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#1694: OS のテキスト表示バグ修正、CES 会場から報告する CTA テクノロジー動向、Vision Pro の価格について TidBITS 読者の感想、Pong Wars

先週の重要なニュースは Apple が macOS 14.3.1、iOS 17.3.1、iPadOS 17.3.1、および Safari 17.3.1 をリリースして WebKit の厄介なバグに対処したことだ。このバグはテキストをタイプしている最中に画面上のテキストが重なり合ったり重複したりして表示されるというものであった。Adam Engst は、Vision Pro からどれだけの価値が得られいくらまでなら払えるかというアンケートの結果をまとめるとともに、Pong Wars の話を語る。これは Pong と Breakout の楽しいマッシュアップで、8-bit の Lava Lamp ゲームをとてつもなく活発にした感じだ。最後に、Jeff Porten が新たな寄稿記事で、今年の CES トレードショウから毎年恒例の Consumer Technology Association による Tech Trends to Watch プレゼンテーションについて報告する。今週注目すべき Mac アプリのリリースは Lunar 6.6 と Mactracker 7.12.14 だ。

Adam Engst  訳: 亀岡孝仁  

macOS 14.3.1, iOS 17.3.1, iPadOS 17.3.1, Safari 17.3.1 で WebKit テキストバグ修正

これらのアップデートはぜひインストールすべきだ。Apple は、December 2023 中旬以降 Appleユーザーの間で大迷惑を引き起こしている WebKit のバグを修正するため、macOS 14.3.1 Sonoma , iOS 17.3.1 , そしてiPadOS 17.3.1 をリリースした ("macOS 14.3 Sonoma Text Display Bug to Be Fixed Soon" 7 February 2024 参照)。他のアップデートの翌日、Apple は macOS 13 Ventura と macOS 12 Monterey のバグを修正するために Safari 17.3.1 を出した。

macOS 14.3.1 update

このバグは、WebKit に依存するアプリに入力している間に、単語や行全体が消えて再表示されたり、跳んだり、或いは他のテキストを上書きしたりする原因となった。最も目に付いたのは Mail、Notes、そして Safari であったが、他にもMimestream や MarsEdit 等のサードパーティのアプリも含まれる。問題は困惑させるものであったが、基本的には見栄え上のみのものであった - 実際のテキストは変更されていなかったが、テキストが乱れた Web フォームを送信すると、望ましくない状態にロックされる可能性があるという報告もある。ウィンドウが再描画される原因となるアクションは - サイズ変更、別のウィンドウへの切り替えて戻る、閉じて再度開く - 少なくとも一時的に、影響を受けたテキストを正しい状態に戻す。殆どの報告は Mac アプリが中心であったが、iOS アプリも影響を受けた。

macOS 14.3 text display bug example

ユーザーも開発者もしばらく前からこのバグを Apple に報告しており、オープンソースの WebKit ブラウザエンジンでは数週間前に修正されていた。なぜ Apple がこれらのアップデートを展開するのにそんなに時間がかかったのかはわからないが、同社はセキュリティ修正を含められるか (無かった)、或いは次の計画アップデートまで延期できるかどうかの判断を待っていたかもしれない。(ある開発者によると、このバグは macOS 14.4 beta 1 に存在したが、14.4 beta 2 で修正されたと言う。)

Apple は watchOS 10.3.1 もリリースしたが、一般的な "改善とバグ修正" としか言っていない。watchOS も WebKit に依存しているため、おそらくこのアップデートを受けたであろうが、Apple Watch のテキスト入力は希であることを考えると、Apple はリリースノートでその事実に言及する必要性を感じなかったのであろう。tvOS はこのアップデートを受けていないようだ。恐らく、テキスト入力はそこではさらに一般的ではないためだが、Apple は将来のアップデートで新しいWebKit バージョンを組み入れることになると思われる。

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Adam Engst  訳: 亀岡孝仁  

Vision Pro 価値調査結果:$500-$1000 と要らないに分かれる

先週、Apple Vision Pro とその機能について皆さんが今知っていることを理解した上で、Apple Vision Pro にいくら支払ってもよいと思うかを尋ねた。これは、Vision Pro の価格が不合理であるかどうかについての国民投票では なく、人々に技術への欲求を超えて考え、Vision Pro からどれだけの価値を受けられるかを熟慮してもらう試みであった。

