Thoughtful, detailed coverage of everything Apple for 31 years
前週号 | 日本語版ホーム | 次週号

#1579: Apple の California Streaming イベント、OS セキュリティアップデート、Epic Games 対 Apple 訴訟に判決、インターネット上でのプライバシーの制約、Mac 用スピーカーの組み合わせ

Apple の "California Streaming" イベントは明日だ! 新しい iPhone、デザインを新たにした Apple Watch、それから iOS 15、iPadOS 15、watchOS 8、tvOS 15 のリリース日が発表されると予想される。今日、Apple が macOS 11.6 Big Sur、セキュリティアップデート 2021-005 Catalina、iOS 14.8、iPadOS 14.8、および watchOS 7.6.2 をリリースして実際に悪用された可能性があるという 2 件の脆弱性に対処したので、できるだけ早くアップデートしよう。先週、Epic Games が訴えていた反トラスト法違反訴訟に判決が出た。Apple の勝訴となったが、App Store の方針に対する差し止め命令が下った。インターネット上の通信でプライバシーが心配だという人に、WhatsApp と ProtonMail に関する最近の 2 つのニュース記事を紹介しよう。たとえプライバシーを重視する方針の通信サービスであっても、そこには制約があることが分かる。それからもう一つ、複数のスピーカーセットを Mac に接続している人のために、Adam Engst が Audio MIDI Setup アプリを使ってそれらを一つのオーディオ出力デバイスに組み合わせる方法を説明する。今週注目すべき Mac アプリのリリースは SpamSieve 2.9.45、Live Home 3D 4.1、Merlin Project 8.0、Typinator 8.9、それに Parallels Desktop 17.0.1 だ。

Josh Centers  訳: Mark Nagata   

Apple、2021 年 9 月 14 日の "California Streaming" イベントを発表

Apple の製品発表イベントが 2021 年 9 月 14 日 10 AM PDT に同社の Apple Park 本部で開催され、Apple のウェブサイトからも、Apple TV からもイベントをストリーミングで視聴できる。また、カレンダーにイベントを追加することもできる。[訳者注: この記事の翻訳時点でイベントは既に終了していますが、イベントの内容については来週号をお待ち下さい。]

去年は Apple の iPhone リリースが 10 月にずれ込んだけれども、今年はこのイベントで新型の iPhone が発表されるだろうと思われるし、新しいモデルの Apple Watch も発表されるだろう。飛び交っている噂がもし正しければ、Apple はプレーン、Pro、mini、Pro Max の 4 つのタイプの iPhone 13 を発表し、スクリーン上部のノッチが小さくなって、120Hz ProMotion ディスプレイが搭載されることになるようだ。

また、新しいデザインで少し大型化した Apple Watch が出るという噂もある。Bloomberg の Mark Gurman の記事によれば、現行モデルに比べて縦/横/厚さがそれぞれ 1 mm ずつ増えて、41 mm モデルと 45 mm モデルになるという。エッジがよりフラットになったデザインで、血圧、血糖、妊孕をモニターする機能が加わるだろうという噂もある。

Apple Watch Series 7 が出荷されるまでにはしばらく待たねばならないかもしれない。なぜなら、Tim Cook が警告していたサプライチェーンの供給不足の問題がのしかかっていると言われているからだ。(2021 年 7 月 27 日の記事“Apple の Q3 2021:荒稼ぎ続く”参照。) しかしながら、アナリストの Ming-Chi Kuo は今週になって Apple がこの問題を解決したと言っている。

それからまた新型 AirPods の噂もある。Apple はもう数年間もこの製品を更新していないので、今年は新しいものが出るだろうと期待するのも頷ける。ただし今回の発表には盛り込まれないかもしれない。

Apple はまず間違いなく、少なくとも iOS 15 と iPadOS 15 についてはその当日に、あるいはイベント後すぐに、リリースすることだろう。私が書いた新刊書 Take Control of iOS 15 and iPadOS 15 はこれらの新しいオペレーティングシステムの新機能すべてを網羅しているので、これをお読みになれば準備万端だろう。また、Apple が watchOS 8 と tvOS 15 を同時に出すことも十分考えられる。けれども、Apple は去年 macOS 11 Big Sur アップデートを遅らせて 11 月になってから出したので、今年の macOS 12 Monterey についても同じようなことが起こるかもしれない。

Apple が何を発表するかを私たちと一緒に目撃したい方は、私たちの SlackBITS グループの #events チャンネルにどうぞ参加して頂きたい。イベントの最中に読者の皆さんとおしゃべりするのは数年前から続けていることで、いつも楽しい時を過ごせている。参加するには slackbits.herokuapp.com へ行き、あなたの電子メールアドレスを入力して、行動規範に同意して頂くだけでよい。すぐに招待状が電子メールで届くはずだ。

