TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#667/17-Feb-03

どのユーティリティを選ぶかにより、あなたの Mac 体験は大きく変わってくる。今週は、Adam が Bayesian スパムフィルタの SpamSieve を検証し、Matt Neuburg は、複数クリップボード・ユーティリティ 3 種類 (PTHPasteboard, Keyboard Maestro, and CopyPaste X) を比較する。また、Mac エバンジェリストをサポートする情報のウェブリソースを紹介する。ニュースでは、Mac OS X 10.2.4 のアップデート、Safari v60、Final Cut Express 1.0.1、USB Overdrive 10.2.1 がリリースされた。

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MailBITS/17-Feb-03

Apple が Mac OS X 10.2.4 Update をリリース -- Apple Computer はMac OS X 10.2.4 をリリースした。これは SMB と AFP ファイルサービスのネットワーク改善や Classic 環境でのオーディオサポートと Mac OS X でのFireWire オーディオ機器サポートの改善などを含む。このアップデートではまた Finder、Classic 環境、印刷、そして Address Book のバグ修理を取り込み、Mac OS X の土台を構築している Unix ユーティリティのセキュリティアップデートを含んでいる。アップデートは Mac OS X の System Preferences の Software Update 枠から Mac OS X 10.2.3 用の単独の 40.1 MB アップデートとして、そして Mac OS X 10.2 のどのバージョンでも使用できる 76 MB のコンビアップデートとしても入手可能だ。 [GD] (倉石)

<http://www.info.apple.com/kbnum/n107362>
<http://www.info.apple.com/kbnum/n61798>
<http://www.info.apple.com/kbnum/n70167>
<http://www.info.apple.com/kbnum/n70168>

Safari 公開ベータ版 (v60) 2-12-03 がりリースされる -- 私達は普段はソフトウェアのベータ版のアップデートは取り上げないが、これは例外だ。Mac OS X ユーザは Apple の Safari Web ブラウザを大いに歓迎しているようで、Apple によれば 100 万以上のダウンロードがあった。最新のアップデートの Safari v60 は 30 パーセント以上速度が向上していると言われており、それ以外にも Flash コンテントの再生を改善し、XML のサポートを加え、CSS1 のサポートを向上させている。アップデートは Software Update を通してか、2.9 MB の独立したダウンロードとして入手できる。 [JLC] (倉石)

<http://www.info.apple.com/kbnum/n120182>

Final Cut Express 1.0.1 がリリースされる -- 立て続けの段階的アップデートの次は、Apple が先週発表した中級ビデオ編集アプリケーション Final Cut Express のアップデートだ。1.0.1 版は性能と安定性を向上させ、キーフレームのパラメータを Motion タブにリンクし、制御不可の NTSC と PAL 機器の為の Easy Setup プリセットを加えている。Final Cut Express 1.0.1 は12.2 MB のダウンロードとして入手可能だ。[JLC] (倉石)

<http://www.info.apple.com/kbnum/n120190>

Software Update を使用している? Mac OS や 他の Apple ソフトウェアのアップデートを自動的にダウンロードしてインストールする Apple のSoftware Update ユーティリティは大体うまく機能する。しかし、アップデートの安定性についての他人の意見を聞くまでインストールを延ばしたい人達にとっては、しつこいと感じられる場合もある。ダイアルアップの Internet コネクションを使用している人達にとっては、Apple のアップデートのいくつかの大きさのおかげで Software Update の長時間ダウンロードを予定するのは不便だ。しかし、Apple からアップデートを手に入れるには Software Updateが一番速くて楽であることは間違いない。そこで、今週のアンケート質問だ。Apple のアップデートに関する変更点をまとめる以外に情報を提供していない私達の短い記事はどれくらい役に立っているのかを知りたい。新しい Appleのソフトが出たかどうか、どれくらい頻繁に Software Update でチェックさせている?是非ホームページで投票して欲しい。

