AirTag や同様の Chipolo ONE Spot がどの様に動作するのか見てみよう ("Apple の AirTag、鍵探しの手助けを約束" 20 April 2021, そして "おーい Chipolo! Find My ネットワーク追跡機 ONE Spot 登場" 24 August 2021 参照)。これらの小さな、低出力の Bluetooth に基づいた製品は暗号化された識別子を連続的にブロードキャストし、それは最新のオペレーティングシステムが走る Apple 機器によって最大数百フィートの範囲で検知され得る。この Bluetooth ID は逆追跡されないよう定期的に変更される:静的な ID を使えば、他の人がそのブロードキャスト製品を追跡することを許すことになる。(Apple はこのやり方を、同社と Google が COVID-19 接触追跡を提供するシステムに採用した。)
Internet 接続を持ちそして Find My ネットワークが有効にされた Mac, iPhone, 或いは iPad なら何でも、既知の現在地と Find My 製品に対するパターンに一致する Bluetooth ネットワーク識別子を結合させられる。場所データと Bluetooth ID を組み合わせたものは Apple にアップロードされる。Apple はこれらの位置情報を使ってその機器を特定することは出来ない。と言うのも、その Bluetooth ID 暗号は、iCloud にリンクしたアカウントの一部であるネイティブの Find My アプリにしかそのデータを要求し復号することを許さないからである。全ての AirTag と Find My 製品は一台の iPhone 又は iPad を使ってペア付けされ、そしてそれらの暗号化キーはそのユーザーの他の機器間で共有される。
その小ささ、間欠的な Bluetooth 信号送出、定期的な ID 変更、自動的信号リレー、そして長い電池寿命故に、AirTag はその人に知られることなく誰かを追跡するのに理想的な機器に見えるかも知れない。AirTag が近くにある人に対して注意を呼びかけるために Apple が導入した安全策が無ければ、そうだと言える。私は誰かがアラートされる場合全てを記述した記事を前に書いた - "AirTag があなたと一緒に動いているという警告が出た場合" (4 June 2021) 参照。要約すると:
Android ユーザーで Apple の新しい Tracker Detect アプリをインストールしている人は、近くにある AirTag や Find My 製品を検出するために手動でスキャン出来るが、要求ベースでだけである - iOS や iPadOS の様に背景では出来ない。.
8 から 24 時間の間の不規則な間隔の間、所有者の機器から離れると、Find My 製品は定期的な間隔で大きな音を発する。
これらの安全策には、通知を巡っていじれる余地が未だかなり残っている。"AirTag 追跡をめぐる 13 通りの状況" (15 May 2021) でも書いたように、悪意の人がパートナーの所有する車やバッグの中に追跡器を忍ばせ、そのパートナーの iPhone は Find My ネットワークがオフになっているようにすることも可能である。その車やバッグがそのストーカーの近くに約8時間以内に戻ってくれば、警報音が発せられることは決してない。
望まない追跡の問題は、AirTag の殆どあらゆる側面に関わる不透明さによって悪化している。AirTags や同様の Chipolo ONE Spot Find My 追跡器がこれ迄に何台売れているのか我々は知らない。人々が自分と一緒に移動している追跡器に関して日々受け取るアラートの数も我々は知らない。その内、どれだけが偽検出なのか我々は知らない:偽検出とはある人の近くにたまたまある追跡器がその人には無関係なアラートを誘発する度合いを言う。
最も重要なこととして、どれだけの数の Find My 追跡器が、成人や養育権を持たない子供を、彼らの知識や同意なしで、追跡しようとするために使われているかを我々は知らない。(自分の子供や自分が保護観察権を持つ子供を追跡する問題は、州毎に異なるより複雑な法的問題の領域に入ってしまう。)
Apple AirTag は人々を追跡し、車を盗むことに使われているか?:New York Times のこの目立つ年末記事は、炎よりも煙が目に付くもので、意見を述べるのでは無く疑問を投げかけている。この話は幾つかの実際の事案を取り上げているが、Mary Ford の話も含んでいる、"Cary, N.C. からの 17 才の高校生は... 彼女の母親が約2週間前に彼女の車に追跡器を置いたことを知った時それは脅威では無いことを悟った。母親は娘が何処に居るか知りたかっただけである。"しかし "[Ashley] Estrada は、Los Angeles にいる時にその通知を受け取ったのだが、その後、硬貨大の追跡器が彼女の 2020 Dodge Charger のナンバープレートの裏に仕込まれているのを見つけた。"
