TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#914/11-Feb-08

iPhone に関連したニュースが、また今週も私たちの注目を集めた。まず初めに、Apple が RAM の量を増した(それに見合って価格も増した)新しい機種の iPhone と iPod touch をリリースした。その一方で、英国の iPhone ユーザーたちは O2 社のプラン改訂で、より安い料金でより多い通話時間とテキストメッセージ数が得られるようになった。また、Glenn Fleishman は AT&T が最近の発表で米国内の 3G セルラーネットワークの普及活動を続けるとしたことについて議論し、それが将来の iPhone モデルのユーザーに間違いなく影響を与えると語る。さて Mac の世界に戻れば、Guy Kawasaki による最新のベンチャー Alltop が、すべてのメジャーな Mac ニュースサイト(当たり前だが TidBITS も含まれている)から最近の記事見出しを集めて一カ所にリストする。Adam はホリデーカードを作った時にどうやって iPhoto でテキストを思い通りにフォーマットさせたかを説明し、また iTunes Store で四大メジャーレーベルのうち三社のトラックが未だに DRM フリーになっていないことの理由を推測する。一方 Rich Mogull は Macworld Expo に初めて参加してみての感想を語る。Adam はまた“Bit Literacy”という本をレビューして、ここには欠けたところがあると語る。その他のニュースとして、Apple から2つのソフトウェアアップデートが出た。QuickTime 7.4.1 は重大なセキュリティの欠陥を一つ修正し、iPhoto 7.1.2 はセキュリティを向上させるとともに他にもいくつかの細かな改善を施している。最後にもう一つ、私たちのスタッフにとても若い人が一人加わったことを紹介しよう。Eliana Wren Carlson だ!

記事:

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16 GB iPhone と 32 GB iPod touch リリースされる

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Apple がiPhoneiPod touch の新機種をリリースした。いずれも、従来の最大モデルの二倍のメモリを提供し、iPhone は 16 GB、iPod touch は 32 GB となる。いずれも価格は $499 で、即時入手可能だ。この結果、現行のラインアップは以下のようになった:

8 GB iPhone: $399
16 GB iPhone: $499

8 GB iPod touch: $299
16 GB iPod touch: $399
32 GB iPod touch: $499

Apple はそれ以外の変更点については何も発表していない。つまり、今回のアップデートは、Mac で言えば新旧機種の違いが CPU のクロックスピードのみであった速度向上アップグレードに相当するものだと思われる。

こうした大容量メモリ機種の追加によって Apple が iPhone と iPod touch のラインアップに新鮮な風を送り込んでくれるのは良いことだが、むろんメモリの増加は無料ではない。CPU の速度増加が通常値上げを伴うのと同じことだ。ただ、2007 年の 9 月に iPhone を値下げした後でこのような値上げがあるのを見ると、このホリデーシーズンに iPhone や iPod touch を買ったばかりの人たちは何となく不安に思うのかもしれない。(2007-09-10 の記事“Apple、iPod touch と Wi-Fi Music Store および新しい iPod を発表”参照。)

皮肉なことに、まさにこの発表があったその前日のこと、ある読者からの質問が届いて、メモリを増強した iPod touch の登場がいつごろになると私たちは予想するかと尋ねてきた。それに対して、私たちは皆一様にそれは 2008 年 6 月ごろになるだろうと答えた。つまり第2世代の iPhone、まず間違いなく 3G セルラーデータネットワークを看板機能として誇り、おそらくその他にもいろいろと素敵な追加機能があってそのいくつかは iPod touch にも付け加えられるであろう、その iPhone デビューの折に、メモリ増強も一緒になされるだろうという予想に私たちは賭けた。ところがただ一人 Ted Landau だけは、両賭けはしつつも、ずばりと正確な予想を言ってのけた。いわく「Apple はひょっとしたら明日にも 16GB iPhone を出してくるかもしれない」と。このスクリーンショットにその証拠がある。

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QuickTime 7.4.1、ゼロデイ脆弱性を修正

  文: Rich Mogull <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Apple から QuickTime 7.4.1 がリリースされた。これは重要なセキュリティアップデートで、すべてのユーザーが直ちに適用すべきものだ。ソフトウェアアップデートからも、また Leopard Tiger Panther Windows 各システム用にそれぞれ個別の直接ダウンロードとしても入手できる。

このアップデートはもう一ヵ月前から指摘されている QuickTime ストリーミングプロトコル (RTSP) におけるゼロデイ脆弱性をパッチする。この脆弱性を利用すれば、あなたが悪意あるウェブサイトを訪れたり悪意あるリンクを含んだ電子メールを受け取ったりした場合にアタッカーがあなたのコンピュータを乗っ取ってしまう可能性があった。セキュリティの専門用語では、これをパッチの存在していない(それが「ゼロデイ」の意味だ)脆弱性を利用した「任意コードの遠隔実行」と呼ぶ。その点では、Apple が QuickTime 7.3.1 アップデートにおいてパッチした前回の RTSP 脆弱性と同様だ。(2007-12-14 の記事“QuickTime 7.3.1、RTSP 脆弱性を修正”を参照。)

いつもと同様、リリースノートには詳しい説明はなくただ「セキュリティの問題が解決され、他社製アプリケーションとの互換性が向上しています」と書かれているだけだ。別のセキュリティノートにはもっと詳しい情報が記されているが、そのセキュリティ情報はダウンロードページのリリースノートでは参照さえもされていない。ただし、セキュリティアップデートページにはちゃんとリンクがある。