[訳者注: "California Streaming" というイベント名は明らかに 1965 年のヒット曲 "California Dreaming" (the Mamas and the Papas) を踏まえていると思われます。]

討論に参加

Josh Centers  訳: Mark Nagata   

macOS 11.6 Big Sur、iOS 14.8、iPadOS 14.8、watchOS 7.6.2、セキュリティアップデート 2021-005 Catalina がセキュリティ欠陥を修正

大きな製品発表イベントの前夜、Apple は macOS 11.6 Big SuriOS 14.8、iPadOS 14.8watchOS 7.6.2、それにセキュリティアップデート 2021-005 Catalina をリリースして、PDF に関係したセキュリティの問題 1 件を修正した。「悪意を持って作成された PDF を処理すると任意のコードが実行される可能性がある。Apple ではこの脆弱性が悪用された可能性があるという報告について把握しています」という。

iOS 14.8 release notes
iOS は未だにアップデートノートで話にならないほど小さな文字を使っている。

また、macOS 11.6、iOS 14.8、iPadOS 14.8 ではウェブブラウジングの脆弱性も修正された。「悪意を持って作成された Web コンテンツを処理すると任意のコードを実行される可能性がある。Apple ではこの脆弱性が悪用された可能性があるという報告について把握しています」という。

9to5Mac の記事によれば、NSO Group が Pegasus スパイウェアでこの PDF 脆弱性を利用し、バーレーンの活動家を標的とするために使ったのだという。どうやらこの脆弱性が Apple の BlastDoor による防御を回避するために使われたらしい。(2021 年 2 月 4 日の記事“BlastDoor が iMessage のマルウェア攻撃に対する防御を強化”参照。) 今回のアップデートは直ちにインストールすることをお勧めしたい。

それぞれのプラットフォームでのアップデート方法は次の通りだ:

討論に参加

Adam Engst  訳: 亀岡孝仁  

判事、Epic Games に対しては Apple を勝たせ、App Store 反誘導方策を無効に

先週末に US District Judge Yvonne Gonzalez Rogers は 185 ページの裁定を Apple に対する Epic Games の反トラスト法訴訟に対して下した。判決は、Apple の App Store 規則は独占的な力の証拠ではないというものであった。更に広い意味で、彼女の判決は、Apple がサードパーティストアを許すこと、ユーザーにアプリをサイドロードさせること、或いは、App Store 手数料を減ずることを要求してはいない。また、Apple が Epic の開発者アカウントを復元すること、或いは、Epic の人気のゲームである Fortnite が App Store に戻ることを許すことも要求していない。更に、彼女は Epic に対して Apple に、August 2020 以降にその iOS アプリユーザーから Apple のアプリ内購入システムの外で稼いだ額の 30% を支払うよう命じた - 少なくとも $3.6 million の罰金となる。Epic は控訴したが、多くの評論家は、この判事の決定を覆す見込みは殆ど無いと見ている。

しかしながら、この判決は Apple に対しても大打撃の可能性を持つものとなった。California の Unfair Competition Law 違反に対する1ページの Epic を有利とする差し止め判決で、Judge Gonzalez Rogers は、Apple を非競争的な行動に対して糾弾した:

Apple Inc. と、その役員、代理人、使用人、従業員、そしてそれらと実際に協力する或いは参加する者 ("Apple") は、ここに、開発者が (i) In-App Purchasing に加えて、彼らのアプリやメタデータボタン、外部リンク、或いは顧客を購入メカニズムへ導く行動を促す他の呼びかけを含むこと、そして (ii) アプリ内でアカウント登録を通じて自発的に取得された連絡先を通して顧客と連絡を取ることを禁じることから永久に制約され、そして禁止される。

言い換えれば、判事は、開発者が iOS アプリ内で彼ら自身の購入システムを含むこと、或いはそれへとリンクすることを禁止する Apple の反誘導 (anti-steering) 方策を無効とした。彼女は又、Apple が、開発者がアプリ内登録を通じたアカウント設定を通して彼らの顧客と連絡を取るを禁止することを禁じた。この禁止命令は 90 日後に効力を発するが、MacStories の John Voorhees は、Apple は控訴することでそれを延期させることが出来るかも知れないと言っている。Stratechery の Ben Thompson は、判事がどの様にしてその判決に至ったかの多岐に亘る説明を提供している。

もし Apple が控訴しなければ、或いは、その控訴が成功しなければ、疑問は Apple - そして iOS 開発者達 - が次に何をするかである。The Verge の Nilay Patel は、禁止命令にボタンと外部リンクの両方が含まれていることからすると、Amazon が Kindle アプリに独自の支払い処理システムを組み込むことが出来ることを示唆しているようであると指摘している。これは、Apple の最近の日本の公正取引委員会との合意の遙か先を行くものである。その合意は、"リーダー" アプリが外部アカウント管理システムへのアプリ内リンクを含むことを許している ("Apple の庭の塀から数個の煉瓦が取り除かれる" 3 September 2021)。