分かり易くするため、私はこの質問に対して6つの答えを用意した:"もう注文した" と "買わないであろう" を両極端とし、残りの回答は、既存の Apple 製品のコストとほぼ一致する価格帯を設定して、回答者には Vision Pro の知覚価値を馴染みある機器と比較して貰おうと意図した。

この調査には 257 件の回答が寄せられたが、これは最近の調査と比較すると低く、多くのTidBITS 読者が Vision Pro については意見が殆どなく、推測を敢えて口にする気にもすらならないことを示唆している。結果は次の通り。

Vision Pro value poll results

上位2つの回答は、投票数以外にほとんど共通点がなかった。回答者の 37% は、Vision Pro に $500 から $1000 を支払ってもよいと思うと言い、低価格帯のiPhone、iPad、または Mac 用の優れた外部ディスプレイと同等の価値があると考えていることを示唆している。それは私の投票でもあった - 私は Vision Pro が日常的に私をより生産的にしてくれるとは思わないが、旅行する時には、それだけの支払いを正当化するだけの価値はあるかも知れない。

しかしながら、その答えの直後にいたのが、投票の 35% を占めた "買わないであろう" であった。それは、多くの人が Vision Pro を問題探しのための解と見ていると私には思えた。6年前、私は $800 の "3D 移動劇場" である Royole Moonをレビューしたことがあったが、テストするのは面白かったが、実際の何かにそれを使うことを想像出来ず、丁重に送り返した ("Royole Moon の裏の面" 25 April 2018 参照)。Vision Pro は Royole Moon よりもはるかに印象的だが、多くの人はそれ以上に役に立つとは感じないのかも知れない。

3番目と4番目も近かった。回答者の 13% は、Vision Pro が iPhone Pro、iPad Pro、または Mac と同等の価値があると感じ、$1000 から $3500 の価格があると言った。私はその開きが大きいことは認識している - 私はそれが $1200 であれば買っても良いと思うかも知れないが、$3300 の値札ではくすくす笑うであろう -しかし、Apple が MacBook Air により近いものに価格を下げることが出来れば、これらの人々は Vision Pro を買うようにも思える。

価格帯の反対側の低い方では、回答者の 9% が Vision Pro は $100 から $500の価値しかないと感じ、その価値を Apple Watch と同列に置いた。この選択は、投票の 3% しか得られなかった Under $100 の回答と同様、人々がそのような重要な技術を自分のものとして評価することが出来なかったため、多くの票を得られなかった可能性がある。$500 以上の価値があるに違いないのであろう? さもなくば、彼らは Vision Pro が単なる目新しいもの以上の何物でもないと考えるのであろう。

また、3% を獲得した最下位には、Vision Pro を既に注文したという 7-8 人がいた。 この調査を実行した理由の一つは、TidBITS 読者がどのような Vision Pro記事を見たいと思うかを理解するためである。Vision Pro の流行に飛び乗る読者が殆どいないということからすると、visionOS のマイナーアップデートを取り上げる意味は殆どないと思われる (今 1.0.3 まで来ている)。殆どの人はそのような詳細を気にしないであろう。我々は Vision Pro を使うのがどのようなものかについては何らかの追加の視点を取り上げる予定だが、私の Vision Pro に費やす時間の多くは TidBITS Talk の議論の中で費やしたいと思っている。あなたが見たい何らかの Vision Pro の記事がある場合には、コメントでそれを提案して欲しい。そして、それが幅広い関心事になると私にも思われた場合、それを書いてくれる誰かを見つけることが出来るかどうかを検討したいと思う。