この脆弱性はもう一ヵ月近くもの間実際にサンプルの攻撃コードが出回っているので、一刻も早くこのパッチを適用することが絶対的に重要だ。


iPhoto 7.1.2、セキュリティ脆弱性を塞ぐ

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Apple は iPhoto 7.1.2(正確に言うと iPhoto '08 7.1.2 という名前でも知られている)をソフトウェアアップデート経由で、また 14.2 MB の独立ダウンロードとしてもリリースした。リリースノートはあまり助けにならず、ただ「このアップデートは、.Mac ウェブギャラリーに写真を公開する際の問題を解決し、全体的な安定性が向上し、またその他の小さな問題にも対処しています」とだけ書かれている。ただ、そこには Apple のセキュリティアップデートのウェブページへのリンクもあって、そこからリンクをたどればこの iPhoto 7.1.2 が悪意を持って作成された Photocast を購読することに関係した脆弱性をも修正しているという説明がある。


iPhoto プリントサービス、オーストラリアとニュージーランドで開始

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

iPhoto の導入からたったの六年で、Apple はついにプリントサービス関係の製品をオーストラリアニュージーランドで利用できるようにした。これでオーストラリアとニュージーランドの Mac ユーザーたちも iPhoto ブックやカード、カレンダーなどを購入できるようになり、米国、カナダ、ヨーロッパ、それに日本のユーザーたちと、まったく同じように写真のプリントが入手できるようになった。どちらの国においても価格は GST (Goods and Services Tax, 物品サービス税) を含んでおり、それで米国やカナダでの価格とほぼ同じレベルとなっている。従来は、これら二国の iPhoto ユーザーたちは米国内の請求先および送付先の住所を持っていなければならず、品物を転送してくれる友人を探さなければならなかった。

まだ iPhoto 6 かそれ以前をお持ちの方にはお気の毒だが、どうやらプリントサービス製品の注文ができるためにはこのプログラムの最新バージョンである iPhoto '08 7.1.2 にアップデートしなければならないようだ。

私はまだ確認できていないが、たぶん Apple はすべての iPhoto プリントサービス製品について Kodak に依存しているのだと思う。少なくとも米国内においては、iPhoto でプリントが Kodak Print Service から送られる旨の表示がある。

他で報道されているものの大多数は格好良いハードカバーの iPhoto ブックに焦点を絞っているようだが、私は個人的に iPhoto のカードやカレンダーの方がずっと好みだ。ついこの間のシーズンのホリデーカードもわが家では iPhoto で作った。(2008-01-08 の記事“iPhoto カードを良くするヒント”を参照。)それに私はギフトとしてカレンダーを送るのがとても気に入っている。これから一年間、飾ってもらえることが確実だからだ。(2007-12-26 の記事“iPhoto カレンダーで日付調整のトリック”を参照。)私の経験では、ブックにすると何回かは見てもらえるだろうが、その後は本棚にしまわれたままになってしまいがちだろう。

愉快な偶然と言うべきか、私たちのオーストラリア人の友人 Peter Lewis がついこの間、ホリデーカードにどういう紙を使ったのかと尋ねてきた。私たちが自分で印刷したと彼は思ったのだ。その返事として、私たちは自分で印刷したのではないと答えるだけでなく、彼もまた自分で Apple に注文してカードを作ることができるようになったと教えてあげられたのは嬉しいことだった。


O2、英国における iPhone の月極めプランを改定

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>

顧客とメディアからの苦情にこたえて、英国の iPhone キャリアである O2 は iPhone プランをアップグレードして通話時間とテキストメッセージ数を増やし料率は下げると発表した。月 £35 プランの人は、新たに 600 分と 500 テキストメッセージを受けることが出来る、これまでは 200 分と 200 テキストメッセージであった。月に £45 払っている人は月当たり 1,200 分と 500 テキストメッセージが得られ、月 £55 の人は単に £45 の支払いとなる。全ての英国の顧客は 3月半ばまでに自動的に新プランに移行される;O2 は、移行が完了した顧客はその時点でテキストメッセージで知らせを受けることになると言っている。更に新たな £75 プランも加えられたが、これは 3,000 分と 500 テキストメッセージが提供される。(米国の人のために付け加えておくと、現在の交換レートは $2 対 £1 なので O2 の価格を二倍すれば AT&T のものと比較できる。)

全てのプランにおいてデータは無制限ではあるが、O2 の過剰使用規定に違反しない範囲での条件付である。この規定は、今や O2 が以下の様に明確に定義している ("iPhone、英国とドイツでの立ち上げ準備完了、但しデータプランは曖昧模糊" 2007-09-20)。曰く:

あなたの iPhone に対する O2 の利用契約はあなたに対して O2 UK の EDGE/GPRS ネットワーク及び The Cloud の UK Wireless LAN ネットワークの無制限の使用を認めているが、それは個人のインターネット使用、電子メール及び Visual Voicemail (VVM) をあなたの iPhone 上に限って認めるものである。

全ての利用はあなたの私的な、個人のそして非商用のためでなければならない。あなたはあなたの SIM Card を他の如何なる機器にても使用してはならないし、またあなたの SIM Card 又は iPhone を使って如何なる音声/ビデオコンテンツの連続的なストリーミング、Voice over Internet (VoIP) を生かす、P2P 或いはファイルシェアリング或いはそれらの使用で O2 又は The Cloud の他の顧客に対するサービスに悪影響を及ぼす様な使い方はしてはならない。

もしあなたがこの規定に従った行動をしていないと O2 が正当に判断出来る場合は、O2 は更なる料金を課するか或いは如何なる時点でもあなたとの利用契約を打ち切る権利を留保する。但しこれはあなたに連絡を取る試みを最初に取ってからの事とする。

O2 は新しい 16 GB iPhone にリリースに関しても先を行っており、古い iPhone から新しいものに移行する時のやり方 も提供しておりまた新しいものを買った顧客に、新たな契約を要求せずに、現存の契約の残り期間で新しい物を使う事を許している。


