高級機器では 300 から 450 Mbps に達すると期待されている。802.11n ではMIMO(マルチプル・インプット・マルチプル・アウトプット)アンテナ・アレイが必要だ。これは数年前から製品化されている。MIMO アンテナを使うと、ネットワークの到達範囲が劇的に拡大し、近距離ではスループットが向上する。

Apple はどうやら、今の時点で 802.11n を導入することにしたようだが、それには問題がある。まだ規格は存在していないのだ。2006 年はじめのことだが、802.11 においてこの規格を検討しているグループ Task Group N がDraft 1.0 とよばれる最初のワーキング・ドラフトを作成し、それに基づいて、いくつかのチップメーカーがチップをリリースすることにした。Draft 1.0 は、1年以上に及ぶ駆け引きの結果生まれたもので、その過程ではタスク・グループが空中分解しかかり、無線ネットワークの世界が混乱に投げ込まれる寸前だった。Draft 1.0 は完成したといっても、文字通り、ドラフトに過ぎない。

この Draft 1.0 チップは、最終的な規格と相容れないかもしれない。今年販売された、いわゆる "Draft N" 機器については、最終的に認可された規格に対し、あるいは将来のドラフトに対しても、ハードウェア・アップグレードができるという保証はまったくない。(ハードウェアの交換を保証している企業は Asus だけだが、それも、最終的な規格が完成する予定の 2008 年以降の話だ。)つまり、現在リリースされている Draft N チップは、相互に互換性があるかもしれないが(それも保証のかぎりではなく、現在の大きな障害の1つと見なされている)、将来の本物の 802.11n 機器とは、せいぜい下位規格の802.11g と同じ速度でしか通信できないかもしれない。

現在のところ、最初のドラフトによせられた数百の技術的コメントを織り込んだ Draft 2.0 が、2007 年 1 月に完成し、2007 年 3 月に承認される予定だ。その時点から数か月以内に、ドラフトを基にして、Wi-Fi マークのついた機器のテストと認定を行う団体 Wi-Fi Alliance, が、相互運用性を保証するための要項を作成する。ここまでは、2007 年 6 月にはほぼ確実に実現するだろう。この暫定的な認定要項によって市場がある程度安定し、その一方で規格は2008 年はじめと予想されている完成に向けて前進することになる。

最近、Qualcomm が、MIMO の草分けである Airgo を買収し、その日にさらなる大げさな宣伝を発表した。Airgo の MIMO チップは、802.11n の多くの原理を組み込んでおり、802.11n の方向性を定めるのに一役かっていた。Qualcommの発表によれば、Airgo には、Draft 2.0 対応のチップが「入手可能になる」と発表する予定があった。後のインタビューで 同社が明らかにしたのだが、第1に、「入手可能」になるのは「2007 年 3 月以降に機器を製産するために現実的な量」であり、第2に、「Draft 2.0 対応」が意味することは、今の段階で Draft 2.0 に盛り込まれる可能性のあるすべてのパラメータが明らかになっており、Qualcomm の新しい部門が作るチップにはそのパラメータすべてが組み込まれるということだ。これは筋の通った説明だ。というのも、多くの技術的コメントがタスク・グループの中で未解決として残っているにしても、それは手に負えない山ではなく、成果は得られるだろう。

しかし、さらに興味深いことは、Qualcomm が Draft 1.0 もサポートすると主張していることだ。ということは、Qualcomm の Draft N 機器のおかげで、他社製のチップを使って作られた装置さえも、本物の Draft 2.0 機器が登場したときに時代遅れにならずにすむのかもしれない。

そういうわけで、Apple が今 Draft N チップを内蔵するというのは、理解に苦しむ。なにしろ、Draft 2.0 のような何物かを作ると主張しているチップメーカーは1つだけで、その製品も 2007 年の第2四半期にならなければ手に入らないというのだから。私が思うに、そのような製品は、現在の多くの製品がそうであるように、802.11g の上に MIMO をかぶせたもので、802.11n のドラフト版が承認されるのを、少なくとも 2007 年はじめまで、待っているのだろう。

