TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#987/20-Jul-09

今週号も夏向けの読み物として、三つの特集記事を集めてみた。まずは Jeff Carlson が、オンラインで入手できる Apollo 11 号関係の資料を考察する。それから Rich Mogull が、従来は企業クラスの顧客にしか利用できなかったセキュリティ機能が iPhone 3GS で提供されるようになったことを説明し、Glenn Fleishman は、Amazon が顧客の Kindle 機から George Orwell の小説“Nineteen Eighty-Four”と“Animal Farm”を削除するという暴挙に出た件を詳細に調べ上げる。また今週は Microsoft Office 2008 for Mac Service Pack 2 が、新しい共同作業用アプリケーションも加えてリリースされた。その他のソフトウェアリリースとしては Firefox 3.5.1、TextExpander 2.6.3、iMovie '09 8.0.4、iTunes 8.2.1、QuicKeys 4、Quadro Mac OS X Driver Release 18.5.2、Hazel 2.3、CheckUp 2.5 がある。

記事:

----------------- 本号の TidBITS のスポンサーは: ------------------

---- 皆さんのスポンサーへのサポートが TidBITS への力となります ----


Microsoft、Office 2008 Service Pack 2 をリリース

  文: Doug McLean <[email protected]>
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

Microsoft の Macintosh Business Unit は Office 2008 for Mac Service Pack 2 (12.2.0) をリリースした。新しいコラボレーションアプリケーションに加えて、追加されたのは各種の速度強化、バグ修正、そして顧客要請の機能がある。

Microsoft Document Connection -- このアップデートで最も目を引く変更は、Microsoft Document Connection と呼ばれる新しいアプリケーションである。これでもって、Microsoft SharePoint サイト (Windows ベースのサーバー上で動く) か或いはMicrosoft Office Live Workspace と呼ばれる Web ベースのコラボサービス上にある共有ファイルでの作業がよりやりやすくなる。

これは Office Live Workspace への接続を Web ブラウザを使うこと無しにやらせてくれ、そしてドキュメントの保存と開くのも直接やらせてくれる。SharePoint は接続を管理し、同じグループ内のユーザーが、あるドキュメントのステータス、つまりそれが使える状況にあるのか、誰が今作業中なのか、そしてそのドキュメントの許可はどうなっているのかという様な状況を分かる様にしている。

Microsoft Document Connection のリリースと同時に、Microsoft は Office Live Workspace に Safari 4 へのサポートが追加されたと発表した。Microsoft Document Connection は Office 2008 for Mac Service Pack 2 アップデートに無償で付いてくる。

その他の Office 改良 -- その他の全ての Office 2008 アプリケーションで、アプリケーションが突然終了してしまう可能性を持つ問題を修正することで安定性が向上した。更に、全てのプログラムで Austrian と German 語でのスペルチェックが向上し、そしてチャートエレメント上でテキストを整列させる新しいコントロールが付いた。

PowerPoint 2008 は最も重要なプログラム変更の幾つかを受けていて、それにはスライドをダブルクリックしてテキストボックスを追加する機能、アニメーションカスタムパス (或いはモーションパス) を書いたりそして編集したりすることへのサポート、プレゼンテーションへ動画化された GIF ファイルを加えそしてスライドの中でそれを再生する能力、プレゼンテーションの最中に異なったビューやアプリケーションに切替える時にミラーリングを生かしたり殺したりさせてくれる新しい設定、そして新しいプレゼンテーションを作成する時デフォルトででて来る黒白の Office テーマを置き換える自分自身のデフォルトを設定できる能力がある。多くのバグ、クラッシュするものしないものも含めて、も対応されている。

Excel 2008 では、数多くの小幅な変更がなされており、その中には保護されたワークブックで仕事をする時の信頼性が向上、ネットワークシェアからワークブックを開いたり計算をする時の速度が向上、そして幾つかのクラッシュを起因するバグ修正 (Formula Builder の中で XNPV 関数のためにある特定の順序で独立変数を入力する時に現れるものも含んで) が含まれる。

Word 2008 はプログラムの立ち上げ時間が大幅に短縮され、そして Outline View での作業での性能向上が図られた。その他にも、写真とのメールマージを使うとアプリケーションがクラッシュする事があった問題が修正され、Notebook Layout View は今やクラッシュの後でも音声ノートを修復し、Word 2007 と Spell Catcher X との相性も改善され、そして番号付きリストのディスプレイへの再配列とコピーに対する信頼性が強化された。

最後に、Entourage 2008 は今や自動的に MobileMe アカウントを構成し、新しい Windows Live Hotmail アカウントに対する POP アクセスをサポートし、そしてアップデートされたジャンクメールフィルタ定義ファイルを含むようになった。

ダウンロードの詳細 -- Microsoft Office 2008 for Mac 12.2.0 Update は Mac OS X 10.4.9 かそれ以降を必要とし、更に 12.1.0 アップデート (このアップデーターはコンボアップデーターである、つまり 12.1.0 以来の全ての修正が含まれている) が既に当てられていることが必要である。これは Microsoft の Web サイトからだと 297 MB のダウンロードとなるが、どの Office 2008 アプリケーションからでも Check for Updates を選択すると起動される Microsoft AutoUpdate ユーティリティ経由でも入手出来る。


Mac と月を熟考して

  文: Jeff Carlson <[email protected]>
  訳: Minori Goto <minorig@gmail.com>

2009 年 7 月 20 日は Apollo 11 号が月面着陸し、人類が地球外の地を初めて歩いてから40 年を記念する日だ。月旅行をした三人の男達(そして月面に靴跡を残したその中の二人)に多くの注目が集まっているが、私の心に宿る geek は科学者達と不可能と思えたことを達成させた莫大な努力にまたも畏敬の念を抱くのだ。

この歴史的出来事がいかに、Mac と関係しているか。宇宙計画と Apple を比較するのはどう見ても関連が薄いと認めざるを得ない。しかし、(稀な例を除いて)地球に縛られた現代の私達の存在では、Gemini や Apollo ミッションを導いた意欲的な工学技術魂を、Apple も同様に持っていると私は長いこと感じてきた。

Apple にはビジョンがあり、人々がそれは誤っていると思う時でさえ、そのビジョンを達成しようと努力している。例えば、現在の MacBook Pro 製品を取り上げてみよう。他のメーカーは洒落たプラスチックの筐体を製造し続けているのに、Apple は重量を加えずにラップトップのかたさを強化し、コンピュータを成すパーツの数を簡素化する、ユニボディ筐体デザインを設計した。

