M3 チップファミリーで MacBook Pro と 24 インチ iMac のパフォーマンスが向上
不気味なハロウィーン風のエフェクトとともに夜の暗い部屋を舞台として、あらかじめ録画してあった Apple の Scary Fast 製品発表ビデオが、最新の Apple silicon である M3、M3 Pro、M3 Max と、それらのチップを搭載した初めての Mac である 14 インチおよび 16 インチ MacBook Pro と 24 インチ iMac をお披露目した。Apple はカレンダーイベントを 2 時間と設定していたが、プレゼンテーションはたった 30 分間しか続かなかった。実際にニュースと言える内容はと言えば「より高速になった Apple チップがほんの少しだけアップデートされた Mac を駆動する」とごく短くまとめることができる。
新型の Mac はすべて現在注文受付中で出荷日は 2023 年 11 月 7 日からとなっているが、M3 Max 搭載モデルの MacBook Pro だけは例外で 11 月後半に出荷が始まる。
iPhone で撮影
プレゼンテーション自体は大体において明快なものであった。セットの飾り付けとして骸骨や髑髏がいくつか置かれていたかもしれないが。残念ながら Apple のプレゼンターたちの誰もハロウィーンっぽい衣装を着ていなかった。それっぽく感じられたのは、Apple の Hardware Technologies 担当 SVP の Johny Srouji が暗闇から登場して、訛りのある英語で "Welcome to my lab" と語り始めたところ、それと Hardware Engineering 担当 VP の Kate Bergeron が M3 Max を「完全なモンスター」と形容したところくらいだった。
この Scary Fast 映像を締めくくるクレジット部分に、Apple は「iPhone で撮影し、Mac で編集しました」と記した。当初私はそれに気付いたけれども特に気にはしなかった。それが私の心に響いたのは、Apple が撮影の舞台裏を紹介した記事を公開して、$20,000 もするビデオカメラを使わずすべてを一台の iPhone 15 Pro Max で撮影したと説明したのを見てからだった。(奇妙なことに、Apple は当初この記事で触れていた $20,000 という記述をアップデート後の記事で削除してしまった。)[訳者注: Apple の日本語記事では最初から金額に一切触れていません。]
Apple は iPhone のカメラが素晴らしいのでこのようなプロフェッショナルの状況でも使えると語っているが、私はその点で考えを決めかねている。一方では、コンシューマレベルのスマートフォンが $20,000 もするカメラの代わりに使えるという点は信じられないほど素晴らしいことだし、映像を見ても誰もその違いに気付かないだろうと思う。iPhone 15 Pro Max の画質は、このような暗い照明条件の下でさえもその種の高価なカメラに対抗できるのだろう。
けれどもその一方で、舞台裏記事を読めば Apple が制作したレベルの画質を得るためには受賞歴のあるディレクターと、ハリウッドの第一線で活躍している社内専門家たちと、大人数のスタッフたちと、クレーンや台車やドローンや、カスタム SpaceCam リグと呼ばれていたものなど、さまざまの装備も必要になることは明白だ。その上それは、ビデオ映像が撮影後編集を専門とする会社へ送られる前の話だ。もちろん Apple はそんなことを口に出さないが、事情通の友人に聞いたところではこれらすべてに7桁の下の方の (百万ドルを超える) 予算がかかっただろうとのことだ。Apple ならそのくらいは出せるのだろうが、その他の私たちにとって iPhone 一台だけでそれに匹敵する品質のものを作るのは、当然、無理だ。
だって、私が iPhone 15 Pro を手に持って目の前を高速で走っているランナーを撮ろうとしても、鮮明な写真を撮ることさえできないのだから。
M3、M3 Pro、および M3 Max
Johny Srouji は 30 分のうち 8 分を与えられて新しい M3 ファミリーのチップを紹介した。これらはパーソナルコンピュータ用のチップとしては初めて、新しい 3 ナノメートルプロセスを使って作られている。(iPhone 15 Pro を駆動する A17 Pro も 3 ナノメートルチップだ。) 数が小さくなった (これまでの M シリーズチップは 5 ナノメートルプロセスを使っていた) のは微細化と速度向上と消費電力低減とを示すけれども、この数字は基本的にブランド名に過ぎず、合意の下に何かを測定した値ではない。
M3 ファミリーのチップは 3 ナノメートルプロセス以外にも、Dynamic Caching という新しいテクニックを使う新世代の GPU を搭載しており、GPU がタスクの中の最も集約的な部分が要求する量のメモリをあらかじめ確保する代わりに、Dynamic Caching がいつでもその瞬間に必要とする量のメモリのみを使うようになる。この新しい GPU はまた、ハードウェア加速されたレイトレーシング (よりリアルな陰影と反射を提供する) と、ハードウェア加速されたメッシュシェーディング (ジオメトリ処理を改良してよりリアルなシーンを表現できる) も備えている。Apple によればレンダリング速度が M2 ファミリーのチップに比べて 1.8 倍、M1 ファミリーに比べて 2.5 倍になったという。
