TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS#949/13-Oct-08

Apple は明日、新しいラップトップ機を発表しようとしている。これは単なる噂でなく、Apple の口から直接出た情報だ。このイベントの記事は後日にまわすとして(火曜日には私たちのウェブサイトへ!)今週はこれに関連したニュースや情報がたくさんある。ラップトップ機といえば、Apple は特定の Nvidia チップを搭載した MacBook Pro 機種の修理プログラムを開始した。同社はまた App Store でのカスタマーレビューに対するポリシーを変更し、間違った情報に基づいた投稿を減らそうと努めた。さて、ギアを切り替えよう。Rich Mogull が、モバイル電話機(iPhone も含む)がその魔術のいくつかをどのような方法で遂行しているのかについて私たちを興味深いツアーに連れ出してくれる。また、Doug McLean は Netflix のストリーミングビデオサービスが間もなく Mac 互換になるというニュースを検討し、この分野が混雑し始めていることにも触れる。Adam はバグ報告を提出したところ開発者から素晴らしい対応を得た体験を物語る。Glenn Fleishman は、私たちのウェブサーバが複数のバックアップを持ち不測の事態への対策を何重にも備えていたにもかかわらず最近機能停止に陥ってしまったことを報告する。リリースのお知らせとしては、MozyPro、Apple Security Update 2008-007、1Password 2.9、Opera 9.6、それに Radioshift 1.1 がある。最後にもう一つ、今週の DealBITS 抽選で PDFpen 4 が当たることをお忘れなく!

記事:

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Apple、ラップトップの発表を公然と事前発表

  文: Glenn Fleishman <glenn@tidbits.com>
  訳: 羽鳥公士郎 <http://www.ousaan.com/mail/>

Apple 製品については、あいまいな前触れしかないか、あるいは事前の知らせがまったくないということに、私たちは慣れているが、今回は驚くほどはっきりしていた。Apple は報道陣や解説者を、同社の本社がある Cupertino で2008 年 10 月 14 日に開かれるイベントに招待した。この招待状では、Appleロゴのついた開いたラップトップに光線が当たっていて、一行だけ「スポットライトはノートブックへ」と書かれていた。火曜日になったら私たちのウェブサイトをチェックして、イベントの報告と新機種の分析を見逃さないようにしてほしい。[訳注: 英語版のウェブサイトにはすでにいくつかの記事が公開されています。]

もちろん、Apple 製品のリリースのパターンに注意を払っていた人なら(たとえば Adam は "Take Control of Buying a Mac" 電子ブックを書いている。この本のウェブページにある Release Date Chart 参照)、ラップトップに関して大きな発表が今年の後半にあると予想しているだろう。また、アップデートされるラップトップに予想される機能についての噂(中には本当にばかげたものもあるが)も巷間にあふれている。この話の教訓としては、10 月 14 日になるまでは Apple からラップトップを買わないことだ。その日がきたら、新しいマシンがあなたの望むものかどうか、あるいは前世代の製品が安売りされているところを探すべきかどうかを判断することができる。


Take Control ニュース: 5割引セールは火曜日まで!

  文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

毎週の TidBITS を少し遅れて読んだという人たちからの苦情を頂くことが多いので、今回は特に先週号でお知らせした Take Control の 5周年記念5割引セールが今週の火曜日、2008 年 10 月 14 日に終わるという記事を見落とされた方に念押しをさせて頂きたいと思う。詳しいことは、先週号の記事“Take Control ニュース: 5周年を祝って5割引セール”(2008-10-06) をお読み頂きたい。[訳者注: 申し訳ないことですが、日本語翻訳版の TidBITS は数日遅れて出ますので、この半額セールのお知らせも、先週号 (#948) の記事はかろうじてセール終了に間に合ったとは思いますが、今週号のこの記事の時点では残念ながらセール終了済みです。ご了承下さい。]


DealBITS 抽選: PDFpen 4 が当たる

  文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Adobe Acrobat Pro は値段の高いソフトウェアで、確かにいくつかのハイエンドの PDF 作業には欠くことのできないものだが、たいていの人は $449 も支払う必要はなく、その十分の一ほどの値段で SmileOnMyMac の PDFpen を買えば事足りるだろう。PDF の中でページを移動したり、ページを消去したり、PDF フォームに記入したり、PDF に署名を追加したり、そういった作業だけならば PDFpen で十分かもしれない。リリースされたばかりの PDFpen 4 では、ごく基本的な光学文字認識をスキャンされたオリジナルに施してテキストの編集ができるようになり、Microsoft Word 書類の読み込みが可能になり、またマークアップのオプションもいくつか追加された。

今週の DealBITS 抽選では、PDFpen 4 を3本、賞品にする。それぞれ定価 $49.95 相当の製品だ。幸運が足りずに当選から漏れた応募者にももれなく PDFpen の割引価格の資格が贈られるので、ぜひ奮って DealBITS ページで応募して頂きたい。寄せられた情報のすべては TidBITS の包括的プライバシー規約の下で扱われる。また、もしもあなたがこの抽選を紹介して下さった方が当選すれば、紹介に対するお礼としてあなたの手にも同じ賞品が届くことになるのもお忘れなく。

[訳注: 応募期間は 11:59 PM PDT, 19-Oct-2008 まで、つまり日本時間で 10 月 20 日(月曜日)の午後 4 時頃までとなっています。]


MacBook Pro の修理プログラムで Nvidia の欠陥に対処

  文: Jeff Carlson <jeffc@tidbits.com>
  訳: 羽鳥公士郎 <http://www.ousaan.com/mail/>

あなたは、最新モデル MacBook Pro のビデオ機能でひどい目にあったことはないだろうか。そうだとしたら、それはあなたの目が錯覚を見せているのではない。Apple は、Nvidia の問題のある GeForce 8600M GT グラフィックプロセッサを搭載した Mac ラップトップ用の修理プログラムを発表した。症状としては、ラップトップの画面でビデオが歪んだり乱れたりするか、コンピュータの電源が入っているのにラップトップや外部ディスプレイにビデオが表示されない。

