今週の大ニュースは米国司法省と 16 の州が Apple を iPhone の違法な独占状態を維持しようとしたとして独占禁止法違反の疑いで提訴したことだ。Adam Engst がこの訴訟について高レベルからの概観を提供する。また、Apple がいろいろのバージョンの macOS、iOS、iPadOS、および visionOS にマイナーなアップデートを出して、注目を集めたいくつかのバグを修正するとともに画像処理に関係する脆弱性 1 件を修正した。これとは別に嬉しいニュースとして、大多数の Apple 製品のためにマニュアル・仕様・ダウンロードを統合したドキュメンテーションサイトを Apple が開始した。あともう一つ、皆さんのお気に入りのポッドキャストアプリをお尋ねした Do You Use It? アンケートの結果を報告するが、それは Apple の Podcasts ではなかった。今週注目すべき Mac アプリのリリースは Alfred 5.5、BBEdit 15.0.2、Fantastical 3.8.13 と Cardhop 2.2.17、Lunar 6.7.3、Retrobatch 2.1、それに Unite 5.2 だ。
あーまただ。US Justice Department、15 州、そして District of Columbia は、違法な iPhone 独占を維持する事で反トラスト法に違反したとして Apple に対して訴訟を起こした。訴訟は5つの分野に焦点を当てている:スーパーアプリ、クラウドストリーミングゲームサービス、メッセージングアプリ、スマートウォッチ、そしてデジタルウォレットで、他の企業が iPhone プラットフォームで Appleと競合するのを防ぐための措置を Apple は明示的に講じていると主張している。Apple の立場は昔から、ユーザーを保護するために第三者が iPhone プラットフォームで出来ることを制限するというものであった。
訴訟の論点の幾つかは、クラウドゲームに関連するもの等、他のものよりも説得力がある。複数のゲームをストリーミングできるアプリを許可することはセキュリティリスクであるという Apple の主張は常に大げさに見えたし、January 2024に Apple はストリーミングゲームサービスに開放した。ここでは追加の救済策は必要ないように見える。
同様に、iPhone の NFC チップを使用した tap-to-pay 決済を Apple Pay に限定することは、純粋に事業上の決定だったように見える。Apple は全ての Apple Pay取引から上前をはねている - Apple は今や、"European Economic Area のサードパーティの開発者に、ユーザーが Apple Pay と Apple Wallet とは別に、iOS アプリ内から NFC 非接触決済を行えるようにする選択肢を提供する" と述べている。ヨーロッパで出来るなら、アメリカでも実現するかも知れない。
他の事例では、約 13 億人のユーザーに、メッセージング機能、デジタル決済、アプリエコシステム、ライブストリーミング、位置情報サービス等々を提供する中国版の WeChat のようなスーパーアプリを阻止していると Apple を非難する時、訴訟の論点にはより問題がある様に見える。TikTok のプライバシー乱用と所有者が中国人であることを取り巻く現在の緊張を考えると、WeChat のようなアジアのスーパーアプリを米国に招待することを支持すると論ずるのは据わりが悪い。もっと一般的に言うと、余りに多くの無関係な機能を統合しようとするアプリは、通常、出来が悪い機能が多くなってしまいがちである。
この訴訟はまた、Apple が SMS メッセージに対して特権的に名付けているMessages を名指しして、暗号化されていない会話、目の粗いビデオ、そしてタイピングインジケーター (会話の相手が入力中であることを示す表示) の欠如で SMS体験を劣化させていると Apple を非難している。確かに、サードパーティのアプリは SMS メッセージを送受信することはできないが (私は確認しなければならなかった - そんなことは私の頭をよぎったこともない)、SMS/MMS の原始的な性質とファイルサイズに対するキャリアの制約について Apple を責めることは出来ない。訴訟はまた、緑の吹き出しで SMS の会話を識別している事で Apple を批判している - SMS の会話がある特定の機能を欠いていることを知る方法は全く無いとした方がまだマシだったとでも言うのか?また、Apple は、キャリアレベルのメッセージングの次の標準である RCS をサポートする事をもう既に述べているので("Apple、来年 Messages で RCS に対応" 17 November 2023 参照)、ここでの批判は見当違いのように見える。