Alltop で Mac ニュースヘッドラインを一覧

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

Guy Kawasaki はまだまだ忙しい。今度は Alltop という新しいサイトだ。これは、ほかのさまざまな話題とともに、主要な Macintosh ニュースサイトを、1枚のページに見やすくまとめてくれる。Guy と彼のチームは、興味のあることについて 350 文字までの短いコメントを誰でも投稿できるサイトTruemors の立ち上げを手伝った後、Truemors のトラフィックのかなりの割合が Popurls から来ていることに気がついた。これは1ページのアグリゲーションサイトで、ニュースやテクノロジーのウェブサイトから RSS フィードのヘッドラインを集めてくる。そこで彼らはほかの種類のサイトをまとめることを考え、Guy が関わっていることから、立ち上げ時に選ばれた話題の中にMacintosh ニュースももちろん含まれることとなった。

ヘッドラインのアグリゲーションという考えには特別新しいことは何もないが、Alltop のインターフェースは簡潔で洗練されている。それぞれのサイトから5つの最新ヘッドラインを表示し、ヘッドラインの上にマウスを置くとプレビューがポップアップ表示され、クリックすると記事の全文が読める。そういうわけなので、まだ Mac ニュースアグリゲーションサイトを使っていないなら、Alltop の Mac 専用ページをチェックしてみてはいかがだろう。そうすれば、TidBITS の最新記事だってすぐに知ることができる。それに、Alltopのほかのサイトに寄り道して、芸能人やファッション、スポーツ、科学についてのヘッドラインを眺めたところで、私たちにばれることはない。


Eliana Wren Carlson をどうぞよろしく

  文: Jeff Carlson <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

TidBITS のスタッフメンバーはここ一年間でかなり増えた。まず Joe Kissell と Rich Mogull がその精鋭に加わり、そして今回、私たちの中に新たに若い若い人材が一人加わったことを喜びいっぱいの気持ちでご報告したい。シアトルにて 2008 年 2 月 5 日の早朝に誕生した Eliana Wren Carlson だ。Kim と私は信じられないほどの幸せと誇りに溢れている。予定日より早かった出産を成し遂げた今、わが妻こそ断然スーパーヒーローだと私は信じている。

elliecarlson


DealBITS 値引き: Sound Studio 3 が 20% 安くなる

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

先週の DealBITS 抽選で当選し、$79.99 の Sound Studio 3を受け取ることになったのは、sisna.com の Donald Schaefer と mac.com の Keith Olson、それに Keith を DealBITS に紹介してくれた Bruce Hobbs だ。おめでとう!(これで2回連続、当選者が友人から紹介を受けての人だった。)残念ながら当選しなかった皆さんもがっかりすることはない。2008 年 2 月 20 日までの期間、Sound Studio 3 が 20% 割引、たったの $63.99 になる。Freeverse で注文する際に、クーポンコード“SS3Bits”を使えばよい。今回の DealBITS 抽選に応募して下さった 942 人の皆さんに感謝したい。また今後の抽選もお楽しみに!


iPhoto カードを良くするヒント

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>

今年のホリデーカードの作成に取り掛かっている時、Year In Review テーマのなかの本体テキストが中央寄せとなっている事に腹が立って来た、醜いしそれに読み難いのである。それで検索に数分費やしてみたら Apple からの iPhoto - ヒントとコツページに答えがあるのが見つかった。

もしテキストを TextEdit (或いは他の多くのワープロでも同じはずだと思うが) でフォーマットすれば、その完全なフォーマットされたテキストを iPhoto のカードのテキストフィールドに貼り付けることが出来、そしてカードはそのオリジナルのフォーマットを全て保持する。これは、行間隔とかテキストのアラインメントとか言ったより手の込んだフォーマットでも大丈夫であるし、更にタブストップを設定して使うことも出来る。それで私のカードの場合は、私は iPhoto からテキストをコピーして、TextEdit に貼り付け、左揃えに変更し、それをもう一度コピーし、そして iPhoto に貼り付け戻したのである。

この同じやり方は iPhoto ブックにも使えるので、テキストフォーマットに関してそこで同じ様に悩む必要はない。

この iPhoto Hot Tips は、他にも私の知らないことを教えてくれた。それは Background ポップアップメニューから背景色を Option-選択することが出来ることで、こうすることでカードの内側の色を外側の色と違うものにすることが出来る。私自身は、これを必要とする頻度は少ないように思うが、役に立つ時があるかもしれない。

このページにあるその他のヒントは、一つを除いて、iPhoto のインターフェースを見れば大体見当のつくものばかりである。この見るからに明らかではないと言うヒントは、編集後の画質をできるだけ美しいものにするには、Adjust パネルにある Sharpness スライダーをいじるのは一番最後にした方が良いと Apple が推奨していることである。どうしてそうなのかの説明はされていない;私からの注意事項は一つだけで、Reduce Noise スライダーを使いたい場合はやはり最後にした方が良い、その理由はこれは CPU 負荷が高いので一旦これをやるとその後の編集が遅くなりがちであることである。


3G iPhone への道に更なる里程標

  文: Glenn Fleishman <[email protected]>
  訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@bellsouth.net>

AT&T は 2008年中に米国の更なる 80 都市で彼らのバージョンの第三世代 (3G) セルデータネットワークを展開すると発表した。これであわせて 350 の "先進市場" を網羅することになる。また彼らは今年中に上り回線の速度向上のためのアップグレードも完成させる予定であり、更に現在のケーブルネットワークよりも高速な超広帯域速度を提供する 4G への道に対する公約も再確認した。