GeForce 8600M GT グラフィックプロセッサは、2007 年 5 月から 2008 年 9月までに製造された 15 インチモデルと 17 インチモデルの MacBook Pro (Late 2007, 2.4/2.2 GHz)および MacBook Pro (Early 2008)に搭載されている。あなたの MacBook Pro が使っているプロセッサを知るには、Apple メニューから About This Mac を選び、More Info ボタンをクリックしてSystem Profiler を起動し、左コラムで Graphics/Displays をクリックすればよい。右コラムにグラフィックプロセッサが表示される。

このプログラムはリコールではないようだ。Apple によれば、「お使いのMacBook Pro に搭載されている NVIDIA グラフィックプロセッサに不具合が見られる場合、またはご購入いただいてから 2 年以内に不具合が発生した場合は、MacBook Pro の保証期間終了後も無償で修理いたします。」ということだ。すでに有料でこの修理をしている場合は、Apple に連絡すれば返金を受けられる。


EMC、ビジネス用に MozyPro バックアップをリリース

  文: Joe Kissell <joe@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

ここ二年ほどの間に、オンラインのバックアップサービスがますます魅力を増すようになってきた。価格も普通の人たちに手が出せる程度にまで下がり、ブロードバンドのインターネット接続もより高速に、かつより一般的になってきたからだ。手ごろな価格のオンラインバックアップというジャンルに最初に参入したものの一つが Mozy だった。これは月額 $4.95 で一台のコンピュータ(Mac または Windows)から容量無制限のデータに対するセキュアなオンラインのストレージを提供するというものだった。Mozy はその後 EMC に買収され、その個人用バックアップサービスは MozyHome と改名された。そして今回、同社のビジネス向けサービスでこれまで Windows 用のみであった MozyPro サービスが、Mac OS X 用にリリースされた。このサービスは「ベータ版」と呼ばれているが、その呼び方は Google がしばしば使うやり方とほぼ同じもののように見える。つまり、MozyPro は明らかにフルサポート付きで販売されてよいほどに完成されたものだ。

MozyHome と同様、MozyPro も暗号化されたオンラインのバックアップと復元を提供し、最近 30 日間にバックアップされたファイルのすべてのバージョンを含んだアーカイブもある。ただし、このビジネス向けバージョンではさらにいくつか追加の機能もある:

MozyPro のライセンス料金はコンピュータあたり $3.95、サーバあたり $6.95 だ。それに加えて、データストレージ料金が月額ギガバイトあたり $0.50 かかる。この点、MozyHome のような定額、データストレージ無制限のオプションはない。


Netflix の Mac サポート及びその関連

  文: Doug McLean <doug_mclean@tidbits.com>
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

かって 2007年1月に、Netflix は "Watch Instantly" コンテンツを提供するであろうと発表した。これはストリーム出来るビデオで、どの無制限プランの加入者でも無料で Web から見られるものである。この日以来、Mac 社会は、このサービスが Windows ユーザーに対してのみ提供されていることに文句を言ってきた、勿論、VMware Fusion や Parallels Desktop の様な仮想化ソフトウェアを使えば問題は無い。過去一年ほどの間、Netflix は Mac アクセスの解決に近づいているという説明を何度かして来ているが、実体は何も無かった。これを頭において、最近 Netflix ブログに現れた最新の声明を、我々は多少の懐疑心を持って受け止めた。このブログの中で、Netflix のスポークスマン Brent は書いている:

"そして、皆さん全ての Mac ユーザー (私もその一人) のために、皆さんの Mac 上で直ちに見られるようにする解を求めて日夜努力しています。もう少々お待ち下さい - 今年末までには何か提供出来ると思います。"

この一片の頼もしい情報は、実際にはもう一つの重要な声明への末注の役を果たすこととなった:Starz Play、高級映画サービスプロバイダーの Starz からのブロードバンド娯楽サービス、は Netflix と合意し、Watch Instantly カタログに 1,500 を超えるタイトルを追加することになった。同時にこのポストには、新たな CBS, Disney, そして NBC TV 番組の追加が記されている。

Netflix 関連の他のニュースが Roku から出ている、同社はユーザーがコンテンツをコンピュータからテレビにストリームさせるように出来る人気の Netflix Player のメーカーである (これは Windows 限定と言う Watch Instantly 機能の制限を回避する一つの方法でもある)。Wired.com によれば、Roku は Netflix との排他的関係から離れて、そのプラットフォームを興味のあるコンテンツプロバイダなら誰にでも開放していく方向に拡大している。これの意味するところは、Roku プレーヤーは近い将来広範なビデオオンデマンドのサービスを扱えるようになる、勿論現時点では、誰が開発するのか、どれぐらい参加するのか、そしてそれらのサービスはお互いに互換になるのか等は分かっていない。

最後に、Roku Netflix Player には間もなく競争相手が出現するであろう、これは LG の $399.95 の Network Blu-ray Disc Player からのもので、Blu-ray ディスクをフル HD でと Netflix の Watch Instantly 機能からのストリームビデオの両方を再生できる。私が Roku の Netflix Player に対する競争相手はいるかと Twitter で質問した時の反応からすると、多くのビデオマニアは LG プレーヤーの Blu-ray と Netflix とのサポートの組合せを心待ちにしている。


Apple、App Store の顧客レビュー規定を変更

  文: Doug McLean <doug_mclean@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

Apple は最近、iPhone App Store の製品レビュー投稿規定を変更して、iPhone App Store にあるどのアプリケーションについても、その製品レビューを投稿するためにはレビューする者がその問題のアプリケーションを持っていなければならないという規則にすると発表した。これは無料ダウンロードであるか購入したものかにかかわらず、すべてのアプリケーションに適用される。一つの製品についてあなたがレビューを書こうとすると、iTunes があなたの Mobile Applications フォルダを検索してその問題のアプリケーションがあるかどうか探す。もしそれが見つかれば、iTunes はその製品用のレビュー記入フォームを開き、そこにレビューが書き込めるようになる。もしも iTunes がそのアプリケーションを見つけられなければ、ダイアログが開いて「この項目のオーナーでなければ Customer Review を書くことができません」と知らせ、あなたがそのアプリケーションをレビューすることは拒否される。

