TidBITS: Apple News for the Rest of Us  TidBITS-J#485/14-Jun-99

米国では夏である。子供たちは学校がお休みということになる。この時間 をプログラミングを教えることに使うのはどうだろう?Matt Neuburg が Stagecast Creator をレビューする。これは子供向けのビジュアルプログ ラミング環境だが大人にも十分楽しめる。そして、Adam は Apple の混乱 させる名前つけ方法に対する代案を提案する。QuickTime 4.0 と、 FileMaker Pro と Synchronize Pro のアップデートのリリースをお伝えす る。最後に、TidBITS がロシア語で読めるようになったことをお知らせす る。

目次:

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MailBITS/14-Jun-99

(翻訳:西村 尚 <hisashin@hotsync.co.jp>)

TidBITS をロシア語で -- Leif Halvard Silli 氏と Zoia Nikolskaia 氏他数名の大変な努力のおかげで、TidBITS がロシア語で読めるようになっ た。現在数号が Web で読め、将来のロシア語版を電子メールで受け取りた い場合は、<tidbits-ru-on@tidbits.com> にメッセージを送ろう。どうか ロシア語を話す Macintosh ユーザーにこのお知らせを広める手助けをして ほしい!また Leif と Zoia は翻訳を手助けしてくれる人を求めているの で、ボランティアに参加したい場合は Web サイトで詳細と連絡先を調べて ほしい。 [ACE]

<http://www.tidbits.com/tb-issues/lang/ru/>

Apple が QuickTime 4.0 を出荷 -- Apple Computer は同社の包括的な プラットフォーム非依存のメディア再生とオーサリングソフトウエアであ る QuickTime 4.0 の最終バージョンをリリースした。QuickTime 4.0 は強 力な技術で、たくさんの圧縮と転送技術とともに、ビデオ、オーディオ、 画像や他のデータ(MPEG、Windows AVI、Photoshop 画像、PNG、FlashPix を含む)で使われる非常に多様なデータ形式をサポートする。QuickTime 4.0 の最も顕著な新機能には、生放送や録音済みオーディオとビデオのよ うなストリーミングメディアが含まれる。Apple はリアルタイムのインター ネットベースのコンテンツへのデジタルメディア制作で、RealNetworks の よくできた RealPlayer と Microsoft の Media Player を打ち負かして、 QuickTime の優勢を押し広げようと考えている。しかし、QuickTime 4.0 の最も目につく新機能は、家電製品を真似て徹底的に再デザインされたプ レイバックとアプリケーションインターフェース周りだ。Apple の QuickTime 4.0 の発表文では、この新型コントロールが“美的”で“直感 的”だと述べている。それにもかかわらず、この改訂されたルック & フィールはヒステリックな批判を受け続けてきている。Isys Information Architect の QuickTime Player インターフェースの評価で、説得力のあ る例をご覧いただきたい。

<http://www.apple.com/quicktime/>
<http://www.real.com/>
<http://www.microsoft.com/windows/mediaplayer/default.asp>
<http://www.iarchitect.com/qtime.htm>

QuickTime 4.0 は Mac OS 版、Windows 版ともインターネットから無料で 入手できる。Mac OS では、QuickTime 4.0 は System 7.1 以上が稼働する 68020 以上のプロセッサを必要とするが、いくつかの機能は PowerPC ベー スのシステム上でしか操作できない。インストーラ自体はわずか 380K だ が、その後にインストールしたい QuickTime コンポーネントのどれかを選 ばなければならない。一般的な選択ではさらに 6 から 15 MB のダウンロー ドデータを必要とする。QuickTime Pro 4.0 は、オーサリング機能、編集 機能、書き出し機能、強化されたプレイバック機能を追加して、Apple か ら 30 ドルで販売されている。以前に QuickTime Pro 3 を購入していれ ば、無償で QuickTime Pro 4.0 にアップグレードできる。 [GD]