これで 3G iPhone の線表は明らかに一歩前進ということになる、と言うのは、Apple と AT&T がこの様な機器をリリース出来ないようにしている二つの障害があったからである。一つはバッテリーの寿命と半導体チップの大きさであるが、これらの問題は既に解決済みか或いは解決の途上にあると言えるだろう。もう一つはサービスである。AT&T の小さな秘密は、Verizon と Sprint Nextel によって運用されている競合する 3G ネットワークと較べると、そのカバー領域が小さいことと速度が遅いことであった。このアップグレードが完了すればこれらの二社とようやく対等の位置につけるという状況である。(T-Mobile は未だ 3G サービスを持っていない:ただ EDGE だけである。彼らは競売で新たな周波数帯域を購入したので、今年中には 3G サービスを開始できるであろう。)

3G iPhone を出しても、EDGE の速度でしかデータを転送できない区域が米国の大きな部分を占めるというのはちょっと恥ずかしい話であろう、とりわけ現行の 2.5G iPhone の売れ行きを見ていると大都市を越えてより遠隔地へそして広範囲にこの機器が拡がっていくのは明白である。この AT&T のサービス拡大でマーケッティングのジレンマは解消される。

Verizon と Sprint Nextel は音声とデータに CDMA 方式を採用している。CDMA は主として米国とアジアの一部で使われているが、どこの国でも方式として独占しているわけではない。AT&T と T-Mobile は GSM を選択しており、これはヨーロッパを含んだずっと大きな数の人々によって使われている。

Verizon と Sprint Nextel によって選択された CDMA の 3G バージョンは EVDO (Evolution Data Only) として知られており、最新バージョン - Rev. A - だと平均速度として下り 450 から 800 Kbps、上り 300 から 400 Kbps が得られる。最高速度は技術的に言えば下り 3.1 Mbps、上り 1.8 Mbps だが、これらはネットワークのオーバーヘッドを含んだ話である。大きなファイルをダウンロードしている時、瞬間的に 2 Mbps の下り速度が観測されることも稀ではない。将来、計画中の Rev. B になれば、生の速度は 50% 向上し、そして現在使われているより多くの周波数が割り当てられれば更に高速になるであろう。

GSM のパスは High Speed Packet Access (HSPA) であり、しばしば HSDPA - ダウンリンクの D - 或いは HSUPA - アップリンクの U と呼ばれる。今日の AT&T の発表には、HSUPA は 2008年中に完全展開となるであろうというニュースが含まれている。これが完成すれば、彼らは下り 600 Kbps から 1.4 Mbps、上り 500 から 800 Kbps の速度が実現できると言える。AT&T の HSPA の生の速度は 3.6 Mbps の下り、そして約 1.5 Mbps の上りである。ヨーロッパでは、7.2 Mbps HSDPA のバージョンも既に市場に現れ始めており、将来のバージョンは 14 Mbps かそれ以上に格上げとなると見られている、勿論そのためには現在使われているよりももっと多くの周波数が必要となることは言うまでも無い。

AT&T の発表で他の興味深い事に、彼らの将来の 4G ネットワークの基盤として Long Term Evolution (LTE) を使う予定に変わりは無いことを再確認していることがある。LTE が実際に展開されるまでにはまだ三年はかかるとみなされているが、この方式は標準の選択肢になりつつある。米国では、AT&T, T-Mobile, _そして_ Verizon がこれに決めている。そうなのである - Verizon も将来の CDMA 改良の道を捨てて馬を乗り換えることに決めたのである。この決定には少数株主としての Vodafone, ヨーロッパの GSM キャリア、の影響があると思われるが、同時に彼らとしての注目すべき技術選択でもある。

Sprint Nextel は業界の変わり者のままであるが、4G ネットワークの基盤として WiMax を選択したおかげで、今年 WiMax 展開のスタートを切れるという面白い立場にある。速度とネットワーク品質で優位に立ちたいという彼らの希望が現実となる可能性を彼らに与えている。

私が思うに、Apple は自分がデータの利用において AT&T を押している機関車の一つであることを知っている - Wired は最近、iPhone の登場以来 AT&T のネットワーク上のデータ利用が San Francisco の様な都市では三倍になっていると報じている - そして 3G ネットワークが完成されアップグレードされた姿を見れば、次の新たな電話をリリースする自信につながるであろう。


Apple、iTunes の成功で禍を被る

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: 羽鳥公士郎 <hatori@ousaan.com>

何週間も前になるが、2008-01-10 の "Amazon MP3、DRM フリー楽曲を得る: では Apple は?" の中で、私は Apple をとがめた。Steve Jobs が、Appleは 2007 年の終わりまでに iTunes の楽曲の半分以上についてすべてのデジタル著作権管理(DRM)を除いたバージョンを提供できる見込みだと主張していたではないか。私としては、Macworld Expo の基調講演で Jobs が DRM フリーのウサギをシルクハットから出してみせるのではないかと期待していたのだが、言うまでもなくそれは実現しなかった。iTunes Store の音楽は、EMIの楽曲を除いて、まだ Apple の FairPlay DRM にくるまれたままだ。

もちろん、iTunes Store で DRM フリーのダウンロードを可能にするということは、Apple が直接コントロールできるようなものではない。Apple が販売している音楽の権利をコントロールしているメジャー音楽レーベルしだいだ。そして、ここにこそ問題がある。レーベル各社は、iTunes Store がオンライン音楽の世界で支配的なプレーヤとなっていることを好ましく思っておらず、Amazon MP3 を対等な競争相手にしたいとやっきになっている。その目的で、4つのメジャーレーベルのすべてが Amazon と DRM フリー楽曲の販売について契約する一方、Apple は Universal Music Group、Warner Music Group、Sony BMG と同様の条件を取り決めることができずにいる。

レコード業界が iTunes Store について感じている問題は、Apple が支配的なプレーヤーであって、弱みのかけらすらないという事実にとどまらない。Jobsが "Thoughts on Music" 公開書簡でとったやり方は(2007-02-12 の "Steve Jobs、DRM を謗る" 参照)、Apple の立場を概観し譲れない一線を引くという意味では効果的だったかもしれないが、メジャーレーベルとの友情を育むことにはまったくならなかった。iTunes Store のいくつかの方針、たとえばすべての楽曲を人気にかかわらず 0.99 ドルの定額で販売したり、アルバムだけでしか買えないアルバムの販売を拒否したりといったことも、業界の中では快く思われていない。