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今回の変更以前には、多くの開発者たちが自分の製品が不公平なレーティングを受け、実際に使ったこともない人たちにレビューされていると感じていた。数多くのレビューが(その多くが極度に否定的なものだったが)ただその製品の価格、スクリーンショット、あるいは製品の説明文のみに基づくものだった。iPhone/iPod touch 用にアプリケーションを入手するには App Store が唯一の場所であるので、自分で所有しているアプリケーションのみでレビューが許されることは至極道理に適っていると思える。

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もちろんこの新しい規定ができてもそれで実際にレビューの深みや質が改善されるという保証はない。アプリケーションをダウンロードしてもすぐにポイと捨ててしまう人もいるだろう。それでも、読者にとって少なくともそこに書いてある意見が実際に直接使ってみた体験に基づくものだということだけは確かになる。

残念ながら、この新しい制限によって信頼できる意見が排除されるということも少数ながら起こるかもしれない。例えば、私が友人の iPhone であるアプリケーションを試した場合、私がその感想を App Store に披露することはできない。それでもそのようなケースは確かに少数だろうし、実際にその製品を持っている方が、誰か他の人の電話機でほんのちょっといじっただけよりきちんとした感覚を持てることも確かだろう。天秤にかければ、至極妥当なところだと思う。

では、この Apple の新しいポリシーによって、App Store のレビューは他のサイト、例えば Amazon.com のようなところの顧客レビューと比べてどのように位置づけられるようになるのだろうか?(Amazon は顧客レビューに関しては絶対の判断基準とも言える。結局は Amazon で品物を買わないような人も、購入するかどうかの判断にはまず Amazon で顧客レビューを読むものだ。)

Apple によるオーナーのみの要件は、まずレビューの質を引き上げるだろうと思えるかもしれない。Amazon や VersionTracker のようなサイトではレビューを書く者がその問題の製品を持っているかどうかを判断する方法が全くないからだ。けれども実際問題として、App Store はただ対等の立場に立てるだけのようだ。レビューの投稿をそのサイトを通じて購入またはダウンロードした人だけに限っているサイトは少ないが、製品をレビューする人ならばその製品に何らかの体験を持っていると仮定するのは当然のことだろう。例えば、Amazon で販売されている本や DVD、家庭用品、その他の商品は他の多くの小売店でも広く入手できるので、その製品がどこで購入されようともレビューが直接の使用体験を反映したものであることは十分にあり得る。

コメントを書く者がそのアプリケーションを持っていなければならないと要求することは、App Store がレビューの質を向上させようとしている努力の一環に過ぎない。最も重要な点を一つ挙げると、製品を買おうと考えている人たちが個々のレビューについてそれが参考になったかどうかを評価することができ、レビューをそれが参考になったという評価の多い順に並べ替えることができる。ところが残念なことに、Macworld の Dan Frakes が指摘しているのは、この App Store の Most Helpful 評価による並べ替え順序が「参考になった」票の数に基づいており、「参考になった」票数と「参考にならなかった」票数の比に基づいていない。その結果として、40 票中 20 票が「参考になった」となっているものの方が、10 票中 9 票が「参考になった」であるものよりもずっと上位に来てしまうのだ。明らかに、何らかのしきい値は必要だろう。1 票中の 1 票が「参考になった」ならば最高の比の値になるが、それは必ずしも意味あることではないからだ。また、最高レーティングによってレビューを並べることもできるだろうし、レビューした人が他のどんな製品を評価しているかを見るのも意味あることだろう。(良いレビューを書く人は、他の製品についてもそうする可能性があるからだ。)

おそらく、欠けていることの中で最も重要なのは、Amazon が低いレーティングで最も参考になったレビューを表示しているところだろう。この機能のお陰で、一般に好まれている製品に対しての定評ある批判(それは多くの場合的を得た批判であることが多い)を読むことが簡単になるのだが、App Store でそれをするのはかなり難しい。異なったレーティングの分布を示した Amazon の棒グラフも、非常に歓迎すべきところだ。

Amazon-review

全体として見れば、Apple の新しいオーナー要件は賢明な処置だと思う。そしてこれは、App Store におけるビジネス遂行の方法に、微妙だけれども重要な変化を刻むものとも言える。


顧客サービス物語、PDF 業界版

  文: Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

それほど昔の話ではない。私たちが契約しているオンデマンド印刷サービス QOOP の善き人たちが、私が彼らに渡していた“Take Control of Mac OS X Backups”の PDF ファイルが壊れている、と知らせてくれた。私は混乱しながら、そのファイルが私の作業の流れに従って経て行ったさまざまのバージョンをすべてチェックしてみると、問題が起こったのはある特定のグラフィックスが作られた時点であって、それは私がそのファイルに Apago の PDF Enhancer Professional Edition を走らせた時のことだったと分かった。

さて、PDF Enhancer というのはパワフルなハイエンド向け PDF 操作ツールで、私は Take Control の制作に、とりわけオンデマンド印刷用バージョンの制作のために、大きくこれに依存している。標準の Take Control PDF のためには、私は主に PDF Enhancer を不要な PDF 機能を除去したり、重複したグラフィックスを削除したり、大きな画像をダウンサンプルしたりしてファイルサイズを削減するために使う。けれどもオンデマンド印刷用の PDF のためには、PDF Enhancer のより高度な機能のいくつか、具体的にはページを 7×9 インチにリサイズしたり、白黒印刷オプションのためにカラーをグレイスケールに変換(PDF の段階で変換する方が、プリンタで変換するよりも画質が少し良くなる)したりする機能を使っている。それにもちろん、私は個々の本ごとに同じ変換をしなければならないので、PDF Enhancer のドラッグ&ドロップのインターフェイスは重宝する。