<http://www.tidbits.com/>
(日本語)<http://www.tidbits.com/tb-issues/lang/jp/>

USB Overdrive X 10.2.1 がついにゴールイン -- Alessandro Levi Montalcini は USB Overdrive X 10.2.1 をリリースした。USB Overdrive X はこれまで長らくベータ版として多くの人に使われてきたが、ようやく正式版として公開されたわけだ。これはユニバーサルな USB ドライバで、あらゆる種類の USB デバイス、例えばマウス、トラックボール、ジョイスティック、ゲームパッドなどをサポートしている。(TidBITS-625の記事“厳選 Mac OS X ユーティリティ: サードパーティ機能の復活”を参照。)USB Overdrive を使えばいくつものデバイスそれぞれにコントロールを個別設定することができ、複雑なアクションをさせたりアプリケーションを起動させたり、もちろんクリックのような基本的なアクションをさせることもできる。デバイスの製造元からは Mac OS X 用のドライバが出ていないような場合、そのユーザーにとっては USB Overdrive X が必須のドライバとなる。USB Overdrive X 10.2.1 は $20 のシェアウェアで、ダウンロードのサイズは 476K だ。[JLC](永田)

<http://www.usboverdrive.com/>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=06779>(日本語)厳選 Mac OS X ユーティリティ: サードパーティ機能の復活


TidBITS ご用達ツール: SpamSieve

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: 佐藤浩一 <koichis@anet.ne.jp>

メールボックスへ次から次へとなだれ込んできては次第に不快感を増してくるスパムを調べるのは、今までになく不愉快なレベルになってきている。しかし、これは次の 3 つの基本アプローチ、ブーリアンフィルタ、ポイント制フィルタ、そして統計的“ベイジアン (Bayesian)”フィルタ、のどれかを使って低減することが可能だ。簡単に言えば、ブーリアンフィルタは、ある文字列を探しそれがあればスパムと見なす。ポイント制フィルタはこのアプローチに磨きをかけたもので、メッセージに対しある条件があてはまる場合ポイントを加算あるいは減算し、そのポイントの合計によってメッセージがスパムかどうかを判断する。統計的 (あるいはベイジアン) フィルタは 2002 年 8 月に Paul Graham 氏によりスパムに関連して記述されているのが一番有名だが (先月改訂された) 、これは単語や語句 (実装はそれぞれ違う) からメッセージがスパムと判断できる可能性を統計的手法を用いて割り出している。

<http://www.paulgraham.com/spam.html>日本語スパムへの対策
<http://www.paulgraham.com/better.html>日本語ベイジアンフィルタの改善

ベイジアンフィルタ -- ベイジアンフィルタの素晴らしい点は、電子メールの内容に基づき動作することであり、それは私のと他人のものでは結構異なるだろう。なぜなら、ベイジアンフィルタはスパムと正当なメールのサンプルで教育する必要があり、またベイジアンフィルタは新メッセージを受け取りながらチェックしていくので、良くも悪くもあなたの受け取るメールに対応出来ることだ。

ベイジアンフィルタは完璧ではない。以前製品を購入した会社から送られてくる販促キャンペーンのメールは正当だが、それは最初かなりスパムに似ているように思われるだろう。また、テキストの量が少ない場合は的確な判定が難しい。スパムがもしあなたの職業と充分に関連したものであれば、フィルタをくぐり抜けてしまうだろう。例えば、TidBITS は外国語版があるので、翻訳関連のスパムを受け取る。あるいは、スパム送信者はメッセージ内に好ましい語句をふんだんに使うことで語句データベースを汚染し、そのためフィルタの精度が次第に落ちることになる。しかし、明るい面を見れば、これらの問題はアルゴリズムを改良することで解決される可能性がある。

Mac OS X には、統計的ベイジアンフィルタを実装したアプリケーションが大きく分けて2 つの存在する。Apple の Mail と Michael Tsai 氏による SpamSieveであり、私は Eudora 5.2 で後者を現在まで数ヶ月間使ってきた。

SpamSieve -- ベイジアンフィルタを装備していることに加え、SpamSieveが Eudora、そして Entourage, Mailsmith, そして PowerMail を含むその他多くの電子メールプログラムの内部で動作することを特に評価したい。Mac OS 9では動作しないが、Classic モードで動作する Emailer でも動く。Mail には興味が無いし、他のスパムユーティリティ (支持する者も多い Matterform Media 社のポイント制 Spamfire など) は電子メールプログラムの外側で動作し、疑わしいメッセージを別のインターフェースでスキャンせざるを得なくなる。SpamSieve はアカウントの数に関係なく動作し、電子メールプログラムがサポートするどのような入力からのメールもフィルタする。メッセージがスパムと判断されればそれをマークあるいは移動することができ、いくつかの電子メールプログラムではマークされたメッセージに対してもフィルタリングを続けることができる。