CPU も高速化された。Apple silicon がプロセッサ負荷の高いタスクに使う高性能コアと、電力の節約の方が重要な状況で使う高効率コアを使い分けていることを思い出そう。M3 の高性能コアは M2 に比べて 15%、M1 に比べて 30% 高速となり、M3 の高効率コアは M2 に比べて 30%、M1 に比べて 50% 高速となった。実際、M3 の CPU と GPU はいずれも M1 の CPU と GPU と同程度のパフォーマンスを半分の電力消費で実現できる。M3 の Neural Engine は M2 に比べて 15%、M1 に比べて 60% 高速で機械学習のタスクを実行できる。
チップごとの比較をすると:
- M3 は 8 コアの CPU (高性能 4、高効率 4)、10 コアの GPU を持ち、最大 24 GB のメモリを備える。Apple によれば CPU は M2 に比べて最大 20%、M1 に比べて 35% 高速で、GPU は M2 に比べて最大 20%、M1 に比べて 65% 高速だという。廉価版の 8 コア GPU 版も少し値段を下げて販売される。(廉価版は僅かの欠陥を持ったチップを使っており、生産量を増しつつ魅力的な価格を提供できる。)
- M3 Pro は 12 コアの CPU (高性能 6、高効率 6)、18 コアの GPU を持ち、最大 36 GB のメモリを備える。Apple によれば CPU は M1 Pro に比べて最大 20% 高速だとのことだが、私が思うにそれはつまり M2 Pro とほぼ同等なのだろう。Apple はそのあたりをあまり詳しく語ろうとしない。GPU は M1 Pro に比べて最大 40% 高速だが、M2 Pro に比べればたった 10% 高速なだけだ。それとは別に 11 コア CPU、14 コア GPU の廉価版もある。
- M3 Max は 16 コアの CPU (高性能 12、高効率 4)、40 コアの GPU を持ち、最大 128 GB のメモリを備える。CPU は従来のものに比べて大幅に進化しており、Apple によれば M2 Max に比べて 50% 高速、M1 Max に比べて 80% 高速だという。GPU の性能も同じように、M2 Max に比べて 20%、M1 Max に比べて 50% 向上している。廉価版は 14 コアの CPU と 30 コアの GPU を持つ。
これらの違いを見れば、M2 Pro との実際の違いがあまりパッとしない理由も納得できるかもしれない。3つの世代の 16 インチ MacBook Pro でチップを比較した下のスクリーンショットをご覧頂きたい:
- M3 Pro の CPU は高性能コア 6 個と高効率コア 6 個だが、M2 Pro の CPU は高性能コア 8 個と高効率コア 4 個だ。
- M3 Pro のメモリバンド幅はたった 150 GB/秒だが、前世代では 200 GB/秒だ。
- 新しい GPU にはハードウェア加速されたレイトレーシングとメッシュシェーディングがあるが、コアの個数は M2 Pro に比べて 19 から 18 に減った。.
M3 を M2 と比較するとその種の奇妙なところはないが、M3 Max を M2 Max と比較すると一つだけ奇妙なところがある。下のスクリーンショットでご覧の通り、メモリバンド幅が「最大 400 GB/秒」となっているのだ。そこで MacBook Pro の仕様ページを見てみると、廉価版の M3 Max が 14 コアの CPU と 30 コアの GPU でメモリバンド幅がたった 300 GB/秒となっていた。
どうやらここでの教訓は、既に M2 搭載の Mac を持っている人たち、とりわけ M2 Pro モデルを持っている人たちは、M3 モデルにアップグレードしてもあまり大きなパフォーマンスの向上を得られないかもしれないということのようだ。M1 チップとの間にはそれよりもっと大幅な進歩がある。
Apple は噂されている M3 Ultra については何も語らなかったが、これは来年になって最上級機種の Mac Studio と Mac Pro に搭載されて登場すると推測できるだろう。実際のベンチマークが届くまでの間は M3 Max と M2 Ultra の間にどれくらいの違いがあるのかを語ることはできないが、思い切って予想を述べれば M2 Ultra は CPU コア (16 を 24 へ) と GPU コア (40 から 76 へ) を増やしメモリを (400 GB/秒から 800 GB/秒へ) 高速化することでパフォーマンスの王座を維持するのではなかろうか。
14 インチおよび 16 インチ MacBook Pro
M3 ファミリーを利用する最初の Mac が 14 インチと 16 インチの MacBook Pro だ。M3 チップを搭載していることを別にすれば、他の変更点はたった3つだ:
- スクリーン: Liquid Retina XDR スクリーンは SDR モードでより明るく、最大 500 ニトから最大 600 ニトに変わった。(HDR コンテンツでの XDR 輝度は従来と変わらず、周囲の温度が摂氏 25 度を超えない限り 1000 ニトの持続輝度と 1600 ニトのピーク輝度だ。)
- バッテリー: M3 14 インチ MacBook Pro は同じ 70 ワット時のバッテリーだが、バッテリーの予想寿命が長くなった。おそらく M3 で効率が良くなったからだろう。M3 Pro 14 インチ MacBook Pro は、従来の M2 Pro と同等のバッテリー寿命を少し大きくなった 72.4 ワット時のバッテリーで実現する。
- カラー: M3 Pro と M3 Max のモデルは、シルバーと新しいスペースブラックの仕上げから選べる。M3 14 インチ MacBook Pro はシルバーとスペースグレイから選べる。
Apple は 14 インチ MacBook Pro のオプションを拡張しており、3つの構成のうちから選べるようになった。CPU と GPU のオプションは対になっていてメモリの選択肢もそれに制約されるが、ストレージ容量とは結び付いていない。
- M3 は $1599 から: 8 コア CPU、10 コア GPU、8 GB メモリ、512 GB ストレージ。メモリは 16 GB にでき (おそらくそうすべきだろう)、24 GB にすることも可能。このモデルは 2 基の Thunderbolt/USB 4 ポートしか持たず、 1 台の外付けディスプレイにしか対応しない。
- M3 Pro は $1999 から: 2つのオプションがある。11 または 12 コア CPU、14 または 18 コア GPU、18 GB または 36 GB メモリだ。これらのモデルは 3 基の Thunderbolt/USB 4 ポートを持ち、1 台または 2 台の外付けディスプレイに対応する。
- M3 Max は $3199 から: この最大の構成にも2つのオプションがある。14 または 16 コア CPU、30 または 40 コア GPU、36 GB メモリで、メモリは 96 GB にアップグレード可能だ。これらのモデルにも 3 基の Thunderbolt/USB 4 ポートが付くが、最大 4 台の外付けディスプレイを駆動できる。
16 インチ MacBook Pro には M3 Pro と M3 Max の構成しかない:
- M3 Pro は $2899 から: ここにはオプションが1つだけで、14 インチ M3 Pro の上位構成と同じく 12 コア CPU、18 コア GPU、36 GB メモリだ。
- M3 Max は $3499 から: オプションは2つで、14 または 16 コア CPU、30 または 40 コア GPU だ。下位構成は 36 GB メモリで 96 GB にアップグレード可能、上位構成は 48 GB メモリで 64 GB または 128 GB にアップグレード可能だ。
ストレージは M3 14 インチモデルでのみ 512 GB から、それ以外のモデルでは 1 TB からで、2 TB、4 TB、8 TB のオプションもある。
ある意味最も興味深い新モデルは M3 14 インチ MacBook Pro だろう。これは長年シリーズの中で意味を成さない存在であり続けた従来の Touch Bar 搭載 M2 13 インチ MacBook Pro を置き換えるものという位置付けだ。この 13 インチ MacBook Pro の問題点は、それと同程度のパフォーマンスを 13 インチ MacBook Air がより安い価格とより軽量のパッケージで提供してきたところにあった。
しかしながらこの M3 14 インチ MacBook Pro は、M3 Pro や M3 Max のモデルと比較すると2つの重大な難点を持つ。M1 や M2 チップ搭載モデルと同様、この M3 モデルはたった 2 基の Thunderbolt/USB 4 ポートしか持たない。(ただし 14 インチ MacBook Pro は MagSafe ポートを持つので 2 基のいずれも電源に使う必要はない。) これに対して Pro や Max の MacBook Pro にはすべて 3 基のポートが付く。それから、M3 14 インチ MacBook Pro は外付けディスプレイを 1 台しか駆動できないが、M3 Pro モデルは 1 台または 2 台、M3 Max モデルは最大 4 台を駆動できる。
すべてを考え合わせると、M2 MacBook Air よりも強力なパワーを望む人にとっての選択肢は2つだ。M3 14 インチ MacBook Pro (8 コア CPU、10 コア GPU) に 16 GB メモリ (本気で言うが、8 GB では使い物にならない) のモデルを $1799 で購入するか、あるいは入門モデルの M3 Pro 14 インチ MacBook Pro (11 コア CPU、14 コア GPU) に標準搭載の 18 GB メモリのモデルを $1999 で購入するかだ。たった $200 余分に出すだけで、パフォーマンスとメモリに余裕が生まれ、Thunderbolt/USB 4 ポートも 1 基増え、2 台の外付けディスプレイに対応するようになる。あるいは、素早く行動できさえすれば、極めて同等に近いと言える M2 Pro 14 インチ MacBook Pro を今なら品切れになる前に値引き価格で手に入れられるかもしれない。