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Adam Engst  訳: Mark Nagata   

Pong Wars を深読みする

ブロガー Jason Kottke が最近、Koen van Gilst の Pong Wars を眺めているだけで一日が過ぎるという記事を書いた。Pong Wars は JavaScript で書かれた PongBreakout (Steve Wozniak が Steve Jobs の助けを得て書いたゲーム) のマッシュアップというべきもので、8-bit の Lava Lamp ゲームをとてつもなく活発にした感じだ。Pong Wars では2個のボールが動く。片方は Day (昼) と呼ばれ、もう片方は Night (夜) と呼ばれる。それぞれが、Pong や Breakout と同じ物理法則に従って動き回る。Day ボールが動き回る領域は明るい色で、Day ボールがぶつかったブロックは明るい色に変わる。Night ボールはその逆で、ぶつかったブロックを暗い色に変える。

ごくシンプルな Pong Wars だが、人を魅了せずにはおかない。私の脳は知らず知らずのうちに、負けそうな方を応援するようになり (「行け、Day!」)、いったいなぜこんなにスコアが偏るのだろうと思案し (いつも Night が優勢で総ポイント 1024 のうち 800 をすぐに超えていた)、スクリーン上で進行するアクションにナレーションを付けるようになり (「気を付けろ、相手は下の方に水路を開けようとしているぞ」)、善対悪という壮大なテーマ (あるいは少なくとも Spy vs. Spy のテーマ) の下で動いているのではないかとさえ思うようになっていた。

Kottke のコメントを額面通りに受け取って、私は他の仕事をしながら Pong Wars を走らせたままにしておき、しばらく経ってから戻って見ると、2個のボールが見合ったまま同じ位置で振動し続ける状態 (下左図) になっていることに気付いた。これは変だと思って、私はページをロードし直してみた。でも、それでもやはり同じ行き詰まりの結果になったので、ページをいったん閉じてから開き直し、タイマーをスタートさせてどうなるか観察してみた。すると実際、開始から 32 分後にいつも同じ状態で行き詰まることが分かった。

Pong Wars

そこで私は Mastodon 上で作者の Koen van Gilst あてに、開始時点でランダムなシードを入れる必要があるのではと尋ねた。けれどもそのほんの数分後に、私の旧友 Keith Dawson が修正方法を提案してくれた。Pong Wars はオープンソースであり GitHub 上にたった1個の index.html ファイルとして登録されているので、私はそれをローカルにコピーして、Keith の変更を施してから試してみると、お見事! Day と Night は Keith の修正版ではずっと対等に渡り合う (下右図) ようになった。今のところ、長時間続ければ毎回最終的には振動状態の行き詰まりに至っているけれども、従来のように毎回 32 分後という訳ではなく、行き詰まりに至るまでの時間がもはや予想できなくなった。

誰か、Pong Wars を Vision Pro に移植して、自宅の中で2個のボールが飛び回るようにしてくれないだろうか? でも今のところは、macOS のスクリーンセーバで良しとすべきだろうか。

[訳者注: その後、 本家のバージョン に変更が加えられて、現在は Adam が試したものとは違っています。]

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Jeff Porten  訳: Mark Nagata   

Consumer Technology Association と 2024 年のテクノロジー動向

毎年、Consumer Technology Association (CTA) はラスベガスで自らが開催するコンベンションおよびトレードショウ CES において "Tech Trends to Watch" 講演を通じて来たるべき一年間のロードマップを提供している。今年私は CES に出席することはできなかったが、Tech Trends イベントのライブストリームを視聴して 2024 年の予測に耳を傾けた。いつものことだが、CTA はテクノロジー業界を支援する非営利団体なので、語られた予測には意図的な部分もあり、すべてがバラ色の語り口で述べられる。悪いニュースでさえ、ここでは肯定的な脚色が施される。私は長年 CES に参加しつつ業界を観察してきたが、その経験に基づいた見解や意見も書き添えつつここに報告したい。

今年のプレゼンテーションの壇上に立ったのは CTA の Director of Thematic Programs である Brian Comiskey と Director of Research である Jessica Boothe だった。例年は Steve Koenig が Tech Trends の壇上に立つ二人のうちの一人で (2022 年 1 月 13 日の記事“CES 2022: 今年もまた新たなテクノロジー動向”参照)、親父風の冗談とくだらない駄洒落をプレゼンテーションに散りばめるのが常だったが、彼は今年は登場しなかった。