しかし、恐らく、基本的には Apple、開発者、そして Judge Gonzalez Rogers の間の3者協議であろう場で、多くの疑問が解明されなければならない。減額された取引手数料は、開発者が別の支払いシステムを構築し維持していくのに関わる仕事量に勝るであろうか? Stripe の様な支払い処理会社は、iOS アプリ内のプラグ&プレイ購入システムに対するソフトウェア開発キットを提供するであろうか? Apple の App Store レビュープロセスは、サードパーティ支払いシステムを実行するアプリに対して突然高い関心を払うようになるであろうか? 開発者 Marco Arment は、それがどの様な進展を見せるかについての意見を表明している。

討論に参加

Josh Centers  訳: Mark Nagata   

通信サービスではプライバシーが保証され得ないことを知っておこう

最近、WhatsApp メッセージングサービスと ProtonMail 電子メールサービスを扱った 2 つの報道記事が、プライバシーを提供すると主張する通信サービスの限界を露わにした。

ProPublica が WhatsApp のメッセージ監視を暴露

非営利の調査報道サイト ProPublica が、WhatsApp におけるプライバシーについて、いやむしろその欠如について、長いレポート記事を公開した。メッセージングアプリ WhatsApp は 2014 年に Facebook が買収したが、終端間の暗号化と完全なプライバシーを約束している。WhatsApp のプライバシーページには次のように書かれている:

私たちの使命は、シンプルかつプライベートな製品を設計することによってプライベートに世界を結び付けることです。あなたが友人や家族に個人的なメッセージを送っても、あるいは仕事上の相手にテキストを送信しても、あなたの通信はいつもセキュアであり、すべてをあなたが掌握しています。

ProPublica の記事はこの主張が真実でないと示唆しており、実際には 1000 人以上の契約労働者がこのサービスのトラフィックを監視し取り締まっていると述べる。けれども記事をずっと読み進めれば、次の記述に行き当たる (強調部分は私たちによる):

彼らの仕事は他の点で違っている。WhatsApp のコンテンツは暗号化されている ので、Facebook や Instagram で行なわれているような形で人工知能システムが 自動的にあらゆるチャットや画像やビデオをスキャンすることはできない。その代わりに、ユーザーが "report" ボタンを押した場合に WhatsApp の検査担当者はプライベートなコンテンツにアクセスでき、プラットフォームのサービス利用規約に違反している疑いがあるかどうかを識別する。その際には 5 通のメッセージが転送される。つまり、問題を疑われているメッセージと、やり取りの中でその前にある 4 通のメッセージが、画像やビデオも含めて暗号が解けた状態で WhatsApp に送られる。これは WhatsApp の元エンジニアたちや元管理担当者たちから得た情報だ。その後自動化されたシステムがこれらのチケットを "reactive" キューに送り、契約労働者たちが判断を下すこととなる。

別の言葉で言えば、あなたの WhatsApp メッセージは暗号化されて いる ので通常は Facebook がそれを見ることはできないが、ただし 会話のどちらか片方の側の人物がそのメッセージを WhatsApp のサービス利用規約に違反するとして報告した場合にはその限りでない。Facebook はここで苦境に陥っている。つまり、もしこの報告機能と人間による審査がなかったならば、虐待的な行為や犯罪活動を助長しているとして非難されるだろう。でもそれをするならば、プライバシーの侵害だと非難される。どちらにしてもひどく嫌なことだ。

(ここで Apple の iMessage サービスもやはり終端間の暗号化を使っていることに触れておく価値はあるだろう。けれども連絡先リストにない人物から届いたメッセージを迷惑メッセージとして報告できる以外に、悪い行為を報告する方法はない。迷惑メッセージの報告に対して Apple が何をしているかについては全くもって不明瞭だが、Apple がその設計方法について強い非難を浴びたという話は聞かない。しかしながら、もしも iCloud Backup が有効になっていれば、Messages での会話はバックアップの中で Apple が管理する鍵を使って暗号化されるので、法執行機関が Apple に命じてデータを召喚することが可能となる。最近になるまで WhatsApp にもそれと同じ抜け穴が存在していたけれども、WhatsApp はバックアップの暗号化を始めると発表した。)

しかしながら、他の人に嫌がらせする目的で報告システムを悪用する WhatsApp ユーザーは多い:

このシステムはまた、報告を乱用する人々による人的不手際によっても価値が落とされる。誰かを痛めつけたり、困らせたり、あるいは悪ふざけしたりする目的で訴えを報告する事例が頻繁にある と管理担当者たちは言う。ある管理担当者によれば、ブラジルからメキシコへ送られたメッセージの中で、2 か月ほどにわたって AI が片っ端からグループを接続禁止にしていた時期があって、その理由は いたずら目的で友人たちのグループ名を変更 した上で そのグループを報告する ことが流行していたからだという。最悪の時期には何万件ものそのような事例があったが、これは彼らはアルゴリズムに引っかかる単語を見つけたからのようだ。

ここでのより大きな教訓は、あなたのプライベートなメッセージのセキュア度はあなたのメッセージング相手がプライベートに保ってくれる度合いまでしかプライベートでないということだ。この事実は、複数の人々の間で交わされるあらゆる種類のコミュニケーションで言える。

けれども、WhatsApp とそのメタデータ収集に関しては他にも現実の懸念があって、それは Facebook のビジネスがデータを収集して広告を販売するところにあることに結び付いている:

しかしながらその 4 か月後、WhatsApp はユーザーデータの Facebook との共有を始めると明かした。これはまさに、Zuckerberg がしないと約束したことそのものだ。このことにより、将来収益を発生するさまざまの計画が生まれる道が開かれた。改訂後の WhatsApp サービス利用規約には、広告のターゲット化や、スパムや不正使用との闘い、および基準の収集のために ユーザーの電話番号、プロフィール写真、ステータスメッセージや IP アドレス などの情報をアプリが共有すると書かれている。WhatsApp の説明によればこれは「あなたの電話番号を Facebook のシステムと連結することによって、あなたがアカウントを持っていれば Facebook がより的確に友だちの提案をしたりより関連ある広告を表示したりできるようになる」からとのことだ。

どのようなメタデータであっても Facebook が収集したものは法執行機関への引き渡しが要件となっており、Facebook はいつでも好きな時にこっそりとログ機能を有効にすることができる:

WhatsApp は何年も前からどれほどの量の復号化された情報が法執行機関と共有されているかについて軽視する態度を取っており、そのことに対する言及を概ねサービス利用規約の奥深くに隠された決まり文句の言い回しのみに限っている。どのユーザーが誰とどの程度頻繁に通信しているかを日常的に、永続的にログ保存することはしない けれども、同社の役員が追認したところによれば会社独自の判断でそのような追跡を有効にすることはあり、それは Facebook 社内の漏洩調査のためでさえあるかもしれず、また法執行機関の要請に応じてのものかもしれないという。それがどの程度頻繁に起こっているかを ProPublica に明かすことを同社は拒否した。

ここでの結論は明々白々だ。ありとあらゆる会社の中で、ことプライバシーに関しては、Facebook を信用してはいけないということだ。でも、そうは言っても WhatsApp は電子メールや SMS に比べればまだより良い選択肢だろう。たとえ、iMessage ほどには良くないとしても。私自身は Signalの方が好みで (2021 年 1 月 18 日の記事“Signal、クロス・プラットフォームで WhatsApp の代替となる”参照)、こちらも完全に信用することはできないけれども、現時点ではより良いプライバシーの実績を持っている。ProPublica は Signal について次のように述べた:

ユーザー監視のために WhatsApp と全く違うやり方を使っている暗号化プラットフォームもある。Signal はコンテンツを管理する者を置かず、収集するユーザーやグループのデータはずっと少なく、クラウドへのバックアップは許さず、ユーザーの活動を規制することに繋がる考え方は一般的に拒否する。児童虐待の報告を NCMEC に提出したことは一度もない。

しかしながら、もしも Signal が何らかの現実の脅威に直面したとすれば、この点はいつでも変わる可能性がある。例えば政府からの大きな圧力や、破産を回避するための止むを得ないユーザー情報の収益化といったことが考えられる。

ProtonMail がスイス当局の法的命令に従ってデータを暴露

電子メールサービス ProtonMail は終端間の暗号化と「スイスならではのプライバシー」により最もセキュアな電子メールサービスだと主張する。ProtonMail が本拠を置くスイスという国は強力なプライバシー保護法 (とあまりにも有名なプライベート銀行口座) で知られているが、ProtonMail はこれらの法律の持つ限界に触れたことが明るみに出て、それが非難の的となった。

ProtonMail は通常 IP アドレスの収集はしないものの、スイスの司法裁判所の要請によりそれを行ない、そのことがフランス人の活動家の逮捕に繋がった。公式声明の中で ProtonMail 社は、これは裁判所の命令による一回限りの出来事であり、ProtonMail が不服申し立てをすることはできなかったと述べた。同社はまた、スイスの法律の下で ProtonMail は他国の政府との間で情報を共有することは許されておらず、同社の暗号化が回避されることはないと重ねて述べた。同社は ProtonMail を利用する際には同社の Tor onion サイトを使って IP アドレスを難読化することを推奨している。