あるいは、iPhone を見ていただこう。これは、すでに飽和状態にあった市場に高価格で導入され、成功のチャンスなどあまりないように見えた。Apple はソフトウェアで刷新をはかり、携帯電話に何ができるかという人々の概念を根本から揺るがした。今や、iPhone は大成功となり、その結果、大手電話メーカーは自社の時にさえないハンドセットの見直しにかかっている。

これらの類似をこれ以上誇張するのはよそう。結局のところ、Apple のソフトウェアは、すべての市販ソフトウェアと同様に、未知なる宇宙へ宇宙船を打ち上げるのに必要な強力で冗長なシステムに比べれば、ずっともろいものなのだ。しかし、40 年前の達成と科学技術を振り返って見ると、工学技術における素晴らしい功績だけでなく、今日のハードウェアとソフトウェアへのインスピレーションも私は感じ取れる。現代のハードウェアとソフトウェアは、人類を月に送りそして無事に地球に帰還させた両親や同僚を持つ人々によって作り出されたのだ。

月面着陸を熟考するにあたり、以下の資料を閲覧して Apollo 11 号と私達が住む宇宙のついてもっと知っていただきたい。

1 セントで宇宙に向かおう -- 月面着陸 40 周年を祝うため、 Carina Software は同社の天文学ソフトウェアを 2009 年 7 月 20 日に限り 1 セントで販売している。SkyGazer 4.5 は通常定価 $29.95 で、アマチュア初心者向けバージョンだ。 Voyager 4.5 は通常価格 $99.95 で上級者向け。両方とも Mac OS X を必要とする。(Windows 用バージョンも入手可能だ。)

SkyVoyager for iPhoneSkyGazer for iPhone(双方とも iTunes リンクで) もこの日に限りApp Store から無料で入手可能だ。

We Choose the Moon -- John F. Kennedy Library によるプレゼンテーション" We Choose the Moon" は地上管制センターと宇宙船の交信、アニメーション、当時のビデオ、写真などを使用して、リアルタイムで打ち上げから初めて月面に足を踏み降ろすまでの、Apollo 11 号のミッションを再現してきた。このプロジェクトでは、三つの Twitter アドレスも設置され、Houston と Apollo 11 号の交信を再現している。だから数日間もウェブサイトにくぎづけになっている時間の余裕がなくとも、数千マイルの空間を介した会話をテキストで体験することができるのだ。

Apollo 11 巨大資料集 -- Jason Kottke による "The giant Apollo 11 post" では、インターネット上にある Apollo 11 号についてのメディアと情報が感心すべき量で収集されている。

宇宙旅行から派生した科学技術 -- NASA Spinoffs は古めのウェブサイト(最後の更新は 2004 年) だが、NASA の研究から生み出された今日の科学技術の幾つかについて教えてくれる。

In the Shadow of the Moon -- 私は、2007 年の Seattle International Film Festival で "In the Shadow of the Moon" の上映を見たのだが、このビデオを レンタル購入 (iTunes Store のリンクで)あるいはストリーミング、してご覧になるよう是非お勧めする。これは、Apollo 11 号計画についてのドキュメンタリーで、今まで未公開であった映像フィルムや幾つかの珠玉を含む。NASA での映画のためのリサーチ中に、映画監督と彼のアシスタントは Housten 地上管制センターの宇宙船との会話の音声とビデオ記録を別々に見つけた。そしてこれらを同期させて、人々が通信を口から発している様子を見て聞けるようにしたのだ。

この映画には、素晴らしい場面が一つあるのだが、その裏話も同様に素晴らしいのだ。私達は皆、宇宙に向かって行く宇宙船の視点から、空になった燃料タンクが地上に落ちていく様子をとらえた、ロケットの段が切り離される映像フィルムを見たことがある。これに代わって、ある 2 分のシークエンスでは二つのパーツが切り離されていくのが見えるが、これは補助ロケット中に搭載されたカメラの視点からなのだ。宇宙船はだんだん小さくズームアウトされていく、そしてパーツが大気圏中にゆっくり落ち始めていくにつれ、太陽の光の角度が徐々に変わっていく。(YouTube にあるこの映画のクリップを 5 分 50 秒のところから見ていただきたい。)

私が見た上演後に質疑応答があったのだが、その中で映画監督 David Sington が言ったことによると、このカメラは補助ロケットが大気圏中で燃え尽きてしまう前に、射出されるよう操作されていたそうだ。(映画のクリップの終わりに、ちょっとだけだがこれをズームしたものを見ることができる。)カメラを回収するために、NASA は数機の飛行機の後部に巨大なネットを装備し、これらの飛行機がカメラの落下しそうなあたりをパターン飛行したとのことだ。


iPhone 3GS、すべての人に企業クラスのセキュリティを提供

  文: Rich Mogull <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>
訳: Minori Goto <minorig@gmail.com>
訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

[アップデート情報: この記事が出された後間もなく、iPhone のすべての暗号化(iPhone 3GS のハードウェア暗号化も含む)を破る方法が公開されました。詳細は Wired 記事に載っています。このテクニックは中程度の技能しか必要とせず、TidBITS スタッフ自身が限られた状況下でテストした結果でも、これが確からしいことが確認されました。さらなる詳細を記したフォローアップ記事を Rich が執筆中で、記事が出来上がり次第この記事の冒頭にリンクを張る予定です。私たちは Apple ができる限り早急にこの問題に対処することを願うものですが、それが実現されるまでの間は、iPhone の暗号化をセキュアなものと考えるべきではないです。]

初代の iPhone は、企業向けの基本的なセキュリティ機能を欠いている点で、セキュリティのプロたちから広く批判を受けてきた。大規模な企業ネットワークにおいては膨大な数のユーザーが存在し、それらのユーザーをサポートするためにバックエンドのオペレーションが膨大となるため、それに応じた特別の必要が生ずるのだ。