もし Apple が、2007 年はじめに iTV メディア・アダプタを発売するときにDraft N 機能を有効にするなら、将来の Draft N チップが Apple の製品と完全な下位互換性を持つという保証はない。多くの人が、Draft N 機器の初期リリースは 802.11g と同じだと考えている。そのときも、規格が承認される数か月前から、Apple や Linksys などから製品が登場していた。しかし、802.11g の場合、最初のチップが出荷されたときには Draft 5.0 が承認されており、それ以降は小さな変更しか加えられなかった。その変更ですら、当初は、同じ無線チップを使っている異なるメーカーの 802.11g 製品間で相互運用性を損ね、Apple は、AirPort Extreme の発売日から 802.11g が IEEE で最終的に承認されるまでに、ファームウェア・アップグレードにして6回分をリリースした。

Apple はしばしば、可能性の限界に挑んでいるが、今回このように先を進みすぎているというのが事実なら、彼らは許容範囲を越えているのかもしれない。


“Dispatches from Blogistan”でブログにいのちを

  文: Tonya Engst <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

レビュー用にとわが家の戸口を通って届いた本は最近何フィートもの厚さに積み重なっているが、その中で特に目立ってこちらを向いてくれる本が一つある。Suzanne Stefanac の“Dispatches from Blogistan: A travel guide for the modern blogger”(ブロギスタンからの至急便: 現代的ブロガーのための旅のガイド)だ。この本は、インターネットの最近の流行に遅れたくないと思う人、ブログをもっと熟練者らしく読み書きしたい人、プロフェッショナルな流儀でブログを始めたい、あるいはブログを運営したいと思っている人ならば、誰でも素晴らしい読み物だと感じるだろう。

利益を生み出すことだけを考える今日の書籍出版界においては、ブログ関係の本は「おいしい」商品だ。そのテクノロジーは十分シンプルなものだから、それほど研究を深めることなしに、あるいは技術ライターとしての才能を必要とせずに作れるし、また今どき流行の話題なので本の宣伝も簡単だからだ。けれども Suzanne の場合は、他のブログ関係の本に見られるような「金儲けの近道」的な姿勢を遥かに超えた内容のテキストで、私を驚かせ満足させてくれた。彼女のこの本には歴史的な話題やふんだんなアドバイスも含まれ、それをさまざまのインタビューや、 Cory DoctorowLaura Lemay のようなインターネットの市民たちの言葉なども交えた魅力的な文体にまとめ上げている。

この $25 の本(Amazon.com では $17)は、まずよく見られるタイプのブログ、例えば日記や、トピック集、ニュース、意見記事、その他を概観するところから始まる。それらの一つ一つについて、Suzanne はそのプログのタイプを歴史的な観点から捉えている。例えば日記のセクションでは、枕草子と呼ばれる日本の日記や、Leonard Da Vinci のノート、Samuel Pepys の日記などを概観している。またニュースのセクションでは、近代における出版の自由という概念の出現について語るだけでなく、ジャーナリストと提灯持ちを区別するものは何か、ジャーナリストの倫理とは何かについても議論している。

この本の中盤のセクションについては、私はあまり感銘を受けなかった。ここではブログのセットアップの仕組みを説明し、ブログ用ソフトウェアの便利な諸機能や、ブログ作成の人気あるさまざまのオプションなどをリストしている。この種の膨大なリストを題材にして才気きらめく文章を書くのは手強い仕事だ。この本の文章も悪くはないのだが、いつしか私も斜め読みを始めていた。ここのリストの一部は末尾の付録に回した方が良かったかもしれない。