CES 2024 Tech Trends to Watch

講演の進め方が今年は少々変わっていて、若者の消費者市場についての議論から始まった。例年ならば、Tech Trends はまず市場全体に関するスライドを何枚か見せてから個々の分野に入っていたところだ。Z 世代とは、わが国では 11 歳から 26 歳までの合わせて 6900 万人ほど、つまり全人口のおよそ4分の1のアメリカ人を指す言葉だ。当然ながらその世代は他の世代よりもテクノロジーの購入に積極的だと思われるが、その一方で購買力が限られているので、どの程度 Apple Vision Pro に群がることになるのかは疑問の余地が残る。全世界的には Z 世代の 90% が新興市場に属するが、CTA はそれがテクノロジー業界にとって良いか悪いかという点に触れなかった。おそらくは、テクノロジーに興味を持つ新しい世代がオンライン上に増えつつあるのは良いことだが、実際に機器を購入できる財力を持つ人々が市場のどの程度を占めているのかという問題が残る。CES で発表される類いの最新最高の機器であればなおさらだ。

CES 2024 Tech Trends Generational Power

その後で、プレゼンテーションは一歩退いて、全世界で 54 億人の人たちがインターネット上にいるという話題に移った。そこにはスマートフォンでしかインターネットに接続できない人たちも含まれている。2027 年までにその人数はさらに 10 億人増えるだろうという。現在全人口の 65% であり、あと 3 年で 77% に達するということだ。それほどの増加を駆動するものが何かがはっきりしないのでこれは楽観的な観測かもしれない。そうは言っても、全人口の3分の2が現在オンラインにいるのは間違いないだろうし、米国と EU の全人口の 10% 近くがまだオンラインにいないというのは私から見れば驚きだ。

CES 2024 Tech Trends Global Connectivity Acceleration

それからプレゼンテーションは「デジタル基盤構造」の話に移った。今回のプレゼンテーションで CTA 代表者たちは多数の業界用語を持ち出したが、これがその最初のものであった。デジタル基盤構造には情報を伝送するための接続性手法が含まれ、その接続性から「デジタルユーティリティ」が引き出される。デジタルユーティリティとはそのようなネットワークを通って相手方へ転送されるものすべてを意味する。TidBITS もそこに含まれる。ただ、この講演は最先端のものに集中しており、CTA が取り上げたのは人工知能 (AI)、ロボット工学、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティのような長年興味を集めているテーマで、今回は新たに AI を強調することとなった。

高度な接続性手法としては、5G ネットワークの後に来るものを総称する用語である NextG、トースターから農作物センサーまであらゆるものにインターネット接続を追加する Internet of Thingsエッジコンピューティング特定の状況下でセキュリティが高くなる ので Wi-Fi より望ましい可視光線ネットワーキングテクノロジーである Li-Fi などがある。

CES 2024 Tech Trends Digital Infrastructure Evolves

驚くには当たらないが、CTA はこれからのテクノロジー動向を駆動するために核となるものとして AI と持続可能性を考えるべきだとし、過去のテクノロジーと比較して資源依存度が低く、カーボンニュートラルに近く、送電網への負担の低い「グリーンテクノロジー」という用語を作り出した。CTA はこれら2つの駆動要因に加えて「包括性」を挙げているが、他の2つと並べてこれを挙げるにはもっと証拠が必要だという気がする。CTA は包括性が障害のある人のための支援テクノロジーだとしているが、私としては Z 世代や新興市場が直面する経済的障壁を考えていたこともあって、その方面のことも包括性に含めて欲しいものだと思う。CTA は十分なサービスを受けられない市場のための支援テクノロジーの進展を強調しているが、それが全世界的な動向と言えるほどのインパクトを持つものかどうかはまだ見えてこない。

