上記の User Agent オプションを確認するにはまず Safari > Settings > Advanced で Develop (開発) メニューを表示する設定にして、それから Develop > User Agent メニューを選ぶ。
緊急セキュリティ対応 (Rapid Security Response) のバージョン番号に括弧付きの文字を使うことにした Apple の判断には疑問の余地があるものの、今回影響を受けたウェブサイトを運営している Meta やその他の会社の側にもやはり、予期せぬユーザエージェント識別子に遭遇した際にそれを潔く受け止められなかった責任があると言えるだろう。
Apple がこのバグを何時修正したのか私には分からない。同社はそれをリリースノートに載せなくてよいと判断したようである。何れにしろ、macOS 13.4.1 では、スクリーンセーバーはマルチディスプレイ上でも再び正常に働くようになった。もし皆さんも、私の様に、スクリーンセーバーが全てのディスプレイ上に現れなくなったと言う理由からスクリーンセーバーモジュールを変更していたのであれば、今や System Settings > Screen Saver でお気に入りの方法に戻せる。
TidBITS で書評を取り上げることは滅多にないし、私も自分の Libby 活動の内容を皆さんに共有するつもりはない。でも、Cory Doctorow の小説 Red Team Blues を読んで、これは紹介する価値があると思った。理由の一つは、描かれている架空の世界がシリコンバレーの出来事をモデルにしているようにも思え、今日のネットの裏社会を思わせるところもあるからだ。でも理由はそれだけではなくて、現代社会におけるフィクションの役割について、Cory がこれまで書き記してきたことと照らし合わせてとても興味深いと思えたからだ。
私は Cory とそれほど親しい訳ではないし、ほんの数えるほどの回数しか会ったこともない。電子メールで多くやり取りしたこともなければ、オンラインのコミュニティーでやり取りした覚えもない。でも、私も彼も数十年間にわたってインターネット上の似たような空間をうろついてきた。彼の場合は Boing Boing、Electronic Frontier Foundation (EFF)、そしていろいろな彼の本だ。私の場合は TidBITS、Info-Mac、_Internet Starter Kit_、Take Control だ。彼はインターネット上で私が過ごす界隈の常連の一人であって、その事実は 5 年か 10 年に一度ずつしか電子メールをやり取りしなくても変わらない。
小説 Red Team Blues における対立では、良い意図と偽りのない不一致との対立というよりもむしろ、メインとなる2つのグループのそれぞれが、自らの世界観の中で理性的に振る舞い、それぞれが相手に対して「まあ、もちろんあいつらならそうするだろうぜ」というフラストレーションの感覚を持ち続ける。その状況の中で、主人公は自分では直接コントロールできない困難な急流の中を進んで行く。
Red Team Blues は現代が舞台の物語で、主人公 Martin Hench は 67 歳の“デジタル法廷会計士”であり、現代の盗人たちが暗号通貨や、持ち株会社、オフショア口座の形で隠匿している資金を回収することを専門にしている。彼は長年の友人である Danny Lazer に呼び出される。Lazer は何十年も暗号通貨コードを書きつつ NSA と戦ってきたが、暗号通貨のライブラリやワークフローをテクノロジー世界に販売する会社で大成功を収めた。その富を使って Lazer は Trustlesscoin を創設した。これは新しい暗号通貨で、環境負荷の大きい proof-of-work のアプローチを避けるために、(ある種の空想的なライセンスによって) iPhone やその他のスマートフォンに埋め込まれた Secure Enclave 上でコードを走らせるものだ。
MacGuffin ラップトップを取り戻すことがまず第一にすべき仕事だが、Hench はそれには成功したものの、結果としてメキシコの麻薬カルテルとの戦争に巻き込まれ、またラップトップ機の盗難に加わって殺された構成員の復讐を誓うアゼルバイジャン人の権力者家族も相手にすることとなった。倫理的に疑わしい Department of Homeland Security (米国国土安全保障省) はどうやら現状維持という名目の下にすべてを放置しておきたいようだ。手掛かりが次々に出現し、友人たちが筋書きに登場しては消え、Hench は 2 百万ドルを持ち逃げしたマネージャーを見つけた謝礼としてロックスターから料金の代わりに譲り受けたほとんど新車の大型バス Unsalted Hash に乗って北カリフォルニアのあちこちを走り回る。67 歳の Hench は物理的に相手と対決することは避けるが、数日間身を隠す必要があればホームレスのキャンプに潜り込んで (文字通り) 身を伏せることも厭わない。
私は 2014 年に Macworld Expo が終了して以後サンフランシスコに滞在したことはあまりないが、この Red Team Blues に描かれた Bay Area は本物らしく感じられるし、ホームレスでいるところの苦痛の表現は Cory が実体験したことではないかと思わざるを得ない。けれども他の何より本物らしく感じられたのは、人物たちだ。特定の人が話に登場したということではなくて、テクノロジー世界の古参のタイプの人たちが生き生きと描き出される。年老いつつある暗号通貨ハッカー、データセンターのセキュリティ担当者、顧客サービスや書類担当から出世して引退する時期には副社長にまで登り詰める古い時代の秘書も登場する。(Hench は彼女の資産を離婚した夫の詐欺師から取り戻し、そこからロマンスの脇筋が始まる。) 私は実際にそのような人たちと知り合いになったことはないが、その種のタイプの人たちは知っており、Cory の描き出す人物像は本物らしく思えた。彼らは皆、私が語り続けてきたテクノロジー世界の活動範囲の中にいる。彼らが活動するところの周囲には私たちがいて、UUCP 経由で接続し、DRM だの shrink-wrap ライセンスだのに反対して長弁舌を振るい、デジタル身元認証の風車に向かって突進し、AOL のせいでインターネットは終わりを告げるのではないかと心配する。そのような私たちの生活は、Martin Hench や彼の友人たちの生活ほどには面白くないかもしれないが、それは単に私たちの傍らに Cory Doctorow がいて脚本を書いてくれていないだけのことだ。そう、Red Team Blues の世界は私たちの世界よりもエキサイティングかもしれないが、そこでの解決はやはり、良い意図を持った人たちが正しいことをしようと努めるという直感ポンプを提供するものであって、銃弾の雨あられを使って苦境から逃れようとするものではない。
もしあなたがあの 1990 年代のテクノロジー世界を記憶しているなら、きっと Red Team Blues を楽しく読めるだろうと思う。Cory の他の本と同様に、この本も DRM フリーの EPUB または MobiPocket フォーマットで直接購入できる。価格は $15 だが、オーディオブック版 (もちろん Wil Wheaton の朗読による) は $20 で、木で作った紙のハードカバー版ならばもう少し高くなる。
そうそう、このタイトルはどういう意味かって? セキュリティの世界においては、レッドチーム (red team) が攻撃を担当する。彼らはシステムを攻撃して、侵入できる抜け穴を探す。ブルーチーム (blue team) は防御側で、システム内部の防御を設計して維持し、レッドチームの攻撃に反応する。生まれながらのレッドチーム側である Martin Hench が言う通り、ブルーチームにいる者ならば完璧でなければならないが、レッドチームはたった一つの誤りを見つけるだけでよい。この本を読み終えたあなたには、ブルーチームの側で働き続ける Apple のような会社にいるとはどういうことなのか、これまでより深く見えてくるかもしれない。