でも、まだどん底にまでは落ち込まぬうちに、私はある魅惑的なセクションにたどり着いた。そこには、なぜ RSS ニュースリーダーがクールなのか、あるいは、物知りのインターネットユーザーたちはしょっちゅう口走るがその意味を十分深く説明してくれることはめったにないようなさまざまの用語、例えばタグ、タグクラウド、ブログ検索エンジン、del.icio.us、トラックバックリンク、パーマリンク、Flickr などはどういうものか、といったことがまとめられている。私はこのセクションを興味津々で貪るように読んだ。これだけのものがすべてどういう風に組み合わさっているのか、今まで私はきちんと理解したことがなかったからだ。

Suzanne は、ブログを見つけられやすくするとともに文章の質を高めることでブログの人気度を高めるためのヒントを多数提供している。この部分に書かれていることは他からも手に入る情報だが、それでもなかなかうまくまとめられている。この本にはまた、ブロガーが遭遇する可能性のある法律的問題についても検討されている。著作権法、Creative Commons ライセンス、公正使用 (fair use)、名誉毀損 (libel)、その他の問題だ。

当然ながら、この本もそれ自身のブログを持っている。このブログには、本に掲載されたインタビューのより詳しいバージョンや、いくつかの抜粋などが載っている。このブログは本の見出しに使われているのと同じ Courier タイプフェースを使っているので、ブログと本の組み合わせがより首尾一貫したものに感じられるが、やはり紙の上に印刷されたものよりはスクリーン上のものの方がきれいに見える。

この本は Amazon.com から若干の助けの手を得ている。つまり、そこに読者からの好意的な意見がいくつか投稿されれば、本の売り上げがぐっと違ってくるというわけだ。そのためにも、もしも皆さんがこの本を買って気に入って下さったら、ぜひとも私のようにここへレビュー意見を投稿して頂きたいと思う。

Suzanne の文章はパーソナルなタッチでウィットに富んでいる。私は、この本“Dispatches from Blogistan”をこれから数年の間は参照用として自分の書棚に置いておこうと思う。その後も、ひょっとしたら時代の思い出として置いておくことになるかもしれない。


ロンドンのレンズから覗いたシリコンバレー

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Steve Jobs は過去のことについて質問されるのが嫌いなことで有名だ。彼は、ただ未来のことに焦点を絞りたいのだ。これは Apple 社の CEO としては健全な態度なのかもしれないが、コンピュータ革命の初期の時代にシリコンバレーの中心部にいなかった私たちにとっては幸運なことに、昔はどうだったかについて喜んで話をしてくれる人々も大勢いる。Steve Wozniak、Guy Kawasaki、今は亡き Jef Raskin、Adobe の John Warnock、それに Tim O'Reilly といった面々だ。

今挙げた人々すべて、それに彼らほど有名ではない他の人たちも登場しているのが、新しく出た 55 分の映画、シリコンバレーの心臓を鼓動させているものが何かを扱った“In Search of the Valley”というタイトルの映画だ。副題を“Three friends' journey into the psyche of Silicon Valley”(友だち三人でシリコンバレーの魂の奥へ旅する)とし、監督は Steve O'Hear、このドキュメンタリー映画は、歴史を語るとともに、業界の分析でもあり、それらをミニバンに乗って旅するロードムービーの形に仕上げている。O'Hear と彼の友人たちは、2004 年の 9 月に 3,000 マイルにものぼるレンタカーの旅をしてシリコンバレーの中を走り回り、数え切れないほどの綺羅星のごとき人物たちにインタビューして、過去 30 年間にシリコンバレーで育ち働いた彼らの体験談を聞いて回ったのだ。

全体として、この映画は技術的にはよく出来ている。ここでこう言うのはちょっと場違いかもしれないが、私はこれを見て何となく全体が比較的低予算のアマチュアの作品のような(つまり、普通の人が Apple のテクノロジーを利用して高品質の作品を仕上げたかのような)印象も受けた。だから、既に以前テレビで放映された番組ならば受けていたかもしれないよりも、何となく今回はもう一歩深い印象を受けたような気がした。後になって、私はこの映画が実際に PowerPC G4 ベースの iMac で編集されたことを知った。ただ一つ不満が残ったのは、いくつかのシーンで光量の少ない条件で撮影したのを無理に輝度を上げたためだろうか、ざらざらした質感の画面になってしまっていたことだった。