この前の 1 月からもう十年も経ったのかという気がしていても無理もないことだとは思うが、実際にはもちろんたった一年しか経っていない。そうしてラスベガスでは、また CES が開催されている。通常通りにこのショウは 2 日間の Media Days で始まり、集まった報道関係者たちに情報がもたらされるのだが、これらのイベントも、またショウの残りのイベントも、“新しい通常”通りに、オンラインのハイブリッド・フォーマットで放送されている。とりわけ去年の CES のオンラインフォーマットに私はがっかりしたし (2021 年 2 月 11 日の記事“CES 2021: マルチポート iPad ケース、MacBook Pro 用 SSD、ビデオ会議用カメラ、自分で運転する飛行機”参照)、今年も仮想の参加となってやはり私は嬉しくない。でも、Omicron COVID-19 の大波がやって来ていること (感染も拡大も望みたくないところだが) と、旅行予定であった週だけで何千ものフライトがキャンセルされていることを考えれば、今年もまたリモートから CES にログインする方が賢明なように思えた。
Media Days の呼び物の一つが Consumer Technology Association による Tech Trends to Watch プレゼンテーションだ。手に負えないほど陽気な調子でコンシューマ向けテクノロジーの良い面だけを押し出そうとするところは予期した通りだが、それでもそこには興味深い数字が含まれている。ただ、今年は部屋の中に吠えない大きな犬が鎮座していた。つまり、今年のプレゼンテーションは私の予想に反して COVID-19 についてほとんど触れなかったのだ。例年通りに CTA の Vice-President of Research である Steve Koenig がプレゼンテーションの壇上に立ったが、彼はほんの数回「パンデミックの季節」という言い方をしたのみだった。それは私には、まるで彼がウェスタロスに住んでいるかのように聞こえた。かの大陸では一つの季節が何年も続き、二年間も閉じこもっては少しだけ外へ出られるようになったりするという... いやいや話を地球上に戻そう。ここではアメリカ人のたった 62% しかフルにワクチンを接種しておらず、ブースター接種を受けたのはたった 21% だ。世界中を見渡せばその数字はそれぞれ 51% と 7% になる。
他の分野でも同じことが言える。今や私は自分が使う Mac アプリのうちのどれが Setapp を通じてライセンスを受けたものであるかなど気にもしなくなっているし (2017 年 1 月 25 日の記事“Setapp、一つの月額料金で数多くの Mac アプリを提供”参照)、その購読が 1 台の Mac で使うことしか認めていないので MacBook Pro から新型 M1 ベース MacBook Air へ乗り換えた際にやむなく短期間そのことを意識したのみであった。この種の不可視性が起これば、つまり、サービスの購読料金が埋没費用と化しサービス自体が本質的に特定のハードウェアに統合されてしまえば、それらの会社にとってはその後も収入が続くことが保証される。
Koenig のプレゼンテーションは拡張現実 (AR) と仮想現実 (VR) の話題に移った。これは毎年繰り返されている CES の話題であり、去年までは両方のテクノロジーを一括りにした XR という用語も使われていた。仮想現実 というのはその言葉の指す通り、ゴーグルや頭部に取り付けるヘッドセットを使い、そこに完全に異なる現実、例えばビデオゲームや、遠い土地にある店舗の中を歩いて回る擬似体験などを呈示するものだ。拡張現実 はそれとは違う。あなたの物理的環境から情報を取り込んで、その上に新しい情報を重ね合わせつつも、あなたの周囲はそのままに見せるのだ。拡張現実の良い実例としては、街を歩きながら道案内の矢印を空中に浮かんだように表示する Google Live Street View や、かつては誰もが持っていて今もなお人気を保っているゲーム Pokémon Go で (下の図にはいるが) 実際の庭にいるはずが ない 生き物がスマートフォンの画面に登場するような使い方がある。
私がこれを厄介なことだと感じるのには2つの理由がある。1つ目は、用語が不正確だからだ。接頭語 "meta" は、その後に続くものが何か他のものであることを意味している。例えば Mac 上のファイルに対するメタデータは、そのファイルの最新の変更日時や、メガバイト単位でのファイルサイズなどを含んでいる。これは、そのデータについてのデータだ。でも、仮想現実はその場の現実についてのものではなくて、一時的にその現実を置き換えるものだ。拡張現実の方はメタデータであり得る。例えば、あなたが居る場所の温度をヘッドアップ表示したりするからだ。でもそれはむしろ、周囲から直接得られたのではない補助的な情報を重ね合わせるオーバーレイデータと言うべきだろう。目の前にあるレストランの名前を表示すればそれはメタデータと考えられるかもしれないが、庭で動き回るポケモンはメタデータではない。
メタデータとオーバーレイデータを区別しようと言うとただ学者ぶっているように聞こえるかもしれないが、メタデータが本質的に補助的なものであるのに対して、オーバーレイデータが本質的に... 本質的であることを考えれば、その違いが奥深いものであると分かる。社会と経済がオーバーレイデータを必要とする拡張現実の体験へと傾斜してゆくにつれて、お金に余裕のない人たちや、アクセスに必要なテクノロジーを使いたくない人たちは取り残されてゆく。皆さんはレストランに入って、テーブルに QR コードが表示され注文がオンラインでしかできないと分かった、というような経験がないだろうか。私の住む地域では、パンデミックへの対応として、料金をチャージしたスマートフォンがなければ外食するのが難しい状況になっているし、過去には純粋に社会的な過程であったところにテクノロジー的な層が加わるようになっている。これこそ、拡張現実が一般的になって高価な機器が必要とされるようになればどんなことが起こり得るかの現実の実例だ。Koenig はメタバースの体験が物理的な現実と“切っても切れない”状態で結び付くと述べた。それは正しいと思うけれども、そのことは双方向に働くだろうと私は思う。もしも周囲にあるはずの拡張現実を見逃せば、社会の中の重要な側面を見逃すことになってしまう。