私は PDF Enhancer がそれ自体問題だったと知ってショックを受けた。そこで私は Apago の Dwight Kelly にバグ報告を提出し、元のファイルと壊れた後のファイルとを添えて、いったいどうなっているのか調べてくれと頼んだ。何度かメッセージをやり取りして私がバグ報告に含めるのを忘れていたいくつかのことをはっきりさせた後で、Dwight は問題点を見つけたと知らせてきた。PDF Enhancer は、重複した同一の ICC プロファイルを除去しようとした際、それらの間に誤ったリンクを入れていたのだ。そして彼は私のファイルのあるバージョンを送ってきて、私に確認を依頼した。それから一日か二日後、彼は私に新しいバージョンの PDF Enhancer を送ってくれ、実際これが問題を完全に解決していた。

私が一番強い印象を受けたのは、私がいつも依存して使っているプログラムでこれと同じ状況を前回体験したのはいったいいつのことだったか、ということだ。私は大勢の開発者たちと話をするし、バグの報告も相当数している。けれども、私のフィードバックを一週間以内に新バージョンへと変えてくれる開発者はそれほど多くない。おぼろげな記憶をたぐってみると、その種のことがかなり頻繁に起こっていたのは 10 年か 15 年前のことだった。これは必ずしも今日の開発者たちの反応が遅いと言っている訳ではない。そうではなくて、今の開発者たちの多くは私のバグ報告をすぐに確認してくれるが、何カ月も経ってからあの問題は最新のリリースで修正されたと知らせてくるのが普通だということだ。

今回の状況を、もう一つ別のハイエンド向け PDF 操作ツール、ARTS PDF の Aerialist Professional で私が発見したバグと比較してみよう。私たちが遭遇した問題の一つは、私たちはすべてのリンクがクリックした時に現在の拡大率を引き継いで欲しいということだ。つまり、Adobe Reader で読んでいるとして(Preview はズームレベルを無視してしまう)文字を読みやすくするためにズームインしたとすると、リンクをクリックしただけで拡大率が変わっては困る。Acrobat Pro のリンクツールはひどいものなので、もしも PDF の中に手でリンクを作れば、おかしな拡大率になってしまうことが十分考えられる。その点 Aerialist Professional には、他にも多数の便利な機能がある(私がこれを買った動機はその自動索引リンク付け機能だった)が、一つの書類の中ですべてのリンクを同じ拡大率に設定する機能もある。これは素晴らしい。けれども実際に使ってみると、もしもあなたの PDF を受け取った人が Adobe Reader または Preview の連続モードで(改ページモードでなく)表示させていれば、すべてのリンクが行くべきページの _次の_ ページにジャンプしてしまう。おっとっと...

ARTS PDF のサポート担当はきちんと受け答えしてくれて反応も早く、私がその問題を回避できるように助けてくれた。けれども、このバグを修正して私にプログラムの新バージョンを送ってくれることはなく、その代わりに私はこんな言葉を受け取っただけだった:「当方ではあなたの説明された問題を再現することができましたので、これは開発担当にバグとして提出されることになり、次期リリースにおいて対処される予定です。」それが 2007 年 12 月中旬のことで、その当時でさえ Mac 上ではこのプラグインは Acrobat Pro 7 としか動かず、当時最新であった Acrobat Pro 8 では動かなかったのだが、その後も私は現在最新である Acrobat Pro 9 のサポートについてこの会社から一言も聞いたことがない。私は過去 10 カ月間、ただ Aerialist Professional のリンク機能を使うのを避け続けてきたし、今後も近い将来に新しいリリースの出ることにそれほど期待もかけていない。

この物語の教訓と言えば、残念ながら何もないのではないかと思う。ただ、Apago が模範となるべき顧客サービスを提供できて、その一方で ARTS PDF の Aerialist Professional では非常に望ましい機能が使えないという悲しみを味わわせられたというだけのことだ。ひょっとしたら、PDF Enhancer のバグはごく簡単に修正できるものだったのかもしれない。ひょっとしたらそのためにファイルが壊れてしまったことがその優先度を高めたのかもしれない。ひょっとしたらその開発者がたまたま私が報告を送った時に暇な時間があったからなのかもしれない。あるいは、ひょっとしたら私が報道関係の人間であることで特別扱いを受けたのかもしれない。でも理由が何であれ、一方の Aerialist Professional のバグではいずれも当てはまらなかった。Apago に、心からの称賛の気持ちを送りたい。バグ修正をほとんど即座にしてもらえることなど、誰にも決して保証されるはずのないことだと私は確かに承知しているが、それでもそれだけハイレベルの努力を注いでくれる開発者は誰でも、大きな称賛に値する。


TidBITS の停止が編集者の怒りを買う

  文: Glenn Fleishman <glenn@tidbits.com>
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>

07-Oct-08 の火曜日のどこかの時点で、我々の主たる Web サーバーの頭がおかしくなってしまった。我々のサイトを走らせているスクリプトが言うことを聞かなくなってしまい、そしてサーバーも反応が少々鈍くなってきた。我々の方でも、Rich Mogull の秀逸な "携帯電話ネットワークの内側を見る" の記事の結果として訪問者の爆発的急増という現象はあったのだが、負荷は単純にそれ程高くは無かったし、このサーバーは過去にも何度かこの様な爆発現象を沈着にこなして来ていた。