初代の iPhone はロックダウンするのが難しく、セキュア接続のオプションも限られたものしかなかった。また、データ保護もなく、電話機をなくしてしまった場合に何らかの遠隔操作でデータを破棄することもできなかった。その後、iPhone ソフトウェアのリリースがある度にこれらの機能は改善され続け、さらには iPhone 3GS に至ってハードウェアの改善もそれに加わったことにより、現在では普通のユーザーたちさえも、大多数の企業環境で提供されているのと同等のセキュリティを享受できるようになっている。

iPhone 3GS ハードウェアの利点 -- 私が以下で触れるソフトウェア機能の大部分は iPhone OS 3.0 の走るすべての iPhone で動作するが、3GS モデルには一つ重要な利点があって、そのお陰でこの機種のオーナーは企業クラスのセキュリティを体験することができる。iPhone 3GS は、業界標準の AES 256 プロトコル (Advanced Encryption Standard、キー長さ 256 ビット) を使うハードウェア暗号化チップを内蔵しているのだ。

ハードウェア暗号化により、その機器は(携帯電話であろうと、ハードドライブであろうと)機器内に保存された暗号化キーを消去することによって、ほぼ瞬時にデータを消し去ることができる。きちんとデザインされたシステムならば、そのキーをセキュアに除去するだけで、すべてのデータが完全に回復不可能なものとなる。たとえ政府機関であろうと、回復させることはできない... たぶん。

Apple によれば、iPhone 3GS 上のすべてのデータはデフォルトで暗号化されている。Research in Motion 社の BlackBerry モデルを除いて、現在市場にあるスマートフォンですべてのデータを暗号化しているものは非常に少ない。けれども、これらの高度な機器の中に私たちがどれだけ多くの個人的データを入れておくようになってきたかを考えれば、この機能がこの上なく重要であることが分かるだろう。私からのいろいろな提案を皆さんが実行して下されば、たとえ知識あるアタッカーをもってしても、あなたがなくした携帯電話の中に侵入してデータを引き出すのは全くありそうにないことだ。

だからと言ってあなたがあらゆるアタックから守られるわけではない。暗号化された他のコンピュータと同じく、もしも悪い奴があなたがログインしている最中にその機器をハックすれば、暗号化されていないあなたのデータにアクセスされてしまうだろう。けれども、私たちが現実に直面する最も一般的なリスクは携帯電話をなくすことで、デフォルトで暗号化されていることにより(さらにすぐ後で説明するパスコードのロックも加えれば)基本的にあなたのデータが暴露される危険はなくなる。

パスコードロックをセット -- 携帯電話で最も基本的なセキュリティ用オプションは、スクリーンをロックするためのパスコードが設定できることだ。これで、電子メールのメッセージや、電話番号、テキストメッセージなどが簡単に覗き見されるのを防げる。これは、市場にある事実上すべての携帯電話に装備されているオプションだ。iPhone でこれを設定するには、設定 -> 一般 -> パスコードロック をタップして、パスコードを入力する。(パスコードを忘れないように! もしも忘れたら、電話機を初期化しなければならなくなる。)この機能は iPhone OS 3.0 よりも前からあり、すべての機種で働く。

パスコードロック 設定ページには、他にもいくつかオプションがある。どの機種の iPhone でも、待機状態で一定時間が過ぎるとパスコードが必要になるように時間間隔を選ぶことができる。私の場合は 15 分に設定しているが、これくらいが私のポケットから出し入れして使うときの使い勝手とセキュリティとのちょうど良いバランスのように思える。

iPhone 3GS では、スクリーンがロックされている最中に音声コントロールを有効にするか無効にするかも選べる。私はこれをオンにして、運転中に音声でダイヤルする際にもパスコードを入力せずに済むようにしているが、もしもあなたが携帯電話を置きっぱなしにしている最中に誰かが勝手に南極へ電話してしまうのが心配なら(あるいは、あなたの iTunes セレクションの曲を誰かに聴かれて気恥ずかしい思いをするのが嫌なら)オフにしておけばよい。

あなたのデータを消去 -- さらにもう一つ機能があって、これが iPhone のパスコードロック機能を市場にある他の多くの携帯電話と一線を画すものとしている。「データを消去」オプションをオンにしておけば、iPhone は 10 回目までしかパスコード入力の失敗を許さない。10 回失敗すると、オペレーティングシステムがワイプ作業を開始し、あなたの電話機にあるすべてのものを消去する。(心配することはない。もしもあなたが間違ってそうなってしまっても、前回のバックアップからすべてを復旧すればよい。)この種の機能を私は BlackBerry のような企業向けの機器で見たことはあるが、コンシューマ向けの携帯電話でこのような機能は稀だ。

初代の iPhone と iPhone 3G では、データのワイプにかなりの時間がかかる。なぜなら、ソフトウェアがあなたのデータを消去し、それからさらに上書きもするからだ。Macworld の Dan Frakes が Apple に尋ねたところ、所要時間はデータ量 8 GB あたり約 1 時間かかるとのことだった。

けれども iPhone 3GS では、さきほど述べた通り、もっとずっと速くて手軽だ。iPhone 3GS は、単にデータを保護している暗号化キーを消去するだけでよい。この方法は“crypto-shredding”と呼ばれ、セキュリティの世界では一般的なやり方だ。

遠隔ワイプ -- iPhone OS 2.0 のリリースによって、企業ユーザは Microsoft Exchange インテグレーションを使い、紛失された機器を遠隔的にワイプすることができるようになった。これは重要な機能だ。というのも法医学調査員はパスコードロックを破る必要なく、機器をコンピュターに接続したり直接分析を行ったりしてデータを機器から取り戻せることがよくあるからだ。(それでも3GS は、ハードウェアの暗号化のおかげで保護されている。) 遠隔ワイプは、シグナルを携帯電話に送りそのデータすべてを削除する。このためには、電話はオンにされシグナルを受信できるようネットワークに接続されていなくてはならない。

広く報告されてきたように、MobileMe アカウントを持つ iPhone OS 3.0 ユーザは、企業サーバを必要とすること無く、現在はこの機能を持つ。(アカウントスクリーン中の)MobileMe の Find My iPhone の部分にログインすることで、"Remote Wipe" を選択し携帯電話をワイプすることができる。消費者向けの電話とサービスにおいて、私たちがこのオプションを見るのはこれが初めてだ。しかし、これには有料の MobileMe 加入が必要となる。このサービスは単一のユーザには年間 $99 の定価で提供され、個別のアカウントが五つ付いてくるファミリーパックは $149 で提供される。さらに、この機能のためには、携帯電話自体の Find My iPhone を動作可能にしなくてはならない。というのも、これはあなたが MobileMe 情報をインプットあるいはシンクする時にデフォルトではオンになっていないからだ。

iPhone 3GS 上での遠隔ワイプはパスコードワイプと同じように機能する。暗号化キーは削除され、遠隔ワイプは速くて効果的な過程となっている。

思いがけない有利点 -- 企業セキュリティチームの大きな悩みの種の一つはポータブルストレージだ。現在では、デジタルカメラに搭載されている SD カードのような、小さなストレージカードが多数のギガバイト分のデータを保存できるため、機密情報の紛失における一般的な搬送機構となった。