CES 2024 Tech Trends Trends Shaping the World

アメリカ人の 90% もが AI の存在を意識しているが、おそらくその大多数は ChatGPT しか知らないのだろう。ただ、近いうちに私たちが遭遇することになる AI のうちで ChatGPT はほんの小さな一部分に過ぎない。AI は幅広い種類のテクノロジーの中でチップやセンサーに埋め込まれ、テレビにも追加され、一般的にデジタル基盤構造の一部となるだろう。CTA はここで特に Microsoft Copilot の名前を挙げた。これは Microsoft が Windows と Office 365 に追加しつつある AI で、新しく出るコンピュータにはキーボード上にそれ専用のキーが設けられる。Apple は既に専用のファンクションキーを Siri に割り当てており、Siri もそう遠くないうちに私たちが他で目にするようなタイプの生成 AI を搭載するのだろうが、それがいつになるか、実現したとしてそれがどれほど効果を持つものになるかはまだ分からない。

それから AI テクノロジーに対する消費者心理を取り上げた興味深いスライドが示された。AI に関するいくつかの形容を列記して、それぞれについて同意した人たちがどの程度いたかを示したのだ。CTA はその結果を「大多数の人たちは AI に好意的だ」と評したが、私がこのスライドを見て思ったのは完全にまちまちな意見が入り混じっているという感想だった。3分の1以上の人たちが既に AI が "intelligent" (知能を持つ) と答えているのは興味深い。(AI の研究者たちはこの点に関する議論を いつまでも続けている というのに。) また、4分の1の人たちが AI を "helpful" (有用) や "efficient" (有能) だと考えている。その一方で、"unpredictable" (予測できない)、"scary" (怖い)、"impersonal" (非人間的)、"intimidating" (脅威となる) といったキーワードもかなりの数の回答を集めている。それから最後の4つの項目もご覧頂きたい! AI 専門家コミュニティーには賛成者も反対者もいるが、どうやら AI について知識が深まれば深まるほど、AI によって変革されることになる幅広いテクノロジーや社会の側面について意識する度合いが増すようだ。

CES 2024 Tech Trends Decoding Consumer Sentiment on AI

そういう理由によって、4分の3近くの回答者が AI やその実装に対する規制について連邦政府による役割が重要になると考えているのも当然のことだ。具体的にはプライバシー、偽情報、安全性、雇用の喪失などが重大な懸念だ。けれどもここでの問題は、その規制をすべきか否か、するとすればどのような形でするべきかという点にある。

CES 2024 Tech Trends Consumers' AI Concerns

それから CTA は持続可能性の議論に移り、気候や環境に対するテクノロジーの影響についていくつか肯定的な統計数字を示した。グラフェンテクノロジーを使ったバッテリーの進歩により、新しいバッテリーのカーボン消費が 25% 抑えられる。それほど大きなことではないように聞こえるかもしれないが、間もなく到来する電源網の進歩に伴ってバッテリー製造がとてつもなく急増することを考えるべきだ。CTA によれば 2022 年に全世界の発電量の 12% が再生可能エネルギーであったという。まあまあの数字だが、期待したほどではなかったと思う人もいるだろう。(しかしながら、別の情報源によれば再生可能からの発電量が 33% であったとのことで、低い数字は発電量でなく 消費量 だ。) 昨年1年間で 3,260 億ドルが新しいエネルギーのためのテクノロジーに投資されており、水素発電や核融合発電も含まれている。額は大きいけれども、その種のテクノロジーにはまだまだ大きな障壁が存在していて、それを乗り越えた後でなければ (そもそも乗り越えられればだが) 実用化はできない。

CES 2024 Tech Trends Powering a Green Future

CTA は米国において 2035 年までにカーボンフリーの発電ができる見通しがあると主張しており、2050 年までにはカーボンの影響を「正味ゼロ」にできるという。ここで私が「正味ゼロ」を括弧書きにしたのは、専門家によってその言葉の定義がまちまちだからだ。単に排出量がゼロであることを意味するのか、それとも偽りの存在であるかもしれないカーボンオフセットを勘定に入れてのものなのか? いずれにしても、大気に放出されるカーボンの量は少なければ少ないほど良いので、これは良い知らせと言える。だから真の疑問点は、それが どの程度 良い知らせなのかというところだ。地球の気温が少しでも増えれば本物の、巨大な費用のかかる影響がある上に、実際にその影響は相当程度に及ぶと予想されるのだから。