我々は、最も直近のアップデートに多少遅れを取っていたので、Mac OS X Server 10.5.4 から 10.5.5 へアップデートすることでこの問題は解決出来るかもしれないと思った。ところが結果は反対で、我々の Intel-based Xserve は動かなくなってしまった。このアップデートは、ルート - 或いは / ディレクトリ - が書込み不能という奇妙なメッセージと共に不成功に終わり、我々に再起動を余儀なくさせた。不幸なことに、このインストーラーはマシンを更に機能不全の状態にしてしまい、結局このマシンは自力では立ち上がらなかった。我々のコロケーションホストである digital.forest は、手での再起動を試みたが、再起動のプロセスも Apple のロゴマークが出る所までしか行かず、その後自動的に再起動を繰り返すという状況であった。この現象は、シングルユーザーモードで立ち上げようとしてみても同じであった。これはまずい。digital.forest の技術者たちは DVD から立ち上げて Disk Utility を走らせた。これでいくつかの問題が見つかり直されたが、この起動問題は解決されずそのまま残ってしまった。

いや心配に及ばず、と我々は思った。Adam はバックアップシステムを別個に二つ準備していたからである:Time Machine を使って Xserve の二番目のドライブに、そして CrashPlan ("CrashPlan: バックアップ再考" 2007-02-26 参照) を使って Adam の家にある別のサーバーにである。

復旧プロセスを始める -- 皆さんは、失敗の前の確信についての格言をご存知ですか?Leopard Server DVD から起動した後、digital.forest は賢明なやり方と思える事をやった、つまり最も直近の Time Machine バックアップを復元させたのである。それは当日の 11:50 AM のものであった。マシンは復旧し、我々も Apple Remote Desktop 経由でマシンに戻ることが出来た。それから少々の手こずりはあったが Web サーバーを再立ち上げしたのだが、困ったことに、我々のサイトは 30-Sep-08 以降の記事を全く示していないのである。事実、データベースを見てみると、確かにその日からのものであった、Time Machine は最新のバックアップは当日のものであるとしているにも拘らずである。

我々も心配で心臓がドキドキし始めたが、我々にはもう一つの奥の手があった。Adam は彼の手元の CrashPlan バックアップから復元させ、我々の必要とするファイルをアップロードした。そしてそのアップロードされたものを見てみると、再度幸運はそこには無かった、違った理由からではあったが。CrashPlan には、多くの必要なファイルのより最新のコピーがあったのだが、同時に山ほどの復旧失敗メッセージも一緒に - ファイル名に付記されて - 復旧されたディレクトリ中に散在していたのである。それはゴミ箱の様であった。多少パニック状態で CrashPlan バックアップを眺めてみると、我々が必要とするメインのデータベースファイルはそこに存在しており、かつ損なわれていないことが分かった。そこで、データベースの Time Machine バージョンをより最新の CrashPlan バージョンに入れ替え、その整合性を MySQL のコマンドラインツールを使ってチェックし、そしてようやくシステムを復旧した。

そして大きな安堵のため息と共に、我々二人とも再び息が出来るようになった。と言うのも、CrashPlan バックアップはその日の午前中のもので、我々のメインである TidBITS 記事データベースでは殆ど何も失っていなかったからである。他のデータベースの中には、より最新のものに回復できなかったものも出てきたが、これらは重要性からいえばずっと下のものであり、統計や変更の一週間分を失うことはそれ程問題ではなかった。

私が休暇で Maine の Mt. Desert Island に居たことも事態をより困難にしたことは間違いない (幸いに我々の借りた美しい家には高速の DSL ラインがあった)、しかし Adam と私は普段よりも多くの力仕事と努力をもって、数本の記事だけはマニュアルで再ポストしなければならなかったが、以前の状態に戻すことが出来た。

考察と反省 -- これまでは信頼できるシステム、Leopard Server の信頼できるリリース (10.5.4)、そして複数のバックアップシステムを持ちながら、しかも全てはコロケーション施設の有能なサポート陣にサポートされていながら - 我々は何時間もの間暗礁に乗り上げていた。これは良くないことであり、そして通常は気の滅入る話である。

私が思うに、30-Sep-08 から何かがうまくいかなくなり始め、そしてそれが何であれ、クラッシュの日に至るまで問題は徐々に悪化して行ったのだと思う。この推測上の問題が、システムそしてアーカイブを作成する両方のバックアップパッケージの能力に _加えて_ バックアップが正常になされていないことを我々に知らせてくることに影響を及ぼしたのである。

Adam は、30-Sep-08 に何らかの得体の知れない破損が始まったのではないかとする私の推論を買っていず、彼は、彼が Time Machine の中で時間を遡り、メインのデータベースを保持するディレクトリを見ながら、ブラウズしてみた時、Time Machine には広く間のあいたたった四つのバックアップしかなかったと指摘している:30-Sep-08, 09-Sep-08, 08-Sep-08, そして 27-Jul-08 である。毎日規則正しくバックアップされているファイルも幾つかある (~/Library/Preferences にある)。これから類推されることは、Time Machine はこれらの大切なファイルを 70日間の中で 4 回しかバックアップしていないと言うことである。毎時間バックアップすると仮定すれば、バックアップする機会は約 840 回あったはずである。毎時間変更があるとは限らないので、例えば変更があるのは一日たった一回だとしても、これは Time Machine 側でのとてつもなく貧弱なパフォーマンスと言わざるを得ない。最もがっかりするのは、この犯罪的とも言える怠慢な振る舞いについて全く我々に知らしめていないことである。

もしあなたも Time Machine を主たるバックアップ手段として使っているのであれば、とりわけ Leopard Server マシンに、この記事を読むのはここで止めて、しょっちゅう変更がある大切なファイルを Finder の中で探し出して、Time Machine に行き変更をめくり返して行き、我々が経験した様な時折のバックアップの様なナンセンスではなく定常的なバックアップが取られていることを確認すべきである。

最後は我々の危機を救ってくれたとはいえ、CrashPlan もまた大きく我々を失望させた。これは何ヶ月もの間何の問題も無く我々のサーバーからファイルを成功裏にバックアップしてくれていた。しかしながら、私がファイルを復元しようと試みるやいなや、何千もの整合性チェックエラーを投げ返してきて、その数があまりに多くそのログの中をより分けていくのは殆ど不可能であった。繰り返すが、もし問題があるのであれば、バックアップ時に警告してユーザーは復元しようとする前にその問題を認識している様にして欲しい。