<http://www.matterform.com/>

SpamSieve は、各電子メールプルグラムの AppleScript 機能を利用することにより、情報を SpamSieve 自身とやりとりしている。Eudora では現バージョンは制限があって最終的に受信箱に入るメールしかフィルタリングできないが (それ以外はダメ) 、それ以外では統合は難しくない。コミュニケーションにはAppleScript を用いているので、同梱のスクリプトをさらにカスタマイズすることも可能だ。受信箱以外のメッセージをフィルタできるように Eudora の次のバージョンを心待ちにはしているが、それでなくてもこれには非常に価値がある。

最初に、私は SpamSieve を、約 600 通の見るのもいやなスパムのコレクションと受信箱にあった同じく約 600 通の正当なメッセージとで SpamSieve を教育した (そう、それほど一杯だったのだが、今は 300 前後に抑えた) 。近くにスパムが無くても、受信しながら教え込んだり (多分最初は低い精度で)、あるいはスパムが貯まるまで待つ方法がある。1 月の中旬からこれまでに SpamSieveは 2,600 通のメッセージをフィルタリングし、そのうち 55 パーセントがスパムだった。その際精度は 88 パーセントと報告され、スパムと認識されなかったものが 11 パーセントで誤ってスパムと認識されたものが 1 パーセントだった (SpamSieve の正確さを確かめるために行った別の方法では、低い数字が出た。正確さが 80 パーセントでスパムと認識されなかったものが 19 パーセントだった。現在、Michael Tsai と一緒にこの不一致について調査中である)。誤ってスパムと認識されたもののうち多くのものが、希望したコマーシャルメールかあるいは私と多数の他の人々に転送されてきたメッセージだ。これらのどちらも、同様のメッセージを認識するように訓練されるまで、SpamSieve のフィルタリングと衝突することだろう。SpamSieve は、あなたに届くメールの中身によりフィルタリングするため、他の TidBITS スタッフがやや信頼性が低いという結果を導いたように、あなたの場合は違うことだろう。

SpamSieve 1.3 の新機能は、スパム送信者たちが一般に使われる語句で混乱させようとする方法に対する弾力性、Apple のアドレスブック内のメールアドレスを無条件に許可するアドレスとして使用する機能 (アドレスブックに載っているアドレスから送られてくるメールはスパムと見なされない)、SpamSieve の語句データベースの編集、Corpus ウインドウで最初の数文字を入力するだけで選択できる機能、そして指定した日付からの統計情報を見る機能などが含まれている。

もしもあなたが、Apple の Mail と同じようなベイジアンフィルタを待ち望んでいたがお気に入りの電子メールプログラムを手放すことはできないと言うなら、SpamSieve をまず見てみることを強くお勧めする。Michael Tsai は開発を精力的におこなっており、意見や提案にとても良く耳を傾けている。

SpamSieve 1.3 は 20 ドルのシェアウエア (旧バージョンからのアップグレードは無料)で、1.5 MB のダウンロードになる。

<http://www.c-command.com/spamsieve/>

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Macintosh 擁護を支援する

文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
訳: 亀岡孝仁 <takkameoka@earthlink.net>

我々 TidBITS においては通常コンピュータの宗教戦争、とりわけ長期戦となっている Mac と Windows の間の戦いの泥沼にはまり込むことにならないよう気をつけている。我々のところも Windows で十分に仕事になるが、Mac を使う方を好む。それは、Mac を使う方がより快適だし生産的だと感じているからである。ただ我々の Macintosh に対するこうした明らかなそして長期にわたる好みの選択ゆえに、我々自身がいくら渦中にはまらないようにしようとしていても、時折人々からは、学校で、会社で、或いは家族のメンバーが PC ではなく、なぜ Mac を買うべきなのか説得する手助けをして欲しいという要請が来る。