<http://www.apple.com/quicktime/download/>

FileMaker Pro 4.1v2 が 4 けた年に対応 -- FileMaker 社は 1.2 MB の FileMaker Pro 4.1v2 へのアップデートを無償でリリースした。これは FileMaker が日付で 2 けた年に対処する方法を強化するものだ。本質的 に、2 けた年を定義しているすべての日付が 4 けた年つきの日付に置き換 えられるようになる。これには、フィールド表示、印刷、検索リクエスト やこのプログラムの他の領域での日付が含まれる。この変更は、FileMaker の日付の取り扱いで FileMaker Pro のユーザーとデベロッパーの間で、特 に 2000 年の接近により混乱を作っていたあいまいさのいくつかを取り除 く助けとなる。(Macintosh の 2000 年問題についての議論は TidBITS-475 の“4 桁の正しい年号に”を参照。)また、このアップデー トは多数のバグと日付関連の取り込み時の問題を修正し、フィールドに入 力する日付、時間、数字の値のより精度の高い有効化オプションを提供す る。FileMaker Pro 4.1v2 アップデータは FileMaker Pro 4.1v1 の Worldwide English 版を取り扱う。ローカライズ版の FileMaker Pro また は FileMaker Pro 4.0 以前の他のバージョンでは動作しない。このように FileMaker Pro 4.1v2 アップデートでは見殺しにされる人もいる。という のは、多くの現存する FileMaker Pro ユーザーは、FileMaker Pro 4.1 で 登場の ODBC 機能がアップグレードに 150 ドル(リベート付き)を支払う 価値がないと思っているからだ。( TidBITS-447 の“FileMaker Pro 4.1 を買えば ODBC も使える”を参照。) [GD]

<http://www.filemaker.com/support/support.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05342>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05091>

Synchronize Pro 4.0 がインターネットを介して同期 -- Qdea 社は Synchronize Pro 4.0 をリリースした。これはインターネットに対応する ようになった同社の極めて強力なシンクロユーティリティへのアップデー トである。(Synchronize Pro の姉妹ユーティリティのレビューは TidBITS-482 の“TidBITS ご用達ツール:Synchronize”を参照。) Synchronize Pro は、TCP/IP を使ってファイルをバックアップ、シンク ロ、ミラーすることができる。結果として、ローカルネットワークの操作 性能が AppleTalk 使用よりも高速になる。ファイルのコピーと差分比較 は、自動化とスケジュール化ができる。また、このユーティリティは AppleTalk Remote Access 接続を開始、終了したり、AppleShare アクセス 権を他のファイルサーバにミラーしたり、コンピュータを終了またはスリー プ状態にすることもできる。Synchronize Pro 4.0 の制限版は 1.8 MB の ダウンロード容量で入手でき、10 MB 以下のフォルダに対して無償で動作 する。このプログラムの無制限のバージョンは 100 ドルの価格である。 [JLC]

<http://www.qdea.com/syncpro.html>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=05403>


Macintosh 製品名の衰退: 名は体を表す

by Adam C. Engst <ace@tidbits.com>
(翻訳:尾高 修一 <shu@pobox.com>)

1993 年末のこと、私は当時増殖の一途をたどっていた Macintosh モデル 群をめぐって Apple 批判を展開した。当時は Performa ライン(多くの場 合は LC ラインと同一モデル)が理解を超える勢いで拡張していた時期で、 モデル名に示された番号が単にわずかに異なるソフトウェアバンドルや異 なる流通経路を示しているに過ぎないことさえあった。私の批判の主旨は、 あまりにもモデルが多すぎることによってテクニカルサポートがそれまで より大幅に難しくなったということだった。ソフトウェアや周辺機器メー カーも同様に被害を被った。というのも、様々なモデル用に微妙に異なる 製品を作り、どの Mac にどのバージョンが必要なのかをなんとかしてユー ザーに伝えなければならなかったからだ。つまるところ、Mac のモデルを 多く発売しすぎることによって Apple は混乱を招いたのであり、混乱とは お金がかかるものなのだ。

<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbser=1142>

だが最近になって、Apple はラインアップを 4 つの製品からなる方程式に 絞り込んだ。Power Macintosh G3 と PowerBook G3 がデスクトップおよび ポータブルのプロフェッショナル向け市場を受け持ち、iMac と待望久しい コンシューマー向けポータブルが消費者向け市場のデスクトップとポータ ブル市場を受け持つ。残念ながら、Apple は単純化しすぎてしまい、その 結果新たな問題を生んでしまったのだ。