ProtonMail ファンの多くはこの会社に対して憤慨したが、ここでの教訓はあらゆる企業活動は現地の法律に従わなければならないということだ。たとえスイスの法律が他の大多数の国より良いものであったとしても、外国政府からの妥当な圧力があったならば、明確に法律を犯したとは見えないかもしれない人に対して適用されることも、やはりあり得ると言わざるを得ない。

プライバシーに関して覚えて置くべき重要なこと

これらの報告記事から私たちが学べることをまとめておこう:

  1. タンゴを踊るには二人必要だ。あなたがプライベートと思うメッセージがプライベートであるためには、それを受け取った人がそのプライバシーを維持してくれることが前提となる。これは技術的な意味でも、また社会的な意味でも言えることだ。
  2. 大多数のオンラインサービスはあなたの通信に関するメタデータ、例えばあなたの IP アドレス、氏名、電話番号その他を収集している。あなたの通信コンテンツが暗号化されているか否かにかかわらず、これらのメタデータがあなたに関する情報を暴露することはあり得るし、適切な令状があれば法執行機関はほとんど常にそのメタデータにアクセスできる。
  3. どのような会社や組織も現地の法律に従わなければならず、持っているデータを引き渡せという法的命令があればそれに応じなければならない。
  4. 会社の方針やプライバシーに関する立場は、いつでも変更される可能性がある。最近の Apple が CSAM 検出に関する発表でヘマをしたのを見て、この会社がかつての「プライバシーは人権だ」とする立場を変えつつあると感じた人は多かった。(2021 年 9 月 3 日の記事“Apple、CSAM 検出の導入を延期”参照。) フランス人の活動家の件への対応として、ProtonMail は自らのプライバシー方針から IP アドレスのログ保存をしないと記していた部分を削除している。
  5. 例えば Facebook のようにユーザー情報の販売に基づいたビジネスモデルを持っている会社については、プライバシーに関するいかなる約束も本質的に疑わしいと思うべきだ。

おそらくプライバシーに関する最良の助言はボストン政界のボスであった Martin Lomasneyの言葉だろう。「書いてはいけない、語れるならば。語ってはいけない、頷けるならば。頷いてはいけない、ウィンクできるならば。」さらには元ニューヨーク州知事であった Elliot Spitzer がそれをアップデートした言葉もある。「頷けるなら語ってはならないし、ウィンクできるなら頷いてはならず、電子メールも書いてはならない。それは死を意味する。訴追者たちにあらゆる証拠を差し出してしまうことになるからだ。」Spitzer 氏にとって残念なことに、彼は自分自身の助言に従っていなかった。

ライバルの政治家や政府機関による盗聴を心配する必要などない私たちにとってもっと現実的な助言は何かと問う人たちに対して、私がジャーナリスト養成学校で受けた助言をここに書き記しておこう。それは、「New York Times の一面に載っては困ることを、決して電子メールに書いてはならない」という教えだ。私なら、その「電子メールに」という部分を「インターネット上に」に取り替えておくだろうか。

討論に参加

Adam Engst  訳: Mark Nagata   

Mac のオーディオをスピーカーの組み合わせで強化しよう

Altec Lansing FX6201 speakers

2005 年頃から、私は Mac 上で 2 台のステレオスピーカーシステムと 1 台のサブウーファーから成る Altec Lansing FX6021 システムを通じて音楽を聴くようになった。そのサウンドは素晴らしく、電源と音量用に専用のコントローラがあるのが嬉しかった。キーボードショートカットを使ったりグラフィカルインターフェイスを使ったりする必要なしにコントローラだけでサウンドをオフにしたり音量を調節したりできるので楽だ。ただ残念なことに、最近になってコントローラのどこかが壊れたようで、コントロールが全くできず、サウンドが突然切れたり完全に消えてしまったりするようになってしまった。トラブルシューティングを試みたがうまく行かず、買い換えるのがよいだろうと心を決めて TidBITS Talk でお奨めを募った。(そしていろいろのお奨めを頂いた。)

けれども、いろいろなお奨めを読んでいる間も私はやはり音楽を聴いていたいと思う。私は 27 インチ iMac に 27 インチ Thunderbolt Display を接続して使っており、そのいずれにもそこそこ良いステレオスピーカーが付いている。けれども試しにそのどちらか片方を使ってみると、サウンドのバランスが崩れている気がした。私は両者のほぼ真ん中にいるので、オーディオを iMac に振り向けると (これはデスクの右側にあるので) 音が右側から聞こえる。オーディオを Thunderbolt Display に移すと、音が左側から聞こえる。なので、両者のスピーカーの間にバランス良く信号を振り分けてちょうど良いステレオサウンドが聴ける方法が欲しかった。