ここには何か悪事が働いているのだろうか。私は当初、レーベル間に共謀があるのではないかと疑ったが、私の友人である、EFF の Fred von Lohmann が、私の誤った考えを正してくれた。たとえ、Universal、Warner、Sony のあいだに、Apple には DRM フリーの楽曲を渡さないという合意があるとしても、消費者は、よい品質の(DRM フリーという意味で)安価な商品を Amazon MP3 から購入できるのだから、何も困ることはない。それに、EMI がすでに Appleに DRM フリー楽曲のライセンスを与えているという事実は、一般協定がまったく存在していないということを示唆している。

だから、iTunes のユーザエクスペリエンスを好む人たちにとっては残念なことだが、ここで起きていることは、巨大企業が互いに強気に出ているということなのだろう。Apple は iTunes Music Store を立ち上げたときに、ユーザの視点から見てよい条件を取り決めた。そして今、iTunes が先導的なオンライン音楽販売店となったことで、レーベル各社はそのときの合意のあれこれについて後悔している。おそらく、当時 Apple が取り決めた条件が、iTunes Store の成功の大きな要素になっているのだろうが、レーベル各社は、Appleが、そして消費者が DRM フリーの音楽を望んでいるということを、交渉における強力な切り札とみなしている。

問題は、Apple が DRM フリーの楽曲を得るために何をしなければならないかということだ。利益のより多くの割合をレーベル各社に戻すのか、均一料金制を捨てるのか、それとも登録制サービスを始めるのだろうか。あるいはひょっとして、iTunes Store での映画レンタルによって、映画の売り上げが優れず品揃えも限られていたことを埋め合わせたときと同じような、まったく別の解決法を Apple が考え付くかもしれない。この状況を商売に結びつけることができれば、まさに禍を転じて福となす、だ。


初めての Macworld Expo

  文: Rich Mogull <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

かの有名な現実歪曲フィールド (Reality Distortion Field) のパワーを決して見くびってはならない。Macworld の何週間も前から、Cupertino にある彼らの中心部、形の定まらぬその源泉を出発して、その冷たい触手が多数のつる草となって大地を這い、ずっとこちらまで伸び拡がって来た。低地を這い拡がり、カリフォルニアの丘も乗り越え、谷間や木陰もそのままにたどり進んで、忠実な Mac 信奉者たちの家々のドアや窓の隙間を通り抜けて入り込んだ。その間、止むことなく手を伸ばし、物に触れ、待ち構え続けた。そして「Jobs のキーノート」の朝が来るやいなや、それはたちまち生き返って鮮やかなエネルギーを発散し、いまやサンフランシスコに集結している報道陣の最も冷たい心をもその精気で満たす。かくして判断力は衰え、抑制力は崩れ、ここに Macworld が始まる。

ちょっと文学的な表現が過ぎたようだが、時には年に何度もテクノロジー関係のカンファレンスに出席する私から見て、Macworld が非常にユニークな存在であることは断言してもいいと思う。これは、企業向けの IT カンファレンスと、本格的なエンドユーザー向けのカンファレンス、それに一般の熱狂的ユーザーの集まりとを一緒くたにした、奇妙な組合わせに見えるのだ。ある人は古い友人と旧交をあたためるために出席し、ある人は自分が個人で使うために選んだこのプラットフォームで新しいスキルを学ぶために出席し、また純粋にビジネスのために来ている人も、あるいは単に最新機器を一目見たいという気持ちで来ている人たちも大勢いる。

それからまだ他に、ここで何が起こっているか報道するために来ていてこれから書く記事のために情報を集めている人たちもいるのだが、そういう人たちが家に帰ってポケットの中を見るとそこに、明らかに公式でない使い方の設定が施された iPhone がいつの間にか入っているのに気付くのだ。これも、間違いなく RDF のパワーだろう。

私はもう数ヵ月間もここ TidBITS で記事を書いているし、私自身 Mac 熱狂者と自認しているが、私はまだ Apple シーンには比較的新参者でとても狂信者とは言えない。私はずっと前から Macworld に出席して自分の目で見てみたいと思っていたのだが、今回私の所得のほんの一部が Apple 関係の記事を書くことから得られることとなって、ついにその願いの叶う日が来た。フリーランス記者のパスを申請するために TidBITS の名前を出させてくれないかと私が Adam に頼んだのはつい数ヵ月前のことだったが、彼はその願いを聞く代わりに、私にスタッフの職を申し出てくれたのだった。

どうやら RDF は未来を見通す力もあるようだ。

Macworld の核心が火曜日朝の Steve Jobs の開幕キーノート(基調講演)にあることは明らかだろう。どの程度に Apple や Jobs を信奉しているとしても、彼のキーノートが一般的な CEO の講演に見られるくだらない話を遥かに凌ぐものであることに異存のある人はいないだろう。プレゼンテーションのプロの一人として、私も初めて Mac を購入した時より以前から彼の講演を研究していた。ステージ上での講演のスキルを少しでも盗もうと思ったからだ。キーノートの朝、私はわくわくした気持ちで目が覚めた。自分がプレゼンテーションをする朝でさえもめったにないことだった。記者の待合室で Glenn や他に数人の Mac 著名人たちと会ってから、私たちは会場に入った。その途端にカンファレンスの Wi-Fi、AT&T サービス、それに Twitter までが一斉にキーノート関係のトラフィックで満杯になって行くのを私は愉快な気持ちで見守った。