一貫性のないシンプルさ -- 1993 年の Apple は、細かくなりすぎる という過ちを犯した。新モデルは、たとえ販売店が Sears から CompUSA になっただけでも、すべてが新しいモデル番号をもらったのだ。Apple は 今度逆の方向に行きすぎ、技術的に大幅に異なるマシンでも同じ名前を付 けるようになってしまっている。Apple も各種マシンの見分け方を記した 記事を Tech Info Library に用意し、事態のややこしさを認めている。

PowerBook G3 を例に挙げよう。1997 年、Apple は PowerBook 3400 に似 た筐体の“PowerBook G3”というマシンをリリースした。続いて 1998 年 に Apple は様々なスピードのプロセッサと様々なスクリーンを擁した PowerBook G3 Series を投入し、これを総称して“PowerBook G3”と名付 けた。1999 年、Apple は USB ポートとブロンズ色のキーボードを備えた マシンにまたもや PowerBook G3 という名前を付け、さらに混乱に拍車を かけた。(このモデルの Apple 公式名称は“PowerBook G3 Series [Bronze Keyboard]”となっている。確かに具体的ではあるが、長ったらしい。)元 祖 PowerBook G3 は PowerBook G3 Series ともブロンズキーボード PowerBook G3 とも異なるメモリモジュールを使用する。それにブロンズ キーボード PowerBook G3 は筐体が薄くなったため以前の PowerBook G3 Series 用のバッテリやメディアベイデバイスを使用することができない。

<http://til.info.apple.com/techinfo.nsf/artnum/n24604>
<http://til.info.apple.com/techinfo.nsf/artnum/n58328>

では iMac の場合はどうだろう。まあこちらは色があるので多少楽ではあ る。元祖のボンダイブルー iMac には実は 2 つのバージョン、Rev A と Rev B があった。Rev B iMac は Mac OS 8.5 と Adobe PageMill が付属 し、ビデオコントローラが変更になり VRAM が増え、それにリセットボタ ンの位置が変わったり最大 RAM 容量が増えるなどのマイナーチェンジが あった。続いて Apple は 5 色の第 2 世代 iMac を発表した。こちらはよ り高速なプロセッサを備え、赤外ポートを取り外している。この iMac は Apple の Tech Info Library の一部で Rev C iMac と呼ばれているが、 Apple のデベロッパー向け Web サイトでは Rev C ではなく iMac 266 で あるとわざわざことわっている。その後、Apple は再度 CPU スピードを上 げただけのモデルを投入している。

<http://developer.apple.com/qa/hw/hw32.html>

最後に Power Macintosh G3 がある。1999 年 1 月以前、Power Macintosh G3 にはデスクトップ、ミニタワー、一体型の 3 つのボディスタイルがあ り、いずれもプラチナ(いわゆるベージュ)のケースに入っていた。続い て Apple は青と白の丸っこいケースに入った全く別物の Power Macintosh G3 をリリースした。見分けるのはもちろん簡単だが、Apple は新モデルを 正式に“青と白の Power Macintosh G3”と呼ぶことにした。最近このライ ンに加えられた変更はプロセッサのスピードアップだけだが、Apple が iMac のように新しい色の筐体を加えたり、さらに悪いことに色を変えずに 中身を大幅に変えたとしたらどうなるだろう? その時“青と白の Power Macintosh G3”とは一体何物になるのだろうか?