ここで HomePod のステレオペアを使う考えが頭に浮かんだので、少し調べてみたところ、Apple がずっと以前から複数のオーディオ出力を一つにまとめる手段を提供していることに気付いた。そこで iMac と Thunderbolt Display のスピーカーをまとめてみると、サウンドがデスクの両側から均等に聞こえるようになった。この機能を使えば、誰でも Mac とそれに接続されたスピーカーの両方で同時に同じオーディオを再生できるし、5:1 や 7:1 のサラウンドサウンドシステムに設定することもできる。ただ残念なことに、HomePod のような AirPlay スピーカーをそこに混ぜ込むことはできない。この点についてはあとで説明する。

複数出力デバイスを作成する

このオーディオ組み合わせの魔法を実行するための鍵となるのが Audio MIDI Setup アプリだ。このアプリは Applications フォルダの中の Utilities フォルダの中にある。このアプリが提供することがらのすべてを理解できているふりをするつもりはない。私はオーディオ通ではないからだ。でも、複数のオーディオ出力デバイスを一つにまとめる手順は比較的簡単だ。ただし、いくつか注意点はある。

(親愛なる Apple よ、この Audio MIDI Setup アプリをぜひアップデートして、Apple 公式のスタイルガイドで非推奨としている "master" という用語をインターフェイス内で使わないようにして頂きたいものだ。言行一致しなさいよ、ということだ。Feedback Assistant に報告を書いておいたのでご覧あれ。)

複数出力デバイスを作成する手順は次の通りだ:

  1. Audio MIDI Setup で、オーディオデバイスのリストの下にある + ボタンをクリックして、Create Multi-Output Device を選ぶ。
  2. 組み合わせたいオーディオデバイスごとに Use チェックボックスをクリックする。
    Audio MIDI Setup showing a Multi-Output Device
  3. 私の知る限り、それをしても Master Device ポップアップメニューでどのデバイスが選択されているかは変わらない。ただし、マスターデバイス以外のデバイスでは Drift Correction チェックボックスが自動的にチェックされる。
  4. 高いサンプルレートを提供する DAC (digital-to-analog converter) を持っているのでない限り、Sample Rate ポップアップメニューは 44.1 kHz にしておく。DAC を持っている場合は、オーディオ品質の違いが聴き取れるもののうち最も高いサンプルレートを選んでおく。
  5. リストの中の Multi-Output Device 項目の下側右の方に、小さなスピーカーアイコンが見えるはずだ。もし見えなければ、Multi-Output Device を Control-クリックして Use This Device For Sound Output を選べばよい。(System Preferences > Sound > Output で出力用に選んでも同じことだ。)
  6. Multi-Output Device を初めて使う時に大き過ぎる音楽で耳を潰さないようにするため、リストの中のマスターデバイスの項目をクリックして、Channel Volume 枠の Master スライダーをかなり低い位置に調節しておく。二次的な出力デバイスについてもそれぞれ同じことをしておく。下のスクリーンショットでお分かりの通り、私の Thunderbolt Display では Front Left と Front Right それぞれに別々のスライダーが出る。
    Adjusting volume in Audio MIDI Setup
  7. Music アプリに切り替えて、十分に馴染みのあるトラックの再生を始める。できればステレオ分離の良いものを選ぶとよい。私はいつも Dire Straits の Brothers in Arms アルバムをまず使うようにしている。これは、1980 年代末頃に私が初めて買った CD でもある。
  8. Audio MIDI Setup に戻って、個々の出力デバイスを行きつ戻りつしながら最も良い音量に設定するとともに、左右のバランスも調整する。どうやってそれをするかはデバイスに依存する。iMac のスピーカーの場合は Balance スライダーがあるので、右側のスピーカーを優先するためにこのスライダーを右寄りに調整した。Thunderbolt Display には Balance スライダーがないので、左側のスピーカーを優先するために Front Left の音量を大きめにした。iMac の左側のスピーカーと Thunderbolt Display の右側のスピーカーは私の目の前に並んでいるので、音量を小さめにした。
    Adjusting balance in Audio MIDI Setup
  9. 音量スライダーの隣にある Mute チェックボックスに注意しよう。これを使って個別にスピーカーをミュートにし、他のスピーカーの音を試すことで音量やバランスを適切に設定することができた。(理想的な音量を見分けるためのもっと的確な方法が欲しければ、例えば Decibel X のような音圧レベル計測アプリを使って個々のスピーカーごとにサウンドを計測すればよい。)
  10. もっと多くのスピーカーを使ってサラウンドサウンドシステムを設定する場合は、Configure Speakers ボタンをクリックすればスピーカーとチャンネルを接続するためのインターフェイスが開く。私はこれをテストできるハードウェアを持っていないので、詳しいことが知りたい方には Configure Speakers インターフェイスの中の ? ボタンをクリックすることをお勧めする。
    Configuring speakers in Audio MIDI Setup
  11. 最後に、もっと分かりやすい名前が良いと思えば、Multi-Output Device 項目の名前をクリックして好きな名前に編集することもできる。