CTA は興味深いテクノロジーのリリースとして3つの例を挙げた。Exeger 社が発表した新製品 Powerfoyle は「粘着テープが太陽電池になったら?」という発想に基づくものだ。Jackery 社が発表した Solar Mars Bot は (火星探査車 Opportunity に着想を得た) 地上の携帯可能ローバーで、折り畳んで持ち運ぶことができ、ウィング部分を広げれば太陽電池で 600 ワットの発電ができる。Midbar 社の Air Farm は空気から湿気を取り込むことで通常の農場で必要な量より最大 99% 少ない水で植物に給水し、どんな場所でも食料を生産できる。

CES 2024 Tech Trends Sustainable Solutions at CES

その後で CTA は CES 会場で展示された包括的テクノロジーの議論に移った。ここでもまた、より一般的な「支援」とか「アクセシビリティ」とかいう用語に代えて「包括的」をここに使う理由が私にはよく分からない。CTA によれば障害のある人たちが世界中に 18 億人いるとのことだが、World Health Organization (世界保健機関) が発表している統計ではそれより 5 億人少ないので高過ぎる数字だと思う。まあ、それは障害の定義によって左右される違いなのかもしれない。いずれにしても、CTA は包括的テクノロジーを持つ会社の収益が 60% 増えたと主張しているので (何に比べての話?)、きっと良い態度は良い業績を生むのだろう。例として示されたのは Garmin 社の Venu 3 スマートウォッチ、これは車椅子と統合されて車椅子を使ったワークアウトを提供する。また EssilorLuxottica 社の Hearable Glasses 試作品は眼鏡の中に補聴器テクノロジーを内蔵している。

そこで紹介されたもう一つの製品、支援テクノロジーとはあまり関係ない気もするが、Umay 社の "Secure Walking Tool" は散歩の予定経路上における最新の安全情報を提供できるアプリのようだ。「女性のため」と宣伝されているが、旅行先で歩くことの多い私にとっては知らない街の中で Google Maps で見つけた近道が歩きやすいかどうか分かるようになればありがたい。

CES 2024 Tech Trends Inclusive Innovation at CES

CTA によれば、女性のための健康テクノロジー市場は 2027 年までに 1.2 兆ドル規模に達するだろうという。ただ、私の Apple Watch SE がそもそも私には存在しない排卵日の追跡を提供しているという事実を見れば、メーカー各社がどうやってジェンダーの照合をしているのかと疑いたくなる。私から見れば、女性が直面する健康上の難問として CTA が挙げているもののいくつかは男性にも等しく当てはまると思う。ただ、医学的な意味での性差別が対処の必要な深刻な問題であることに議論の余地はなく、それはテクノロジーの問題よりもむしろ社会的な問題と言うべきだろう。

CES 2024 Tech Trends Top Health Challenges for US Women

ショウの Digital Health 部門で、CTA は Amira Health 社が出す予定の Terra Sleep システムを紹介した。これは夜間のホットフラッシュを監視して、自動的に冷却パッドを調整することで快適性を高めるというものだ。この会社は更年期に伴う健康上の質問に答える AI システムの Amy も提供している。Abbott 社が発表した Proclaim XR は、慢性の痛みやその他の症状を緩和する目的で外科的に体に埋め込むシステムの一つだ。Healthplus.ai 社の Periscope システムは病院の中で手術後の感染症のリスクを減らすために患者が示すリスクをあらかじめ判定しようというものだ。

CES 2024 Tech Trends Digital Health Innovators at CES

モビリティ関係のニュースとして、CTA は自動車業界の未来は電気自動車と自動運転にあると主張するが、その自動運転に関して少なくとも現時点ではサンフランシスコ市が反対意見を表明している。CES の出席者たちは自動車以外の輸送機関にも電気モーターが組み込まれつつあることを目撃した。例えば大型ボート、スクーター、自転車、そして (これこそ CES のニュースと言うべきだが) 空飛ぶ自動車だ。CTA によれば、EV (電気自動車) テクノロジーのリリースと採用率は人々が EV を運転する価値とみなすもの、例えば環境に対する責任やその他の要因に対して市場がどの程度反応するかに依存するという。実際的に言えば、電気自動車を運転している私の担当編集者によると採用を妨げている主な要因としては価格と、アパートの住人や長距離を旅行する人にとって充電が難問である点があるという。充電ネットワークについては多くの努力が注がれているところではあるが、人々の側でも旧来のガソリンスタンドのイメージから離れて考えを改める必要があるだろう。