これらの MacBook Pro モデルのプレスリリースの中で、Apple はさまざまな観点からこれらのモデルと Intel ベースの MacBook Pro モデルとの間の比較もしてみせた。当然のことだが、Intel ベースのモデルはローエンドの M3 14 インチ MacBook Pro に比べてさえ結果は芳しくなく、M3 Pro や M3 Max のモデルとは雲泥の差があった。私の印象では、Apple は Intel ベースの Mac を使っている人たちにアップグレードを促すことで、おそらく 2025 年には到来すると思われる Intel ベース Mac で走る macOS の開発を Apple が終了する日に不満を感じる人の数を少しでも減らしておこうとしているのではないかという気がする。
24 インチ iMac
新型の M3 24 インチ iMac について語るべきことはあまりない。従来のモデルとの違いは M3 チップのみであり、引き続き 8 コア CPU を搭載するが今回は GPU が 8 コアと 10 コアで選べるようになった。10 コア GPU にすることでゲーミングやビデオの作業に多少は違いが生まれるかもしれない。メモリは引き続き 8 GB が標準だが、16 GB (良い選択) または 24 GB (たいていの人にとっておそらく不要) にアップグレードできる。ストレージ容量も引き続き 256 GB からで、今どき (とりわけ写真やビデオをたくさん撮影する人には) このままでは十分でないだろうから、構成により 512 GB、1 TB、または 2 TB にアップグレードできる。また、M3 モデルには Wi-Fi 6E と Bluetooth 5.3、つまり M1 モデルより少し新しいバージョンのワイヤレス機能が付く。
それ以外のことはすべて従来通りであり、価格も $1299 からで従来と変わらない。Thunderbolt/USB 4 ポート 2 基しかないモデルとそれに USB 3 ポート 2 基が追加されるモデルの2つしか選択肢がないという奇妙な状況も、2 ポートモデルでは色の選択肢が減る (イエロー、オレンジ、パープルが選べなくなる) ことも、2 ポートモデルでは Touch ID 非対応のキーボードしか付属しないことも、何も変わっていない。私としては $50 余分に出して Touch ID キーボードを入手することをお勧めしたい。
発表で一切触れられなかったのは Magic Keyboard、Magic Trackpad、および Magic Mouse の USB-C 版が出るのか否かという点だ。これらのアクセサリーは引き続き Lightning コネクタを使っており、充電用に USB-C to Lightning ケーブルが同梱される。これらはいずれ USB-C にアップデートされるのだろうとは思うが、ひょっとするとそれは次に Mac mini か Mac Studio がリリースされるタイミングに合わせて出るのかもしれない。
言うまでもなく、Apple は Mac Studio と 27 インチ Studio Display の組み合わせで置き換えられた後も人気を保っている 27 インチ iMac の後継機種を考慮しているのか否かについて何も暗示すらしなかった。私は新しい 24 インチ iMac の 4.5K Retina ディスプレイを見事な出来栄えだと思ったが (2022 年 11 月 11 日の記事“Apple Store を訪れる: 直接見て触って感じる印象の値打ち”参照)、これもやはり中途半端なサイズのスクリーンなので第二のディスプレイとマッチさせるのが困難だろう。32 インチの iMac Pro が出るのではないかという憶測もあるけれども、32 インチ Pro Display XDR がディスプレイのみで $4999 という価格であることを考えれば、たとえ M2 Pro Mac mini レベルのものを内蔵したとしても手頃な価格には到底なり得ない。だから、ここでは複数の Mac を長生きさせるため外付けディスプレイとして使うことの有用さを再認識すべきなのかもしれない。もしも私の 27 インチ iMac を外付けディスプレイとして使えるようになったなら嬉しいのにとは思うが、そのためにハードウェアをいじり回す羽目になるのはやはり気が進まない。
個人的に、私はこのままもう少し自分の M1 13 インチ MacBook Air と 2020 年型 27 インチ iMac を使い続けようと思っている。どちらにもパフォーマンスの問題を感じてはいないからだ。いずれは私も何か Apple silicon 駆動の Mac で複数モニタのセットアップを実現する方法を決断しなければならなくなるだろう。おそらくは、M3 Pro 14 インチ MacBook Pro か、あるいは将来出るであろう M3 Mac mini に、2 台の Studio Display を接続することになるのかもしれない。でもそれは将来どこかの時点で決断すればよいことだ。皆さんはどう思われただろうか? 今回の新型 Mac が、今お使いのものをアップグレードすることについての皆さんの考えに、何か影響を及ぼしただろうか?