これは扱いにくい問題である。というのも、我々としては助けを求めている人のお手伝いはしたいし、Mac は同等の PC と較べたとき、より優れてはいないとしても、まずは同等の選択肢であるという気持ちに概ね同感である。しかし他方では、実りのない論議には引きずり込まれたくもないからである。我々は狂信者ではないし、Windows が圧倒的な世界で Mac の地位を築いていくという膨大な量の地道な努力に参加していくエネルギーを単に持ち合わせていない。

長いことこの件に関する我々のアドバイスは、今は故人となってしまった我々の友人であり同僚でもあった Cary Lu の考えに沿うものであった。彼は常に、自分に最も近しい技術に明るい友人、それも土曜の夜遅くでも助けを求められるような人の使っているコンピュータと同じ類のものを買うよう薦めていた。Cary はまた、学校を卒業した後どの様なコンピュータを使うようになるかを気にして、小学校で何を使うかまで心配するのは無用である、なぜならばコンピュータの技術革新のスピードの速さを考えれば、小学校の生徒が大学を卒業する頃には全く違ったものになっているからと言っている。遡って 1995年に、我々は Mac 対 PC 聖戦の状況に関する Cary の記事を載せたことがある;細かいところではおかしいほど時代遅れになっている所もあるが、それでも今に十分に通じる鋭さがある。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=01431>(日本語)コンピュータを巡る聖戦
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=04169>(日本語)Cary Lu を偲んで

Cary の論点はよく考えられたものであるとしても、Macintosh の長所を他の人に売り込もうとしている人は、更なる弾薬が必要であると感じるであろう。振り返って見れば、親 Macintosh の立場を支持する膨大な量のニュースや研究記事が出されているが、これらを追跡したり或いは必要な時に意味ある記事を探し出すのは殆んど不可能に近い。

それが今や単一のサイトを訪れるだけで、PC に対して Mac を選択する問題に関係する調査、解説記事、小記事の膨大な量の集大成にアクセスできるのである。このサイトは John Droz によって作られたもので、彼と Carteret County, North Carolina の納税者のグループが、地元の Board of Educationが管内の学校のコンピュータを Mac から PC に変えようとするのを防ぐために行なったキャンペーンの一つとなっている。

<http://macvspc.info/>

John は自分が Web デザイナーでないことをよく自認しており、個々のページが数多くのリンクで埋められているのをみると多少気が引けるかもしれない。(もし手助けをしてもいいとお思いの方がいれば、彼はデザインの援助を受けたいと思っている。)いずれにしても、あなたの人生のどこかで Macintosh擁護の論調を張る事態となった場合には、John が集めた 400 以上にのぼるレポート、研究、それにニュース記事は役に立つであろう。場合によっては、全サイトの 1 MB PDF バージョンをダウンロードしてしまうのが最前の方法であろう。と言うのも、その方が自分の手助けになる特定の情報を求めてスキャンしたり検索したりするのが楽だからである。これには、必要に応じた外部のWeb へのリンクと共に、膨大な量の内部リンクとブックマークが含まれている。また別の場合では、全 112 ページを印刷して、分厚い紙を脇においてあなたの主張の手助けをさせるのも有効であるかもしれない。

<http://forgetcomputers.com/~jdroz/websitePDFs/MACvsPCCombined.pdf>

これらの資料を集め整理するのに John が費やした仕事量は敬意に値するし、それに加えて多くの記事は 2002年のものなので、インターネット検索ではよくあるように集めた情報がひどく時代遅れであるというようなこともない。Mac を使う方が良いというあなたの主張を支持してくれる参考資料をお求めなら、John の努力を大変ありがたいと思うであろう。

PayBITS:この記事はあなたの Mac 信奉主義のお役に立ったであろうか?PayPal 経由で数ドルを John Droz に送金して感謝の意を表そう。
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Mac OS X で複数クリップボード

文: Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

コピーやペーストする時、みんな何も考えずに当り前のようにしていると思う。昔、あなたが初めて Mac を使うようになった頃、コピーとペーストについて、目には見えないけれども至るところに存在している「クリップボード」なるものについて、教わった時のことを思い出せるだろうか? たぶんあなたはたちどころにその概念を理解すると同時に、「これはいいアイデアだ」と独り言をつぶやいて、そのままその考え方に馴染んでいったことだろう。それと同時に、コピーをする度に前回コピーしたクリップボード内容は消し去られてしまうという事実も、心の中に受け入れなければならなかったのだ。