CES 2024 Tech Trends Delivering on Consumer EV Value

Kia 社の Platform Beyond Vehicle (PBV) 試作車は根本から考え方を変えている。前提となる考え方は基本車両にモジュラーコンポーネントを加えることで一台の自動車が出来上がるというもので、モジュールを取り替えるだけでライトバンにも、トラックにも、普通の自動車にもなる。Kia 社はこの取り替えが自宅でできるのか、基本車両に複数個のモジュールを揃えることでどの程度のコストがかかるのかという点に関して何も説明していないが、考え方としては素敵だ。Garmin 社の Autoland システムは「願わくはこれが必要とはなりませんように」の部類に属する製品だが、万一操縦士が行動不能になっても (魚を食べてはいけない!) 航空機を無事に着陸させるというものだ。それから、折り畳めば車輪付きの手提げ鞄になる電気スクーターが欲しい人のために、Honda 社が Motocompacto ($995) を出している。[訳者注: 日本では未発売です。]最高速度は時速 15 マイル (24 km)、最大走行距離は 12 マイル (19 lm) で、普通の電源から充電できる。

CES 2024 Tech Trends Evolutions across the Mobility Sector

さて、家に帰れば、家で一番大きいスクリーンを一番スマートなテレビにしたいという欲求が湧く。いくつもの会社が、既存のテレビをホームオートメーションテクノロジーと備え付けカメラのコントロールセンターに変えたり、e-コマースのショッピングセンターに変えたりする試みを出している。(多くの人が待ち望んでいるに違いない。) 加えて、将来のテレビは現存の諸機能を拡張して、インタラクティブなビデオや「ノンリニア」な番組を扱えるようになることだろう。つまり、既存のテレビの上で Choose Your Own Adventure で遊んだり YouTube を観たりできるようになるということだ。懐疑論者と言われても構わないが、そういうことが実現するまでにはスマートテレビを巡るプライバシーの問題がきちんと解決されなければならない。(2023 年 12 月 18 日の記事“スマート TV で自動コンテンツ認識をオフにする方法”参照。) 私はリビングルームを出て真っ暗な寝室へ歩くよりスマートフォンでスマート照明をコントロールできるようになる方を選びたいし、ショッピングは Mac 上で済ませたい。Mac 上では Amazon のスポンサー付き項目に検索を邪魔されないように、Wirecutter を開くことができる。将来の CES では、監修付きの「ショッピング体験」を「許容できる」テレビがきっと出現して、人気のテレビ番組に登場したセーターや特大トートバッグを購入できるようになることだろう。

しかしながら、今回提案された統合方法の一つを大いに気に入る人もいるかもしれない。今は 29 の州とコロンビア特別区でオンラインのスポーツ賭博が合法となっている上に、既にたいていの人がテレビでスポーツを観ているので、試合を観ながらボタンをいくつか押すだけで賭けができるようになれば魅力的に感じる人もいるだろう。料金は高くつくかもしれないが。

CES 2024 Tech Trends Redefining TV as the Intelligent Hub

現実にテレビのメーカー各社が取り組んでいる目標は、人々がテレビを買い替える理由を見つけることだ。たいていの人たちが自宅に置くことが可能な最大サイズのテレビを既に持っている上に、既に 8K TV であるものをそれ以上アップグレードすべき理由もない。それでもなお、将来はいろいろなストリーミングサービスが外国番組や複数言語のコンテンツライブラリを含めて内容を充実させてくることだろう。それはおそらく 2024 年にますます加速するだろうと思える。去年ハリウッドで起こったライターや俳優のストライキの結果としての映画リリース停滞の余波がまだ続くからだ。長年アメリカ人は吹き替えや字幕付きの番組に抵抗を感じてきたけれども、その後はイカゲームも登場したし、Netflix が独自のカンナム・スタイルを出すようになったのだから。