多くのスマートフォンは外部ストレージをサポートするが、これはほとんどの場合暗号化されたり、他の手段で保護されていない。企業セキュリティは遠隔機器でのポータブルストレージの使用を制限し企業データを保護するために、高価なソフトウェアを必要とする傾向にある。

iPhone は追加ストレージをサポートしないので、これは実際、企業にとって有利点となる。個人的に言わせてもらえば、私の iPhone 3G の 16 GB の容量には十二分に満足していたし、私の 32 GB の iPhone 3GS では容量の限界に届くようなことは全くない。

更なるセキュリティの恩典... そしてリスク -- セキュリティオプションの賢い選択と合わせて、iPhone 3GS に暗号化ハードウェアを組み込んだ事は、企業にとっても消費者にとっても共に良い事である。iPhone は物理的に失くした場合でも簡単にセキュリティを確保できるが、これがセキュリティに関する道の終わりではない。

その他にも、いわゆるセキュリティに特化したというわけではないが、極めて有効なセキュリティの利点を提供する二つの重要な機能がある。iPhone は市場では飛び抜けて最もアップデートされた電話と言えるであろう。これは何も最新のハードウェアを求めて Apple ストアに毎年お参りをすることを意味しているわけではなく、機能を追加したりセキュリティホールを埋めるための常時行われているソフトウェアアップデートのことを意味している。電話は今や小さなコンピュータであり、Mac や PC と同じ様にソフトウェア脆弱性の問題に晒されている。

iPhone はその公正な取り分以上の脆弱性に苦しめられてきたが (最新のアップデートには 46 のパッチが当てられている)、大抵の消費者用電話と違って、ユーザーは自分の iPhone をタイムリーにアップデートする可能性は _ずっと_ 高く、これが穴を埋めている。過去においては、多くの電話は自分で小売店に持って行き、如何なるアップデートであれそれを当てるよう特別のお願いをしなければならなかった。iPhone では、時折は Mac か PC につなぐという前提での話だが、これらセキュリティアップデートをしない様にする方が難しい。

二つ目の機能は、iTunes に組み込まれた自動バックアップである。iPhone はコンピュータにつなぐという前提でだが、iTunes はあなたの電話上の全てのデータを、あなたの設定の殆どとアプリケーションの全てを含んで、バックアップする。万が一自分の電話をダメにしてしまった時でも保護してくれるのみならず、何らかのセキュリティ機能の設定で間違いをしてしまっても、自分のデータを失くしてしまう心配は要らないということでもある。

私の iPhone をリモートできれいさっぱり消し去っても実際に失うものは何もなく、強いて言えば、バックアップを戻し幾つかの設定をきれいにするための少々の時間だけである。iTunes はあなたの iPhone バックアップを暗号化することも出来 (iPhone OS 3.0 が走っているモデルならどれでも)、これは企業にとっては有用である。

実用的には安全 -- ここまでは電話のための最も重要なセキュリティ機能について焦点を当ててきたが、iPhone は各種の追加のセキュリティオプションが付いた小さなコンピュータでもある。ネットワーク通信を暗号化するため VPN 接続を使うことも出来る、メール接続を暗号化することも出来る (VPN を必要としないで)、そして人気の 1Password パスワード管理ツールの iPhone バージョンの様なセキュリティツールを追加でインストールすることも出来る。

これは何も iPhone が完全であると言っているのではない。iTunes への依存というのは、仕事用のコンピュータに消費者向けソフトウェアが散乱しているのをしばしば好まない企業向けには極めて大きな障害である。更に、前述した様に、iPhone はこれまでも多くのソフトウェア脆弱性を経験してきていて、その中には攻撃者が悪意の Web サイトを訪問させてあなたの電話を乗っ取ってしまうことを可能にするものもある。最近一人のセキュリティ研究者は、SMS テキストメッセージに毛がはえた様なもので iPhone をハックする方法を見つけ出している。

iPhone 3.0 ソフトウェアには、市場に出回っている他の多くのスマートフォンと同程度と言える多くのセキュリティ機能が含まれている。しかし、iPhone 3GS に追加された暗号化ハードウェアと、そして MobileMe への加入とで、消費者は今や企業クラスのセキュリティを経験することが出来る。


二重プラスの ungood: Amazon が Orwell を un-出版

  文: Glenn Fleishman <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

[訳者注: ジョージ・オーウェルの小説「1984年」の世界では“bad”という単語が存在せず“ungood”という造語で代用されます。また、単語を強調する際には「+」を、さらに強調する際には「++」をその単語の前に付けます。]Amazon が、George Orwell の本を2冊、まだ心臓が脈を打っている状態にもかかわらず、顧客たちの持つ Kindle 機の中から剥ぎ取った。この行為に対する反応として、所有権やアクセス権に関係した抗議の意見が嵐のごとく燃え上がり、Amazon は今後二度と Kindle 機から顧客のコンテンツを消去しないと誓うに至った。しかしながら、これは大多数の報道が無視するか、あえてごまかしていると思える点だが、Amazon は同時に自分自身が非常に困った立場にいるという事実に直面することとなった。

その発端は、Amazon が2つの著作物を消去したことだった。何とも驚くような詩的現実と言おうか、その著作物とは“Nineteen Eighty-Four”(1984年) と“Animal Farm”(動物農場) だった。[訳者注: ジョージ・オーウェルが 1940 年代に書いた代表作で、2冊とも反全体主義思想のバイブルと言われた作品です。]Amazon の言によれば、Kindle のコンテンツを出版しているサードパーティの会社がこれらを販売用に提供する権利を有していなかったのだという。その出版社 MobileReference は、パブリックドメインの著作物のフォーマット版を販売するほか、他のタイトルも販売している。

Amazon は、あらかじめ警告することなく遠隔操作で本を消去した点で、確かに正しくない行動をした。その際に、その本に付随して顧客たちが書き込んだブックマークやメモなども一緒に消去してしまった。本を購入した顧客たちの側は、誠意をもって購入したことに疑問の余地はない。しかし、会社としては自身が著作権を侵している状況を解消する必要に迫られていたことも確かだ。