<http://til.info.apple.com/techinfo.nsf/artnum/n58203>

小さな提案 -- 状況は悪化の一途をたどっている。同じ名前を持った異 なる Mac の判別方法を Tech Info Library で説明しなければならないと いうのはほとんど狂気の沙汰だ。Apple と Macintosh コミュニティには、 Macintosh のモデルについて語る際に一貫性のある方法が必要なのだ。外 見をくどくど説明したり、購入時期を知っていなければならないなどとい うのは論外だ。そこで私は Apple がソフトウェアに似たナンバリング方式 を採用することを提案したい。

ソフトウェアは頻繁にアップデートされ、バージョンナンバーによって変 更点の相対的重要性が示されるようにできている。メジャーリリースはた とえば 2.0 から 3.0 のように整数のステップアップを伴うことが多い。 多く無償で提供されるようなマイナーアップデートは小数点以下の数字が 増える。たとえば機能面で小規模な変更があった場合には 3.0 から 3.1 になるという具合だ。ここでは 3.1 から 3.1.1 へとなるようなバグフィッ クス系のアップデートはとりあえず無視することにする。

ただ機種の見分けの助けとするために、Apple がこのようなナンバリング 方式を採用したらどうだろう? 筐体やハードウェア互換性に変更が加わる ようなものは整数が増え、マイナーチェンジには小数が増える。したがっ て PowerBook の筐体が変わったり旧モデルとは異なる RAM モジュールを 使用するようになれば、これは整数レベルの変更だ。一方、新 iMac でビ デオコントローラが変わって VRAM が増えたような場合には、小数レベル の変更となる。

この方式でいくと、元祖 PowerBook G3 はバージョン 1.0 の製品となり、 PowerBook G3 Series は 2.0、そしてブロンズキーボード PowerBook G3 は 3.0 となる。筐体やその他の内部仕様が従来モデルから大幅に変更に なっているから整数レベルの変更となるわけだ。

スピードアップの場合は全くバージョンナンバーに変化はない。変わるの はパフォーマンスだけで、システムとしての基本性能や他のソフトウェア やハードウェア製品との互換性という点で変化があるわけではないからだ。 そもそもスピードは表示されていることが多いということもある。そこで、 プラチナの Power Macintosh G3 は 1.0(その中で デスクトップ、ミニタ ワー、一体型と分かれている)、青と白の Power Macintosh G3 は 2.0 と なる。全部合わせると、300 MHz の 青と白の Power Macintosh G3 は Power Macintosh G3 2.0/300 ということになる。

この方式は iMac で断然威力を発揮する。Rev A のボンダイブルー iMac は 1.0、Rev B ボンダイブルー iMac は 1.1 になり、5 色の iMac もマイ ナーチェンジしかなかったので 1.2 となる。

シンプル一徹 -- このシステムはマーケティングに使われるべきではな い。バージョンナンバーはマシンの背後か下部にステッカーで表示される だけにすべきで、ケースデザインやマーケティング資料に取り入れるべき ものではない。数字は必ず順番通りに並ばなければならない。ソフトウェ アだと、マーケティングを意識してバージョンナンバーをとばしてしまう 企業が多い。あるアップグレードが、整数レベルの変更はないものの新機 能をそこそこに取り入れていることを顕示しようとするからだ。ここで提 案しているハードウェアのバージョンナンバーは単に RAM を買ったりテク ニカルサポートを求めたりするためだけのためにあるので、Apple がこう した番号をマーケティングのためにもてあそぶ理由はないはずだ。

既存の似たような名前の Macintosh たちが起こした混乱を正すにはもう遅 いかもしれないが、Apple が早く対処してくれれば問題の悪化を防ぐこと はできるだろう。目立つような新機能を持たない新 Mac がリリースされる たびにこの問題は悪化する。もし Apple が対策を講じなかったら、私が次 に書く本の題は『Macintosh の見分け方: 実践編』になるだろう。


Stagecast ワールドへようこそ

by Matt Neuburg <matt@tidbits.com>
(翻訳:尾高 里華子 <rikako@pobox.com>)

3 年ほど前 Apple の懐が実に心もとなかった頃、できる社員の大量解雇や 彼らが取り組んでいた長期プロジェクトの中止といった一連の緊縮措置が とられた。Dylan プログラム言語、OpenDoc、ScriptX の様な先進的ではあ るが誕生前であったテクノロジーは世に出る前に葬り去られた。子供向け のシンプルなアニメーションゲーム作成ソフト Cocoa もその犠牲となっ た。Cocoa でできることも素晴らしかったが、Prograph で書かれていると いうこともまた素晴らしかった。これは Cocoa ならではのビジュアルアプ ローチとも一致するビジュアルプログラミング言語である。Cocoa はもと もと(もう一つの悲劇)Apple 独自の Sk8 オーサリング環境で KidSim と して生まれていたのだ。