全体的に見て、テクノロジー業界はハードウェアのみの状態からハードウェアが利用するソフトウェアやサービスも提供する状態へと方向転換している最中だと言える。2024 年に予想される米国国内の消費者市場規模 5,120 億ドルのうち 68% がハードウェアから、32% がソフトウェアとサービスから来るものとされている。この点こそまさに、Apple が社外アプリストアのソフトウェア売り上げからも取り分を要求し続けている原因に関係するのかもしれない。ソフトウェアとサービスを駆動する最大の起点はエンターテインメントだ。あなたが持つすべてのスクリーン上で、ゲーミングが大きな部分を占める。

CES 2024 Tech Trends Entertainment Leads Software Spend

プレゼンテーションの結びに、テクノロジーが「人間の安全保障」に力を与えている様子が概観された。農業テクノロジー、スマートコミュニティー (環境配慮型社会)、金融テクノロジーといったものだ。私はこの話題についてもっと知りたいと思ったが、CTA は食品テクノロジーについて、スマートトラクターから smart tractors to a Keurig 風のアイスクリームマシン茹でたての麺を提供する自動販売機と素早く概観したのみであった。(自動販売機の麺を試食してみたいと思ったが、私の住む町から一番近い自動販売機まで 90 分もかかるので、ここはぜひ Adam に Ithaca にある自動販売機を試してもらいたいものだと思う。)

CES 2024 Tech Trends Innovation from Farm to Table

面白いことに、私がダウンロードした最後のスライドはこのようなものだった:

CES 2024 Tech Trends Why CES?

...でも私がプレゼンテーションを聴きながら書き留めたノートにはこのスライドも、その「いったいなぜ CES?」という質問への答も、見当たらなかった。なのでここでは私自身の答を記しておきたい。CES は来たるべき風変わりな、奇抜な、そして見事な消費者向けテクノロジーを目にできる素晴らしい場所であって、たとえ自分が出席できなくても、メディアが伝える CES の記事をぜひ読みたいと思えるものだ。そして、自分が出席できた場合には、今まで通りに TidBITS に関係あるちょっとした情報 (tidbits) を見つけて楽しみたいと思っている。願わくは、2025 年の CES では現地から報告できればと思う。

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TidBITS 監視リスト: Mac アプリのアップデート

Lunar 6.6 Agen Schmitz  訳: Mark Nagata   

Lunar 6.6

Alin Panaitiu がバージョン 6.6 の Lunar をリリースして、Apple の XDR ディスプレイで輝度 1600 ニトのロックを外すための新しいやり方を導入した。今回の拡張により HDR コンテンツの色を切り取ることがなくなり、システムの適応型輝度調整が全領域で動作し利用できるようになった。このディスプレイ輝度制御ユーティリティは今回、Change Screen Preset Shortcut を更新して macOS がロックしているさまざまの機能のロックを外せるようになり、MacBook が Blackout 状態にあっても AirPlay スクリーン上でオーバーレイの減光が動作するようにし、MacBook がワイヤレスディスプレイに接続されていれば自動的に Blackout 用のミラーリング手法を使うようにし、Night Mode のチェックを外した際に確実に無効化されるようにし、Location Services を初期化する際のアプリのハングを修正し、Dark Mode が誤って無効化された問題を解消した。(新規購入 $23、無料アップデート、22.2 MB、リリースノート、macOS 11+)

Lunar 6.6 の使用体験を話し合おう

Mactracker 7.12.14 Agen Schmitz  訳: Mark Nagata   

Mactracker 7.12.14

Ian Page が Mactracker 7.12.14 をリリースして、最近のメジャーな Apple ハードウェアアップデートおよびリリース、特に Apple Vision Pro、visionOS 1、および 1984 年の Macintosh Numeric Keypad に関する詳細情報を組み込んだ。また、Apple の最新の Vintage および Obsolete 製品に対する Support Status を更新した。(Mactracker ウェブサイトからも Mac App Storeからも無料、214.2 MB、リリースノート、macOS 10.12+)

Mactracker 7.12.14 の使用体験を話し合おう