訴訟の最も厳しい言葉の幾つかは Apple Watch のために取っておかれたが、原因と結果を逆にしているように見える。安価なスマートウォッチとの互換性のために高価なスマートフォンを購入する人など誰もいない - その逆である。勿論、お互いに非常にうまく働く機器を作ることは Apple の意図であり、それ自体では比較的な意味で殆ど何もできないスマートウォッチの場合には特にそうだと言える。
しかし、全体として言えば、訴訟の不服申し立ては誤った情報でもなく、必ずしも間違っているわけでもない。Apple にとってはプラットフォーム囲い込みが全てである。それが、Apple の機器、アプリ、サービス間の緊密な統合の側面である。"it just works (とにかくちゃんと動く)" が Apple の世界でキャッチフレーズになっているのには理由がある (それが物事がうまくいかないときにも皮肉にもよく使われるとしても)。開発者側では、Apple の制限により特定の種類の解を開発出来ない場合でも、iPhone のユーザーベースの巨大さに抗するのは困難である。
Apple がこれをすべきかあれをすべきかを議論することは出来るが、Apple がやってきたことは何も法律に違反していない - 同社が独占と見做されない限り。この訴訟は、米国における Apple の iPhone 市場シェアは売上げで言うと "高性能スマートフォン市場" の 70% であり、スマートフォン市場全体の 65% 以上であると言っている。
ユーザーが iPhone に対する Apple の独占的な行動によって害を受けたと主張するこの訴訟のもう一つの厄介な部分は、人々が iPhone を好きだということである。たとえ Apple の 99% と言う顧客満足度の主張が過大であるとしても、独立したレポートは、 iPhone が非常に高い 81% と言う顧客満足度指数を持っていることを示している。勿論、iPhone のコストがもっと安くとも誰も文句を言わないであろうが、安価な Android スマートフォンが簡単に入手出来る世界では、iPhoneのようなプレミアム価格の製品が支配的な地位に到達する唯一の方法は、説得力のある価値提案を提供することである。
Apple は疑いなくこの訴訟を最後の最後まで戦うであろうので、私達は何年もの法廷論争を楽しみにすることが出来る。ハイテク巨人の力とハイテク業界で跳ね回っている金額を考えると、おそらく反トラスト訴訟は避けられなかった。それでも、EU の最近の判決と同じように ("EU が壁に囲まれた Apple の庭を開放させる" 29 January 2024 参照)、Apple は傲慢さと開発者と仲良くすることを拒否することによってこれを自らにもたらしたように思われる。
この5年くらいの間に、Apple がユーザー向けに出している説明書類は劇的に良くなっている。そのはっきりした原因は分からないが、おそらく理由の一部は Macworld マガジンの終焉に関係しているのではないかと考えられる。(2014 年 9 月 10 日の記事“Macworld、スタッフを解雇し印刷版を廃止”参照。) Macworld 誌がなくなってから一年以内に、Macworld で働いていた元ライターたちや元エディターたちの何人かが Apple に職を得た。私の友人の一人が、その経験が二十年にわたって Apple について記事を書いてきた身には「現実離れした」ものに感じられたと語っている。そうして彼らは他にも数人の業界の著名人たちと共に Apple のドキュメンテーションチームに属することになった。その頃以来、私は Apple が公開するドキュメンテーションの使いやすさ、明瞭さ、包括性に、はっきりと上昇傾向を感じるようになった。(そして、友人の一人に誤りを指摘すると、誤りは修正された。責任は果たされてる!)
Apple のサポート検索エンジンがうまく動作する場合でさえ、検索結果にはサポート記事、説明書類、Apple Communities フォーラムでの議論などが雑多に並ぶ。フィルターを使うことでそれらのカテゴリーのどれか一つに属するものに絞ることは可能だけれども、サポート記事と説明書類の違いをきちんと見分けられるユーザーがはたしてどれだけいるものだろうか?