その事実は、今ではあまりにもあなたの心の中深く根付いてしまっているので、きっとあなたはその事実がどれほどあなたの作業習慣に制約を与えているのかを実感できなくなっているに違いない。普段あなたはコピーをした後で(あるいはカットした後で、こちらの方がクリップボードに格納したデータがもはやそこ以外のどこにも存在していない分問題が深刻になるわけだが)現在のクリップボード内容をどこかにペーストしてデータを確保してしまうまでは、決して Command-C を押すまい、と無意識のうちに注意を払う習慣がついているはずだ。けれども私は賭けてもいいが、その注意を払っているにもかかわらず、きっとあなたは時にはその間違いをしてしまい、その前にコピーしておいたデータが失われてしまったことに悪態のつぶやきなどを漏らしたことがあるに違いない。

もう一つ、重要なことがある。同じアプリケーションの中にしろ別のアプリケーションとの間にしろ、とにかくある場所から別の場所へ、移すべきものがいくつもあったとしよう。そういう必要に迫られても、あなたがそういう場合普段しているやり方がその場しのぎの代替手段に過ぎないということに気が付かないとしたら、あなたはもうそのどうしようもなく不便なやり方に慣らされてしまっていると言わざるを得ない。例えば、ある段落中の3ヵ所の文だけをどこかへ移したいとして、そのためにはまず段落全体をコピー・ペーストしてからペーストしたばかりの結果をあとから切り削って3つの文だけを残すだろう。でも、こういうテクニックが利かない状況もあり得る。その場合は、最後の手段として書類の中を何度も進んだり戻ったり、あるいはアプリケーションの間で行ったり来たりして、コピーしてペースト、またコピーしてペースト、と繰り返さなければならないのだ。

いろいろのアプリケーションで、この困難を乗り越えるための工夫をしてくれているものがある。多くのアプリケーションでは1つのウィンドウを分割でき、同じ書類の中の離れた2つの部分を同時に見られるようになっている。こうすれば離れた部分の間でデータを移し合ったりするのがずっと楽になる。そして、今日ではますます多くのアプリケーションが独自の複数個クリップボード(あるいはそれと同等のもの)を提供している。例えば Nisus Writer、BBEdit、Microsoft Word などだ。けれども今本当に必要なのはシステムレベルの複数クリップボードだ。2003 年のクリップボードが 1984 年のクリップボードと何ら変わっていないなんて、Apple の恥とさえ言ってもよいのではないだろうか。

この状況をさらに複雑なものにしているのが、Mac OS X においてはクリップボードの土台となるものが実際に従来のシステムに比べて遥かに高度なものになっているという事実だ。Mac OS X では、クリップボードは“pbs”という名前(“Pasteboard Server”の意味)のバックグラウンドデーモンの肩に担われている。このデーモンの能力だけを見れば、充分に複数個のクリップボード (pasteboard) を処理することができる。実際、これは複数クリップボードを既に提供できているのだ。例えば、あなたが Safari の検索ダイアログに入力したテキストが BBEdit の検索ダイアログにも現われることにお気付きかも知れない。これは pbs が検索用に独立した Find Pasteboard を持っているからだ。事実、pbs は5個の pasteboard を保持しており、個々のアプリケーションが自由に独自のものを追加することもできるようになっている。こうして、もしもあなたが2つのアプリケーションを開発しているならば、あなたはそれら2つのアプリケーションの間で独自のデータを第6の pasteboard を通じてコピー・ペーストし合うことができ、それ以外のアプリケーションもそのことを知っているだけでそのデータ交換に加わることができるのだ。けれども現時点では、pbs の pasteboard のうちたった1つだけが General Pasteboard として使われており、すべてのアプリケーションが知っていてコピー・ペーストを共有できるのはこの1個の General Pasteboard のみだ。システムレベルで複数個の pasteboard を実現するためには、ただ複数個の General Pasteboard を増やしてそれに対するユーザーインターフェイスを提供するだけでよいと言うのに。(このインターフェイスの実現方法の一例として、BBEdit は注目に値する。)

いずれにしても、Apple が目覚めてこうした可能性を実現する気になってくれるまでの間は、現時点の Mac OS X で複数クリップボードを提供できるサードパーティのユーティリティに頼る他はない。今回の記事ではそうしたユーティリティを3つ、紹介してみたいと思う。PTHPasteboard、Keyboard Maestro、そして CopyPaste X の3つだ。