<http://macweek.zdnet.com/mw_1003/news_atg.html>
<http://developer.apple.com/devnews/devnews071197.html#tool>
<http://db.tidbits.com/getbits.acgi?tbart=01160>

Apple は Macworld Expo の基調講演で Cocoa を鼻高々に発表し、Cocoa ベースの Web サイトで果敢にもビジネスに打ってでた若者たちもいた。そ の後次第に音沙汰が無くなったが、Cocoa は死んではいなかった。いや、 眠ってさえもいなかったのだ。その生みの親達(デモによるプログラミン グを長年提唱していている Allen Cypher 氏とアイコンやダイアログボッ クスを筆頭に数々のものを世に送り出した David Smith 氏)の手で変態を 遂げていた。Cocoa はかつての Apple 主任研究員 Larry Tesler 氏率いる 新有限会社で、クロスプラットフォームで Java ベースの Stagecast Creator という蝶に生まれ変わった。

<http://www.stagecast.com/>
<http://www.stagecast.com/subpage/found.htm>

ステージ作り -- まず、マス目が見えなくなっている方眼紙があると考 えていただきたい。大きさや数字は何でもよいのだが、仮に一マスが 36 x 36 ピクセルの正方形で、縦方向に 10 マス、横方向に 15 マスあるとし よう。この方眼紙に GIF または JPEG 画像をインポートしたものをバック グラウンドとして貼り付ける。これでアニメーションを動かす舞台の出来 上がりだ。

次にこのアニメーションに登場してもらうキャラクターだが、これは四角 でペイントウインドウで編集可能だ。この四角の大きさはステージのマス の倍数でなければならず、普通のキャラクタは一マスと同一サイズになる。 つまり、我々のキャラクターは 36 x 36 ピクセルになる。そのキャラク ターにペイントを施して、ステージの一マスに配置する。するとバックグ ラウンドの前に自動的にかぶさる形で描かれる(キャラクターのいるマス でもキャラクターの輪郭外の部分にはバックグラウンドが現れる)。

さてアニメの連続するコマのようにアニメーションを作り上げよう。決まっ た間隔で時計の針が刻まれ、ステージ上のキャラクターのリクエスト(ど ういうふうに描き換えてもらいたいか)にしがたい次のコマが作られる。 たとえば、現在いるマスの右隣のマスに描き換えてもらいたいというリク エストだとしよう。これが何コマ分か連続して起こると、そのキャラクター は右に動いていったことになる。また、各キャラクターは自分用の画像 (または「Appearance」)を何枚か持っているので、その画像を変更した いというリクエストを出す場合もあるだろう。具体的に言うと、あるキャ ラクターが左足を前に出して顔を右に向けている図と、右足を前に出して 顔をやはり右に向けている図ああるとすると、その 2 枚を交互に連続して 描き直し続けるとそのキャラクタは右に向かって歩いているように見える だろう。

アニメーションのルール -- ここまでは、パターンを描き換えるアニメー ションの原理の説明である。しかし、Stagecast の特徴はアニメーション を動かした時にキャラクターに何をするかを伝える方法である。実際にあ てはめたいルールを行って、それに従ってもらう。「Rule tool」を選択し てからステージにいるキャラクターをクリックするとそのキャラクターの 周りに特殊な枠がかかる。その枠を引っ張ってキャラクターに関連するエ リアを示し、そこにキャラクターを動かすことにより何をするのかを示す。 たとえば、キャラクターが右に移動するように指示するためには、そのルー ル用の枠を引っ張ると、キャラクターと右に移動するための空のマスがそ の枠内に入る。そしてキャラクターをその右のマスに移動させる。アニメー ションを動かすと、そのキャラクターはこの動きを自分で実行する。