いささか特別なケースとも言えるこの状況が、どのようにして発生してしまったのかは、調べてみる価値があるだろう。それとともに、Kindle 購読者に与えられている権利に関して Amazon がこれまでどのように述べてきたのか、そして、これが将来に向かって何をもたらすのかについても、検討してみたい。

公共の利益のために -- George Orwell が亡くなったのは 1950 年だった。その事実が、彼の著作権に関係した難しい問題の焦点となる。国によっては、彼の作品はパブリックドメインに属するが、米国においてはそうならない。おおむね統一された国際的著作権法が 1970 年代に採用されたが、その後は修正が加えられて調和に緩みが見られるようになってきた。

現在の米国の法律では、1923 年より前に出版された作品は完全に解放されている。つまり、それらはすべてパブリックドメインに属する。これに加えて、1923 年から 1950 年までの間に出版された作品がある。これらには当初均一の 28 年条項が適用され、その後同じ期間の更新条項が提供された。その間に出版された作品で、更新されなかったものは、現在ではパブリックドメインとなっている。

それ以外のすべての作品は、非常に長い延長期間を提供した新たな体制の中へと送り込まれた。さらに、1977 年以降に作られた作品はすべて、著者の死後 70 年間をカバーされることとなった。(さらに詳しい要約は、2009-10-29 の記事“著者たち、出版業界が Google Book Search と和解合意”の“問題となる著作の種類はさまざま”セクションを参照されたい。また Peter Hirtle の“Copyright and the Public Domain in the United States”も参照。)

Orwell の作品は彼の生存中に英国で出版され、米国の著作権局で検索したところ“Animal Farm”が最初に登録されたのは 1950 年だった。表面上は、これらの貴重な作品はすべて条項の更新が為されたことになっている。(最初の登録は必須ではないが、登録することによって所有権が確証され、訴訟に勝った場合の賠償額が三倍となる。それに対し、更新は必須事項だ。)

米国の形式(著作権表示や更新など)を踏んで出版された作品はすべて、著作権の延長が修正され、最初に著作権が登録された時点から 95 年後までとなった。こうして、“Animal Farm”は 2040 年まで、“Nineteen Eighty-Four”は 2044 年まで、それぞれ米国内では著作権の保護を受けることとなった。

けれども、オーストラリアにおいては、著者が亡くなったのが 1954 年より前なのか後なのかによって著作権法の変更内容が異なり、作品が出版された日付は勘案されない。オーストラリアでは、1954 年またはそれ以前に亡くなった著者の作品には著作権が著者の死後 50 年まで延長され、1954 年より後に亡くなった著者の作品は死後 70 年までとなる。こうして、Orwell の著作はすべて、さまざまのオーストラリアのサイトにおいては無料でオンラインで入手できることとなる。(オーストラリアの Project Gutenberg では、この国の権利条項についてよく出来た要約を載せている。)

MobileReference 社からのコメントはまだ公開されていないが、見たところこの会社はパブリックドメインの作品と、ほんの僅かの参照文献(例えばすべての合衆国大統領の経歴など)のみを扱っているようだ。おそらく、この会社は誤って米国でこれらの作品を含めてしまったのだろう。

われら死すべき人間が持つ権利 -- 米国において私たちが物理的な本を購入すれば、その本をいつまでも所有しても、財産の一部として相続人に引き渡しても、燃やしたり損傷したりしても、人に貸して戻ってくるのを待っても、あるいは寄贈しても、転売してもよい権利を持つ。新しい所有者もあなたと同じ権利を持つ。(注意すべきは、これらの権利が必ずしも常に一点の曇りもなく明確ではなかったということだ。例えば、転売を許す権利消尽の原則は訴訟の対象となったが、その結果支持された。)

私たちがデジタルメディアを購入する時は、それが音楽であろうと、ビデオであろうと、あるいは本であろうと、ほとんどいつも私たちはライセンスを購入しているのであって、所有権を獲得しているのではない。通常の場合(例外もあるが)購入したものを転売することはできない。なぜなら、私たちが得たものは完璧なデジタルコピーだからだ。つまり、私たちがそれを人に譲り渡した後、私たちが手元にあるその作品を消去したかどうか、出版者あるいは権利者が知ることができないからだ。ただ、作品を転売する権利を制限するシステムにおいてはそれを知る方法がある。

Apple の iTunes Store における規約条項はごく典型的なものだ。すなわち、私たちが得るのはデジタル著作権管理 (DRM) テクノロジーにより制限された、再生するための特定の非商業的かつ個人的な権利だ。iTunes Plus の楽曲については、DRM フリーとなり、現在 Apple が音楽を提供しているのはこの形式のみだが、ユーザーであるあなたに自分の行動を自己規制することが求められている。

けれども、Apple の規約条項には一つだけちょっとした素敵な文章が含まれていて、これこそがずっと以前から、一部の人たちにとってこの会社から何かを買うのを尻込みせざるを得ない原因となっている。これまでに何十億曲が売れていようとも、そのことは変わらない。

「アイチューンズおよびそのライセンサーは、本サービスに含まれる本商品、コンテンツ、その他のマテリアルの一切を、いつでも、通知することなく、変更、停止、除去、またはアクセス不能にする権利を留保するものとします。」

つまりはこういうことだ。「あなたはそれを購入してそれがあなたのものだと思っているかもしれないが、われわれはあなたの電話機やコンピュータ、あるいは iPod から、いつでも何でも除去することができ、さらにはそうする前にあらかじめあなたに何も通知する必要もない」と。

DRM が人々を苛立たせるのは、こうした種類の条項があるからだ。DRM の正当なる目的はたった一つ、これら完璧なデジタルコピーが、料金を払わず世界に広められてしまうことを抑止するためだ。一方、正当でない目的はたくさんある。例えば、個人的な利用のためにコンテンツを家族の間で、あるいは私たちが所有するハードウェアの上でシフトさせて使うという、(米国でも、あるいは他の国でも)法律的に認められた私たちの権利までをも制限するために使われる。(「個人的な利用」が何を意味するかについては議論のあるところだ。以前、私は Newmark v. Turnerの裁判で ReplayTV の側に立って個人的利用を擁護する証言をしたことがある。)