でも現実的には、この“In Search of the Valley”を映画撮影技法のために観る人はいないだろう。肝心なのはインタビューであって、それこそがこのプロデューサーの功績と言える。Steve Wozniak と Andy Hertzfeld はいつものオープンで洞察深い人物であったし、Guy Kawasaki は彼のトレードマークとも言える熱烈さを発散していた。John Warnock は長老の政治家とエンジニアという二つの役割を優雅に組み合わせていたし、Tim O'Reilly は彼一流の意見を述べていた。私の知らない人たち、Lee Felsenstein、インターフェイス導師の Brenda Laurel、Apache 開発者の Brian Behlendorf、craigslist を書いている Craig Newmark、その他の人々も、業界におけるそれぞれの立場からの洞察を語っていた。それから MacroMind の共同創設者の一人である Marc Canter に至っては、映画の終わりに思い入れたっぷりのブルースのリフまで披露していた。

奇妙なのは、この映画がいろいろな場で「パーソナルな旅」として語られていることだ。まるで二人のイギリス人が最もアメリカ的なサクセス・ストーリーの映画を作る「見知らぬ土地に降り立った異邦人」的な扱いをされているのだ。それなのに、この映画の制作者のうち何人かがロンドン出身だという事実が何度か引用されていることを除けば、遠くの国からシリコンバレーの興隆を眺めるのはどんな気持ちだったかとか、あるいはこれが特にアメリカの話でなければならなかったかどうかとか、そういったことをじっくり考えようという姿勢はほとんど見て取れなかった。それに、監督の Steve O'Hear は車椅子に乗っているのだが、彼の姿は数多くのシーンに登場するものの、シリコンバレーで開発されたテクノロジーが彼の生活にどう関わったかというようなコメントは全く無かった。実際、映画の制作中に一行が Apple 社のキャンパスを訪れた時、Steve O'Hear はあの有名なイギリスの理論物理学者の Stephen Hawking に間違えられたのだが、この出来事は映画に附随したブログで取り上げられているだけだ。

もう一つ、ちょっと奇妙に感じられることがある。映画を観ている限りでは、これが現在のこととして描かれているように見えるが、実際に撮影されたのは 2004 年の 9 月なので、いくつかの話題、例えば Google の興隆などで、これはいったい何時撮影したのかと思えて話を誤魔化されているような気分になってしまった。撮影から最終的な完成まで丸 2 年間というのはいかにも長い。元の映像が 30 時間分もあって、そこに昔の記録からの写真を集めたり、それらについて必要な使用許可を取ったりするのに大変な手間がかかったにしても、これは長過ぎる。たぶん、ここのところこそこの制作者たちの未経験の度合を一番如実に表わしているのだと言えるのかもしれない。最終的な作品は非常にうまく編集され立派に制作されているのだが。

おまけの特典画像部分には 30 分程度の追加のインタビュー(Andy Hertzfeld、Guy Kawasaki、John Warnock、それに Sandy Miranda が登場している)と、映画のセクションの切れ目に挿入するために元々作られたアニメーションのセット、写真のスライドショー、それに最初のウェブ予告編が入っている。ここで一番気に入ったのは写真のスライドショーだ。これを見れば、実際の撮影現場がどんな雰囲気だったのかが間近に感じられるような気がするからだ。なかなかきつい撮影で、あまり形式ばらない感じだったようだ。それからもう一つ、Steve O'Hear が Jef Raskin とピアノのデュエット演奏をしている感動的な場面もある。