我々には更なる冗長度を追加するプランがあり、近い将来これらを実行に移すつもりである。二つの違った方法でバックアップするのに加えて、主ドライブを二番目の内部ハードドライブにクローンしておけば、サービスを直ちに再開することも出来ていたであろう。(これは我々の他のサーバーが設定されている方法で、このやり方で救われた経験が一回ある。)

複数のディスクアレイをストライプ&ミラーするやり方 (RAID) を薦める人もいて、こうすれば速度も上がり、失敗の機会も減り、そして復元能力も増す (しかしながら、これはバックアップに加えてであり、バックアップの代わりにではない)。過去において、RAID の必要は無かった、なぜならば TidBITS は殆ど静的な情報を送り出していたからである。我々もより動的なサイトデザインに移行しつつあり、我々の読者との或いはその間の大事な会話が関係して来ているので、これも変わらなければならない。

この様な出来事が成人した男と女を飲酒に走らせるのである。この騒ぎの最中、何かが起こるのを待つ間、私は私の妻、二人の子供、そして六人の姻戚と妻の作ったおいしいスープを前にして座っていた。そしてビール。ほぼ午後 9 時頃、Adam はようやく夕食にありつき、そして恐らくはより強い飲み物も手にしていたのかもしれない。沈み行く船から最後に離れる船長の様に、出版者はサーバーがバックアップされ正常に走ってからようやく食事を取るものなのである。


携帯電話ネットワークの内側を見る

  文: Rich Mogull <rich@tidbits.com>
  訳: Mark Nagata <nagata@kurims.kyoto-u.ac.jp>

ベルが一度も鳴っていないのにあなたの携帯電話に電話がかかってきたという表示が出ることがあるのは、いったい何がどうなったのかと気になったことはないだろうか? あるいは、通話ができないのにテキストメッセージだけは送れることがあるのはなぜだろうか? ひょっとしてあなたが大陸横断の旅行をした時に、その最中にもずっと電話が通じるのに驚きを感じたことはないか? また、時としてあなたの携帯電話のバッテリが普段よりずっと短時間しか持たないという経験をしたことは? それから、あなたの車の GPS が位置の特定に 3 分もかかる場所で iPhone 3G がたった 3 秒で同じことができることがあるのはなぜなのか?

普段私たちは携帯電話がどこにでもあることに慣れ切っていて、いつでもどこでも使えるものだと思い込んでしまいがちだが、実はあなたのポケットの中にあるこの機器に通話を送るためには相当に複雑なテクノロジーが関係している。通話が途中で途切れたり、その他の困ったことが起こる度に私たちは不満を爆発させて叫び出したりするが、あなたの目前に真に現存しているものは、驚くべきテクノロジーの詰め込まれた素晴らしい機器なのだ。このシステムの内側についてあとほんの少し学びさえすれば、ひょっとして、本当にひょっとしたらだが、今度あなたが単純な通話を始めようとして苦闘する際にも、もう少しだけイライラの度が抑えられるかもしれない。

通話はどうやってあなたを追いかける -- 携帯電話で最も面白い点の一つは、そもそもかかってきた通話がどうやってあなたを見つけ出すのか、ということだ。考えてもみよう。基本的にあなたはちっぽけなラジオをポケットに入れてこの地球上をさまよっている訳だが、ある番号に電話をかけるだけで、誰もが数秒のうちにあなたをつかまえることができるのだ。携帯電話のネットワークにはいくつかの異なったタイプのものがあるが、それらはすべて同じ基本的な、しかし的確な、基本設計の上に成り立っている。この記事では便宜上、GSM (Global System for Mobile communications) ネットワークの用語を使って説明することにしよう。GSM は AT&T や、海外各国の iPhone プロバイダが利用している。[訳者注: 日本では GSM と異なるものが使われています。詳しくは GSM - Wikipedia などをご参照下さい。]説明の都合上少々物事を簡略化してしまったが、もっと詳しく掘り下げたい人には Wikipedia が最適の情報源になるだろう。

さて、すべてはあなたのポケットの中にある電話機から始まる。世界中の電話機にはそれぞれ IMSI と呼ばれる固有の識別子が付く。これがつまりあなたのInternational Mobile Subscriber Identity (国際移動電話加入者識別番号) だ。大多数の電話機では、これが小型のスマートカードの中に書き込まれている。(そう、いくつかの銀行や ID カードなどで使われているのと同じテクノロジーだ。)これが SIM つまり Subscriber Identity Module (加入者識別モジュール) と呼ばれるカードだ。あなたが電話機の電源を入れると、それは早速近くにある基地局を見つけようとする。基地局とは通常、ハイウェイの側などにある(多くの場合外見の醜い)セルラーアンテナに、いくつかの交換機を結び付けたものだ。あなたの電話機は、信号強度に基づいて最寄りの基地局を判定して接続するが、興味深いことはその先で起こり始める。

この IMSI は真の意味であなたとあなたの携帯電話プロバイダに結ばれた固有の番号で、これがシステム全体の鍵となる。基地局は比較的低い能力しか持たないシステムで、ただあなたの情報をシステム中枢の主要部、すなわち Mobile Switching Center (MSC) に取り次ぐだけだ。MSC は事実上どこの場所にあってもよい。この事実こそが、携帯電話の最も初期の時代に、911 に緊急通話をかけてもどこか別の都市や州にいる緊急指令部員に繋がってしまって混乱を引き起こしていた原因だった。(心配することはない、今ではすっかり直っている。)個々のシステムによって少しずつ違うのだが、一般的に大手の携帯電話プロバイダは多数の MSC を持ち、異なった地域の異なった電話番号にも対応できるようにしている。