夢想家のように聞こえたならばお許し願いたいが、私の観点からは、商業的存在の手でコントロールされない公共の空間があるということが、社会にとって決定的に重要だ。インターネットが今日の状態になり得たのは誰もそれを所有していないからであって、だからこそ何千もの会社とオープンソースのプログラマーたちがそこに相互利用可能なサイバースペースを構築し、誰でも他の人たちがそれを拡張したりそこに居住したりできるようになったのだ。私にとって、互いに相互利用可能でないメタバースが複数個林立してそれぞれの知的財産をインスタンス化するような未来は、暗黒の世界だ。パリの Facebook を訪れる体験がパリの Google やパリの Apple とは根本的に異なるものだったとしたらどうだろうか? でもそうなることは十分にあり得る。
人工知能もまた、あまりにも CES の定番となって、Koenig でさえ“例年の”と述べたくらいだ。それでも、コンシューマが AI に何をさせたいと思っているかについての CTA の調査に私は興味を惹かれた。私に言わせれば、ここにデータで示された人々は AI テクノロジーのリスクと利益について全く知識がないのではなかろうか。AI の倫理を扱った Yale 大学のフォーラムに私は何度も出席したが、そこで専門家たちが議論した内容は AI が重要な決定過程において支援する役割のみを持つべきであって、最終的な決定者は人間でなければならないということであった。それなのにこのデータに示された人々の意見を見れば、投資やテロ対策において AI が 助言 でなく 決断 をすることを進んで許そうとしているように見える。(ただ、ショッピングという非常に重要な分野については助言か決断かという区別を重視する人が多いようだ。)
リスク評価の欠落のもう一つの実例の可能性と思われるのが、John Deere 社が新たに発表して注目された See and Spray Select AI テクノロジーだ。農場の農地で雑草のみを見つけてそれをターゲットに農薬散布をすることで、使用する農薬の量を 75% 以上節約できるというものだ。一見すると純然たる成功のように思えるけれども、私はその二次的影響がどの程度研究されたのかに興味を覚える。例えば、日々頼りにして使っているトラクターの修理さえできない農場経営者たちにどんな影響があるかという問題がある。テロ対策のために AI を使って監視と逮捕を実行している国では、知らずにその価値に反する行動をとってしまうこともあり得るだろう。また、これまで買い待ちの姿勢で株の長期保有を続けてきた投資家は、AI を取り入れた途端にデイトレーディングに突入させられて不快な驚きを感じるかもしれない。
HandBrake Team がオープンソースのビデオ変換プログラム HandBrake のバージョン 1.5 をリリースして改善やバグ修正を加えた。今回から macOS 10.13 High Sierra またはそれ以降を要するようになった HandBrake 1.5 は、高効率コアでエンコーディングのプロセスが止まってしまう可能性があった問題を解消し、自動命名が正しく適用されないバグを修正し、キュー情報タブを更新してエンコーディングの平均速度と元のファイルサイズに対するパーセント数を含めるようにし、またフレームマルチパス、ディスプレイおよびコンテンツの光メタデータのマスター、クロマ位置情報など高度な機能を可能にする VideoToolbox API へのネイティブ対応を追加している。このリリースの後間もなくバージョン 1.5.1 が出て、Linux 版と Windows 版での問題を修正した。(無料、35.9 MB、リリースノート、macOS 10.13+)
Microsoft が Office for Mac のバージョン 16.57 をリリースして、M1 ベース Mac へのフル対応を Excel に追加した。Mac 用 Excel の Power Query が Apple silicon プロセッサにネイティブに対応し、Rosetta エミュレータを無効化して Excel を使えるようになった。今回のアップデートで Word、PowerPoint、Excel では Microsoft Information Protection ポリシーで保護された機密書類のスクリーンキャプチャと画面共有が防止されるようになった。さらに、Excel は Power Query を使用してローカル Excel ワークブック、テキスト、CSV ファイルから読み込めるようになり、Word は他の人たちとの共同作業中に切断された場合に書類を最新の変更で自動的に更新するようになった。(一回限りの購入は $149.99、年払い講読オプションは $99.99/$69.99、Microsoft AutoUpdate 経由で無料アップデート、リリースノート、macOS 10.14+)