PTHPasteboard -- PTHPasteboard の一番の特徴はそのシンプルさと価格(なんと無料!)だ。これはバックグラウンドで動作する普通のアプリケーションだが、ドックにはアイコンを表示しない。その代わり、メニューバーの右側の部分にアイコンとして現われる。これは定期的に(たぶん毎秒2回ずつ程度)ひっそりとクリップボードをチェックして、もしもクリップボード内容が変化していればそれを独自のリストに追加する。こうして、よほど頻繁にコピーをし続けでもしない限り、あなたがこれまでコピーしたものたちがすべてこのリストに蓄えられてゆく。(個数の上限はユーザー設定可能だ。)このリストから、すべてが回復可能でペーストして使える。

このリストの内容を見るには3つの方法がある。メニューバーの PTHPasteboard アイコンをクリック、ユーザー設定可能なホットキー組み合わせをタイプ、それに(Services をサポートするアプリケーション内に限られるが)Services メニューから選択、という3つだ。どの方法を使っても、現在蓄えられているクリップボードデータをリストしたフローティングウィンドウが現われ、そこで1つをクリックすればその内容が現在のアプリケーションでの挿入ポイントにペーストされる。Escape キーを叩けばフローティングウィンドウが消える。

PTHPasteboard は Classic アプリケーションではうまく働かない。実際、Classic アプリケーションではペーストができない。ただ、コピーした内容はどうやら正確に記録できているようで、クリップボードの中身は書類にペーストできないにしても少なくともきちんと変更を追跡されてはいるらしい。Services メニューでの PTHPasteboard の項目に Shift-Command-V のキーボードショートカットが使われており、これは変更できない。但しこれはごくマイナーな不満で、他のアプリケーションがこのショートカットを使っている場合にはそちらが優先されて PTHPasteboard のショートカットとしては利かなくなる。けれども利かなくなるのは確かに問題で、ここがユーザー設定可能になってくれればいいと思う。私にとっては、メニューバー上のアイコンはあまり役に立たない。なぜなら、私の場合はメインのメニュー項目だけでメニューバーが一杯になることが多く、余分のメニューバーアイコンは追い出されて見えなくなるからだ。とにかく、フローティングウィンドウはキーボードショートカットで呼び出せるのだから余分の方法は私には不要だ。(メニューバーアイコンを削除することもできるが、その場合はフローティングウィンドウが常時表示されたままになってしまう。なぜそのような風にしたのか、私にはその論理が理解できない。)

でも、そういうことは些細な理屈だ。そんなことより、PTHPasteboard は頑丈で、シンプルで、メモリや CPU 時間の消費もわずかだ。仕事をきちんとこなしてくれ、なにより無料なのだ。

<http://www.pth.com/PTHPasteboard/>

Keyboard Maestro -- Michael Kamprath 作の Keyboard Maestro は、実はある種のマクロユーティリティだ。特定のアクション、あるいは一連のアクションの連続についてそれにキーボードショートカットを付ける、というアイデアを中心にしたものだ。可能なアクションとしては、アプリケーションを隠したり、特定のファイルやフォルダを開いたり、AppleScript や Unix のスクリプトを走らせたり、テキストをタイプしたり、サウンド音量やスクリーン輝度を変えたりもできる。また、アプリケーションのスイッチャーとしても動作する。そしてもう一つ、複数クリップボードユーティリティとしても働く。これが、今回この記事に含めることにした理由だ。