最も単純な形では、MSC は二つの大きなデータベースと、通常の電話システムへの接続とのみから成る。データベースの一つはあなたの Home Location Registry (HLR) と呼ばれ、あなたのアカウントのマスターデータベースであるとともにあなたの IMSI、電話番号、それにあなたの現在位置などのデータを保持する。もう一つのデータベースは Visitor Location Registry (VLR) と呼ばれ、こちらはその地域に迷い込んだ人々を追跡する。(一つの VLR は一つの基地局にしか働かない。)実際の動作はこうだ。あなたの携帯電話はあなた固有の IMSI を最も近い基地局に登録する。すると、その基地局はその VLR にあなたが接続してきたことを知らせる。それからその VLR はあなたの IMSI を使ってあなたの HLR に連絡を取り、あなたの現在位置を登録する。

誰かがあなたに電話をかけてくれば、その通話は通常の電話システムからあなたの MSC を通って転送され、あなたが現在ドライブしているハイウェイにまで送られる。システムが、常にあなたの居場所を知っているからだ。もしもあなたがたまたま AT&T と同じ GSM システム (Verizon は違う) にいるならば、通話はさらに世界中どこの GSM システムにでもあなたを追って行くことさえできる。ただし、そこがあなたのメインの携帯電話プロバイダと何らかの種類の協定を結んでいればの話だが。以前、オーストラリアなどの場所に旅行した際に、私はその土地で電話機をレンタルで借りなければならなかった(米国の電話会社は外国の会社との関係があまりうまくないからだ)が、最近ではすっかり様子が変わっており、現地時間の午前 3 時に自宅の誰かがうっかり電話をかけてきて起こされるんじゃないかという方が私の悩みになっている。

自動車や飛行機の中ではなぜ通話できる -- このように話を進めてればごく単純なことのように聞こえるかもしれないが、私たち携帯電話ユーザーは電話をかけている最中にも動き回る、時には高速で移動中のこともあるという悪い習性を持っているので、状況はもっと複雑なことになる。それに対処するため、複数の基地局や MSC が互いに協力して、あなたが電波塔から電波塔へと移動する度にあなたの通話を次々に手渡して行くようにする。今日では、以前よりこれがかなり簡単にできるようになった。私たちは既に古いアナログシステム(電話での通話に専用のチャンネルが必要だった)から新しいデジタルシステム(一つのチャンネルを多くの電話機が共有できる、この点はコンピュータのネットワークと同じことだ)へと移行を済ませているからだ。あなたの会話はすべてデジタルにエンコードされ、そのデータを電話システムが必要に応じて伝送している。

それでも完璧な解決にはなっていない。特に、私の自宅のある Phoenix から妻の仕事場へ行く時にメインのハイウェイ上を運転しているような場合がそうだ。こうした通話の手渡しがいつも予定通りに働くとは限らない。ことに電波塔と電波塔の間にデッドゾーンがあるような場所で問題が起こる。でも、そう考えてみれば通話が急に聞こえにくくなったり会話の途中で切れてしまったり、その後突然魔法のようにすべてが正常に戻ったりすることの理由が説明できるだろう。(魔法のようにということは、それがまずめったに起こらないという意味でもあるが。)私たちが電話機を持って動き回るにつれ、電話機は常時基地局との間で交渉を続けているのであって、またその基地局も他のいろいろな基地局との間で、さらには一つかそれ以上の MSC との間でも、互いに交渉を続けているのだ。

さて、ここであなたが高さ 30,000 フィートの上空で時速 500 マイルで飛行中だと想像してみよう。私たちの携帯電話はそれほど大きな出力を持っている訳ではないが、このような上空からは一台の携帯電話が何十もの電波塔をほぼ同じ出力の信号でキャッチできる可能性が少なくない。これこそ、上空で携帯電話を使うべきでないことの主な理由だ。Wikipedia を見れば詳しい解説がある。比較的新型の飛行機では混信に対するシールドが極めて優れたものになっているので、問題が起こる可能性は低い(ただし依然として携帯電話がリスクになるという調査結果もある)とも言えるが、基地局の頻繁な切り替えと電話機の追跡の作業は携帯電話ネットワークをもの凄く混乱させてしまう。米国以外のいくつかの飛行機会社が機内に搭載しているシステムでは、飛行機自体の内部に一つの小さなネットワークを設定することによってあなたの携帯電話が低出力でその飛行機の機内システムに固定され、そのシステムが地上との通信を処理するようになっている。

ちょっと言い添えておくと、飛行機会社が離陸と着陸の際に乗客がすべての電子機器の電源を切るようにしている最も大きな理由は、万一何かが起こった際に乗客が他のことに気を取られることなく指示を聞いて速やかに従えるように、ということだ。

電話が鳴らないのにテキストメッセージはできるのはなぜか -- これら常軌を逸した通話設定のすべては、あなたの気付かないバックグラウンドで起こる。スパイ映画のファンならば誰もが知っているように、あなたの携帯電話は常時ネットワークと通信を続けている。この通信は信号とメッセージのための専用のチャンネルを使って行なわれ、これは、通話に使われるチャンネルとは別のものだ。だからこそ、最初にあなたの電話機が登録された状態で、通話自体はあなたが基地局から別の基地局へと移動してもそこへ受け渡される(あるいは通話が切れてしまう)ということができる。

その昔に GSM が発明された当初、信号専用に取り分けられたこの小さな領域を携帯電話にメッセージを送るためにも使えるようにすれば便利だろうと誰かが判断した。そこで、最大 160 文字のメッセージをこの信号用チャンネルで送れるという機能が付け加えられた。当初はこれを新しい音声通話のメッセージが届いたことをあなたに知らせるために使おうというのがアイデアだったのだが、その後別の誰かがこれを短いテキストメッセージを送るのにも使えれば素敵だろうと考えた。こうして、Short Messaging Service (SMS) が生まれた。