ありがたいことに、Google、Brave Search、あるいは Bing がもっとずっと良い仕事をしてくれる。だから、私は毎週少なくとも数十回ずつ、そういう検索エンジンで検索語に "Apple support" を追加することで Apple のサポート用ドキュメンテーションを探す習慣がついた。例えば上記の3つの検索エンジンのどれを使っても、"dictation Sonoma Apple support" を検索すればすぐに私の望む結果が一番上に表示される。
Apple の検索機能はひどい状態のままかもしれないが、つい最近になって Apple は同社の広範なドキュメンテーションをもっとユーザーが利用しやすいものにするための別のアプローチを作った。新しく登場した Documentation (ドキュメンテーション) サイトが、製品ごとに整理された情報のブラウズ可能なディレクトリを提供する。
これは昔からの Apple の流儀のようだが、名前を突き止めるのが難しい。トップレベルのラベルは "Documentation" (ドキュメンテーション) だが、メインページの見出しは "Manuals, Specs, and Downloads" (マニュアル・仕様・ダウンロード) となっており、HTML ページのタイトルはすべて、たとえそれが仕様のページであっても "Manuals and Downloads" となっている。けれどもこの記事では名前を Documentation (ドキュメンテーション) で統一することにしたい。URL も https://support.apple.com/docs となっているからだ。
この Documentation サイトは複数の言語で用意されている。私は フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語のサイトを確認したし、英語についても米国、オーストラリア、カナダ、英国それぞれに向けたものがあるのを確認した。[訳者注: もちろん日本語のサイトもあります。]それぞれで内容がどう違うのか厳密なところは知らないが、トップレベルの項目でさえ国によって違うことがあるようだ。例えば Vision Pro はまだ全世界で利用可能になっていないので、それを反映した違いはある。
何をするにしても、ページにある検索フィールドを使ってはいけない。そんなことをすれば、またもや Apple の悲惨な検索結果を見ることになる。
示されているカテゴリーのアイコンのどれかをクリックすれば、そのカテゴリーに属する最大 12 個の最近の製品を年代順に並べたページへナビゲートできる。12 個より多くのものがある場合は、Show More (詳細を表示) リンクを使えばそのカテゴリーの残りのものも見えるようになる。例えば Accessories (アクセサリ) のように非常に大きなカテゴリーでは上のところにサブカテゴリーが横に並ぶので、それをクリックすれば AirTag、AirPort、Keyboards、Mice and Trackpad、Adaptors and Cables のそれぞれを別々に調べることができる。このアクセサリページのトップレベルに表示されるコレクションは奇妙な順序に並んでいて、個々のサブカテゴリーの年代順を混合して並べられているのだと気付くのに時間がかかった。
ソフトウェアについては使っていてちょっとイライラする。Mac カテゴリーには macOS というサブカテゴリーがあるが、その先には基本的に macOS ユーザガイドへのリンクしかない。ただ、macOS 10.15 Catalina まで戻りさえすれば、そこにはすべてのアップデートへのリンクもある。それより新しい macOS 11 Big Sur やそれ以降ではそのようなアップデートへのリンクはないが、現実的に言ってそんなものはあまり役に立たないかもしれない。古いバージョンの macOS をどこか特定の中間バージョンまでアップデートしたいと望む人がいるとは想像しにくいからだ。
では、古いバージョンの macOS のインストーラが欲しい場合はどうなのか? この Documentation ページはその目的の役に立たないが、手早くウェブ検索で "install macOS Apple support" を探せばすぐに "How to download and install macOSmacOS をダウンロードしてインストールする方法" ページが見つかり、そのページには OS X 10.7 Lion まで遡るすべてのバージョンの macOS への App Store リンクも、直接ダウンロードリンクもある。Documentation サイトの適切なページにこれらのダウンロードリンクを載せたらよいのにと思うのだが?
さらにもっと奇妙なのがトップレベルの Software (ソフトウェア) カテゴリーだ。ここには 3 つのサブカテゴリーがあって、それぞれランダムな順にアプリを並べている。Consumer Software (一般向けソフトウェア) には今はもう存在しない iLife アプリの iDVD、iMovie、iPhoto、iTunes、GarageBand も並ぶ。いくつかのものについては実際のアプリをダウンロードできるリンクもある。あるいは、プラグインやアドオンへのリンクのみというものもある。Productivity Sofware (生産性ソフトウェア、つまり iWork アプリ) や Professional Software (プロ向けソフトウェア、つまり Logic、Final Cut Pro X、その他) に並ぶアプリには現在アクティブに開発されているものもいくつかあるが、それ以外のほとんどは古いアプリだ。Keynote ページには Apple の個々のプラットフォーム用の現行ユーザガイドへのリンクが並ぶが、Pages ページや Numbers ページではそうなっていない。とにかく現時点では単なる寄せ集めの状態のようで、今後 Apple がここに新しいバージョンのアプリのためのリンクを追加してくれることを願いたい。
この Documentation サイトの素晴らしいところは、かなり優れものである Apple のユーザガイドへのアクセスが手軽にできるようになっていることだ。全般的にユーザガイド内でのナビゲーションは見れば分かる使いやすいもので、"Search this guide" (このユーザガイドを検索) と書かれた検索フィールドは実際役に立つ。なぜなら、その問題のガイドの内部のみに検索結果が絞られているからだ。加えて、ここにはとても重要なコントロールがある。ガイド内のあらゆるページの左上にある Select Version (バージョンを選択) ポップアップメニューだ。