Keyboard Maestro の複数クリップボードのインターフェイスは PTHPasteboard のインターフェイスにも似たところがあるし、また John V. Holder の QuickScrap にも何となく似ている。私は何年か前、Mac OS 9 で QuickScrap をよく使ったものだ。ユーザー設定可能ないくつかのキーボードショートカットでカット・コピー・ペーストができる。(普通の Command-X や Command-C ではなく)こういうキーボードショートカットによってカットまたはコピーをした時は、Keyboard Maestro がウィンドウを開いてその中に複数個のクリップボードのリストを表示する。そこで、あなたは既存のリストに新たにもう1つクリップボードを追加するか、あるいはどれか既存のクリップボードを再利用するかを選べる。これらのクリップボードのそれぞれには名前を付けることもできるので、マウスを動かしてそれぞれのクリップボードの上に来た時に現われるツールチップで表示される名前によって個々のクリップボードの内容を思い出すこともできる。Keyboard Maestro はあなたがもともといたアプリケーションにもそのカットまたはコピーの動作を渡す。つまり通常のクリップボードにも、Keyboard Maestro 独自のクリップボードリストにも、どちらにもデータを格納させるのだ。そして、そのままあなたをもといた位置に戻してくれる。ペーストも、同様の働きをする。つまり、Keyboard Maestro がそのクリップボードリストを表示し、あなたはその中からペーストしたいものを選ぶのだ。

<http://www.johnvholder.com/qsdesc.html>

Keyboard Maestro には、非常にクリーンかつシンプルだという利点がある。同時に4個までのクリップボードで満足ならば、こちらもやはり無料だ。($20 だけ払えばクリップボードの個数が無制限になる。)加えてもちろん、Keyboard Maestro にはそれ以外のマクロやアプリケーションスイッチャーの機能も付いてくる。これらの個々の機能は必要に応じて使うこともできるし、オフにすることもできる。Classic においては、やはりあまりうまくは働かない。私のテストでは、Classic アプリケーションの中で Keyboard Maestro のコピーまたはペーストを使うと、現在の選択内容と違うものが使われてしまい、その結果間違った内容がコピーされたり思わぬ内容が書類に書き込まれたりしてしまう。とは言っても、PTHPasteboard の方も Classic ではうまく動作しないので、この両者の比較をするなら異なるインターフェイスと全体のアプローチの仕方とを比較する、ということが中心になるだろう。

あなたがコピーをした時、PTHPasteboard の方はあなたの側でのアクションは特に何も必要としない。PTHPasteboard は、とにかくシステムのクリップボードに流れ込むものをすべて覚え込むのだ。こういうやり方は、だいぶ前にコピーした内容が必要なことが後でわかった、というような場合に備えるためには最適の方法だろう。けれどもそのことはまた、あなたが好むと好まざるとにかかわらす何でもかんでも記録されてしまう、ということをも意味している。つまり、もしもあなたがリストのサイズ上限を 10 個に設定してあったとして、11 回前にコピーしたものが必要になったとしても、それはすでに自動的にリストから外されてしまっていてもはや回復は不可能、ということだ。PTHPasteboard のリストへのコピーと、通常のコピーとの区別をつけることはできないのだ。これに対して、Keyboard Maestro はまさにこの選択をあなたに提供してくれる。それは良いことだ。でも、同時にそれは裏を返せば欠点をも意味している。つまり、あなたが意識して Keyboard Maestro を使ってコピーするという行動を起こさない限り、データは決してリストには取り込まれないのだ。また、Keyboard Maestro のリストにコピーをする度にいちいちウィンドウの操作をしなければならないことについては、確かな助けになると感じる人もいれば、わずらわしくて使う気になれないと感じる人もいるだろう。どちらを好むかは、あくまでもあなたの作業での必要性と、あなたの心理的な嗜好次第だ。これらのインターフェイスをあなたがどう感じるかをみる最善の方法は、実際に両者を使ってみることだろう。

<http://www.keyboardmaestro.com/>

CopyPaste X -- CopyPaste X は、1997 年に私が TidBITS-364 でレビュー記事を書いたことのある Classic 用の機能拡張の、後継となるソフトウェアだ。Mac OS X においては、これは普通のアプリケーションの形となった。つまり、以前にも増して互換性も信頼性も増えたということだ。さらに、常時動作させなくてもよい、ということも意味している。私の場合、これを必要としない時もしばしばある。必要になれば、オプションでインストールされる常在のコンテクストメニュー項目を使っていつでも起動させることができる。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=00751>(日本語)CopyPaste: 汚名返上