このことこそ、ベルが一度も鳴っていないのにあなたの携帯電話に電話がかかってきたという表示が出ることがある理由だ。その場所の音声通話チャンネルがすべて使用中ならば、通話があなたの電話機に届くことができず、電話をかけた人は録音メッセージを残すしかない。けれども通知の方は信号用チャンネルを使うので、すぐにあなたに届く。この現象の副産物として、嬉しいことに SMS メッセージは通常の通話が届かない場合にもきちんと届くことが多い。私はパートタイムで被災地救援の仕事をしていた時、通常の通話ができなくてその代わりに SMS を使っていたことがよくあった。あなたが大きなコンサートや試合観戦、あるいは Steve Jobs のキーノートの会場などにいる時、少ししかない音声通話チャンネルをめぐってまわりの人たちと先陣争いをするよりも、SMS を使うことを考えてはいかがだろうか。

Apple はなぜか iPhone 上でサポートしようとしないが、Multimedia Messaging Service (MMS) もまた SMS を使う。この場合は、短いメッセージの中に特別のリンクが含まれて、誰かがあなたと共有したいと思っている写真やビデオがどこにあるのかをあなたの電話機に教えられるようになっている。

SMS の難点は、あなたのメッセージが相手に届くかどうかの保証がないことで、通信の途中で消えてしまった場合でもシステムはあなたや相手に何の警告もしない。(携帯電話ネットワークによってはメッセージ配送を確認できるものもあるが、AT&T はそのオプションを提供していない。)

時としてバッテリが早く死ぬのはなぜか -- もうお気づきのこととは思うが、この驚くべきバッテリ電源のラジオをポケットに入れてあなたが道を歩いている間中、大量の信号やメッセージがバックグラウンドで行き交っている。現代の携帯電話は信じられないほど電力効率が良くなっていて、この信号通信を用いてその場所の環境に合うように自分自身を「調整」するようになっている。信号の状態が良い場合には、使う電力は少なくて済む。けれどもあなたが基地局から遠ざかれば、これらの信号チャンネルを保持するために必要な電力消費がそれだけ多くなる。また、あなたが極端に通信量の多い地域にいる場合にも、あなたの電話機はネットワーク上にスペースを確保するため常に争い続けることが必要となり、そのため送信すべき信号の量が増えて消費電力が多くなる。

つまり、あなたは二種類の効果に気付くだろう。場所によって、あなたのバッテリは永久に保つように感じられるかもしれないが、場所によってはあなたが全く電話を使わなくてもバッテリがどんどん減ることがある。また、あなたが大きなビルディングの奥の方にいる場合、あなたの電話機は近くの基地局との通信により大量の電力を必要とし、バッテリに負担がかかるかもしれない。また別の場所では、通常の状況では必要な電力が少ないのに、そこが多数の携帯電話で一杯になった時には、信号の回数が増えたり、さらに遠くの基地局に通信しなければならなくなったりして、あなたの電話機が早く死ぬことになってしまう。これこそ、Moscone Center で開催される他のカンファレンスと違って Macworld Expo の時だけ iPhone のバッテリの保ちがひどく短くなることの原因だ。Macworld Expo では、iPhone ユーザーの(従って AT&T ユーザーの)密度が格段に高いからだ。

iPhone GPS が車の GPS より速いのはなぜか -- ここまで読んでこられた方には、その答はもう明らかだろう。携帯電話は、通話が届くようにするために常時あなたの位置を追跡しているが、普通の GPS 機の電源を入れた時にはほとんど一からあなたのいる場所の位置測定を始めなければならない。あなたの GPS 機はまず衛星からの特殊な信号を探し、それからそれらの信号のタイミングを比較することであなたの位置を測定する。新しい GPS を買ってきて初めて箱から取り出したばかりのものを使う時、その機械はあなたが地表上のどこにいるのか全く何もデータがないため、数分間まわりを見渡してこれらの信号を集め、データをダウンロードすることであなたの位置情報を狭めて行かなければならない。その後、ほぼ同じ場所でその電源を入れた際は、前回使った時からよほど長い時間が経っていない限り、より素早く衛星の電波をつかまえることができるが、それでもあなたの位置を特定するためには必要ないくつかの衛星信号に固定する作業がやはり必要になる。

あなたの iPhone はズルをしている。911 の緊急通話サービスをサポートするために、今ではすべての携帯電話サービスがあなたの物理的な現在位置を最小限およそ 150 メートル程度にまで正確に追跡することを試みている。(この点は米国以外では多少事情が異なる。)だから、あなたの電話機は、このネットワークのお陰で GPS が起動さえしていない前からあらかじめあなたのおよその現在位置をかなりはっきりと知っているのだ。あなたが Wi-Fi ネットワークの近くにいる場合には、Skyhook Wireless 対応の位置測定機能が iPhone に装備されているお陰でさらにあなたの位置情報の精度が狭まる。つまり、あなたの iPhone の GPS は _既に_ どの衛星を探せばよいのかかなりはっきりした情報を持っている訳で、あなたの自動車に搭載されたユニットが一からスキャンを開始しなければならない(あるいは前回電源を入れた時の場所の記憶のみに基づく)のとは大きく違う。

未来はそこにある -- 私たちは当たり前のことのように思っているが、実は携帯電話には、そしてそれを支えるネットワークには、非常に興味深いテクノロジーが詰まっていて、ほんの数十年前にはSF小説の中だけのことのように思われていた機能(例えば Dick Tracy の腕時計ラジオ、Maxwell Smart の靴に内蔵の電話、James Bond の 1963 年の映画“From Russia with Love”に登場した 自動車電話などを思い出そう)を今や現実に提供している。さて、今度あなたがいくら試みても電話が通じない時は、このいまいましい驚異の産物を床にたたきつける前に、ちょっと考えてあなたのお母さんに代わりにテキストメッセージを送ってみてはいかがだろうか。


TidBITS 監視リスト: 注目のソフトウェアアップデート、13-Oct-08

  文: Doug McLean <doug_mclean@tidbits.com>
  訳: 亀岡孝仁<takkameoka@kif.biglobe.ne.jp>


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Valid XHTML 1.0! , Let iCab smile , Another HTML-lint gateway 日本語版最終更新:2008年 10月 18日 土曜日, S. HOSOKAWA