RIAA と MPAA、あるいはその他の団体は、人々に与える権利を最小限に抑えることによって、同じ作品が同じ人々の間で最大限の回数購入されることを目指そうとする。もしも私たちが、手元にある DVD を標準のコンピュータフォーマットへと単純にコピーできたとしたら、同じ映画を Blu-ray で購入し直すようにと私たちに働きかけている映画会社の努力は、以前の VHS から DVD への移行の時ほどにはうまく行かないだろう。

DRM はまた、機器のメーカー各社やアプリケーション開発者たちにも、彼らの提供するコードや機器の使用法に関してあなたの頭の上に振りかざせる大刀を与えた。そして、これこそが Amazon の Orwell 騒ぎの核心なのだ。

Amazon の契約は、購入者にとってみれば、Apple の iTunes や、その他の音楽あるいはビジュアルメディアのデジタル「販売」に関する類似のライセンスに比べてずっとフェアなものだ。Amazon はこう述べている:

「Amazon は、該当するデジタルコンテンツの永続的コピーを保持し、そのようなデジタルコンテンツを無制限の回数、該当する機器の上のみで、または Amazon がこのサービスの一部として認可した方法のみによって、かつあなたの個人的、非商業的な使用目的のみのために、これを観て、使用し、表示する非独占の権利をあなたに許諾します。」

翻訳すれば、これはつまり、あなたが得ているのは所有権に類似したものだということだ。そのデジタルコピーはあなたのものであり、あなたはいつまでもそれを使い続けてよい。けれどもその文章の後に、当然ながら、あなたが真の意味でそれを所有しているのではないという言葉が続く:

「別途断わりのない限り、あなたはこのデジタルコンテンツあるいはそのどんな一部分についても、これを販売し、貸与し、賃貸し、配布し、放送し、サブライセンスし、あるいはその他の方法でどんな種類の権利もいかなるサードパーティにも与えてはなりません。」

これらの条項のいずれも、Amazon があなたの Kindle ライブラリ(サーバに保存されているあなたの本の購入記録)に、あるいはあなたの持つ機器の内部に、手を伸ばしてあなたが購入した(より正確に言えば、ライセンスした)本あるいはその他のものを削除してよいと明示的に述べているわけではない。

けれども、そこには裏がある:

「このデジタルコンテンツは、Amazon によって別途明示的に他の方法が提供されない限り、この規約条項の下に Amazon によってあなたに対しライセンスされたと見なされる。」

つまり、「われわれは何かをあなたにライセンスしたが、今回われわれはそれがもはやあなたにライセンスされていないと決めた。理由は言う必要はない」と言われたとしても、それはこの契約上合法的だということだ。

今回の場合 Amazon は、実際には提供する権利を得ていない作品について、Amazon がその権利を提供してしまっていることを知らされた。Amazon は“Nineteen Eighty-Four”と“Animal Farm”を販売していたことが間違いであったことを認めたまでは良かったのだが、その次に Amazon がした行為は、誤りだった。そして、今は Amazon もそのことを認めている。

Amazon は何を為したか -- Amazon と Apple は、あなたが購入したデジタルメディアの存在すべき場所に関して、異なったアプローチを採っている。iTunes Store の利用規約では、ダウンロードするのは一回きりしかできない。データはなくさないようにしなさい、きちんと保存してバックアップもするのはあなたの責任ですよ、というわけだ。

それとは対照的に Amazon の方は、十分な基盤構造を構築して、異なったストレージ機能を持つ、異なったメーカーの機器をもサポートできるようにした。さらに、ストリーミングビデオまで付け加えた。つまり、Amazon はあなたのためにオンラインのライブラリを作って、そこからストリームしたりダウンロードしたりできるようにしてくれたのだ。もしもあなたが購入したコンテンツを消去してしまったり、機器をなくしたりしたとしても、あなたはまたコンテンツをダウンロードし直せる。(Amazon は、コンテンツを同時にダウンロードできる機器の個数について制限を課している。この個数はビデオについては明示されており、オーディオは DRM フリーなので追跡されず、本については どうやら最大6個程度の機器という制限があるらしいが、この数字はあやふやで、同社の利用規約には明示されていない。)

今回の2冊の Orwell の本の場合、MobileReference がこれらの作品を配付する許可を得ていないことを Amazon が正当な権利者に対して認めた以上、Amazon としては何らかの行動を起こす必要があった。

同社は明らかに、これら2冊の Orwell の本を同社のライブラリとユーザーのオンラインライブラリから削除すべきだった。そして同社はそうした。これで、今後新たな購入や新たなダウンロードは起こる心配がない。また、顧客たちがその本に支払った料金を払い戻すべきだった。同社はこれも済ませた。そして、ユーザーたちに通知もすべきだった。やはり、Amazon はそれを済ませた。

けれどもその後が問題だった。きっと、Amazon の社員の誰かが、あまりにも「遠隔的自助努力テクノロジー」に夢中になり過ぎたのだろう。この会社が、あなたのコンピュータやその他の機器に対して手を伸ばして、ハードウェアやソフトウェア、あるいはコンテンツを無効にできるテクノロジーだ。今は亡き Ed Foster は素晴らしいライターでテクノロジー系ユーザーの擁護論者だったが、多くの州で米国商法が修正されてソフトウェアのメーカー各社がコードの中にキルスイッチを忍ばせ、ユーザーがそれを無効にもできず、その使用に対して不服を訴えることもできず、それを予防するための妥当な根拠も持ち得ないようになってきたことに対し、彼は何年も費やして抗議の運動を続けてきた。自助努力って、まさに悩みの種だ。(最終的に、Ed は勝利を収めた。)

Apple とは異なり、Amazon はこの「自助努力」の権利を明確に留保することをしなかったので、Amazon が遠隔消去をしてしまったことは、法律を犯した可能性があるのみならず、Amazon を訴訟の危険に晒すことになったのかもしれない。ただ、損害賠償額はわずかなものだろう。著作権を侵害した作品を Amazon がすべての機器から削除したくなる気持ちは理解できるが、Kindle 機はそれ自体が Amazon のコントロールの下にあるわけでなく、ましてや Kindle for iPhone ソフトウェアならばなおさらだ。