いったん CopyPaste が動作を始めると、番号の付いたクリップボードが 10 個用意され、どんなアプリケーションの中でも働くキーボードショートカットで手軽にアクセスできるようになる。キーボードショートカットは Command-C-1, Command-V-1, Command-C-2, Command-V-2, 等々だ。(文字、それから数字のキーを叩く間ずっと Command キーを押さえたままにしておくのがコツだ。)これらのショートカットはオフにしておくこともできるし、また Command キーの代わりに Control キーを使うこともできる。さらに、これら 10 個のクリップボードは1つのセットを成していて、いくらでも好きなだけの数のセットを取り替えて使うこともできる。セットの切り替えは常在のコンテクストメニュー項目を使っても、CopyPaste のドックメニューを使っても、あるいはフローティングパレットを使ってもできる。その上、あなたが普通のやり方でコピーやカットをした場合も、その度にデータは自動的に Clipboard Recorder のリストに格納され(これは PTHPasteboard と同様だ)やはり同じ3種類の使い方でアクセスできる。

これらの機能は、Classic CopyPaste 機能拡張 (バージョン 4.5) と協同して働くことで Classic との境界を越えて動作することになっている。この協同が動作している時は、すべてが予想通りの働きをする。つまり、X と Classic との境界をまたいで、片側で Command-C-1 を使ってコピーした内容は反対側で正しく Command-V-1 を使ってペーストできるし、片側で普通のやり方でコピーされた内容も反対側での Clipboard Recorder に正しく記録される。その上、CopyPaste X のパレットを使って Classic アプリケーションでコピーやペーストもできる。しかしながら、この協同作業はしばしば動作を乱すこともある、というのが私の経験上言えることだ。Classic を最初に起動させる時点で CopyPaste X が既に起動していないとうまく働かなかったり、Classic 機能拡張が Edit メニューに 10 個のクリップボードの階層メニューを付けるという機能が突然失われたり、といったことがよくあるのだ。さらに深刻なことには、Classic が時々クラッシュしたり、また CopyPaste X が突然フリーズして全く動作しなくなってしまったりすることもある。(このフリーズが起こると、普通のコピーやペーストさえもできなくなることがある。)結局、安定性を確保するために CopyPaste Classic を完全に不使用の状態にしておくようになってしまった。残念なことだ。

CopyPaste にはまた、驚くほど機能の充実したワードプロセッサ、“clipboard editor”が付属しており、(例えば大文字を小文字に変換、など)テキスト変換の機能も数々備わっている。私に言わせれば、このような機能は不必要かつ余分なものだ。テキスト変換の機能などは、例えば Service などを通じて別途装備されるべきものであって、そもそもクリップボードとは全く何の関係もない。ワードプロセッサも同様で、専用のワードプロセッサとして何を使うかはユーザーの選択に任されるべきものだろう。このような余計な機能を付ける余力があるのならば、その分もっと、Mac OS X 側と Classic 側との協同作業についての信頼性向上への努力をして欲しいものだ。

マニュアルはなかなか良くできている。けれどもこのマニュアルを読むには内蔵のワードプロセッサが必要で、また原語のドイツ語からの翻訳もあまり正確とも完成度が高いとも言えない。このことも相まって、CopyPaste のそこここにどちらかと言えばアマチュア的な品質を感じさせるという印象が際立ってしまうのだ。そうは言っても、$20 で買える CopyPaste はやはり良い買い物だと言えるだろう。Mac OS X にうまく移行できたという事実も、素晴しい仕事を成し遂げたと拍手を送りたい。個人的には、私はこの CopyPaste のインターフェイスが一番好きだ。特に Command-C-1 や Command-V-1 等の(二段階)キーボードショートカットを使って、個々の番号の付いたクリップボードにキーボードのみで行き来できる点が一番気に入っている。

<http://www.scriptsoftware.com/copypaste/>

さて、どのペーストの瓶を選ぼうか -- どのユーティリティを選ぶにせよ、まずはご自分で複数クリップボードを実際に使ってみて頂きたい。きっとあなたも、今までいったいどうやってこれ無しに仕事をこなして来られたのだろうかと、自分自身をいぶかる気持ちになることだろう。クリップボードがたった1つしかないなんて、まるで一度にアプリケーションを1つずつしか使えないようなものだ。なんて原始的、まるで System 6 の世界に置き去りにしてきた事柄の幻を見ているようなものではないか。今回紹介したようなユーティリティを使えば、あなたにもご自分の Mac OS X マシンを、暗黒時代の亡霊から救い出すことができるのだ。

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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2005年 12月 26日 月曜日, S. HOSOKAWA