これで完了なのだが、いくつか注意点があるので以下で順々に述べよう。

注意点 #1: 複数出力デバイス用の音量調整がない

残念ながら、すぐに気付くことだが、Sound 環境設定枠の中では複数出力デバイスにマスター音量コントロールがないし、メニューバー上の Volume 項目は機能せず、macOS 内蔵のキーボードショートカットも無効になっている。言うまでもなくこれは問題だが、回避策がたくさん存在している。

現実的に、私はこれらのアプリをすべて自由に使えるので、全部を使ってみようと思っている。SoundSource は Mac 上でサウンド関係のあらゆるものを集めたダッシュボードを提供してくれる上に、システム音量コントロールを有効化できる。Keyboard Maestro はキーボードからオーディオをコントロールできるようにするし、Boom 3D は音楽を強化できる。

注意点 #2: 複数出力デバイスには AirPlay がない

Audio MIDI Setup で + ボタンをクリックして、Connect AirPlay Device メニューから選べば、AirPlayデバイスを追加することができる。そうしておけば、AirPlay 出力を複数出力デバイスの一部分として選択できるようになる。残念ながら、そこで複数出力デバイスをデフォルトのオーディオ出力に設定した途端に、その AirPlay デバイスが消えてしまい、複数出力デバイスからその AirPlay デバイスに一切オーディオが送られなくなる。

しかしながら、少なくとも Music アプリを使う場合には回避策がある。Music ツールバーの AirPlay ボタンをクリックすると、複数個の AirPlay 送信先を選んでそれぞれの音量を個別に設定できる。送信先の Computer 項目は Sound 環境設定枠で選択してあるオーディオ出力を使うので、今の場合は私の Multi-Output Device を意味する。一時的に借りておいた寝室の HomePod と組み合わせてみたところ、仕事部屋がサウンドで満たされた。

Multiple speakers in the Music app

この回避策には欠点が 2 つある:

これらの問題を解決するのが Rogue Amoeba の Airfoil だ。これは、どの Mac からでも (あるいはシステムオーディオからも) オーディオを AirPlay にも非 AirPlay オーディオデバイスにも届けることができ、Music アプリの制約を回避できる。さらには独立に一つのスピーカーを選んでそこで "computer" オーディオを再生することさえできる。音量をコントロールしたりオーディオをミュートしたりするキーボードショートカットも提供する。Airfoil の価格は $29 で、TidBITS 会員には 20% 割引の $23.20 となる。

Airfoil interface and preferences

スピーカー探しは続く

私は iMac と Thunderbolt Display のスピーカーを組み合わせようとしてこのようにさまざまな作業をしながら大いに楽しんだけれども、その組み合わせの中に HomePod を含めてみた途端に、HomePod 単独でもはるかに良い音質のオーディオを提供できると痛感した。とりわけ低音の違いは明らかだった。それはつまり、こうやってオーディオのハッキングをした後も Altec Lansing FX6201 スピーカーに代わるものを購入する必要が消えた訳ではないことを意味している。やはりサブウーファーの付いているものが欲しい。だから、そろそろ執筆仕事はこれくらいにして、TidBITS Talk で頂いたさまざまのものを調べる仕事に取り掛かりたいと思っている。(もしもまだ他にお奨めのものをご存知なら、どうぞ教えて頂きたい。)

討論に参加

TidBITS 監視リスト: Mac アプリのアップデート

訳: Mark Nagata   

SpamSieve 2.9.45

SpamSieve 2.9.45

C-Command Software が SpamSieve 2.9.45 をリリースして、登場予定の macOS 12 Monterey の Mail への対応を Monterey beta 6 に盛り込まれた最新の変更を踏まえて改善した。(いつも通りに、C-Command は Monterey にアップデートする前にあらかじめ SpamSieve をアップデートしておくことを勧めている。) 今回のアップデートではまた、フィルタリングの精度を上げたのに加えて、Apple Mail - Rescue Good Messages スクリプトを追加して、サーバの迷惑メールフィルターが誤って取り込んだ良いメッセージを Junk メールボックスから受信箱に移せるようにした。C-Command は Mail と SpamSieve の設定を変えて迷惑メールメッセージを Spam メールボックスに入れるのでなく特別の All Junk メールボックスに入れるようにすることを勧めている。(新規購入 $30、TidBITS 会員には 20 パーセント割引、無料アップデート、19.2 MB、リリースノート、macOS 10.9+)