発表された内容自体は私にとってそれほどわくわくするようなものでもなかったが、Jobs の存在と話のスキルたるや、これぞまさしく私が見たかったものだった。彼は、どんなステージアーティストにも負けないほど巧みに聴衆を魅了した。発表内容を書き留めるために会場からメディアルームへと急ぎながら、私はあの RDF のパワーがキーノートが終わった後も強力に漂っていて、どんなに世間ずれしたメディアでさえも通常の環境下でよりは批判的な気持ちがちょっぴり弱まっていることをひしひしと感じていた。他の CEO たちも Jobs を見習うべきだ。これら最初のいくつかの記事で、それ以後の報道の枠組みが決まってしまうものだからだ。Apple がこれらの製品の発表やマーケティング情報に娯楽の要素を組み合わせているのは何も誇示するためにしているのではない。決定的に重要な意味を持つこれらの報道記事に良い影響を与えたいという意図からなのだ。

私にとっての週一番の画期的な出来事は、他のスタッフメンバーたちと一緒になって同時に記事を書き上げるために SubEthaEdit を使ったことだった。これまで私は独立のコンサルタントとライターとして働いてきたので、このような形でのリアルタイムのチームワークを体験することはあまりなかった。私たちはそれぞれメジャーな製品発表の取材を分担し、特定の割り当て仕事のない者がリアルタイムで編集を担当した。私たち TidBITS では、キーノートのライブブログはしていない。その代わりに、私たちはキーノートの終了時刻から二時間以内に、思慮に富んだ分析記事を出版するのだ。

その週の残りの時間、私は半ばぼうっとした状態で Expo 会場をさまよい歩いて、Adam と Tonya に付いて行こうと努め(決して易しいことではない)ながらいろいろな朝食や昼食、夜のイベントなどにも出席した。Expo の会場というのはそれ自体が興味津々たる怪物のようだ。ある時など、私は自分があるメジャーなソフトウェアベンダーのブースで間もなく登場予定の Mac サポートについて質問攻めにしていたかと思うと、次の瞬間には自分がクレジットカードを取り出してイヤフォンの安売りに飛びついていることに気付いた。たいていのテクノロジーイベントならば「ユーザー向け」と「企業向け」にはっきりと分かれているものだが、Macworld は数少ない例外の一つで、カジュアルな熱狂的ユーザーたちと本格的な企業ユーザーたちとが会場を共にして相集う場となっている。

私の中の元アナリストは、いくつかの興味深いトレンドに気付いた。中でも最もおもしろかったのは、Mac がゆっくりとながら企業に侵入しつつある様子だ。Apple の製品はコンシューマとしての私たちにアピールする。そのような私たちが仕事でも家庭でも同じツールを使いたいと思うのは至極自然なことだろう。企業側の対応はこれまでずっと標準でないシステム(と電話)は排除するというものだったが、知識の深い従業員たちが自分のツールを使わせて欲しいと要求する声がますます高まるに従って、これが企業側に勝ち目のない戦いの様相を濃くしつつあることが明らかとなった。私たちはこのトレンドを「IT のコンシューマ化」と呼んでいるが、明らかに Apple は、会社の方針に反してまでも仕事に Mac を持って来るテクノロジー系従業員たちの先駆け的な動きによって利益を受けている。企業環境をサポートするベンダーたちが、このチャンスを見逃すはずがない。こうして、私たちは会場で意外な顔触れの面々が企業における Mac ユーザーたちをサポートするための新製品あるいは発表予定製品を示しているのを目にすることとなったのだ。

また、Mac ユーザーたちの間にセキュリティに対する興味が増大しているのも、もう一つの興味深いトレンドだった。数年前に私が初めて Mac に関するセキュリティの問題について語り始めたころ、私が受けた反応の多くは知らん顔か、あるいはまるで私が Apple を破壊するために派遣された Microsoft のスパイであるかのように非難されるかのどちらかだった。でも最近は、それよりもはるかにまともな反応が返ってくるようになり、多くの人々が、何が問題なのかをきちんと理解したい、自分たちが安全なのかどうかを知りたいという気持ちを示すようになった。Mac の人気度が高まるに従ってセキュリティのリスクも高まるということを今は皆が理解しているようだが、それが実際には何を意味しているのかを正確に知っている人はいないように見える。Expo のフロアにもセキュリティ関係のベンダーは決して少なくなかったが、中にはインチキくさいものもあれば、一方では平均的な Mac ユーザーに対するリスクがまだかなり低いという現状を見て商売が決して楽なものでないということを理解している会社もちゃんとあった。言うまでもなく、私がここ TidBITS で書くセキュリティ関係の題材には事欠かない。

全体として、私は Macworld での一週間をかなり楽しめた。私にとって、Mac コミュニティーの人たちの多くと顔と顔を突き合わせて会うのは今回が初めてのことだった。(Adam、Tonya、それに Glenn とも今回初めて会った。)Mac の世界とは、そのメジャーなトレンドとはどんな感じなのか、それは実際に物理的にその場に行ってみなければ分からないこともあるものだ。それに、私は今回二つの貴重な経験をした。一つは、可能な限りラップトップ機はホテルの部屋に置いておくべきだということ。そうしないとそれを担いだままで一日中歩き回らなければならないからだ。普通のセキュリティカンファレンスではまずそんなことはない。もう一つは、不要なクレジットカードは自宅に置いてくること。何しろ Apple ときたら、本当は RDF の波が消え去るまで待ってからでないと買うべきでないような製品を出してくるのだから。そうは言っても、この新しいロケーション対応の iPhone を私が大いに気に入っていることを否 定する訳ではないが。