この決断が、引き起こる結果に思い至ることすらできず、この行動がどんな反応を誘発するであろうかも理解できなかった、そういう誰かによるものだったと願いたい。あらゆる本の中から、よりによって“Nineteen Eighty-Four”のキルスイッチを、このようなやり方で引っぱりたいなどと意図的に思う人が Amazon に一人でもいるなどとは、私には想像もつかない。Amazon は、これら2冊の本を権限なしに配布してしまったことで、法的責任を負うことを避けようとしたのだし、そのためにあらゆる行動を起こそうとしたのだが、ただ読者たちに接触しようとはしなかった。

もしも私がこの決断を迫られたなら、私ならば購入した人一人一人に電話をかけて状況を説明するところまでやっただろうと思う。巻き込まれた人たちの数はほんの数百人程度だったのだから。私なら間違いなく代わりになるべき何かライセンス付きの本を提供しようとするだろうし、たぶん問題の本の印刷版にギフトカードを添えて送るところまでしたのではないだろうか。その上でユーザーたちに対し、Amazon が問題のタイトルを消去することを許すか、あるいは何か検証可能な方法でユーザー本人がそのタイトルを消去するか、どちらかをするよう依頼したことだろう。

それをするにはおそらく数万ドルの費用がかかっただろう。けれどもそれと対照すべきなのは、人々が Amazon をメモリーホール[訳者注: 「1984年」の世界に登場する「過去の記録の抹消装置」]と結び付けて考えるようになって、悪い評判が立ち Kindle の売り上げが損なわれることで、こちらは金額に換算すれば何百万ドルにも達するかもしれない。同社は、めったに見せたことがないような神妙な態度で、今回のような形で本を消去することは今後二度と起こしません、と述べた。

Amazon の行動は皮肉なことだった、と報道されてきたが、この形容は正しくない。皮肉というのは一般にものごとの予期された秩序に反した、予想と一致しない出来事を指して言う。あるいは、ある言葉がそれ自身の実際のありさまを打ち消しているような場合に言う。“Nineteen Eighty-Four”の中では、例えば“War is peace”(戦争は平和である) といったスローガンが、皮肉だ。

いや、今回のことは皮肉ではない。Amazon は、完璧に皮肉を一切含まず行動した。どこまでも限りなく Orwell の言葉を模倣して、完璧に“Nineteen Eighty-Four”の要素と合致した行動をしたのだ。中でも私の脳裏に響き渡ったのは、次の個所だ。“Nineteen Eighty-Four”の第 2 部第 10 章の中で、鋼鉄のような声がこの本の主人公 Winston Smith に語りかける:“Here comes a candle to light you to bed. And here comes a chopper to chop off your head!”(これが、君をベッドへと照らすロウソクだ。そしてこれが、君の頭を切り落とす斧だ!)

自助努力テクノロジーは、人々を恐れおののかせる。そこに何の不思議があるだろうか?


TidBITS 監視リスト: 注目のソフトウェアアップデート、20-Jul-09

  文: Doug McLean <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Mozilla の Firefox 3.5.1 は、最近アップデートされたこのウェブブラウザの、セキュリティと安定性のためのアップデートだ。バージョン 3.5.1 では、ネイティブ関数からの深い戻りの後に(なんだか面白そうな話じゃないか?)Just-in-Time コンパイラが場合によって壊れた状態に陥ることのあった深刻なセキュリティ問題に対処している。この脆弱性は、アタッカーに任意のコードを走らせられる可能性があった。(アップデート無料、17.6 MB)

SmileOnMyMac のTextExpander 2.6.3はタイピングのためのショートカットユーティリティのメンテナンス・アップデートだ。変更点の主なものは、スニペットをラベルで並べ替える機能の追加、デッドキーの処理の改良によりアクセント付きの文字も省略語として使えるようになったこと、その他細かな修正や改良などだ。また、Snow Leopard のリリースに備えた準備として、詳細は明かされていないがいくつかの変更が施された。(新規購入 $29.95、アップデート無料、3.8 MB)

Apple の iMovie '09 8.0.4 は三つの問題点に対処している: iPhone 3GS を縦向きにして撮影したビデオが正しく回転されるようになり、一部の言語で複数のビートマーカーを追加するときに動作が不安定になる問題を解決し、クリップの手ぶれ補正した部分を超えて調整コントロールを使用した後に iMovie が応答しなくなることのあった問題を修正した。具体的内容を盛り込んだリリースノートを出してくれた Apple に賛辞を捧げたい。iMovie '09 への以前のアップデートと異なり、今回のリリースには他に説明されていない変更点はない。(2009-06-05 の記事“iMovie '09 8.0.3、新たに隠し機能を追加”参照。)このアップデートは、ソフトウェア・アップデートから、または独立のダウンロードとしても入手できる。(無料、35 MB)

Apple の iTunes 8.2.1 (Mac) は具体的内容の明かされていないいくつかのバグ修正と、それから、より注目すべき点として「Apple のデバイスの検証に関する問題を解決」している。翻訳すると: Apple は Palm Pre によるハックに基づいた iTunes 同期機能に対して素早い対処を見せたということだ。残る問題は、はたして Palm がいつパッチされたハックを繰り出してくるか、あるいはそれをしてくるのかどうか、ということになる。(無料、77.30 MB)

Startly Technologies の QuicKeys 4 は、長年来の自動化ユーティリティのメジャーなアップデートだ。この最新バージョンでは、テキスト展開とショートカット用の Abbreviations、ウェブページでのアクションを自動化する Web Actions、QuicKeys Online リソースセンター、ユーザーがその場でショートカットを作れる新設の Instant Shortcut 機能、あなたの iPhone/iPod touch 用に近々登場予定の QuicKeys Anywhere 遠隔コントロールアプリ、フォルダ上の複数のファイルにショートカットアクションを走らせる Batch Processor、さまざまの幅広い基準に基づいてショートカットの検索ができる機能などを追加している。60 以上ある変更点のフルリストは Startly Technologies のウェブサイトで読める。(新規購入 $59.95、バージョン 3 からのアップグレードは $29.95、26.4 MB)

Nvidia の Quadro Mac OS X Driver Release 18.5.2 は、GeForce GTX 285 および GeForce FX 4800 グラフィックカードの非常に重要な安定性に関するアップデートと見られている。来たるべき Mac OS X 10.5.8 にアップグレードしようというユーザーには、Mac OS X カーネルの互換性を保つためにこのアップデートが必要となる。いずれのカードも Mac Pro システム用にデザインされているが、アップデートについて気にする必要があるのは build-to-order (受注生産) のカードを購入した人たちだけだ。お持ちのグラフィックカードがよく分からない場合は、システムプロファイラの「PCI カード」セクションを見れば分かる。(無料、32.5 MB)