ルールの一つ一つに絡み合った条件が含まれていればアニメーションは面 白くなる。キャラクターが右に移動するだけの単純な動きをする場合にお いてもだ。キャラクターはその時の自分の Appearance を覚えており、そ の図と右にあるマスが空になるという 2 つの条件がそろった時に初めて行 動する。キャラクター B がいるマスにキャラクター A を右移動させたい 場合はまた別のルールを教えなければならない。A と B を並べておいてそ の両方がルール用の枠内に入るようにする。これでキャラクター A はこの ルールはキャラクター B が係わっているものだと知る。アニメーションを 作り上げるには、キャラクター一つに対し状況ごとにいくつものルールが 必要になる。キャラクターは描くルールの条件を順に試していき、条件と 状況が最初にマッチしたルールに従う。アニメーションを作り上げる秘訣 は、すべてのキャラクターに正しいルールを正しい順序で渡すことだ。そ うしなければ、すべてのキャラクターが正確に動作してくれない。

ルール作りはもっと奥が深いし、もっといろいろなことができる。他のキャ ラクターを登場させたり消したり、音を出したり、バックグラウンドの絵 を換えたり、ユーザーの行うキー操作やマウスのクリックに反応させるこ ともできる。キャラクターに変数部を持たせることもでき、変数を変更し たり、ルールの条件として変数を見に行くこともできる。

キャラクターにルールを教えてそれを調整することはプログラミングであ る。ビジュアルな言語によるプログラミングだ。小さなアニメワールドの 枠に囲まれた中だけではあるが、プログラミングである。また、キャラク ターは個々のルールを持っているので、キャラクターをコピーするとそれ らは同じルールを共有することになり、オブジェクト指向のプログラミン グを行ったことになる。つまり、Stagecast によりあらゆる年齢の子供た ちは、簡単に想像の楽しみを味わったり、アニメの世界に身をゆだねたり しながら、プログラミングの基礎を身に付けることができる。

キャラクターを極める -- これは真実であり、私が StageCast を子供た ちに見せたら、あっという間に基礎を習得してしまった。子供たちはキャ ラクターがどんなに単純であろうと楽しみながらそれを作り出し動かす。 デモを行いながらキャラクターにルールを教えるのは難しいことではない。 Stagecast に付属している素晴らしく楽しいアニメーション(ヘリから降 りてきてシャッターを切りまくるツーリストに囲まれたジャングルに住む 少年 Bungee には誰もが心奪われてしまうだろう)のよくできたインター ラクティブ・オンライン・チュートリアル付きのドキュメント類は実に充 実していてる。また、紙のマニュアルは簡単な言葉を使い大きな文字で印 刷されているし、ゼロからアニメーションを作る際の助けとなってくれる 作成用キットも用意されている。チュートリアルを参考にして、同梱のサ ンプル集を利用すれば、自分で絵を描くまでもなく簡単にオリジナルのア ニメーションを作り上げることができる。だから、簡単に始められて、そ の気にになり深みにはまっていく。そしていつでも楽しい。

深みにはまっていくというのは、Stagecast プログラミング言語の階段を 上り詰めていくということだ。特に、基本的なアルゴリズムはキャラクター がコマごと最初に条件に合ったルールを実行するというもので制約が多い。 そこで、Stagecast では他のアルゴリズムに従う“ボックス”にルールを 結びつけることができるようになっている。ボックスは実行する前にルー ルを組み替えたり、連続してすべてのルールを実行したり、コマが変わる たびにルールを一つずつ実行するようにしたりできる。ボックスの中で幾 つかのボックスを組み合わせたりすると、高度なアルゴリズムを作り上げ ることができる。キャラクターの動きをデバッグするのは簡単だ。 Stagecast にはテストモードが付いており、赤や緑のライトやマスが現れ、 今どのルールに従っているかとその理由を実際に目で見ることができるよ うになっている。

Stagecast プログラミング言語がいかに優れているか筆舌に尽くしがたい ほどであるが、それでもこの言語はコンストラクトに限界があり、その制 限内でプログラミングしなければならない。一例を挙げると、“or”のよ うな初歩的な概念を表現する術が無い。そのため、それぞれの状況に応じ たルールを別々に作らなければならず面倒であるうえに、その“or”が巨 大な“and”のセットの一部だったりしたらそれこそとんでもないことにな る。そのため、製作者自身が賢くならなければならない。望んでいる成果 を得るために技と時間が必要な時があるだろう。若者は苛々してしまった り、邪道なプログラムの仕方を身に付けてしまうのではと気掛かりである。 また、Stagecast プログラミング環境の生い立ち上仕方のないことではあ るが、欠点がある。ルールはボックスやいくつもの条件が絡み合うに従い 複雑になってくるので、画面上で上で画像を動かしていて自分が何をして いるのか分からなくなってしまう。