Bit Literate になろう、ちょっとバギーな鞭を持って

  文: Adam C. Engst <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

みるみるうちに溢れてくるデジタルデータの洪水に、溺れないようにするだけでも必死だという気持ちになっている人はいないだろうか? 電子メール、写真、ウェブサイト、インスタントメッセージ、これらすべてがあなたを水没させようと迫ってくるような気がしないだろうか? そう感じているのはあなただけではない。そして、そのような共通の悩みが生み出したのが、生活を整理して生産性を向上させることを売り文句にしたさまざまのシステムやウェブサイト、あるいは本などだ。このいわゆる「仕事術ポルノ」の分野に新手が登場した。Mark Hurst が自費出版した“Bit Literacy”(ビット読み書き能力)という本だ。ここには、いくつかの役に立つ知恵が記されている。けれども、Richard Saul Wurman、Seth Godin、David Bodanis、それに Craig Newmark といった著名人たちがいくらこの本を褒めちぎったとしても、私は正直言ってこの本では結局満足を得られないと思う。

“Bit Literacy”は、まるで 1950 年代の真面目な教育映画をそのまま復活させただけのもののような感じがする。Hurst は、電子メールや写真、メディアソースその他の管理についての彼の提案がどんな人にも、職業や性格、嗜好にかかわらずすべて等しく当てはまることに完璧な自信を持っているかのような語り方をする。その上、この本全体にわたって基盤に流れているのは、特殊目的のソフトウェアに内在する機能性や、コンピュータ全般に対する不信感、まるで Luddite[訳者注: 19 世紀初頭の技術革新反対論者たち]風の頑迷さに加えて、頻繁に繰り出されるソフトウェア開発者たちへの攻撃だ。Hurst は、開発者たちが作っているプログラムはユーザーに役立つ機能を提供する引き換えに市場シェアを強化するためだけにデザインされているのだと信じ込んでいるようだ。そういうものの代わりに、Hurst はいわば温情主義的な口調で読者たちに懇願して、いくつかの、高度に特定化された、ほとんどロボット風とも言えるような方法のみに専念して働くように求める。ここでの全体的な目標は、可能な限り数多くの情報ビットを消し去ってしまうことだ。「皆さんは、ただ私のシンプルなルールに従うだけでいいのです。さあ子供たち、これで君たちも、情報過剰の悪影響に苦しめられることはありませんよ!」という具合だ。

電子メールについては、Hurst は「inbox ゼロ」のアプローチを推奨する。これはそれ自体問題のある方法とは言えない。けれども彼は、個々の電子メールメッセージをテキストファイルに出力してそれらを通常のフォルダの中に特別の名前付けスキーム(イニシャル-日付-話題.拡張子)を用いて保存しておくことを勧める。その理由は彼が電子メールプログラムを信用しておらずメールを紛失するおそれをなくすということと、それから彼が一つのプロジェクトに関するものはすべて一つのフォルダに(サブフォルダはなしか非常に少数にとどめて)入れておくべきだと信じているからだ。こうして、よくある電子メール関係の作業(討論を読んだり、整理、検索、返信その他をしたり)を易しくするために作られたプログラムに依存する代わりに、Hurst はあなたにもっとシンプルで汎用のツールに戻るようにと指示し、そのためあなたは相当に多くの手動の操作をする必要に迫られることになる。彼は(付録のずっと後のあたりで)現状では“bit-literate”な(「ビット読み書き能力」のある)電子メールプログラムなど存在していない、と述べている。ただし、そのようなプログラムがどんな機能を持っているべきなのかはどこにも述べようとしていない。

同様に、to-do プログラムで Hurst の要求を満たすものも存在しない - ただ一つの例外を除いて。驚くなかれ! そのたった一つの例外とは、彼自身が開発した Gootodo というウェブベースのシステムで、これは半年あたり $18 もかかる。(この Gootodo が、Hurst が絶え間なく批判を繰り返すいろいろなツールと同じにユーザーをサイトに固定しようとするものなのか否かは何も語られていない。)彼の求める to-do マネージャの基準はこうだ:

これらの中で興味深いものがあるとしたらそれはたった一つ、新たな to-do 項目が電子メールで作れて、それらを指定された Gootodo のいくつかのアドレスにあてて送ったり転送したりすることでスケジュール運用もできるという点だろう。これは実際あまり他には見られない機能で、便利なものだろうと思う。けれども Gootodo はウェブ経由でしかアクセスできない(ましてや iPod や iPhone と、もちろん iCal などと同期させることもできない)ので、あまりにもシンプル過ぎて、毎日片手に収まり切れない程度の to-do 項目を扱うような人にはものの役に立たないのではないだろうか。そういう批判に対し、Hurst は単に to-do 項目を多く抱え過ぎた人たちは to-do マネージャがそれを解決してくれるなどと望まない方がよいと言うだけで切って捨てる。おいおい Mark よ、しっかりしてくれ! それこそが我々が君の本を読んでいる理由じゃないのかね?

この to-do の章には脚注があって、Hurst が現代のテクノロジーについてどう考えているかをよく表わしている。いわく、「[Gootodo に] 追加して欲しいとよく寄せられるリクエストに AJAX や RSS、その他今どき流行りの安っぽい略語のいろいろがあるが、これらは技術専門家とか流行語の大好きなジャーナリスト連中にしか意味の分からない代物に過ぎない。」馬鹿げた考え方だ。AJAX は何度もページの再読み込みをさせずともはるかに優れたオンラインのインターフェイスを与えられるためのものだし、RSS のサポートは人々にとって便利なやり方で人々にコンテンツへのアクセスを提供するためのものだ。もちろん、AJAX や RSS を避けるべき正当な理由が存在することはあり得るが、今どき流行りで安っぽいからというのは全く理由にならない。