Noodlesoft の Hazel 2.3.1 は、ファイル・クリーンアップ・ユーティリティの最新バージョンだ。この新バージョンでは、App Sweep でのマルチユーザのサポート、フィールド内での自動補完、フォーマットのオプションの拡充、シンタックス強調表示、Transmission と Opera のサポート、改良されたスクリプトエディタなどを追加している。全般的なパフォーマンスも改善され、いくつかのバグも修正された。その中には、trash ディレクトリや Spotlight データベースのスキーマが見つからないことに関係してクラッシュを引き起こしていた二つのバグも含まれる。完全なリリースノートは、Noodlesoft のウェブサイトで読める。($21.95、アップデート無料、2.6 MB)

App4mac の CheckUp 2.5 は多目的のメンテナンス・ユーティリティの大きなアップデートだ。バージョン 2.5 での変更点としては、インターフェイスのアップデート、最近の Mac 機種のサポート、System および Font 表示の拡充、アラートの管理の改善などがある。また、ユーザーがグラフのデータを書き出したり、どの書類にもデフォルトのアプリケーションを選択したり、重複のチェックで好きなフォルダを選んだりできるようになった。(19 ユーロ、アップデート無料、17.8 MB)


ExtraBITS、20-Jul-09 版

  文: TidBITS Staff <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Oxford English Dictionary が Mac に復活 -- Wordnik についての記事 ("Wordnik、言葉の探求を促す" ) を読んで、ある TidBITS 読者が CD-ROM 版の Oxford English Dictionary の最新バージョンを紹介する。このバージョンでは、あの膨大な(語数 500,000、引用句 250 万の)O.E.D. 電子版を、しばらくの間使えなかった Mac で再び使えるようにしている。価格は米ドルで US$295、あるいは 169.57 英ポンド、Mac OS X 10.4 かそれ以降を要する。(リンク投稿 2009-07-15)

App Store、開始から一年でダウンロード数 15 億に達する -- Apple が、iTunes App Store の開店以来一年でダウンロード数が 15 億本を突破したと発表した。10 億本を超えたのが 2009 年 4 月 24 日、開店以来 9 カ月目のことだったことを考えれば、その後 3 カ月間に 5 億本のダウンロードがあったということで、明らかに順調な加速中と言える。利用可能なアプリの数も引き続き増加中(現在 65,000 以上)で、参加している開発者数(現在 10 万人以上)も同様に増えている。数が多いのは素晴らしいことだが、願わくは今後 App Store が、ユーザーたちにとってアプリの品質を見分けやすい方策を工夫して欲しいところだ。(リンク投稿 2009-07-14)

Microsoft、Silverlight 3 をリリース -- Microsoft が Silverlight 3 をリリースした。同社のクロス・プラットフォームのマルチメディアソフトウェアの、メジャーなアップデートだ。この最新版は Netflix の Watch Instantly サービスなど多数のサービスでストリーミングビデオのために用いられているが、より高品質のビデオとオーディオをサポートするようになり、多数の開発者用ツールを追加し、コンテンツがウェブブラウザの中だけでなくあなたのデスクトップでも使えるようにしている。(リンク投稿 2009-07-13)


TidBITS Talk/20-Jul-09 のホットな話題

  文: Jeff Carlson <[email protected]>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

iPhone 3G を手に入れたぞ -- iPhone のロックを外すサービスがあるが、これは合法的なものなのか? (メッセージ数 7)

Google Chrome OS、2010 年にネットブックへ搭載 -- Chrome OS はウェブアプリに依存するが、iPhone で本物のアプリケーションが使えるようになる前、ウェブアプリはそこそこの程度しか成功しなかった。はたして、Google のオペレーティングシステムでは成功するだろうか? (メッセージ数 7)

TidBITS がスパムと認識される? -- Entourage が TidBITS の号をスパムメールに区分してしまったのはなぜか? 他の号はこれまでそんなことはなかったのに。それに、フィルタに引っかかりそうな語句はこれといって見当たらないのだが? (メッセージ数 16)

iPhone で電子メール用パスワード -- あなたの iPhone で4桁のパスコードが誰かに破られるのではないかと心配なら、誤ったパスコードが 10 回試みられればメモリ内容をすべて消去するオプションを設定することができる。(メッセージ数 3)

通知機能はどこへ行った! -- もっと多くの iPhone アプリが push 通知機能を利用してもいいと思えるのだが、現時点ではこの機能をセットアップするところが参入への障壁になっているようだ。(メッセージ数 15)

Oxford English Dictionary が Mac に復活_ -- O.E.D. はオンラインでも有料購読で利用できるが、このサイトに携わっている開発者によれば、Mac サポートは高い優先順位になっているという。(メッセージ数 6)

外付けハードドライブが不調 -- 外付けハードドライブでデータのゼロ化をしたところ、何度も起こっていた誤作動が直ったようだ。関連した話題: コンピュータハードウェアを買いに行くなら、どういうところに行くべきか? (メッセージ数 16)

Apple の Bluetooth ヘッドセットで使えるストラップのお薦めは? -- なくしやすい Bluetooth ヘッドセットのような小物に、どんな工夫をするのがよいか? (メッセージ数 3)

iMac スクリーンの問題 -- スクリーン表示に変調が起こったが、問題はその原因がスクリーン自体にあるか、ケーブルにあるか、それともグラフィックハードウェア(その場合にはロジックボードの交換が必要になる)にあるのかだ。(メッセージ数 2)

Palm Desktop の変換 -- 古くなった Palm Desktop からデータを抽出するにはどんな方法があるか? (メッセージ数 7)


tb_badge_trans-jp2

TidBITS は、タイムリーなニュース、洞察溢れる解説、奥の深いレビューを Macintosh とインターネット共同体にお届けする無料の週刊ニュースレターです。ご友人には自由にご転送ください。できれば購読をお薦めください。
非営利、非商用の出版物、Web サイトは、フルクレジットを明記すれば記事を転載または記事へのリンクができます。それ以外の場合はお問い合わせ下さい。記事が正確であることの保証はありません。告示:書名、製品名および会社名は、それぞれ該当する権利者の登録商標または権利です。TidBITS ISSN 1090-7017

©Copyright 2009 TidBITS: 再使用は Creative Commons ライセンスによります。

Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2009年 7月 31日 金曜日, S. HOSOKAWA