この DVD の価格は $20 だが、今だけは早期購入値引きで $18 となっている。Apple の初期の時代についてのドキュメンタリーを観たいと思う人、あるいは業界の歴史についての本を読みたいと思うようなタイプの人ならば、きっとこの映画“In Search of the Valley”を、心から楽しめるだろう。


RollerMouse Pro が高速・広範囲ローリングに

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: 笠原正純<panhead@draconia.jp>

何年か前、私は Contour Designs 社の RollerMouse Station(今は RollerMouse Classic と呼ばれている)のレビューを行った(2002-08-05 の"RollerMouse で快適ローリング"参照)。この度、Contour Designs は RollerMouse Classic を置き換える $200 の RollerMouse Pro をリリースした(旧バージョンの製品は引き続き Contour store で $190 で売られているが)。RollerMouse の基本要素は変わっていない。それは、リストレストに組み込まれた USB ポインティングデバイスで、キーボードを固定するトレイに取り付けられれている(キーボードは含まれない)。ポインティングデバイスとしてローラーバー、5 個のボタン、スクロールホイールが備えられ、これらは全てゲルが充填された左右のレストパッドの間に収まっている。縦方向へのマウスポインタの移動はバーを回すことで行い、横方向に動かすにはバーを左右にスライドさせることで行う。回転とスライドを組み合わせることで、ポインタをマウスやトラックボールでのようにスムーズに動かすことができる。

RollerMouse Pro は旧モデルと大きくは変わらず、lローラーバーがわずかに長くなりボタンは 5 個になった。一見、これらの変化はそれほど重要なものには見えないかもしれないが、実際には、これらの違い、特にバーの伸長は、大きい。私は、RollerMouse Classic の短いローラーバーでは、横にぶつかってしまうことがあったが、RollerMouse Pro ではこのような問題に遭うことはないことに気付いた。追加されたボタン全てを頻繁に使うことはないが、時には便利に感じる。

私が前に書いたレビューを読み返すと、私は RollerMouse Classic が良いポインティングデバイスであると感じてはいたものの、完璧にしっくりきてはいなかったのは明らかだったと再認識した。これは USB Overdrive X を使ってその加速量やボタンの機能を調整しなければならない手間をかけていたことからもわかる。私は、キーボードに手を置いたままでいられるのではと いう希望の元に、親指でローラーバーを操作するようにトレーニングしようと試みた。しかし、その企ては失敗に終わった。最終的に、私は右人差し指でローラーバーを操作しプライマリボタンを右親指でクリックすることで落ち着いた。

しかし、RollerMouse Pro を使う時間が増え、ローラーバーを人差し指で操作することが好ましいということを意識すると、RollerMouse Pro は俄然快適なものに変わってきた。まさにしっくりくる感じで、それこそがポインティングデバイスでは一番肝心の条件だろう。私は、右手を少しひねるだけで使うことのできる、今は遊んでいる Kensington Turbo Mouse Pro トラックボールを使う気にはもうならない。それとは対照的に、RollerMouse Pro のローラーバーはいつでもスペースバーのすぐ下にある。そこは、ポインターをたくさん使いたい場合に、より少ない動作でよりリラックスしたポジションで使える場所だ。

RollerMouse Classic に対する私のいくつかの批判は RollerMouse Pro にも同じように当てはまる。USB Overdrive X がまだ必要で $20 が価格に加算されることになる。スクロールホイールのボタン(これはクリックもできる)は相変わらず固すぎる。ただ、このスクロールホイールそのものは素晴らしく、私はいつもこれをスクロールに使っている。そして、操作に習熟し快適になった今も、私は時としてマウスを引っ張り出すようなシチュエーションに遭遇することがある。なぜなら、ローラーバーは精密なグラフィックの編集や高速なゲームで必要となるようなコントロールには向いていないからだ(同じことはトラックボールやトラックパッドにも言えるだろうが。)