泣き所 -- ちょこちょこと顔を出してしまうこの先天的な器量の悪さは、 Java アプリケーション故の Stagecast 最大の弱みである。もっともその おかげで、Stagecast は Windows でも Mac でもそしてインターネット上 でさえも全く同じように動くのだが、これでは何のための Mac なのだか。 まず、大きなウインドウが一つあり、ことはすべてその上で行われる。だ から、このウインドウは大きければ大きいほどよいわけで、800 x 600 の モニタでは気持ち良く Stagecast を使うには役不足だろう。Stagecast の メニューはそのウインドウ内に現れるのだが、これが使いづらい理由の最 たるところだ(私は間違えて通常の Mac のメニューバーを使用したために マシンをクラッシュさせてしまった)。Stagecast はこの大きなウインド ウ内にさらに疑似(または「子」)ウインドウを描く。全く Virtual PC を使っているような気分になる。あるウインドウ内に置かれた別のマシン を操作しているのと同じことなのだから。

シミュレーションというものは決して速いものではない。アニメーション としてはちゃんときびきび動くが、私の最速マシン 250 MHz Power Mac G3 では起動、終了、ウインドウを開く、(そして最悪だった)ウインドウの ドラッグといったアクションがあまりにも遅くマシンがハングしたのでは と思ってしまった。子供たちのマシンは最高速の G3 といことはあまりな く、お下がりだったりする場合が多いので、パフォーマンスの問題はとり わけ危惧される。

シミュレーションは気分の問題だけではなく、馴染みのないインターフェー スも問題になってくる。スクロールバーが付いていない逆を指したスクロー ル用の矢印、ウインドウの一部を出したり隠したりする四角タブ、ウイン ドウのサイズ変更をする時にドラッグする色の付いたコーナーなどが不細 工だったり、がさつだったり、クリックするには小さすぎたりする。文字 も小さすぎる。キーボードショートカットがあまりないので、ほとんどす べてはクリックやドラッグで行わなければならない。Java を採用した理由 は頭で分かっているものの、どうも好きになれない。

それでも Stagecast が魅力的なものであるには変わらないと感じている。 このプログラムは教育向けでありかつ引きつけるものを持っている。メー カー側のうたい文句は創造性と独創性だ。プログラムすることと遊ぶこと が実にうまく混ざり合っていて、子供たちはみんな夢中になってしまうだ ろう。私はアニメーションを作っていて楽しかったし、それで遊んだりた だ眺めるのもまた楽しんだ。きっと皆さんも同じであろう。Stagecast Creator を購入しなくても、2 MB のダウンロードで手に入る無償の Stagecast Player で Stagecast アニメーションを動かすことができるし、 ブラウザーで眺めることだってできる。ただし Macintosh ユーザーは Internet Explorer でしか利用できない Apple's Macintosh Runtime for Java(MRJ)2.1 を使わなければならないが。アニメーションのサンプルも ダウンロードできる。私もプログラムに付いてくるものを組み合わせて 「Beachdog」という作品を作ってポストした。(350K もあるので辛抱して ダウンロードしていただきたい。)

<http://www.stagecast.com/worlds/>
<http://www.jetlink.net/~mattn/downloads/beachdog.html>
<http://www.apple.com/java/>

Mac 版 Windows 版の両方が入った Stagecast Creator CD の小売り価格は 60 ドルである。インストールには 35 MB プラス MRJ 用に 11 MB の空き ディスクが必要となる。動作環境は PowerPC ベースのシステムのみで、Mac OS 8.1 以降を載せた高速マシンが推奨されている。お試し版がダウンロー ドできるようになっている。

<http://www.stagecast.com/subpage/down.htm>


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