SpamSieve 2.9.45 の使用体験を話し合おう

Live Home 3D 4.1

Live Home 3D 4.1

BeLight Software がインテリアおよびエクステリア用住居デザインソフトウェア Live Home 3D のバージョン 4.1 を出した。50 個以上のハウステンプレートを追加した、メンテナンス・リリースだ。今回のアップデートではまた、物理ベースマテリアルの FBX フォーマットでの読み込み/書き出しに対応し、Project Gallery の中ですべてのテンプレートの名前を手直ししてローカライズし、多角形の輪郭を描く際のパフォーマンスを改善し、追加の扉や窓をダウンロードした後のボタン状態に関する問題を修正し、平板の上でマテリアルがずれるという稀に起こった問題を解消している。

Live Home 3D は無料でダウンロードでき、1 個のプロジェクトには無料で使える。追加のプロジェクトで作業するには、標準版の購読が月額 $4.99 または年額 $9.99、あるいは永久有効ライセンスを $29.99 で購入することもできる。地形編集や強化された資材編集などの機能にアクセスするには Pro 版の料金を支払う必要があり、こちらは月額 $9.99 または年額 $19.99、あるいは永久有効ライセンスが $49.99 だ。(BeLight からも Mac App Store からも新規購入 $29.99、無料アップデート、448.1 MB、リリースノート、macOS 10.14+)

Live Home 3D 4.1 の使用体験を話し合おう

Merlin Project 8.0

Merlin Project 8.0

ProjectWizards が Merlin Project 8.0 をリリースした。このパワフルなプロジェクト管理アプリへのメジャーなアップグレードで、Dynamic Help 機能を追加している。これは、かの昔の Macintosh System 7 の Balloon Help を思い起こさせるインターフェイスを使って、ビュー、列、フィールド、コントロールなどの意味を説明するものだ。メインツールバーにある疑問符アイコンをクリックすればこの機能が有効となり、オブジェクトの上にポインタを動かせば情報が得られる。

Merlin Project Dynamic Help

今回のアップデートではまた、スタイルインスペクタの中の Gantt チャートの縦のタイムラインの太さと色を調整できるようにし、リソースインスペクタの電話アイコンを使って通話を開始できるようにし、ファイル添付検査装置のデザインを変更し、インスペクタのフォントサイズを大きくし、新規カラムを作成する際に対応するフィールドを別のダイアログで選択できるようにした。

軽量版の Merlin Project Express は家庭用およびセミプロのユーザーを対象としており、こちらもバージョン 8.0 にアップデートされて Dynamic Help 機能を備えた。いずれの版の Merlin Project も、今回から macOS 10.14 Mojave かそれ以降を要するようになった。

Merlin Project の年間購読料金は ProjectWizards または Mac App Store 経由で $149 (Mac App Store 版は月額 $14.99 の購読もある)、30 日間無料の試用版があってすべての機能を試してみることができる。現行の購読者は定期アップデートの一部としてバージョン 8.0 を無料で受け取れる。Merlin Project Express は月額 $3.99 または年額 $39.99 で App Store から入手できるし、月額 $9.99 の Setapp にも含まれている。(講読年額 $149、39.3 MB、リリースノート、macOS 10.14+)

Merlin Project 8.0 の使用体験を話し合おう

Typinator 8.9

Typinator 8.9

Ergonis が Typinator 8.9 をリリースして、macOS 12 Monterey への対応を追加した。このテキスト展開ユーティリティは今回、プレインテキストでの展開におけるクリップボードベースの挿入を改良し、Typinator が開く際に現在アクティブなスクリーンに開くようにし、セットリストにおけるジェスチャーによるスクロールの問題を修正し、日本語用の "Kingfisher 3" 入力ソースでも働くようにし、Obsidian でのカーソル位置の問題を修正し、アプリケーション Brief EnCounter 4D での展開の問題を修正している。(新規購入 24.99 ユーロ、TidBITS 会員には 25 パーセント割引、無料アップデート、8.9 MB、リリースノート、macOS 10.10+)

Typinator 8.9 の使用体験を話し合おう

Parallels Desktop 17.0.1

Parallels Desktop 17.0.1

Parallels が Parallels Desktop for Mac 仮想化ソフトウェアのバージョン 17.0.1 を出した。最近のメジャーアップグレードに続くメンテナンス・リリースで、Windows 11 との互換性を改善している。今回のアップデートではまた、Windows 仮想マシンがフルスクリーンに切り替えた後ですべての Mac ディスプレイ上を占めないことがあった問題を解消し、一部のゲームでテクスチャーが混じってしまうことがあったバグを修正し、仮想マシンを解凍する際のアクセス権の問題に対処し、PS/2 モードで機能するように設定したマウスが Window 表示モードで正しく反応しなかった問題を解消している。(Standard 版の年額講読 $79.99、Pro 版は年額講読 $99.99、311 MB、リリースノート、macOS 10.13.6+)

Parallels Desktop 17.0.1 の使用体験を話し合おう