Hurst の言うことで最も納得できる部分が、入ってくるメディアの管理に関する話だ。彼は、出版されてくる情報の洪水を制限するために、メディアソースを「ラインアップ」と一連の「トライアウト」に分離することを提唱している。あなたの「ラインアップ」の中では、非常に少数のものだけに「スター」印を付けてそれについては定期的にしっかりと読むようにし、いくつかのものには「スキャン」印を付けておいて興味深く便利そうな記事が出た時のみ深く読むようにする。また「ターゲット」印を付けたものは特定のターゲットの目的のためだけに読むようにする。「トライアウト」では、しっかりと目を配って自分がそれを何の目的でどのくらいの期間トライアウトしているのかを忘れないようにし、そのトライアウト項目がいつでもどれかのラインアップ項目を置き換えられる可能性があることも頭に留めておくということだ。

このアドバイスは基本的に道理に適ったものと言える。ただ、ここで Hurst が盛んに「メディアダイエット」という用語を乱発するのでその価値が切り崩されてしまっている。ダイエットという言葉こそまさに流行りで安っぽい以外の何物でもなく、現実問題としてかなりの長期間にわたって保つのは不可能に近いものだ。私は、情報メディアに関する Hurst のこのアドバイスも現実問題として同じことになるのではないかと思う。もちろんそれは止むことのない警戒心と自制に耐えられるかどうかという問題なのだが。

他にも役に立つ部分はあった。メディアダイエットに関する提案と並んで、Hurst は電子メールやウェブページでどういう風に文章を書けばより読みやすく一覧もしやすくなるかという点に関していくつか素晴らしいことを書いている。その中で、最も重要なアイデアを文章の冒頭でまず述べて、それに続いてメインのアイデアを支えるべき情報を記述するべきだと彼は指摘する。また、混乱やあいまいさを避けるためには明らかな事実もはっきりと述べること、あるいは「今日」「明日」「来週」といった相対的な日付は誤解されやすいので絶対的な日付を使うこと、といった提案も的を得ていた。

けれどもそのような素晴らしいポイントも、数多くの問題点によってかき消されてしまっている。また別の短い章があって、Hurst はそこで彼自身がどのように写真を整理しているかを説明しているが、この部分は特に見当違いのことが書いてあると思う。彼が言うには、毎年一つずつの iPhoto Library を作って、毎月の個々のイベントごとに何かのセット(例えばアルバム)を作るべきだという。彼は iPhoto ですべてを一つの iPhoto Library の中で作ることもできると認めているものの、写真の日付が違ってしまう可能性があるのでそれは使うべきでないと切り捨てている。確かにまれに日付が違ってしまうことは起こり得るし現に起こってはいるが、間違った日付は簡単に修正できる。もちろん複数の iPhoto Library を作って互いに切り替えて使うべきちゃんとした理由はいろいろあり得るが、一年以上の期間にわたる写真があるから複数の iPhoto Library に切り分けなければならないというのは理由にならない。そんなことをすれば、検索が面倒になるだけだし、毎度どの iPhoto Library を見るべきかをいちいち覚えていなければならなくなってしまう。

その他にこの本“Bit Literacy”で私がおかしいと思った点をいくつか挙げてみよう:

全体的に、今日人々がさまざまに幅広く異なった方法でコンピュータを使っているという、非常にリアルな問題点に対して目が向けられることが少な過ぎるように思われる。世界中に散らばった同僚たちと協力して研究プロジェクトの共同作業を進めている工学の教授に当てはまるアドバイスと、製造業の大会社の中で働くインハウスのグラフィックデザイナーや、小規模の都市で数え切れないクライアントたちを相手にフリーランスの市場コンサルタントとして働く人たちにとっての便利さとは、互いに何の関係もないものではないだろうか。

それにまた、私はこれを読んでいて、Hurst がすべての情報ビットを常にただ消去せよと繰り返し繰り返し説教を垂れるのが癇に触る。確かに、写真であれ、電子メールであれ、iChat の口述であれ、私たちはさまざまの形でますます増え続ける量のデータにさらされ続けている。けれどもそうした情報ビットを何よりもまず消し去ろうとする態度は、写真を消すにせよ、電子メールをゴミ箱に放り込むにせよ、iChat を使うのを拒否するにせよ、単にその場その場でより多くの作業を必要とする結果に終わるのみならず、将来失われた情報のせいでフラストレーションの原因となるだけだろう。Google のようなサービスが人気を得ているのを見れば、人々が本当に望んでいるのは大量にあるデータを自動的に管理して並べ替えてくれるツールなのだということが分かる。ディスク容量の価格は年々下がり続けているし、Moore の法則によれば私たちは十分な CPU パワーを手にしている。だから私たちが今必要としているのは、情報の大海の中から意味のある結果を素早く抽出してくれるような、より良いツールがもっとたくさん欲しいということなのだ。

最後に一言。この“Bit Literacy”という本には例えば Google Docs のような現代のツールも時々触れられているものの、この本に書かれていることのほとんどすべては Hurst が彼のキャリアをスタートさせた 10 年前に書かれていてもおかしくなかったことばかりだ。そのこと自体は別に批判でも何でもないが、この時代遅れの思考態度のために、Hurst がその後自分の考え方を検証して新しいツールがそうした作業のどれかをより易しいものへと変えてくれるのではないかと調べてみることを一切しなかったのではないかと疑いたい気持ちにさせられる。ファイル名の付け方にしても写真の整理方法にしても、ここに書かれた彼の勧める挙動とは、まさにコンピュータが私たちに代わって処理してくれるはずの繰り返し作業そのものに他ならない。コンピュータが存在するからこそ、私たちはこれほどにデジタルデータの洪水にさらされているのだ。まるで私たちがマシンであるかのように挙動するような作業に集中しようというアプローチは、どう見ても間違った方向に私たちを向けようとしているものと思えてならない。


TidBITS Talk/11-Feb-08 のホットな話題

  文: Joe Kissell <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2008年 3月 21日 金曜日, S. HOSOKAWA