これらの制限にもかかわらず - そしておそらく、私自身が自分の経験からこれらが致命的欠陥ではないと知っているからこそ - 私は RollerMouse Pro を心からお勧めできる。それは、あなたが伝統的なマウスを気に入っているのなら、試してみるのには少しばかり高価であることは否めない。しかし、マウスを使うことで手や手首に痛みを感じているようなら、RollerMouse Pro がどれほど助けになるかを確かめるためにお金を払うのも十分に価値があると思う。


Take Control ニュース/11-Dec-06

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

ドメイン名の登録と管理に専門家の助けを -- カスタムのドメイン名というのは個人で使うには楽しいし団体には必須のものだが、自分で自分のドメイン名を登録して管理するというのは長年コンピュータを使ってきたユーザーにとっても当惑させられる話題だ。でも恐れることはない。私たちは今回、ネットワーキングの熟達者、Glenn Fleishman の書いた 103 ページの電子ブック“Take Control of Your Domain Names,”を出版した。Glenn は、数え切れないほどのインターネットサイトを(その中には最も初期のウェブ・ホスティング会社も含まれる)運営しながら積み上げた、ドメイン名についての 12 年間にわたる経験に基づいて、あなたが既にドメイン名を持っている場合にも持っていない場合にも適用できるようにと、まさにあなたがそこで知っているべき必要なことを選んで説明している。

ドメイン名のことを扱うのは初めてという人のために、Glenn はまずドメイン名というものが舞台裏でどのように機能しているのか、そして、どんなドメイン名が使えるのかをどうやって見つけ出し決定すればよいのかを議論することから始める。それから、ドメイン名を登録して、それを DNS ホストで設定し、ウェブサイトや電子メールにおいて使えるように正しく接続するところまで、必要なステップを追って読者をガイドして行く。

この電子ブックはまた、既に自分のドメイン名を持っている人のためにも基本的な情報を提供する。レジストラ、DNS ホスト、ウェブホスト、電子メールプロバイダのそれぞれを変更する方法や、ダイナミック DNS を使ってウェブサーバをダイナミック IP に対応したブロードバンド接続から運営する方法、それから、よくある DNS 関係の問題点をトラブルシュートするためのヒントなどの説明を展開している。

さらに付属のセクションのいくつかには、ドメイン名を買ったり売ったりする際のアドバイス、DNS lookup ツールを使う方法の解説、それからわかりにくい専門用語の意味をすっきりとさせる用語集なども含まれている。この電子ブックには、easyDNS でドメインを登録したりそこへドメインを移転したりする時に使える $10 値引きクーポンが付いている。 easyDNS は、私たちの使っているレジストラであり DNS ホストの会社で、私たちもここをお薦めしている。

Take Control 著者たちが MacVoices ポッドキャストに登場 -- 最近の MacVoices ポッドキャストに、Take Control の著者たち何人かが出演しているので、どうぞ選局してみて頂きたい! まず MacVoices #691 では、Glenn Fleishman と共にドメイン名システムの舞台裏に分け入ってみよう。次に MacVoices #690 で、プロの写真家 Larry Chen の眼を通して見た世界を体験しよう。それから MacVoices #693 では、ウェブを織り成す世界における Dreamweaver の立脚点について Arnie Keller がどう考えるかに耳を傾けよう。(Play リンクが見えなければページの一番下を見るとよい。)


TidBITS Talk/11-Dec-06 のホットな話題

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

超お買得の Brother 2070N プリンタ -- Brother のネットワークレーザープリンタを安値で手に入れられる所を見つけた読者がいるが、そこから議論が広がって PostScript エミュレーションの話題になる。 (6 メッセージ)

ビデオカメラのお薦めは -- Mac と繋げて使えるビデオカメラを買おうという時には、どんなものを探せばよいか? (2 メッセージ)

楽曲を着信メロディに変換 -- 楽曲をいくつかの携帯電話と互換なフォーマットに変換して着信メロディとして使えるようにするのは簡単だ。こうすればよい。 (6メッセージ)


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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2006年 12月 16日 土曜日, S. HOSOKAWA